113. 原子核物理

2010年5月15日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(5)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。 

ここまで展開してきた電磁放射の古典論と量子論の対応原理に基づく方法による結果と量子論の長波長の摂動近似で成立するFermiの黄金律の整合性を示すという面倒な課題は先送りにして,取り合えず古典論と量子論の対応原理に基づいて当面の課題を処理します。

さて,これまでの論議で原子核のγ崩壊の遷移速度(transition rate)w,つまりエネルギー準位の高い核の励起準位(exciting level):|i>から,"低エネルギー状態=主として基底準位(ground level)":|f>へのγ線放射を伴う遷移の確率wは次式で与えられることを見ました。

すなわち,単位時間に電気(l,m)極のγ線を放射して核が状態遷移をする確率は,wElm=UElm/(hcω)=(2π/hc){1/(2πε0)}{(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]<f|lm|i>2で与えられます。

 

また,単位時間に磁気(l,m)極のγ線を放射して状態遷移をする確率は,wMlm=UMlm/(hcω)=(2π/hc){μ0/(2π)}{(l+1)/l}(k2l+1/{(2l+1)!!}2)|<f|lm|i>|2です。

ここに,<f|lm|i>=∫rllm(Ω)*ρe()dであり<f|lm|i>=-∫rllm(Ω)*()dです。

対応原理(correspondence principle)からi()=<|i>,Ψf()=<|f>を原子核全体を位置の1粒子と見た始状態,終状態の波動関数とすれば,ρe()=ZeΨf*(i(),()={ehc/(2M)}Ψf*(){Σa=1Aμaσai()です。

また,a=-ihcaですが,これはa=1,2,..,Aの個々の核子の位置をaをとしたときの核子aの運動量を示すものです。

 

さらに,e>0 は陽子の電荷,Mは核子の質量です。

σaは核子aに対するPauli行列,μaは磁気回転比(gyromagnetic ratio)です。なお,後者はaが陽子pならμp~ 2.7928,中性子nならμn~ -1.9132です。 

遷移速度wE,Mlmの陽な表式に基づいて,その大きさを評価します。

 

まず,核子の質量はMc2~103MeVであり核子のスピン磁気モーメントの大きさは|μa|~2です。また,核半径をRとすると|∇|~1/Rですが,質量数がAの原子核では,R~(01/3)です。(0は核子半径)

 

そこで,特に平均的な質量数:A~125の場合,単位時間の磁気的放射の電気的放射の率に対する比を評価すると,(wMlm/wElm)=c-2|<f|lm|i>/<f|lm|i>|2~{c-1{hca|/(MR)}2~{2hcc/(Mc201/3)}2~ 4×10-4となります。

故に,同じ,(l,m)型の放射なら電気放射(E型)の放射確率が磁気放射(M型)の放射確率より4桁も大きいことがわかります。 

次に,原子核の|i>→ |f>のγ線放射の崩壊において許される遷移の型について考えます。 

そのため,始状態:|i>のスピンとそのz成分,パリティをそれぞれIi,Miiと表記し,終状態:|f>の対応する値をそれぞれIf,Mffと表記します。

ここで,放射γ線はE型,またはM型単独のそれであって多極度は(l,m)と仮定します。このとき,γ崩壊の遷移速度wE,Mlmがゼロでないための条件を遷移の選択則(selection rule)といいます。

まず,電磁相互作用での角運動量保存則から,if,Mi=m+Mfです。

 

そこで,ifなる制約からはlについての1つの選択則:|Ii-If|≦l≦(Ii+If)を得ます。さらに,Mi=m+Mfもmに対する選択則を与えます。

これまで見てきたように,l=0 のγ線放射は存在しないので,Ii=If=0 の場合にはγ線遷移は完全に禁止されます。

摂動近似であるFermiの黄金律u(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|γ'|i>|2(dn/dEγ)dΩが近似的に成立するような長波長(λ>>R, or ω<<c/R)のγ線の領域を想定します。

 

この領域では,電磁相互作用γ'の多重極展開で角運動量が小さい順に項の寄与が大きいため,l=|Ii-If|,|Ii-If|+1,..,(Ii+If)のうちlの小さいγ線放射に関わる遷移がより顕著に出現します。

一方,パリティによる選択則を考えます。

 

E型放射ではlmのパリティが(-1)l,M型放射ではlmのパリティが(-1)l+1であり,電磁相互作用γ'ではパリティが保存すべきです。

 

このことから,放射による遷移行列要素がゼロにならないためには,E型放射ではπi=(-1)lπf,M型放射ではπi=(-1)l+1πfなることが必要です。

これらの選択則から,例えばiπi=4+ →Ifπf=2+の遷移では,|Ii-If|=2≦lが必要なため,許される多極放射はE2,E4,E6,..;M3,M5,..となります。

しかし,一般にγ崩壊では長波長近似がきわめて有効ですから,例えばA=125の原子核からのhcω=2MeV程度のγ線放射では,波長がλ~ 100fm=10-13m程度なので(wE4/wE2)~ 4×10-9と評価されます。

したがって,E2(電気双極子)に比べてE4(電気四重極子)を無視する近似はきわめて正当であることがわかります。それ故,Iiπi=4+ →Ifπf=2+のγ遷移では高々E2とM3の放射を考えれば十分です。

次に,励起状態にある原子核がγ線を放出して崩壊する代わりに核外の原子のK,L,M..殻の軌道電子を放出して崩壊する過程があります。

 

これはγ線の内部転換(internal conversion)と呼ばれます。

内部転換は,原子核から放射されたγ線が核外の軌道電子に吸収されて電子が放出されるという2次過程ではなく,原子核と核外電子とのCoulomb相互作用により原子核エネルギーが直接軌道電子に与えられて電子が放出される現象です。

したがって,γ線放出と内部転換は独立な競合する過程です。

 

そこで,同じ|i>→|f>の遷移においてγ線放出の確率をwγ,内部転換の確率をweとすると,トータルのγ崩壊の確率:wはw=wγ+weで与えられます。

内部転換係数αをα≡we/wγで定義すると,w=(1+α)wγです。

 

αはK,L,M,..電子による部分の総和であり,Lはさらに個殻(subshell)L1,L2,L3,..に分かれるので,α=αK+αL+αM+..=αK+ΣiαLi+ΣiαMi+..です。

 

各殻から放出される平均電子数をNK,NL1,..とし,これと競合するγ線の平均数をNγとすると,αK=NK/NγL1=NL1/Nγ,..です。そして,Nα≡NK+ΣiLi+ΣiMi+..とするとα=Nα/Nγです。

内部転換電子の運動エネルギーをEα,軌道電子の統合エネルギーをBx(x=K,L1,L2,..,競合するγ線のエネルギーをhcωとすると,Eα=hcω-Bxです。

 

xは別の方法から得られるので,Eαを精密に測定すればγ線のエネルギーhcωを高精度で求めることができます。

さて,核と1個の核外電子とのCoulomb相互作用はe'=-Σp=1Z{e2/(4πε0|ep|)}で与えられます。ここでe,pはそれぞれ核外電子,核内陽子の位置ベクトルです。

 

ルジャンドル関数による母関数展開の公式:1/|'|=1/(r2+r'2-2rr'cosω)1/2=Σl=0(rl/r'l+1)Pl(cosω)=4πΣl,m(2l+1)-1(rl/r'l+1)Ylm*(Ω')Ylm(Ω) (r<r'),4πΣl,m(2l+1)-1(r'l/rl+1)Ylm*(Ω')Ylm(Ω) (r>r')を用います。

 

これからre>rpならe'=-Σp=1ZΣl,m(2l+1)-1(e20)(rpl/rel+1)Ylm*p)Ylme)です。

 

これの行列要素:<f|e'|i>は明らかにΣp=1Zpllm*p)を含むことから,これは電気多極放射の行列要素:<f|lm|i>∫rpllmp)*ρe(p)d3pを因子に持つことがわかります。

 

そのため,Coulomb相互作用e'は電気2l極遷移を引き起こします。 

内部転換係数αが原子番号Z,γ線エネルギーhcω,多極指数lに如何に依存するかを見るために簡単なモデルを考えます。

 

まず,核外電子としてK電子のみがある場合を想定します。

 

簡単のため放出電子の運動エネルギーは対象のK電子の結合エネルギーが無視できるほど大きく,しかし非相対論近似が有効な程度には小さいとします。

 

また,原子番号Zはあまり大きくなくてCoulomb力によるひずみが無視できて放出電子の波動関数は平面波で近似可能とします。

 

そして,始状態|i>,終状態|f>を|原子核>|核外電子>のように書いて,|i>≡|Ii>|ei>,|f>≡|If>|ef>と定義します。

このとき,核外K電子の始状態の座標表示は,水素様電子の近似として,|ei>=(πa3)-1/2exp(-re/a),a≡aB/Z,aB≡4πε0c2/(me2)(Bohr半径)と書けます。

 

また,終状態は平面波近似で|ef>=V-1/2exp(iee)です。

 

一方,原子核の状態|Ii>,|If>は前に書いたようにΨi(p),Ψf(p)で表現します。

すると,内部転換確率weのFermi黄金律による評価式はK殻に2個の電子があるため,we=2(2π/hc)∫|<f|e'|i>|2(dnf/dEe)dΩと書けます。

 

ただし,dnf/dEeは|ef>=V-1/2exp(iee)で与えられる電子運動量e=hceに相当する立体角:Ω方向の終状態:|ef>の単位エネルギー準位当たりの状態数(状態密度)です。

 

仮に,一辺がLの立方体領域(V=L3)の箱に閉じ込められている以外自由な電子が,周期的境界条件を満たすとすればeの取り得る値はe=(2n1π/L,2n2π/L,2n3π/L)です。

 

(※周期的境界条件の採用で一般性を失うことなく状態密度を求めることが可能です。)

 

そこで,f≡(n1,n2,n3)と置けばe=(2π/L)fですから,de=(2π/L)dfです。

 

つまり,ke空間の体積要素ke2dkeに,{V/(8π3)}ke2dke個の状態が存在することがわかります。

 

そして,Ee=hc2e2/(2me)なのでdEe=(hc2e/me)dkeよりdnf/dEe=meeV/(8π3c2)を得ます。

  

一方,<f|e'|i>=<If;ef|e'|i;ei>=-(πa3V)-1/2Σl,(2l+1)-1(e/ε0)[eΣp=1Z∫rpllm*pf*(pi(p)d3p]∫exp(-re/a)exp(iee)re-l-1lme)d3eです。

  

右辺の[]の因子:eΣp=1Z∫rpllm*pf*(pi(p)d3p<f|lm|i>=∫rpllmp)*ρe(p)d3pに一致します。

  

また,最後の積分で展開公式:exp(iee)=4πΣl,(-i)ll(kee)Ylm(Ω)lme)*を代入します。

  

すると,∫exp(-re/a)exp(iee)re-l-1lme)d3e=4πi-llm(Ω)∫0exp(-re/a)jl(kee)re-l+1dreです。

 

変数置換により∫0exp(-re/a)jl(kee)re-l+1dre=kel-20exp{-x/(kea)}jl(x)x-l+1dx=el-2lです。

  

ea>>1と仮定しているので,積分記号の中でexp{-x/(kea)}~1 と近似すれば,Jl0l(x)x-l+1dxとなり,Jlは近似的にkeに依存しない定数と見なせます。

 

故に<f|e'|i>=-4π1/2(a3V)-1/2Σl,(2l+1)-1(e/ε0)kel-2l<f|lm|i>です。

  

最後に,これとdnf/dEe=meeV/(8π3c2)をwe=2(2π/hc)∫|<f|e'|i>|2(dnf/dEe)dΩに代入して,dΩ積分を実行します。

  

結局,we~ {8e2e/(πε02c33)}Σl,{Jl2e2l-3/(2l+1)2}|<f|lm|i>|2を得ます。

 

|Ii>→|If>の遷移では最小軌道角運動量l=|Ii-If|に対応する遷移がほとんどなので,このlに限って考えます。

 

前に得た式から,wγ(l)=ΣlmE=(2π/hc){1/(2πε0)}{(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]Σ|<f|lm|i>|2です。

 

一方,今の結果からwe(l)~ {8e2e/(πε02c33)}{Jl2e2l-3/(2l+1)2}Σ|<f|lm|i>|2です。

 

 内部転換係数:α(l)=we(l)/wγ(l)においては,分子と分母でΣ|<f|lm|i>|2が相殺して消えるため,α(l)は核の波動関数Ψifに依存しないことがわかります。
 
 そして,Jl0l(x)x-l+1dx=[jl-1(x)x-l+1]0={(2l-1)!!}-1なのでK電子の内部転換係数はαK(l)~{(l+1)/l}16e2e/(ε0c23)}ke2l-3/k2l+1です。

さらに,a=aB/Z,aB≡4πε0c2/(me2),hc2e2/(2me)~hcω=hcckより,αK(l)~{(l+1)/l}16Z3/(ε0B4)}ke2l-3)/k2l+1と書けます。

 

結局,αK(l)~{(l+1)/l}3α4{2me2/(hcω)}l+5/2なる表式を得ました。α≡e2/(4πε0cc)は微細構造定数(fine structure constant)で,α~1/137です。

 

この式によれば,αK(l)はZ3に比例し,γ線のエネルギーhcωの増加と共に(hcω)l+5/2に反比例して減少します。

 

したがって,lが大きいほどαK(l)が大きく,Zの大きい重い核ほど内部転換確率が増大します。

 

しかし,上式はkea>>1の場合の近似式でありaはZに反比例するのでZが大きいとこの近似式は使えないので注意が必要です。

 

そして,また,電子は固有の磁気モーメントを持つので磁気相互作用と関わる内部転換も起きるはずです。

 

さらに,γ線エネルギーが電子2個の質量を超えると内部電子対生成という現象も生じて,その効果がγ線放射を卓越するようになります。

 

最後に本題のメスバウアー効果です。

原子や分子による光の共鳴吸収現象についてはよく知られていますが,同じ"光=電磁波"でもγ線の原子核による共鳴吸収は通常は不可能です。

すなわち,初め静止していた1個の自由な原子核からのγ線放射を考えます。 

放射されるγ線量子のエネルギーをhcωとすると,運動量の保存により放射の際,この原子核は大きさがp=hcω/cの運動量の反跳(recoil)を受けるはずです。

 

この反跳運動のエネルギーをERとすると,ER=p2/(2AM)=(hcω)2/(2AMc2)です。

そこで,遷移する原子核のエネルギー準位の差をΔE≡Ef-Eiとするとhcω=ΔE-ERであって,厳密にはhcωとΔE=Ef-Eiは等しい値ではなくて,大きさERの誤差が有ります。

 

また,逆に基底状態の核がγ線を吸収して同じ励起準位になるときにはエネルギー保存はhcω=ΔE+ERを意味します。

例えば,励起核:57e*を考えると半減期はT=9.8×10-8secです。τを平均寿命とすると,1/2=exp(-T/τ),or T=τln2より"崩壊幅(decay width)=エネルギー準位のゆらぎ(fluctuation)"Γは不確定性原理:τΓ~hcにより,Γ=hc/τ=hcln2/T=4.7×10-9eVです。

57e*においては,放射γ線のエネルギーがhcω=14.4keVならER=(hcω)2/(2AMc2)~ 2×10-3eVです。

 

故に,この場合はエネルギー準位の不確定性ΓがERよりもはるかに小さいです。これはhcω=14.4keVのように"高エネルギーの電磁波=γ線"の特徴です。

したがって,Γ=4.7×10-9eV<2ER=4×10-3eVにより,励起核:57Fe*から放出された14.4keVのγ線を安定した基底状態の57Fe核に照射して再び57Fe*に励起するという共鳴吸収過程は不可能なはずです。

しかし,これは気体分子を構成する場合のように原子核がほぼ自由の場合です。

 

もしも,核が固体の格子を構成するような場合なら,非常に強いバネのような束縛力が存在して剛体近似が可能となり,反跳エネルギーはER=(hcω)2/(2NAMc2)と評価されます。ただし,Nは結晶中の原子数という巨大な数です。

 

例えば1辺が10μm=10-5mの立方体結晶で原子間距離が1Å=10-8m程度ならN~ 1015ですから,2ER~ 4×10-18eVとなります。

 

この2ERはエネルギーの曖昧さ:Γ=4.7×10-9eVよりもはるかに小さいため,57Feを再び57Fe*に励起する共鳴吸収が可能となります。

(※光の自由電子によるコンプトン散乱と束縛電子によるトムソン散乱の違いのようなものですね。)

実際の固体では,核は格子点のまわりに束縛されて振動しています。

 

固体のデバイ温度(Deby temperature)をΘDとすると,格子振動(フォノン:phonon)の最高振動数はωD≡kBΘD/hcです。

 

Rが限界値:hcωD=kBΘDを超えると"反跳無し(non-recoiling)"に相当する共鳴吸収は起こらないと考えられます。

そこで,"反跳無し"で共鳴吸収が起こる確率をPとすると,PはER/(hcωD)=ER/(kBΘD)が小さいほど増大すると予想されます。

また,温度Tが低いほど熱振動は小さいため,"反跳無し"の剛体に近くなるはずなので,温度Tが低いほどPは増大するはずです。

実際に量子力学的計算を実行すると,P=exp[-3ER/(2kBΘD){1+4(T/ΘD)20ΘD/Txdx/(exp(x)-1)}=exp[-3ER/(2kBΘD){1+(2/3)(πT/ΘD)2}](T<<ΘD)です。

このような"反跳無し"γ線の放出,吸収の現象は1958年にメスバウアー(Mössbauer)によって発見されたため,メスバウアー効果(Mössbauer effect)と呼ばれています。 

このメスバウアー効果を利用すると,きわめて高い精度でエネルギーの値を測定できます。

 

先の57Fe*の場合には,Γ/E=4.7×10-9eV/14.4keV~10-13ですから,γ線のエネルギーEの相対誤差ΔE/Eは精度10-13で測定されます。

このエネルギー測定は,共鳴エネルギーの前後にエネルギーをずらして共鳴吸収のγ線の連続的エネルギーに対する吸収カウントをプロットする共鳴曲線を描くことでなされます。

 

これには,光のドプラー効果(Doppler effect)を利用します。 

γ線源が速さvで動いているとき,その方向に出たγ線の振動数ωe(v)はドプラー効果によってωe(v)=ωe(0)(1+v/c)となるため,速さvと共にそのエネルギーは(v/c)hcωe(0)だけ増加します。

そこで,vをゼロから正または負の向きに連続的に変えていけば単色のγ線源から共鳴エネルギーの前後にエネルギーを連続的にずらすことができます。 

γ線源として,ステンレススチール(常磁性体)の57Fe*を用いれば,この物質では,57Feは平均して核外電子から磁場を受けないので,1/2-基底状態:57Feから3/2-励起状態:57Fe*はそれぞれ縮退しています。 

一方,吸収体には金属鉄を用いると,これは強磁性体なので核の位置に核外電子スピンによる磁場が存在するため,57Feの基底状態と14.4keVの励起状態57Fe*は共にゼーマン効果(=磁場によるエネルギー準位の分裂)を起こします。

 

(2008年4/5,4/9の記事「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)」,「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)」参照)

1/2-から3/2-へのM1転移(γ線吸収)における磁気量子数の変化は,ΔM=i-Mfm=0,±1ですから,1/2-基底状態:57Feのゼーマン分裂したMi±1/2から3/2-励起状態:57Fe*のゼーマン分裂したMf±3/2への6本の転移(γ線吸収)が観測されるはずです。

実際,縦軸にγ線吸収のカウント,横軸にドプラー連続エネルギー(v/c)hcωeの吸収曲線をプロットすると,上記に対応する6つの吸収ピークが見られます。

 

これらの相対位置から,ゼーマン分岐のエネルギー:ΔEg(基底状態),およびΔEe(励起状態)を求めることができます。

一方,基底状態と励起状態の磁気モーメントのg因子をgg,geとすればΔEg=ggμsH,ΔEe=geμsHですから,上記の共鳴吸収曲線の観測結果から得られるΔEg,ΔEeの比からgg,geの比がわかります。

さらに基底準位のg値であるgは別の方法でわかるので,これから励起準位のg値:ge,および磁場の強さHがわかります。(つづく)

参考文献:八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核物理学」(朝倉書店)

 

PS:ここは掲示板ではなく個人的ブログであり,しかも反応が小さくて指摘のしがいがないという私の性格もありますが,ミスプリや,文章や式の単純ミスがあっても,ほとんど重箱の隅的コメントはないようです。

 

 そこで,ときどき自主的に読み返してメンテナンスをするという自浄作用?を発揮しています。

  

 書き始めた当初の頃はそうしたコメントも結構あって,私は別にイヤじゃないのですがネ。。 

  

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2010年5月 8日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(4)

 原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。GWというわけではないですが,ちょっと間が空き過ぎたので途中経過をアップします。 

前回の最後から必要な部分を再掲します。

(※再掲開始)

(θ,φ)のまわりの微小立体角dΩの中に単位時間に放射される電磁エネルギーdUはdU=|<()>|r2dΩ={c/(2μ0)}|()|22dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Nlm{r×lm(Ω)}]|2dΩで与えられます。

もしも,γ線放射が純粋な電気(l,m)放射ならdUElm={c/(2μ02)}|aElm|2|lm(Ω)|2dΩです。一方,純粋な磁気(l,m)放射ならdUMlm={1/(2μ0ck2)}|aMlm|2|lm(Ω)|2dΩとなります。

 

そこで,同じ(l,m)極放射なら電気型,磁気型を問わず,同じ強度角度分布:|lm(Ω)|2を有することがわかります。

 lm(Ω)≡|lm(Ω)|2と置けばdUElm/dΩ={c/(2μ0)}Zlm(Ω)|aElm|2/k2,dUNlm/dΩ={1/(2cμ0)}Zlm(Ω)|aMm|2/k2です。

 全てのE波,M波の(l,m)波の総和はdU/dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Nlm{r×lm(Ω)}]|2よりU=∫dU={c/(2μ0)}Σl=1Σm=-ll(|aElm|2+|aNlm|2/c2)/k2となります。

これに先に求めたaElmiμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;電気多極放射:Qlm∫rllm(Ω)*ρe()d,aNlm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;磁気多極放射:Mlm=-∫rllm(Ω)*()dを組み合わせます。(再掲終了※)

さて,量子論では原子核のエネルギー準位の高い始状態|i>からより低い終状態|f>へのγ崩壊を考えると,対応原理から古典論でのlm,Mlmはこれらを表現する量子論の演算子lm,lmの遷移行列要素<f|lm|i>,<f|lm|i>に相当すると考えられます。

そこで,量子論に移行するには古典論における電荷密度ρe(),電流密度e(),磁気モーメント()を,それぞれρe()=ZeΨf*(i(),e()={ehc/(2M)}Σa=1Zf*()aΨi()+{aΨf()}*Ψi()],()={ehc/(2M)}Ψf*(){Σa=1Aμaσai()の右辺に置き換えればいいだけです。

ただし,hc≡h/(2π)(hはPlanck定数)です。Ψi()=<|i>は始状態の波動関数,Ψf()=<|f>は終状態の波動関数です。また,a=-ihcaですが,これは核子aの運動量です。

また,e>0 は陽子の電荷,Mは核子の質量です。さらにσaは核子aに対するPauli行列,μaは磁気回転比(gyromagnetic ratio)でaが陽子pならμp~ 2.7928,中性子nならμn~ -1.9132です。

 

つまり,量子力学における"物理量=演算子(operator)"に対して一般に<f||i>=∫d33'<f|><|O|'><'|i>=∫d33f*()<||'>Ψi(')です。

 

が位置表示で<||'>=(3(')と対角化可能なら<f||i>=∫d3Ψf*()(i()と書けます。

 

ただし位置表示で陽子の電荷密度はρe=Zeδ3('),電流密度はe={ehc/(2M)}Σa=1Z(a'a3('),磁気モーメントは={ehc/(2Mc)}{Σa=1Aμaσa3(')です。

 そして,量子論の場合には放射エネルギーdU,またはUに寄与するのはの平均値<>ではなくそのものなので,古典論で与えられる強度式にさらに因子2を掛けることが必要です。

そして,電気(l,m)極モーメントはQlm∫rllm(Ω)*ρe()d3から<f|lm|i>=eΣa=1Z∫rallma)*Ψf*(i()d3=eΣa=1Z<f|allma)*|i>です。

 

磁気(l,m)極モーメントはMlm=-∫rllm(Ω)*()d3から<f|lm|i>=-{ehc/(2Mc)}Σa=1Aμa∫rallma)*{Ψf*()σaΨi()}={ehc/(2Mc)}Σk=1A<f|{allma)*μaσa}|i>です。

 i→fのγ崩壊の確率(decay rate):wは,単位時間の全放射エネルギーUを放射光子のエネルギーcω=hcckで割れば得られます。

つまり,全放射エネルギーUが光子何個分のエネルギーに相当するかを見ることで,単位時間に何個の光子が放射されるかがわかります。

特に,電気(l,m)極放射ならwElm=UElm/(hcck)=[(μ02/hc){(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]<f|lm|i>2=(2π/hc){1/(4πε0)}{2(l+1)/l}k2l+1/{(2l+1)!!}2]<f|lm|i>2です。

 

磁気(l,m)極放射ならwMlm=UMlm/(hcck)=(μ0/hc){(l+1)/l}(k2l+1/{(2l+1)!!}2)<f|lm|i>2=(2π/hc){μ0/(4π)}{2(l+1)/l}(k2l+1/{(2l+1)!!}2)<f|lm|i>2です。

ところで,前に「原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(1)」では同じγ崩壊の確率について次のような内容の記事を書きました。

 原子核:ZAN の励起状態|i>≡|Iiπii>がγ線を放出して終状態|f>≡|Ifπff>へ転移するとします。ただしMは"核スピンのz軸成分=磁気量子数"です。

一定のスピンの偏極(polarization):m=(Mi-Mf)を持つ"γ線の量子=光子"が単位時間に波数ベクトルの周りの微小立体角dΩに放出される確率をu(Mi,Mf)dΩとすると,摂動論によって良い近似でu(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|Hγ'|i>|2(dn/dEγ)dΩとなります。

 

(これはFermiの黄金律です。)

ここにHγ'は,"電磁場(γ線)と核の相互作用=電磁相互作用"のハミルトニアン(Hamiltonian)で,Hγ'=∫jeμ(,t)μ(,t)3=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3qφ(0)-PE(0)μ(0)-(1/6)Σijijij..です。

 

そこで,遷移行列要素<f|Hγ'|i>において電気双極子放射に対応するものは,-PE(0)の遷移行列要素:-<f|PE|i>です。

 

ただし,q=q(t)(全電荷),(t)(全偏極=電気双極子),μ=μ(t)(磁気双極子),Qij=Qij(t)(電気四重極子)です。

 

これらは,q(t)≡∫ρe(,t)3,(t)≡∫ρe(,t)3,μ(t)≡(1/2)∫×e(,t)3,Qij(t)≡∫ρe(,t)(3xij-δij2)3で定義されています。

 

一方,2010年3/30の記事「電磁波の放射(2)(多重極放射)」では,電気双極子による波動帯での放射のポインテイングベクトル(Poynting vector)が={μ044/(16π22)}|×|で与えられるのを見ました。

これによれば,電気双極子による放射エネルギーの角分布はdU/dΩ=||r2={μ034/(16π2)}|×|2です。故にpの方向を極軸に取れば|×|2=p2sin2θよりU=μ0342/(6π)です。

一方,上で初めて与えた電気(l,m)極放射のエネルギーの表式は<f|lm|i>をQlmなる古典表記に戻せばUElm={c/(μ02)}|aElm|2,aElm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lmです。

 

特に,l=1,m=0 の電気双極子の場合,これはUE10=μ034(2/9)|Q10|2となります。

ダブルスタンダードの恐れのある2つの出発点からの結論的式が矛盾しないためには0342/(6π)=μ034(2/9)|Q10|2となることが必要です。

 

今のγ崩壊では,崩壊確率はどこを極軸(θ=0)に取るかに依らない対称性を持つはずなので,全放射エネルギーが一致すれば十分です。

10=(3/4π)1/2∫rρe()cosθd3より,これはp2=[∫rρe()cosθd3]2を意味します。

そして過去記事「電磁波の放射(2)(多重極放射)」では,(t)≡∫ρe(,t)3と定義されていましたが,ここでのはρe(,t)=ρe()exp(-iωt)より≡∫ρe()3で与えられます。

 

よって,p=∫rρe()cosθd3ですから全く問題無しです。しかし別にこれは前に書いた記事と今回の記事が矛盾しないことの検算をしたに過ぎず,実は当たり前のことでした。

 

でも,まあボチボチですが前進しています。いずれにしろ今日はここまでにします。

 

参考文献:八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核物理学」(朝倉書店),砂川重信著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学

 

PS:5/9(日)早朝です。何だか今回の風邪は比較的軽かったようで,ほぼ完治しました。 

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2010年4月25日 (日)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(3)

 原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。 

 非斉次方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)=-KE(r),{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)=-KM(r)を解くためにグリ-ン関数(Green function)の方法を用います。

{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')を満たす関数:gl(+)(r,r')を方程式の左辺の微分作用素(演算子)のグリーン関数といいます。

 

この関数が得られれば,FE,Mlm(kr)=∫0r'2l(+)(r,r')KE,M(r')dr'なる式が{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FE,Mlm(kr)=-KE,M(r)を満たします。

グリ-ン関数もFMlm(kr),FMlm(kr)と同じ境界条件を満たすべきという物理的要請から,gl(+)(r,r')は(ⅰ)r=0 (波源)近傍で有限で(ⅱ)r→ ∞(遠方)で外向き球面波になるという条件を満たします。

 

l(+)(r,r')の添字の記号(+)は外向き球面波を意味します。

方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')はr≠r'では斉次式d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=0 になります。

この斉次方程式の条件(ⅰ)を満たす解はjl(kr)で(ⅱ)を満たす解はhl(1)(kr)で与えられることは既にわかっています。

 

そこで,gl(+)(r,r')はr,r'について対称な関数であるとすればr<r'ではgl(+)(r,r')=Ajl(kr)hl(1)(kr'),r>r'ではgl(+)(r,r')=Ajl(kr')hl(1)(kr)と書けます。

Aを決めるため,まず{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}gl(+)(r,r')=-r-2δ(r-r')を{d/dr(r2d/dr)+k22-l(l+1)}gl(+)(r,r')=-δ(r-r')と変形してr∈[r'-ε,r'+ε]の区間で積分し,最後にε→ +0 とします。

これから,[r2dgl(+)(r,r')/dr]r'-εr'+ε=-1です。代入するとAk{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}=-1/r2を得ます。

 

ただし,jl'(kr)≡djl(kr)/d(kr)=k-1djl(kr)/drであり,hl(1)'(kr)≡dhl(1)(kr)/d(kr)=k-1dhl(1)(kr)/drです。

 ところで,2階斉次線形常微分方程式d2y/dz2+p(z)dy/dz+q(z)y=0 においては,その異なる2つの解y=y1,y2について1次独立性と関わるロンスキー行列式(Wronskian)と呼ばれる特別な式表現:W[y1,y2]≡y1(dy2/dz)-(dy1/dz)y2=y12d(y2/y1)があります。

これは,1階線形微分方程式dW[y1,y2]/dz=y1(d22/dz2)-(d21/dz2)y2=-p(z)W[y1,y2]を満たすので,W[y1,y2]=W[y1,y2]z0exp{-∫z0zp(u)du}なる一般形を持ちます。B=W[y1,y2]z0は単なる積分定数です。

そして,上記の定数Aを決定するための式:Ak{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}=-1/r2は,W[jl,hl(1)]=k{jl(kr)hl(1)'(kr)-jl'(kr)hl(1)(kr)}なのでAW[jl,hl(1)]=-1/r2と表わされます。

ところで,今の球ベッセル方程式ではrの1階微分の係数が2/rですからW[jl,hl(1)]=W[jl,hl(1)]r0exp{-2∫r0rdr/r}=Br-2(Bは定数)です。

そして,r~ 0 ではjl(kr)~(kr)l/(2l+1)!!,djl(kr)/dr~kl(kr)l-1/(2l+1)!!,hl(1)(kr)}~inl(kr)~-i(2l-1)!!(kr)-(l+1),dhl(1)(kr)/dr=ik(l+1)(2l-1)!!,(kr)l-1/(2l+1)!!より,W[jl,hl(1)]=ik(kr)-2です。

したがって,AW[jl,hl(1)]=Aik(kr)-2=-1/r2によってA=ikを得ます。故に,gl(+)(r,r')=ikjl(kr)hl(1)(kr')(r<r'),gl(+)(r,r')=ikjl(kr')hl(1)(kr)(r>r')です。

 これでグリーン関数gl(+)(r,r')の具体形が得られ,原子核の中心近傍にある放射源の外側r>r'ではgl(+)(r,r')=ikjl(kr')hl(1)(kr)であることがわかりました。

そして,前に書いたようにFE,Mlm(kr)はグリーン関数gl(+)(r,r')によってFE,Mlm(kr)=∫0r'2l(+)(r,r')KE,M(r')dr'と表わされます。

 

故に,r>r'ではFE,Mlm(kr)=ikhl(1)(kr)∫0r’2l(kr')KE,M(r')dr'です。

これを中心の放射源の外でFElm()→AElmElm(1)l(1)(kr),FMlm()→AMlmMlm(1)l(1)(kr)となるという境界条件と比較すれば,aElm≡AElmElm(1)=ik∫02l(kr)KE(r)dr=-iμ0lm(Ω)*l(kr){∇×e()}d,およびaMlm≡AMlmMlm(1)=-μ0ck2lm(Ω)*l(kr){∇×()}dです。

 

さらに,定義によってlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2なのでlm(Ω)*=hc-1*lm(Ω)*/{l(l+1)}1/2です。

 

∇×e(),∇×()はr→ ∞で1/r2より急激にゼロになるため,のエルミート性から,aElm=-iμ0khc-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{∇×e()}d,aMlm=-μ0ck2c-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{∇×()}dと書けます。

 

ところで,ベクトル解析から公式:hc-1(∇×)=i(×)(∇×)=i(r∂/∂r)∇i2が成立します。

 

そこで,e(),またはa=()としたこの表現を代入すればaElm=-μ0{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{(r∂/∂r)∇e()-2e()}d,aMlm=-iμ0ck2c-1{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*{(r∂/∂r)∇()2()}dを得ます。

さらに,∇2,i(r∂/∂r)はエルミート演算子であり左側の関数に作用するようにできます。そして∇2{l(kr)Ylm(Ω)*}=-2l(kr)Ylm(Ω)*,eickρeです。

 

また,∇=0 ですが,磁性体の中では∇≠0 なのでは一般にはゼロとは限りません。(2008年5/3の記事「電場と電束密度,磁場と磁束密度(4)」参照)

したがって,aElm=iμ0ck2{l(l+1)}-1/2lm(Ω)*e()/∂r{rl(kr)}+ic-1{rje()}jl(kr)]d,aMlm=iμ0ck2{l(l+1)}-1/2l(kr)Ylm(Ω)*[()/∂r{rl(kr)}-k2{rM()}jl(kr)]dと書けます。

ここまでは何の近似もしていません。 

ここで,電磁波のソース(source)が半径Rの原子核の場合を考えると,電磁波の波長λに対してR/λ=kR<<1の長波長近似が成立してr≦Rではjl(kr)~ (kr)l/(2l+1)!!です。それ故,(/∂r){rl(kr)}~ (l+1)(kr)l/(2l+1)!!です。

故に,Qlm∫rllm(Ω)*e()+{ik/c(l+1)}{rje()}]dと置けばE波の係数はaElm=iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lmと書けます。

 

また,M波ではMlm≡-∫rllm(Ω)*[()-{k2/(l+1)}{rM()}]dと置けばaMlm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lmを得ます。

しかし,オーダー的に{k/c(l+1)}(rje)~k/c(l+1)}r(kcrρ)=(kr)2ρ/(l+1)なのでρe()+{ik/c(l+1)}{rje()}の第2項は無視できてQlm∫rllm(Ω)*ρe()dと近似されます。

 

同様に,Mlm=-∫rllm(Ω)*()dとできます。 

これまでの一連の電磁波放射の記事と同じく,Qlmを電気多極モ-メント,Mlmを磁気多極モーメントと呼びます。

 さて,電磁放射の強度分布を求めるには遠方領域(波動帯)において"単位時間に単位面積を通過するエネルギー=ポインティングベクトル(Poyntung vector)":(,t)≡(,t)×(,t)を求める必要があります。

電磁放射では遠方領域は真空なので(,t)=(,t)/μ0ですから(,t)≡(,t)×(,t)/μ0です。そして複素表現で(,t)=()exp(iωt),(,t)=()exp(iωt)です。

実数表現では(,t)={(*()/μ0}cos2ωtですが,観測に掛かるのはこれのサイクル平均<()>であり,cos2ωtに代わる因子は1/2となるので<()>={(*()}/(2μ0)です。

 これまでの考察から,ソースの外部領域では(r)=Σl=1Σm=-ll{Elm()+Nlm()}=Σl=1Σm=-ll[aElml(1)(kr)lm(Ω)-{i/(ck)}aMlm∇×{hl(1)(kr)lm(Ω)}]です。

 

 また,()=Σl=1Σm=-ll{Elm()+Mlm()}=Σl=1Σm=-ll[(i/k)aElm∇×{hl(1)(kr)lm(Ω)}+aMlml(1)(kr)lm(Ω)]です。

 そして,を計算するにはE,Mlm,E,Mlmの遠方のr→ ∞での挙動を把握すれば十分です。そしてハンケル関数ではr→∞での漸近式がhl(1)(kr)→(-i)l+1exp(ikr)/(kr)です。

したがって,電気2l極放射(E波)ではElm()→ aElm(-i)l+1exp(ikr)/(kr)lm(Ω),Elm()→ (i/k)Elm(-i)l+1∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}であり,

 

磁気2l極放射(M波)ではMlm()→ aMlm(-i)l+1exp(ikr)/(kr)lm(Ω),Mlm()→ {-i/(ck)}Mlm(-i)l+1∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}です。

 そして,∇×{exp(ikr)/(kr)lm(Ω)}=∇{exp(ikr)/(kr)}×lm(Ω)+{exp(ikr)/(kr)}{∇×lm(Ω)}=ik{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}+O(1/(kr)2です。r/rです。

 そこで,電気2l極放射ではElm()~ -Elm(-i)l+1{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}=cElm(r,磁気2l極放射ではMlm()~ c-1Mlm(-i)l+1{exp(ikr)/(kr)}{r×lm(Ω)}=c-1r×Mlm()を得ます。

 以上をまとめると,遠方領域で(r)={exp(ikr)/(kr)}Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Mlm{r×lm(Ω)}],()=c(rなる具体的な漸近表現を得ます。

 そこで,|(r)|=-1|()|であって,,はこの順に右手直交系を作ります。

 

 したがって,ベクトル()=μ0-1(()は方向を向いていて,これのサイクル平均には因子1/2が掛かって<()>=(2cμ0)-1|()|2r={c/(2μ0)}|()|2rです。

 結局,Ω=(θ,φ)のまわりの微小立体角dΩに単位時間に放射される電磁エネルギーをdUとすれば,dU=|<()>|r2dΩ={c/(2μ0)}|()|22dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Mlm{r×lm(Ω)}]|2dΩです。

もしも,γ線放射が純粋な電気(l,m)放射なら,dUElm={c/(2μ02)}|aElm|2|lm(Ω)|2dΩであり,純粋な磁気(l,m)放射なら,dUMlm={1/(2μ0ck2)}|aMlm|2|lm(Ω)|2dΩです。

 

これによれば,同じ(l,m)極放射であれば,その放射エネルギー密度は電気型,磁気型を問わず同じ強度角度分布|lm(Ω)|2を有することがわかります。

 故に,γ線強度の角度分布の測定だけでは放射が電気多極放射か磁気多極放射かを判断することはできません。しかし,放射波の偏極(polarization) or 偏光を調べれば両者を区別できます。

 

 すなわち,電気多極放射ならその偏光はlm(Ω)に平行であり,磁気多重極放射なら偏光はr×lm(Ω)に平行です。

さて,Zlm(Ω)≡|lm(Ω)|2と置けば,角度分布はdUElm/dΩ={c/(2μ0)}Zlm(Ω)|aElm|2/k2,dUMlm/dΩ={1/(2cμ0)}Zlm(Ω)|aMm|2/k2です。

 

具体的にはlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2でありYlm(Ω)=(-1)m{(2l+1)/(4π)}1/2{(l-m)!/(l+m)!}1/2lm(cosθ)exp(imφ)です。

 

ただし,Pl(z)はルジャンドル多項式(Legendre polynomial):Pl(z)≡(2ll!)-1(dl/dzl)(z2-1)lであり,Plm(z)はルジャンドル陪多項式:Plm(z)≡(dl/dzl)(z2-1)m/2{dml(z)/dzm}(|m|≦l)です。

そして,hc-1x=-i{-sinφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θcosφ(∂/∂φ)},hc-1y=-i{cosφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θsinφ(∂/∂φ)},hc-1z=-i(∂/∂φ)です。

 そこで,例えばl=1のP波なら,10(Ω)=2-1/2c-110={3/(8π)}1/2(sinθsinφ,sinθcosφ,0)よりZ10(Ω)=|lm(Ω)|2={3/(8π)}sin2θであり,Z1±1(Ω)=|1±1 (Ω)|2={3/(16π)}(1+cos2θ)です。

同様に,l=2のD波ならZ20(Ω)={15/(8π)}sin2θcos2θ,Z2±1(Ω)={5/(16π)}(1-5cos2θ+4 cos4θ),Z2±2(Ω)={5/(16π)}(1-5cos2θ+4 cos4θ)です。

 いずれにしても,あらゆる方向に放射される(l,m)波の総和:UE,MlmはdUE,Mlm/dΩを全立体角で積分すれば得られます。

 

 dΩ積分を実行して規格化直交条件∫(lm(Ω)*l'm'(Ω))dΩ=δll'δmm'を用いることにより放射がE波ならUElm=∫dUElm={c/(2μ0)}|aElm|2/k2,M波ならUMlm=∫dUMlm={1/(2cμ0)}|aMlm|2/k2を得ます。

一般には全ての(l,m)型のE波,M波の総和として,dU/dΩ={c/(2μ02)}|Σl=1Σm=-ll(-i)l+1[aElmlm(Ω)+c-1Nlm{r×lm(Ω)}]|2より,U=∫dU={c/(2μ0)}Σl=1Σm=-ll(|aElm|2+c-2|aMlm|2)/k2です。

この式に,先に求めたaElmiμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;電気多極放射:Qlm∫rllm(Ω)*ρe()d,aMlm={iμ0ckl+2/(2l+1)!!}{(l+1)/l}1/2lm;磁気多極放射;Mlm=-∫rllm(Ω)*()dの表現を組み合わせます。

 

ところで,空間反転→ -,つまり(r,θ,φ)→(r,π-θ,π+φ)なる変換に対して球面調和関数はlm(θ-π,π+φ)=(-1)llm(θ,φ)なる性質を持ち符号が(-1)lだけ変わります。

 

これを関数lm(Ω)=lm(θ,φ)は(-1)lのパリティ(parity:偶奇性)を持つといいます。また明らかにrlのパリティは正です。

 

電荷ρe()はスカラーなのでパリテイは正です。∇では()がパリティ正の軸性ベクトル,∇がパリティ負の極性ベクトルのため,∇のパリテイは負です。

  

以上から,Qlm∫rllm(Ω)*ρe()dのパリティは(-1)l,Mlm=-∫rllm(Ω)*()dのパリティは(-1)l+1です。

  

さて,原子核の多極モーメントの幾つかの低次の具体的表現を求めてみると次のようになります。

 

電気多極では,Q00=(4π)-1/2∫ρe()d=(4π)-1/2q(qは核の総電荷),Q10={3/(4π)}11/2∫rρe()cosθd={3/(4π)}11/2∫zρe()d(∫zρe()dは電気双極子モーメント)etc.です。

 

磁気多極では,M00=-(4π)-1/2∫∇()d=-(4π)-1/2()dS=0,M10=-{3/(4π)}11/2∫z∇()d=-{3/(4π)}11/2∫Mz()detc.です。

 これまでは古典論でしたが,原子核が量子論的状態|Ψ>にある場合の量子論での話に移行するには,単に古典論での多極モーメントlm,Mlmを,それらに対応する線形演算子lm,lmの期待値<Ψ|lm|Ψ>,<Ψ|lm|Ψ>で置きかえれば十分です。

 

 例えば,Ml0を得るなら,Ψ()=<|Ψ>を波動関数としてMl0=<Ψ|l0|Ψ>=∫Ψ*()l0Ψ()dを計算します。

 

 ところで,Ml0=∫Ψ*()l0Ψ()dで|Ψ*Ψ|=|Ψ|2のパリティ(parity:偶奇性=空間反転の固有値)は正ですから,l0のパリティはMl0のそれと同じ(-1)l+1です。

 

 もしも,l0のパリテイが負なら,それは∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=-∫Ψ*()l0()Ψ()dを意味します。

 

 ところが,左辺は元が右手系なら単に空間軸が反対の左手系に移行しただけです。

 

 つまり,この積分は'=-と変数置換しただけなので,これば∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=-∫'Ψ*(')l0(')Ψ(')d'と書けます。

 

 ただし,の積分領域とそれに対応する積分変数'の積分領域の違いを強調するため,'の積分記号を∫'と書いて区別表記しました。

 

 一般に,座標積分変数の反転x'=-xに対しては,∫-∞dx=-∫-∞dx'=∫-∞dx'なので積分値の符号は代わりません。

 

 従って,積分区間の変更:∫→∫'のため,∫Ψ*(-)l0(-)Ψ(-)dr=∫Ψ*()l0()Ψ()dを得ます。

 

 以上から,l0のパリテイが負なら∫Ψ*()l0()Ψ()dr=-∫Ψ*()l0()Ψ()dが成立するため,∫Ψ*()l0()Ψ()dはゼロになります。

 

 すぐ上で書いたように,l0のパリテイはl0と同じ(-1)l+1ですから原子核のlが偶数(l=0,2,4,..)の全ての磁気2l極モーメントの値はゼロとなります。

 

 同様にl0のパリテイはl0と同じ(-1)lですから原子核のlが奇数(l=1,3,5,..)の全ての電気2l極モーメントの値はゼロとなります。

 

 原子核では,"電気双極子(electric dipole)=電気分極ベクトル"()が存在しないのもこの結果の一例であると考えられます。

 

 また,角運動量の合成則から核スピンがIの状態では,l>(2I)の次数の電磁2l極モーメントは存在しません。そこで,特にI=1/2の状態では電気四重極モーメントはゼロです。

 

 つまり,核スピンがの状態では相互作用中の電磁場の角運動量:L=cに対して角運動量の保存則からが成立します。

 

 一方,角運動量の理論から21が成立するとき,l||の取り得る値はl=-|12|,-|12|+1,..,I1+I2で,lの取り得る最大値はI1+I2です。

 

 そこで,12ならlの取り得る最大値が 2Iなのでl>(2I)の次数の電磁2l極モーメントは存在しないのです。

 

 特にI=1/2ならlの取り得る最大値が1なので,l=2の電気四重極モーメントも存在しませんね。

  

 切りがいいので今日はここで終わりにします。(つづく)

参考文献:八木浩輔著「原子核と放射」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核物理学」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学」

 

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2010年4月22日 (木)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(2)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果の続きです。

 

いきなり本題に入ります。

電磁波を与える真空中のマクウェル方程式(Maxwell eq.)は線型なので,電場と磁場の任意の解,は電気的波(E波=TM波;transverse magnetic wave)と磁気的波(M波=TE波;transverse electric wave)に分解できます。

すなわち,,EM,EM,(ⅰ)E波=TM波:EEr=Er,BEr=0 (or rEErE,rBE=0 )(ⅱ)M波=TE波:EMr=0,BMr=Br (or rEM=0,rBMrB)の和に分解されます。

 

(例えば2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」参照)

一方,前記事で述べたように電磁ポテンシャルφ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)の空間部分:φ^(),^()の任意の1成分ψ()はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.):(∇2+k2)ψ()=0 の解です。

 

すなわち,ψ()=ψ(r,θ,φ)は[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]ψ()=0 を満たします。

そこで,動径関数(radial fuction)因子をflm(kr)とすると,ψ()は独立な変数分離解の和としてψ()=Σl=0Σm=-lllm(kr)lm(Ω)と多重極(multi-pole)に展開できます。

lm(Ω)=Ylm(θ,φ)は球面調和関数(spherical harmonics)です。これは軌道角運動量の固有値方程式:2lm(Ω) =hc2l(l+1),Lzlm(Ω)=mYlm(Ω)を満たします。

そこで,φ(,t),A(,t)の空間微分,時間微分の線形和である=-∇φ-∂/∂t,=∇×も多重極展開できるはずです。

先出の2009年11/7の記事光(電磁波)の散乱(4)でも,M.Born,E.Wolf著(草川徹)「光学の原理」(東海大学出版会)などを参考にして球状散乱体によるレーリー(Raileigh)散乱,ミイ(Mie)散乱の境界条件を満たすE,E,M,Mの具体的な展開形を与えましたが,ここでは別の一般的方法で多重極展開の具体形を得たいと思います。

まず,マクスウェル方程式(Maxwell eq.):∇=ρe,0,∇×/∂t,∇×/∂t+e,および連続方程式:e=-∂ρe/∂tにおいて,,,,の時間依存性がexp(-iωt)のみである角振動数ωの単色波の形式を考えます。

ただし,以下では混乱は生じないと思われるので,例えば電場(,t)=^()exp(-iωt)の空間部分^()も,(,t)と同じく(),あるいは単にと表わすことにします。

そして,振動数がωの単色波では上記のマクスウェルの方程式系と連続方程式は=ρe,0,∇×,∇×=-iωe,およびe=-∂ρe/∂tに帰着します。

特に"ρee0 のとき=真空中"では,この方程式系は0,0,∇×,∇×=-0ε0ω=-iωc-2です。

これらの式から,真空中の,を具体的に得るには(∇2+k2)=0,および∇=0 を解いて(ic/k)∇×,=--1∇×とすればよいことがわかります。

そこで,まず後の便宜のためベクトルヘルムホルツ方程式:(∇2+k2)=0 の一般解()を,動径関数を球面ハンケル(Hankel)関数hl(ν)(x)(ν=1,2)の線形結合とする展開式:()=Σl=0Σm=-ll[lm(1)l(1)(kr)+lm(2)l(1)(kr)]Ylm(Ω)で表現します。

球面ハンケル関数hl(1)(x),hl(2)(x)というのはヘルムホルツ動径方程式のjl(x),nl(x)とは異なる選択の独立解:hl(1)(x)=jl(x)+inl(x),hl(2)(x)=jl(x)-inl(x)です。

さて,()の多重極展開の表現式を∇0 に代入するとΣl,m{lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)}0 (ν=1,2)を得ます。

ここで,右辺の∇に公式:∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を用います。

 一応,この公式を証明しておきます。

(証明):=(-ic)(×∇)より,(×)i/(-ic)ijkjk)/(-ic)=εijkεklmjlmilδjm-δimδjl)xjlm=xijj-xjji=xi(∇)-r2iです。

 

 つまり,(×)/(-ic)=()-r2∇なので,∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を得ます。(証明終わり)

あるいは,別の極座標を用いた証明もあります。

(別証明):∇=r(∂/∂r)+θ-1(∂/∂θ)+φ-1sin-1θ(∂/∂φ)であり,r/r,r×r=0,r×θφ,r×φ=-θですから,=(-ic)(×∇)=(-ic){-θsin-1θ(∂/∂φ)r-1(∂/∂θ)+φ(∂/∂θ)}です。

さらに,×=(-ic){θ(∂/∂θ) +φsin-1θ(∂/∂φ)}が得られます。

そこで,この極座標表現からも公式:∇=(/r)(∂/∂r)-{i/(c2)}(×)を導くことができました。(証明終わり)

さらに,F(r)をrだけの微分可能な任意関数とすれば,{/(-ihc)}F(r)=(-i)(×∇)F(r)=(-i/r)(×)(dF/dr)=0,つまり(r)=0 です。そこではrだけの関数を素通りします。

以上から,式:∇0 or Σl,m{lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)}0 はΣl[{dhl(ν)(kr)/dr}Σm{lm(ν)lm(Ω)}-c-1-1l(ν)(kr)×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 を意味します。

もしも,()=Σl=0Σm=-ll[lm(1)l(1)(kr)+lm(2)l(1)(kr)]Ylm(Ω)がTM波(E波):EであればrBE=0より,Σm=-ll[lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)=0 ですから,[×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 を得ます。

Σm=-ll[lm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)=0,かつ[×{Σmlm(ν)lm(Ω)}]=0 が常に成立するためにはElm(ν)を定係数として,Σmlm(ν)lm(Ω)=c-1ΣmElm(ν)lm(Ω)と書ければ十分です。

この表現を採用してE()=Σl=0Σm=-llΣνlm(ν)l(ν)(kr)Ylm(Ω)に代入すると,E()=Σl=0Σm=-llΣνElm(ν)l(ν)(kr)c-1lm(Ω)を得ます。

そして,(ic/k)(∇×)より,E()=(ic/k)Σl=0Σm=-llΣνElm(ν)l(ν)(kr){∇×c-1lm(Ω)}です。

同様にrEM0 よりM()=Σl=0Σm=-llΣνMlm(ν)l(ν)(kr)c-1lm(Ω)です。

 

そこで,=--1∇×からM()=-i(ck)-1∇×M()={i/(ck)}Σl=0Σm=-llΣνΣm=-llMlm(ν)l(ν)(kr){∇×c-1lm(Ω)}を得ます。

ここで,∫(lm(Ω)*l'm'(Ω))dΩ=δll'δmm'と直交規格化されたベクトル球面調和関数:lm(Ω)をlm(Ω)≡hc-1lm(Ω)/{l(l+1)}1/2(i){×∇lm(Ω)}/{l(l+1)}1/2で定義して導入します。

また,fE,Mlm(kr)≡E,Mlm(1)l(1)(kr)+CE,Mlm(2)l(2)(kr),E,Mlm(ν)≡{l(l+1)}1/2E,Mlm(ν)と置きます。

すると場は()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[AElmElm(kr)lm(Ω)-AMlm{i/(ck)}{∇×{fMlm()lm(Ω)}},()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[AElm(i/k){∇×{fElm()lm(Ω)}+AMlmMlm(kr)lm(Ω)}と表わすことができます。

これで,真空中の磁場()と電場()の多重極展開の具体的な形が得られました。

 

右辺の級数和:Σl=0をl=1から始まるΣl=1に書き換えたのはl=0 (球対称なs波)なら,(r)=0 のためlm(Ω)=hc-1lm(Ω)}/{l(l+1)}1/2が存在しないからです。

次に,原子核の中心=0 付近の限られた領域を考えると,ここは真空ではなくρe(,t)=ρe()exp(-iωt),e(,t)=e()exp(-iωt)なる振動電荷,振動電流が存在します。

 

そして,物質の電磁気学の現象論からεを核の誘電率,μを核の透磁率として=ε=ε0,μ-1μ0-1と書けます。

ただし,実際には非負電荷のみから成る原子核では電気分極:はゼロですからε=ε0,=ε0です。核磁気モーメントの方は存在して(,t)=()exp(-iωt)と書けます。

そこで,先に与えた単色波のマクスウェル方程式:=ρe,0,∇×,∇×=-iωe,連続方程式:eρeに,=ε0,μ0-1を代入してρee0 の真空のときと同じく,を消去してみます。

=ρe/ε0,0,∇×,∇×(μ0)=-iε0μ0ω+μ0e=-ic-2ω+μ0e,eiωρeですね。

そして∇=ρe/ε0eiωρeから,∇{i/(ε0ω)e}=0 となりρeを消去できます。

 

つまり,'を'≡i/(ε0ω)eで定義すれば∇'=0 です。さらに,∇×(μ0)=-ic-2ω+μ0e'を用いると∇×(μ0)=-ic-2ω'と書き直せます。

そして,発散(divergence)がゼロの,'については,∇×(∇×)=∇(∇)-∇2=-∇2,∇×(∇×)=∇(∇')-∇2'=-∇2'が成り立ちます。

 故に,∇×(μ0)=-ic-2ω'より∇×{∇×(μ0)}=-ic-2ω∇×'=ic-2ω∇×+μ0∇×eですが,∇×なので(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)}を得ます。

また,∇×より∇×{'-i/(ε0ω)e}ですから∇×{∇×{'-i/(ε0ω)e}}=iω∇×です。

 

故に,∇×(μ0)=-ic-2ω'+μ0∇×を用いて-∇2'-i/(ε0ω)∇×(∇×e)=k2'+iμ0ω∇×となります。

 以上から,(2+k2)'=-iμ0-1{∇×(∇×e)+2∇×}が得られます。

並べて書くと,(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)},(2+k2)'=-iμ0-1{k2∇×∇×(∇×e)}です。

 

式が過剰となりますから整合性が必要ですが,これらと∇0,∇'0,∇×=-ic-2ω'μ0∇×,および∇×'=iω+i/(ε0ω)∇×eを組み合わせます。

真空のときと同様,EM,''E'Mと分割して,E0,rBE0,および'M0,'M0 を同時に満たすE,'MとしてE()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω),'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)なる展開形が想定されます。

前と同じく,M=-iω-1∇×'MとしてみるとEMiω-1∇×'+k-2μ0∇×eから,E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×eとなることが必要です。

また,'E(ic/k)∇×Eとしてみると''E'Mick-1∇×-icμ0-1∇×から,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×となることが必要です。

これで辻褄が合うなら,E()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω),および'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)から,動径関数FE,Mlm(kr)だけが真空中のfE,Mlm(kr)と異なるという形で原子核中心領域の磁場,電場の空間部分が次のように表わされます。

すなわち,()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[FElm(kr)lm(Ω)-{i/(ck)}{∇×{FMlm(kr)lm(Ω)}},()=E()+M()=Σl=1Σm=-ll[(i/k){∇×{FElm(kr)lm(Ω)}+FMlm(kr)lm(Ω)}です。

問題はこれで全ての辻褄が合うかどうか?です。

 

まず,E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×e'E(ic/k)∇×Eから,E=-k-22E-2μ0∇×eなので,(2+k2)E=μ0∇×eです。

 

同様に,'E=-k-22'Eic-3μ0∇×(∇×e)により,(2+k2)'E=iμ0ck-1∇×(∇×e)です。

また,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×,M=-iω-1∇×'Mから'M=-k-22'Micμ0-1∇×により,(2+k2)'Miμ0ck∇×です。

 

同様に,M=-k-22M-2μ0∇×(∇×)により,(2+k2)M=μ0∇×(∇×)が得られます。

これらを通して,()=E()+M(),()='E()+'M()は,確かにそれぞれ,方程式:(2+k2)=-μ0{∇×e+∇×(∇×)},(2+k2)'=-iμ0ck-1{∇×(∇×e)+2∇×}を満たしています

そして,与えた多重極の展開形式は,確かに∇E,M'E,M0,およびE'M0 を満たします。

E=-iω-1∇×'E-2μ0∇×e,'Mick-1∇×Micμ0-1∇×,E=0,rE'M=0 によ{∇×('E+iμ0-1e)}=0,{∇×(Nμ0)}=0 が要求されます。

 

しかし,これはEM,'E'Mの上記分割が妥当でその他全ての式を満たす解であれば,当然,M,'Eが満たすべき条件です。言うなればトートロジーですね。

 

さて,今得たのは電荷密度,電流密度,磁気モーメントが全て存在する内部領域における解ですがこれらはその境界で領域の外の解に滑らかに接続するはずです。

 

そして,この境界条件はFElm(kr)→AElmElm(1)l(1)(kr),FMlm(kr)→AMlmMlm(1)l(1)(kr)で与えられます。

ここで,r→ ∞での球ハンケル関数の挙動はhl(1)(kr)→(-i)l+1exp(ikr)/(kr),hl(2)(kr)→il+1exp(-ikr)/(kr)ですから,原子核中心付近から放射される波には外向き成分しかないとして領域の外の真空中での動径関数fE,Nlm(kr)≡E,Nlm(1)l(1)(kr)+CE,Nlm(2)l(2)(kr)でhl(2)(kr)の係数CE,Nlm(2)を全てゼロと置きました。

動径関数:FElm(kr)を具体的に解くために,E()=Σl=1Σm=-llElm(kr)lm(Ω)を(2+k2)=-μ0∇×eに代入します。

  

すると,[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]E()=Σl=1Σm=-ll{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)lm(Ω)=-μ0∇×eです。

 この方程式の両辺の左からl'm'(Ω)*を掛けてdΩ積分し規格化直交条件を用いると,{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FElm(kr)=-μ0lm(Ω)* {∇×e()}dΩ≡-KE(r)です。

 同様に,'M()=Σl=1Σm=-llMlm(kr)lm(Ω)を(2+k2)E'M=-iμ0ck∇×に代入します。

 

 すると,[r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}+k2-(2/hc2)/r2]E'M()=Σl=1Σm=-ll{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)lm(Ω)=-iμ0ck∇×です。

これも左からl'm'(Ω)*を掛けてdΩ積分し規格化直交条件を用いると,{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}FMlm(kr)=-iμ0cklm(Ω)*{∇×()}dΩ≡-KM(r)を得ます。

今日はここで終わります。

いやあ,今回も細かい計算を始めると寝食も忘れてしまいます。こういう習性だけは,体力も精神力も落ちて老眼鏡が不可欠な今も昔と変わりませんね。

 

この関係の記事を後回しにしていたのは自分の計算に納得できず,いくら検算しても合わないような問題点があったからです。

 

そしてまだ終わっていません。テーマは古いのですがね。

  

ただ,別に締め切りも無くて暇があるだけが救いです。

 

ま,いくら心血を注いでも一銭にもなりませんがね。あ,でも自己満足を得られるからそれで十分かぁ。。。

ゼロからでなく色々と参考書もあるのですが,一度つまずくと細かい式については専門の本も100%は信用できませんから大変かな。。

八木浩輔著「原子核物理学」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学」 

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2010年4月17日 (土)

原子核のγ崩壊とメスバウアー効果(1)

 原子核のγ崩壊についての記事は私自身の古典電磁気学の復習のために意図していた時期よりも2ヶ月も遅れました。やっと本題に入れます。

 ちなみにα崩壊の話なら,2006年10/4,10/5の記事「原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)」,「原子核のα崩壊の理論(Ⅱ)」があります。

 さて,原子核:ZANの励起状態|i>≡|Iiπii>がγ線を放出して終状態|f>≡|Ifπff>へ転移(transit)するとします。

ただし,Mは"核スピンのz軸成分=磁気量子数"です。また,放出γ線のエネルギーをEγ≡hcω=hcc||とします。cは光速,はγ線の波数ベクトルです。hc≡h/(2π)で,hはPlanck定数です。

一定のスピンの偏極(polarization):(Mi-Mf)を持つ"γ線の量子=光子(photon)"が単位時間に波数ベクトルの周りの微小立体角dΩに放出される確率をu(Mi,Mf)dΩとすると,摂動論からこれはよい近似でu(Mi,Mf)dΩ=(2π/c)|<f|Hγ'|i>|2(dn/dEγ)dΩと表わされます。

ここにHγ'は,"電磁場(γ線)と核の相互作用=電磁相互作用"のハミルトニアン(Hamiltonian)です。これは具体的にはHγ'=∫jeμ(,t)μ(,t)3=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3で与えられます。

ただしeμ(cρe,e)=(cρee),μ(φ/c,)です。ρe(,t)は電荷密度,e (,t)は電流密度です。

を時刻tに位置にある電荷の速度とすると,伝導電流が存在しないときにはe(,t)=ρe(,t)と書くことができます。

時刻tでの全電荷をq(t)=∫ρe(,t)3とします。また,"全偏極=電気双極子(electric dipole)"を(t)=∫ρe(,t)3で,磁気双極子(magnetic dipole)をμ(t)=(1/2)∫×e(,t)3で表わします。

また,電気四重極子(electric quadrapole)をQij(t)=∫ρe(,t)(3ij-δij2)3とします。磁気四重極子は通常速度では電気のそれに比べて無視できる量なので詳細な表現は割愛します。

元々,双極子,四重極子etc.の多重極展開(multi-pole expansion)はラプラス方程式(Laplace eq.)やポアソン方程式(Poisson eq.)に従う静電場,または静磁場に適用されたものです。

 

すなわち,静電場,または静磁場をそれぞれ点電荷の球対称なクーロン電場(Coulomb field)とその微分,または双極子電流によるアンペール(Amprere')やビオ・サバール(Biot-Savart)の磁場とその微分を与える動径関数と球面調和関数(spherical harmonics)の積で表わされる項の和で表現するものです。

静電場,静磁場を与える一般的な電磁ポテンシャルはφ()={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(')/|'|],()=0/(4π)}∫d3'[e(')/|'|]です。

この電磁ポテンシャルφ(),()の4成分のうちの1つをψ()と書けば,これはラプラス方程式∇2ψ()=0 を満たします。

 

ただし,∇2はラプラス演算子(Laplacian)で,∇2≡∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2で定義される微分演算子です。

ラプラス演算子を極座標で書くと,∇2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と書けます。ただしは軌道角運動量:L≡r××(-ihc∇)です。

軌道角運動量の成分の極座標表示は,x=-ihc(y∂/∂z-z∂/∂y)=-ihc{-sinφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θcosφ(∂/∂φ)},Ly=-ihc(z∂/∂x-x∂/∂z)=-ihc{cosφ(∂/∂θ)-cosθsin-1θsinφ(∂/∂φ)},Lz=-ihc(x∂/∂y-y∂/∂x)=-ihc(∂/∂φ)です。

故に,2=hc2[sin-1θ(∂/∂θ)sinθ(∂/∂θ)+sin-2θ(∂2/∂φ2)]となるためにラプラス演算子が∇2=r-2(∂/∂r){r2(∂/∂r)}-(2/hc2)/r2と表わされるわけです。

そこで.ラプラス方程式の一般解はψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)なる多重極展開として表現できます。

lm(Ω)=Ylm(θ,φ)は球面調和関数です。これは軌道角運動量の固有値方程式:2lm(Ω) =l(l+1)hc2lm(Ω),およびLzlm(Ω)=mhclm(Ω)を満たします。

一方,動径関数Rl(r)は常微分方程式:{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 の解です。

 

l(r)に対するこの2階方程式の独立な解としてrl,r-(l+1)を採用すれば,ラプラス方程式の一般解の1表現:ψ()=Σl=0Σm=-ll[All+Bl-(l+1)]Ylm(Ω)を得ます。

静電磁場ではなく"共変ゲージ=ローレンツゲージ(Lorenz gauge)":∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たす一般の時間に依存する場の電磁ポテンシャルφ,を遅延ポテンシャル(retarded- potential)で表わすと,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(',t')/|'|],(,t)=0/(4π)}∫d3'[e(',t')/|'|];t'≡t-|'|/cと書けます。

これらを見ると,電荷分布ρe(,t),電流密度e(,t)の時間tへの依存性を除けば電磁ポテンシャルは静場のクーロン電場やアンペール磁場のそれに一致する形をしています。

しかし,静電場,静磁場のポテンシャルφ(),()がラプラス方程式:∇2φ()=0,∇2()=0 の解であるのに対し,一般の場は"時間に依存する波動方程式=ダランベール(D'Alembert)の方程式":□φ(,t)=0,□(,t)=0 の解です。

ただし,□はダランベール演算子(D'Alembertian)と呼ばれる微分演算子で,□≡c-2(∂2/∂t2)-∇2で定義されます。

遅延ポテンシャルはローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 を満たしていて,かつ=-∇φ-∂/∂t,=∇×によって電場,磁場を与えます。

もしも,場が時間tによらない静電場,静磁場なら∂φ/∂t=0,/∂t=0 なのでローレンツゲージ∇+c-2(∂φ/∂t)=0 はクーロンゲージ∇0 に帰着します。

 

また,=-∇φ-∂/∂t,=∇×静場の場合の電場,磁場の表現=-∇φ,=∇×に帰着します。

さて,静場でない一般的な場の時間依存部分を変数分離してφ(,t)=∫φ^(,ω)exp(-iωt)dω,(,t)=∫^(,ω)exp(-iωt)dωとフーリエ(Fourier)積分で表現してみます。

すると,φ^(),^()はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.)の解です。すなわち,φ^(),^()の4成分の任意の1つをψ(,ω)と書けば,これは方程式(∇2+k2)ψ(,ω)=0 を満たします。ただしk=ω/cです。

特に,複素表現で場の時間依存性が因子:exp(-iωt)のみに比例する場合,つまり角振動数ωが一定の単色平面波の場合を仮定すれば,電磁ポテンシャルはφ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)と書けます

このときのφ^(),^()の4成分のうちの任意の1つψ()ももちろんヘルムホルツ方程式(∇2+k2)ψ()=0 を満たします。

それ故,静場のラプラス方程式∇2ψ()=0 の一般解と同じく,ヘルムホルツ方程式の一般解もψ()=Σl=0Σm=-lll(r)Ylm(Ω)と多重極展開されます。

動径関数Rl(r)は静場では{d2/dr2+(2/r)d/dr-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たすのに対し,一般の場では{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0 を満たします。

そこで,ヘルムホルツ方程式の一般解としてψ()=Σl=0Σm=-ll[Aljl(kr)+Bll(kr)]Ylm(Ω)なる展開式を得ます。ただしjl(x),nl(x)は球面ベッセル関数(spherical Bessel function)です。

このjl(x),nl(x)はベッセル関数Jl+1/2(x),Nl+1/2(x)からjl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),nl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)で定義されます。

これらは,jl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),nl(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x)なる表現を持ちますからx=0 の近傍ではjl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],nl(x)→-(2l-1)!!/xl+1と近似できます。

記号(2l+1)!!は,(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。

原子核から放射される個々のγ線は単一の角振動数ωを持つことを想定して,φ(,t)=φ^()exp(-iωt),(,t)=^()exp(-iωt)なる形の単色波を仮定した場合,ローレンツ条件:∇+c-2(∂φ/∂t)=0 は∇^iωc-2φ^=0に帰着します。

また,電場,磁場の表現:=-∇φ-∂/∂t,=∇×^=-∇φ^+iω^,^=∇×^に帰着します

変動の少ない電荷や電流から放射された電磁波であれば,φ(,t),(,t)の形は平面波exp{i(kr-ωt)}に近いと考えられます。そこでローレンツ条件^iωc-2φ^=0 はさらにkA^-ωc-2φ^~ 0 と近似されます。

したがって,^とφ^の大きさを比較すると,k=||=ω/cよりk|^|~ωc-2|φ^|なのでオーダー的には|^|~|φ^|/cです。

以上から,原子核の中心=0 に集中した電荷の時間変動が激しくない:∂ρ/∂t~ 0,ω/c<<1と見なせる場合は,φ,の1成分ψ()の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Almjl(kr)+Blml(kr)]Ylm(θ,φ)を静場の展開:ψ()=Σl=0Σm=-ll[Alml+Blm-(l+1)]Ylm(θ,φ)で近似してよいと考えられます。

つまり,電荷の変動が激しくない場合の近似は,jl(kr)を(kr)l/(2l+1)!!で,nl(kr)を(kr)-(l+1)(2l-1)!!で置き換える近似に相当しています。

こうした近似が有効な場合,電磁相互作用Hγ'=∫ρe(,t)φ(,t)3-∫e(,t)(,t)3多重極展開は,次のようなによるテイラー(Tayler)展開と同等であると思われます。

まず,φ()のテイラー展開:φ()=φ(0)+∇φ^+(1/2)Σijij(ijφ)+..=φ(0)-rE(0)-(1/2)Σijij(ij)+..より∫ρe()φ()3∫ρe()φ(0)3[∫ρe()3](0)-(1/2)Σij[∫ρe()(ij)3](ij)+..=qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij(1/2)∇∫ρe()r23..を得ます。

しかし,電荷qが中心に集中している原子核ならρe()~qδ3()ですから,=ρe(0)/ε0=qδ3(0)/ε0,∫ρe()r23=qδ3()r230 より(1/2)∇∫ρe()r23~q2{rδ3()}230 となります。

結局,∫ρe()φ()3qφ(0)-PE(0)-(1/6)Σijijij..なる展開式が得られます。

一方,-∫e(,t)(,t)3は-∫e()()3=-Σk∫jek(){k(0)+xjjk(1/2)Σijij(ijk)+..}3[∫e()3](0)Σk[jek(iiik]3..と表わすことができです。

右辺第1項は全空間の総電流がゼロであること:∫e()30 からゼロです。

  

実は,電荷密度の変動がゼロ:∂ρe/∂t=0 と近似できるときには電荷の保存の方程式がe()=0 なので∇{ke()}=Σii{kei()}=ek()です。そこで,常に∫ek()d3=0 (k=1,2,3)が成立します。

そして,右辺第2項Σk[jek(iiik]3を評価するため公式:[×(∇×)]kΣijΣlmεkijiεjlmlmΣilm[(δklδim-δkmδil)ilm]=Σi[Aikiiik]=(k)-(∇)Bk,または-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)を用います。

この最後の式:-Σi(Aiik)=[×(∇×)]k(k)において,()|→0で置き換えると-Σi(xiik)=[×(∇×)]k(k)を得ます。

∇×ですから,これは-Σi(xiik)=(×)k(k)です。さらにe()との積和:Σkek()を取るとΣkek(i(xiik)=e()(×)-Σkek()(k)=-[×e()]Σkek(i(xiki)です。

ところが,定常e()=0 の場合,∇{jke()}=Σii{jkei()}=kei()+kek()により,∫{kei()+iek()}d3=0 ですからΣkΣi[ik∫{xiek()+kei()}d3]=0 となります。

以上から,Σk[jek(i(xiki)]d3=-Σk[jek(i(xiik)]d3です。

 

それ故,-2Σk[jek(i(xiik)]d3=-[×e()3](0)なる等式を得ます。

そこで,磁気双極子モーメントμの環状電流による積分表現μ=(1/2)∫{×e()}3から,-Σk[jek(i(xiik)]d3=-μ(0)と書けることがわかります。

結局,-∫e()()3=-μ(0)+..なる展開を得ます。

磁気四重極子は電気四重極子に比べ無視できる量ですから,静電磁場に近い微小変動の原子核との電磁相互作用を示す摂動Hγ'は,Hγ'= ∫jμe()μ()3=∫ρe()φ()3-∫e()()3qφ(0)-PE(0)μ(0)-(1/6)Σijijij..なる展開で表現されることがわかります。

今日はここで終わります。(つづく)

八木浩輔著「原子核物理学」(朝倉書店),八木浩輔 著「原子核と放射」(朝倉書店),砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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2007年1月11日 (木)

結合エネルギーが最大の元素(鉄)

重い原子核の結合エネルギーは質量公式:E(Z,N)=-c1A+c22-1/3+c3(N-Z)2/A+c42/3,c116MeV,c20.72MeV,c324MeV,c418MeVで近似的に表現できることを既に述べました。

そこで安定な原子核のZはAのどのような関数であるかを調べ,次に1核子当たりの結合エネルギーが最大の原子核の質量数AをN~Z~A/2の近似のもとで求めてみます。 

安定な核は,条件式(∂E/∂Z)|A=0 から得られます。

 

N-Z=A-2Zなので,(∂E/∂Z)|A=22ZA-1/343(A-2Z)/A=0 であり,このZを境にして∂E/∂Zは正から負に変わりますから,このZでEは最小になります。

 

したがって,Z=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396)という式が安定な核の条件になります。そこでAがあまり大きくなければ,Z~A/2 で安定ですね。

また,N~Z~A/2という前提で1核子当たりの結合エネルギーが最大になるAを求めると,d{E(A/2,A/2)/A}/dA=d(-c1+c22/3/4+c4-1/3)/dA=A-4/3(c2/6-c4/3)なので,

 

A=2c4/c236/0.72~ 50 となります。

 

A~ 50 付近の元素で,組成がZ~A/2に近いものは,バナジウム(V:A=51,Z=23),クロム(Cr:A=52,Z=24,マンガン(Mn:A=55,Z=25),鉄(Fe:A=56,Z=26)etc.があります。

 

しかし,これらは,丁度Z=A/2を満たすわけではありません。

 

むしろ,E(Z,N)に,=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396),およびN=2A-Zを代入した後,dE/dAがゼロとなるAを求めた方がいいかもしれません。これは,結構大変ですね。

  

鉄(Fe:A=56,Z=26)は,Z=2c3/(22/343)≒48A/(0.72A2/396)に組成がかなり近いようです。

 

そして,実在の元素では鉄(Fe)のときに結合エネルギー:E(Z,N)が最大になるようです。

 

したがって,星の熱核融合で重元素が創られていっても,最終的に鉄(Fe)に到達すると,それ以上反応は進まないで,そこで核融合は終わることになるようです。

 

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2006年11月26日 (日)

高密度状態での陽子の中性子化(2)

前記事の続きです。

簡単のために水素原子を考えます。水素原子の半径はほぼボーア半径:aB=hc2/(me2)=0.53×10-8cmで与えられます。

 

ここで,hc≡h/(2π),hはPlanck定数でmeは電子の(換算)質量です。

 

原子が密着して配列しているなら水素原子の密度:ρHはρH=mH/(4πaB3/3)で与えられますが,この密度以上に物質が圧縮されると原子がバラバラに配列している状態から外れて,とても高密度な状態にあるといえます。

 

ただしmH は水素原子の質量です。

例えば,原子が半径aの空間に圧縮されれば,電子の陽子との間に働く静電エネルギーはc.g.s単位でEe=e2/aです。

 

一方,不確定性関係:ΔpΔx~hcより,半径aの空間に閉じ込められた電子は(hc/a)程度の運動量を持ち,そこでEk=hc2/(2me2)程度の運動エネルギーで運動しています。

このエネルギーは,密度:n~1/a3の縮退エネルギー,

つまりFermiエネルギー:εF=pF2/(2me)

[{3/(4πgh3)}}1/31/3]2/(2me)

=(3π2)}2/3c2/(2me2) と同程度です。

 

ちなみに,ρH=mH/(4πaB2/3)の密度では,

k/Ee={hc2/(2me2)}/aB=1/2~1なので,

kとEeは同じオーダーになります。

しかし,aが小さくなるとEk/Ee=aB/(2a)は大きくなります。

 

やがて電子のエネルギーEk=hc2/(2me2)が大きくなって,陽子の束縛をはずれて自由に飛び回るようになります。

 

これを圧力電離(pressure ionization)といいます。

 

電離された電子は密度が大きくなるにつれて静電相互作用を無視して一様密度の自由粒子の気体のように挙動するようになります。

一方,陽子の量子的運動エネルギーをEK とし,その陽子同士の静電エネルギーをEpと書くとEK/Ep={aB/(2a)}(me/mp)です。

 

pは陽子の質量です。

 

KがEpより大きくなるのは電子の場合と比べて,aが(me/mp)倍まで小さくなったとき,密度にして1010倍大きくなったときです。

 

したがって,その密度が達成されるまでは陽子は静電エネルギーが最小となるような配列で規則正しく並ぶことになります。

しかし,温度Tがゼロ近傍の低温ではなく十分高温になり,BT>c2/(2mp2)となった場合,EKは縮退エネルギーである量子的運動エネルギーよりも,主として熱運動エネルギーで与えられることになります。

 

そこで,このときはEpとEKの比Γは,Γ=Ep/EK ~ e2/(aB)となります。

 

そしてΓ>1なら陽子は規則正しく結晶状に配列すると予想されます。

陽子ではなく,質量数がAで電荷がZのイオンなら密度はρ=AmpnなのでΓ~ (Ze2)/(aB)=2.27×106(Z2/A1/3){ρ(kg/m3)}1/3/T

です。

 

コンピュータによる結晶化の仮想数値実験によると,Γ~1では局所的に秩序のある液体状態を保っていますが,Γが50~170程度になるとはじめて結晶化するらしいです。

つまり,結晶化が崩れる温度は,大体T>2.3×104(100/Γ)(Z2/A1/3){ρ(kg/m3)}1/3Kであることになります。

これら圧力電離が生じ始めるのは,ρ<2×109 kg/m3程度の高密度状態ですが,これ以上の高密度状態になると陽子の中性子化が起きます。

中性子と陽子の質量差は,Q=(mn-mp)c2=1.29 MeVで中性子の方が陽子より重いので通常は陽子のほうが安定で中性子が陽子に崩壊します。

 

これが弱い相互作用によるベータ崩壊(β-decay)です。

 

当然のことですが自然の崩壊現象というのは重い粒子が軽い粒子に崩壊するものです。逆反応は自然には有り得ません。

しかし,Q=(mn-mp)c2=1.29MeVよりも大きいエネルギーを持つ電子を陽子に照射すればベータ崩壊の逆反応である陽子による電子捕獲(electron capture):p+e-→n+νeなる反応が起こります。

 

物質密度が非常に高くなり,aが小さくなって電子の縮退エネルギー="絶対温度Tで電子の取り得る上限のエネルギー"εF=(3π2)}2/3c2/(2me2)が,この捕獲反応を起こすほど大きくなると,陽子は電子を吸収しどんどん中性子化してゆきます。

今,簡単のためにT=0 として陽子,電子,中性子のみから成る気体を仮想して平衡状態における組成を検討してみましょう。

高密度状態で先に述べた電子捕獲の反応が起こって,ベータ崩壊と平衡状態に達するとします。

  

温度一定:dT=0 ,密度一定:dV=0 のときは平衡になる条件はHelmholtzの自由エネルギーF≡U-TSが極小になることです。

粒子を通さない壁で仕切られた2つの異なる系があって,2つの系のうち系2は十分大きい熱浴であるとして,これらが平衡にごく近い状態にあるとすると,T1=T2=T,P1=P2=Pです。

 

2つの系全体では孤立系なので,反応は総エントロピーS=S1+S2が増加する方向,すなわちdS1+dS20 の方向に進むはずです。

ところが,反応の前後で全エネルギーも全体積も保存するはずですから,dU1=-dU2,dV1=-dV2です。

  

したがって,dS2(dU2+PdV2)/T=(dU1+PdV1)/Tなので,反応が進む条件は,dS1(dU1+PdV1)/T0 となります。

熱浴ではない系1の反応だけに着目して,添字1をはずすとdS-(dU+PdV)/T0 です。dT=0,dV=0ではPdV=0 なので,この条件はd(TS-U)/T=-dF/T≧0,つまりdF≦0 になります。

 

それ故に,平衡の条件はHelmholtzの自由エネルギー:F≡U-TSが極小であることになるわけです。

そして,今はT=0 の場合を考えているので,F=Uですから平衡になる条件は内部エネルギーUが極小になることです。

 

そして体積が一定dV=0 の条件では,これは内部エネルギー密度E=U/Vが極小になることと同じことですね。

p+e-→n+νeの反応で発生した電子ニュートリノ:νeは物質との相互作用が極端に小さく何でも通り抜けてしまうため,これは高密度領域からすぐに逃げてしまうと考えられるので,これの効果は無視することにします。

核子の数密度:nBの保存と電荷の保存から陽子,電子,中性子の数密度を,それぞれnp,ne,nnとすると,np+nn=nB かつnp=neが成立するので,与えられた一定のnBに対してnnが与えられれば全ての組成は決まってしまいます。

 

そして陽子,中性子,電子のそれぞれについて質量を除いた内部エネルギーの密度をE=U/Vとすると,全エネルギー密度ξはξ=nmc2+Eで与えられます。

 

系全体のエネルギー密度はξ=ξn+ξp+ξeです。

そして先に述べた平衡の条件は相対論まで含めれば質量のエネルギーと運動エネルギーを加えた広い意味での内部エネルギーが極小になる条件ですから,結局ξが極小になるという条件に同等です。

そこで平衡になるときの組成を得るためには,nn の変化に対してξが極小になる条件を求めればいいことになります。

 

すなわち,dξ/dnn=dξn/dnn+dξp/dnn+dξe/dnn=dξn/dnn-dξp/dnp-dξe/dne=0 です。

 

dn=(g/h3)pF2dpF,dE=(g/h3)d[∫0pFεp2dp]により,dE/dn=pF-2(d/dpF)[∫0pFεp2dp]=εFなのでdξi/dni=εFi+mi2 (i=n,p,e)となります。

したがって,平衡の条件はεFn+mn2=εFp+mp2+εFe+me2,すなわち,(pFn2+mn22)1/2=(pFp2+mp22)1/2+(pFe2+me22)1/2となります。

次はこの式からnp=neによってpFp=pFeであることに注意しながら(pFp/pFn)2を解くことを考えればよいことになります。

 

具体的な計算は煩雑なので省略して結果だけを書くと,(pFp/pFn)2=[1+(4Qmn/pFn2)+4(Q2-me24)mn2/pFn4]/[4{1+(mnc/pFn)2}]が得られます。

 

なお,この結果式においてはmp=mnとし,mpはmnで置き換えています。

p/nn=(pFp/pFn)3ですが,ρc≡mn43/(3π2c3)≒6.11×1018 kg/m3とおけば,mnc/pFn=(ρc/mnn)1/3となります。

 

そこで,np/nn

=(1/8)[(1+{4Q/(mn2)}(ρc/mnn)2/3+{4(Q2-me24)/(mn24)}(ρc/mnn)4/3)/(4{1+(ρc/mnn)2/3})]3/2

が得られます。

右辺をmnnで微分することにより,np/nnはnnの増加と共に大体において減少するが,ある値を境にして増加に転ずることがわかります。

 

(p/nn)は,nn~ 1.27×10-4ρc=7.74×1014 kg/m3のとき

最小値:(np/nn)min~[{Q+(Q2-me24)1/2}/(mn2)]3/2

≒1.34×10-4を取ります。 

 

 mnn>>ρcになると,極限値1/8に近づいていきます。

いずれにしても,圧縮されて密度が高くなると陽子はそのほとんどが中性子に変わり中性子の割合が大きくなります。

 

そして,中性子が崩壊しようにも,常にある量の電子が存在するため,崩壊によって生成される電子や陽子のエネルギー状態は既に占拠されているので中性子の崩壊が妨げられ,そのため不安定な粒子である中性子が安定に存在していると考えられます。

 

ただし,上述の議論は陽子,電子,中性子の系を理想気体と仮定した前提で得られたものです。

 

実際には高密度物質はこの理想化からは程遠い状態にあります。

 

しかも,核子は相互作用の無視できる自由運動をするわけではなく原子核の状態で存在します。

 

たとえ,そうでなくても核力によって強く相互作用するわけですから,核力の影響を無視できないことになります。

 

これらを考慮した話は中性子星を中心とした話になりますが,これについては機会があったらまた記事にしてみたいと思います。

参考文献;佐藤文隆 原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)

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2006年11月25日 (土)

高密度状態での陽子の中性子化(1)

 陽子と中性子と電子が多数ある系で,高密度状態の際に陽子が中性子化するメカニズムについて述べてみたいと思います。

 そのために,今日はまずスピンの自由度がgであるフェルミ粒子(Fermion)について,"縮退エネルギー=Fermiエネルギー"について論じてみます。

スピンが半奇数である粒子は絶対温度TでFermi-Dirac分布(Fermi分布)に従います。

 

これは,化学ポテンシャルをμとするとき,エネルギーがεの状態にある平均粒子数がnF(ε)=1/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1]で与えられることを示しています。

このFermi分布はBose分布と同じく,exp{(ε-μ)/(kB)}>>1のときには,n~ exp{-(ε-μ)/(kB)}で与えられる古典分布のMaxwell-Boltzmann分布になります。

 

体積がVの系の全粒子数は,N=(V/h3)∫(4πgp2/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1])dp~ (V/h3)∫0[4πgp2exp{-(ε-μ)/(kB)}]dpで与えられます。

 

したがって,粒子の数密度nはn≡N/V~ (4πg/h3)∫0[p2exp{-(ε-μ)/(kB)}]dpとなります。

 

また,系の全エネルギーをUとすると,エネルギー密度は

E≡U/V~ (4πg/h3)∫02εexp{-(ε-μ)/(kB)}dpです。

同様に,圧力Pは

P~ {4πg/(3h3)}∫0(dε/dp)2exp{-(ε-μ)/kB}dp

=(4πgkB/h3)∫02exp{-(ε-μ)/kB}dp

=nkB

となります。

非相対論的粒子ではエネルギーがε=p2/(2m)なので,数密度n=N/Vを求めるdp積分を実行し結果をμをnで表わす式で示せば,

μ=kBlog[(n/g){h2/(2πmkB)}3/2]],or exp{μ/kB}

=(n/g){h2/(2πmkB)}3/2

となります。

そして,特にexp{μ/kB}>>1,すなわち,数密度nが非常に高い状態でのFermi分布:nF(ε)=1/[exp{(ε-μ)/(kB)}+1]を考えると,

 

これはF(ε)~ 1 (ε<μ),nF(ε)~ 0 (ε>μ)なる分布で

近似できます。

 

特にT→ 0 の極限では厳密にこの分布になります。この極限の状態を完全縮退といい,そうでないときは部分縮退といいます。

そして,この分布においてnF(ε)がゼロではない上限のエネルギーをεFと書き,これをFermiエネルギーと呼びます。

 

一般にεF~ μであり,完全縮退の極限では正確にεF=μです。

 

εFに対応する上限運動量の大きさをpFと書きFermi運動量と呼びます。

εF(pF22+m24)1/2-mc2ですね。

Fermi運動量pFを用いると,数密度n,圧力P,エネルギーEは,

 

n=(4πg/h3)∫0F2dp=(4πg/3)(mc/h)33,

P={4πg/(3h3)}∫0F[p2(dε/dp)]dp=Kf(x),

E=(4πg/h3)∫0F(εp2)dp=Kg(x)

 

と表現できます。

 

ここで,x≡F/(mc)としました。

 

K={g/(6π2)}(mc/h)3mc2≒6.0×1014×(g/2)J/m3,

f(x)=x(2x2-3)(x2+1)1/2+3sinh-1(x),

(x)=8x3[(x2+1)1/2-1]-f(x) です。

また,n=(4πg/h3)∫0F2dp=(4πg/3)(mc/h)33,

x≡F/(mc)からF{3/(4πgh3)}}1/31/3

と書くことができます。

 

  (つづく) 

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2006年10月 5日 (木)

原子核のα崩壊の理論(Ⅱ)

 前記事の続きです。

 

 動径波動関数:u(r)(特にuf(r))を具体的に求めるために1次元のSchroedinger方程式に対してWKB近似(準古典近似)を行ないます。

 まず,波動方程式:[-c2/(2m)](d2u/dr2)+[V(r)-E]= 0 において,V(r)=Eを満たすrをrと名付けます。

 

 こうすれば,V(r)は減少関数ですから,r<rではV(r)>E,r>rではV(r)<Eです。

 そこで,r<rの部分を領域Ⅰとして,

 κ(r)≡(1/c)[2m{V(r)-E}]1/2と定義すると,

 

 これはこの領域Ⅰでは常に正の実数で,

 波動方程式は,d2/dr2-κ(r)2=0 です。

 

 同様にr>rの部分を領域Ⅱとして,

 k(r)=(1/c)[2m{E-V(r)}]1/2と定義すると,

 

 これはこの領域Ⅱでは常に正の実数で,

 波動方程式は,d2u/dr2+k(r)2=0 です。

 

 さて,まず領域Ⅱ:謂ゆる振動的領域においてWKB近似を実行します。

 

 平面波の拡張として,u(r)≡eiS(r)とおくことでS(r)を定義すると

 波動方程式d2/dr2-κ(r)2=0 は,

 (dS/dr)2+id2S/dr2=-k(r)2となります。

 

 これを積分すると,形式的に

 S(r)=±∫[k(r')2+id2S/dr'2]1/2dr'を得ます。

 

 ここで,第1近似としてこの式の右辺の被積分関数で項d2S/dr2を無視すると,S(r)~S1(r)=±∫k(r')dr'となります。

  

 さらに,d21/dr2=±dk/drですから,第2近似として

 S(r)~S2(r)=±∫[k(r')2±idk(r')/dr']1/2dr'

 (複号同順)を得ます。

 

 この第2近似のS2(r)をS(r)と同一視する近似を採用します。

 これをWKB近似といいます。

 この近似が正当化されるためには,S2(r)~S1(r)が成立することが必要かつ十分な条件です。

 

 そのためには,|dk/dr|<<k(r)2であることが必要です。

 

 u(r)≡eiS(r)を1次元の波と考えると,λ(r)=2π/k(r)は局所的な波長を意味しますから,この条件は|dλ/dr|<<1です。

 

 あるいは,V(r)が有意な変化をする距離をdとすると,λ(x)<<dという条件に相当します。

 

 いずれにしろ,|dk/dr|<<k(r)2が散乱現象を"準古典近似=WKB近似で表現してもよい"ための条件になります。

 |dk/dr|<<k2の条件下では,さらに

  [k2±idk/dr]1/2~k[1±i(dk/dr)/(2k2)]と近似できるので,

 S2(r)~±∫k(r')dr'+(i/2)ln[k(r)] となります。

 

 以上から,振動的な領域ⅡでのWKB近似解は,

 u(r)=eiS(r)=[k(r)]-1/2exp[±i∫k(r')dr']

 となります。

 

 ここで積分の下限をrに固定します。

 

 方程式が線形なので一般解は線形結合で表わすことができて,

 u(r)=A[k(r)]-1/2cos [ξ2(r)+φ]

と書くことができます。

 

 ξ2(r)は,ξ2(r)≡∫rErk(r')dr'で定義されています。

 次に指数的な領域Ⅰについて,やはりu(r)≡eiS(r)とおくことにより

 S(r)を定義すると,

 

 ほとんど同様な方法によって,

 u(r)=eiS(r)=[κ(r)]-1/2exp[±∫κ(r')dr']

 を得ることができます。

 

 そこで要求される条件として第Ⅰ領域でrの減少する向きに減衰する解を取ると,(r)=A[κ(r)]-1/2exp[-ξ1(r)]となります。

 

 ξ1(r)はξ1(r)≡∫rrEκ(r')dr'で定義されています。

 

 そして,この近似が成立する条件も|dκ/dr|<<κ(r)2です。

 あとはu(r)とu(r)がr=rで滑らかに連結するように全ての不定定数を決めればいいわけです。

 

 ところが,r=rではκ=k=0 なので,そもそもWKB近似が成立する条件は完全に崩れてしまうため,この近似では単に接続させるだけではまずいわけです。

 

 そこでこの折り返し部分で狭い領域Ⅲを考え,その領域では近似的にV(r)を負の傾きを持ちr=rでEを通る直線で近似します。

 

 つまり,V(r)~E[1-a(r-r)] (a>0 )ですね。

 これを解くにはベキ級数解を仮定して係数を比較する手法を用いる必要があるわけで,結局このV(r)に対する動径波動関数u(r)として,厳密には特殊関数の1つであるある種のBessel関数が得られることになります。

 

 これを示すためには長たらしい計算の連鎖が必要なのですが,ここでは省略します。

 

 これは,先に直線近似を仮定しましたが,近似は別に直線でなければならないという明確な理由はなく他の近似をしてもかまわない,という意味で,"本質的でない特別な近似手法に関して真面目に論じる必要はないだろう。"と考えたのがその理由です。

 

 WKB近似の本質は既に述べたと考えられるので,計算結果だけ書くと,

 

 規格化の曖昧さがあるので,AとAはその比だけが決まって

 A2A,また位相の方はφ=-π/4 と決定されます。

 結果をまとめると,u(r)=A[κ(r)]-1/2exp[-∫rrEκ(r')dr'] (r<r),u(r)=2A[k(r)]-1/2cos[∫rErκk(r')dr'-π/4] (r>r)です。

 最後に,規格化条件|uf|2dr=ρf(E)から,uf(r)=u(r)として定数Aを定めることにします。

 

 娘核の重心を中心として十分大きい半径Rを持つ球をとり,その球面上ではf(R)=u(R)= 0 になると仮定します。

 

 r≦RではV2(r) ~ 0 なので,k(r) ~ (2mE/c)1/2=k(一定),f(r) ~ 2Ak1/2cos[k(r-r)-π/4]となります。

 束縛されていないα粒子のエネルギーEはE=c22/(2m)ですから,

 状態密度はρ(E)=dn/dE=(dn/dk)(dk/dE)dE

 =[m/(c2)](dn/dk)です。

 

 2Ak1/2cos(kR+δ)=0 (ただしδ=-kr-π/4 )より,

 kR+δ=(n+1/2)π(nは整数)となるはずですから,

 dn/dk=R/πが得られ,ρ(E)=(mR)/(πc2)

 となります。

 そこで,rER∞κ|uf|2dr=ρf(E)で,

 uf(r)=2Ak1/2cos(kr+δ),ρf(E)=(mR)/(πc2)

 を代入することから,結局,A=[m/(2πc2)]1/2が得られます。

 一方,i(r)の方はV1(r)=-V0(r<R),V1(r)=V(r≧R)から

 直接に解いて,i(r)=Bsin(k0r) (r<R),

 i(r)=Cexp[-κ0(r-R)](r≧R)

 で与えられます。

 

 ここで,k0=(1/c)[2m(E+V0)]1/2,および,

 κ0=(1/c)[2m(V-E)]1/2です。

 定数B,Cについては,r=Rで滑らかに連結する条件と規格化条件から定まりますが,ここではそれを決めることは省略します。

 r=R 付近での動径波動関数として終状態:f(r)

 =[m/(2πc2)]1/2[κ(r)]-1/2exp[-∫rrEκκ(r')dr'](r<r),

 

 始状態:i(r)

 =C exp[-κ0(r-R)](r≧R) の両方が得られました。

 

 これらを実際に,

w=[(2π/hc){hc2/(2m)}2|(duf*/dr)ui-uf*(dui/dr)|2]r=Rに代入してα崩壊の崩壊確率wを計算します。

 

 ここで,duf*/drの計算に際して[κ(r)]-1/2のrによる変動は指数関数の変動に比べごく小さいので,それを無視し,

 

κ(r)としてκ(R)=κ0=(1/c)[2m(V-E)]1/2(一定)を用いることにします。

 このとき,w=C2cκ0,P=exp[-2∫κ(r')dr']=exp[-(2/c)∫RrEκ{2m(2Ze2/r'-E)}1/2dr']となります。

 

 右辺の積分は初等的に実行可能で,

 (2/c)∫RrE{2m(2Ze2/r'-E)}1/2dr'=

[(32mZ24)/(h2E)]1/2{cos-1(R/r)-(R/r)-(R/r)2}1/2}]

となります。

 

 r>>Rなので,右辺の{cos-1(R/r)-(R/r)-(R/r)2}1/2を[π/2-(R/r)1/2]で近似します。

2Ze2/r=Eより,r=2Ze2/Eですから,結局,

P=exp[-{2πe2(2m)1/2/c}(Z/√E)+(4e√m/hc)(ZR)1/2]

となります。

 

半減期と崩壊確率の関係は,

1/2=ln2/w=ln2/(C2cκ0P)ですから,

logT1/2=-logP+const となります。

 

これから,logT1/2a[Z/(√E)]+bと書けることがわかります。

 

この式のパラメータは,a=[2πe2(2m)1/2/c](loge)>0 etc.と陽に表わすこともできますから,結局「Geiger-Nuttallの法則」が理論的に示されたことになります。

 

参考文献;八木浩輔著「原子核と放射」(朝倉現代物理学講座)

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2006年10月 4日 (水)

原子核のα崩壊の理論(Ⅰ)

 原子番号が (Z+2)の放射性核のα崩壊による半減期を T1/2とし,その崩壊で放出されるα粒子のエネルギーをEとすると,これは

  

 logT1/2=a[Z/(√E)]+b 

 

 という関係式でうまく表現されることが知られています。

    

(※α粒子はヘリウムの原子核:24Heなのでα崩壊により原子番号(Z+2)の放射性核は原子番号Zの原子核になります。)

 

 これは,ガイガー・ヌッタル(Geiger-Nuttall)の法則と呼ばれています。

(ここでのlogは常用対数であり自然対数lnではありません。)

 

 このGeiger-Nuttallの法則を説明した有名なジョージ・ガモフ(George Gamow)のα崩壊の理論は,量子力学に特有のトンネル効果という現象を応用した理論です。

 

 これは,定常的な理論で説明されることも多いようですが,ここでは量子遷移を中心とした非定常的な理論とWKB近似によって理論を展開したいと考えます。

 

(※注:WKB近似とは,Wentzel,Kramers,Brillouinによる近似法で,別名:準古典近似とも呼ばれています。※)

 まず,hをPlank定数とし,hc(h/2π)とします。

 

 α崩壊は初期状態:|i>=ψiから終状態:|f>=ψfへの量子遷移であると考えて,崩壊過程に時間を含む摂動論を適用することにします。

 

 摂動論によれば,摂動HamiltonianをH'とするとき,

 最低次の遷移確率wは,黄金律(Golden rule)として有名な式:

 w=(2π/c)|<f|H'|i>|2ρf(E)で与えられます。

 

 ここで,<f|H'|i>は<f|H'|i>≡∫ψf*H'ψi3xなるH'の行列要素で,ρf(E)は終状態fのエネルギー状態密度です。

 以下,簡単のため,α粒子の軌道角運動量がゼロのS波のみを考えることにします。

 

 すると定常状態の波動関数は動径rだけの関数になるので,

 ψ()=[1/(4π)]1/2u(r)/rと置くと規格化は,

 1=∫|ψ|24πr2dr=∫|u|2drと書けます。

 

 そしてH'もrだけの関数であるとすると,

 <f|H'|i>=∫ψf*H'ψi3x=∫uf*H'uidr

 と書けます。

 

 さらにuiはそのままでufのみ,

 ψf()(ρf(E))1/2=[1/(4π)]1/2f(r)/rのように,

 ∫|uf|2dr=ρf(E)と規格化しておけば,

  

 黄金律はw=(2π/c)|∫uf*H'uidr|2と簡単になります。

 原子核の半径(有効レンジ)をRとし,核力とクーロン斥力の合成されたポテンシャルV(r)を,V(r)=V1(r)=-V0(r≦R);(V0>0),

 V(r)=V2(r)=2Ze2/r(r≧R)とモデル化します。

  

 (MKS単位では係数4πε0が面倒なので,c.g.s.単位を取ります。)

 "α粒子=ヘリウム原子核"の質量をmとすると,Schroedinger方程式は,

 rの1次元方程式となって,

 [-c2/(2m)](d2u/dr2)+(V(r)-E)=0 です。

 

 これは,u=ui,V(r)=V1(r),E=Eiと置けば,

 r≦Rにおける束縛状態ui(r)の満たす方程式になり,

  

 u=uf,V(r)=V2(r),E=Efと置けば,

 r≧Rにおける散乱状態uf(r)の満たす方程式となります。

 そして,核力で束縛されている入射α粒子のクーロン障壁によって受ける摂動H'は明らかにH'(r)=V(r)-V1(r)と書けます。

 

 これはr≦Rではゼロであり,r≧Rでは(V2(r)-V1(r))ですから,

 第1近似の崩壊確率はw=(2π/c)|∫Rf*(V2-V1)uidr|2

 となります。

 この崩壊確率wを求める式の積分で,VはSchroedinger方程式から,

 Va(r)ua=Eaa+[c2/(2m)](d2a/dr2) (a=i,f or 1,2 )

となるので,これを代入します。

 

 Ef=Eiであることに注意し,積分を行う際にuのrによる2階導関数を部分積分によって消去して,r=∞ではuもdu/drも消えることを用いると次の表式が得られます。

 すなわち,崩壊確率w=(2π/c)|∫Rf*(V2-V1)uidr|2は,

w=[(2π/c){c2/(2m)}2|(duf*/dr)ui-uf*(dui/dr)|2]r=Rと表現されます。

 

 このことから,ui(r)とuf(r)の動径rが核半径R付近にある,つまりr~Rのときのそれらの関数形を求めることが非常に重要になります。

(つづく)

 

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