101 教育・学校(物理)

2007年6月 4日 (月)

ニュートンの万有引力の法則での疑問点

専門学校での昔の講義録の中から,ニュートンの万有引力の法則についての話題です。 

ニュートンの万有引力の法則というのは,"質量がMとmの2つの物体が距離rだけ離れているときには,それらの間にはF=GMm/r2の大きさの引力が働く。"という皆様よくご存知の法則です。

ただ普通に教科書の内容だけを講義していてもつまらないので,当時,その場の生徒たちに,思い付いたことをその都度クイズのように問いかけていました。

 

これに関する講義のときには,

  

もしも,r=0 だと,この式では無限大の引力が働くはずだ。

 

 例えば机の上に何か物を置いておくと,それらの重心の間の距離は完全にゼロではないけど,そのくっついている小さな部分だけに着目すると,その間の距離rはゼロだから無限大の万有引力が働くので凄い力でくっついているはずだろう?

 

それなのに,どうして手で軽く持ち上げたり,引っ張ったくらいで,簡単に離れるのだろうか?」

 

という内容の質問を投げかけました。

それに対して,ちゃんと答えた生徒は案の定1人もいませんでした。

 

でも,ひょっとしたら,こんなことは当たり前過ぎて,馬鹿馬鹿しくて答える気にもならなかったのかも知れませんが。。。。

まあ,少し本格的に勉強した人なら,質点同士ならいざ知らず,通常の物体なら大きさがあって,万有引力の法則の引力の大きさの式:F=GMm/r2の分母にある距離rとしては,物体の重心間の距離rを代入するのが正しい法則であることを知っているでしょう。

そして,万有引力定数Gというのは非常に小さい値で,身近なところでは太陽,地球,月のような天体のように,Mまたはmがとても大きい物体の引力でなければ,観測にかかるものではないことは常識です。

 

我々が,地球上の物体に働くg=9.8m/s2という物体の重力落下の加速度を実感するのも,落下物体の質量mが小さくても地球の質量Mが非常に大きいからであることも知っています。

 

Mもmも小さい机の上に置いてある2つの物くらいでは,その間に働く引力などは,自然に存在している静止摩擦力よりもはるかに小さいので,それらが引き寄せられたりはしないことも,よく知っています。

しかし,元々の万有引力の法則というのは,2つの物体を共に質点であると理想化したときに働く法則です。

 

通常の大きさのある物体というのは,剛体や弾性体のように連続体近似できる場合も含めて,実は質点系,つまり,多くの質点粒子の集まりで与えられるものです。

したがって,その"物体=多くの質点の集まり"に働く力というのは個々の質点の間に働く引力の合力です。

 

(もちろん,第3法則によって,2つ以上の物体があっても,それぞれの物体内の内力の総和はそれぞれゼロなのですが。。。)

 

そして,2つの物体が接触しているときには,その外表面の微小部分での両物体の質点間の距離は本当にゼロですから,その間の引力は非常に大きいので,他の部分の引力がいくら小さくても,それらの合力は非常に大きくて離そうとしても離れないのではないか?

 

これを不思議に思わないのか?

 

という疑問を投げかけたわけです。

まあ,万有引力の法則の引力;F=GMm/r2の距離rとしては物体の重心の間の距離rを代入するのが正しい法則である,という命題が成立するのが何故か?ということを証明したことがある人には自明なことだと思います。

 

この命題を,実際に素朴な質点間の万有引力の法則から体積積分などによって証明する際,引力ΔF=GΔMΔm/r2が無限大になることがないのは,右辺の分母r2がゼロ,または無限小のとき分子のGΔMΔmもゼロ,または無限小だからですね。

 

というわけで,答えは簡単なものです。

 

分母の単位は長さの2乗ですが,分子の単位は質量が体積に比例するので長さの6乗に比例します。

 

6乗割る2乗は4乗ですから,ΔFは距離の4乗の大きさの値です。

 

ですから,結果的に両物体間の距離rがゼロなら,その部分に働く引力の寄与はゼロなんですね。 

 

そして,ΔFを体積積分した結果としての合力,つまり実際にこの接触している物体間に働く引力(重力)Fについては,当然,その単位は長さの2乗に反比例するものになります。

 

このときの長さというのは,両物体の"平均距離=重心間の距離"で与えられますから,ゼロではなく有限な値になります。質量の積がゼロでなくても,これは全く問題なしです。

私自身の答えは今述べた通りで,授業でもそういう答でお茶を濁しましたが,もっと違う説明があれば教えて頂けるとありがたいですね。 

ちょっと週末の飲み疲れで頭が働かないので,軽い話ですみませんが,今日はこの程度にします。

  

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2006年8月13日 (日)

力学的エネルギー保存則

 普通のニュートン力学で質量mの物体が速度vで運動しているときの運動エネルギーTが何故T= (1/2)mv2なのか?とか,

 いわゆる力学的エネルギー保存の法則,すなわち,"(運動エネルギー+位置エネルギー)は摩擦などの位置だけでなく速度にも依存する散逸エネルギー(熱などに転化するエネルギー)がないなら常に時間的に一定である。"のは何故か

 などの問題を高校生向けに説明してみます。 

 まず,運動エネルギーというのは何か?というと,それは速度vで運動中の物体を止める,すなわち速度をゼロにするにはどれくらいの"仕事=力×距離"が必要なのか,というのがその意味ですね。

 質量mの物体が最初は速度vで走っていて,加速度aで加速されながら距離sを走った後の速度をv'とするとv'とvの関係はaとsだけを使ってどのように表わされるでしょうか?

 結果から書くと,v'
2-v2=2asとなります。これはs=(1/2)at2+vt,v'=v+atの2つめの式から,t=(v'-v)/aとなるので,これを1つめの式に代入すれば出てきます。

 v'
2-v2=2asの両辺に(1/2)mを掛けてみると,(1/2)mv'
2(1/2)mv2=masとなりますが,運動方程式から,ma=Fなので右辺はF×s,つまりこの物体に加えられた仕事になります。

 左辺は実はsだけ力を受けながら走ったときのこの物体の持つ運動エネルギーというものの増加分になっています。つまり得られた式は(運動エネルギーの増加分)=(もらった仕事)という式になっています。

また,v'=0 と置けば止めるのに必要な仕事は-mas=(1/2)mv2となりますから,最初に述べたように速度の向きとは逆向きの加速度a< 0(-mas>0 )でどのくらいの仕事をすれば止められるか,という意味になっています。

 後は,物体にこの仕事masを加えることが位置エネルギーというものの減少を表わすことがいえれば力学的エネルギーの保存法則も得られます。

 つまり,速度がvであったときの位置での位置エネルギーをU,sだけ走って速度がv'になった位置での位置エネルギーをU'と書くと,

 

mas=F×s=U-U'となるように,つまり,"位置が仕事Fsをしたために位置エネルギーがUからU'に減ってしまった。"というように位置エネルギーを定義すればいいと思います。

 そうすると,結局(1/2)mv'
2(1/2)mv2=U-U'となるので,移項すると,(1/2)mv'2+U'=(1/2)mv2+Uとなります。

 これは運動の最初と最後で(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化しない。つまり"力学的エネルギーが保存される"ことを述べています。

 ところで,位置エネルギーというものですが,これは例えば重力の加速度をgとすると,地上から高さhのところでは
位置エネルギーをU=mghという値で表わせばいいことがわかります。

 物が落下するとき,物が受ける力は下向きにF,加速度は下向きにgなのでF=mgですから,下向きにsだけ落下したとき物がもらう仕事はF×s=mgsです。

 

そこで,下向き速さの増加によりこれだけの量だけ運動エネルギーが増加することになります。

 

そして,sだけ落下したときには,確かに位置エネルギー:U=mghはmgsだけ減少しています。

 このように物体に加えた仕事だけ引き算されるように決められているのが位置エネルギーです。

 

高校の教科書などでは,逆に物をスピードをつけずにゆっくりと持ち上げるのに必要な手のする仕事が重力の位置エネルギーである,と書いてあるものが多いです。

 

(なぜなら,スピードがあると運動エネルギーが関係するからです。)

 

しかし,よく考えると,同じだけ落下したときに,重力がした仕事だけ減るものを重力の位置エネルギーと定義しても同じですね。

 ゆっくり持ち上げるときには,手が失うエネルギー(仕事)が位置エネルギーの増加になりますが,落下するときにはもちろん位置エネルギーの減少は運動エネルギーの増加になります。

 

(力学的エネルギーかどうかは別にして,とにかくどちらでも全エネルギーは保存されます。)

 また,バネなどはもとの状態より伸びたり,ちぢんだりした状態のほうが位置エネルギーが大きいと決めます。

 

そうすると,例えばバネの先に物をつけておくと伸びていたものが手をはなして縮みはじめると同時に位置エネルギーは減少をはじめ,運動エネルギーが作られて増加します。

 こうして運動エネルギーの増加が位置エネルギーの減少,運動エネルギーの減少が位置エネルギーの増加というようになっていれば,ともかく,それらの和である力学的エネルギーは保存されます。

 

ちなみにニュートン力学ではなくて特殊相対性理論の力学では物体のエネルギーはE=mc2/{1-(v/c)2}1/2(力を受けず自由に運動しているとき)ですが,速度がなくて静止しているとき:v=0 でも,Eはゼロではなくて,E=mc2となります。

 

したがって運動エネルギーはT=[mc2/{1-(v/c)2}1/2]ーmc2となります。

 

ニュートン力学でp=mvと書くと,運動方程式は実はma=Fではなく本当はmも含めた加速度でdp/dt=Fとなりますが,相対論力学でもp=mv/{1-(v/c)2}1/2と書くと運動方程式は同じようにdp/dt=Fと書けます。

 

そこでM=m/{1-(v/c)2}1/2と置けばp=Mvと書くことができてニュートン力学でのp=mvの形と同じになるのでよく速度が光速cに近づくと慣性質量が ∞ になる,などという昔からの誤まった解釈があります。

 

しかし,これは便宜上ニュートン力学と同じ扱いができるように見えるようにした相対論的質量などという質量もどきのM が∞ になるというわけです。

 

そもそも,特殊相対性理論とニュートンの理論とは異なるものです。

 

本来の質量であるいわゆる静止質量mが増えるわけではないので,運動エネルギーT=[mc2/{1-(v/c)2}1/2]ーmc2が増えて∞になると解釈すべきですね。

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2006年7月10日 (月)

フィボナッチ数列を解く

1,1,2,3,5,8,13,21,34.55,...,と続いていく数列をフィボナッチ(Fibonacci)数列といいます。

 
これは前の2つの数を加えたものが次の数になるという数列

であり,漸化式:an+2=an+1+an(n≧1,a11,a21)で定義

されます。

  
図形的には,環状列石(StoneーHenge;ストーンヘンジ)や生物

巻貝(アンモナイトetc.)などに見られるファイ螺旋,美術に

おいて有名な黄金分割の構成を示すものでもあります。

 
この数列のnによる一般項の表現を,高校生のときのような

方法で解いても面白味がないので,関数方程式の行列表現として

解いてみます。

  まあ結局は同じことで,内容は陳腐な試みですが。。

  
先に述べたようにフィボナッチ数列を定める漸化式は

n+2=an+1+an(n≧1,a11,a21)で与えられますが,

これは行列形式では次のように書けます。

  
すなわち,nt[an,an+1],P≡[1,2];1t[0,1],

2t[1,1]と置けば,フィボナッチ数列の漸化式はn+1=Pn

と書けます。

 

それ故,n=Pn-11となります。

 

ただし,上添字tは転置行列(transport matrix)を意味します。

 

例えばt[0,1]は行(横)ベクトル(1×2行列){0,1]を転置した

列(縦)ベクトル(2×1行列)を意味します。

ここで,固有値問題P=λを解きます。

 

これの解の固有値は固有値方程式:det(λE-P)=0 を解けば

得られますが,この方程式は謂わゆる数列の特性方程式:

λ2-λ-1=0 です。

 

この2次方程式の2つの根はλ±≡(1±√5)/2ですが,このλ±

が固有値問題P=λの固有値λの2つの値を与えます。

一方,固有値λ=λ±に属する固有ベクトルを±とすると定数倍を

別にして±t[1,λ±]と書けます。

 

これらにより,P±=λ±±(複号同順)が成立します。

そこで,2×2行列BをB≡[,]で定義すると,

PB=[λ+]です。

 

したがって,Λを固有値λ±を対角成分とする2×2対角行列

とすると,PB=BΛが成立します。

 

これから,Λ=B-1PB,P=BΛB-1であり,それ故,

Λn=B-1n,Pn=BΛn-1が成立します。

n=Pn-11に戻り,これの左からB-1を掛けると

-1n(B-1n-1)B-11=Λn-1-11を得ます。

 

1 t[1,1], B-11 t[1-λ,-1+λ]/√5

t,-λ]/√5ですから,B-1ntn,-λn]/√5 です。

以上から,nt[an,an+1]=Btn,-λn]/√5より,最終的に

n(λn-λn)/√5 が得られます。

(ネタがないからといって,16年前に予備校でやった計算を蒸し返して

いるなんて,我ながら全然進歩がないですね。) 

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2006年4月21日 (金)

パチンコ玉でわかる弾性衝突

 パチンコの玉というのは,とても硬くて反発係数がほぼ1(完全弾性衝突に近い)なので,衝突によって運動量だけでなくエネルギーもほぼ保存されるという性質があります。

 そこで机の上などに静止している1個のパチンコ球に同じパチンコ玉を1個転がして衝突させると,衝突した方の球が止まり,衝突された方の球が同じスピードで転がり出します。

 このことから,非常に多くのことがわかります。

 例えば,2個の球が接して止まっているときに,その右から1個の球を衝突させると,左側の1個だけが最初の衝突球と同じ速さで動き出し衝突した方の球は衝突と同時に右側の方の球にくっついたままでそれら2つの球は共に静止すると予想されます。

 頭の中だけで考えて,これが何故そうなるか?がわかりますか?

 もしも,接して静止していた標的の2個の球を少しだけ離して並べて置いたならどうなるかを考えると,誰でもこの答えがわかります。

 まず,右から1個の球を左に転がして右側の標的球に衝突させると,最初に述べた話から衝突させた球は止まって,衝突された方の1個だけが同じスピードで左に転がり出します。

 そして,新しく転がり出した球はすぐに,少し離れたもう1個の球に衝突して,再び衝突した方は止まって,衝突された方の最後の1個の標的球が同じスピードで転がり出すだろうことが容易に想像できるでしょう。

 最初の2個の標的球の間隔を,いくらでもゼロに近づけたとしても結果は全く同じはずなので最初に考えていた予想が説明できるのですね。

 このことから,仮に1個の標的が止まっているとき,接触した2個の球を転がして衝突させて,全部で3個になる場合も,衝突後は左側の2個だけがくっついたまま元の2個の球と同じ速さで転がり,右側に衝突した1個は急停止することになると予想されます。

 これも,衝突させる方の2個の球が少し離れていて1つずつ衝突すると想定すれば理解できるでしょう。

 このことを応用すれば,例えば3個の球が静止しているときに5個の球を衝突させると,球は入れ替わりますが5個が運動して3個が静止するという状態は変わらないだろう,ということまで予想できます。

 ことほど左様に,「物理学」というのは単に式を使って計算しなくても,頭で考えるだけで,色々なことがわかるという話を題材にした学問であるということが理解頂けると思います。

 ここまで予想した後に実際に実験で確かめてみるのも面白いでしょうね。

 ただ,ここで前提とした反発係数が1(完全弾性衝突)のときの1個と1個の衝突結果を式を使わずに説明するのはむずかしいでしょうね。

 (衝突結果は1通りしかなくて,前提とする衝突結果では確かに運動量もエネルギーも保存する完全弾性衝突になっているという程度でもいいですが。。。)

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2006年4月18日 (火)

基礎物理学講義⑤(力と運動3)

⑦いろいろな位置エネルギー

 

(ⅰ)重力の位置エネルギー

 

 鉛直上向きをz軸の正の向きとすると,質量mの物体に働く重力はz軸成分のみを持ち,それをFと書くとF=-mgである。ただしgは重力の加速度である。

 そこで,z=0 を地上として,それを重力の位置エネルギーの原点に取ると,重力の位置エネルギーはzの関数として(z)=-F(z-0)=mgzとなる。

 

 つまり,高さがhの位置での質量mの物体の有する重力の位置エネルギーはmghである。

(ⅱ)弾性力(ばね)の位置エネルギー

 ばねの伸びの向きをx軸の正の向きに取り,xだけ伸びたときに受ける力をFとすると,フックの法則(Hooke's law)によりF=-kxなる式が成立する。比例定数kは,ばね定数(弾性定数)と呼ばれる。

 

 そこで,ばねがxだけ伸びたときの位置エネルギーをU(x)とすると,-F=kxをx=0 を基準としてxまで積分した結果として(x)=(1/2)kx2なる。

 

 負の伸び(x<0),つまり縮みの場合でもxの長さが同じなら位置エネルギーは同じである。

(ⅲ)万有引力の位置エネルギー

 r=∞を基準として,万有引力:F=-GMm/r2に抵抗する斥力Fを位置rまで積分すると万有引力の位置エネルギーとして,(r)=-GMm/rが得られる。

 一般に宇宙の何もない空間の位置エネルギーはどこもゼロで,とこどころに星があると,そこだけ穴が開いたように引力のせいで位置ネルギーが負の値に落ち込んで谷のようになっている。

⑧いろいろな運動

 

(ⅰ)水平投射と斜方投射

 

  質量mの物体に外力として重力のみが働くとき,その物体が従う運動方程式は=mである。これはxを水平方向,yを鉛直方向で上向きを正とすると,成分表示でmax=0,may=-mgとなる。

 

 そこで,加速度は,水平方向がax=0,鉛直方向がay=-gであるから,物体の運動は水平方向には等速度運動,鉛直方向には等加速度運動である。

 

 水平方向から仰角θの方向に大きさv0の初速度0で物体が斜方に投射されたとすると,0=(v0cosθ,v0sinθ)である。

 投射された初期時刻をt=0 とすると,速度に対する時刻tにおける運動方程式の解は,速度の水平成分,鉛直成分についてそれぞれvx=v0cosθ,vy=v0sinθ-gtとなる。

 

 さら,投射された初期時刻t=0 における位置を(x,y)=(x0,y0)とすると,軌道に対する解,つまり時刻tにおける運動物体の位置座標はx=x0+vcosθt,y=y0+v0sinθt-(1/2)t2となる。

 

 ただし,θ=0 の斜方投射は特に水平投射である。これは,水平な地上付近ではy0>0 の高さのある場所から投げなければ不可能である。

 

 一方,時刻t=0 に地上y0=0 からものを投げ上げて,再びy=y0=0 の地上に落下する時刻はt=2v0sinθであり,物体の到達距離はx-x0=2v02sinθcosθ=2v02sin(2θ)となる。

 

 それ故,遠投では仰角θ=45度で投げたときに最も遠くへ届く。

(ⅱ)斜面上にある物体の運動

 

  質量mの物体が水平と角度θをなす斜面に置かれている場合には,重力mgと垂直効力Nの合力が,物体を斜面に平行にすべり落とす力に等しい。

 

 その力Fの大きさはmgsinθであり,また抗力Nの値はN=mgcosθである。もしも,摩擦があればその大きさはμNに等しい。

(ⅲ)等速円運動

 

 質量mの物体に長さrの糸をつけ,糸の他端0を中心として円運動させる。1秒間にωラジアンだけ回転するとき角速度がωであるという。

 

 このときの速さはv=rωである。等速円運動ではvは一定であるがその向きは1秒間にωだけ変わる。

 

 したがって,加速度の大きさはゼロではなくa=vωである。

 

 つまりa=rωであるから,等速円運動中の物体が受ける力は物体から中心0の向きを持ち,大きさはF=ma=maω2である。

 

 この力を,回転運動における向心力という。

(ⅳ)惑星の運動

 

 1610年ごろケプラーはティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)の長年にわる観測結果から,ケプラーの法則(Kepler's law)を発見した。

 Ⅰ.惑星の軌道は太陽を1つの頂点とする楕円である。

 Ⅱ.惑星と太陽を結ぶ線分が一定時間に通過する面積(面積速度)

 は一定である。

 Ⅲ.惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の長半径の3乗に比例する。

これは,ニュートンの万有引力と上で示した等速円運動の向心力が等しいと置けば導かれる法則である。(ただし,簡単のため,法則Ⅰにおいて一般の楕円軌道ではなくて特に円軌道を仮定した。)

(ⅴ)単振動

 

 半径Aの等速円運動をしている点QにX方向から平行光線を送り,Y軸上に射影してできる点Pの軌跡はY軸上の往復運動になる。

 Qの角速度をωとし,投射点Pは時刻t=0に原点からスタートしたとすればPの軌跡はy=Asin(ωt)となる。

 

 このように,変位yと時間tの関係がsin関数,またはcos関数になる運動を振動という。

 

 この運動でのPの速度はv=Aωcos(ωt)である。

 

 円運動の加速度は-Aω2であるが,単振動は円運動の射影なのでその加速度は-ω2y=-Aω2sin(ωt)である。

 

 よって,質量mの点Pの受ける力はF=-mω2yとなる。

 

 これは,ばねに結ばれた質量mの質点の受ける力Fに対して成立するフックの法則F=-kyに従う,質点の振動が速度ωの単振動に一致することを示している。

 

 ma=F=-ky=-mω2yより,k=mω2であり振動の周期Tは円運動の周期(2π/ω)に等しいので,T=2π√(m/k)である。

(ⅵ)みかけの力=慣性力,特に遠心力

 

 これについては省略する。あとで機会があればくわしく説明したい。

⑨剛体や流体に働く力

 

(ⅰ)剛体に働く力

 

 N個の質点からなる質点系の運動は,1つの質点の座標(位置ベクル)が3個の数で表されるので,3N個の質量×加速度を3N個の力と結びつける3N個の運動方程式で表わされる。

しかし,大体1gの固体物質は約1023個の莫大な個数の分子で構成されており,またそれらの間に働く力(基本的には電気的力)の性質もはっきりしてはいない。

 

1gでさえN~ 1023なので,一般に3Nというのは巨大な数となってまって,これらの運動方程式系を解くことはきわめてむずかしい。

 一方,剛体とは押しても引いても決して形が変形しない物体のことであり,それらを構成している質点系の2点間の距離はどんなに運動しても変化しないものである。

この性質のため,剛体の中の異なる2点の運動さえわかれば,残りのすべての点の運動は完全に決まってしまう。

 

つまり,運動を完全に記述するのに3N個の運動方程式は必要ではなく,6個の運動方程式がありさえすれば十分となる。

 

このように,多粒子から構成される力学系の運動を完全に記述するのに必要な運動方程式の数:3Nとか6をその系の自由度という。

 そこで,特に剛体の重心というものを定義してその運動のみを考えるとそれは3個の運動方程式となる。

 

 剛体ではあと3個の運動方程式は回転運動に関するものである。

 

 x,y,z軸のそれぞれのまわりの回転の角速度を自由度に選ぶことにより3の運動方程式が得られる。

 I=Σmi(xi2+yi2)をz軸のまわりの慣性モーメントという。(iは剛体を質点系と考えたときの各質点の番号である。)

 

 たとえば,z軸のまわりの回転の角速度をωとすると,(dω/dt)=(z軸のまわりの力のモーメント)という運動方程式が成り立つ。

よって,重心に働く力=(外力の合力)がゼロで,力のモーメントもゼロなら剛体系はつりあいの状態にあるといえる。

 

つりあいとは静止していることではなく,重心が一定速度で等速運動し,また地球のように剛体が一定角速度で回転するである。

ア)重心とは?

 

 N個の質点がそれぞれ質量mと位置ベクトルiを持つとき,質量をM=Σmiとして,重心の位置ベクトル:=(∑mii)/Mで定義する。

 

 特に重力mgのみがかかる状態では,重力による力のモーメントを求めることによって重心の位置を求めることができる。

(問)半径aの均質な円板がある。これから,円板の半径の中点を中心とする半径a/2の円板を切り取った残りの板の重心の位置を求めよ。

イ)力のモーメントとは?

 

   剛体のある支点からrの距離にある点に力が働くとき,その力のベクトルの腕となす向きの角度がθであるなら,l=rsinθとしてFl=Frsinθをその支点のまわりの力のモーメントという。

(ⅱ)圧力と浮力,および流体

 

 全ての物体は弾性(押したり引いたりする力に反発する性質)を持っている。その力:2つの物体の一方が他方に与える単位面積あたりの力を応力という。

応力には,"面に垂直にかかる力=法線応力(圧力,張力)"と"面に平行にかかる力=接線応力(せん断応力 or ずり(ずれ)応力)とにベクトル的には2種類に分けられる。

特に,ここでは圧力だけを考える。

 

面を垂直に押す力をF,その面の面積をSとすると,圧力PはP=F/Sで定義される。

 

圧力の単位は,Pa(パスカル)である。ただしPa=N/m2である。100Paのことを1hPa(ヘクトパスカル)ともいう。

流体とは,静止状態では圧力以外に応力を持たない連続体のことである。流体内では,接線応力を持つ性質のことを粘性というが,これは摩擦のことである。

 

つまり,この応力を粘性力というが,これは摩擦力のことである。

静止状態で,もし摩擦があると必ず流れ出してしまうので流体は静止状態では"摩擦=粘性"はない。しかし,運動中では一般に流体は"粘性=摩擦"を持っている。

 

運動中でも粘性がない理想的流体を完全流体(理想流体)いう。

ふつうの粘性のある流体のことは粘性流体という。

 

また圧力を受けても縮まない理想的な流体のことを非圧縮性流体という。地球上では水がその代表的な例である。

 

一方,圧力を受けて縮むふつうの流体のことを圧縮性流体という。

a)重力による大気の圧力,水の圧力

 

 地球上の空気は"地球の引力=重力"によって地球上に押さえつけられている。空気の地球表面付近の重さが大気圧,または単気圧である。

1気圧とは,たまたまトリチェリーが水銀柱の高さで気圧を測定したときにその高さが76cm=760mmであったので,そのときの気圧の大きさを1気圧と定めたものである。

 

1気圧は760mmHgであるともいわれるが,その大きさはHgの度が13.6g/cm3,あるいは13.6×103kg/m3なので,重力加速度g=9.8m/s2を考慮して13.6×103×0.76×9.8=約1013hPaとなる。

一方,1気圧は一般には1033.6g重/cm2であって1cm2の面積に約1kg重の力がかかると考えてよい。

水や油は,その密度ρが一定の近似的に非圧縮性流体である。

 

特に水は密度がρ=1g/cm3,海水は密度がρ=1.03g/cm3である。

 

面積S深さhの直方体の体積はV­=Shであり,その非圧縮性流体の重さはF=ρVg=ρShgであるから,深さhでのそれによる圧力はP=F/S=ρghである。これが水や油の重力による圧力である。

  水の場合,深さ10mの位置の水圧は1×103×10×9.8=980hPaである,つまり約1気圧に相当する。

 

 海水でもだいたい同じである。

 

 そこで深さ10mの海中にいる場合,受ける圧力は"気圧+水圧=約2気圧"で空気中にいるよりも2倍の圧力を受けることになる。

b)パスカルの原理

 

 これは水や油の深さが同じ位置では同じ圧力であるという性質を述べた原理であり,単にF=PSであるというのがその内容である。

 

 つまり,圧力Pが一定なら受ける力Fは面積の大きさに比例するということである。

c)浮力

 

 浮力は,物体が流体中にある場合,その上面に受ける圧力より深い位置にある下面に受ける圧力の方が大きいため,総体として上向きに力を受けるその力のことをいう。

別の言葉でいうなら,流体中で物体の部分をくり抜いて,そこに同じ形の流体を流し込んだ場合でも,残りの流体はそれを支えて静止したまま動かないはずなので,元の物体があっても残りの流体は丁度そこに流し込んだ仮想流体を支えるのと同じ上向きの力を及ぼしていると考えられることで説明できる。

 結論として,物体はそれと同じ体積の流体の重さと同じだけの浮力を受けるということになる。これをアルキメデスの原理(Archimedes principle)という。

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2006年4月17日 (月)

基礎物理学講義④(力と運動2)

②重力と万有引力

(ⅰ)運動方程式 

 加速度を質量と力で表わした式を運動方程式という。つまり,mである。

(ⅱ)万有引力の法則 

 あらゆる物体間には,その互いの質量の積に比例し,その間の距離の2乗に反比例する引力が働く。

 これをニュートンの発見した万有引力の法則という。

 接触していない2つの物体の間に力が働くというのは驚くべきことである。

 電気力や磁気力なども万有引力よりはるかに大きい力としてこうした遠隔作用をおよぼす。

 これらの力の原因は,現時点では,もう少し常識的に理解しやすい近接作用と解釈されている。

 万有引力の法則を式であらわすと,F=GMm/r2である。

 ただし,m,Mは2つの物体の質量(kg),rはその距離(m),Gはその比例定数で万有引力定数と呼ばれる。

 Gは,およそ6.673×10-11Nm2/kg2である。

(ⅲ)重力とは?

 地球の半径をR(m)とする。

 地上付近の物体は,まるで地球の全質量がその中心の一点に集まったかのような引力を中心に向かって受ける。

 この地上付近の物体が受ける万有引力を重力という。地上の場合,この力は地球の中心に向かっている。

 力の大きさは,F=GMm/R2だから運動方程式は,ma=GMm/R2でありGM/R2をgとおくと,落下の加速度aが,a=gとなるので,この加速度 g(m/s2)を重力の加速度という。

 地球が平らに思えるほど地球半径Rに比べて低い高さの地上付近では,重力落下の加速度gはほとんど一定と近似してよく,だいたい9,8m/s2である。

③ばねの力

 ばねを引っ張って伸ばすと,その力に比例してばねが伸びる。

 一方が固定されたばねを押すと,その力に比例してばねがちぢむ。

 このとき,ばねが手を引いたり押したりする力をとすると,それは手がばねに加える力と向きが反対である。つまり手の作用に対する反作用である。

 そこで,ばねの伸びる向きを伸びxの正の向きにとると,ばねが手におよぼす力の向きはxとは逆向きである。

 それ故,比例定数をkとして F=-kxと書ける。これをフック(Hook)の法則という。

 kをばね定数,または,ばねの力が弾性力であることから弾性定数という。

④運動方程式の解としての直線運動

(ⅰ)運動方程式とは?

 既に述べたように質量がmの質点の運動方程式は/m または,mである。

 あるいは微小時間Δtの間の速度の微小変化をΔとするとΔ/Δt=/m,これが運動方程式である。

(ⅱ)地球重力と落体の運動

 ア)自由落下運動

 ma=mgより,a=gである。

 t=0で,初速度vが v=v0=0で,初期の鉛直下向きの位置座標がz=0 であったとすると,時刻 t では,v=gt ,z=(1/2)gt2 ,v2=2gz となる。イ)真上への投げ上げ運動 ma=-mg t=0 ,で地面z=0から初速v=v0で真上に投げ上げたときの運動 v=v0-gt,z=v0t-(1/2)gt2である。

(ⅲ)摩擦(まさつ)と運動

 ア)静止摩擦力 

 物体が水平な机上に静かにおかれているとき,物体は静止しつづける。

 物体には重力と"机からの反作用=垂直抗力"Nが働いてつりあっている。

 これに水平な(横向きの)力 f を加えてみる。

 それでも物体が動かない場合これには机から物体に逆向きの水平な打ち消す力:F=- f が働いているにちがいない。この力Fを静止摩擦力という。

  f を次第に大きくしていっても摩擦力Fの大きさは決して f より大きくなることはなくいつも f と同じ大きさである。これが摩擦力の特徴である。

 しかし f がある値を越えると急に物体は動き出す。このときの f の大きさをF0と書く。この摩擦力を最大静止摩擦力という。

 F0は机に押しつける力の大きさ,つまり,"机から受ける力=垂直抗力"Nに比例する。これの比例定数をμと書き静止摩擦係数という。

 これには単位はない。比の値だからである。そして,F0=μNである。

イ) 動摩擦力(運動摩擦力)

 運動しているときにも,物体にはほぼ一定の摩擦力F’が働く。これを動摩擦力という。

 F’も垂直抗力Nに比例し,その比例定数μ’は動摩擦係数とよばれる。F’=μ’Nである。

 常にμ’<μである。逆ならおかしな矛盾がおきます。考えてみてください。

⑤運動量

(ⅰ)力積と運動量

 ニュートン(Newton)の運動の第2法則:ma=Fを書き下すと,Δt のあいだに力Fが働いて速度が v1からv2になった場合は,m(v2-v1)/Δt=F と近似的に書き表わせる。つまり,mv2-mv1=FΔt である。

 質量と速度ベクトルの積 mv をその物質の持つ運動量という。

 運動量は観測者によって,いろいろと異なる量である。

 たとえば旅客機の中で歩いている人の運動量は旅客機の中の人が観測すると小さいが,地上の人が観測すると非常に大きい。これは後に説明するエネルギーについても同じである。

 ある時刻からある時刻までの間の力Fは,その間に時刻ごとに変わる。

 時刻を t として力はF( t )という関数として書いてよい。

 このとき,力積とはその時間の力と時刻の積和である。すなわち,力積=ΣF( t )Δt,つまり,厳密には積分∫F( t )d t のことを力積というのである。

 先の運動の第2法則を書きなおすと,m22-m11=ΣFΔtとなる。ここでは,質量も時刻と共にm1からm2に変化すると想定している。(これが正しい第2法則である。)

 そして,(運動量の増加分)=(その間に受けた力積)である。特に力Fが時刻 t1から t2の間一定ならば,(受けた力積)=F(t2-t1)となる。

(ⅱ)運動量保存の法則

 ニュートンの運動の第3法則(作用・反作用の法則)によると,衝突した2つの物体は衝突しているごく短い時間ではあるが,互いに働く力は大きさ等しく向きが反対である。

 2つの物体1と2が衝突するとする。その質量を,それぞれm1,m2とし,衝突前の速度を v1,v2, 衝突後の速度をv1’,v2’とする。

 衝突時間をΔt とし,その間に1が2におよぼす力をF12,2が1におよぼす力をF21とする。作用反作用の法則によって,F21=-F12である。

 一方,1,2のそれぞれについてm11’-m11=F21Δt , m22’-m22=F12Δt である。21Δt+F12Δt=0 なので両方の式を加えるとm11’-m11+m22’-m22=0 となる。

 移項すると,結局,m11+m22=m11’+m22’が得られる。

 これが運動量保存の法則である。

⑥力学的エネルギーとその保存法則

(ⅰ)仕事 

 物体に一定の力を加えて,そののかかる向きに距離xだけ移動させたとき,この力は物体にW=Fx だけの仕事(力学的仕事)をしたという。

 1Nの力で1m移動したとき1J(1ジュール)の仕事をしたという。つまりJ=Nmである。

 の力を加えても移動方向xがの向きとθだけの角度をなすときは,仕事はW=Fxcosθとなる。摩擦力は必ず負の仕事をする。それはなぜか?

(ⅱ)仕事率 単位時間(1秒間)にする仕事の割合を仕事率という。

(ⅲ)運動エネルギー 

 止まっていた物体が速度になったとき,摩擦などの抵抗がないなら,それまでにされた総仕事量を物体が今持っている運動エネルギーであるという。

 つまり,加速度が になるように =mの力を受けながら距離 x を運動しその間に速度が 0 から まで変化したとすると,v2-0=2ax であるから,(1/2)mv2=max=Fx である。

 よって速度 ,質量mの物体の持つ運動エネルギーは(1/2)mv2 である。

 定義から, (運動エネルギーの増加分)=(加えられた仕事量)が成り立つ。

つまり,座標x1からx2まで移動する間に力 =m を受けて速度が 1から 2 に変化したとすると v22-v12=2a (x2-x1)であるから (1/2) mv22-(1/2) mv12=F(x2-x1)が成立する。

(ⅳ)位置エネルギーと力学的エネルギーの保存法則

 ある物体を,ある特定の固定した位置 xからある位置 x まで(速度ゼロのままでゆっくりと)持ってこようとしたとき,そのために必要な仕事をその物体の x における位置エネルギーという。

 この物体を速度ゼロで x0から x までもってくるとき加えるべき力を(-)とすると,その位置エネルギーはが一定なら,(-F) (x-x0) である。

 なぜ,でなく(-)かというと,はほっておいても自然に物体にかかる力で,(-)は,それの速度ゼロにしておこうとする力だからである。

 位置エネルギーは,U(x)=(-F)(x-x0)と表されるから,(1/2)mv22-(1/2)mv12=U(x1)-U(x2),つまり,(1/2)mv12+U(x1)=(1/2)mv22+U(x2)である。

 言い換えると,(運動エネルギー)+(位置エネルギー)=(常に一定)となる。

(ⅴ)力学的エネルギーが保存しない場合

 基準点,OからPまで物体を自然に働く力に抵抗してゆっくりと運んだときに,OQPという道筋とOQ’Pという異なる道筋で必要な仕事が異なる場合には点Pの位置エネルギーがPの位置だけで決まらず道筋で変わることになるので,位置エネルギーというものが存在できない。

 このような場合には,もちろん力学的エネルギーは保存しない。

 つまり,OQPQOと1回転して元のOに戻ったときに要した仕事量がゼロでない場合は位置エネルギーは定義できないし,力学的エネルギーは保存しない。

 たとえば道筋のどこかで摩擦力が働く場所が少しでもあれば摩擦力は必ず運動の向きと逆向きに働くから,負の仕事しかしないのでどちら向きに回転しても仕事はゼロにはならず,この場合力学的エネルギーは保存しない。

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2006年4月15日 (土)

基礎物理学講義③(力と運動1)

1.運動学と力学

 運動学とは物体の変位と速度と加速度,運動方向などを調べるものである。つまり,物体の運動する道筋を時間の関数として幾何学的に表わす方法で,言わば数学的なものである。

 一方,力学とは,物体の運動と"外部環境=力"との関係を調べるものである。つまり"数学的軌道=幾何学的な運動学"を現実の物理的作用と関連付けるものである。

(1)運動学

①変位-物体がある位置からある位置への運動をするときの移動経路を変位という。

ⅰ)位置(空間の点)は,われわれの3次元空間では3つの数字で決めることができる。それを座標という。

 たとえば(1,-2,7)とかが位置を示す点の座標である。この場合,1,-2,7を,それぞれx座標,y座標,z座標という。

 特に,座標(0,0,0)で与えられる点を原点という。ただし原点は宇宙空間のどこにとってもよい。(空間の一様性)

 また,xyz座標軸は右手系の3つの直交軸であれば,これらをどの向きに回転された方向にとろうと自由である。(空間の等方性)

ⅱ)変位は,実際にはある時間のあいだに起こる。

 時間を小さくきざんでいくと経路は非常に短い直線分を結んだ折れ線とみなすことができる。 そして,ある1つの小さい直線分をABと書いたとする。

 Aの座標が(xA,yA,zA)でありBの座標が(xB,yB,zB)のとき,この変位を(xB-xA,yB-yA,zB-zA)で表わしてこれをABとベクトル記号で表わす。

②速度-速さとその向きを総称して速度という。

ⅰ)平均速度とはある地点Aからある地点Bまでの直線変位をその移動にかかった時間で割ったものである。

 (平均速度)=AB/(移動時間)である。ただし,ベクトルABを時間Δtで割るとは,新しいベクトル=(vx,vy,vz)=((xB-xA)/Δt,(yB-yA)/Δt,(zB-zA)/Δt)をつくることを意味する。

ⅱ)Δtを無限に小さくしてゼロに近づけて極限を取ることを"微分する"というが,このときの速度のことをその瞬間の速度または単に速度という。

③加速度-速度の変化率のこと

 変位がベクトルなので,それを時間で微分した速度もベクトルである。その速度ベクトルも一般には一定ではなくある時間のうちには変化する。

 ある時間Δtの間の速度の変化分ΔをΔtで割ったもの=Δ/Δtを平均加速度という。

 Δt を ゼロ にしたときの=Δ/Δtを速度の微分係数といい(瞬間)加速度と呼ぶ。加速度もベクトルである。

(2)力学

①運動の法則(ニュートンの運動の3法則)

ⅰ)第1法則(慣性の法則)

 "物体Aがあらゆる他の物体から無限に離れていて全く影響を受けない場合,その物体Aは等速度運動(等速直線運動)をする。"

 これは実は奥が深い

ⅱ)第2法則(運動の法則)

 "物体の加速度 は受ける力 に比例し質量mに反比例する。"

 すなわち,=k/m,あるいは =k'm, ただしk,k'は比例定数である。

 ただし,の単位をN(ニュートン;Newton)=kgm/s2に取ればkもk’も1になるので記号k,k'は不要である。

 この法則(ⅱ)によれば,=0 は =0 を意味するため,自動的に法則(ⅰ)が得られるので,(ⅰ)は不要であるように見えるが果たしてそうだろうか?

 ⅲ)第3法則(作用・反作用の法則)

 "2つの物体A,Bがあるとき,AがBから力を受けたとき,逆にBはAによって大きさが等しく向きが正反対の力を受ける。"

 実は,法則(ⅱ)と(ⅲ)を一緒にして初めて質量mの定義が可能となる。

 力とは何か? ←  これが不明なまま法則が先にできてしまった。

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2006年4月10日 (月)

基礎物理学講義②(波と音と光)

 「波,特に音と光」

 (1)波(wave)とは? 

 流れのない池に小石を投げ込むと,小石が落ちた点を中心として波紋が周囲に広がってゆく。

 しかし,このとき水面に浮かんでいた木の葉があったとしてもそれはその場所で上下に振動するだけで波紋とともに移動することはない。

 つまり,この波紋は水そのものが広がっているのではなく単に水の振動が伝わって広がっていることがわかる。

 このように振動などが周囲に伝わっていく現象を波または波動という。

 波の数学的定義は次のとおりである。

 ある時刻 t=0 に y= f (x)という形の曲線で表わされるパルスがあったとして,このパルスが時刻 t には元の位置よりも右にvtだけ平行移動されたとすると,その関数形は y=f (x-vt)となる。

 このように,速度vで形が伝わってゆく現象を波というのである。

 特に,(x-vt) を波の位相と呼び,v を位相速度という。

 また,この曲線形を波形と呼ぶ。

 波には力学的な波(たとえば音)と力学的でない波(たとえば光=電磁波)がある。

 その大きな違いは,力学的な波というのは必ず媒質が必要であるが,"電磁波=光波"は真空中でも存在し,媒質は必要ないことである。

 かつては「電磁波=光波」も力学で説明しようとしたため,媒質としてエーテルという架空の物質を想定していた。

 力学的な波は"媒質の圧力によって伝わる波=縦波"と媒質のずれ応力=まさつで伝わる波=横波"とこれらの組み合わせによる波があり,圧力やまさつ応力などの弾性により媒質が振動することによって伝わってゆくので弾性波とも呼ばれる。

 したがって,「力学的な波=弾性波」の一定の位相速度 v とは媒質に対する相対速度であり,観測者に対して媒質の風が吹いていれば,観測者にとっての位相速度は媒質に対する位相速度に風速を代数的に加えたものとなる。

 これに対して媒質のない光の位相速度は媒質とは無関係な各観測者に対する速度である。

(2)正弦波と波長,振動数、波数

 特に波の形が,正弦関数 y=f (x)=Asinkxの形をしている場合:y=f (x-vt)=Asin{k(x-vt)} を正弦波という。

 このとき波の隣り合う山と山の距離を波長(wave length)といいλで表わす。これはkλ=2πであることを示しているのでk=2π/λである。kあるいは1/λを波数(wave number)という。

 また,ある座標がxの固定位置で,1秒間に(山+谷)が現われる回数を振動数(frequency)といい f で表わす。

 たとえば,x=0 では y=-Asinkvt となり,周期をTとすると kvT=2πで, f =1/Tなので, f =kv/(2π)=v/λと書ける。

 そこでy = sin {2π( x /λ-f t)} と書ける。

(3)波の干渉とうなり,重ね合わせの原理

 通常のバラバラに移動している波でも,それらがある点をある時刻に通過するとき,全体として合成された波は結局それらを単にベクトル的に加えたものとなる。これを「重ね合わせの原理」という。

 一般に,バラバラに移動している波を合成してもそれらは振動する向きも進行方向もバラバラであるから目立った現象は見られない。

 これに対して,進行方向も振動する方向も同じであるが位相だけが違うような波達を合成すると,例えば振幅が同一である2つの波が半波長だけ位相がずれていれば完全に波は打ち消しあってしまう。

 つまり,光なら真っ暗になり音なら無音になる。

 逆に位相がまったくずれていないなら,振幅が2倍に強調される。光なら明るくなり,音なら2倍の音量になる。

 こうした現象を波の干渉という。

 干渉する波同士を"コヒーレント=可干渉"な波といい,そうでない波をインコヒーレントな波という。

 通常の飛んでいる光達はほとんどインコヒーレントで,だからこそ,影がない限り明るさはどこでも同じであって,まばらにはならないのである。

 もしも,部屋の中の光達の位相が,完全に統計的に逆相関,すなわち,相関係数が-1 なら,元々バラバラの光達なので部屋は真っ暗になるが,そうはならないのは統計的に無相関(相関係数がゼロ)がほぼ成り立っているためである。

 一方,1つの光源から出た2つ以上の光線などは,コヒーレントであって干渉しやすい。

 干渉を数式で表わすと次のようになる。

 y1=Asin(kx-ωt+α)で表わされる波と,y2=Asin(kx-ωt+β)で表わされる波とを重ね合わせると,y1 + y2=2Acos{(α-β)/2}sin{kx-ωt+(α+β)/2}となるので,たとえばα=βなら振幅は2Aになり,α-β=±πなら振幅はゼロになる。

 一方,振動数 f1 と f2 がわずかに異なる2つの波,つまり角振動数ω1とω2がわずかに異なる場合には,y1=Asin(kx-ω1t+α)で表わされる波とy2=Asin(kx-ω2t+β)で表わされる波とを重ね合わせることになり,これは干渉ではなく,うなりという現象になる。

 y1 + y2=2Acos{(ω1-ω2) t/2+(α-β)/2}sin{kx-(ω1+ω2)t/2+(α+β)/2}となって,Δf≡f1-f2 とおけば振幅項が 2Acos{πΔf t +(α-β)/2}となるので,振幅の絶対値が周期 (1/Δf ) で振動することになる。

 これをうなりという。

 つまり,うなりの振動数は元の2つの波の振動数の差に等しい。

 電波で信号を送るときには信号が低周波のうなりに相当し,高周波の方は搬送波と呼ばれる。

 合成波の中から"うなり成分=信号"を取り出して,不要な搬送波を取り除くことを検波という。

(4)ホイヘンスの原理

 波の山同士など、位相が同じ点をすべてつないでできる面を波面という。波面が平面である波を平面波といい球面である波を球面波という。

 点から発生した波は,その位相速度があらゆる方向について同一であるから球面波となるはずである。これに対して大きさのある物体から出た波は,いろいろな波面を持つことになる。

 理想的に無限大の面から出た波が平面波になる考えられる。

 ホイヘンス(Huygence)は空間を伝わる波を次のように説明した。

 波が波面を形成したのち次の波面を形成するには,"今の波面の各点から無数の微小球面波が出てそれを素元波と呼び,それらの重なったものつまり包絡面が新しい波面となってゆく"というシステムになっている,としたのである。これを「ホイヘンスの原理」という。

(5)波の反射と屈折

 「ホイヘンスの原理」から,波が媒質Ⅰから媒質Ⅱに入射するとき,その境界面で発生した素元波がⅠの側に進むものを反射波,Ⅱの側に進むものを屈折波といいこれらの現象を反射,屈折という。

 一般に,媒質Ⅰと媒質Ⅱでは波の位相速度は異なると考えられるが,ⅠとⅡで異なるのは空間の性質であって時間が異なるわけではない。

 そこで速度の異なる原因は振動数ではなく波長である。異なるのは波長であって振動数は屈折によっては変化しない。

 反射では速度,波長も変化しないので「入射角=反射角」である。これを反射の法則という。 

 一方,屈折では入射角をi,屈折角をrとしⅠ,Ⅱでの波の位相速度を,それぞれv1,v2とすると,n=sini/sinr=v1/v2=λ12=n12と書ける。

    

 このn≡n12を媒質Ⅰに対する媒質Ⅱの(相対)屈折率という。そしてn=sini/sinrという性質を「スネル(Snell)の屈折の法則」という。

(6)音のドプラー効果(Doppler effect)

 静止している観測者に近づいてくる電車の警笛は電車自身の警笛よりも高い音(振動数の大きい音)に聞こえ通過して遠ざかる電車の警笛は逆に低い音(振動数の小さい音)に聞こえる。

 これを音のドプラー効果という。これは次のように説明できる。

 音の周期を T=1/f, 音速をcとする。さらにある時刻に音源と静止観測者の距離をLとし,近づく音源の速さをvとすると,その時刻に発せられた音の山はL/cの後に観測者に届き,次の山は T+(L-vT)/cの後に観測者に届く。

 よって観測者の感じる周期はT'=T-(vT/c)=[(c-v)/c]Tとなり,その振動数は, f'=(1/T')=f[c/(c-v)] となる。さらに観測者も速度uで音源に近づくならば,分子の音速の方が(c+u)となるので,振動数は f"=f[(c+u)/(c-v)] となるのである。

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2006年4月 8日 (土)

基礎物理学講義①(温度と熱)

 私の池袋での専門学校での講義録です。


 (※平成8年度から6年間,約50名のクラス3つで,毎週各1コマ

 90分の専門学校レベルの教養の物理を講義していました。)

 
  「温度と熱」


 (1)はじめに。。。 

 
 本講のテーマとしては、熱とは何か?,そして温度とは何か?ということ

 を中心に考えていく。


 (2)熱平衡と経験温度

 
 物体Aと物体Bを長時間接触しておくと,これらはやがて熱的に同じ一定

 の状態に落ち着く。この状態に落ち着くことを熱平衡という。

 
 AとBが熱平衡にあり,BとCが熱平衡にあるならば,AとCも熱平衡にある。

 これを熱力学第0法則という。

 

 熱平衡にあるかどうかを決める指標が温度,すなわち経験温度である。

 
 温度計は温度と物体の膨張が比例するという性質と熱力学第0法則

 を利用している。


 つまり,Bという温度計をAとCにそれぞれ長時間接触することにより,

 AとCを直接接触することなく,AとCが熱平衡にあることを知るのである。


 経験温度を決めるには,まず,1気圧中での"水の融点(氷点,または凝固点

 ともいう)=氷と水の境目の温度"を0 ℃とする。


 次に,1気圧中での水の沸点,つまり,水が気化して水と水蒸気が共存

 するとき,"飽和水蒸気圧がちょうど周囲の1気圧と一致するようになる

 境目=沸騰する状態"を水の沸点と呼び,このときの温度を100℃とする。


 そして,アルコールや水銀などの温度計の内部物体の,水の氷点と沸点

 の間の膨張長さを100等分して目盛で表わしたものを摂氏(Celsius)温度

 という。


 (3)熱膨張と絶対温度


 ①固体と液体の熱膨張


 これは熱のせいで,固体や液体を構成している"分子の運動=特に振動

 などの往復運動"が激しくなり,構成分子間の平均距離が増大する結果

 として体積が増加する現象のことをいう。


 一般に近似的に体積Vの固体,液体の体積増加分ΔVはその温度上昇分

 Δt に比例する。その比例定数βを体膨脹率という。


 つまりΔV=βVΔtであってV+ΔV=V(1+βΔt)である。


  固体や線状の容器に入った液体の体積膨脹による長さの変化を

  特に線膨脹という。

 
 長さLの物体の膨脹した長さをΔL,線膨脹率をαとすると

  ΔL=αLΔtでありL+ΔL=L(1+αΔt)である。


  このときβ=3αが成り立つ。
その証明は次のとおりである。


  (証明) 縦,横,高さが全てLである物体の体積はV=L3で,

  V+ΔV=(L+ΔL)3であるから,1+βΔt=(1+αΔt)3

  =1+3αΔt+3α2(Δt)2+α3Δ(Δt)3である。


  ところがαは非常に小さいので,Δtが小さいとき3α2(Δt)2

  α3(Δt)33αΔtに比べてはるかに小さくて無視できる。

  そこで近似的に1+βΔt=1+3αΔt,,またはβ=3αである

  としてよい。  (証明終わり)


 ②気体の熱膨張 


 これは気体を構成する気体分子が熱によって激しく運動し,その平均

 分子行路が長くなることで体積が増加する現象を意味する。


 一般に,一定の体積の容器に入れておくと温度上昇と共に体積変化

 はしない。その代わりに圧力が増加するので圧力を熱膨張前と同じ

 にするには体積を増加させた容器に入れ換えなければならない。


 しかし,一定の気圧のもとで自由に容器の大きさが変動するようにして

 おけば体積は自由に膨脹することができる。


 一般に希薄気体の熱膨張率は 0 ℃では気圧によらず,また気体の

 種類にもよらず,常にβ=1/273.15であることがわかっている。

 つまり,V+ΔV=V(1+βΔt)=V(1+Δt/273.15)

 =V(273.15+Δt)/273.15である。


  0 ℃での気体の体積VをV0としt℃での体積V+ΔVを単にVと書くと,

  V0/273.15=V/(273.15+t)となる。


  そこで,摂氏温度が t℃のとき,T≡273.15+t を絶対温度と呼べば,

   0 ℃では絶対温度をT0≡273.15として,V0/T0=V/Tが成り立つ。
  気体の体積は一定気圧のもとでは絶対温度に比例するといえる。


  このことは,T=0 絶対零度ではV=0 となって気体の体積は理論

  上ゼロになることになる。


 もちろん実在気体ではそのような温度ではもはや気体ではなく固体

 や液体になっているので,そうした体積と温度の比例関係はもはや

 成り立たない。


 しかし,そうした相の転移を無視した理想的な気体を想定すると,

 温度は"絶対零度=-273.15℃"が最低温度で,通常の現象では理論

 的にそれより下の温度は存在しないことになる。


  一方,温度は上の方には限界はない。なお,絶対温度の単位は

 K(ケルヴィン;Kelvin)とする。


 (4)熱,熱量,比熱 


 ①熱の本質,熱量と熱の仕事当量


 熱とは何か?。。。
大昔は火を起こすには木を木でこする摩擦に

 頼っていた。

 
  火がつくには,現在ではその木がある発火温度に達すればよいことが

 わかっている。そして温度が上がるということは,その物体が熱を持つ

 ということで達せられる。

 
 しかし,19世紀には熱がある物体からある物体に移るのは熱素という

 物質が移動するとか,物が燃えるのは"フロギストン(phlogiston)=燃素"

 によるという思想があり,また熱が伝わるのは,その熱素が流れるから

 だと考えられた時期もあった。

 
 しかし,そうした熱素なるものが存在するとしても,それは保存しないで

 摩擦などによって発生したり,自然に冷えて消滅したりすることになる。

 
 そうしたことから,むしろ熱というのは何らかの力学的仕事によって生起

 する実体ではないか?と考えられるようになり,そうした得体の知れない

 熱素などというものの存在を仮定する必要はないと考えられるようにな

 った。


 そうした時期にジュール(Joule)は水の入った容器と攪拌する装置を

 使って水をかき混ぜる仕事量に等しいだけ水が熱をもらって温度が

 上がるのだと仮定して熱の仕事当量というものを測定した。これを

 ジュールの実験という。


 すなわち,1気圧の下で水1gが14.5℃から15.5℃まで1度上がるとき

 に受け熱,これを熱量という言葉で表わし,その熱量を1cal(カロリー)

 というが,これが仕事でいえば4.19J(ジュール)に相当することを測定し

 たのである。

 
 この4.19J/calのことを熱の仕事当量という。

 
 以後,この仮定に基づいて,力学的仕事,つまり摩擦などによって失

 われる力学的エネルギー損失が全て熱に変わるとすれば,依然と

 して(総エネルギー)=(熱エネルギー+力学的エネルギー)が保存

 するという法則,"総エネルギーは保存する"という法則の成立が

 確認された。


 そのため,熱の本質はエネルギーそのものであると考えられるよう

 になり,それから後に,何の矛盾も見つかっていない。

 
 しかし,仕事は全部100%が熱に変わることが可能なことはジュールの

 実験以来の事実であるが,熱の方は100%が仕事に変わるわけではなく

 その一部は捨てられなければならない。

 
  これは,もちろん1サイクル(cycle)での話であり,サイクルでないなら

 100%仕事に変わることはある。 (※サイクルとは系がある熱と仕事

 を受ける過程を経た後,結局,自身と周囲に何の変化も起こさない元

 の状態に戻るような熱力学過程でのことである。)


このことから考えて,熱には熱としての特有の意味があり,単純に画一化して

エネルギーというだけでは割り切れないところがある。


②熱量の保存,比熱,熱容量

 
 ある物理的過程で力学的仕事が関係することなく,「全体として

 熱エネルギーが逃げることがない=断熱されている」なら,熱量

 はその過程で保存される。

 
 そして,たとえば高温の物体Aと低温の物体Bを断熱された環境の

 中で接触させておくと,やがてAとBは熱平衡に達してある一定の温度

 に落ち着く。

 
  このとき,全体の「熱量=熱エネルギー」は保存されるので,

 「Aの失った熱量=Bのもらった熱量」という法則が成り立つ。

 
 これを熱量の保存の法則という。
また熱エネルギーの保存の法則

 ともいう。

 
 具体的には熱量1calは「水の1gの温度1度の上昇」で定義されて

 いるので,水以外の物質については1gを1度上げるのに必要な熱量

 が水に比較してどのくらいかを調べる必要がある。

 
 その意味で物質1gについて温度を1度上げるのに必要な熱量

 のことを比熱というが,比とはいうものの単なる数値ではなくcal/(g℃)

 という単位を持っている。そして,比熱は普通cという文字で記述される。

 
 一般に金属の比熱は水に比べてかなり小さく,金属は小さい熱を

 与えてもすぐに温度が上がるのが特徴である。

 
 また,「質量m(g)の物体を1度上げるのに必要な熱量

 =w(cal/℃)その物体の持つ熱容量という。w=mcであること

 は明らかである。

このwは,その物体が熱的には水のw(g)に相当することを

表わしている。

 
たとえば,炭素なら12g,水素なら2gの物質量は共に

アボガドロ数(Avogadro-number)と呼ばれる 6.02×1023個の

分子(炭素ならC,水素ならH2)から成り立っている。

 
このアボガドロ数個の分子からできている物体量を1グラム

分子,または1モル(mol)と呼ぶ。そして特に1モルの物質の

熱容量をモル比熱と呼ぶ。

 
通常の金属固体のモル比熱は金属の種類によらず,3R

=約25(J/mol・K)=約6(cal/mol・K)である。

 

これは実験でも確かめられているが理論的に求めることもできる。

 すなわち,Dulog-Petit(デュロン・プティ)の法則として知られている。

 R~8.31(J/mol・K)は気体定数である。


 (5)理想気体のボイル・シャルルの法則と気体の分子運動論

 
 ①ボイルの法則(Boyle)


 希薄気体では一定温度で気体の体積は圧力の大きさに反比例する。

 つまり,温度一定のもとでは圧力Pが2倍になると体積Vは半分=1/2

 になる。。PV=一定である。これをボイルの法則という。

 ②シャルル(ゲイリュサック)の法則(Charles(Gay-Lussac)


 希薄気体では,一定圧力の場合気体の体積は絶対温度に比例する。

 つまり圧力一定のもとでは温度(絶対温度)Tが2倍になると体積Vも

 2倍になる。

 すなわち, V/T=一定である。

 これをシャルル(ゲイリュサック)の法則という。


③ボイル・シャルル(ボイル・ゲイリュサック)の法則と理想気体


 ボイルの法則とシャルルの法則を合わせてボイル・シャルルの法則

 という。 これは,PV/T=一定という形に書くことができる。

 
 現実の気体は,この法則とは微妙にずれているが,特にこの法則に従う

 気体を理想気体という。

 このときのPV/Tの一定値は気体定数と呼ばれ,Rであらわされる。

 この気体定数の値はR=8.3145(J/mol・K)である。

 
 つまり1モルの気体に対してはPV/T=RあるいはPV=RTと書ける。

 
 しかし,一般に容器に入っている気体は1モルとは限らないので,

 その気体がnモルであるとすると,その体積Vのnモルの気体の

 1モル当たりの体積はV/nとなる。

 よって,PV/n=RTであるから,PV=nRTと書くことができる。

 
 このように圧力と体積とを温度と結びつける式のことを

 状態方程式といい,特に,PV=nRTを理想気体の状態方程式

 という。

 
④気体分子運動論による理想気体の状態方程式の解釈 

 
 理想気体はたくさんの分子が摩擦熱を失うことなく反発係数1

 で分子同士や容器の壁と完全弾性衝突をしながら,ばらばらに

 運動している状態と考えることができる。

 
 そこで,壁に及ぼす圧力は気体分子が壁に衝突することによる壁に

 与える力積の総和であると考えることができる。 

 
 模型として1辺の長さLの立方体容器:体積V=L3の中にN個の

 気体分子がある場合を考える。

 気体分子1個の質量をmとし,その速度を=(v,vy,vz)とすると,

 x方向に垂直な片方の壁に分子1個が1回の完全弾性衝突で与える

 力積は2mvxである。

 1個の分子は1秒間に, v/(2L)回衝突するから,"全N分子の1秒

 当たりの壁に与える力積=壁に与える力"は,Nmvx2/Lとなる。

 圧力Pは,単位面積当たりの"壁に与える力"であるから,壁の面積

 S=L2で割ってP=Nmvx2/L3=Nmvx2/Vと表わせる。

 つまり,PV=Nmvx2である。

 
 ところで分子1個の速さは, 2=vx2+vy2+vz2と三平方の定理で

 表わされ,3つの方向は対等であるから、速さの2乗の全分子の

 平均を<v2>で表わすと,x方向の平均は<vx2>=(1/3)<v2

 と考えてよい。

 したがって,PV=Nmvx2とは,実はPV=Nm<vx2=(1/3)Nm<v2>,

 結局,PV=(2/3)N<(1/2)mv2> と書き直すことができる。

<(1/2)mv2>は分子1個のエネルギー,つまり,この場合は位置

 エネルギーはゼロなので運動エネルギーである。

 PV=(2/3)N<(1/2)mv2>=nRTであるから,

 <(1/2)mv2>=(3/2)nRT/Nである。

 

特に,アボガドロ数をN0とするとN=nN0より,<(1/2)mv2

=(3/2)(R/N0)Tとなる。

そこで,分子1個当たりの気体定数をR/N0=kBと書くことにして,これを

ボルツマン定数(Boltzmann constant)と呼べば,<(1/2)mv2>=(3/2)kB

と表わすことができる。


こうして,気体分子運動論によれば,理想気体は気体の種類によらず

分子1個の運動エネルギーが(3/2)kBTであると解釈される。


(※しかし,正しくは後述するように圧力Pに寄与するのは,分子の全運動

エネルギーではなくて,内部の回転や振動のエネルギーを除く並進運動

(重心運動)のエネルギーだけである。)


(※なお,理想気体は力を受けず自由に運動するという近似なので粒子間

の位置エネルギーはゼロである。

後述する内部エネルギーは分子の(運動エネルギー+位置エネルギー)

であるが,この位置エネルギーは分子間の外力のそれではなく,分子内

原子などの内部構成粒子の内力の位置エネルギーなので原子間の振動

のように,理想気体でも存在する。)


(6)熱力学第1法則=エネルギー保存の法則

①内部エネルギー 


物体を構成する全分子の持つ
"力学的エネルギー

=(運動エネルギー+位置エネルギー)"の総和をその物体の持つ

内部エネルギーという。

内部エネルギーの大きさは,一般に物体の絶対温度Tに比例する。


単原子分子理想気体では並進運動の自由度3しかないため,nモル

持つ内部エネルギーUは気体定数をRとしてU=(3/2)nRTである。

また,2原子分子理想気体では,軸を持つ回転運動の自由度2が

加わるため,U=(5/2)nRTである。


理想気体というのは,ボイル・シャルルの法則と同時に等温で体積

変化による内部エネルギーの変化がないという法則,


すなわち,内部エネルギーがTだけの関数であるという法則を満足

する。 


また,固体では位置エネルギーもあるため,U=3nRTである。

位置エネルギーがある場合には,内部エネルギーはTだけでなく

体積Vにもよる場合がある。

②熱力学第1法則


特別なことがない限り,物体を加熱したり,圧縮したりすれば,その

内部エネルギーは増加する。


熱力学第1法則とは,物体の内部エネルギーUの増加分ΔUが,
外部

から与えられた熱量Qと外部から加えられた仕事Wの和に等しいと

いう法則である。すなわち,ΔU=Q+Wである。


気体の場合,体積がΔVだけ増加するような仕事は,気体自身の

圧力Pが外部に対してなす仕事なので,気体の方が外部によって

なされる仕事は,W=-PΔVとなる。故にΔU=Q-PΔVである。


③気体の熱力学変化と比熱


a)等温変化

 
温度が変化しない理想気体の熱力学過程を等温変化という。


 等温変化では,PV=一定の変化であり,Tが変化しないので

 ΔU=0 である。

 つまり,Q+W=0 であるから,Q=-Wである。等温,つまりΔT=0 な

 ので比熱Q/ΔTは無限大である。


b)定積変化 


体積が変化しない,ΔV=0 の理想気体の過程を定積変化という。

W=-PΔV=0  なので,ΔU=Qである。


単原子分子理想気体では,ΔTの変化に対してQ=ΔU=(3/2)nRΔT

なので,定積比熱は(3/2)nRであり定積モル比熱はCv=(3/2)Rである。

2原子分子理想気体では,定積モル比熱はCv=(5/2)Rである。


c)定圧変化


 圧力一定のもとでの理想気体の過程を定圧変化という。

ΔU=Q+W=Q-PΔVであり,PV=nRTであってPが一定だから,

PΔV=nRΔTである。


故に定圧変化では,TのΔTの上昇に対して,Q=ΔU+PΔV

=ΔU+nRΔTである。ΔU=nCvΔTなので,Q=n(Cv+R)ΔT

となる。 


定圧モル比熱をCpとすればQ=nCpΔTであるから
p=Cv+R

(マイヤー(Mayer)の法則)が成立する。γ≡Cp/Cvを比熱比という。


d) 断熱変化

外界と熱の出入りがまったくない過程を断熱変化という。


Q= 0 なのでΔU=W=-PΔVである。


もちろん,この場合もPV=nRTの法則は成立しているが,これ以外に

PVγ=一定,あるいはTVγ-1=一定というポアソン(Poisson)の法則

も成り立つ。


(証明) ΔU=-PΔVは,nCvΔT=-PΔVを意味する。


 PV=nRTなのでP=nRT/Vより,CvΔT/T+RΔV/V= 0 となる。

 これを積分すると,CvlogT+RlogV=一定: TVR/Cv=一定となる。

そして,R/Cv=(Cp-Cv)/Cv=γ-1により,これはTVγ-1=一定である。

さらに,T=PV/(nR)であるから,PVγ=一定とも書ける。(証明終わり)


①サイクル(cycle)


 サイクルとは最初と最後で自分自身に何の物理的変化も残さない過程,

 またはその過程を行なわせる機関をいう。


②トムソン(Thomson)の原理


一様温度の1つの熱源から熱を奪って,それに等しい仕事をするサイクル

は存在しない。


③クラウジウス(Clausius)の原理


低温の物体から,高温の物体に熱を移動するだけのサイクルは存在しない。


④トムソンの原理とクラウジウスの原理は全く等価である。 


すなわち,もし②が誤りなら高熱源1からQ1なる熱量を奪って,それに

等しいWの仕事をするサイクルC1がある。


一方,その仕事W=Q1によって低熱源2からQ2の熱を奪って

高熱源1にQ2+W=Q2+Q1の熱を与えるサイクルC2が存在する

から,サイクルC1+C2は結局低熱源2から高熱源1にQ2なる熱を与

える以外何の変化もない1つのサイクルである。


これは③が誤りであるという結論に導く。


同様に③が誤りなら②が誤りということも示すことができる。


⑤ 熱力学第2法則


②と③の原理を熱力学第2法則,または第2種永久機関を作ることが

不可能である法則という。 


⑥カルノーサイクル(Carnot-cycle)とエントロピー


nモルの理想気体を温度T1の高熱源に接触させながら体積V1

からV2に等温膨脹させ,次にV2からV3に断熱膨張させる。

低温T2になったところで,熱源に接触させてV3からV4まで等温圧縮

最後にV4からV1まで断熱圧縮させる。

このサイクルをカルノーサイクルという。


このとき外界は最初,熱Q1=-W1=nRT1log (V2/V1)を獲得し,

次にはQ2=0 で,かつ -W2=nR(T1-T2)の仕事をされる。


次に,-Q3=W3=nRT2log (V4/V3)の熱を獲得し,最後にQ4=0

でW4=nR(T1-T2)の仕事を受ける。

12γ-1=T23γ-1,かつT11γ-1=T24γ-1に注意すれば,

このサイクルで系が外界にした仕事の合計は,W=-W1-W3

=nR(T1-T2)log (V2/V1)であることがわかる。


他方,"はじめに外界が系からもらった熱量=高温熱源が失った

熱量"はQ1=nRT1log (V2/V1)である。


そこで,効率はη=W/Q1=(T1-T2)/T1であることになる。

このように,熱Q1をもらっても,そのうちQ3の分は捨てられなければ

ならない。これが第2法則の本質である。

η=(Q1-Q3)/Q1=(T1-T2)/T1であるから,結局,カルノーサイクル

では1/T1=Q3/T2であることがわかる。


もし,カルノーでないサイクルで高温からQ1を取って低温にQ3を移し

仕事Wをしても,W=Q1-Q3である。


しかし,このときカルノー逆サイクルで低温からQ3を取ってこれを

高温移すとしたときに必要な仕事をW'とすれば,高温はQ'=Q3+W'

の熱をもらう。


すると,結局,高温が失った熱はQ1-Q'=W-W'である。

このW-W'はサイクルで熱が全て仕事に変わった場合だから,

トムソンの原理によればこれは決して正ではない。


つまりW-W'≦0 である。

故に,Q1≦Q'( W≦W' )であり,効率η'=W'/Q'については

η=W/Q1より,必ずη≦η'であることになる。

これは,η=1-Q3/Q1でη'=1-Q3/Q'で,Q1≦Q'であるからである。


つまり,カルノーサイクルのような可逆サイクルでは効率が最大になる。


こうして,カルノーサイクルにより,温度の定義が,1つには最大効率の

熱量比という形で明らかとなったわけである。

そして,一般に可逆サイクルではQ1/T1-Q3/T3=0 であるから,常に

もらう熱量Qを正とし,失う熱量を負とすればサイクル全体では

ΣQ/T=0 となることがわかる。


これを,細分化すれば,可逆過程ではΔS=ΔQ/Tなる式で定義

されるSはサイクルで保存する量で,これはエントロピーと名付けて

定義できる。


もしも,不可逆サイクルなら,サイクル合計ではΣΔQ/T<0 となる

からサイクルでない微小過程で考えると,ΔQ/T<ΔSとなる。


また,もし考えている系が孤立系:つまり断熱で外界と熱も仕事も

やりとりしないならばΔQ=0 であるから,0=ΔQ/T≦ΔSより

一般にΔS≧0 となる。


すなわち「孤立系ではエントロピーは減少することはない。」という法則

が成り立つ。これをエントロピー増大の法則という。

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2006年4月 5日 (水)

サルにもわかる相対性理論⑥

 コーヒー・ブレイクとして関連する話題を述べます。

①粒子と波

 高速走行している電車の内部で前方へボールを投げるのを,電車の外で静止している観測者が見ると,そのボールの1秒間の走行距離は,(電車の走行距離)+(ボール単独の走行距離)となるため,観測されるボールの速さは(電車の速さ)+(電車内でのボールの速さ)となります。

 ところが,その電車が前から秒速340mの音速で警笛を鳴らしたとしても,その音の速さは電車の外で空気中に静止している観測者にとって,やはり秒速340mのままで電車の速さにはまったく関係ありません。(風速ゼロと仮定)

 これがボールのような粒子と音のような波の1つの大きな違いです。

 では秒速340mという音の速さは,測る人によって違わないのでしょうか?

 それは,もちろん違います。

 これについては粒子でも波でもまったく同じで,飛んでくるものを追いかけるときは速さは小さく,飛んでくるものに向かっていくときは速さは大きくなります。

 (例外は光,電波です。)

 では測る人には関係ない値,例えば音速が秒速340mというのは何に対する速さなんでしょうか?

 これは実は音の波というのは媒質(電車の警笛の場合は空気)の振動が,それの弾性(圧力,粘性力など)によって伝わっていくものですから,「媒質=空気に対して静止している人の測る音波の速さ」ということになります。

 風が吹くと媒質が運動するので,観測者が風に関係なく止まっていると,観測される音速は「秒速340mに風速を代数的に加えたもの」となります。

(ただし,音速340m/sは摂氏15度での静止空気中でのおおよその値です。)

 これに対し,"光=電波"も波なのですが,これは電気振動で具体的に何か空気のような媒質が振動するわけではないのです。

 昔の人は無理に振動する”媒質=エーテル”というものがあると考えて,光という波の振動の媒質を説明しようとして苦労しています。

 もちろん,真空の宇宙空間に"エーテル"があったとしても別にかまいませんが,電気振動はそれとは無関係です。

 光というものは媒質を持たず真空中を伝わる波であるわけです。

 では,光速が秒速30万kmであるといわれていますが,これが媒質に対する速さでないのなら何に対する速さなんだろうか?という疑問がおきます。

 これは,アインシュタインの相対性理論とは何なのかということを知っている人にはすでに答は明らかです。

②地球と空気

 地球は秒速約500mで自転しています。

 もしも地球上の空気が自転する地球地面とすれちがうだけで,地球に引きずられないなら,いつも風速500mくらいの風が吹いてて立ってることもできません。

 でも幸いなことに,地球の地面にぴったり付いている空気は,ほとんど自転する地球と同じスピードで運動しているので,風が吹いたとしても普通はせいぜい秒速10m以内なのですね。

 これは地球と風のあいだに大きな摩擦が働いている結果です。地球は空気の層をひきずって運動しているのです。

 また,空気はどうして,地球表面から逃げずいつまでも留まっているのでしょう。

 それは地球に引力(重力)があるからです。

 重力はわたしたちが地上で浮きあがらずに立ったり,歩いたりできる原因ですが,空気も実は重力があるから地上にへばりついているわけです。

 重力がなくなったら体が浮いていいな。とか思っていると空気もなくなってしまいますから大変です。

 地面に近い方が空気が濃くて,高い山の上にいくと空気が薄くなるのは,空気の層が地球に引かれて上から下に重しのように重なっていて下の方にいくほど圧縮されているからです。

 月でも,地球の6分の1の引力があるのに,空気がないのは,単に地球と異なり偶然にでも大量の空気と遭遇することがなかったためでしょう。

 もし,仮に月に空気があったとしても,引力が地球よりはるかに小さいので,その層はかなり薄いものにはなるでしょうが。。。。

 ③ドプラー効果

 電車が警笛を鳴らしながら自分に近づいてくるときには音が高くなり,遠ざかっていくときには音が低くなるというのは経験したことがあるでしょう。

 これは近づくときには,音の振動数が大きくなり(同時に波長は小さくなり)遠ざかるときには音の振動数が小さくなる(同時に波長は大きくなる)ことを意味し,ドプラー効果という現象として良く知られています。

 これに対し光にももちろんドプラー効果は観測されています。

 光については,遠くの星から飛んでくる光は,その星が自分自身で独立に運動する速さが比較的大きくない限り,

 星は宇宙の膨張と共に地球から遠ざかっていくため,波長が長くなり振動数が小さくなって人の目には「光の波長が長い方にかたよる赤方偏移」を起こすことが観測され,ドプラー効果がその原因として知られています。

 赤方偏移といっても「光が赤くなる」と誤解しないようにしてください。

 たとえば「もともと青色の光であったものが黄色に観測される」というような現象のことです。

 光速は不変であるならドプラー効果は起こらないから光速不変は誤りという誤解もありますが,ドプラー効果は光源の速度には関係しますが観測する光速の大きさには関係ありません。

ここで音のドプラー現象について簡単に説明しましょう。

 ある音源があって,それがある一定の周期T秒で1回ずつ,音を発するとします。

 そして媒質に対する一定の音速をcとします。また,その音を発する音源は,ある速さvで自分のほうに近づいてくるとします。

 1回音がしてそれが速さcで観測者に聞こえたとします。

 次にT秒の後に2番目の音が発せられます。

 最初に観測者が音を聞いて,やはりcの速度で届く2番目の音を聞くまでの時間はT秒より長いでしょうか,それとも短いでしょうか?

 答えは「T秒より短い」ですね。なぜなら音の走る距離は最初の音より2番目の音のほうが短いからです。

 というわけで,近づいてくる音はその1回あたりの周期が短くなります。つまり振動数が大きくなるということです。

 波長は音速を振動数で割ったものですが,音速は音源の近づく速さに関係なく同じですから波長は短くなります。

 音源が遠ざかるときはこの逆です。

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