103. 電磁気学・光学

2019年8月 8日 (木)

光源(電球・蛍光灯・LED)(1)(電球)

前回は素朴な疑問としてエアコン,冷蔵庫などの

主要システムである熱交換器に関わる話をしました。

 

今回は,まず,世間ではエジソンが創ったと思われている

けれど,最初に発明したのはスワンという人物でエジソンは

フィラメントとして適切な物質の竹などを用いて実用化した

とされている電灯,白熱電球の話から始めて,蛍光管からLED

(発光ダイオード;ight emitting diode)まで,回路の電流に

より光(可視周波数帯の電磁波)が発生する原理を考察します。

 

今回の第1弾は,単純な電灯,電球です。

全体のストーリーは,次の通りです。

 

電気が流れて回転して戻ってくる回路という

モノを考えます。電気の通り道の役割をする導線

で回路をつくり,途中にロスに対抗して恒常的に

電流を流す電流源としてエネルギーを供給する

電池のような,「起電力」を持つ機器を挿入した

電気回路を想定して考察します。

 

 ただの電気の通り道として,は銅のように電気抵抗

が小さくエネルギーロスの少ない材質の金属導線を

使用し,逆に「ジュール熱」の発生を促して,それを

有用な機器として利用したい部分には,その用途に

応じて,ニクロムやタングステンなど抵抗が大きい

材質の導線をつなぎます。

 

発生した熱は,それを完全断熱の理想的保温容器

に閉じ込めない限り,伝導,対流.放射(輻射)によって

次第に逃散してゆきます。

特に,熱を得て有限な温度を持つどんな物体からも,

黒体輻射のプランク分布に比例した,波長-強度対応

で,多かれ少なかれ,あらゆる波長(周波数)の電磁波

を放射します。

この色-温度関係が黒体でない一般物質でも黒体

輻射のそれに形としては比例する,という性質が

「キルヒホッフの法則」として知られています。

 

放射される電磁波(光子)は波長が短かい方から

(周波数が高い=エネルギー大きい方から)順に

γ線,X線,紫外線,可視光線,赤外線.etc.という

名称が付いていますが,そのうち灯りとしての

使用目的で,可視光線が多く放射されることが

期待される抵抗導線部分を,外から見えるように

透明な壁で内部が真空な容器や希ガスの入った

容器を被せたモノが,(白熱)電球というわけです。

 

抵抗導線を閉じ込めても電磁波は内壁で完全反射

れない限り,透過して出てきますからね。

 

これだけのストーリーを説明するために,本ブログ

過去記事を再編集して「電気伝導まとめ(1),(2)」では.

「オームの法則」と「ジュール熱」発生のメカニズム

の詳細を,そして「黒体輻射(キルヒホッフの法則)」など

の過去記事を修正,再掲載して羅列しました。

これで全体説明の準備が完了したというわけです。

 

最終的には,平衡が保持されない放置の状態では

高温の物体からは(低温の物体でも)熱が逃げていくの

ですが,熱が失われてゆく手段には伝導,対流,放射しか

なくて,真空中や気体中に接触しないで逃げていく形態

は熱輻射(電磁波放射)の形だけです。

 

そして,それは先にも述べたように振動数(波長)に

よっては,赤外線,可視光,紫外線,X線と呼ばれる光線

を全て分布として含んでいるため,可視光も出ています

から,後は便利で効率よく利用できる機器に整えるだけ

です。

 

 

(※ 余談ですが空気や水の中で対流が起きるのは,

地球の重力(引力)のせいですね。一般に空気も水

も温度が高い方が軽く,低いほうが重いので,重力

落下で混合されるのは,高度が上の温度よりも下

の温度が高いとき,(気圧で言えば上空が高気圧で

低空の地上付近が低気圧のとき)でないと,対流は

生じません。

 

しかも,上の温度が低く,下の温度が高くても

温度差が小さい場合は,空気や水自体は静止して

いて,熱伝導だけの熱移動で,平衡状態を保つのに十分

なので対流は起きず,気象の意味では大気が安定した

状態にあるといわれます。

 逆に,地上が熱せられたりして,上下の温度差が大きく

なると,熱伝導だけでは熱移動が不十分になり,熱を持つ

空気や水自身も移動する必要性が生じて対流が起きると

いうわけです。

 

温度差がかなり大きいと急激な下降気流が起きます。

しかし,一方的に下降し続けるということはないので,下降

気流と上昇気流は,必ずセットで起こり,これが大気不安定

なときの対流現象です。

(※本ブログ過去記事「ベナール対流」参照)

 

水の場合,昔は岡山県の田舎の実家では五右衛門風呂

をマキで炊いて沸かしていたのですが,偶の一番風呂だと

上面が熱くても,その下は水のまま,ということもあって

まず,かき回して人工対流を起こしてから入ったのが昭和

30年頃のなつかしい思い出です。(以上,余談終わり※),

 

さて,全体のストーリーよりも少しだけ詳しく本題

を要約します。

 

まず,電気回路に電気を流すと,一般に導線部分には,

それが超伝導体でない限り,ゼロでない電気抵抗という

ものがあり,その大きさをオーム(Ω)という単位でRと

書くとき,回路に挿入した直流起電力,または,抵抗を

挿入した部分の端子間電圧(電位差)をV(ボルト)とし

そこを流れる電流をI(アンペア)とすればV=IR

という関係式が成立する,という「オームの法則」が

あります。

 

「電気伝導まとめ(1),(2)」では2006年6月の一連

の電気伝導の過去記事:「電気伝導(オームの法則)」

「電気伝導(つづき1)(ジュール熱)」,および,

「電気伝導(つづき2)(衝突の正体)」を再整理して,

アップし直しました。

 

「オームの法則」では,ブラウン運動などを規定する

確率過程で現われる,ラン・ジュバン(Langevin)方程式

m(d/dt)=-γ(t)という方程式が

ありますが,これのアナロジー的理論を展開しました。

 

この方程式は,水中で花粉が複雑な運動をする

のを,花粉の質量をm,速度をとして運動方程式

を立てたものです。

 

(-γv)は水の粘性抵抗を表わしたものですが

これは,水などの流体中に,ある半径aの小球がある

と仮定すると,巨視的に連続体と見なされた流体の

流れが遅いときには,これを変形速度が応力に比例

する,というNewton流体で近似して,接線応力のため

ηを粘性率として,小球は6πηaという値で評価

されるに比例した抵抗力を受けるという,

「ストークス(Stokes)の法則」の表現です。

(※ ↑2007年7/27,7/28の本ブログの過去記事:

「遅い粘性流(1),(2)(Stokes近似)」参照※)

 

また,水とは独立に花粉だけが受ける外力があれば,

それをFとします。

 

そして,普通量の水は微視的には莫大な個数の水分子

の集まりですから,花粉がそれらの水分子と絶えず

衝突することで受けると考えられる,我々には

確率的にしか評価できないと思われる乱雑な水の

分子運動由来の力をR(t)と書くとき,Newtonの

運動方程式は,巨視的見地,微視的見地を折衷した形

で,先述のLangevin方程式:

m(d/dt)=―γ(t)

で与えられると考えたわけです。

 

これは花粉に限らず,流体分子と比較できる

サイズの微粒子が水や空気などの流体中で複雑

なジグザグ運動をするのを,発見した人物の名を

とって「ブラウン運動」と呼びますが,これは

時間的に確率が変動する確率過程という現象の

解析に用いられる方程式です。

 

今の電荷の運動では,対象媒体の金属は常温では固体

であり,流体ではないですが,微視的には格子状に並ぶ

金属原子の集まりですから,金属原子の束縛から解放

された電子たちが陽イオンの海を流れるという描像で

流体中の微粒子のアナロジーとして考えます。,

 

電場がある場合の金属固体中の電荷eの電子

なら,金属格子の運動に起因するランダムな力は

平均的にはゼロで(t)=0であり,また,=e

です。(※Eは電場です。)

 

そして,巨視的な変形速度が応力に比例する粘生抵抗:

-γは,原子の束縛から解放された電子が古典論的

には陽イオンのイオン芯と衝突するとされ,量子論的

にはイオンの格子振動波のフォノンと衝突して,その

過程での電子の平均の自由運動時間を緩和時間;τと

定義して導入すれば.(-γv)は(-mv/τ)に

置き換えられて,先のLangevin方程式は

md/dt=eE-m/τと変更されるわけです。

 

これを満たすイオンと電子流の系が十分時間が

経って平衡に達し,電流が一定:d/dt=0と

なった場合には,e=τe2E/mとなり抵抗部分

の全体積:(LS)(断面積S,長さL)の中にN個の

可動電子が電荷eで存在すれば,数密度:

n=N/(LS)を用いて.電流密度は=nev

=nτe2/m.であり,これをJ=σE,

σ=ne2τ/mと書けば,σは電気伝導率です。

電流Iは,S=σSEですから.R=L/(σS)

と置けば,V=ELで,I=V/R,つまり,V=IRとなり,

σ=ne2τ/mからR=mL/(nSe2τ)と,電気抵抗:

Rの値が評価されます。

こうした形でオームの法則:V=IRが成立

することが説明されます。

 

そして,次の「ジュール熱」の項では,

まず,ポテンシャル(電位)V()(ボルト)を導入

して,電気力をeE=-∇(eV) と書きます。

 

「オームの法則」の項で与えた運動方程式は,

md/dt+∇(eV)=-m/τとなり,両辺

を乗じた結果,エネルギーの時間発展方程式:

(d/dt){(m2/2)+eV}=-m2/τを

得ます。これは,つまり,力学的エネルギー:

{(m2/2)+eV}が抵抗の存在のために保存

されず,単位時間に電子1個当り,(m2/τ)の

率で損失(ロス:散逸)があることを意味します。

 

これは,電流が一定の平衡に達してd/dt=0

となってもd(eV)/dt=-m2/τという形で

位置エネルギーの損失という形で残ります。

 

力学的エネルギー損失率の(m2/τ)は,N個の

電子では,Nm2/τですが,電場が一定でその方向

がx軸正なら,V()=-Ex+(定数)ですから抵抗

端子間の電位差を単にV(定数)とすればV=ELです。

 

また,前と同様,数密度;n=N/(LS)で電流密度J

=nev=σE(σ=ne2τ/m)と書くことが

できて,電流は,I=JS=nSev=σSE,Vです。

 

それ故,IV=(nSev)(EL)=NevEですが,

=τe2/mより,逆に,E=mv/(eτ)なので

IV=NevE=Nmv2/τを得ます。

 

右辺は,丁度先に評価した単位時間当りの

全エネルギー損失に一致していますから,結局,

このP=IVが.単位時間に抵抗部分から散逸

してゆくエネルギーを意味します。

 

これは,もちろん,力学的エネルギーではなく,

熱というモノを発生させるエネルギーですから,

「ジュール熱」と呼ばれるものです。また,

いわゆる「消費電力(Power)」とも呼ばれるモノで

単位はワット(W=J/sec)です。

 

そして,次の「衝突の正体」の項目では,古典的には

電気抵抗の原因となる緩和時間τを生じさせる衝突

散乱が,キャリアである金属内の自由電子近似の電子

が陽イオン芯と衝突であろうと推測されたモノが,

 

実は,格子状に並ぶ陽イオンの周期的ポテンシャルに

弱く束縛された「ブロッホ電子」が,静止したイオンの

格子群ではなく,量子的にはフォノンと呼ばれる運動

する格子:格子振動波にり進路を曲げられる散乱の結果

であることを述べました。

 

 その過程で,固体物理学では,こちらの方がより重要

かも知れない,格子ポテンシャルの周期性が原因で,

ブロッホ電子の取りえるエネルギー準位がバンド構造

を持ち,結果,固体が絶縁体,半導体,導体の電気的性質

をとるメカニズムを説いた「バンド理論」の概略に

ついても記述しました。

 

そして,また,超流動,超伝導現象の主因となるらしい

「ボーズ・アインシュタイン凝縮」の話や緩和時間の

定義を与える「ボルツマン方程式」についての過去記事

を復習しました。

 

「黒体輻射とキルヒホッフの法則」では,有限な空洞

(箱)の中にある絶対温度Tの物体からは,熱平衡では強度

の周波数(波長)への対応が,黒体輻射のプランクの分布に

比例した形で電磁波が放射(輻射)されることを述べました。

熱平衡になくても,温度が安定していれば,ほぼ同じです。

 

今回はこれで終わりです。

 

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2019年7月29日 (月)

再掲記事「黒体輻射記事の補足」

 前再掲記事の短かい数学的補足で,2006年7/22の

「黒体輻射(空洞輻射)と空洞の形状」を追加します。

※ 以下再掲記事です。

以前の記事で「空洞輻射の波数の分布が空洞の形状

には依らない。」と述べたことがありましたが,このこと

を証明してみようと思います。

 

一般に,自由電磁波の電場Eに着目すると,それは横波

であり,真空中のマクスウェル(Maxwell)方程式」を満足

します。

 

そして,まずは空洞を導体と考えて,その形が一辺がL

の立方体である,と理想化しておきます。

 

その境界条件は,境界での接線成分が 0 である必要

がありますから電場=(Exyz)は,sinやcos関数

を用いてEx=Ex(t)cos(kxx)sin(kyy)sin(kzz) etc.

と表わされ,波数ベクトル:=((kx ky kz)の成分は,

x=mπ/L,ky=nπ/L,kz=pπ/L

(m,n,p=0,1,2,3...) となります。

 

つまり波数ベクトルkは(π/L)を格子定数とする

格子点のみを許容値とするので,そのkの分布と

しては負でない整数m,n,pのみをとる8分球を

とり,kを連続化して横波の2つの自由度を考慮

すると,半径kとk+dkの間の波数kの個数が,

(1/8){(4πk2dk)/(π/L)3}×2

=(πk2dk)(V/π3) となります。

 

そして,この最終形では立方体であったという仮定

は必要なく,容積Vが有限でありさえすればいいと

いう形になっています。しかし,本当に立方体という

形状は関係ないのでしょうか?

 

簡単のために,3次元でなく2次元の空洞なるもの

を仮定し立方体を正方形に変更しても同様であると

すると,kx=mπ/L,ky=nπ/L(m,n=0,1,2,.)

であり,半径kとk+dkの間の波数kの個数は.

(1/4){(2πkdk)/(π/L)2}×2

=(πkdk)(S/π2)と体積Vの代わりに面積Sで

表わした形になります。

 

そうして,正方形ではなくて一般の単連結な閉曲線

で囲まれた任意の領域を“空洞”と考え,その面積がS

の場合も,波数の分布がやはり,(πkdk)(S/π2)と

なることを証明したい,と考えるわけです。

 

まず.この閉曲線を(f(t).g(t))(0 ≦t≦1)

(f(0),g(0)=(f(1),g(1))で定義します。

f,gは微分可能でtによる微分係数を,

f’=df/dt、g’=dg/dtとすると,

これらはtの連続関数であるとします。

 

この閉曲線を,

「一辺Lの正方形を反時計回りに1回転する閉曲線」

に変換する写像を汎関数:F,Gによって.

(u,v)=(F(f,g ),G(f,g ))とします。

 

微小変換はF,Gのヤコービ行列を,

J=(∂(F,G)/∂(f,g)) とすれば

(du,dv)=J(df,dg )となりますから,

外微分を使って,dS=df∧dg

=(1/|J|)du∧dvを得ます。

(※|J|はJの行列式です。)

 

電場の波数ベクトルkの境界条件はの閉曲線上

の接線成分がゼロ,=kxdf+kdg=0

ですから,これは(kx,ky)(df,dg)= 0 と

書けます。

したがって,(kx,ky)J-1(du,dv)=0 である

ことから,(kx’,ky’)=(kx,ky)J-1とおけば.

(kx’,ky’)は一辺Lの正方形のu-v空間の波数

ベクトル:k’の分布をするので.先の考察によって,

dkx’∧ dky’=(π/L)2dm∧dnの分布形

となるはずです。dm,dnは個数空間の微分で

dm∧dnを1つの格子,つまり1と同一視します。

 

よって,dkx∧dky=|J|dkx’∧ dky

=|J|(π/L)2dm∧dnです。

(kx’,ky’)の空間は格子間隔(π/L)のu-v

空間の逆格子空間としてよいわけで.この式は(kx,ky)

の空間が,f-g空間の逆格子空間でその格子定数の

平方が(π/L)2|J|=π2/(L2|J|-1) である

と考えるべきことを示しています。

ところでL2=∫du∧dvであり,

∫|J|-1du∧dv=∫df∧dg=Sですから

Lの任意性を考慮して,

dkx∧dky=(π2/S)dm∧dn,

 

すなわち,半径kとk+dkの間の波数kの個数は

(πkdk)(S/π2)となって,Sだけに依存し形状には

依らない形になります。

 

このように,黒体輻射,あるいは,空洞輻射では,

空洞の「壁面の形状の多様性や面の乱雑さ」などが

あれば,無限に多様な乱反射のモードを持つであろう

という予測は誤りであり,そのモードの個数分布は

空洞の体積のみで決まり,それが離散的であるのは,

大きさ=体積が有限であるためであるということが

確かに云える,ことが証明できたと考える次第で

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再掲記事の続き「黒体輻射とキルヒホッフの法則」

再掲のつづきで2006年6/20の「黒体輻射(キルヒホッフの法則)」

を追加します。

※ 以下,過去記事丸写しと追加の(注)です。これも電球,電灯の原理説明に必要

※ ブログネタが枯渇してるので物理ネタばかりで恐縮

ですが,今日は黒体輻射関連の話題について書きます。

 

「プランク(Planck)の黒体輻射の法則」は,

「レーリー・ジーンズ(Raileigh-Jeans)の法則」と

「ウィーン(Wien)の法則」の両方を説明するものと

して与えられ,ここに作用量子hの概念が導入されて

量子力学の曙が訪れることになったのは有名な話です。

 

プランクの法則のは.絶対温度Tの下での黒体からの

輻射エネルギ-密度uの波長λに対する関係を,波長λ

と温度Tの関数:u(λ,T)とした表現したもので,その

グラフはをTの値ごとに,縦軸uの横軸λに対するu-λ

曲線の族として与えることができます。

 

 ところで,黒体(black body)とは何か?というと,これ

は完全放射体とも呼ばれ.入ってくる全ての波長の電磁波

を反射することなく完全に吸収する理想的な物体のこと

を意味します。

 

それ故,上記の黒体輻射の法則とは,この理想的な物体

の吸収と放射がバランスして熱平衡になり絶対温度一定

となったときに,この黒体から放射(輻射)される電磁波

のエネルギーの周波数分布を与える法則です。

 

※(注1):(2019年追記):この記事を書いた2006年の

頃は.まだブログ上で細かい数式を記述するスキルが

乏しかったので.陽な式による表現を避けて文章だけ

の説明が中心だったのでした。

 

そこで,量子論の歴史的背景なども書かれている参考書:

「量子物理学入門」(東京電機大学出版局)や,(岩波講座:

現代物理学物理学の基礎)の「量子力学Ⅰ」などから得た

式などを,注として追記しておくこよにします。

 

 

これらによると,ν(/sec)を電磁波の周波数(振動数),

c(m/sec)を光速(電磁波の速さ)とするとき黒体輻射

で.νとν+dνの間にある輻射電磁波のエネルギー:

U(ν,T)dνを与える輻射エネルギ-密度:U(ν,T)

に対し,Raileigh-Jeans)の法則のスペクトル分布は,

U(ν,T)=8πν2T/c3 で与えられます。

 

これは,内部が真空の有限体積Vの空洞輻射を1辺

Lの立方体の箱内での輻射とし,x座標だけの1次元

だけで考えると,平面波:exp{i(kx-ωt)}の周波数

ν,or 波長λの満たすべき条件として,箱の端点x=0

x=Lが壁であり波が閉じ込められて出られないこと

を.上記平面波のxでの周期がLであること.つまり.

kLが2πの倍数であること(周期的境界条件)で表現

して要求することから得られます。

 

すなわち.まず,kL=2πN,または, k=2πN/L

(N=0,1,2,)となることを要求します。これは電磁波

が壁で反射されるか.途切れて定在波になるという条件

で物理的にも理にかなった境界条件です。

 

3次元に移行すると,V=L3であり波数ベクトルは,

=(kz)=(2π/L)(Nx y z)=(2π/L)

になると考えられるので,波数ベクトルの空間の体積

は,モードベクトル=(Nx y z)の空間の体積の

{(2π)3/V}倍ですが,実は,この関係は体積Vの空洞なら

その形が立方体か否か?などには無関係であることが

わかります。

 

そこで,この波の単位体積当りのモード数をn=N/V

として,3次元で考えると,空間の体積要素の関係では,

3=(2π)--33 なる式で書けます。

 

ところで,この波(電磁波)の位相速度は光速cであり,

これから,c=ω/k=2πν/k,かつ,c=νλなので

k=2π/λ=2πν/cと表わせます。

このため,d3=(2π)--33はd3=(2π)-33

=c-33ν なる関係に同等です。

 

それ故,半径がνで厚さdνの周波数の球殻:4πν2dν

には(4πν2/c3)dν個の波のモードがあることになり

ますが,電磁波は横波であり偏光の自由度2があるので

総自由度としては(8πν2/c3)dνです。

 

ここで,古典統計力学の「エネルギー等分配の法則」;,

「絶対温度がTのとき,熱平衡系を構成する1粒子の平均

エネルギーは1自由度につき(kT/2)である。」という

法則を用います。

 

電磁波は偏光として2つの独立な向きに振動し各々を

自由度2の1次元調和振動子と見なすことができて,調和

振動子にはエネルギー(kT)が割り当てられるため,

結局,電磁波の古典的描像ではありますが,

U(ν,T)dν={8πν2T/c3}dνなる関係を得ます。

これが輻射のRayleigh-Jeansの法則です。

(※独立な振動の2自由度は既に偏光として組み込み済み)

 

また,Wienは,実験データから(ν/T)の関数として

U(ν,T)=f(ν/T)=(α/c3)exp(-βν/T)

なるスペクトル分布式(Wienの分布則)を19世紀末頃に

発見しました。(※ただし,これらの法則で両辺の単位

はいずれも(W(ワット)/m2)です。※)

 

, 一方,Plankは,後にPlanck定数と呼ばれる作用量子

hを導入して.次のスペクトル分布を見出しました。

U(ν,T)=(8πhν3/c3) /[exp{hν/(kT)}-1]

(Planckの法則)です。

 

Wienの経験式:U(ν,T)=(α/c3)exp(-βν/T)で,

α=8πhν3,β=h/kを代入すれば,これは丁度,

Planckの分布式で,νが大きいときに,分母の

[exp{hν/(kT)}-1]の1を無視した式に一致

します。また,νが小さいときには,指数関数を近似

して,exp{hν/(kT)}-1 ~ hν/(kT)と

すると.Rayleigh^Jeansの式:

U(ν,T)={8πν2T/c3}に一致します。

 

こうしてPlankの法則は,両者を見事につなぐ式

となっています。

 

さらに,Plankの式をc=νλを用いて波長

λの式に変換します。

uとUは,u(λ,T)dλ=-u(λ,T)ν-2dν

=U(ν,T)dνで対応すると考えられます。

符号の違いは積分の向きで相殺されるので(-)を

はずして.U(ν,T)=cu(λ,T)ν-2

または,u(ν,T)=U(ν,T)ν2/c です。

 

したがって,u(λ,T)

=(8πhc/λ5)/[exp{(hc/λ)/(kT)-1]

が得られます。 (注1終わり※)

 

しかし,例えば,太陽などは黒体ではないし,しかも内部

に熱源を持っていて正確には熱平衡状態にはないですが

その場合でも,放射される主な光の波長(色)が物体の温度

に依存して決まる,という「色温度」の概念があります。

 

太陽の場合は,その表面温度がT=6500Kくらいで輻射

される電磁波のエネルギーが分布曲線上でピークになる

放射スペクトルの波長域が可視光線域に一致しています。

 

(※,むしろ,可視光(見える光)というのは,地球上の生物

(動物)の光を感じる器官(眼)の方が,太陽からの電磁波の

強度が最大の波長域を感知するような器官として創造され

ていると考えた方が合理的かも?※)

 

そして,そうした太陽のようなものでも,温度Tと放出光

の周波数(振動数)ν(or波長λ)の対応関係が上述の,

「熱平衡でのPlanck分布(黒体輻射分布)における絶対温度

とその温度での輻射エネルギー強度uが最大になる周波数の

関係」:すなわち,「Wienの変位則」と大してずれることなく

近似的に成り立つことが,よく知られています。

 

※(注2): Wienの変位則とは温度がTのときに電磁波の

輻射エネルギー強度が最大になる波長をλmaxとすると,

λmaxT ~ b(一定)になるという法則です。ただし,

b=hc/(5k) ~ 2.87×10-3(mK)=0.287(cmK)

です。

 

これを導くには,再掲.Plank分布式:

u(λ,T)=(8πhcλ-5)/[exp{(hc/λ)/(kT)-1]

が,λ=λmaxで∂u/∂λ=0を満たすことを使います。

 

,上記のu=u(λ,T)に対して,∂u/∂λ= 0は

-(40πhcλ-6)/[exp{(hc/λ)/(kT)-1]

+(8πhcλ-5){(hcλ-2)/(kT)}

×exp{(hc/λ)/(kT)}

/[exp{(hc/λ)/(kT)-1]2=0 となります。

 

これから,5λ[exp{(hc/λ)/(kT)-1]

-(hc)/(kT)}exp{(hc/λ)/(kT)}=0,

ですから,λ=λmaxとして,

λmax=|(hc)/(5kT)}exp{(hc/λmax)/(kT)}

/[exp{(hc/λmax)/(kT)-1]2 ~(hc)/(5kT)

あるいは,λmaxT ~(hc)/(5k) を得ます。

これがWienの変位則です。

そこで,h=6.6×10-34(Jsec),

c=3.0×108(m/sec),k=1.38×10-23(J/K)を

用いれば,λmaxT ~hc/(5k)~2.87×10-3(mK)

です。※ちなみに太陽表面のT=6500Kならその色

の波長はλmax~ 4.57×10-7m=457nm程度です。

可視光の波長は360nm~830nmくらいらしい

ですが,これは別に温度が太陽表面ほどの数千度K

もなければ可視光は放出されない,というわけでは

なく,これが強度がピークになる温度というだけで

どんな温度でも,多かれ少なかれ,あらゆる波長の

電磁波が放射されるのは言うまでもないことです。

(注2終わり※)

 

このように,輻射平衡のエネルギー分布が物質に依らない

ことは,実は19世紀にキルヒホッフ(Kirchhoff)が発見

したことです。以下では,この法則を説明します。

 

さて,温度Tで空洞の壁に向かって単位時間,単位面積当り

に投射される周波数がνとν+dνの間にある電磁波(光)

の輻射エネルギーをI(T,ν)dνとします。

 

そして,ある物質から構成された空洞の吸収率をa(T,ν)とし

同じ壁の表面から,単位時間,単位面積当り放出される温度T,

周波数νの輻射エネルギーをe(T,ν)dνとします。

 

Kirchhoffは.平衡状態では吸収と放出のバランスによって,

I(T,ν)a(T,ν)dν=e(T,ν)dνが成立するはずで

ある,という発想から「比:e(T,ν)/a(T,ν)=I(T,ν)

が物質の種類によらず,温度Tとνだけの関数である。」こと

を発見したのです。

 

そして,特に吸収率が100%,つまり,a(T,ν)=1が全ての

T,νについて成立する理想的な物体を黒体と呼ぶわけです。

一般の物体は黒体ではないのでa(T,ν)<1ですが,それでも

a(T,ν)がT,νに依らず一定であることが多いので輻射強度

e(T,ν)=I(T,ν)a(T,ν)は,Planckの黒体輻射の分布式

で与えられるI(T,ν)=U(ν,T)にほぼ比例します。

 

それ故,物体が黒体でなくても,色と温度の関係,つまり,最大

エネルギー:umaxをe与える色(波長λ,周波数ν)の関係はその

まま成立すると考えてよいわけです。

 

太陽とか生存中の人体のように発熱源があるとき,必ずしも

熱平衡でがない場合もありますが,それでも近似的に色温度の

関係は成立しているようです。   (再掲記事終わり※)

 

※PS:本ブログの科学記事では私のオリジナルというの

はほとんどなく,大抵は何らかの参考書で読んだのを一応

ノートにまとめ,それからブログ原稿を書いてアップして

おり,その場合,参考にした書物,文献を書くのが常ですが,

12.13年前のブログ初期の頃は参考文献を書いてないもの

もあります。

(※私の場合はブルーバックスのような啓蒙書ではなく曲がり

なりにも専門書を参考にしていることが多いです.※)

 

もっとも,蓄積した記憶。知識と計算力だけで書いたもの

も少しはあり,まあ恐らくは誰かのマネ,パクリでしょうが

参考書不明なので,それらは参考文献がブランクです。

 

この「キルヒホッフの法則」の記事も,追加の注を除き参考

文献を書いてませんが,これが記憶だけで書けるワケもなく

何を参考にしたのだとうか?と探しましたが不明でした。

 

数行でしたが,中村伝著「統計力学」(岩波全書)にほぼ同じ

記号を用いた記述があったのでこれかなぁ?

 

統計力学は初学には敷居が高く,良書というか,私の認識

能力でも理解可能なモノを求めて10冊以上,遍歴し購入した

はずなのですが部屋には数冊しか残ってません。

最近10年くらいは食べるカネにも不自由で,また視力劣化で

読めなくて持ち腐れになり本当は惜しい気持はあるけれど

古書店経由で私の胃袋に消えたモノ多々あり,探しても,

「アレは何でないの?」というの多いですね。※

 

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2010年6月 2日 (水)

磁性の古典論

 科学記事についてはちょっと一息入れます。

 

とはいっても,避けては通れない歴史的話題です。

詳しく勉強したことがなくて得意とはいえない分野の話です。

 

さて,電場と磁場(磁束密度),および,その中を速度

運動する電荷qがある系では,電荷qがまわりの電場,磁場

によって受ける力は,=q(×)です。

電場がない特別な場合を考えると,受ける力は単に

"磁気力=Lorentzの力":=q×です。

 

そこで,ある物体の微小体積ΔVの中にこの電荷qを持つ

nΔV個のキャリア(carrier)があって,この中では電荷の

運動速度が一定なら,ΔVが全体として受ける力Δは,

Δ=nq(×)ΔVです。

nは電荷がqのキャリアの数密度を意味しますから,

(nq)電荷密度,(nq)は電流密度:を表わすため,

結局,この磁気力は,Δ(×)ΔVと書けます。

もしも,ΔVが断面積S,長さΔlの導線ならΔV=SΔl

ですから,ΔV=SΔlとなります。

 

導線の微小な断面積Sの上では電流密度の大きさも向きも

一様なら,この導線を流れる電流(※導線の任意断面を単位時間

に通過する全電荷)は,=∫SdS=Sで与えられます。

結局=(×)ΔV=(×)SΔl=(×)Δl

です。

ここで注目すべきことの1つは,キャリアの電荷qの符号

の正負を決めてないことです。

 

つまり,受ける磁気力Δは電流の向きには依存しますが,

電流の源である電荷の符号の正負には依存しません。

 

したがって,磁力の向きを測ることだけから電流のキャリア電荷

の符号は決定できませんね。

 

(※PS:ちなみに,ホール効果(Hall effect)を測定すればキャリア

が正か負かの符号を決定できるはずです。)

さて,ある微小回路(circuit)C上を流れる定常電流が存在

して,これが外部磁場の影響を受けている場合を想定します。

特にCの内部が面積Aの平面領域を構成すると仮定してこの

平面上Cの内側に原点Oを取り,をC上の点の位置ベクトル

としてにおける電流を()と表記すれば,ループ電流に

働く力は,∫C=∫C{(}dsです。

ただしds=|d|です。

ところが,電流()は大きさIが一定で向きは線素の向き

と同じですから,()ds=Idと書けます。

 

故に,d=I(d×)-I(×d)であり,合力は

=∫C=-I∫C(×d)です。

さらに,電流が流れているループCが微小でC上では外部磁場

が一定と見なせるなら,

回路に働く合力:Fは,=-I×∫C=0 です。

しかし,微小回路Cは面積Aを囲むループであって完全な点では

ないので,回路に働く力:=∫Cはゼロでも,"トルク(torque)

=力のモーメント":τ=∫C×dは偶力のような形で存在して

ゼロでない可能性があります。

 実際,磁場が存在するときに,電流がIの微小回路Cでは,

 τ=∫C×d=-I∫C×(×d)です。

 公式:×(×)=(AC)-(AB)より,

×(×d)=()-(rB)dですが,

=0ですから,τ=I∫C(rB)dr を得ます。

ところで,に依らない場合,

d{(rB)}(rB)+()

なる式が成立します。

 

これと,恒等式:(×=(rB)-()

を辺々加え合わせると,

d{(rB)}+(×=2(rB)r です。

この式の左辺:{(rB)}をC上で積分するとゼロですから,

これを利用すると,∫C(rB)d=(1/2)∫C(×

を得ます。

 

故に,τ=I∫C(rB)d(I/2)∫C(×

が得られます。

他方,微小な環状電流の磁気双極子モーメントは,

μ=(I/2)[∫C(×d)]=IAですから,結局C全体

トルクとして,τ=I∫C(rB)dμ×

なる表現を得ます。

ところで,対象としている系が単一の質点であれば,その運動

エネルギーTは,T=(1/2)m22/(2m) だけです。


 しかし,系が質点系,または大きさのある物体の場合には,

一般には全体として角運動量(古典的には軌道角運動量)を

持って回転していて重心運動のエネルギー:2/(2m)の他

に回転エネルギーがあります。

軸が一定で,そのまわりの慣性モーメントがIMの場合,回転角

をθとすると,トータルの運動エネルギーは,

T=(1/2)m2+(1/2)IM(dθ/dt)2

2/(2m)+2/(2IM)です。

 

ただし,は系の重心運動量で=m;は重心の運動速度

です。

また,は系の角運動量で回転軸の単位ベクトルを

すると,=IM(dθ/dt)です。

 すると,系の運動を支配する基本方程式系は,d/dt=,

および,d/dt=τです。

 

 特に,保存力の場合には,位置エネルギーU=U(,θ)が

存在して,=-∇U,τθ-∂U/∂θと書けます。

 

ただし,τθτのθ方向(回転の接線方向)の成分,

重心位置です。

そこで,dT/dt=(d/dt){2/(2m)+2/(2IM)}

=(d/dt)(/m)+(d/dt)(/IM)

(d/dt)+τθ(dθ/dt)

=-∇U(d/dt)-(∂U/∂θ)(dθ/dt)

=-dU/dtです。

 

 これによって,力学的エネルギーの保存則:

d(T+U)/dt=0 が実現されます。

今の微小回路Cと磁場だけが存在する系のように,がゼロ

ときには,トルクτθ-∂U/∂θを満たすトルクτのみが

存在します。

トルクτμ×のθ成分:τθはθが増加するのを妨げる向き

に働くので,τθμBsinθ=-dU/dθより,

位置エネルギーUは積分定数を除いて,

U=μB∫sinθdθ=-μBcosθ=-μB

を得ます。

一方,中心にある核のまわりを電子が周回しているという

原子の古典模型を想定して原子中の電子の運動をその軌道

ループC上を流れる電流と同定することを考えます。

簡単のため,原子は電子が1個だけの水素様電子を想定して,

この電子の軌道Cは核を中心とする半径a,角速度ω

等速円運動とします。

 

すると,回転の速さvはv=aωであり回転の周期は

T=2π/ω=2πa/vです。

環状回路Cを周期Tで電荷:-e(e>0)の電子が周回するとき

の電流(=回路C上の任意の点を単位時間に通過する平均電荷量)

=-e/T=-eω/()で,

磁気モーメントは,μ(I/2)∫C(×d)です。

一方,周回電子の位置ベクトルをとすると,

"角運動量=軌道角運動量"は,

×=m×=m×(/dt) です。

 

そして,T=0Tdt=mC(×d)2mμ/

ですから,結局,μ(I/2m)です

こうして,電子の磁気モーメントμとその軌道角運動量

よく知られた比例関係:

μ={/(2m)}={-e/(2m)}

を得ました。

さらに,水素様原子という特殊系でなく重ね合わせの原理が

成立するとして一般の多電子原子でもこの関係は保持される

と考えられます。

 

巨視的個数の原子から成る物体系でトータルN個の電子の

各々の磁気モーメントと軌道角運動量の総和を考えます。

 

物体内の各々の電子の角運動量,磁気モ-メントを,それぞれ

j,μj{-e/(2m)}jとすると,全系の"磁化ベクトル

=磁気双極子の総和"は=Σj=1Nμjですから,

{-e/(2m)}Σj=1Njです。
 

この電子系の総位置エネルギーはU=-MBと書けます。

ところで,ファインマン物理学の第Ⅳ巻「

電磁波と物性」(岩波書店)の"物質の磁性"の章の中では,

"古典物理では物質の磁性を説明できないこと"をほとんど文章

だけで説明しています。

 

これは,昔初めて読んだ頃の私には,とても奇妙でわかりにくい

という印象がありました。

これについては,以後もとても気になっていたのですが,後に

「ボーア-ファン・リューエンの定理

(Bohr-Van・Leeuwen's theorem)」と呼ばれる統計力学の定理

の説明であることを知りました。

いや,実は定理の詳しい名称は現在は覚えてなかったのですが,

今はネット検索があるので便利な時代ですね。

この定理は,熱力学や統計力学関連のことなら何でも載って

いる百科全書的な演習書:久保亮五 著「熱学 統計力学」

(裳華房)に,ほとんど目立たぬ程度にさらりと載っています。

 

これが紹介されているのは,この本の第6章

「カノニカル分布の応用」の演習問題[C]の問題[27]です。

[27]:古典力学,古典統計にしたがう体系では磁化率は厳密に

ゼロであることを証明せよ。(Bohr-Van・Leeuwenの定理)

(※ヒント:磁場を導くベクトル・ポテンシャルをとすると,磁場

がある場合の荷電粒子系のHamiltonianは,

=Σj=1N{1/(2mj)}{j+e(j)}2+U(1,..,N)

と書かれる。)

これの解答もちゃんと載っていました。

分配関数Z=∫..∫exp{-/(kBT)}d31..d3N

31..d3N  ,は,Hamiltonianが磁場が無い場合の

=Σj=1N[j2+/(2mj)+U(1,..,N)]でも,磁場がある

場合の=Σj=1N[{j+e(j)}2/(2mj)+U(1,..,N)]

でも同じになります。

これは,運動量積分d31..d3N 積分範囲が全運動量空間

なので,結果としてこの部分は磁場に無関係な(2πmkBT)N/2

になるからです。

Fredholmの自由エネルギーFをカノニカル分布の分配関数Z

で表現すると,F=E-TS=-NkBTlnZであり,磁化

=-∂F/∂で与えられます。

 

任意の物理系で分配関数Zがによらないという上記結果は,

統計力学に従う熱平衡系では,磁化 or 磁気モーメントは常に

ゼロであることを意味します。※

さて,本ブログの2008年4/9の過去記事

磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)」で述べたように,

Larmor(ラーモア)の定理というものがあります。

すなわち,トルクτが存在するとき電子の角運動量が従う

方程式は,/dt=τです。

 

そして,外部磁場が存在するとき,磁化:={-e/(2m)}

が存在すればトルクはτ×{-e/(2m)}×です。

このゼロでないトルクの存在により,の従う方程式は,

/dt={-e/(2m)}×となります。

 

電子系が力を受けるため,はもはや一定の向きを保持できません。

この運動では,磁場の方向をz軸にとればdLz/dt=0

となり,Lzは時間的に一定で保存されますから,の運動は

磁場の向きを歳差の回転軸とする歳差運動(precession)

です。

 

   

 

この歳差運動によるLarmorの反磁性理論は次の通りです。

電子質量をmとするとその角運動量は×=m×です。

半径a,角速度をωで円運動する場合にはL=ma2ωです。

特に磁場が全くないとき,電子の同じ円軌道の角速度を特にω0

とするとCoulombの法則によって:maω02=e2/(4πε02)

です。

 

この運動では,L=ma2ω0です。

 磁場が存在する場合には,上記のLarmorの歳差運動の式:

/dt={-e/(2m)}×に代入すると,

ma2(dω/dt)={-e/(2m)}ma2ωBsinθ,

dω/dt=-{e/(2m)}ωBsinθ となります。

 

 θは歳差運動しているとなす角です。

最後の式は,(dv/dt)=-eaωBsinθですから,

Coulomb電気力と磁場の両方があれば,

maω22/(4πε02)-eaωBsinθなる等式が

成立するはずです。

 

故に,ω2-ω02=(-e/m)ωBsinθですからの存在に

よる角速度の変化:Δω=ω-ω0は,1次近似で,

Δω~ -{e/(2m)}Bsinθ です。

 

この角速度の変化は磁気モーメント:

μ={-e/(2m)}LをΔμ={-e/(2m)}Δ

={-e/(2m)}(ma2Δω)=-{22/(4m)}Bsinθ

だけシフトさせます。

 

L=m2ω,224ω2ですから,

Δμ=-{e/(2m)}ΔL=-{e/(2m)}(ma2Δω)

=-{22/(4m)}Bsinθ です。

 

結局,Δμ=-{22/(4m32ω2)}Bsinθ

が得られました。

 

この効果をLarmorの反磁性といいます。

ところで,統計力学の熱平衡でのエネルギー等分配則によれば,

平均値として,(1/2)<mv2>=(1/2)<ma2ω2>=(3/2)kB

なので,熱平衡では,

 

Δμ=-{22/(12m2B)}sinθと結論されます。

 

よって,系全体の反磁性効果は,

Δ=NΔμ=-{Ne22/(12m2BT)}B ですね。

一方,常磁性の話は,2008年4/15の記事

磁性の話(キュリーの法則) 」で書いた,

=χ=(χ/μ0)の比例係数で定義される磁化率:χに

対するCurie(キュリー)の法則:χ=C/T;

C≡NμB2μ0J 2(J+1)/(3kB)の古典論版で

与えられます。

 

ただし,μBはボーア磁子(Bohr magneton)です。

 

μ=-gJμBμ=-{e/(2m)}とを比較して,

J=1,-μB →e/(2m)として,さらにJ(J+1)をL2

置き換えて古典論に翻訳すると.

χ/μ0Ne22/(12m2B)なる表現を得ます。

 

しかし,横着をせず直接に熱平衡での統計的平均値としての

古典的磁化M(B,T)を計算してみます。

 

古典論では軌道角運動量に対してその磁場方向の成分

はLz=Lcosθであり任意の角度θを連続的に取ることが

可能です。

  

M(B,T)

=N∫-11d(cosθ){-eLcosθ/(2m)}

exp{-eLBcosθ/(2mB)}

/∫-11d(cosθ)exp{-eLBcosθ/(2mB)}

=NB-1(∂/∂β)ln∫-11d(cosθ)exp{-eβLBcosθ/(2m)}]

です。

 

すなわち,

M(B,T)=NB-1(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}]

です。

 

χ/μ0を得るためB→0 の極限での

M(B,T)/B

=NB-2(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}

=NB-2[1/β-{eLB/(2m)}cos{eβLB/(2m)}

/sin{eβLB/(2m)}を求めます。

 

結局,M(B,T)/B→χ/μ0

=NB-2[1/β-(1/β)(1-(1/3){eβLB/(2m)}2]

=Ne22β/(12m2)

=Ne22/(12m2B) です。

 

こうして,先の量子論でのCurieの法則の古典論への置き換え

と同じ結果を得ました。

 

こうした常磁性に対する理論は基本的にLangevin(ランジュバン)

理論と呼ばれます。

 

これは,Pierre Curie(ピエール・キュリー)が

Curieの法則:χ=C/Tを実験的に発見した後,

Paul Langevin(ポール・ランジュバン)がその法則を裏付ける

ために発見した理論です。

 

上記の導出からわかるように,このCurie-Langevinの法則は,

,またはが小さいときにだけ成立する法則です。

 

こうした常磁性磁化:=(χ/μ0)は,先に述べたLarmorの

反磁性の磁化シフトΔ=-{Ne22/(12m2BT)}(1次近似)

によって相殺されゼロとなります。

 

よって,この結果はこうした型の反磁性,常磁性の存在を古典的

には説明できないことを示すもので,先述の

Bohr-Van・Leeuwenの定理を一部裏付けるものです。

 

さて,以上の古典論ではスピン(spin)角運動量の存在を考慮

していません。


 
スピンがあると仮定した場合には,束縛電子の全角運動量は

です。

 

そこで,対応して原子内電子による全磁気モーメントも

μμLμと分解表現してみます。

 

それぞれの型の磁気モーメントと角運動量の比例関係を古典論

との対応でμL={gLe/(2m)},μs={gse/(2m)}

と表わして磁気回転比(gyromagnetic-ratio)gL,gsを定義

するとgL=1,gs~ 2です。

 

したがって,スピンを考慮すると電子の磁気モーメントは

μ~ {e/(2m)}(+2)となって単純に角運動量:

との比例関係では表わせません。

 

(スピンの磁気回転比が2であることの古典的根拠に関しては

2008年4/5の記事「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)

のThomas歳差運動の関連の話を参照して下さい。)

 

スピンが存在する理論と古典論との対応を考えると,磁気回転比

の相違のため量子論では上記の意味での反磁性と常磁性の相殺

は起きず,反磁性か常磁性のいずれかが発現する可能性が

考えられます。

 

最初は強磁性の古典的話も書くつもりでしたが,後の機会に

まわすことにします。

(参考文献):R.P.Feynman(戸田盛和訳):ファインマン物理学Ⅳ

「電磁波と物性」(岩波書店),

久保亮五著 大学演習「熱学 統計力学」(裳華房),

 

砂川重信著「理論電磁気学」(第2版)(紀伊国屋書店),

志村史夫監修,中村久理真著「したしむ磁性」(朝倉書店)

 

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2010年4月13日 (火)

電磁波の放射(7)(点電荷による電磁波4:場の反作用)

 電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。最後に放射の反作用について記述して古典論を終わります。 

 点電荷が加速されていると,それは電磁波を放射します。そこで,外部からの補償が無ければ放射に伴なって点電荷自身の力学的エネルギーが減少します。

 

 この作用を電磁波の放射の反作用(reaction)といいます。

 こうした反作用は電荷の運動に対する減衰力として運動方程式に反映されます。以下,減衰力をエネルギーの保存則に従って導きます。

「電磁波の放射(5)」ではβ(t)=v(t)/c<<1のとき,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べて小さいときには単位加速時間当たりの放射エネルギーがdW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ[(t)×{(t)×βd(t)}]2={e2/(6πε03)}d(t)2 (Larmorの公式)で与えられることを見ました。

 仮に点電荷は周期運動をしていて,ある2つの時刻t1,t2において(t1)=(t2)=0 を満たすとします。

 そして,t∈[t1,t2]において減衰力(t)が存在するとすれば,エネルギー保存則から,この時間の間に(t)が点電荷になす仕事は同じ時間の放射による点電荷のエネルギー減衰量に等しいはずです。

すなわち,∫t1t2(t)(t)dt=-{e2/(6πε0)}∫t1t2d(t)2dt=-{e2/(6πε03)}{[d(t)(t)]t1t2-∫t1t22d(t)d(t)dt}={e2/(6πε03)}∫t1t22d(t)(t)dtです。

 

つまり,∫t1t2[(t)-{e2/(6πε03)}2d(t)](t)dt=0 が成立します。

したがって,(t)={e2/(6π2ε03)}2d(t)と置けばエネルギーの均衡が保たれることになります。

この減衰力の表式を(t)=(2/3){e2/(4πε0c)}{hc/(mc2)}m2d(t)と書けば,特に点電荷が電子の場合には微細構造定数:α≡e2/(4πε0c)}~ 1/137により(t)=(2/3)α{hc/(mc2)}m2d(t)となって簡明な表現になります。

電子の場合には,上記のd/dt=m2d(t)の係数はT0=(2/3)α{hc/(mc2)}~ (2/3)(1/137)10-21秒 ~ 10-23秒程度です。これは非常に小さい値です。

(t)=T0(d/dt)ですが,この周期運動で加速度が変化をする時間の長さをT≡t2-t1と置けば,一般にT>>T0と考えられますから,(t)~(T0/T)[d/dt]t1t2=(T0/T){(t2)-p(t1)}となって減衰力(t)はきわめて小さいことがわかります。

 巨視的物体の場合には,質量mはさらに大きいため,T0(2/3)α{hc/(mc2)}は電子の場合よりさらに小さいので電磁波の放射の反作用は無視できると考えられます。

 以上から,v<<cなら質量がm,電荷がeの1個の点電荷が外力によって加速され電磁波を放射しながら運動するときの運動方程式は,m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で与えられることがわかります。

 微分方程式の本質的性格は係数がいかに小さくても最高階の微分を含む項によって決定付けられます。 

そこで,この加速度の時間微分をも含む微分方程式は,"ある時刻に位置と速度が与えられると以後の軌道が決まる。"という因果性に従うニュートンの方程式から予想される以外の解を持つ可能性があります。

実際,例えば方程式:m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で外力がない場合:=0 の場合を考えるとm{d2(t)/dt2}={e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3},またはmd(t)=T0{m2d(t)}です。

電子が力を受けず自由運動をするケースですから,加速度が恒等的にゼロ:d(t)=d2(t)/dt2 ≡0 なる解も可能なはずです。実際,このときには2d(t)=d3(t)/dt3≡0 より減衰力も(t)≡0 となって確かに解になっています。

 一方,md(t)=T0{m2d(t)}より2d(t)=d(t)/T0なので,素直に積分するとd(t)=d(0)exp(t/T0)なる解を得ます。この解は外力がゼロなのに,tが大きくなると加速度dが際限なく増大するという内容です。

 物理的に考えると,これは明らかに不合理です。なぜ,こうした解が得られたかの理由について,すぐ気付くことは外力がゼロのときのこの解では運動が周期的で,時刻t1≠t2(t1)=(t2)=0 であるという条件が満たされてないことです。

 そこで,これの解決のため電子の非周期運動も包括した対象電子を含む電荷群と電磁場が共存する現実的な系で考察します。

電磁場の基本方程式はマクスウェルの方程式系:∇×(,t)+∂(,t)=0,∇(,t)=0,および∇×(,t)-∂(,t)=0(,t)+Σk≠0k(,t),∇(,t)=ρ0(,t)+Σk≠0ρk(,t)です。ただし0,=ε0です。

 ただし,ρ0,0を考察対象の電子の電荷密度,電流密度とし,それ以外の電荷(帯電体)の電荷密度,電流密度ρk,k(k≠0)と区別しました。

 

 また,電子は極めて小さいけれど大きさは有限であり,特に半径がa0の剛体球であると仮定します。

 一方,電子自体の運動方程式は,後の便宜上電子の質量m,軌道に下添字 0 を付けると,m0{d20(t)/dt2}=∫d30(,t)(,t)+0(,t)×(,t)}と表わされます。

これら微分方程式系では,電磁場の基本方程式における"物理量=場の量"も電子の運動方程式における物理量も全て未知量です。 

 対象とする電子の電荷,電流ρ0,0が作る電磁場0,0の自分自身へ及ぼす力(自己力:self-force)というものを考察するために,(,t)=0(,t)+1(,t),(,t)=0(,t)+1(,t)のように全体の場を分離します。

マクスウェルの方程式の線形性から,これらの場が従う微分方程式も∇×0(,t)+∂0(,t)=0,∇0(,t)=0,∇×0(,t)-∂0(,t)=0(,t),∇0(,t)=ρ0(,t),

  

および,∇×1(,t)+∂1(,t)=0,∇1(,t)=0,∇×1(,t)-∂1(,t)=Σk≠0k(,t),∇1(,t)=Σk≠0ρk(,t)と分離できます。

 

一方,電子の運動方程式も分離されて,m0{d20(t)/dt2}=01と書けます。

 

ただし,0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)},および1=∫d30(,t)1(,t)+0(,t)×1(,t)}です。この0が自己力を表現しています。

 自己電磁場の方程式部分を形式的に解けば0(,t)={1/(4πε0)}∫d3'{ρ0(',t')/|'|,0(,t)={μ0/(4π)}∫d3'{0(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cです。

 これを0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)}に代入します。ただし電子の速度0の大きさは光速cに比べて十分小さいとして0の1次の項だけを考えることにします。

0(,t)が0に比例するので,00に比例します。したがって,0=∇×00に比例しますから0(,t)×0(,t)は0の2次の量となるため,磁場の関係する項の寄与を無視します。

 すると,運動方程式は,m0{d20(t)/dt2}=1+∫d3ρ0(,t)0(,t)=1-∫d3ρ0(,t){∇φ0(,t)+∂0(,t)/∂t}=1-{1/(4πε0)}∫d3ρ0(,t)[∇∫d3'{ρ0(',t')/|'|+c-2(∂/∂t)∫d3'{0(',t')/|'|}となります。

 右辺の2つの空間積分∫d3,∫d3'はいずれも微小半径a0の球状電子の内部が積分範囲ですから,寄与する発信時刻t'=t-|'|/cはt'=t-a0/c程度であり,電子内の各点で発信時刻t'の関数で示されている量はtのまわりにテイラー(Taylor)展開できます。

 すなわち0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂nρ0(‘,t)/∂tn}/n!],0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂n0(',t)/∂tn}/n!];',R≡||です。

これを0の表現式に代入すると,電子の運動方程式はm0{d20(t)/dt2}=1-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn!){∫d330(,t)[{∂nρ0(',t)/∂tn}{∇(R/c)n-1}+c-2(R/c)n-1{∂n+10(',t)/∂tn+1}]となります。

このうちスカラーポテンシャルφ0からの寄与の一部を考えます。 

右辺のn=0 の項は-{1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)∇(R-1)]={1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)(')/|'|3]ですが,被積分関数が,'の交換について反対称なのでこの項は消えます。

また,n=1の項も∇R-2≡0 より,やはり消えます。

そこで,φ0からの寄与の項では添字をn→n+2とシフトして,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!){∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){0(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/{(n+1)(n+2)Rn-1}と書きます。

右辺の項の∫d3'積分の因子は∫d3'[Rn-10(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/(n+1)(n+2)]=∫d3'[Rn-10(',t)-∇0(',t)Rn∇R/(n+2)]です。

 

さらに変形して,∫d3'[Rn-10(',t)+{0(',t)∇}Rn-1/(n+2)]=∫d3'Rn-1[{(n+1)/(n+2)}0(',t)-{(n-1)/(n+2){0(',t)}/R2}を得ます。

 今は電子を微小な剛体球としているので,0(',t)=ρ0(',t)0(t)と書けます。

そこで,上記積分結果のベクトルでその第i成分はΣj=13∫d3'Rn-1ρ0(',t)v0j(t)[{(n+1)/(n+2)}δij-{(n-1)/(n+2)}Rij/R2]と表わされます。

さらに,∫d3積分を実行すると対称性からRijを(1/3)R2δijと置いてよいので,(2/3)v0i(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)です。

 

これをベクトル表現で書けば,(2/3)0(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)となります。

 

それ故,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){ρ0(',t)0(t)}]です。

右辺の時間微分で電荷密度ρ0(',t)の時間微分は∂ρ0(',t)/∂t=-∇0(',t)であり,電流密度は0(',t)=ρ0(',t)0(t)ですから,積ρ0(',t)0(t)は0(t)の2次以上になるため省略します。

すると,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'{ρ0(,t)Rn-1ρ0(',t)}{dn+10(t)/dtn+1}です。

この右辺の級数の最初の数項を評価します。

 

まず,n=0 の項0(0)0(0)=-{1/(4πε02)}(2/3)∫d33'{ρ0(,t)ρ0(',t)/|'|}0d(t)です。

ここで電子の自己エネルギーW=∫ρ0φdVはW≡{1/(4πε02)}(1/2)∫d330(,t)ρ0(',t)/|'|=e2/(4πε00)で定義されますから,0(0)はこれを用いて0(0)=-{4W/(3c2)}0d(t)と表現できます。

次にn=1のときは,0(1)={1/(4πε03)}Σn=0[(2/3)∫d330(,t)ρ0(',t)02d(t)={e2/(6πε03)}02d(t)ですが,これは先に周期運動を仮定して求めた減衰力に一致しています。

n≧2に対しては,0(n)=-{1/(4πε03)}[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)<a0n-10(n+1)(t)です。ただし,<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)です。

 

これらは電子の内部構造には無関係な量です。

こうして,自己力の作用の下での電子の運動方程式がm00d(t)=1-{4W/(3c2)}0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..となることがわかりました。

 

これは,me≡{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}と置くと(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..と書けます。

e{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}は電子がそのまわりに静電場を作ることに基づく電磁的質量と解釈されます。しかし実は係数4/3の存在は特殊相対論の要求と矛盾します。

 

これについては,2008年12/20の記事「運動物質内の相対論(7)(電子の古典模型)」に詳細に書きましたが,このシリーズの(1)~(6)の続きなので順に参照する必要があるかもしれません。

 

その問題はさておき,運動方程式の(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..なる形は力学的質量m0に対し現実に観測される電子の電荷がm≡(m0+me)であると考えることができます。

 

量子電磁力学のくりこみ(renormarization)では,m0を裸の質量(bare-mass),meを着物の質量(mass of dress),mを着物を着た質量(dressed-mass)と呼びます。

得られた電子の運動方程式:(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..は周期運動,非周期運動に関わらず成立します。

 

そこで,この方程式表現でも1=0 のときの解として,先の不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)の存在を免れません。

しかし,この運動方程式は0,0d,02d..がこれらの2乗が無視できるほど小さいと仮定したときに成立する近似方程式であることを思い出します。不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)はこうした条件を満足しないため,物理的には許されないはずです。

これまでの議論では電子は半径がa0の剛体球としましたが,そもそも剛体球という概念はローレンツ不変(Lorentz invariant)ではないので,a0が有限である限り,n≧2の<a0n-1>の因子を含む運動方程式m00d(t)=1-{4W/(3c2)}W0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..を相対論的に共変な方程式に拡張することはできません。

そこで,共変性のためa0→ 0 とすると,n≧2 の<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)は全てゼロになり消えるため,電子の方程式は,(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)となります。

しかし,e={4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}なので,a0→ 0とするとW→ ∞,かつme→ ∞となってしまいます。

 

それ故,a0→ 0 とした相対論的に共変な理論では自己エネルギーWの発散を免れることはできません。逆に自己エネルギーを有限にしようとすれば相対論と矛盾します。

 

こうした困難は量子論にも受け継がれ,摂動の収束性と相俟って理論の最大の難点となっています。

 

関連記事として2006年12/21の「電子の自己エネルギーとディラックの海」,2008年5/8の「自己力と自己エネルギー」も参照して下さい。

 

この記事をもって電磁波放射の古典論のシリーズを終わります。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店) ),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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2010年4月12日 (月)

電磁波の放射(6)(点電荷による電磁波3:散乱)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 γ崩壊に利するために電磁場の多重極展開を復習するという初期の目的からは既にかなり逸脱しました。そのついでに点電荷による電磁波(光)の古典的散乱も記述しておきます。

点電荷が電磁波を放射しながら加速度運動をしているとき,系の外部から別の電磁波が入射して点電荷を加速し電磁波の放射を促す場合を想定してみます。

 

これは点電荷による電磁波の散乱(scattering),あるいは電磁波と点電荷の衝突(collision)とみなすことができます。

 外力の作用の下にある点電荷に平面波in,inが入射するときの点電荷の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)=((t))+e[in((t),t)+(t)×in((t),t)]で与えられます。

 

 ただし,(t)≡d(t)/dt=d(t)です。

 in,inは自由電磁波なので,|in|=|in|/cです。そこで,点電荷の速さvがcに比べて小さい場合を想定しているので,電気力einに比べて磁場による力e×inを無視します。

 また,入射電磁波による強制振動で生じる点電荷の位置の変化は入射波の波長に比べごく小さいと仮定して,in((t),t)の引数の(t)を電荷の平均的位置0で置き換える近似をするとin((t),t)~ in(0,t)=ε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

 ただしεは"電磁波の偏り=偏光"を示す単位べくトルです。

 これらの近似の結果,点電荷の運動方程式はm(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}と簡単になります。

一方,既に示したように点電荷による放射率Pの正確な式は,P=dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5 (β(t)≡(t)/c)です。

この式から,β<<1のときのラーモア(Larmor)の公式を得た際に,途中計算で得た平均放射率Pの非相対論的近似式はP=d<W>/d={e2/(32π2ε0)}∫dΩ|(t)×{(t)×βd(t)}|2でした。

そこで,今のv<<cという仮定の下で,単位時間に単位立体角の中に放射される平均エネルギーはdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2で与えられます。

 

d(t)=d(t)/dt=2d(t)(加速度)です。

一方,単位面積当たりに入射する入射波の平均強度(=単位時間に単位面積を通過する入射エネルギー)は,明らかに<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2です。

そして,散乱における微分断面積(differetial cross section)dσ/dΩは,"(単位時間,単位立体角当たりを通過する散乱波のエネルギー)=(散乱強度(insistency of scattering))"dP/dΩの入射波の平均強度<Sin>に対する比で定義されます。

 

すなわち,dσ/dΩ≡(dP/dΩ)/<Sinです。

 

この定義式にdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2,および<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2を代入すると,散乱の微分断面積の式dσ/dΩ=[e2/{(4πε02)202}]|(t)×{(t)×d(t)}|2が得られます。

 さて,上記の最終の表現式に基づいて幾つかのケースの散乱について断面積を計算してみます。

(1)トムソン(Thomson)散乱:

 

 これは自由電子による電磁波の散乱です。Thomsonの頭文字Tを取ってトムソン散乱の微分断面積をdσT/dΩと書くことにします。

この散乱は,電子に対する運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力((t))がゼロでm(d2(t)/dt2)=eε0exp{i(kz0-ωt)}と書ける場合です。

 

ただし,この場合mは電子の質量,eは電子の電荷でe<0です。 

これから直ちに,加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

 

代入すると,|(t)×{(t)×d(t)|2=(e202/m2)|(t)×{(t)×ε}|2です。(t)は点電荷の位置(t)から観測点の位置Ω=(θ,φ)までの方向単位ベクトルです。

 

この(t)と電磁波の電場の偏り(偏光)εのなす角をΘとすれば,|(t)×{(t)×ε}|2=sin2Θなので,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θとなります。

そして,入射電磁波の運動方向を極軸に取れば,成分表示で(t)=(sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ)です。また,進行方向に垂直なxy面内で偏りεの偏角をψとすると,ε=(cosψ,sinψ,0)です。

 

故に,cosΘ=nε=sinθcos(φ-ψ)と書けます。

 

そこで,sin2Θ=1-sin2θcos2(φ-ψ)ですから,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2{1-sin2θcos2(φ-ψ)}を得ます。

 

入射平面波が偏光性の光ではなく偏ってない普通の場合なら,この因子{1-sin2θcos2(φ-ψ)}をψについて平均したもの:<1-sin2θcos2(φ-ψ)>=(2π)-10{1-sin2θcos2(φ-ψ)}dψ=(1+cos2θ)/2 で置き換える必要があります。

 以上から,トムソン散乱の微分断面積としてdσT/dΩ=[e2/{2(4πε0mc2)}]2(1+cos2θ)を得ます。そして,すぐ前の表現dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θの形からこの電磁波の放射も電気双極子によるものであるとわかります。

微分断面積(dσ/dΩ)を全立体角にわたって積分したσtot≡∫(dσ/dΩ)dΩを散乱の全断面積,または総断面積(total cross section)といいます。

トムソン散乱の微分断面積(dσT/dΩ)についてこの立体角積分を実行すると,散乱の全断面積としてσT=(8π/3){e2/(4πε0mc2)}2が得られます。

古典論のモデルでは,2/(4πε00)~ mc2なる等置から電子を半径a0 ~ e2/(4πε0mc2)~ 2.8×10-13cmの剛体球と考えて,全断面積はσT 6.7×10-15cm2と評価されます。

 さらに,このσTは微細構造定数(fine-structure constant):α=e2/(4πε0cc) ~ 1/137を用いてσT=(8α2/3)π{hc/(mc)}2と表現すれば,トムソンの公式に量子論的解釈を与えることもできます。

 

 αを使えばトムソンの微分断面積もdσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cos2θ)と表わせます。

 量子論では,電子波の拡がり(半径)は大体コンプトン(Compton)波長:hc/(mc)(hc≡h/(2π))です。そこで電子雲の面積は大体π{hc/(mc)}2です。

 

 トムソン散乱では,標的の電子雲が半透明なため,そのうちの(8α2/3)~(8/3)(1/137)2だけが電磁波の散乱に寄与すると解釈されます。

 上記では,入射電磁波の波長が大きく(エネルギーが小さく)電子は強制振動を受けても束縛電子のように入射波の波長に比べ電荷の位置はほとんど変動しないという仮定の下での散乱を考察しました。

しかし,もしも入射波の波長が小さくてX線やγ線くらいになると,こうしたトムソン散乱の仮定は成立しなくなり,いわゆるコンプトン散乱(Compton scattering=自由衝突)になります。

 コンプトン散乱の微分断面積は"クライン・仁科(Klein-Nishna)の公式"dσ/dΩ={α2c2/(4m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2}に従います。

 

 そして,これを入射光子の偏りについて平均し散乱光子の偏りについて和を取ると,dσ/dΩ={α2c2/(2m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'-2sin2θ}となります。

ただし,(,ε),および(',ε')は,それぞれ入射光子,および散乱光子の波数と偏りの組です。

 

光子衝突前の電子の始運動量をpiμ,衝突後の終運動量をpfμとすると,衝突前後での4元運動量の保存式:piμ+hcμ=pfμ+hck'μが満たされます。

そこで,k=||=2π/λ,k'=|'|=2π/λ'はいわゆるコンプトン条件:k'=k/{1+(k/m)(1-cosθ)}=k/{1+(2k/m)sin2(θ/2)}(自然単位)を満たします。

低エネルギーの極限:k→ 0 ではk'/k~ 1 (弾性散乱)ですから,dσ/dΩ~ {α2c2/(2m22)}(2-sin2θ)となってトムソン散乱の微分断面積の公式:dσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cosin2θ)に一致します。この極限をトムソン極限(Thomson limit)といいます。

(2)レーリ-(Rayleigh)散乱:

電子が振動数f0=ω0/(2π)の弾性力(elastic force)により束縛されている場合:つまり近似的運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力が((t))=-mω02(t)の場合を考えます。

 

この散乱の断面積はσRと書くことにします。

このときの電子の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)+mω02(t)((t))=eε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

右辺の入射電磁波により誘起される電子の強制振動を求めたいので,(t)=exp(-iωt)(ωが一定の単色波)の形の特解を仮定して考察すれば十分です。

これを上記の運動方程式のに代入するとm02-ω2)=eε0exp(ikz0)を得ます。したがって,解は(t)=ε[eE0/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}です。

 

そこで,電子の加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

このd(t)=ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を先のトムソン散乱でのd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}と比較します。

 

今の場合,微分断面積は因子|d(t)|2が単純にトムソン散乱の同じ因子のω4/(ω02-ω2)2倍である以外トムソン散乱の微分断面積と全く同じです。

 したがって,dσR/dΩ=(dσT/dΩ){ω4/(ω02-ω2)2},σR=σT4/(ω02-ω2)2}です。また,電磁波の放射もトムソン散乱と同じく電気双極子によるものと考えることができます。

特に入射波の角振動数ωが小さくて,ω0>>ωのときにはσR ~ σT404)=σT044)となって散乱断面積は入射波の波長λの4乗に反比例します。

この全断面積σR はω02≡{e2/(4πmε0)}-3とすれば,以前の2009年10/20の雲(水滴)による光のミイ(Mie)散乱の考察の記事「光(電磁波)の散乱(2)で得たレイリー散乱の全断面積に一致します。

 

つまり,部分波展開σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlでのl=1の主要なP波項σ=(8π/3)k46 ∝k46 ∝a64に一致します。ただしk=ω/cです。

レイリー散乱は角運動量l=1の電気双極子放射項ですから,今の問題のω0>>ωの場合の束縛力による電気双極子放射が"散乱球の半径aが波長に比べて小さい(a<<λ)場合の散乱=レイリー散乱"の模型になっていると考えられます。そこで,これもレイリー散乱と呼びます。

2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」によれば,電子ではなく空気分子のような誘電体球による散乱の全断面積は,電子によるそれ:σ=σT404)=(8π/3)k46に屈折因子の入ったσ=σT |(εr-1)/(εr+2)|2404)=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2です。

 

ただし,εrは比誘電率でεr≡ε^/ε0=n^2です。(n^は屈折率)

 ところで,一般に散乱断面積には次のような意味があります。

 例えば気体なら,単位体積中にN個の気体分子がある場合,分子1個の散乱の全断面積がσなら,重ね合あわせにより厚さΔzの気体中を進むときに失われるエネルギー流の割合がNσΔzに等しい:ΔI/I=-NσΔzという意味を持ちます。

そこで,γ≡Nσと置けばγ>0 であって,I=I0exp(-γz)と書けます。この定数γを吸収係数(absorption coefficient),または減衰係数(attenuation coefficient)と呼びます。

散乱というのは全方向的にはエネルギーが失われるわけではないですが,ある一方向に進むビームのほとんどが散乱体によって方向を変えられるため,方向性を持つビームとしては実質的に減衰します。

 

そして,空気分子によるレイリー散乱では,εr≡n^2における屈折率がn^~1なので,(εr-1)/(εr+2)=(n^2-1)/(n^2+2) ~ 2(n^-1)/3と近似していいです。

また,(4πa3/3)N=1より,a6=9/(16π22)ですから,σR=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2が成立します。これから,減衰係数γについてγ=NσR ~{2k4/(3πN)}|n^-1|2なる評価式が得られます。

 

なお,繰り返しになりますが念のためk=ω/c=2π/λです。

空の色の話は既にレイリーをはじめ多くの人により文献や資料で示されていることで,いまさらという感じですが一応述べておきます。

 

散乱の減衰係数γが振動数の4乗4に比例,または波長の4乗:λ4に反比例することから,明らかに可視光域では相対的に赤色光は散乱されず紫色光が最もよく散乱されます。

そこで,入射光線の方向から離れたところで受ける光は太陽光線のエネルギー分布の中で青色の高振動数成分が最大の割合になります。

 

一方,透過光線の方はエネルギー分布の中で赤色光の割合が増えるので赤く見えますが,全体としての強度は距離と共に減衰します。

さらに定量評価を試みます。

 

可視光線(λ=4100~6500Å)での空気の屈折率n^はn^-1=2.78×10-4で与えられます。そして標準状態の空気分子の個数密度はN=2.69×1019cm-3ですから,減衰距離Λ≡γ-1(光強度Iが1/eになる距離)の典型的な値は,紫色光(λ=4100Å)でΛ=30km,緑色光(λ=5200Å)で77km,赤色光(λ=6500Å)で188kmです。

そして,重力との静力学平衡で密度が高度と共に指数関数的に変化する等温大気の模型を用いて大気の頂上と地表との相対的強度比を太陽が天頂にあるとき(南中時)と日の出,日の入りの場合に評価しました。

 

すると,太陽が天頂にあるときの強度比は赤色光,緑色光,紫色光の順に0.96,0.90,0.76ですが,同じ比率値は日の出,日の入りのときには0.21,0.024,0.000065です。

今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

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2010年4月 9日 (金)

電磁波の放射(5)(点電荷による電磁波2)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 例として,まず等速度運動中の点電荷による電磁場を考察します。

 

 加速度がゼロ:βd2d/c=0 のため,この場合の電場,磁場は先に求めた点電荷による場の強さの最終表式において,右辺第1項のみで表わされます。

すなわち(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')},(,t)={μ0ec/(4π)}{β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}です。

しかし,ここではリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie'nard-Wiechert potential):φ(,t)={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])から,直接これらを求めてみます。

等速度運動をする点電荷の軌道(t)の詳細ですが,今の場合は電荷eを持つ点粒子が時刻t=0 に原点Oにあってx軸の正の向きに一定速度=(v,0,0)で運動しているとします。

そして,任意時刻tにおける点P(x,y,z)(位置ベクトル:=(x,y,z))における場の強さを求めます。

 

この点電荷が時刻tには点Aにあるとすると,tにおいてPに生じる電磁場は点Aにある電荷によるのではなくてtよりも過去の時刻0'に別の点A0'にあった電荷を出発点とする電磁波によるものです。

点Pからx軸に下ろした垂線の足をB(x,0,0)(x> 0)とします。するとxはt=0 に原点Oからx軸に沿って出発した点電荷が点Bに達する時刻t0とx=vt0なる関係にあります。

また,ここでは一般性を失うことなく受信時刻tはt0>t>t0'を満たすと仮定します。

このとき,A0'P=R(t0')=c(t-t0'),A0'B=X(t0')=v(t0-t0')です。また,b≡BPと置くとb=(y2+z2)1/2でありR(t0')={X2(t0')+b2}1/2です。

等式:c(t-t0')={v2(t0-t0')2+b2}1/2からt0'に関する2次方程式:(c2-v2)t0'2-2(c2t-v20)t0'+c22-v202-b2=0 を得ます。

 

これと,条件t0>t>t0'によりt0'が0'=[(c2t-v20)-{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)と解けます。

これからR(t0')=c(t-t0')=c[v2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2),X(t0')=v(t0-t0')=v[c2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)です。

φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}]={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}],(,t)={eμ0/(4π)}[/{R(t0')(t0')/c}]ですから,まず,φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{v2(t0-t)2+(1-v2/c2)b2}1/2]を得ます。

さらに,vt0=x,b=(y2+z2)1/2を代入するとφ(,t)={1/(4πε0)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]です。同様に,(,t)=0/(4π)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]と書けます。

*(t)≡R(t0')(t0')/c={(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2と置けば,もっと簡単な形になってφ(,t)=e/(4πε0*),かつ(,t)=μ0/(4π*)と表現されます。

後の便宜のために,γ≡(1-v2/c2)-1/2と置いて*(t)≡(Rx*(t),Ry*(t),Rz*(t))=(x-vt,y/γ,z/γ)なるベクトルを設定するとR*(t)=|*(t)|です。

そして,電磁ポテンシャル:φ(,t)=/(4πε0*),(,t)=μ0/(4π*)やtで微分することで,E=-∇φ-∂/∂t,=∇×により,場の強さ,を得ることができます。

これらの微分は全てR*を通してのみ出現します。そして∂R*/∂t=-v(x-vt)/R*,∂R*/∂x=(x-vt)/R*,∂R*/∂y=(1-v2/c2)y/R*,∂R*/∂z=(1-v2/c2)z/R*です。

これらを用いた計算の詳細を全て省略して結果だけ書くと,電場は(,t)={1/(4πε0)}{e(1-v2/c2)(t)/*3}です。ただし(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そして,磁場は(,t)=-{μ0/(4π)}{e×∇(1/*)}={×(,t)}/c2です。

(,t)=(1-v2/c2)(t)/*3)は,ベクトル*(t)を用いると(,t)={1/(4πε0)}[e(1-v2/c2)-1/2(t)/{x*2(t)/(1-v2/c2)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2],または(,t)={1/(4πε0)}[eγ(t)/{γ2x*2(t)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2]と書けます。

 

磁場は,(,t)={×(,t)}/c2です。ここでの話ではこれの具体的形を書き下す必要はありません。

電場をもっとわかりやすく表現すれば,(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2],(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そこでv→cならγ=(1-v2/c2)-1/2→ ∞ (γ-1→ 0)より,(,t)→ 0 です。すなわち,点電荷が高速に運動する極限では電場はゼロに近づきます。

  

※(閑話):重力場に関連して電場に類似した考察をしてみます。

 

ニュートンの万有引力の法則:=-GMm/R3と特殊相対論を組み合わせてみると,静止質量がMの太陽付近を静止質量はmですが太陽に対して大きい相対速度vを持った宇宙船が通過する場合,宇宙船から見た太陽の相対論的質量はγMです。

 

また,逆に太陽静止系から見ると宇宙船の相対論的質量はγmです。そこで,いずれにしても単純に静止質量を相対論的質量に置き換えると万有引力=-GMm/R3'=-GγMm/R3に変わります。

 

質量とエネルギーの等価性,および慣性質量と重力質量の等価原理に従って実際激しい分子運動のために高温になった物体の静止質量は熱エネルギーの分だけ大きくなって秤で重さを測ると重くなっています。

 

そして,増加分の熱エネルギーは元々分子の運動エネルギーです。

 

地球上での重さというのは地球が物体に及ぼす"重力=引力"に他ならないですから,相対速度が大きくなれば引力'~γとなって重くなるというのは見当違いではないでしょう。

 

しかし,太陽と宇宙船の相対速度はほとんどゼロなのに,それを見ている観測者が大きな相対速度vで運動している場合,観測者にとって太陽と宇宙船双方の相対論的質量がγM,γmとなるため単純代入で万有引力が"=-Gγ2Mm/R3と莫大になるというのは賛同できません。

 

ここで先に求めた電場の表式に着目すると,等速度運動の点電荷による電場は(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2]です。 

  

これはv=0 の静電場0に対して~γ-20のような形で小さくなっています。

 

この電場の表式のアナロジーで重力も~γ-20のように因子γ-2で小さくなるのなら,この因子と先に書いた質量増加による"=-Gγ2Mm/R3~γ20の増加因子γ2が丁度相殺して準拠系に大して依存しない0という結果を得ます。

 

電荷は静止質量と同じく座標変換の不変量(4次元スカラー)ですが,相対論ではエネルギーと質量は等価であり,重力は静止質量だけでなく全体のエネルギー="相対論的質量=(静止質量+運動エネルギー/c2)"に比例するはずですから,電場における常識とは違います。

 

そもそも"静止質量=静止エネルギー/c2"は座標系には無関係なスカラーですが運動エネルギーを含む全エネルギーは座標系の取り方次第で際限もなく増加しますから重力の扱いというのは困ったもんです。

  

磁場に相当する磁気的重力というものがあるかも知れず,それはどういうもので系の運動と共に増加するのでしょうか?

 

かつては慣性力の反作用とか,マッハ原理に関連した記事で一般相対論に基づきHenry,Thiringの回転系による重力も計算したましたが。。

 

2006年6/30の「慣性力の反作用」,および2007年の一連の記事:2/18の「一般相対論の基礎と回転系」2/19の 「回転系の計量(メトリック)」2/21の「遠心力,コリオリ力の相対性(マッハ原理?)」を参照

 

(閑話終わり)※

 

点電荷に固定して共に運動する座標系,つまり"点電荷が静止していると見える座標系=電荷の静止系"では0,かつγ=1ですから,電場はCoulomb静電場:(,t)=e/(4πε03)に一致します。

 

そして,0 により磁場はゼロ:(,t)={×(,t)}/c2=0 ですから電磁場は静止した点電荷による純粋な静電場です。

しかし,点電荷に対して速度-で慣性運動をする座標系に移ると,その系では点電荷は速度で運動するためvが大きくなるにつれて電場は減少し,逆にvが大きくなるため磁場は(,t)={×(,t)}/c2に従って次第に増加すると思われます。

元々静止電荷の静電場のみであったのに,観測者が点電荷の系に対して運動すると共に静止電荷は"運動電荷=電流"に転化し,ゼロであった磁場が発生して増加していくという描像が具体的に示されました。

 

これは,磁場と電場が実は同根の作用で磁場は単に電場の相対論的効果であることを示唆する現象の1つです。

 

この関連については,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」や2008年5/27の記事「電磁気学と相対論(5)(真空中の電磁気学4:補遺)」も参照してください。

さて,既に述べたように等速度運動をする点電荷から生成される"電磁場のエネルギー流束=Poyntingベクトル":=(×)/μ0 ~O(R-4)によって点電荷を中心とする半径Rの球内から外部空間へと飛散するエネルギー総量は,4πR2O(R-4)~O(R-2)と評価されます。

そこで,球の半径Rを十分大きく取れば等速度運動の電荷から飛散するエネルギー総量はゼロであること,例えば電荷が加速度運動を全くしない定常電流のコイルにより生成される磁場のようなものによってエネルギーが散逸して失われることはないということがわかります。

 

(導線では,"電気抵抗による散逸=ジュール(Joule)熱"が存在して電源の起電力と相殺しますがこれは物性と関わる別の話です。)

しかし,電荷が加速度運動している場合にはそれによって生成される電磁波のエネルぎー流束のオーダーはO(R-2)の波動帯に与するため,運動に伴って電荷の持っていたエネルギーが失われてゆきます。

そこで,次には点電荷がゼロでない加速度βd2d/cを持って運動する場合を考えます。点電荷が加速されることによって電磁波を放射する現象は制動放射,または制動輻射(Bremsstrahlung)といわれます。

さて,前の記事で与えた一般的な点電荷による電場(,t),磁場(,t)の陽な表式のそれぞれで加速度因子βd2d/cを持ち,R-1(t0')に比例した大きさを持っていて波動帯に寄与する右辺第2項に着目します。

すなわち,波動帯では,(,t)={e/(4πε0)}[{(t0')-β(t0’)}{(t0')βd(t0')}-βd(t0'){1-(t0')βd(t0')}]={e/(4πε0)}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')}),かつ(,t)=-c-1(,t)×(t0')={(t0’)×(,t)}/cです。

(,t)は(,t),(t0')に垂直ですから(t0')(,t)=0 であり,波動帯では点電荷による電磁場は自由電磁波と同じ性質を持っています。

そして,ポインテイング・ベクトルは×=(×)/μ0={×(×)}/(μ0c)=2/(μ0c)です。

そこで,時刻0'に点電荷から放射された電磁波が時刻tに点で測定されるとき,単位時間に単位面積を通過するエネルギー流は(,t)=(,t)2(t0')/(μ0c)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2となります。

ただし,電場の複素表現を使用する場合はサイクル平均が<(,t)2>=|(,t)|2/2となるため<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)です。

ここで注意すべきことは(,t),または(,t)>は観測点における時間tに関する単位時間当たりの通過エネルギー量であり,時間t0'に関する点(t0')におけるそれではないということです。

 点電荷は運動しているため,仮に発信時刻t0'がT1からT2の(T2-T1)の間だけ電荷が加速されたとすると,t0'=t-|(t0')|/c, or t=t0'+|(t0’)|/cなる関係によって,(T1,T2)に放射される電磁波は観測点ではt1=T1+|(T1)|/cからt2=T2+|(T2)|/cの間の(t1,t2)に観測されます。

 つまり,で受信する時間t2-t1={T2+|(T2)|/c}-{T1+|(T1)|/c}は一般に対応する点電荷の加速時間(T2-T1)とは異なっています。いわゆるドプラー効果(Doppler effect)ですね。

 そこで,t0'∈(T1,T2)に放射された電磁波を点で受ける際の単位面積当たりの総エネルギー量EはE=∫t1t2(,t)(0)dtで与えられます。

 

 これはE=T1T2{(,t)(0')}(dt/dt0')dt0'と書けますから,発信点(t0')での時間t0'に関するエネルギー放射率の式:dE/d0'={(,t)(0')}(dt/dt0')={(,t)(0')(t0')が得られました。

 そこで,点電荷自身が単位加速時間に放射する全エネルギーdW/d0'は上記dE/d0'を半径R(t0')の球面上で積分した式dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩで与えられます。

dΩは点における面積要素dSを点電荷から見た立体角です。

既に前に定義した概念なのでさらりと流していますが,半径R(t0')の球面というのは時刻tにおいて|(0')|=c(t-t0')を満たす全ての点の集まりであることなども思い出す必要があります。

dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩに(,t)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2を代入しt0'をtと書き換えると次のようになります。

 すなわち,dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5です。ここで,α(t)=1-()β(t)なる陽な等式を用いました。これは正確な式です。

 もしも,β(t)<<1,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べてごく小さいときには,()=(t)/R(t)と加速度βd(t)=2d(t)/cのなす角をθとすれば次のようになります。

 

 dW/dt~{e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2{e2/(16π2ε0)}∫dΩ[sin2θ{βd(t)}2]です。

dΩ積分を実行するとdW/dt~ {e2/(6πε03)}{d(t)}2を得ます。この放射率の非相対論的近似式をラーモアの公式,またはラーマーの公式(Larmor's formula)といいます。

 この非相対論的近似での放射の角分布:Δ(dW/dt)/ΔΩはsin2θに比例するので,これはl=1の電気双極子放射に相当しています。

 単位時間当たりの全平均放射エネルギーPは,複素表現では<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)ですから,P=d<W>/dt={e2/(12πε03)}|d(t)|2と表わされます。

 例えば質量がmの点電荷eがz方向に調和振動をしている場合には,運動方程式mz2d=-mω02zより,z(t)=aexp(-iω0t),vd(t)=-aω02exp(-iω0t)です。

 

 そこで,ラーモアの公式からこの調和振動子の単位時間当たりの平均放射エネルギーはP=d<W>/dt={e2/(12πε03)}a2ω04で与えられることがわかります。

 次に,正確な相対論的式で特にββdが平行なときには×{(β)}×βd}=×(×βd)となるため,dW/d={e2d(t)2/(16π2ε03)}∫dΩ[sin2θ/{1-v()cosθ/c}5]です。

 

 そこで,β=v/c→ 1 に近づくにつれて放射の角分布は点電荷の進行方向に鋭く偏ってきます。(β=1ではθ=0で最大)

 1911年ラザフォード(Rutherford)は放射性元素から出るα線の原子による散乱実験を行なうに及んで,太陽系型の原子模型を提案し実験結果によく合致する結果を得ました。

 

(実はこのラザフォード模型は1904年に長岡半太郎が提案した長岡模型と同じ型の模型です。)

 しかし,これまでに示したことから原子核のまわりを回転する電子は加速度を有するため,電磁波を放射して次第にエネルギーを失なうので電子は速やかに原子核に落ち込んでしまい,この古典論の模型では原子は安定に存在することが不可能です。

 以下では,水素原子のラザフォード模型において電子が原子核に落ち込むまでの時間を評価計算します。

 ケプラー(Kepler)の法則に従う一般の楕円軌道を円軌道で特殊化しても結果には無関係なので,簡単のため電子は原子核のまわりを等速円運動しているします。そして電子の回転半径をr,速さをv,回転角速度をωとします。このときv=rωです。

電子の運動方程式はmrω2=e2/(4πε02)ですから加速度はvd=rω2=e2/(4πε0mr2)です。電子の持つエネルギーはW=(1/2)mv2-e2/(4πε0r)=-e2/(8πε0r)です。

 

そこでdW/dt={e2/(8πε02)}(dr/dt)です。

一方,ラーモアの公式dW/dt={e2/(6πε03)}{d(t)}でWが減衰するという意味で,(-)符号を取って-dW/dt={e2/(6πε03)}{vd(t)}2とした公式に,vd=e2/(4πε0mr2)を代入します。

 

すると,dW/dt=-{e2/(6πε03)}{e2/(4πε0mr2)}2が得られます。

dW/dtの2つの表現を等置すれば{e2/(8πε02)}(dr/dt)=-{e2/(6πε03)}{e2/(4πε0mr2)}2です。これから,dt=-{3/(4e4)}{(4πε0)2232}drなる関係式を得ます。

 したがって,t=0 に電子がr=aの円周上を回転運動していたとして原子核のあるr=0 に落ち込むまでの時間をτとすると,τ=∫0τdt=-(3/4){e2/(4πε0)}-223a02dr=(1/4){e2/(4πε0)}-2233となります。

 ボーア(Bohr)の前期量子論の原子模型では水素原子の最小半径はhをPlanck定数,h≡h/(2π)としてボ-ア半径B=h2/{me2/(4πε0)}={e2/(4πε0c)}–1{h/(mc)}で与えられます。

 このBを式:τ=(1/4){e2/(4πε0)}-2233の半径aに代入すると,τ=(1/4){e2/(4πε0c)}–5{h/(mc2)}=(1/4)α-5/(mc2)となります。

ただしα≡e2/(4πε0c)~ 1/137は,微細構造定数(fine-structure constant)と呼ばれる無次元(無単位)の定数です。

 

これを用いるとボーア半径もB=α-1/(mc)~137h/(mc)と簡単な形で表わされます。

一方,h/(mc)はコンプトン(Compton)波長と呼ばれる長さの次元を持つ量で量子論では質量がmの粒子の大きさの大体の目安です。

 

そこで,今の電子の場合のh/(mc2)は光が電子を横断するに要する大体の時間であると解釈されます。

 

mを電子の質量としたコンプトン波長はh/(mc)~10-11cmであり/(mc2)~10-21秒ですから,電子が原子核に落ちこむまでの時間はτ~ 1375×10-21秒 ~ 4.8×10-11秒と評価されます。

 

すなわち,古典論では電子はほとんど瞬時に原子核に吸い込まれ原子として安定に存在することは不可能です。

 

これと関連して,地球のまわりを回る月などが重力波を放射して地球に落ち込まない理由についての簡単な考察などを2006年6/28の記事「重力波」に書いています。興味がお有りなら参照してください。

 

余談ですが,かつて,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」やその関連記事で以下のようなファインマンによる?考察を書いたことを思い出しました。それはかなり重要な示唆です。

 

電場,磁場が線形な作用であって全体の場は多くの電荷による場の重ね合わせで表現できるのに対して重力場は本質的に非線形で全体の重力場が多くの星などの重力源による重力場の"重ね合わせ=単純和"にならないのは何故かということでした。

 

つまり,電磁場の実体は電荷を持つ粒子場を媒介する"電磁波=光子"ですがこれ自身は電荷を持たず電気的に中性なので2次の電磁場の源とは成り得ない故に場の線形性が保たれているわけです。

 

これに反して,重力は昔から万有引力と呼ばれているように,エネルギーさえ持っていればそれは必ず重力源になるため力を媒介する"重力波=重力子等"もそれ自身2次の重力源となってさらに3次,4次の重力源を放射するために非線形であるという考察を連想しました。

  

(弱い重力近似である非相対論のニュートンの万有引力の法則だけを考えるのなら電磁場と同じく線形なのですが。。)

余談も入りましたが今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店)

  

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2010年4月 7日 (水)

電磁波の放射(4)(点電荷による電磁波1)

 「電磁波の放射」の続きです。

 今回は点電荷(point charge)による電磁波の放射です。

 まず,点電荷の軌道(orbital)が予め与えられていると仮定して,それを(t)と記述します。

 

 点電荷の全電荷(charge)をeとすると全空間にそれだけしか存在しない場合の電荷密度はρe(,)=eδ3((t)),電流密度はe(,)=ed(t)δ3((t))です。

 

 ただし,d(t)≡d(t)/dtです。

これを,通常の真空中の電磁ポテンシャルである一般的な遅延ポテンシャル(retarded potential)の表式:φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3e(',t')/|'|,および(,t)=0/(4π)}∫d3'e(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cに代入します。

すると,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d33('-(t'))/|'|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'd(t')δ3('-(t'))/|'|;t'=t-||/cです。

これの空間積分を実行することで,例えばスカラーポテンシャル:φ(,t)はφ(,t)={e/(4πε0)}{1/|(t')|};t'=t-|'|/cになると考えがちですが,これは明らかに間違いです。

何故なら,空間積分を行なう前の被積分関数のデルタ関数はδ3('-(t'))=δ3('-(t-|'|/c))であり,の引数:t'=t-|'|/cの中に空間積分の変数'を含んでいるからです。

 そこで,計算の余計な複雑化を避けるために上記表現を得る前,つまり時間積分∫dt'を行なう前の表現式:μ(,t)=Ainμ(,t)+∫d3'∫-∞tdt'{1/(4π|'|)}δ(t-t'-|'|/c)μ(',t')まで戻ります。

 すなわち,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|を出発点にします。

 こうすれば空間積分∫d3'は直ちに実行できて,φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)/|(t')|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)d(t')/|(t')|となります。

 続いて行なうべき時間積分-∞tdt'は,空間積分の実行よりやや面倒です。そのためf(t')≡t'+|(t')|/cと定義すると,上記の電磁ポテンシャルの時間積分表式は-∞tdt'g(t')δ(t-f(t'))なる形です。

 上の最後の形の積分でy=f(t')と変数を置換します。y=f(t')がt'について,t'=f-1(y)≡h(y)のように解けるなら,dt'=(dh/dy)dyです。

 

 すると,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=∫g(h(y))(dh/dy)δ(t-)dy=g(h(t)){dh(t)/dt}と書けます。

 それ故,y=f(t')=tを満たすt'をt0'と書けばt=f(t0'), or t0'=h(t)です。

 

 そこでdh(t)/dt=dt0'/dt={df(t0')/dt0'}-1ですから,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=g(h(t)){dh(t)/dt}=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1なる表現を得ます。

 f(t0')=t0'+|(t0')|/cなので,df(t0')/dt0'=1-(1/c)[{d(t0')/dt0'}{(t0')}]/|(t0')|です。

さらに,簡単のために(0')≡{(t0')}/|(t0')|,α(0')≡df(t0')/dt0'と置きます。

 

この(0')は,物理的には時刻t=f(t0')=t0'+|(t0')|/cにで受信する電磁波の発信時刻0'における荷電粒子の位置(t0')から受信点に向かう単位ベクトルを表わしています。

 一方,α(0')=df(t0')/dt0'の具体的な形は,α(0')=1-(1/c){d(t0')/dt0'}{(t0')}/|(t0')|=1-{d(t0')(0')}/c;d(t0')≡(t0')/dt0'です。

 したがって,結局φ(,t)=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1{e/(4πε0)}{α(0')-1/|(0')|}={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,

 

 および,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])を得ます。

ただし,0'は位置における受信時刻tに対して,t0'=t-|(t0')|/cの解として得られる発信時刻です。

得られたφ(,t),(,t)の最終表式は,運動する点電荷によって生じる電磁ポテンシャルの一般表式ですが,これらは発見者の名を取ってリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie’nard-Wiechert potential)と呼ばれます。

実際に観測される電場,磁場は,=-∇φ-∂/∂t,=∇×により電磁ポテンシャル:φ,から得られるので,運動する点電荷によって生じる電場,磁場はリエナール・ウィーヘルトのポテンシャルφ,やtによる微分を取れば得ることができます。

しかし,による微分を行うには0'=t-|(t0')|/cの中のについての微分も実行する必要があります。これは,またまたかなり面倒な課題です。

そこで,上記リエナール・ウィーヘルトのポテンシャルの導出が無駄なようにも見えますが,再び表式φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,

 

(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|に戻ります。

 この表現では,に関する微分は全て被積分関数の中の引数R≡|'|を通してのみ行なえばいいことがわかります。

 

 そして,∂R/∂x=(x-x')/R etc.ですから,∇={(')/R}(∂/∂R)=(∂/∂R),ただし≡(')/|'|=/R,'です。

よって,∇φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'∫d33('-(t'))(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}です。

 さらに,(t')≡(t'),R(t')≡|(t')|,(t')≡(t')/R(t')と置きます。そして,特にt'=0'のとき(0')は前に定義した(0')に一致します。

φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[-(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 一方,∂(,t)/∂t=0e/(4π)}-∞tdt'∫d3'[{d(t')δ3('-(t'))/R}{δ(t-t'-R/c)/∂t}={-μ0/(4π)}-∞tdt'[d(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 故に,(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')-{(t')-d(t')/c}{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 -∞tdt'積分を実行すると右辺第1項は{e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}]です。

一方,第2項は{-e/(4πε0)}∫dy[(dh/dy){(t')-d(t')/c}{∂δ(t-y)/∂y}/R(t')]={e/(4πε0)}∫dyδ(t-y)(∂/∂y)[(dh/dy){(t')-d(t')/c}/R(t')]={e/(4πε0)}(∂/∂t)[(dh(t)/dt){(t0')-d(t0')/c}/R(t0')]です。

したがって,∂/∂t=α(t0')-1(∂/∂t0'),かつdh(t)/dt=α(t0')-1より(,t)={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}])が得られます。

一方,(,t)=∇×(,t)={eμ0/(4π)}-∞tdt'∫d33('-(t')){×d(t')}(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}={eμ0/(4π)}-∞tdt'[{(t')×d(t')}{-δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

結局,(,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])を得ます。

 ダブリますが見易いように要約すると,(,t) ={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0’)}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}]),

 

 (,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])です。

これらの表現式において(∂/∂t0')の項をさらに具体的に書き下すためd(t0')/dt0'を計算します。

(t0')/dt0'=(d/dt0')[{(t0')}/R(t0')]]=-d(t0')/R(t0')-[{(t0')}/2(t0')]・{d(t0')/dt0'}=[-d(t0')(t0'){(t0')d(t0')}]/(t0')です。

 ここで,×(×d)=(nzd)-d(nn)=-d(nzd)を用いると,(t0')/dt0'=(t0')×{(t0')×d(t0')}/(t0')を得ます。

 したがって,電場については(,t) ={e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(t0')(∂/∂t0'){R-1(t0')α-1(t0')}-d(t0')]/{cR2(t0')α2(t0')}-{c2α(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')-1(t0')α-1(t0')}]となります。

同様な手順ですが,磁場については最終式だけ書きます。

 

すなわち,(,t)={eμ0/(4π)}([d(t0')/{R2(t0')α2(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')R-1(t0')α-1(t0')}]×(t0'))です。

これらによると,点電荷による電磁場でも(,t)=-c-1(,t)×(t0')なる関係式が成立していることがわかります。よって,(,t)がわかれば自動的に(,t)がわかることになります。

そこで,さらに(,t)について残りの(∂/∂t0')を実行します。

 

d(t0')/dt0'=2d(t0'),およびd{R(t0')α(t0')}/dt0'=d(t0')2/c-(t0')d(t0')-R(t0'){(t0')2d(t0')}/cを用いて計算します。

本質的ではないので詳細を省略しますが,長い計算の後に(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+-1(t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')})を得ます。

 

ただし,β(t0')≡d(t0')/cです。

これから,磁場は(,t)=-c-1(,t)×(t0')={μ0ec/(4π)}({β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+[{(t0')×β(t0')}{(t0')βd(t0')}+{βd(t0')×(t0')}{1-(t0')β(t0')}]/{cR(t0')α3(t0')})となります。

(,t),(,t)の右辺第1項はR→ ∞でO(R-2)のオーダーなので,=(×)/μ0にはO(R-4)の寄与しかしないため,全方向合計では4πR2S=O(R-2)→ 0となり遠方(波動帯)には寄与しません。

 

これらの項は,βd/cのみつまり粒子の速度dのみを含んでおり,βd2d/cによる加速度2dの項を含んでいません。

 一方,(,t),(,t)の右辺第2項はR→ ∞でO(R-1)のオーダーなので,=(×)/μ0にO(R-2)の寄与をし,全方向合計では4πR2S=O(1)で放射電磁波の遠方への伝播(波動帯)に寄与します。

 

 そして,これらの項には全てβd2d/cによる加速度2dが因子として含まれています。

 

 それ故,例えば加速度2dがゼロの等速直線運動の電荷から放射される電磁波であれば,電磁場は点電荷の近傍にのみ存在して,かなり遠方にあるアンテナでも受信可能な信号電波(波動帯電磁波)として利用することができないことがわかります。

途中ですが今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

 

PS:4/7早朝に巨人の木村拓也コーチ(37)が亡くなられたという速報がありました。まだ若いのに神に愛されたのでしょうか?。。 合掌

 

 ふと掛川にいる友人の千春先生(歯科医)のことを思い出しました。

 

 十年以上も前,自分の母親のために勉強して健康になるための本を出版した直後に本人が突然クモ膜下出血で倒れられましたけれど復活なさっていると聞いています。

 

 ただ,後遺症からか記憶が数時間程度しか持たないらしいとのことなので私などはとっくに忘れられているでしょうね。

 

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2010年4月 2日 (金)

電磁波の放射(3)(多重極展開:続き)

 電磁波の放射の続きです。まだ,l=2 の項の評価が残っています。

まず2(,t)={1/(12πε0)}[(d/dr)(1/r)(d/dr){<ρe(2)(t-r/c)>/r}]={1/(12πε0)}{3r-3-2-2(d/dr)+r-1(d2/dr2)}<ρe(2)(t-r/c)>={1/(12πε0)}{3r-3+2c-1-2(d/dt)+-2-1(d2/dt2)}<ρe(2)(t-r/c)>です。

これを見ると,波動帯に寄与するO(1/r)=O(r-1)のオーダーの量はやはり2階時間微分項だけで,そのφ2φ2(,t) ~ {1/(12πε02)}(d2/dt2)}<ρe(2)(t-r/c)>で与えられます。

そして,<ρe(2)(t)>=∫ρe(',)r'22(cosθ')3'(1/2)∫ρe(',))r'2(3cos2θ'-1)d3'=(3/2)∫ρe(',t){(nr')(nr')-(1/3)r' 2}d3'=3Q(t)/2 です。

 

ただし,/rであり,Q(t)≡∫ρe(',t){(nr')(nr')-(1/3)r' 2}d3'です。

 

そこで,φ2(,t) ~ 2d(t-r/c)/(8πε02)を得ます。

一方,2(,t)={-μ0/(4π)}(d/dr){<e(1)(t-r/c)>/r}=0/(4π)} {-2-1-1(d/dt)}e(1)(t-r/c)>なので,波動帯O(1/r)に寄与する部分だけで表現すると,2(,t) ~ 0/(4πcr)}(d/dt)}<e(1)(t-r/c)>です。

 

そして,<e(1)(t)>=∫e(',t)r'cosθ'd3'=∫e(',t)(nr')d3'です。

 

これに,式:{e(',t)}×e(',t)(')-'(e(',t))を適用すると,<e(1)(t)>=∫e(',t)(nr')d3'=∫e(',t)}×3'+∫'(e(',t)n)d3'となります。

 一方,∂j'{x'k(')ej(',)}=xk'(')(div'e)+(')ek(',t)+k'(e(',))=jek(',)(')+xk'(e(',))-k'('){∂ρe(',)/∂t}です。

この両辺を体積積分すると左辺は表面積分となって消えるので,'(e(',t))d3'=-∫e(',)(')3'+∫'('){∂ρe(',)/∂t}d3'です。

 故に,∫e(',t)(')3'=(1/2)[∫e(',t)d3']×+(1/2)∫'('){∂ρe(',)/∂t}d3'を得ます。

それ故,2(,t)は磁気双極子モーメント:(t)≡(1/2)∫{×e(,t)}d3により2(,t)={μ0/(4πcr)}{d(t-r/c)×(1/2)∫ρe2d(',t-r/c)'(')3'と表わされます。 

そこで,(t)≡∫ρe(',t){'(')(1/3)r'2}d3'と定義すれば,(t)=nQ(t)で,右辺最後の積分項は∫ρe(',t-r/c)'(')3'(t-r/c)+(1/3)∫ρe(',t-r/c)r'23'の2階微分です 

 したがって,2(,t)={μ0/(4πcr)}{d(t-r/c)×(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}なる表式が得られます。

 上に得られたl=2 の電磁ポテンシャル:φ2(,t),2(,t)の波動帯表現から磁気双極子に関わる部分を取り出せば,φ2(m)(,t)=0,2(m)(,t)={μ0/(4πc)}{d(t-r/c)×}/rです。

そこで,波動帯での磁気双極子による電場,および磁場は2(m)(,t)=-∂2(m)(,t)/∂t=-{μ0/(4πc)}{2d(t-r/c)×}/r,および2(m)(,t)=∇×2(m)(,t)~{μ0/(4πc2)}[{2d(t-r/c)×]/rです。

これを見ると,やはり2(m),2(m),は互いに垂直でこの順に右手系を作り,2(m),2(m)は共に横波であると同時に|2(m)|=c|2(m)|を満たしています。

それ故,サイクル平均のエネルギー流束は,<>={c/(2μ0)}|2(m)|2となりますから,単位時間に方向へ出て行くエネルギー密度は<={μ0/(32π222)}|2d(t-r/c)|2sin2θです。 

そこで,の寄与する全方向への散逸エネルギーはP=∫dS0/(12π22)}|2d(t-r/c)|2と評価されます。 

こうした磁気双極子の振動に基づく電磁波の放射を磁気双極子放射(magnetic dipole radiation)といいます。

 一方,電気四重極モーメント:Q,またはによる部分はφ2(,t) ~ 2d(t-r/c)/(8πε02)と,2(,t)の残りの{μ0/(4πcr)}{(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}で与えられるはずです。

しかし,元々のφ(,t)の正確な展開は,φ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0(2l+1)-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(iω/c)l(1)(ωr/c)l(ωr'/c)Pl(cosθ')ρe(',t')d3'です。

前回示したように,今は被積分関数の球面ベッセル関数の因子:jl(ωr'/c)=(ω/c)l{r'l/(2l+1)!!}[1-(ω/c)2r'2/{2(2l+3)}+..]のr'~ 0 付近の展開の第1項のみを取る近似をしています。 

この近似からφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<ρe(l)(t-r/c)>/r};<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'なる表現式を得たわけです。

そして,特にφ0(,t)=/(4πε0r);q≡<ρe(l)(t-r/c)>=∫ρe(',t-r/c)d3'なる無関係な静電場を得ました。

 

しかし,もしも j0(ωr'/c)=1-(ω/c)2r'2/6+..の展開の第2項まで取れば,-(ω/c)2r'2/6 のφ0(,t)への寄与は第1項のq=<ρe(l)(t-r/c)>にして,(1/6c2)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'を代入したものになります。

この項は,先の2(e)(,t)={μ0/(4πcr)}{(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}の右辺の第2項と同じオーダーですから,これを問題にするなら,上記の項もl=2への寄与と共に考慮する必要があります。

これを考慮すると2(e)(,t)={1/(ε02)}[2d(t-r/c)/r+{1/(3r)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23’]と書けます。 

一方,2(e)(,t)={μ0/(8πc)}[2d(t-r/c)/r+{/(3r)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23’]です。

これらから得られる電場は,2(e)(,t)=-∇φ2(e)(,t)-∂2(e)(,t)/∂tですが,これへのφ2(e),2(e)の右辺第2項の寄与は{/(24πε022)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23'です。

 

また,磁場:2(e)(,t)=∇×2(e)(,t)への2(e)の右辺第2項の寄与はゼロです。そこで,結局,ポテンシャルφ2(e),2(e)の右辺第2項はO(1/r)の波動帯には寄与しません。

したがって,波動帯ではポテンシャルφ2(e),2(e)のそれぞれ右辺第1項のみを考えればいいことになります。 

すなわち,波動帯では2(e)(,t)=-∂2(e)(,t)/∂t-∇φ2(e)(,t)0/(8πc)}{-3d(t-r/c)/r+3d(t-r/c)/}=0/(8πc)}[{3d(t-r/c)×]/rです。

  

そして,2(e)(,t)=∇×2(e)(,t)~0/(8πc)}[{3d(t-r/c)×]/rが得られます。

これらを見れば,2(e),2(e)はやはり横波であって2(e)=-c×2(e)であり,|2(e)|=c|2(e)|を得ます。

そこで,双極子放射と同様に<={c/(2μ0)}|2(e)|2={μ0/(128π232)}|3d(t-r/c)×|2です。

 

全放射エネルギーへの寄与として,P=∫dS0/(128π23)}|3d(t-r/c)×|2|dΩなる評価式を得ます。 

3d(t-r/c)がに依存する方向性を持つため,電気四重極子ではその構造を詳しく指定しないと,やPの具体的な値を得ることができません。 

こうした電気四重極子による放射を電気四重極子放射(electric quadrapole radiation)と呼びます。

 短いですが今日はこのくらいにします。

 

 次回はちょっと脱線して点電荷による電磁波の放射や制動輻射(Bremsstrahlung)の古典論と量子論?を論じる予定です。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

  

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2010年3月30日 (火)

電磁波の放射(2)(多重極展開)

 「電磁波の放射」の続きです。 

静場ではなく一般の時間tに依存する電磁場の展開に移ります。 

無限に拡がった空間の中のある領域に電荷分布ρe(,t)と電流分布e(,t)があるときの電磁場の遅延ポテンシャルは(,t)=0/(4π)}∫d3'e(',t')/|'|,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3e(',t')/|'|で与えられます。

 

ただし,t'≡t-|'|/cです。 

しかし,ここではAμ(,t)=∫A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,μ(',t')=μ(',t-|'|/c)=∫s^μ(',ω)exp(-iω(t-|'|/c))dωのAμ,sμを振動数で展開した表現から出発します。

さらに,exp(-iω(t-|'|/c)=exp(iω|'|/c)exp(-iωt)なのでA^μ(,ω)=∫A^inμ(,ω)+{1/(4π)}∫d3's^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/|'|と書けます。

また,2009年10/16の記事「光(電磁波)の散乱(1)」で述べたようにz方向へ進む平面波:exp(ikz)=exp(ikrcosθ)はレーリー(Rayleigh)の公式と呼ばれる展開式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)で表現されることが知られています。

ただし,jl(x),nl(x)は球面ベッセル(Bessel)関数で,これらはjl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),nl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)で定義されます。Jl+1/2(x),Nl+1/2(x)はベッセル関数です。

また,同じベッセルの微分方程式のこれと異なる選択の独立解として球面ハンケル関数(Hankel):hl(1)(x),hl(2)(x)があります。これらはhl(1)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)+iNl+1/2(x)],hl(2)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)-iNl+1/2(x)]で定義されます。

x→ ∞でのこれらの漸近形は,それぞれ,jl(x)→ sin(x-lπ/2)/x,nl(x)→ -cos(x-lπ/2)/x,hl(1)(x)→ (-i)l+1exp(ix)/x,hl(2)(x)→ il+1exp(-ix)/xです。

さて,レイリーの公式から,より有用な公式:exp(iω|'|/c)/|'|=(iω/c)Σl=0(2l+1)jl(ωr'/c)hl(1)(ωr/c)Pl(cosχ)(r>r'>0)が得られます。

 

ただし,cosχ≡(rr')/rr'),R≡|'|=(r2+r'2-2rr'cosχ)1/2です。

これを証明します。 

(証明):ψ^(,ω)≡exp(iω|'|/c)/|'|はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.) (∇2+k2)ψ^0 (k=ω/c)の解でr>>r'のとき外向き球面波になるという境界条件を満たします。

そこで,x→ ∞でのハンケル関数l(1)(x)の漸近形(-i)l+1exp(ix)/xから,exp(iω|'|/c)/|'|=exp(ikR)/R=Σl=0l(kr')hl(1)(k)Pl(cosχ)なる展開形がわかります。

一方,左辺のψ^(,ω)'の関数と見ると'に対するヘルムホルツ方程式:(∇'2+k2)ψ^0 の解でもありますから,原点r'=0 で特異でないという条件から,exp(ikR)/R=Σl=0l(kr)jl(kr')Pl(cosχ)と展開されることがわかります。

同じRにおいて,これら2つの展開表現が両立するためには,exp(ikR)/R=Σl=0ll(kr')hl(1)(kr/c)Pl(cosχ)なる展開形を持つ必要があります。

ところで,r→ ∞では,R=|'|=(r2+r'2―2rr'cosχ)1/2 ~r-r'cosχとなるため,exp(ikR)/R ~ exp{ik(r-r'cosχ)}/rです。

また,l(1)(kr) ~ (-i)l+1exp(ikr)/(kr)ですからr→ ∞ではexp{ik(r-r'cosχ)}/r=Σl=0ll(kr')(-i)l+1exp(ikr)Pl(cosχ)/(kr)が成立します。

 故に,exp(-ikr'cosχ)=Σl=0(2l+1)(-i)l+1ll(kr')/kを得ます。

一方,先のレーリーの公式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)においてr=r',θ=π-χを代入した後,Pl(cosθ)=Pl(-cosχ)=(-1)ll(cosχ)なる関係を用いると,exp(-ikr'cosχ)=Σl=0(2l+1)(-i)ljl(kr)Pl(cosχ)となります。

したがって,lik(2l+1),すなわちexp(ik|'|)/|'|=(ik)Σl=0(2l+1)jl(kr')hl(1)(k)Pl(cosχ)なる陽な展開公式が得られます。(証明終わり) 

さて,先にμ(,t)=Ainμ(,t)+{1/(4π)}∫d3'sμ(',t-|'|/c)/|'|をμ(,t)=∫-∞A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,またはA^μ(,ω)={1/(2π)}∫-∞μ(,t)exp(iωt)dtなる展開形で書きました。

そしてμ(',t-|'|/c)=∫-∞s^μ(',ω)exp(-iω(t-|'|/c))dω=∫-∞s^μ(',ω)exp(iω|'|/c)exp(-iωt)dω,かつs^μ(,ω)={1/(2π)}∫-∞μ(,t)exp(iωt)dtです。

そこで,無限の過去(t=-∞)にはバックグラウンドの電磁場は存在してなかった:Ainμ(,t)=A^inμ(,ω)=0 という仮定の下で,A^μ(,ω)={1/(4π)}∫d3's^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/||と書けます。

μ(,t)=∫-∞dωA^μ(,ω)exp(-iωt)の右辺にA^μ(,ω)の表式を代入し,さらにA^μ(,ω)の表式の右辺にs^μ(',ω)の表式を代入して整理します。

 

すると,μ(,t)={1/(4π)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/c)sμ(',t')/|'|]を得ます。

μ(φ/c,),sμ=Jμ/(c2ε0),Jμ=(cρe,e)ですから,馴染み深い形式ではφ(,t)={1/(4πε0)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/ce(',t')/|'|],

および,(,t)=01/(4π)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/c)e(',t')/|'|]です。

まず,φ(,t)の表式の右辺の被積分関数の因子exp(iω|'|/c)/|'|に,exp(iω|'|/c)/|'|=(iω/c)Σl=0(2l+1)jl(ωr'/c)hl(1)(ωr/c)Pl(cosθ')を代入します。

するとφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0(2l+1)-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(iω/c)l(1)(ωr/c)l(ωr'/c)Pl(cosθ')ρe(',t')d3'を得ます。

ρe(,t)の分布領域が半径aの球面より内部に限られていて放射電磁波の角振動数ωがωa/c<<1を満たす,あるいはT=2π/ωなる振動周期Tまたは波長λ=cTがλ>>aを満たすと仮定します。

 

つまり,放射電磁波の波長λは電荷の存在領域:{r≦a}に比べて,はるかに大きいと仮定します。

ここでx~ 0 でのjl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x)={xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+3)}+..]なる近似展開式,およびhl(1)(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l{exp(ix)/x}を考えます。

すなわち,ωr'/c~ 0 では,jl(ωr'/c)=(ω/c)l{r'l/(2l+1)!!}[1-(ω/c)2r'2/{2(2l+3)}+..]であり,(iω/c)l(1)(ω/c)=(iω/c)(c)l(-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/(iωr/c)}です。

そこで,jl(ωr'/c)の展開の第1項を取ると(iω/c)l(1)(ωr/c)jl(ωr'/c) ~ (-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/}r'l/(2l+1)!!を得ます。

そして,<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'と置けば,φはφ(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/}<ρe(l)(t')>と表現できます。 

これはさらに,φ(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l-∞dt'δ(t-t'-r/c){<ρe(l)(t')>/r}と変形されます。

結局,最終形としてφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<ρe(l)(t-r/c)>/r};<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'が得られます。 

同様にして,(,t)=Σl=0l(,t)=0/(4π)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<e(l)(t-r/c)>/r};<e(l)(t')>≡e(',t')r'll(cosθ')3'を得ます。 

ここで,(,t)の展開で後の便宜のために添字をl→l-1(l=1,2,..)とシフトすると,(,t)=Σl=1l(,t)=0/(4π)}Σl=1{(2l-1)/(2l-1)!!}(-r)l-1{(1/r)d/dr}l-1{<e(l-1)(t-r/c)>/r}となります。 

 さて,得られた多重極展開の各項φl(,t),l(,t)を,"lが小さい順=遠方(rが大)での寄与が大きい順"に見てゆきます。

まず,l=0 ではφ0(,t)=<ρe(0)(t-r/c)>/(4πε0),0(,t)=0 です。

  

<ρe(0)(t-r/c)>=∫ρe(,t-r/c)d3は全電荷量qを示しています。そしてdq/dt=∫{∂ρe (,t)/∂t}d3=-∫div{e(,t)}d3=-∫r=∞e(,t)dS=0 なので,全電荷量qは時間的に一定不変です。

そこで,φ0(,t)=q/(4πε0)であり,これは実際上電荷がqの点電荷による静電場に過ぎませんから,電磁波の放射を問題にする今の場合はこの項を考慮する必要がありません。 

 次にl=1 のとき,φ1(,t)={-1/(4πε0)}(/dr){<ρe(1)(t-r/c)>/r}=<ρ(1)(t-r/c)>/(4πε02)+(d/dt)<ρe(1)(t-r/c)>/(4πε0cr)です。

ここで,<ρe(1)(t-r/c)>=∫ρe(',t-r/c)r'cosθ'3'=∫(')ρe(',t-r/c)d3'=np(t-r/c)と書けます。(t)≡∫ρe(,)d3は電気双極子モーメントです。

そこで,時間微分をd≡d/dtと表わせばφ1(,t)={1/(4πε0)}{np(t-r/c)/2npd(t-r/c)/(cr)}です。

 一方,1(,t)=0/(4π)}e(0)(t-r/c)>/r,<e(0)(t)>=e(,t)d3ですが,(t)≡∫ρe(,)d3よりd≡d/dt=∫{∂ρe(,)/∂t}d3=-∫div{e(,)}d3=∫e(,t)d3です。 

したがって,1(,t)=μ0d(t-r/c)/(4πr)と書けます。

 結局,l=1 の寄与は,φ1(,t)={1/(4πε0)}{np(t-r/c)/2npd(t-r/c)/(cr)},および1(,t)=μ0d(t-r/c)/(4πr)と書けます。

  

 この項の全てが電気双極子ベクトルとその時間微分の寄与で表わされるため,l=1の項による放射を電気双極子放射と呼びます。

ただし,先述したように(t-r/c)は原点Oの取り方に依存するのに対し,時間微分d(t-r/c)は原点の取り方には依りません。

次に,電気双極子放射による電場や磁場の具体的表現を得るため,ポテンシャルの空間微分を考えます。

 

まず,∂j{np(t-r/c)/2}=j{rp(t-r/c)/3}=pj(t-r/c)/33xj{rp(t-r/c)}/5-xj{rpd(t-r/c)/(c4)}より∇{np(t-r/c)/2}=(t-r/c)/33{rp(t-r/c)}/5{rpd(t-r/c)/(c4)}です。

同様にして,∇{npd(t-r/c)/(cr)}=d(t-r/c)/(c2)-2{rpd(t-r/c)}/(c4){rp2d(t-r/c)/(c23)}を得ます。

また,1(,t)/∂t={μ0/(4π)}2d(t-r/c)/r={1/(4πε0)}2d(t-r/c)/(c2)です。 

 そこで,電場は1(,t)≡-∇φ1(,t)-∂1(,t)/∂t={1/(4πε0)}[{-(t-r/c)/33{(t-r/c)}/5}+{-d(t-r/c)/(c2)+3(d(t-r/c))/5}+{-(2d(t-r/c))/(c23)+2d(t-r/c)/(c2)}]となります。

一方,磁場は1(,t)=∇×1(,t)={μ0/(4π)}{-×d(t-r/c)/r3×2d(t-r/c)/(cr2)}です。

 電場,磁場はそれぞれ,d,2dに比例する次の上添字が 0,1,2 の3種の部分に分類できます。

 すなわち,1(0)(,t)={1/(4πε0)}{-(t-r/c)/33((t-r/c))/5},1(0)(,t)=0;1(1)(,t)={1/(4πε0)}{-d(t-r/c)/(c2)+3(d(t-r/c))/5},1(1)(,t)={-μ0/(4π)}{×d(t-r/c)/r3};

 

 および,1(2)(,t)={1/(4πε0)}{(2d(t-r/c))/(c23)-2d(t-r/c)/(c2)},1(2)(,t)={-μ0/(4π)}{×2d(t-r/c)/(cr2)}です。

 

 そこで,電気双極子振動の角振動数ω=ck=2πc/λ=2π/T,または周期T=λ/cを用いて,d=-iω,2d=-ω2とし,r>>cT=λ(=2πc/ω)の遠方領域での主要項を評価して見ます。

  

 すると,1/(4πε0)=c2μ0/(4π)なので,1(0)~ -/(4πε03),1(1)/(4πε0cr2),1(1)iω(×)/(4πε023),1(2)~ω2{(pr)-r2}/(4πε023),1(2)~ω2(×)/(4πε032)です。

 

 そこで,大きさのオーダーは|1(0)|=O(1/3),|1(1)|=|c1(1)|=O(1/2),|1(2)|=|c1(2)|=O(1/)となります。

 

 よって,r>>cT=λの非常に遠方の領域では,O(1/)の1(2),1(2)だけが効いてきます。

  

 ところで,単位時間に単位面積を通過する電磁エネルギーは電磁場のポインティングベクトル(Poynting vector):×(×)/μ0で与えられます。

  

 したがって,/rと置くとr>>cT=λでの実質的なエネルギー流密度は(×)/μ01(2)×1(2)/μ0 ~{μ044/(16π2cr2)}|×|2=O(1/2)と評価されます。

このr>>cT=λの領域を波動帯と呼びます。波動帯でのl=1 の全寄与はk=2π/λより(4π2) S 2/λ4×(定数)で有限です。

 

電気双極子の加速度運動を示す2階時間微分2dによる1(2)×1(2)の寄与のみがr→ ∞で有限に留まり他の寄与は全て消えます。

 

さて,1(2)(,t)={1/(4πε0)}{(2d(t-r/c))/(c23)-2d(t-r/c)/(c2)},1(2)(,t)={-μ0/(4π)}{×2d(t-r/c)/(cr2)}を再掲します。

 

これから,1(2)(,t)={×1(2)(,t)}/c,1(2)(,t)=-c×1(2)(,t)が得られます。よって,1(2),1(2),/rは互いに垂直なベクトルで,この順に右手系を作っています。

 

つまり,波動帯における放射電磁波は真空中の自由電磁波と同じく共に横波であると同時に|1(2)|=c|1(2)|を満たしています。

 

そこで,複素表示でのエネルギー流:のサイクル平均は,<>=(1(2)×1(2)*)/(2μ0)=-(c×1(2)×1(2)*)/(2μ0)={c/(2μ0)}|1(2)|2で与えられます。

 

したがって,波動帯では<>={μ0/(32π2cr2)}|×2d(t-r/c)|2なる表式を得ます。特に角振動数がω=ckの双極子なら<>={μ044/(32π2cr2)}|×|2となります。

 

そこで,単位時間当たりに原点を中心とする半径rの球面を通って放射される双極子放射の全平均エネルギーは,P=∫<dS={μ0/(32π2c)}∫|×2d(t-r/c)|2sinθdθdφです。

 

さらに,2dの方向をθ=0 の極軸に取れば,|×2d(t-r/c)|2=|2d(t-r/c)|2sin2θです。

 

故に,<={μ0/(32π2cr2)}|2d(t-r/c)|2sin2θ,およびP={μ0/(12πc)}|2d(t-r/c)|2 なる陽な表式を得ました。特に角振動数がω=ckの双極子ならP=μ0324/(12π)です。

 

これを見ると,放射される電磁エネルギーの方向分布は双極子が加速振動する2dの方向(θ=0)ではゼロで,その垂直方向で最大であることがわかります。これが双極子放射の特徴です。

  

今日はここで終わります。

 

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

 

PS:彼の業績の詳細はわからないけどお金の使い方についてはポール・エルデシュ(Paul Erdos)は理想的で神のような人でしたね。

 

(「放浪の天才数学者エルデシュ」(The Man Who Loved Only Numbers by Paul Hoffman(平石律子 訳)(草思社)より)

 

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