103. 電磁気学・光学

2010年6月 2日 (水)

磁性の古典論

 科学記事についてはちょっと一息入れます。

 

とはいっても,避けては通れない歴史的話題です。

詳しく勉強したことがなくて得意とはいえない分野の話です。

 

さて,電場と磁場(磁束密度),および,その中を速度

運動する電荷qがある系では,電荷qがまわりの電場,磁場

によって受ける力は,=q(×)です。

電場がない特別な場合を考えると,受ける力は単に

"磁気力=Lorentzの力":=q×です。

 

そこで,ある物体の微小体積ΔVの中にこの電荷qを持つ

nΔV個のキャリア(carrier)があって,この中では電荷の

運動速度が一定なら,ΔVが全体として受ける力Δは,

Δ=nq(×)ΔVです。

nは電荷がqのキャリアの数密度を意味しますから,

(nq)電荷密度,(nq)は電流密度:を表わすため,

結局,この磁気力は,Δ(×)ΔVと書けます。

もしも,ΔVが断面積S,長さΔlの導線ならΔV=SΔl

ですから,ΔV=SΔlとなります。

 

導線の微小な断面積Sの上では電流密度の大きさも向きも

一様なら,この導線を流れる電流(※導線の任意断面を単位時間

に通過する全電荷)は,=∫SdS=Sで与えられます。

結局=(×)ΔV=(×)SΔl=(×)Δl

です。

ここで注目すべきことの1つは,キャリアの電荷qの符号

の正負を決めてないことです。

 

つまり,受ける磁気力Δは電流の向きには依存しますが,

電流の源である電荷の符号の正負には依存しません。

 

したがって,磁力の向きを測ることだけから電流のキャリア電荷

の符号は決定できませんね。

 

(※PS:ちなみに,ホール効果(Hall effect)を測定すればキャリア

が正か負かの符号を決定できるはずです。)

さて,ある微小回路(circuit)C上を流れる定常電流が存在

して,これが外部磁場の影響を受けている場合を想定します。

特にCの内部が面積Aの平面領域を構成すると仮定してこの

平面上Cの内側に原点Oを取り,をC上の点の位置ベクトル

としてにおける電流を()と表記すれば,ループ電流に

働く力は,∫C=∫C{(}dsです。

ただしds=|d|です。

ところが,電流()は大きさIが一定で向きは線素の向き

と同じですから,()ds=Idと書けます。

 

故に,d=I(d×)-I(×d)であり,合力は

=∫C=-I∫C(×d)です。

さらに,電流が流れているループCが微小でC上では外部磁場

が一定と見なせるなら,

回路に働く合力:Fは,=-I×∫C=0 です。

しかし,微小回路Cは面積Aを囲むループであって完全な点では

ないので,回路に働く力:=∫Cはゼロでも,"トルク(torque)

=力のモーメント":τ=∫C×dは偶力のような形で存在して

ゼロでない可能性があります。

 実際,磁場が存在するときに,電流がIの微小回路Cでは,

 τ=∫C×d=-I∫C×(×d)です。

 公式:×(×)=(AC)-(AB)より,

×(×d)=()-(rB)dですが,

=0ですから,τ=I∫C(rB)dr を得ます。

ところで,に依らない場合,

d{(rB)}(rB)+()

なる式が成立します。

 

これと,恒等式:(×=(rB)-()

を辺々加え合わせると,

d{(rB)}+(×=2(rB)r です。

この式の左辺:{(rB)}をC上で積分するとゼロですから,

これを利用すると,∫C(rB)d=(1/2)∫C(×

を得ます。

 

故に,τ=I∫C(rB)d(I/2)∫C(×

が得られます。

他方,微小な環状電流の磁気双極子モーメントは,

μ=(I/2)[∫C(×d)]=IAですから,結局C全体

トルクとして,τ=I∫C(rB)dμ×

なる表現を得ます。

ところで,対象としている系が単一の質点であれば,その運動

エネルギーTは,T=(1/2)m22/(2m) だけです。


 しかし,系が質点系,または大きさのある物体の場合には,

一般には全体として角運動量(古典的には軌道角運動量)を

持って回転していて重心運動のエネルギー:2/(2m)の他

に回転エネルギーがあります。

軸が一定で,そのまわりの慣性モーメントがIMの場合,回転角

をθとすると,トータルの運動エネルギーは,

T=(1/2)m2+(1/2)IM(dθ/dt)2

2/(2m)+2/(2IM)です。

 

ただし,は系の重心運動量で=m;は重心の運動速度

です。

また,は系の角運動量で回転軸の単位ベクトルを

すると,=IM(dθ/dt)です。

 すると,系の運動を支配する基本方程式系は,d/dt=,

および,d/dt=τです。

 

 特に,保存力の場合には,位置エネルギーU=U(,θ)が

存在して,=-∇U,τθ-∂U/∂θと書けます。

 

ただし,τθτのθ方向(回転の接線方向)の成分,

重心位置です。

そこで,dT/dt=(d/dt){2/(2m)+2/(2IM)}

=(d/dt)(/m)+(d/dt)(/IM)

(d/dt)+τθ(dθ/dt)

=-∇U(d/dt)-(∂U/∂θ)(dθ/dt)

=-dU/dtです。

 

 これによって,力学的エネルギーの保存則:

d(T+U)/dt=0 が実現されます。

今の微小回路Cと磁場だけが存在する系のように,がゼロ

ときには,トルクτθ-∂U/∂θを満たすトルクτのみが

存在します。

トルクτμ×のθ成分:τθはθが増加するのを妨げる向き

に働くので,τθμBsinθ=-dU/dθより,

位置エネルギーUは積分定数を除いて,

U=μB∫sinθdθ=-μBcosθ=-μB

を得ます。

一方,中心にある核のまわりを電子が周回しているという

原子の古典模型を想定して原子中の電子の運動をその軌道

ループC上を流れる電流と同定することを考えます。

簡単のため,原子は電子が1個だけの水素様電子を想定して,

この電子の軌道Cは核を中心とする半径a,角速度ω

等速円運動とします。

 

すると,回転の速さvはv=aωであり回転の周期は

T=2π/ω=2πa/vです。

環状回路Cを周期Tで電荷:-e(e>0)の電子が周回するとき

の電流(=回路C上の任意の点を単位時間に通過する平均電荷量)

=-e/T=-eω/()で,

磁気モーメントは,μ(I/2)∫C(×d)です。

一方,周回電子の位置ベクトルをとすると,

"角運動量=軌道角運動量"は,

×=m×=m×(/dt) です。

 

そして,T=0Tdt=mC(×d)2mμ/

ですから,結局,μ(I/2m)です

こうして,電子の磁気モーメントμとその軌道角運動量

よく知られた比例関係:

μ={/(2m)}={-e/(2m)}

を得ました。

さらに,水素様原子という特殊系でなく重ね合わせの原理が

成立するとして一般の多電子原子でもこの関係は保持される

と考えられます。

 

巨視的個数の原子から成る物体系でトータルN個の電子の

各々の磁気モーメントと軌道角運動量の総和を考えます。

 

物体内の各々の電子の角運動量,磁気モ-メントを,それぞれ

j,μj{-e/(2m)}jとすると,全系の"磁化ベクトル

=磁気双極子の総和"は=Σj=1Nμjですから,

{-e/(2m)}Σj=1Njです。
 

この電子系の総位置エネルギーはU=-MBと書けます。

ところで,ファインマン物理学の第Ⅳ巻「

電磁波と物性」(岩波書店)の"物質の磁性"の章の中では,

"古典物理では物質の磁性を説明できないこと"をほとんど文章

だけで説明しています。

 

これは,昔初めて読んだ頃の私には,とても奇妙でわかりにくい

という印象がありました。

これについては,以後もとても気になっていたのですが,後に

「ボーア-ファン・リューエンの定理

(Bohr-Van・Leeuwen's theorem)」と呼ばれる統計力学の定理

の説明であることを知りました。

いや,実は定理の詳しい名称は現在は覚えてなかったのですが,

今はネット検索があるので便利な時代ですね。

この定理は,熱力学や統計力学関連のことなら何でも載って

いる百科全書的な演習書:久保亮五 著「熱学 統計力学」

(裳華房)に,ほとんど目立たぬ程度にさらりと載っています。

 

これが紹介されているのは,この本の第6章

「カノニカル分布の応用」の演習問題[C]の問題[27]です。

[27]:古典力学,古典統計にしたがう体系では磁化率は厳密に

ゼロであることを証明せよ。(Bohr-Van・Leeuwenの定理)

(※ヒント:磁場を導くベクトル・ポテンシャルをとすると,磁場

がある場合の荷電粒子系のHamiltonianは,

=Σj=1N{1/(2mj)}{j+e(j)}2+U(1,..,N)

と書かれる。)

これの解答もちゃんと載っていました。

分配関数Z=∫..∫exp{-/(kBT)}d31..d3N

31..d3N  ,は,Hamiltonianが磁場が無い場合の

=Σj=1N[j2+/(2mj)+U(1,..,N)]でも,磁場がある

場合の=Σj=1N[{j+e(j)}2/(2mj)+U(1,..,N)]

でも同じになります。

これは,運動量積分d31..d3N 積分範囲が全運動量空間

なので,結果としてこの部分は磁場に無関係な(2πmkBT)N/2

になるからです。

Fredholmの自由エネルギーFをカノニカル分布の分配関数Z

で表現すると,F=E-TS=-NkBTlnZであり,磁化

=-∂F/∂で与えられます。

 

任意の物理系で分配関数Zがによらないという上記結果は,

統計力学に従う熱平衡系では,磁化 or 磁気モーメントは常に

ゼロであることを意味します。※

さて,本ブログの2008年4/9の過去記事

磁場の中の原子(ゼーマン効果)(2)」で述べたように,

Larmor(ラーモア)の定理というものがあります。

すなわち,トルクτが存在するとき電子の角運動量が従う

方程式は,/dt=τです。

 

そして,外部磁場が存在するとき,磁化:={-e/(2m)}

が存在すればトルクはτ×{-e/(2m)}×です。

このゼロでないトルクの存在により,の従う方程式は,

/dt={-e/(2m)}×となります。

 

電子系が力を受けるため,はもはや一定の向きを保持できません。

この運動では,磁場の方向をz軸にとればdLz/dt=0

となり,Lzは時間的に一定で保存されますから,の運動は

磁場の向きを歳差の回転軸とする歳差運動(precession)

です。

 

   

 

この歳差運動によるLarmorの反磁性理論は次の通りです。

電子質量をmとするとその角運動量は×=m×です。

半径a,角速度をωで円運動する場合にはL=ma2ωです。

特に磁場が全くないとき,電子の同じ円軌道の角速度を特にω0

とするとCoulombの法則によって:maω02=e2/(4πε02)

です。

 

この運動では,L=ma2ω0です。

 磁場が存在する場合には,上記のLarmorの歳差運動の式:

/dt={-e/(2m)}×に代入すると,

ma2(dω/dt)={-e/(2m)}ma2ωBsinθ,

dω/dt=-{e/(2m)}ωBsinθ となります。

 

 θは歳差運動しているとなす角です。

最後の式は,(dv/dt)=-eaωBsinθですから,

Coulomb電気力と磁場の両方があれば,

maω22/(4πε02)-eaωBsinθなる等式が

成立するはずです。

 

故に,ω2-ω02=(-e/m)ωBsinθですからの存在に

よる角速度の変化:Δω=ω-ω0は,1次近似で,

Δω~ -{e/(2m)}Bsinθ です。

 

この角速度の変化は磁気モーメント:

μ={-e/(2m)}LをΔμ={-e/(2m)}Δ

={-e/(2m)}(ma2Δω)=-{22/(4m)}Bsinθ

だけシフトさせます。

 

L=m2ω,224ω2ですから,

Δμ=-{e/(2m)}ΔL=-{e/(2m)}(ma2Δω)

=-{22/(4m)}Bsinθ です。

 

結局,Δμ=-{22/(4m32ω2)}Bsinθ

が得られました。

 

この効果をLarmorの反磁性といいます。

ところで,統計力学の熱平衡でのエネルギー等分配則によれば,

平均値として,(1/2)<mv2>=(1/2)<ma2ω2>=(3/2)kB

なので,熱平衡では,

 

Δμ=-{22/(12m2B)}sinθと結論されます。

 

よって,系全体の反磁性効果は,

Δ=NΔμ=-{Ne22/(12m2BT)}B ですね。

一方,常磁性の話は,2008年4/15の記事

磁性の話(キュリーの法則) 」で書いた,

=χ=(χ/μ0)の比例係数で定義される磁化率:χに

対するCurie(キュリー)の法則:χ=C/T;

C≡NμB2μ0J 2(J+1)/(3kB)の古典論版で

与えられます。

 

ただし,μBはボーア磁子(Bohr magneton)です。

 

μ=-gJμBμ=-{e/(2m)}とを比較して,

J=1,-μB →e/(2m)として,さらにJ(J+1)をL2

置き換えて古典論に翻訳すると.

χ/μ0Ne22/(12m2B)なる表現を得ます。

 

しかし,横着をせず直接に熱平衡での統計的平均値としての

古典的磁化M(B,T)を計算してみます。

 

古典論では軌道角運動量に対してその磁場方向の成分

はLz=Lcosθであり任意の角度θを連続的に取ることが

可能です。

  

M(B,T)

=N∫-11d(cosθ){-eLcosθ/(2m)}

exp{-eLBcosθ/(2mB)}

/∫-11d(cosθ)exp{-eLBcosθ/(2mB)}

=NB-1(∂/∂β)ln∫-11d(cosθ)exp{-eβLBcosθ/(2m)}]

です。

 

すなわち,

M(B,T)=NB-1(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}]

です。

 

χ/μ0を得るためB→0 の極限での

M(B,T)/B

=NB-2(∂/∂β)ln{(ieβLB/m)sin{eβLB/(2m)}

=NB-2[1/β-{eLB/(2m)}cos{eβLB/(2m)}

/sin{eβLB/(2m)}を求めます。

 

結局,M(B,T)/B→χ/μ0

=NB-2[1/β-(1/β)(1-(1/3){eβLB/(2m)}2]

=Ne22β/(12m2)

=Ne22/(12m2B) です。

 

こうして,先の量子論でのCurieの法則の古典論への置き換え

と同じ結果を得ました。

 

こうした常磁性に対する理論は基本的にLangevin(ランジュバン)

理論と呼ばれます。

 

これは,Pierre Curie(ピエール・キュリー)が

Curieの法則:χ=C/Tを実験的に発見した後,

Paul Langevin(ポール・ランジュバン)がその法則を裏付ける

ために発見した理論です。

 

上記の導出からわかるように,このCurie-Langevinの法則は,

,またはが小さいときにだけ成立する法則です。

 

こうした常磁性磁化:=(χ/μ0)は,先に述べたLarmorの

反磁性の磁化シフトΔ=-{Ne22/(12m2BT)}(1次近似)

によって相殺されゼロとなります。

 

よって,この結果はこうした型の反磁性,常磁性の存在を古典的

には説明できないことを示すもので,先述の

Bohr-Van・Leeuwenの定理を一部裏付けるものです。

 

さて,以上の古典論ではスピン(spin)角運動量の存在を考慮

していません。


 
スピンがあると仮定した場合には,束縛電子の全角運動量は

です。

 

そこで,対応して原子内電子による全磁気モーメントも

μμLμと分解表現してみます。

 

それぞれの型の磁気モーメントと角運動量の比例関係を古典論

との対応でμL={gLe/(2m)},μs={gse/(2m)}

と表わして磁気回転比(gyromagnetic-ratio)gL,gsを定義

するとgL=1,gs~ 2です。

 

したがって,スピンを考慮すると電子の磁気モーメントは

μ~ {e/(2m)}(+2)となって単純に角運動量:

との比例関係では表わせません。

 

(スピンの磁気回転比が2であることの古典的根拠に関しては

2008年4/5の記事「磁場の中の原子(ゼーマン効果)(1)

のThomas歳差運動の関連の話を参照して下さい。)

 

スピンが存在する理論と古典論との対応を考えると,磁気回転比

の相違のため量子論では上記の意味での反磁性と常磁性の相殺

は起きず,反磁性か常磁性のいずれかが発現する可能性が

考えられます。

 

最初は強磁性の古典的話も書くつもりでしたが,後の機会に

まわすことにします。

(参考文献):R.P.Feynman(戸田盛和訳):ファインマン物理学Ⅳ

「電磁波と物性」(岩波書店),

久保亮五著 大学演習「熱学 統計力学」(裳華房),

 

砂川重信著「理論電磁気学」(第2版)(紀伊国屋書店),

志村史夫監修,中村久理真著「したしむ磁性」(朝倉書店)

 

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2010年4月13日 (火)

電磁波の放射(7)(点電荷による電磁波4:場の反作用)

 電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。最後に放射の反作用について記述して古典論を終わります。 

 点電荷が加速されていると,それは電磁波を放射します。そこで,外部からの補償が無ければ放射に伴なって点電荷自身の力学的エネルギーが減少します。

 

 この作用を電磁波の放射の反作用(reaction)といいます。

 こうした反作用は電荷の運動に対する減衰力として運動方程式に反映されます。以下,減衰力をエネルギーの保存則に従って導きます。

「電磁波の放射(5)」ではβ(t)=v(t)/c<<1のとき,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べて小さいときには単位加速時間当たりの放射エネルギーがdW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ[(t)×{(t)×βd(t)}]2={e2/(6πε03)}d(t)2 (Larmorの公式)で与えられることを見ました。

 仮に点電荷は周期運動をしていて,ある2つの時刻t1,t2において(t1)=(t2)=0 を満たすとします。

 そして,t∈[t1,t2]において減衰力(t)が存在するとすれば,エネルギー保存則から,この時間の間に(t)が点電荷になす仕事は同じ時間の放射による点電荷のエネルギー減衰量に等しいはずです。

すなわち,∫t1t2(t)(t)dt=-{e2/(6πε0)}∫t1t2d(t)2dt=-{e2/(6πε03)}{[d(t)(t)]t1t2-∫t1t22d(t)d(t)dt}={e2/(6πε03)}∫t1t22d(t)(t)dtです。

 

つまり,∫t1t2[(t)-{e2/(6πε03)}2d(t)](t)dt=0 が成立します。

したがって,(t)={e2/(6π2ε03)}2d(t)と置けばエネルギーの均衡が保たれることになります。

この減衰力の表式を(t)=(2/3){e2/(4πε0c)}{hc/(mc2)}m2d(t)と書けば,特に点電荷が電子の場合には微細構造定数:α≡e2/(4πε0c)}~ 1/137により(t)=(2/3)α{hc/(mc2)}m2d(t)となって簡明な表現になります。

電子の場合には,上記のd/dt=m2d(t)の係数はT0=(2/3)α{hc/(mc2)}~ (2/3)(1/137)10-21秒 ~ 10-23秒程度です。これは非常に小さい値です。

(t)=T0(d/dt)ですが,この周期運動で加速度が変化をする時間の長さをT≡t2-t1と置けば,一般にT>>T0と考えられますから,(t)~(T0/T)[d/dt]t1t2=(T0/T){(t2)-p(t1)}となって減衰力(t)はきわめて小さいことがわかります。

 巨視的物体の場合には,質量mはさらに大きいため,T0(2/3)α{hc/(mc2)}は電子の場合よりさらに小さいので電磁波の放射の反作用は無視できると考えられます。

 以上から,v<<cなら質量がm,電荷がeの1個の点電荷が外力によって加速され電磁波を放射しながら運動するときの運動方程式は,m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で与えられることがわかります。

 微分方程式の本質的性格は係数がいかに小さくても最高階の微分を含む項によって決定付けられます。 

そこで,この加速度の時間微分をも含む微分方程式は,"ある時刻に位置と速度が与えられると以後の軌道が決まる。"という因果性に従うニュートンの方程式から予想される以外の解を持つ可能性があります。

実際,例えば方程式:m{d2(t)/dt2}=((t))+{e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3}で外力がない場合:=0 の場合を考えるとm{d2(t)/dt2}={e2/(6π2ε03)}{d3(t)/dt3},またはmd(t)=T0{m2d(t)}です。

電子が力を受けず自由運動をするケースですから,加速度が恒等的にゼロ:d(t)=d2(t)/dt2 ≡0 なる解も可能なはずです。実際,このときには2d(t)=d3(t)/dt3≡0 より減衰力も(t)≡0 となって確かに解になっています。

 一方,md(t)=T0{m2d(t)}より2d(t)=d(t)/T0なので,素直に積分するとd(t)=d(0)exp(t/T0)なる解を得ます。この解は外力がゼロなのに,tが大きくなると加速度dが際限なく増大するという内容です。

 物理的に考えると,これは明らかに不合理です。なぜ,こうした解が得られたかの理由について,すぐ気付くことは外力がゼロのときのこの解では運動が周期的で,時刻t1≠t2(t1)=(t2)=0 であるという条件が満たされてないことです。

 そこで,これの解決のため電子の非周期運動も包括した対象電子を含む電荷群と電磁場が共存する現実的な系で考察します。

電磁場の基本方程式はマクスウェルの方程式系:∇×(,t)+∂(,t)=0,∇(,t)=0,および∇×(,t)-∂(,t)=0(,t)+Σk≠0k(,t),∇(,t)=ρ0(,t)+Σk≠0ρk(,t)です。ただし0,=ε0です。

 ただし,ρ0,0を考察対象の電子の電荷密度,電流密度とし,それ以外の電荷(帯電体)の電荷密度,電流密度ρk,k(k≠0)と区別しました。

 

 また,電子は極めて小さいけれど大きさは有限であり,特に半径がa0の剛体球であると仮定します。

 一方,電子自体の運動方程式は,後の便宜上電子の質量m,軌道に下添字 0 を付けると,m0{d20(t)/dt2}=∫d30(,t)(,t)+0(,t)×(,t)}と表わされます。

これら微分方程式系では,電磁場の基本方程式における"物理量=場の量"も電子の運動方程式における物理量も全て未知量です。 

 対象とする電子の電荷,電流ρ0,0が作る電磁場0,0の自分自身へ及ぼす力(自己力:self-force)というものを考察するために,(,t)=0(,t)+1(,t),(,t)=0(,t)+1(,t)のように全体の場を分離します。

マクスウェルの方程式の線形性から,これらの場が従う微分方程式も∇×0(,t)+∂0(,t)=0,∇0(,t)=0,∇×0(,t)-∂0(,t)=0(,t),∇0(,t)=ρ0(,t),

  

および,∇×1(,t)+∂1(,t)=0,∇1(,t)=0,∇×1(,t)-∂1(,t)=Σk≠0k(,t),∇1(,t)=Σk≠0ρk(,t)と分離できます。

 

一方,電子の運動方程式も分離されて,m0{d20(t)/dt2}=01と書けます。

 

ただし,0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)},および1=∫d30(,t)1(,t)+0(,t)×1(,t)}です。この0が自己力を表現しています。

 自己電磁場の方程式部分を形式的に解けば0(,t)={1/(4πε0)}∫d3'{ρ0(',t')/|'|,0(,t)={μ0/(4π)}∫d3'{0(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cです。

 これを0=∫d30(,t)0(,t)+0(,t)×0(,t)}に代入します。ただし電子の速度0の大きさは光速cに比べて十分小さいとして0の1次の項だけを考えることにします。

0(,t)が0に比例するので,00に比例します。したがって,0=∇×00に比例しますから0(,t)×0(,t)は0の2次の量となるため,磁場の関係する項の寄与を無視します。

 すると,運動方程式は,m0{d20(t)/dt2}=1+∫d3ρ0(,t)0(,t)=1-∫d3ρ0(,t){∇φ0(,t)+∂0(,t)/∂t}=1-{1/(4πε0)}∫d3ρ0(,t)[∇∫d3'{ρ0(',t')/|'|+c-2(∂/∂t)∫d3'{0(',t')/|'|}となります。

 右辺の2つの空間積分∫d3,∫d3'はいずれも微小半径a0の球状電子の内部が積分範囲ですから,寄与する発信時刻t'=t-|'|/cはt'=t-a0/c程度であり,電子内の各点で発信時刻t'の関数で示されている量はtのまわりにテイラー(Taylor)展開できます。

 すなわち0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂nρ0(‘,t)/∂tn}/n!],0(',t-R/c)=Σn=0[(-R/c)n{∂n0(',t)/∂tn}/n!];',R≡||です。

これを0の表現式に代入すると,電子の運動方程式はm0{d20(t)/dt2}=1-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn!){∫d330(,t)[{∂nρ0(',t)/∂tn}{∇(R/c)n-1}+c-2(R/c)n-1{∂n+10(',t)/∂tn+1}]となります。

このうちスカラーポテンシャルφ0からの寄与の一部を考えます。 

右辺のn=0 の項は-{1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)∇(R-1)]={1/(4πε0)}∫d33'[ρ0(,t)ρ0(',t)(')/|'|3]ですが,被積分関数が,'の交換について反対称なのでこの項は消えます。

また,n=1の項も∇R-2≡0 より,やはり消えます。

そこで,φ0からの寄与の項では添字をn→n+2とシフトして,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!){∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){0(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/{(n+1)(n+2)Rn-1}と書きます。

右辺の項の∫d3'積分の因子は∫d3'[Rn-10(',t)+{∂ρ0(',t)/∂t}∇(Rn+1)/(n+1)(n+2)]=∫d3'[Rn-10(',t)-∇0(',t)Rn∇R/(n+2)]です。

 

さらに変形して,∫d3'[Rn-10(',t)+{0(',t)∇}Rn-1/(n+2)]=∫d3'Rn-1[{(n+1)/(n+2)}0(',t)-{(n-1)/(n+2){0(',t)}/R2}を得ます。

 今は電子を微小な剛体球としているので,0(',t)=ρ0(',t)0(t)と書けます。

そこで,上記積分結果のベクトルでその第i成分はΣj=13∫d3'Rn-1ρ0(',t)v0j(t)[{(n+1)/(n+2)}δij-{(n-1)/(n+2)}Rij/R2]と表わされます。

さらに,∫d3積分を実行すると対称性からRijを(1/3)R2δijと置いてよいので,(2/3)v0i(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)です。

 

これをベクトル表現で書けば,(2/3)0(t)∫d3'Rn-1ρ0(',t)となります。

 

それ故,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'[Rn-1ρ0(,t)(∂n+1/∂tn+1){ρ0(',t)0(t)}]です。

右辺の時間微分で電荷密度ρ0(',t)の時間微分は∂ρ0(',t)/∂t=-∇0(',t)であり,電流密度は0(',t)=ρ0(',t)0(t)ですから,積ρ0(',t)0(t)は0(t)の2次以上になるため省略します。

すると,0=-{1/(4πε0)}Σn=0[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)∫d33'{ρ0(,t)Rn-1ρ0(',t)}{dn+10(t)/dtn+1}です。

この右辺の級数の最初の数項を評価します。

 

まず,n=0 の項0(0)0(0)=-{1/(4πε02)}(2/3)∫d33'{ρ0(,t)ρ0(',t)/|'|}0d(t)です。

ここで電子の自己エネルギーW=∫ρ0φdVはW≡{1/(4πε02)}(1/2)∫d330(,t)ρ0(',t)/|'|=e2/(4πε00)で定義されますから,0(0)はこれを用いて0(0)=-{4W/(3c2)}0d(t)と表現できます。

次にn=1のときは,0(1)={1/(4πε03)}Σn=0[(2/3)∫d330(,t)ρ0(',t)02d(t)={e2/(6πε03)}02d(t)ですが,これは先に周期運動を仮定して求めた減衰力に一致しています。

n≧2に対しては,0(n)=-{1/(4πε03)}[(-1)n/(cn+2n!)(2/3)<a0n-10(n+1)(t)です。ただし,<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)です。

 

これらは電子の内部構造には無関係な量です。

こうして,自己力の作用の下での電子の運動方程式がm00d(t)=1-{4W/(3c2)}0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..となることがわかりました。

 

これは,me≡{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}と置くと(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..と書けます。

e{4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}は電子がそのまわりに静電場を作ることに基づく電磁的質量と解釈されます。しかし実は係数4/3の存在は特殊相対論の要求と矛盾します。

 

これについては,2008年12/20の記事「運動物質内の相対論(7)(電子の古典模型)」に詳細に書きましたが,このシリーズの(1)~(6)の続きなので順に参照する必要があるかもしれません。

 

その問題はさておき,運動方程式の(m0+me)0 d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..なる形は力学的質量m0に対し現実に観測される電子の電荷がm≡(m0+me)であると考えることができます。

 

量子電磁力学のくりこみ(renormarization)では,m0を裸の質量(bare-mass),meを着物の質量(mass of dress),mを着物を着た質量(dressed-mass)と呼びます。

得られた電子の運動方程式:(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)+..は周期運動,非周期運動に関わらず成立します。

 

そこで,この方程式表現でも1=0 のときの解として,先の不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)の存在を免れません。

しかし,この運動方程式は0,0d,02d..がこれらの2乗が無視できるほど小さいと仮定したときに成立する近似方程式であることを思い出します。不合理解:d(t)=d(0)exp(t/T0)はこうした条件を満足しないため,物理的には許されないはずです。

これまでの議論では電子は半径がa0の剛体球としましたが,そもそも剛体球という概念はローレンツ不変(Lorentz invariant)ではないので,a0が有限である限り,n≧2の<a0n-1>の因子を含む運動方程式m00d(t)=1-{4W/(3c2)}W0d(t)+{e2/(6πε03)}02d(t)+..を相対論的に共変な方程式に拡張することはできません。

そこで,共変性のためa0→ 0 とすると,n≧2 の<a0n-1>≡∫d330(,t)|'|n-1ρ0(',t)は全てゼロになり消えるため,電子の方程式は,(m0+me)0d(t)=1+{e2/(6πε03)}02d(t)となります。

しかし,e={4W/(3c2)}=(4/3){e2/(4πε020)}なので,a0→ 0とするとW→ ∞,かつme→ ∞となってしまいます。

 

それ故,a0→ 0 とした相対論的に共変な理論では自己エネルギーWの発散を免れることはできません。逆に自己エネルギーを有限にしようとすれば相対論と矛盾します。

 

こうした困難は量子論にも受け継がれ,摂動の収束性と相俟って理論の最大の難点となっています。

 

関連記事として2006年12/21の「電子の自己エネルギーとディラックの海」,2008年5/8の「自己力と自己エネルギー」も参照して下さい。

 

この記事をもって電磁波放射の古典論のシリーズを終わります。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店) ),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店) 

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2010年4月12日 (月)

電磁波の放射(6)(点電荷による電磁波3:散乱)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 γ崩壊に利するために電磁場の多重極展開を復習するという初期の目的からは既にかなり逸脱しました。そのついでに点電荷による電磁波(光)の古典的散乱も記述しておきます。

点電荷が電磁波を放射しながら加速度運動をしているとき,系の外部から別の電磁波が入射して点電荷を加速し電磁波の放射を促す場合を想定してみます。

 

これは点電荷による電磁波の散乱(scattering),あるいは電磁波と点電荷の衝突(collision)とみなすことができます。

 外力の作用の下にある点電荷に平面波in,inが入射するときの点電荷の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)=((t))+e[in((t),t)+(t)×in((t),t)]で与えられます。

 

 ただし,(t)≡d(t)/dt=d(t)です。

 in,inは自由電磁波なので,|in|=|in|/cです。そこで,点電荷の速さvがcに比べて小さい場合を想定しているので,電気力einに比べて磁場による力e×inを無視します。

 また,入射電磁波による強制振動で生じる点電荷の位置の変化は入射波の波長に比べごく小さいと仮定して,in((t),t)の引数の(t)を電荷の平均的位置0で置き換える近似をするとin((t),t)~ in(0,t)=ε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

 ただしεは"電磁波の偏り=偏光"を示す単位べくトルです。

 これらの近似の結果,点電荷の運動方程式はm(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}と簡単になります。

一方,既に示したように点電荷による放射率Pの正確な式は,P=dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5 (β(t)≡(t)/c)です。

この式から,β<<1のときのラーモア(Larmor)の公式を得た際に,途中計算で得た平均放射率Pの非相対論的近似式はP=d<W>/d={e2/(32π2ε0)}∫dΩ|(t)×{(t)×βd(t)}|2でした。

そこで,今のv<<cという仮定の下で,単位時間に単位立体角の中に放射される平均エネルギーはdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2で与えられます。

 

d(t)=d(t)/dt=2d(t)(加速度)です。

一方,単位面積当たりに入射する入射波の平均強度(=単位時間に単位面積を通過する入射エネルギー)は,明らかに<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2です。

そして,散乱における微分断面積(differetial cross section)dσ/dΩは,"(単位時間,単位立体角当たりを通過する散乱波のエネルギー)=(散乱強度(insistency of scattering))"dP/dΩの入射波の平均強度<Sin>に対する比で定義されます。

 

すなわち,dσ/dΩ≡(dP/dΩ)/<Sinです。

 

この定義式にdP/dΩ={e2/(32π2ε03)}|(t)×{(t)×d(t)}|2,および<Sin>=E02/(2μ0)=ε0cE02/2を代入すると,散乱の微分断面積の式dσ/dΩ=[e2/{(4πε02)202}]|(t)×{(t)×d(t)}|2が得られます。

 さて,上記の最終の表現式に基づいて幾つかのケースの散乱について断面積を計算してみます。

(1)トムソン(Thomson)散乱:

 

 これは自由電子による電磁波の散乱です。Thomsonの頭文字Tを取ってトムソン散乱の微分断面積をdσT/dΩと書くことにします。

この散乱は,電子に対する運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力((t))がゼロでm(d2(t)/dt2)=eε0exp{i(kz0-ωt)}と書ける場合です。

 

ただし,この場合mは電子の質量,eは電子の電荷でe<0です。 

これから直ちに,加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

 

代入すると,|(t)×{(t)×d(t)|2=(e202/m2)|(t)×{(t)×ε}|2です。(t)は点電荷の位置(t)から観測点の位置Ω=(θ,φ)までの方向単位ベクトルです。

 

この(t)と電磁波の電場の偏り(偏光)εのなす角をΘとすれば,|(t)×{(t)×ε}|2=sin2Θなので,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θとなります。

そして,入射電磁波の運動方向を極軸に取れば,成分表示で(t)=(sinθcosφ,sinθsinφ,cosθ)です。また,進行方向に垂直なxy面内で偏りεの偏角をψとすると,ε=(cosψ,sinψ,0)です。

 

故に,cosΘ=nε=sinθcos(φ-ψ)と書けます。

 

そこで,sin2Θ=1-sin2θcos2(φ-ψ)ですから,dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2{1-sin2θcos2(φ-ψ)}を得ます。

 

入射平面波が偏光性の光ではなく偏ってない普通の場合なら,この因子{1-sin2θcos2(φ-ψ)}をψについて平均したもの:<1-sin2θcos2(φ-ψ)>=(2π)-10{1-sin2θcos2(φ-ψ)}dψ=(1+cos2θ)/2 で置き換える必要があります。

 以上から,トムソン散乱の微分断面積としてdσT/dΩ=[e2/{2(4πε0mc2)}]2(1+cos2θ)を得ます。そして,すぐ前の表現dσT/dΩ={e2/(4πε0mc2)}2sin2Θの形からこの電磁波の放射も電気双極子によるものであるとわかります。

微分断面積(dσ/dΩ)を全立体角にわたって積分したσtot≡∫(dσ/dΩ)dΩを散乱の全断面積,または総断面積(total cross section)といいます。

トムソン散乱の微分断面積(dσT/dΩ)についてこの立体角積分を実行すると,散乱の全断面積としてσT=(8π/3){e2/(4πε0mc2)}2が得られます。

古典論のモデルでは,2/(4πε00)~ mc2なる等置から電子を半径a0 ~ e2/(4πε0mc2)~ 2.8×10-13cmの剛体球と考えて,全断面積はσT 6.7×10-15cm2と評価されます。

 さらに,このσTは微細構造定数(fine-structure constant):α=e2/(4πε0cc) ~ 1/137を用いてσT=(8α2/3)π{hc/(mc)}2と表現すれば,トムソンの公式に量子論的解釈を与えることもできます。

 

 αを使えばトムソンの微分断面積もdσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cos2θ)と表わせます。

 量子論では,電子波の拡がり(半径)は大体コンプトン(Compton)波長:hc/(mc)(hc≡h/(2π))です。そこで電子雲の面積は大体π{hc/(mc)}2です。

 

 トムソン散乱では,標的の電子雲が半透明なため,そのうちの(8α2/3)~(8/3)(1/137)2だけが電磁波の散乱に寄与すると解釈されます。

 上記では,入射電磁波の波長が大きく(エネルギーが小さく)電子は強制振動を受けても束縛電子のように入射波の波長に比べ電荷の位置はほとんど変動しないという仮定の下での散乱を考察しました。

しかし,もしも入射波の波長が小さくてX線やγ線くらいになると,こうしたトムソン散乱の仮定は成立しなくなり,いわゆるコンプトン散乱(Compton scattering=自由衝突)になります。

 コンプトン散乱の微分断面積は"クライン・仁科(Klein-Nishna)の公式"dσ/dΩ={α2c2/(4m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'+4(εε')2-2}に従います。

 

 そして,これを入射光子の偏りについて平均し散乱光子の偏りについて和を取ると,dσ/dΩ={α2c2/(2m22)}(k'/k)2{k'/k+k/k'-2sin2θ}となります。

ただし,(,ε),および(',ε')は,それぞれ入射光子,および散乱光子の波数と偏りの組です。

 

光子衝突前の電子の始運動量をpiμ,衝突後の終運動量をpfμとすると,衝突前後での4元運動量の保存式:piμ+hcμ=pfμ+hck'μが満たされます。

そこで,k=||=2π/λ,k'=|'|=2π/λ'はいわゆるコンプトン条件:k'=k/{1+(k/m)(1-cosθ)}=k/{1+(2k/m)sin2(θ/2)}(自然単位)を満たします。

低エネルギーの極限:k→ 0 ではk'/k~ 1 (弾性散乱)ですから,dσ/dΩ~ {α2c2/(2m22)}(2-sin2θ)となってトムソン散乱の微分断面積の公式:dσT/dΩ={α2c2/(2m22)}(1+cosin2θ)に一致します。この極限をトムソン極限(Thomson limit)といいます。

(2)レーリ-(Rayleigh)散乱:

電子が振動数f0=ω0/(2π)の弾性力(elastic force)により束縛されている場合:つまり近似的運動方程式:m(d2(t)/dt2)=((t))+eε0exp{i(kz0-ωt)}で外力が((t))=-mω02(t)の場合を考えます。

 

この散乱の断面積はσRと書くことにします。

このときの電子の運動方程式は,m(d2(t)/dt2)+mω02(t)((t))=eε0exp{i(kz0-ωt)}です。

 

右辺の入射電磁波により誘起される電子の強制振動を求めたいので,(t)=exp(-iωt)(ωが一定の単色波)の形の特解を仮定して考察すれば十分です。

これを上記の運動方程式のに代入するとm02-ω2)=eε0exp(ikz0)を得ます。したがって,解は(t)=ε[eE0/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}です。

 

そこで,電子の加速度としてd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を得ます。

このd(t)=ε[-eω20/{m(ω02-ω2)}]exp{i(kz0-ωt)}を先のトムソン散乱でのd(t)=2d(t)=d2(t)/dt2ε(eE0/m)exp{i(kz0-ωt)}と比較します。

 

今の場合,微分断面積は因子|d(t)|2が単純にトムソン散乱の同じ因子のω4/(ω02-ω2)2倍である以外トムソン散乱の微分断面積と全く同じです。

 したがって,dσR/dΩ=(dσT/dΩ){ω4/(ω02-ω2)2},σR=σT4/(ω02-ω2)2}です。また,電磁波の放射もトムソン散乱と同じく電気双極子によるものと考えることができます。

特に入射波の角振動数ωが小さくて,ω0>>ωのときにはσR ~ σT404)=σT044)となって散乱断面積は入射波の波長λの4乗に反比例します。

この全断面積σR はω02≡{e2/(4πmε0)}-3とすれば,以前の2009年10/20の雲(水滴)による光のミイ(Mie)散乱の考察の記事「光(電磁波)の散乱(2)で得たレイリー散乱の全断面積に一致します。

 

つまり,部分波展開σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlでのl=1の主要なP波項σ=(8π/3)k46 ∝k46 ∝a64に一致します。ただしk=ω/cです。

レイリー散乱は角運動量l=1の電気双極子放射項ですから,今の問題のω0>>ωの場合の束縛力による電気双極子放射が"散乱球の半径aが波長に比べて小さい(a<<λ)場合の散乱=レイリー散乱"の模型になっていると考えられます。そこで,これもレイリー散乱と呼びます。

2009年11/7の記事「光(電磁波)の散乱(4)」によれば,電子ではなく空気分子のような誘電体球による散乱の全断面積は,電子によるそれ:σ=σT404)=(8π/3)k46に屈折因子の入ったσ=σT |(εr-1)/(εr+2)|2404)=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2です。

 

ただし,εrは比誘電率でεr≡ε^/ε0=n^2です。(n^は屈折率)

 ところで,一般に散乱断面積には次のような意味があります。

 例えば気体なら,単位体積中にN個の気体分子がある場合,分子1個の散乱の全断面積がσなら,重ね合あわせにより厚さΔzの気体中を進むときに失われるエネルギー流の割合がNσΔzに等しい:ΔI/I=-NσΔzという意味を持ちます。

そこで,γ≡Nσと置けばγ>0 であって,I=I0exp(-γz)と書けます。この定数γを吸収係数(absorption coefficient),または減衰係数(attenuation coefficient)と呼びます。

散乱というのは全方向的にはエネルギーが失われるわけではないですが,ある一方向に進むビームのほとんどが散乱体によって方向を変えられるため,方向性を持つビームとしては実質的に減衰します。

 

そして,空気分子によるレイリー散乱では,εr≡n^2における屈折率がn^~1なので,(εr-1)/(εr+2)=(n^2-1)/(n^2+2) ~ 2(n^-1)/3と近似していいです。

また,(4πa3/3)N=1より,a6=9/(16π22)ですから,σR=(8π/3)k46|(εr-1)/(εr+2)|2が成立します。これから,減衰係数γについてγ=NσR ~{2k4/(3πN)}|n^-1|2なる評価式が得られます。

 

なお,繰り返しになりますが念のためk=ω/c=2π/λです。

空の色の話は既にレイリーをはじめ多くの人により文献や資料で示されていることで,いまさらという感じですが一応述べておきます。

 

散乱の減衰係数γが振動数の4乗4に比例,または波長の4乗:λ4に反比例することから,明らかに可視光域では相対的に赤色光は散乱されず紫色光が最もよく散乱されます。

そこで,入射光線の方向から離れたところで受ける光は太陽光線のエネルギー分布の中で青色の高振動数成分が最大の割合になります。

 

一方,透過光線の方はエネルギー分布の中で赤色光の割合が増えるので赤く見えますが,全体としての強度は距離と共に減衰します。

さらに定量評価を試みます。

 

可視光線(λ=4100~6500Å)での空気の屈折率n^はn^-1=2.78×10-4で与えられます。そして標準状態の空気分子の個数密度はN=2.69×1019cm-3ですから,減衰距離Λ≡γ-1(光強度Iが1/eになる距離)の典型的な値は,紫色光(λ=4100Å)でΛ=30km,緑色光(λ=5200Å)で77km,赤色光(λ=6500Å)で188kmです。

そして,重力との静力学平衡で密度が高度と共に指数関数的に変化する等温大気の模型を用いて大気の頂上と地表との相対的強度比を太陽が天頂にあるとき(南中時)と日の出,日の入りの場合に評価しました。

 

すると,太陽が天頂にあるときの強度比は赤色光,緑色光,紫色光の順に0.96,0.90,0.76ですが,同じ比率値は日の出,日の入りのときには0.21,0.024,0.000065です。

今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

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2010年4月 9日 (金)

電磁波の放射(5)(点電荷による電磁波2)

「電磁波の放射(点電荷による電磁波)」の続きです。

 例として,まず等速度運動中の点電荷による電磁場を考察します。

 

 加速度がゼロ:βd2d/c=0 のため,この場合の電場,磁場は先に求めた点電荷による場の強さの最終表式において,右辺第1項のみで表わされます。

すなわち(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')},(,t)={μ0ec/(4π)}{β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}です。

しかし,ここではリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie'nard-Wiechert potential):φ(,t)={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])から,直接これらを求めてみます。

等速度運動をする点電荷の軌道(t)の詳細ですが,今の場合は電荷eを持つ点粒子が時刻t=0 に原点Oにあってx軸の正の向きに一定速度=(v,0,0)で運動しているとします。

そして,任意時刻tにおける点P(x,y,z)(位置ベクトル:=(x,y,z))における場の強さを求めます。

 

この点電荷が時刻tには点Aにあるとすると,tにおいてPに生じる電磁場は点Aにある電荷によるのではなくてtよりも過去の時刻0'に別の点A0'にあった電荷を出発点とする電磁波によるものです。

点Pからx軸に下ろした垂線の足をB(x,0,0)(x> 0)とします。するとxはt=0 に原点Oからx軸に沿って出発した点電荷が点Bに達する時刻t0とx=vt0なる関係にあります。

また,ここでは一般性を失うことなく受信時刻tはt0>t>t0'を満たすと仮定します。

このとき,A0'P=R(t0')=c(t-t0'),A0'B=X(t0')=v(t0-t0')です。また,b≡BPと置くとb=(y2+z2)1/2でありR(t0')={X2(t0')+b2}1/2です。

等式:c(t-t0')={v2(t0-t0')2+b2}1/2からt0'に関する2次方程式:(c2-v2)t0'2-2(c2t-v20)t0'+c22-v202-b2=0 を得ます。

 

これと,条件t0>t>t0'によりt0'が0'=[(c2t-v20)-{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)と解けます。

これからR(t0')=c(t-t0')=c[v2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2),X(t0')=v(t0-t0')=v[c2(t0-t)+{(c22)(t0-t)2+(c2-v2)b2}1/2]/(c2-v2)です。

φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}]={e/(4πε0)}[1/{R(t0')(t0')/c}],(,t)={eμ0/(4π)}[/{R(t0')(t0')/c}]ですから,まず,φ(,t)={e/(4πε0)}[1/{v2(t0-t)2+(1-v2/c2)b2}1/2]を得ます。

さらに,vt0=x,b=(y2+z2)1/2を代入するとφ(,t)={1/(4πε0)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]です。同様に,(,t)=0/(4π)}[e/{(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2]と書けます。

*(t)≡R(t0')(t0')/c={(x-vt)2+(1-v2/c2)(y2+z2)}1/2と置けば,もっと簡単な形になってφ(,t)=e/(4πε0*),かつ(,t)=μ0/(4π*)と表現されます。

後の便宜のために,γ≡(1-v2/c2)-1/2と置いて*(t)≡(Rx*(t),Ry*(t),Rz*(t))=(x-vt,y/γ,z/γ)なるベクトルを設定するとR*(t)=|*(t)|です。

そして,電磁ポテンシャル:φ(,t)=/(4πε0*),(,t)=μ0/(4π*)やtで微分することで,E=-∇φ-∂/∂t,=∇×により,場の強さ,を得ることができます。

これらの微分は全てR*を通してのみ出現します。そして∂R*/∂t=-v(x-vt)/R*,∂R*/∂x=(x-vt)/R*,∂R*/∂y=(1-v2/c2)y/R*,∂R*/∂z=(1-v2/c2)z/R*です。

これらを用いた計算の詳細を全て省略して結果だけ書くと,電場は(,t)={1/(4πε0)}{e(1-v2/c2)(t)/*3}です。ただし(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そして,磁場は(,t)=-{μ0/(4π)}{e×∇(1/*)}={×(,t)}/c2です。

(,t)=(1-v2/c2)(t)/*3)は,ベクトル*(t)を用いると(,t)={1/(4πε0)}[e(1-v2/c2)-1/2(t)/{x*2(t)/(1-v2/c2)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2],または(,t)={1/(4πε0)}[eγ(t)/{γ2x*2(t)+Ry*2(t)+Rz*2(t)}3/2]と書けます。

 

磁場は,(,t)={×(,t)}/c2です。ここでの話ではこれの具体的形を書き下す必要はありません。

電場をもっとわかりやすく表現すれば,(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2],(t)≡(x-vt,y,z)となります。

 

そこでv→cならγ=(1-v2/c2)-1/2→ ∞ (γ-1→ 0)より,(,t)→ 0 です。すなわち,点電荷が高速に運動する極限では電場はゼロに近づきます。

  

※(閑話):重力場に関連して電場に類似した考察をしてみます。

 

ニュートンの万有引力の法則:=-GMm/R3と特殊相対論を組み合わせてみると,静止質量がMの太陽付近を静止質量はmですが太陽に対して大きい相対速度vを持った宇宙船が通過する場合,宇宙船から見た太陽の相対論的質量はγMです。

 

また,逆に太陽静止系から見ると宇宙船の相対論的質量はγmです。そこで,いずれにしても単純に静止質量を相対論的質量に置き換えると万有引力=-GMm/R3'=-GγMm/R3に変わります。

 

質量とエネルギーの等価性,および慣性質量と重力質量の等価原理に従って実際激しい分子運動のために高温になった物体の静止質量は熱エネルギーの分だけ大きくなって秤で重さを測ると重くなっています。

 

そして,増加分の熱エネルギーは元々分子の運動エネルギーです。

 

地球上での重さというのは地球が物体に及ぼす"重力=引力"に他ならないですから,相対速度が大きくなれば引力'~γとなって重くなるというのは見当違いではないでしょう。

 

しかし,太陽と宇宙船の相対速度はほとんどゼロなのに,それを見ている観測者が大きな相対速度vで運動している場合,観測者にとって太陽と宇宙船双方の相対論的質量がγM,γmとなるため単純代入で万有引力が"=-Gγ2Mm/R3と莫大になるというのは賛同できません。

 

ここで先に求めた電場の表式に着目すると,等速度運動の点電荷による電場は(,t)=eγ-2(t)/[(4πε0){(x-vt)2γ-2(y2+z2)}3/2]です。 

  

これはv=0 の静電場0に対して~γ-20のような形で小さくなっています。

 

この電場の表式のアナロジーで重力も~γ-20のように因子γ-2で小さくなるのなら,この因子と先に書いた質量増加による"=-Gγ2Mm/R3~γ20の増加因子γ2が丁度相殺して準拠系に大して依存しない0という結果を得ます。

 

電荷は静止質量と同じく座標変換の不変量(4次元スカラー)ですが,相対論ではエネルギーと質量は等価であり,重力は静止質量だけでなく全体のエネルギー="相対論的質量=(静止質量+運動エネルギー/c2)"に比例するはずですから,電場における常識とは違います。

 

そもそも"静止質量=静止エネルギー/c2"は座標系には無関係なスカラーですが運動エネルギーを含む全エネルギーは座標系の取り方次第で際限もなく増加しますから重力の扱いというのは困ったもんです。

  

磁場に相当する磁気的重力というものがあるかも知れず,それはどういうもので系の運動と共に増加するのでしょうか?

 

かつては慣性力の反作用とか,マッハ原理に関連した記事で一般相対論に基づきHenry,Thiringの回転系による重力も計算したましたが。。

 

2006年6/30の「慣性力の反作用」,および2007年の一連の記事:2/18の「一般相対論の基礎と回転系」2/19の 「回転系の計量(メトリック)」2/21の「遠心力,コリオリ力の相対性(マッハ原理?)」を参照

 

(閑話終わり)※

 

点電荷に固定して共に運動する座標系,つまり"点電荷が静止していると見える座標系=電荷の静止系"では0,かつγ=1ですから,電場はCoulomb静電場:(,t)=e/(4πε03)に一致します。

 

そして,0 により磁場はゼロ:(,t)={×(,t)}/c2=0 ですから電磁場は静止した点電荷による純粋な静電場です。

しかし,点電荷に対して速度-で慣性運動をする座標系に移ると,その系では点電荷は速度で運動するためvが大きくなるにつれて電場は減少し,逆にvが大きくなるため磁場は(,t)={×(,t)}/c2に従って次第に増加すると思われます。

元々静止電荷の静電場のみであったのに,観測者が点電荷の系に対して運動すると共に静止電荷は"運動電荷=電流"に転化し,ゼロであった磁場が発生して増加していくという描像が具体的に示されました。

 

これは,磁場と電場が実は同根の作用で磁場は単に電場の相対論的効果であることを示唆する現象の1つです。

 

この関連については,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」や2008年5/27の記事「電磁気学と相対論(5)(真空中の電磁気学4:補遺)」も参照してください。

さて,既に述べたように等速度運動をする点電荷から生成される"電磁場のエネルギー流束=Poyntingベクトル":=(×)/μ0 ~O(R-4)によって点電荷を中心とする半径Rの球内から外部空間へと飛散するエネルギー総量は,4πR2O(R-4)~O(R-2)と評価されます。

そこで,球の半径Rを十分大きく取れば等速度運動の電荷から飛散するエネルギー総量はゼロであること,例えば電荷が加速度運動を全くしない定常電流のコイルにより生成される磁場のようなものによってエネルギーが散逸して失われることはないということがわかります。

 

(導線では,"電気抵抗による散逸=ジュール(Joule)熱"が存在して電源の起電力と相殺しますがこれは物性と関わる別の話です。)

しかし,電荷が加速度運動している場合にはそれによって生成される電磁波のエネルぎー流束のオーダーはO(R-2)の波動帯に与するため,運動に伴って電荷の持っていたエネルギーが失われてゆきます。

そこで,次には点電荷がゼロでない加速度βd2d/cを持って運動する場合を考えます。点電荷が加速されることによって電磁波を放射する現象は制動放射,または制動輻射(Bremsstrahlung)といわれます。

さて,前の記事で与えた一般的な点電荷による電場(,t),磁場(,t)の陽な表式のそれぞれで加速度因子βd2d/cを持ち,R-1(t0')に比例した大きさを持っていて波動帯に寄与する右辺第2項に着目します。

すなわち,波動帯では,(,t)={e/(4πε0)}[{(t0')-β(t0’)}{(t0')βd(t0')}-βd(t0'){1-(t0')βd(t0')}]={e/(4πε0)}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')}),かつ(,t)=-c-1(,t)×(t0')={(t0’)×(,t)}/cです。

(,t)は(,t),(t0')に垂直ですから(t0')(,t)=0 であり,波動帯では点電荷による電磁場は自由電磁波と同じ性質を持っています。

そして,ポインテイング・ベクトルは×=(×)/μ0={×(×)}/(μ0c)=2/(μ0c)です。

そこで,時刻0'に点電荷から放射された電磁波が時刻tに点で測定されるとき,単位時間に単位面積を通過するエネルギー流は(,t)=(,t)2(t0')/(μ0c)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2となります。

ただし,電場の複素表現を使用する場合はサイクル平均が<(,t)2>=|(,t)|2/2となるため<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)です。

ここで注意すべきことは(,t),または(,t)>は観測点における時間tに関する単位時間当たりの通過エネルギー量であり,時間t0'に関する点(t0')におけるそれではないということです。

 点電荷は運動しているため,仮に発信時刻t0'がT1からT2の(T2-T1)の間だけ電荷が加速されたとすると,t0'=t-|(t0')|/c, or t=t0'+|(t0’)|/cなる関係によって,(T1,T2)に放射される電磁波は観測点ではt1=T1+|(T1)|/cからt2=T2+|(T2)|/cの間の(t1,t2)に観測されます。

 つまり,で受信する時間t2-t1={T2+|(T2)|/c}-{T1+|(T1)|/c}は一般に対応する点電荷の加速時間(T2-T1)とは異なっています。いわゆるドプラー効果(Doppler effect)ですね。

 そこで,t0'∈(T1,T2)に放射された電磁波を点で受ける際の単位面積当たりの総エネルギー量EはE=∫t1t2(,t)(0)dtで与えられます。

 

 これはE=T1T2{(,t)(0')}(dt/dt0')dt0'と書けますから,発信点(t0')での時間t0'に関するエネルギー放射率の式:dE/d0'={(,t)(0')}(dt/dt0')={(,t)(0')(t0')が得られました。

 そこで,点電荷自身が単位加速時間に放射する全エネルギーdW/d0'は上記dE/d0'を半径R(t0')の球面上で積分した式dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩで与えられます。

dΩは点における面積要素dSを点電荷から見た立体角です。

既に前に定義した概念なのでさらりと流していますが,半径R(t0')の球面というのは時刻tにおいて|(0')|=c(t-t0')を満たす全ての点の集まりであることなども思い出す必要があります。

dW/d0'=∫(,t)(0')(t0')2(t0')dΩに(,t)={e/(4πε0)}2{1/(μ03)}{(t0')/{R2(t0')α6(t0')}((t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')])2を代入しt0'をtと書き換えると次のようになります。

 すなわち,dW/d={e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2/{1-()β(t)}5です。ここで,α(t)=1-()β(t)なる陽な等式を用いました。これは正確な式です。

 もしも,β(t)<<1,つまり点電荷の速さv(t)=zd(t)が光速度cに比べてごく小さいときには,()=(t)/R(t)と加速度βd(t)=2d(t)/cのなす角をθとすれば次のようになります。

 

 dW/dt~{e2/(16π2ε0)}∫dΩ((t)×[{(t)-β(t)}×βd(t)])2{e2/(16π2ε0)}∫dΩ[sin2θ{βd(t)}2]です。

dΩ積分を実行するとdW/dt~ {e2/(6πε03)}{d(t)}2を得ます。この放射率の非相対論的近似式をラーモアの公式,またはラーマーの公式(Larmor's formula)といいます。

 この非相対論的近似での放射の角分布:Δ(dW/dt)/ΔΩはsin2θに比例するので,これはl=1の電気双極子放射に相当しています。

 単位時間当たりの全平均放射エネルギーPは,複素表現では<(,t)>=|(,t)|2(t0')/(2μ0c)ですから,P=d<W>/dt={e2/(12πε03)}|d(t)|2と表わされます。

 例えば質量がmの点電荷eがz方向に調和振動をしている場合には,運動方程式mz2d=-mω02zより,z(t)=aexp(-iω0t),vd(t)=-aω02exp(-iω0t)です。

 

 そこで,ラーモアの公式からこの調和振動子の単位時間当たりの平均放射エネルギーはP=d<W>/dt={e2/(12πε03)}a2ω04で与えられることがわかります。

 次に,正確な相対論的式で特にββdが平行なときには×{(β)}×βd}=×(×βd)となるため,dW/d={e2d(t)2/(16π2ε03)}∫dΩ[sin2θ/{1-v()cosθ/c}5]です。

 

 そこで,β=v/c→ 1 に近づくにつれて放射の角分布は点電荷の進行方向に鋭く偏ってきます。(β=1ではθ=0で最大)

 1911年ラザフォード(Rutherford)は放射性元素から出るα線の原子による散乱実験を行なうに及んで,太陽系型の原子模型を提案し実験結果によく合致する結果を得ました。

 

(実はこのラザフォード模型は1904年に長岡半太郎が提案した長岡模型と同じ型の模型です。)

 しかし,これまでに示したことから原子核のまわりを回転する電子は加速度を有するため,電磁波を放射して次第にエネルギーを失なうので電子は速やかに原子核に落ち込んでしまい,この古典論の模型では原子は安定に存在することが不可能です。

 以下では,水素原子のラザフォード模型において電子が原子核に落ち込むまでの時間を評価計算します。

 ケプラー(Kepler)の法則に従う一般の楕円軌道を円軌道で特殊化しても結果には無関係なので,簡単のため電子は原子核のまわりを等速円運動しているします。そして電子の回転半径をr,速さをv,回転角速度をωとします。このときv=rωです。

電子の運動方程式はmrω2=e2/(4πε02)ですから加速度はvd=rω2=e2/(4πε0mr2)です。電子の持つエネルギーはW=(1/2)mv2-e2/(4πε0r)=-e2/(8πε0r)です。

 

そこでdW/dt={e2/(8πε02)}(dr/dt)です。

一方,ラーモアの公式dW/dt={e2/(6πε03)}{d(t)}でWが減衰するという意味で,(-)符号を取って-dW/dt={e2/(6πε03)}{vd(t)}2とした公式に,vd=e2/(4πε0mr2)を代入します。

 

すると,dW/dt=-{e2/(6πε03)}{e2/(4πε0mr2)}2が得られます。

dW/dtの2つの表現を等置すれば{e2/(8πε02)}(dr/dt)=-{e2/(6πε03)}{e2/(4πε0mr2)}2です。これから,dt=-{3/(4e4)}{(4πε0)2232}drなる関係式を得ます。

 したがって,t=0 に電子がr=aの円周上を回転運動していたとして原子核のあるr=0 に落ち込むまでの時間をτとすると,τ=∫0τdt=-(3/4){e2/(4πε0)}-223a02dr=(1/4){e2/(4πε0)}-2233となります。

 ボーア(Bohr)の前期量子論の原子模型では水素原子の最小半径はhをPlanck定数,h≡h/(2π)としてボ-ア半径B=h2/{me2/(4πε0)}={e2/(4πε0c)}–1{h/(mc)}で与えられます。

 このBを式:τ=(1/4){e2/(4πε0)}-2233の半径aに代入すると,τ=(1/4){e2/(4πε0c)}–5{h/(mc2)}=(1/4)α-5/(mc2)となります。

ただしα≡e2/(4πε0c)~ 1/137は,微細構造定数(fine-structure constant)と呼ばれる無次元(無単位)の定数です。

 

これを用いるとボーア半径もB=α-1/(mc)~137h/(mc)と簡単な形で表わされます。

一方,h/(mc)はコンプトン(Compton)波長と呼ばれる長さの次元を持つ量で量子論では質量がmの粒子の大きさの大体の目安です。

 

そこで,今の電子の場合のh/(mc2)は光が電子を横断するに要する大体の時間であると解釈されます。

 

mを電子の質量としたコンプトン波長はh/(mc)~10-11cmであり/(mc2)~10-21秒ですから,電子が原子核に落ちこむまでの時間はτ~ 1375×10-21秒 ~ 4.8×10-11秒と評価されます。

 

すなわち,古典論では電子はほとんど瞬時に原子核に吸い込まれ原子として安定に存在することは不可能です。

 

これと関連して,地球のまわりを回る月などが重力波を放射して地球に落ち込まない理由についての簡単な考察などを2006年6/28の記事「重力波」に書いています。興味がお有りなら参照してください。

 

余談ですが,かつて,2006年4/10の記事「重力場(ファインマン)」やその関連記事で以下のようなファインマンによる?考察を書いたことを思い出しました。それはかなり重要な示唆です。

 

電場,磁場が線形な作用であって全体の場は多くの電荷による場の重ね合わせで表現できるのに対して重力場は本質的に非線形で全体の重力場が多くの星などの重力源による重力場の"重ね合わせ=単純和"にならないのは何故かということでした。

 

つまり,電磁場の実体は電荷を持つ粒子場を媒介する"電磁波=光子"ですがこれ自身は電荷を持たず電気的に中性なので2次の電磁場の源とは成り得ない故に場の線形性が保たれているわけです。

 

これに反して,重力は昔から万有引力と呼ばれているように,エネルギーさえ持っていればそれは必ず重力源になるため力を媒介する"重力波=重力子等"もそれ自身2次の重力源となってさらに3次,4次の重力源を放射するために非線形であるという考察を連想しました。

  

(弱い重力近似である非相対論のニュートンの万有引力の法則だけを考えるのなら電磁場と同じく線形なのですが。。)

余談も入りましたが今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店)

  

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2010年4月 7日 (水)

電磁波の放射(4)(点電荷による電磁波1)

 「電磁波の放射」の続きです。

 今回は点電荷(point charge)による電磁波の放射です。

 まず,点電荷の軌道(orbital)が予め与えられていると仮定して,それを(t)と記述します。

 

 点電荷の全電荷(charge)をeとすると全空間にそれだけしか存在しない場合の電荷密度はρe(,)=eδ3((t)),電流密度はe(,)=ed(t)δ3((t))です。

 

 ただし,d(t)≡d(t)/dtです。

これを,通常の真空中の電磁ポテンシャルである一般的な遅延ポテンシャル(retarded potential)の表式:φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3e(',t')/|'|,および(,t)=0/(4π)}∫d3'e(',t')/|'|;t'≡t-|'|/cに代入します。

すると,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d33('-(t'))/|'|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'd(t')δ3('-(t'))/|'|;t'=t-||/cです。

これの空間積分を実行することで,例えばスカラーポテンシャル:φ(,t)はφ(,t)={e/(4πε0)}{1/|(t')|};t'=t-|'|/cになると考えがちですが,これは明らかに間違いです。

何故なら,空間積分を行なう前の被積分関数のデルタ関数はδ3('-(t'))=δ3('-(t-|'|/c))であり,の引数:t'=t-|'|/cの中に空間積分の変数'を含んでいるからです。

 そこで,計算の余計な複雑化を避けるために上記表現を得る前,つまり時間積分∫dt'を行なう前の表現式:μ(,t)=Ainμ(,t)+∫d3'∫-∞tdt'{1/(4π|'|)}δ(t-t'-|'|/c)μ(',t')まで戻ります。

 すなわち,φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|を出発点にします。

 こうすれば空間積分∫d3'は直ちに実行できて,φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)/|(t')|,(,t)={μe0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|(t')|/c)d(t')/|(t')|となります。

 続いて行なうべき時間積分-∞tdt'は,空間積分の実行よりやや面倒です。そのためf(t')≡t'+|(t')|/cと定義すると,上記の電磁ポテンシャルの時間積分表式は-∞tdt'g(t')δ(t-f(t'))なる形です。

 上の最後の形の積分でy=f(t')と変数を置換します。y=f(t')がt'について,t'=f-1(y)≡h(y)のように解けるなら,dt'=(dh/dy)dyです。

 

 すると,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=∫g(h(y))(dh/dy)δ(t-)dy=g(h(t)){dh(t)/dt}と書けます。

 それ故,y=f(t')=tを満たすt'をt0'と書けばt=f(t0'), or t0'=h(t)です。

 

 そこでdh(t)/dt=dt0'/dt={df(t0')/dt0'}-1ですから,∫dt'g(t')δ(t-(t'))=g(h(t)){dh(t)/dt}=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1なる表現を得ます。

 f(t0')=t0'+|(t0')|/cなので,df(t0')/dt0'=1-(1/c)[{d(t0')/dt0'}{(t0')}]/|(t0')|です。

さらに,簡単のために(0')≡{(t0')}/|(t0')|,α(0')≡df(t0')/dt0'と置きます。

 

この(0')は,物理的には時刻t=f(t0')=t0'+|(t0')|/cにで受信する電磁波の発信時刻0'における荷電粒子の位置(t0')から受信点に向かう単位ベクトルを表わしています。

 一方,α(0')=df(t0')/dt0'の具体的な形は,α(0')=1-(1/c){d(t0')/dt0'}{(t0')}/|(t0')|=1-{d(t0')(0')}/c;d(t0')≡(t0')/dt0'です。

 したがって,結局φ(,t)=g(t0'){df(t0')/dt0'}-1{e/(4πε0)}{α(0')-1/|(0')|}={e/(4πε0)}[|(0')|-d(t0'){(0')}/c]-1,

 

 および,(,t)={eμ0/(4π)}(d(t0')/[|(0')|-d(t0'){(0')}/c])を得ます。

ただし,0'は位置における受信時刻tに対して,t0'=t-|(t0')|/cの解として得られる発信時刻です。

得られたφ(,t),(,t)の最終表式は,運動する点電荷によって生じる電磁ポテンシャルの一般表式ですが,これらは発見者の名を取ってリエナール・ウィーヘルトのポテンシャル(Lie’nard-Wiechert potential)と呼ばれます。

実際に観測される電場,磁場は,=-∇φ-∂/∂t,=∇×により電磁ポテンシャル:φ,から得られるので,運動する点電荷によって生じる電場,磁場はリエナール・ウィーヘルトのポテンシャルφ,やtによる微分を取れば得ることができます。

しかし,による微分を行うには0'=t-|(t0')|/cの中のについての微分も実行する必要があります。これは,またまたかなり面倒な課題です。

そこで,上記リエナール・ウィーヘルトのポテンシャルの導出が無駄なようにも見えますが,再び表式φ(,t)={e/(4πε0)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)δ3('-(t'))/|'|,

 

(,t)={eμ0/(4π)}∫d3'∫-∞tdt'δ(t-t'-|'|/c)d(t')δ3('-(t'))/|'|に戻ります。

 この表現では,に関する微分は全て被積分関数の中の引数R≡|'|を通してのみ行なえばいいことがわかります。

 

 そして,∂R/∂x=(x-x')/R etc.ですから,∇={(')/R}(∂/∂R)=(∂/∂R),ただし≡(')/|'|=/R,'です。

よって,∇φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'∫d33('-(t'))(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}です。

 さらに,(t')≡(t'),R(t')≡|(t')|,(t')≡(t')/R(t')と置きます。そして,特にt'=0'のとき(0')は前に定義した(0')に一致します。

φ(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[-(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 一方,∂(,t)/∂t=0e/(4π)}-∞tdt'∫d3'[{d(t')δ3('-(t'))/R}{δ(t-t'-R/c)/∂t}={-μ0/(4π)}-∞tdt'[d(t'){∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 故に,(,t)={e/(4πε0)}-∞tdt'[(t')δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')-{(t')-d(t')/c}{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

 -∞tdt'積分を実行すると右辺第1項は{e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}]です。

一方,第2項は{-e/(4πε0)}∫dy[(dh/dy){(t')-d(t')/c}{∂δ(t-y)/∂y}/R(t')]={e/(4πε0)}∫dyδ(t-y)(∂/∂y)[(dh/dy){(t')-d(t')/c}/R(t')]={e/(4πε0)}(∂/∂t)[(dh(t)/dt){(t0')-d(t0')/c}/R(t0')]です。

したがって,∂/∂t=α(t0')-1(∂/∂t0'),かつdh(t)/dt=α(t0')-1より(,t)={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}])が得られます。

一方,(,t)=∇×(,t)={eμ0/(4π)}-∞tdt'∫d33('-(t')){×d(t')}(∂/∂R){δ(t-t'-R/c)/R}={eμ0/(4π)}-∞tdt'[{(t')×d(t')}{-δ(t-t'-R(t')/c)/R2(t')+{∂δ(t-t'-R(t')/c)/∂R(t')}/R(t')]です。

結局,(,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])を得ます。

 ダブリますが見易いように要約すると,(,t) ={e/(4πε0)}((t0')/{R2(t0')α(t0’)}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{(t0')-d(t0')/c}/{R(t0')α(t0')}]),

 

 (,t)={eμ0/(4π)}({d(t0')×(t0')}/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0')[{d(t0')×(t0')}/{R(t0')α(t0')}])です。

これらの表現式において(∂/∂t0')の項をさらに具体的に書き下すためd(t0')/dt0'を計算します。

(t0')/dt0'=(d/dt0')[{(t0')}/R(t0')]]=-d(t0')/R(t0')-[{(t0')}/2(t0')]・{d(t0')/dt0'}=[-d(t0')(t0'){(t0')d(t0')}]/(t0')です。

 ここで,×(×d)=(nzd)-d(nn)=-d(nzd)を用いると,(t0')/dt0'=(t0')×{(t0')×d(t0')}/(t0')を得ます。

 したがって,電場については(,t) ={e/(4πε0)}[(t0')/{R2(t0')α(t0')}+{cα(t0')}-1(t0')(∂/∂t0'){R-1(t0')α-1(t0')}-d(t0')]/{cR2(t0')α2(t0')}-{c2α(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')-1(t0')α-1(t0')}]となります。

同様な手順ですが,磁場については最終式だけ書きます。

 

すなわち,(,t)={eμ0/(4π)}([d(t0')/{R2(t0')α2(t0')}+{cα(t0')}-1(∂/∂t0'){d(t0')R-1(t0')α-1(t0')}]×(t0'))です。

これらによると,点電荷による電磁場でも(,t)=-c-1(,t)×(t0')なる関係式が成立していることがわかります。よって,(,t)がわかれば自動的に(,t)がわかることになります。

そこで,さらに(,t)について残りの(∂/∂t0')を実行します。

 

d(t0')/dt0'=2d(t0'),およびd{R(t0')α(t0')}/dt0'=d(t0')2/c-(t0')d(t0')-R(t0'){(t0')2d(t0')}/cを用いて計算します。

本質的ではないので詳細を省略しますが,長い計算の後に(,t)={e/(4πε0)}({(t0')-β(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+-1(t0')×[{(t0')-β(t0')}×βd(t0')]/{R(t0')α3(t0')})を得ます。

 

ただし,β(t0')≡d(t0')/cです。

これから,磁場は(,t)=-c-1(,t)×(t0')={μ0ec/(4π)}({β(t0')×(t0')}{1-β2(t0')}/{R2(t0')α3(t0')}+[{(t0')×β(t0')}{(t0')βd(t0')}+{βd(t0')×(t0')}{1-(t0')β(t0')}]/{cR(t0')α3(t0')})となります。

(,t),(,t)の右辺第1項はR→ ∞でO(R-2)のオーダーなので,=(×)/μ0にはO(R-4)の寄与しかしないため,全方向合計では4πR2S=O(R-2)→ 0となり遠方(波動帯)には寄与しません。

 

これらの項は,βd/cのみつまり粒子の速度dのみを含んでおり,βd2d/cによる加速度2dの項を含んでいません。

 一方,(,t),(,t)の右辺第2項はR→ ∞でO(R-1)のオーダーなので,=(×)/μ0にO(R-2)の寄与をし,全方向合計では4πR2S=O(1)で放射電磁波の遠方への伝播(波動帯)に寄与します。

 

 そして,これらの項には全てβd2d/cによる加速度2dが因子として含まれています。

 

 それ故,例えば加速度2dがゼロの等速直線運動の電荷から放射される電磁波であれば,電磁場は点電荷の近傍にのみ存在して,かなり遠方にあるアンテナでも受信可能な信号電波(波動帯電磁波)として利用することができないことがわかります。

途中ですが今日はここまでにします。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

 

PS:4/7早朝に巨人の木村拓也コーチ(37)が亡くなられたという速報がありました。まだ若いのに神に愛されたのでしょうか?。。 合掌

 

 ふと掛川にいる友人の千春先生(歯科医)のことを思い出しました。

 

 十年以上も前,自分の母親のために勉強して健康になるための本を出版した直後に本人が突然クモ膜下出血で倒れられましたけれど復活なさっていると聞いています。

 

 ただ,後遺症からか記憶が数時間程度しか持たないらしいとのことなので私などはとっくに忘れられているでしょうね。

 

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2010年4月 2日 (金)

電磁波の放射(3)(多重極展開:続き)

 電磁波の放射の続きです。まだ,l=2 の項の評価が残っています。

まず2(,t)={1/(12πε0)}[(d/dr)(1/r)(d/dr){<ρe(2)(t-r/c)>/r}]={1/(12πε0)}{3r-3-2-2(d/dr)+r-1(d2/dr2)}<ρe(2)(t-r/c)>={1/(12πε0)}{3r-3+2c-1-2(d/dt)+-2-1(d2/dt2)}<ρe(2)(t-r/c)>です。

これを見ると,波動帯に寄与するO(1/r)=O(r-1)のオーダーの量はやはり2階時間微分項だけで,そのφ2φ2(,t) ~ {1/(12πε02)}(d2/dt2)}<ρe(2)(t-r/c)>で与えられます。

そして,<ρe(2)(t)>=∫ρe(',)r'22(cosθ')3'(1/2)∫ρe(',))r'2(3cos2θ'-1)d3'=(3/2)∫ρe(',t){(nr')(nr')-(1/3)r' 2}d3'=3Q(t)/2 です。

 

ただし,/rであり,Q(t)≡∫ρe(',t){(nr')(nr')-(1/3)r' 2}d3'です。

 

そこで,φ2(,t) ~ 2d(t-r/c)/(8πε02)を得ます。

一方,2(,t)={-μ0/(4π)}(d/dr){<e(1)(t-r/c)>/r}=0/(4π)} {-2-1-1(d/dt)}e(1)(t-r/c)>なので,波動帯O(1/r)に寄与する部分だけで表現すると,2(,t) ~ 0/(4πcr)}(d/dt)}<e(1)(t-r/c)>です。

 

そして,<e(1)(t)>=∫e(',t)r'cosθ'd3'=∫e(',t)(nr')d3'です。

 

これに,式:{e(',t)}×e(',t)(')-'(e(',t))を適用すると,<e(1)(t)>=∫e(',t)(nr')d3'=∫e(',t)}×3'+∫'(e(',t)n)d3'となります。

 一方,∂j'{x'k(')ej(',)}=xk'(')(div'e)+(')ek(',t)+k'(e(',))=jek(',)(')+xk'(e(',))-k'('){∂ρe(',)/∂t}です。

この両辺を体積積分すると左辺は表面積分となって消えるので,'(e(',t))d3'=-∫e(',)(')3'+∫'('){∂ρe(',)/∂t}d3'です。

 故に,∫e(',t)(')3'=(1/2)[∫e(',t)d3']×+(1/2)∫'('){∂ρe(',)/∂t}d3'を得ます。

それ故,2(,t)は磁気双極子モーメント:(t)≡(1/2)∫{×e(,t)}d3により2(,t)={μ0/(4πcr)}{d(t-r/c)×(1/2)∫ρe2d(',t-r/c)'(')3'と表わされます。 

そこで,(t)≡∫ρe(',t){'(')(1/3)r'2}d3'と定義すれば,(t)=nQ(t)で,右辺最後の積分項は∫ρe(',t-r/c)'(')3'(t-r/c)+(1/3)∫ρe(',t-r/c)r'23'の2階微分です 

 したがって,2(,t)={μ0/(4πcr)}{d(t-r/c)×(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}なる表式が得られます。

 上に得られたl=2 の電磁ポテンシャル:φ2(,t),2(,t)の波動帯表現から磁気双極子に関わる部分を取り出せば,φ2(m)(,t)=0,2(m)(,t)={μ0/(4πc)}{d(t-r/c)×}/rです。

そこで,波動帯での磁気双極子による電場,および磁場は2(m)(,t)=-∂2(m)(,t)/∂t=-{μ0/(4πc)}{2d(t-r/c)×}/r,および2(m)(,t)=∇×2(m)(,t)~{μ0/(4πc2)}[{2d(t-r/c)×]/rです。

これを見ると,やはり2(m),2(m),は互いに垂直でこの順に右手系を作り,2(m),2(m)は共に横波であると同時に|2(m)|=c|2(m)|を満たしています。

それ故,サイクル平均のエネルギー流束は,<>={c/(2μ0)}|2(m)|2となりますから,単位時間に方向へ出て行くエネルギー密度は<={μ0/(32π222)}|2d(t-r/c)|2sin2θです。 

そこで,の寄与する全方向への散逸エネルギーはP=∫dS0/(12π22)}|2d(t-r/c)|2と評価されます。 

こうした磁気双極子の振動に基づく電磁波の放射を磁気双極子放射(magnetic dipole radiation)といいます。

 一方,電気四重極モーメント:Q,またはによる部分はφ2(,t) ~ 2d(t-r/c)/(8πε02)と,2(,t)の残りの{μ0/(4πcr)}{(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}で与えられるはずです。

しかし,元々のφ(,t)の正確な展開は,φ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0(2l+1)-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(iω/c)l(1)(ωr/c)l(ωr'/c)Pl(cosθ')ρe(',t')d3'です。

前回示したように,今は被積分関数の球面ベッセル関数の因子:jl(ωr'/c)=(ω/c)l{r'l/(2l+1)!!}[1-(ω/c)2r'2/{2(2l+3)}+..]のr'~ 0 付近の展開の第1項のみを取る近似をしています。 

この近似からφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<ρe(l)(t-r/c)>/r};<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'なる表現式を得たわけです。

そして,特にφ0(,t)=/(4πε0r);q≡<ρe(l)(t-r/c)>=∫ρe(',t-r/c)d3'なる無関係な静電場を得ました。

 

しかし,もしも j0(ωr'/c)=1-(ω/c)2r'2/6+..の展開の第2項まで取れば,-(ω/c)2r'2/6 のφ0(,t)への寄与は第1項のq=<ρe(l)(t-r/c)>にして,(1/6c2)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'を代入したものになります。

この項は,先の2(e)(,t)={μ0/(4πcr)}{(1/2)2d(t-r/c)+(1/6)∫ρe2d(',t-r/c)r'23'}の右辺の第2項と同じオーダーですから,これを問題にするなら,上記の項もl=2への寄与と共に考慮する必要があります。

これを考慮すると2(e)(,t)={1/(ε02)}[2d(t-r/c)/r+{1/(3r)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23’]と書けます。 

一方,2(e)(,t)={μ0/(8πc)}[2d(t-r/c)/r+{/(3r)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23’]です。

これらから得られる電場は,2(e)(,t)=-∇φ2(e)(,t)-∂2(e)(,t)/∂tですが,これへのφ2(e),2(e)の右辺第2項の寄与は{/(24πε022)}∫ρe2d(',t-r/c)r'23'です。

 

また,磁場:2(e)(,t)=∇×2(e)(,t)への2(e)の右辺第2項の寄与はゼロです。そこで,結局,ポテンシャルφ2(e),2(e)の右辺第2項はO(1/r)の波動帯には寄与しません。

したがって,波動帯ではポテンシャルφ2(e),2(e)のそれぞれ右辺第1項のみを考えればいいことになります。 

すなわち,波動帯では2(e)(,t)=-∂2(e)(,t)/∂t-∇φ2(e)(,t)0/(8πc)}{-3d(t-r/c)/r+3d(t-r/c)/}=0/(8πc)}[{3d(t-r/c)×]/rです。

  

そして,2(e)(,t)=∇×2(e)(,t)~0/(8πc)}[{3d(t-r/c)×]/rが得られます。

これらを見れば,2(e),2(e)はやはり横波であって2(e)=-c×2(e)であり,|2(e)|=c|2(e)|を得ます。

そこで,双極子放射と同様に<={c/(2μ0)}|2(e)|2={μ0/(128π232)}|3d(t-r/c)×|2です。

 

全放射エネルギーへの寄与として,P=∫dS0/(128π23)}|3d(t-r/c)×|2|dΩなる評価式を得ます。 

3d(t-r/c)がに依存する方向性を持つため,電気四重極子ではその構造を詳しく指定しないと,やPの具体的な値を得ることができません。 

こうした電気四重極子による放射を電気四重極子放射(electric quadrapole radiation)と呼びます。

 短いですが今日はこのくらいにします。

 

 次回はちょっと脱線して点電荷による電磁波の放射や制動輻射(Bremsstrahlung)の古典論と量子論?を論じる予定です。

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

  

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2010年3月30日 (火)

電磁波の放射(2)(多重極展開)

 「電磁波の放射」の続きです。 

静場ではなく一般の時間tに依存する電磁場の展開に移ります。 

無限に拡がった空間の中のある領域に電荷分布ρe(,t)と電流分布e(,t)があるときの電磁場の遅延ポテンシャルは(,t)=0/(4π)}∫d3'e(',t')/|'|,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3e(',t')/|'|で与えられます。

 

ただし,t'≡t-|'|/cです。 

しかし,ここではAμ(,t)=∫A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,μ(',t')=μ(',t-|'|/c)=∫s^μ(',ω)exp(-iω(t-|'|/c))dωのAμ,sμを振動数で展開した表現から出発します。

さらに,exp(-iω(t-|'|/c)=exp(iω|'|/c)exp(-iωt)なのでA^μ(,ω)=∫A^inμ(,ω)+{1/(4π)}∫d3's^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/|'|と書けます。

また,2009年10/16の記事「光(電磁波)の散乱(1)」で述べたようにz方向へ進む平面波:exp(ikz)=exp(ikrcosθ)はレーリー(Rayleigh)の公式と呼ばれる展開式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)で表現されることが知られています。

ただし,jl(x),nl(x)は球面ベッセル(Bessel)関数で,これらはjl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),nl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)で定義されます。Jl+1/2(x),Nl+1/2(x)はベッセル関数です。

また,同じベッセルの微分方程式のこれと異なる選択の独立解として球面ハンケル関数(Hankel):hl(1)(x),hl(2)(x)があります。これらはhl(1)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)+iNl+1/2(x)],hl(2)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)-iNl+1/2(x)]で定義されます。

x→ ∞でのこれらの漸近形は,それぞれ,jl(x)→ sin(x-lπ/2)/x,nl(x)→ -cos(x-lπ/2)/x,hl(1)(x)→ (-i)l+1exp(ix)/x,hl(2)(x)→ il+1exp(-ix)/xです。

さて,レイリーの公式から,より有用な公式:exp(iω|'|/c)/|'|=(iω/c)Σl=0(2l+1)jl(ωr'/c)hl(1)(ωr/c)Pl(cosχ)(r>r'>0)が得られます。

 

ただし,cosχ≡(rr')/rr'),R≡|'|=(r2+r'2-2rr'cosχ)1/2です。

これを証明します。 

(証明):ψ^(,ω)≡exp(iω|'|/c)/|'|はヘルムホルツ方程式(Helmholtz eq.) (∇2+k2)ψ^0 (k=ω/c)の解でr>>r'のとき外向き球面波になるという境界条件を満たします。

そこで,x→ ∞でのハンケル関数l(1)(x)の漸近形(-i)l+1exp(ix)/xから,exp(iω|'|/c)/|'|=exp(ikR)/R=Σl=0l(kr')hl(1)(k)Pl(cosχ)なる展開形がわかります。

一方,左辺のψ^(,ω)'の関数と見ると'に対するヘルムホルツ方程式:(∇'2+k2)ψ^0 の解でもありますから,原点r'=0 で特異でないという条件から,exp(ikR)/R=Σl=0l(kr)jl(kr')Pl(cosχ)と展開されることがわかります。

同じRにおいて,これら2つの展開表現が両立するためには,exp(ikR)/R=Σl=0ll(kr')hl(1)(kr/c)Pl(cosχ)なる展開形を持つ必要があります。

ところで,r→ ∞では,R=|'|=(r2+r'2―2rr'cosχ)1/2 ~r-r'cosχとなるため,exp(ikR)/R ~ exp{ik(r-r'cosχ)}/rです。

また,l(1)(kr) ~ (-i)l+1exp(ikr)/(kr)ですからr→ ∞ではexp{ik(r-r'cosχ)}/r=Σl=0ll(kr')(-i)l+1exp(ikr)Pl(cosχ)/(kr)が成立します。

 故に,exp(-ikr'cosχ)=Σl=0(2l+1)(-i)l+1ll(kr')/kを得ます。

一方,先のレーリーの公式:exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)においてr=r',θ=π-χを代入した後,Pl(cosθ)=Pl(-cosχ)=(-1)ll(cosχ)なる関係を用いると,exp(-ikr'cosχ)=Σl=0(2l+1)(-i)ljl(kr)Pl(cosχ)となります。

したがって,lik(2l+1),すなわちexp(ik|'|)/|'|=(ik)Σl=0(2l+1)jl(kr')hl(1)(k)Pl(cosχ)なる陽な展開公式が得られます。(証明終わり) 

さて,先にμ(,t)=Ainμ(,t)+{1/(4π)}∫d3'sμ(',t-|'|/c)/|'|をμ(,t)=∫-∞A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,またはA^μ(,ω)={1/(2π)}∫-∞μ(,t)exp(iωt)dtなる展開形で書きました。

そしてμ(',t-|'|/c)=∫-∞s^μ(',ω)exp(-iω(t-|'|/c))dω=∫-∞s^μ(',ω)exp(iω|'|/c)exp(-iωt)dω,かつs^μ(,ω)={1/(2π)}∫-∞μ(,t)exp(iωt)dtです。

そこで,無限の過去(t=-∞)にはバックグラウンドの電磁場は存在してなかった:Ainμ(,t)=A^inμ(,ω)=0 という仮定の下で,A^μ(,ω)={1/(4π)}∫d3's^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/||と書けます。

μ(,t)=∫-∞dωA^μ(,ω)exp(-iωt)の右辺にA^μ(,ω)の表式を代入し,さらにA^μ(,ω)の表式の右辺にs^μ(',ω)の表式を代入して整理します。

 

すると,μ(,t)={1/(4π)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/c)sμ(',t')/|'|]を得ます。

μ(φ/c,),sμ=Jμ/(c2ε0),Jμ=(cρe,e)ですから,馴染み深い形式ではφ(,t)={1/(4πε0)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/ce(',t')/|'|],

および,(,t)=01/(4π)}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}∫d3'exp(iω|'|/c)e(',t')/|'|]です。

まず,φ(,t)の表式の右辺の被積分関数の因子exp(iω|'|/c)/|'|に,exp(iω|'|/c)/|'|=(iω/c)Σl=0(2l+1)jl(ωr'/c)hl(1)(ωr/c)Pl(cosθ')を代入します。

するとφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0(2l+1)-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(iω/c)l(1)(ωr/c)l(ωr'/c)Pl(cosθ')ρe(',t')d3'を得ます。

ρe(,t)の分布領域が半径aの球面より内部に限られていて放射電磁波の角振動数ωがωa/c<<1を満たす,あるいはT=2π/ωなる振動周期Tまたは波長λ=cTがλ>>aを満たすと仮定します。

 

つまり,放射電磁波の波長λは電荷の存在領域:{r≦a}に比べて,はるかに大きいと仮定します。

ここでx~ 0 でのjl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x)={xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+3)}+..]なる近似展開式,およびhl(1)(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l{exp(ix)/x}を考えます。

すなわち,ωr'/c~ 0 では,jl(ωr'/c)=(ω/c)l{r'l/(2l+1)!!}[1-(ω/c)2r'2/{2(2l+3)}+..]であり,(iω/c)l(1)(ω/c)=(iω/c)(c)l(-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/(iωr/c)}です。

そこで,jl(ωr'/c)の展開の第1項を取ると(iω/c)l(1)(ωr/c)jl(ωr'/c) ~ (-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/}r'l/(2l+1)!!を得ます。

そして,<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'と置けば,φはφ(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}-∞dt'{1/(2π)}-∞dωexp{-iω(t-t')}(-r)l{(1/r)d/dr}l{exp(iωr/c)/}<ρe(l)(t')>と表現できます。 

これはさらに,φ(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l-∞dt'δ(t-t'-r/c){<ρe(l)(t')>/r}と変形されます。

結局,最終形としてφ(,t)=Σl=0φl(,t)={1/(4πε0)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<ρe(l)(t-r/c)>/r};<ρe(l)(t')>≡∫ρe(',t')r'll(cosθ')3'が得られます。 

同様にして,(,t)=Σl=0l(,t)=0/(4π)}Σl=0{(2l+1)/(2l+1)!!}(-r)l{(1/r)d/dr}l{<e(l)(t-r/c)>/r};<e(l)(t')>≡e(',t')r'll(cosθ')3'を得ます。 

ここで,(,t)の展開で後の便宜のために添字をl→l-1(l=1,2,..)とシフトすると,(,t)=Σl=1l(,t)=0/(4π)}Σl=1{(2l-1)/(2l-1)!!}(-r)l-1{(1/r)d/dr}l-1{<e(l-1)(t-r/c)>/r}となります。 

 さて,得られた多重極展開の各項φl(,t),l(,t)を,"lが小さい順=遠方(rが大)での寄与が大きい順"に見てゆきます。

まず,l=0 ではφ0(,t)=<ρe(0)(t-r/c)>/(4πε0),0(,t)=0 です。

  

<ρe(0)(t-r/c)>=∫ρe(,t-r/c)d3は全電荷量qを示しています。そしてdq/dt=∫{∂ρe (,t)/∂t}d3=-∫div{e(,t)}d3=-∫r=∞e(,t)dS=0 なので,全電荷量qは時間的に一定不変です。

そこで,φ0(,t)=q/(4πε0)であり,これは実際上電荷がqの点電荷による静電場に過ぎませんから,電磁波の放射を問題にする今の場合はこの項を考慮する必要がありません。 

 次にl=1 のとき,φ1(,t)={-1/(4πε0)}(/dr){<ρe(1)(t-r/c)>/r}=<ρ(1)(t-r/c)>/(4πε02)+(d/dt)<ρe(1)(t-r/c)>/(4πε0cr)です。

ここで,<ρe(1)(t-r/c)>=∫ρe(',t-r/c)r'cosθ'3'=∫(')ρe(',t-r/c)d3'=np(t-r/c)と書けます。(t)≡∫ρe(,)d3は電気双極子モーメントです。

そこで,時間微分をd≡d/dtと表わせばφ1(,t)={1/(4πε0)}{np(t-r/c)/2npd(t-r/c)/(cr)}です。

 一方,1(,t)=0/(4π)}e(0)(t-r/c)>/r,<e(0)(t)>=e(,t)d3ですが,(t)≡∫ρe(,)d3よりd≡d/dt=∫{∂ρe(,)/∂t}d3=-∫div{e(,)}d3=∫e(,t)d3です。 

したがって,1(,t)=μ0d(t-r/c)/(4πr)と書けます。

 結局,l=1 の寄与は,φ1(,t)={1/(4πε0)}{np(t-r/c)/2npd(t-r/c)/(cr)},および1(,t)=μ0d(t-r/c)/(4πr)と書けます。

  

 この項の全てが電気双極子ベクトルとその時間微分の寄与で表わされるため,l=1の項による放射を電気双極子放射と呼びます。

ただし,先述したように(t-r/c)は原点Oの取り方に依存するのに対し,時間微分d(t-r/c)は原点の取り方には依りません。

次に,電気双極子放射による電場や磁場の具体的表現を得るため,ポテンシャルの空間微分を考えます。

 

まず,∂j{np(t-r/c)/2}=j{rp(t-r/c)/3}=pj(t-r/c)/33xj{rp(t-r/c)}/5-xj{rpd(t-r/c)/(c4)}より∇{np(t-r/c)/2}=(t-r/c)/33{rp(t-r/c)}/5{rpd(t-r/c)/(c4)}です。

同様にして,∇{npd(t-r/c)/(cr)}=d(t-r/c)/(c2)-2{rpd(t-r/c)}/(c4){rp2d(t-r/c)/(c23)}を得ます。

また,1(,t)/∂t={μ0/(4π)}2d(t-r/c)/r={1/(4πε0)}2d(t-r/c)/(c2)です。 

 そこで,電場は1(,t)≡-∇φ1(,t)-∂1(,t)/∂t={1/(4πε0)}[{-(t-r/c)/33{(t-r/c)}/5}+{-d(t-r/c)/(c2)+3(d(t-r/c))/5}+{-(2d(t-r/c))/(c23)+2d(t-r/c)/(c2)}]となります。

一方,磁場は1(,t)=∇×1(,t)={μ0/(4π)}{-×d(t-r/c)/r3×2d(t-r/c)/(cr2)}です。

 電場,磁場はそれぞれ,d,2dに比例する次の上添字が 0,1,2 の3種の部分に分類できます。

 すなわち,1(0)(,t)={1/(4πε0)}{-(t-r/c)/33((t-r/c))/5},1(0)(,t)=0;1(1)(,t)={1/(4πε0)}{-d(t-r/c)/(c2)+3(d(t-r/c))/5},1(1)(,t)={-μ0/(4π)}{×d(t-r/c)/r3};

 

 および,1(2)(,t)={1/(4πε0)}{(2d(t-r/c))/(c23)-2d(t-r/c)/(c2)},1(2)(,t)={-μ0/(4π)}{×2d(t-r/c)/(cr2)}です。

 

 そこで,電気双極子振動の角振動数ω=ck=2πc/λ=2π/T,または周期T=λ/cを用いて,d=-iω,2d=-ω2とし,r>>cT=λ(=2πc/ω)の遠方領域での主要項を評価して見ます。

  

 すると,1/(4πε0)=c2μ0/(4π)なので,1(0)~ -/(4πε03),1(1)/(4πε0cr2),1(1)iω(×)/(4πε023),1(2)~ω2{(pr)-r2}/(4πε023),1(2)~ω2(×)/(4πε032)です。

 

 そこで,大きさのオーダーは|1(0)|=O(1/3),|1(1)|=|c1(1)|=O(1/2),|1(2)|=|c1(2)|=O(1/)となります。

 

 よって,r>>cT=λの非常に遠方の領域では,O(1/)の1(2),1(2)だけが効いてきます。

  

 ところで,単位時間に単位面積を通過する電磁エネルギーは電磁場のポインティングベクトル(Poynting vector):×(×)/μ0で与えられます。

  

 したがって,/rと置くとr>>cT=λでの実質的なエネルギー流密度は(×)/μ01(2)×1(2)/μ0 ~{μ044/(16π2cr2)}|×|2=O(1/2)と評価されます。

このr>>cT=λの領域を波動帯と呼びます。波動帯でのl=1 の全寄与はk=2π/λより(4π2) S 2/λ4×(定数)で有限です。

 

電気双極子の加速度運動を示す2階時間微分2dによる1(2)×1(2)の寄与のみがr→ ∞で有限に留まり他の寄与は全て消えます。

 

さて,1(2)(,t)={1/(4πε0)}{(2d(t-r/c))/(c23)-2d(t-r/c)/(c2)},1(2)(,t)={-μ0/(4π)}{×2d(t-r/c)/(cr2)}を再掲します。

 

これから,1(2)(,t)={×1(2)(,t)}/c,1(2)(,t)=-c×1(2)(,t)が得られます。よって,1(2),1(2),/rは互いに垂直なベクトルで,この順に右手系を作っています。

 

つまり,波動帯における放射電磁波は真空中の自由電磁波と同じく共に横波であると同時に|1(2)|=c|1(2)|を満たしています。

 

そこで,複素表示でのエネルギー流:のサイクル平均は,<>=(1(2)×1(2)*)/(2μ0)=-(c×1(2)×1(2)*)/(2μ0)={c/(2μ0)}|1(2)|2で与えられます。

 

したがって,波動帯では<>={μ0/(32π2cr2)}|×2d(t-r/c)|2なる表式を得ます。特に角振動数がω=ckの双極子なら<>={μ044/(32π2cr2)}|×|2となります。

 

そこで,単位時間当たりに原点を中心とする半径rの球面を通って放射される双極子放射の全平均エネルギーは,P=∫<dS={μ0/(32π2c)}∫|×2d(t-r/c)|2sinθdθdφです。

 

さらに,2dの方向をθ=0 の極軸に取れば,|×2d(t-r/c)|2=|2d(t-r/c)|2sin2θです。

 

故に,<={μ0/(32π2cr2)}|2d(t-r/c)|2sin2θ,およびP={μ0/(12πc)}|2d(t-r/c)|2 なる陽な表式を得ました。特に角振動数がω=ckの双極子ならP=μ0324/(12π)です。

 

これを見ると,放射される電磁エネルギーの方向分布は双極子が加速振動する2dの方向(θ=0)ではゼロで,その垂直方向で最大であることがわかります。これが双極子放射の特徴です。

  

今日はここで終わります。

 

参考文献:砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学(上),(下)」(吉岡書店)

 

PS:彼の業績の詳細はわからないけどお金の使い方についてはポール・エルデシュ(Paul Erdos)は理想的で神のような人でしたね。

 

(「放浪の天才数学者エルデシュ」(The Man Who Loved Only Numbers by Paul Hoffman(平石律子 訳)(草思社)より)

 

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電磁波の放射(1)

先日「確率と分布」シリーズを終了させたので,現在は主として次の課題「γ崩壊とメスバウアー効果」に向かっています。

γ崩壊(γ-decay)については,原子核(nucleus) ZAN の励起状態:|i>≡|Iiπii>がγ線を放出して終状態:|f>≡|Ifπff>へ転移するという現象を考察すればいいだけなのですが,量子論の議論を展開する前に電磁気学の必要な基礎知識を明確にしておかないと不安を感じます。

理論の基礎を明確化するため,まず,2010年2/6に「電磁力学と解析力学」という記事を書きました。

 これに続いて,今回は無限に拡がった空間の中の狭い領域に電荷密度(charge density)ρe(,t),電流密度(current density)e(,t)の分布が与えられていてその時間変動が激しいときに周囲の空間に電磁波が放射される現象を考察します。

 

 これを双極子放射,四重極放射etc.の重ね合わせとして捉えるため,電磁場(electromagnetic field)の多重極展開(multipole expansion)を詳述したいと思います。

しかし,まずは過去の電磁気学や光学の記事から,このテーマに必要な古典電磁気学の基本知識を抜粋して要約します。

 

主として,2007年12/6の記事「ヤングの干渉実験(2)(量子論)」と2008年9/27の記事「先進波と負エネルギー,反粒子について」の内容から抜粋コピーしてそれらを適当に修正しました。

電磁場のスカラーポテンシャル(scalar potential)をφ(,t),ベクトルポテンシャル(vector potential)を(,t)とすると電磁場の強さ(=可観測量)である電場(,t),磁場(磁束密度)(,t)これらにより(,t)=-∇φ(,t)-∂(,t)/∂t,(,t)∇×(,t)と表わされます。

以下では,簡単のために引数,tを適宜省略します。

上述のφ(,t),(,t)は電磁ポテンシャル(electromagnetic potential)と呼ばれます。

 

そして,φ,による=-∇φ-∂/∂t,∇×なる場の強さ(field strength)の表現は,任意関数Λ=Λ(,t)についてのゲージ変換(gauge)と呼ばれる変換:φ→φ+∂Λ/∂t,-∇Λに対して不変です。これを電磁場のゲージ不変性といいます。

そして,"電磁場の基本方程式(運動方程式)真空中のマクスウェル方程式(Maxwell-eq)"のポテンシャル,φによる表現は()-2(1/c2)(∂∇φ/∂t)+(1/c2)(∂2/∂t2)=μ0e,-ε02φ-ε0(∂/∂t)=ρeと書けます。

 

序文で述べたように,ρe(,t)は電荷密度,e(,t)は電流密度を表わしています。

特に,相対論的に共変な(covariant)ゲージであるロ-レンツ(Lorenz)ゲージ,つまり条件(1/c2)(∂φ/∂t)=0 を満たすようなゲージ関数Λを採用すれば,運動方程式は(1/c2)(∂2/∂t2)-2=μ0e,□φ=(1/c2)(∂2φ/∂t2)-2φ=ρ0となってφとについて対称,かつ共変性が明白な形になります。

(上では□≡(1/c2)(∂2/∂t2)-2なる微分演算子記号を用いましたが,記号□はダランベルシャン(d'Alembertian)と呼ばれています。)

ところで,これ以外のゲージを採用すると時空座標のローレンツ変換x'μ=aμννに伴う4元電磁ポテンシャルAμ=(φ/c,)の変換が,通常のA'μ=aμννの他に新しい座標系で同じゲージ条件を満たすようにするため,A'μ=aμνν+αμ(a)のような余分の補正変換αμ(a)を追加される必要があります。

そこで,こうしたゲージ関数では電磁場:Aμ=(φ/c,)が座標系の取り方に依存する量となって相対論的に正しい共変な4元ベクトルではなくなります。

したがって,非共変ゲージを採用したのでは電磁ポテンシャルは非局所的量(non-local)となります。それ故,これが信号として観測可能な量なら電磁信号が光速を超えて相対論的因果律(causality)を破ることになると考えられます。

しかし,この問題点については以前の2006年10/9の記事「非共変ゲージの非局所性(電磁場)」で論じたように,現実に観測される物理量は場の量Aμ=(φ/c,)ではなく場の強さである電場と磁場,つまりFμν≡∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xνであって,これらはゲージ選択に無関係であることから解決済みです。

つまり,如何なるゲージを選択しようと場の強さは共変ゲージから得られる量と全く一致するため共変であり,そこで局所的なことも明らかですから,現実には相対論を破らないことがわかります。

つまり,"量子論おいて観測されるのは確率であって波動関数ではない。"という話と同じような意味です。

 

電磁場を示す電磁ポテンシャル:Aμ=(φ/c,)は,量子論なら光子の波動関数に相当するため,これを「物理的実在」と考えないなら何らの矛盾も生じないわけです。

さて,時空座標をxμ=(ct,),電磁ポテンシャルをAμ=(φ/c,),電荷,電流をJμ=(cρe,e)とする4元表記では,ロ-レンツゲージ:(1/c2)(∂φ/∂t)=0 は∂Aμ/∂xμ=∂μμ=0 となり,運動方程式:□=μ0e,□φ=ρe0は,□Aμ=∂ννμ=sμとなります。ただしsμ≡Jμ/(c2ε0)です。

そして,特に電荷や電流の全くない場合:Jμ=(cρe,e)=0 の真空中の自由電磁場の方程式は,□Aμ=∂ννμ=0 です。

μ(x)={1/(2π)4}∫d4k[A^μ(k)exp(-ikx)],sμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[s^μ(k)exp(-ikx)として,Aμ,sμを"平面波の重ね合わせ=Fourier積分"で表わせば,微分方程式:□Aμ=∂ννμ=sμは代数方程式:k2A^μ(k)=-s^μ(k)に帰着します。

特に,sμ=Jμ/(c2ε0)=0 の自由場の方程式:□Aμ=∂ννμ=0 はk2A^μ(k)=0 となりますが,これはk2=kμμ=(k0)22=0 を意味します。

 

これは量子論で光子(photon)の質量がゼロなることに相当します。

そこで,自由場ではフーリエ積分表示:Aμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[A^μ(k)exp(-ikx)]の成分である各平面波:exp(-ikx)=exp{i(kr-ωt)}の(角)振動数(frequency)ω=ck0は波数(wave number)ベクトルの関数としてω=ωk=c||と書けます。

故に,自由場では波数の4元表示kμ=(ω/c,)はkμ=(ωk/c,)となって,exp(-ikx)=exp{i(kr-ωkt)},かつexp(ikx)=exp{-i(kr-ωkt)}です。

したがって,A^μ(k)=θ(k0)δ(k2)として自由電磁場をAμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[θ(k0)δ(k2)exp(-ikx)]と表わせば,Aμ(x)=Aμ(,t)={1/(2π)3}∫d3(2||)-1kμkexp{(-i(kr-ωkt))+ ε-kμkμ*exp{i(kr-ωkt)}となります。

ただし,akは定数係数でありεkμは偏光(polarization)を表わす単位ベクトルです。つまりεk2=εkμεkμ=(εk0)2εk2=-1ですが,これはローレンツ条件:kεk=kμεkμ=(ωk/c)εk0kεk=0 を満たすように与えられます。

次に,一般の4元電流密度sμに対しローレンツゲージの電磁場の方程式:□Aμννμμを解きます。 

□Aμ=sμなる形から形式的にAμ=□-1μと書けるので,ダランベルシァン□の逆演算子(inverse)□-1が得られればいいと思われます。実は,これは3次元のラプラシアン(Laplacian)△=∇2の逆演算子△-1を求めるのと同じ方法で求めることができます。

すなわち,もしも□D^=1なるD^が見出されれば,□-1=D^よりAμ=□-1μはAμ=D^sμと書けて形式的に解けます。

そして微分演算子□に対して□D^=1を満たす逆演算子D^=□-1は積分演算子ですから,D^を□D(x)=δ4(x)を満たす関数D(x)で解Aμ=□-1μを表現すればAμ(x)=∫d4yD(x-y)sμ(y)と書けることになります。

実際には□A0μ0を満たす積分定数A0μをも考慮して,Aμ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)が一般解になります。

一般に,□D(x)=δ4(x)を満たす関数D(x)は微分演算子□のグリーン関数(Green's function)と呼ばれます。

グリーン関数D(x)を具体的に求めるため,そのフーリエ積分表示をD(x)=(2π)-4∫D^(k)exp(-ikx)d4kと書けば,デルタ関数の積分表示がδ4(x)=(2π)-4∫exp(-ikx)d4kなので,□D(x)=δ4(x)はD^(k)=-1/k2を意味します。

それ故,形式的にはD(x)=(2π)-4∫D^(k)exp(-ikx)d4k=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/k2]d4kと書けます。

しかし,D^(k)=-1/k2は分母がゼロになる点,つまりk2=(k0)22=0 なる位置に特異点を持ちますから,このままではwell-definedではありません。

逆に,D^(k)の極(poles)k0≡±||付近の挙動を適切に定義することで,D(x)が満たす境界条件を一意に定めることが可能なので,これらの極をどのように回避してwell-definedとするか次第で望ましいD(x)を求めることができます。

仮に,D^(k)≡-1/(k2+iε)(ε>0)と選択してD(x)≡-limε→+0(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4kとして計算してみると,詳細は省略してD(x)=D(,t)={1/(4π||)}[δ(||-ct)-δ(||+ct)]={1/(4πc||)}[δ(t-||/c)-δ(t+||/t)]を得ます。

この関数:D(x)はt→±∞や||→∞でゼロとなるという通常の境界条件を確かに満足していますから,これを電磁場を考察する際のダランベルシャン□の基本的なグリーン関数と考えることにします。

慣例に従って,D(x)をD(x)=Dret(x)-Dddv(x)と分解してDret(x)≡Dret(,t)=θ(t)D(,t)={1/(4πc||)}δ(t-||/c),Dadv(x)≡Dadv(,t)=-θ(-t)D(,t){1/(4πc||)}δ(t+||/c)と定義します。

ret,Dadvは,それぞれ遅延(retarded)グリーン関数,先進(advanced)グリーン関数と呼ばれています。t>0 の未来を表わすだけなら,そこではDadv(,t)=0 ,D(,t)=Dret(,t)なので当面の問題では遅延グリーン関数ret(,t)だけ考慮すれば十分です。 

すると,先に書いた一般解の表現μ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)は,t>0 でAμ(x)=A0μ(x)+∫d4yDret(x-y)sμ(y)となります。

あるいは,自由電磁波A0μ(x)=A0μ(,t)を無限の過去t=-∞ に入射した入射電磁波Ainμ(,t)と考えるなら,Aμ(,t)=Ainμ(,t)+c∫-∞dt'∫d3'Dret(',t-t')sμ(',t')なる表式は,現時刻tまでに入射波が散乱され全ての波が重ね合わされた結果を表わす散乱現象の記述と解釈されます。

すなわち,Aμ(,t)=Ainμ(,t)+∫d3'∫-∞tdt'{1/(4π|'|)}δ(t-t'-|'|/c)μ(',t')=Ainμ(,t)+{1/(4π)}∫d3'[sμ(',t-|'|/c)/|'|]です。

一方,sμをJμ=c2ε0μに戻し無限の過去には電磁場は存在しなかった場合:Ainμ(,t)=0 を想定すると,φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3'[ρe(',t-|'|/c)/|'|],(,t)=0/(4π)}∫d3'[e(',t-|'|/c)/|'|]となります。

 

通常の状況はこれです。 

上述の意味で,これらのポテンシャルφ(,t),(,t)を遅延ポテンシャル(遅刻ポテンシャル)と呼び,それによる電磁波を遅延波(遅刻波)と呼びます。

これらを(角)振動数ωで展開して,μ(,t)=Ainμ(,t)+{1/(4π)}∫d3'[sμ(',t-|'|/c)/|'|]をμ(,t)=∫A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,またはA^μ(,ω)={1/(2π)}∫Aμ(,t)exp(iωt)dtと表わすこともできます。

すると,他方μ(',t-|'|/c)=∫s^μ(',ω)exp(-iω(t-|'|/c))dω=∫s^μ(',ω)exp(iω|'|/c)exp(-iωt)ですから,A^μ(,ω)=∫A^inμ(,ω)+{1/(4π)}∫d3'[s^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/|'|]と書けます。

したがって,Gret(,ω)=exp(iωr/c)/(4πr) (r≡||)と置けば,A^μ(,ω)=∫A^inμ(,ω)+∫d3'ret(',ω)s^μ(',ω)と表現できるためret(,ω)を遅延グリーン関数と呼ぶこともあるようです。 

このret(,ω)はヘルムホルツ方程式(Helmholtz)のグリ-ン関数になっています。つまり,[△+(ω/c)2]ret(,ω)=-δ3()を満たしています。  

 

以下,遅延波,遅延ポテンシャルのみを考えればよいケースに限定して考察をします。 

次に,Aμ(,t)=(φ(,t)/c,(,t))の多重極展開というテーマに向かいますが,まず場が時間tに依らない静場(static-field):Aμ()=(φ()/c,())における多重極展開を復習します。

まず,ルジャンドル多項式(Legendre polymomials)Pl(z)の母関数展開:1/(1-2tz+t2)1/2Σl=0ll(z)から,公式:1/|'|=1/(r2+r'2―2rr'cosθ')1/2=Σl=0(rl/r'l+1)Pl(cosθ') (r<r'),Σl=0(r'l/rl+1)Pl(cosθ') (r>r')が得られます。

ただし,cosθ'=(rr')/rr'です。これは導体における鏡像法でよく使用される式です。 

静電ポテンシャル:φ()={1/(4πε0)}∫d3e(')/|'|にこの母関数展開を代入すると,r>r'(帯電領域の外側)ではφ()=Σl=0φl()={1/(4πε0)}Σl=0-(l+1)∫ρe(')r'll(cosθ')3'となります。

 右辺の展開のl=0 の項は,φ0(r)={1/(4πε0)}r-1{∫ρe(')d3'}=q/(4πε0r)となります。ただしq≡∫ρe()d3ですが,これは全電荷量です。

これは,rが十分大きい遠方から見ると,1/2以上の1/rの高次の項は全て消えて,あたかも全電荷が原点に集中しているかに見えることを示しています。

 また,l=1の項はφ1(r)={1/(4πε0)}r-2∫ρ(')r'cosθ'd3'={1/(4πε0)}r-3{∫ρe(')(rr')d3'}=np/(4πε02)です。ここで/rは方向の単位ベクトルです。

 

 ∫ρe()3は電気双極子モーメント(electric dipole moment;電気双極子能率)を示しています。

ただし,この式で定義されるは座標原点の選び方に依らない本当の意味のベクトル量であるとはいえません。 

 実際,原点Oをベクトルだけ移動したとすれば'で指定されていた位置は新原点ではベクトル"='-で表現されるので,∫ρe(')'d3'=∫ρe("+)"d3"+∫ρe("+)d3"= ∫ρe~(")"d3"+∫ρe~(")d3"=~+qとなります。 

ここで,ρe~(")≡ρe("+),~≡∫ρe~(")"d3"と定義しました。~は新原点での上記定義による双極子モーメントですが~=qですから,明らかに双極子モーメントベクトルは座標原点に依存します。 

 しかし,全電荷qがゼロのときには~=となって双極子モーメントは原点の取り方に