103. 電磁気学・光学

2020年2月13日 (木)

光の量子論16

※「光の量子論15」からの続きで,第3章

に入ります。

(※余談)この「光の量子論」シリーズを書き始めた動機

は,昨年秋頃,そもそも.意外と知らずに使っている身の

まわりの電気製品のメカニズムを自分の認識能力内で

簡単カツ明瞭に書いてみたい,という欲望が起きたこと

からです。

まずは,熱交換機,冷媒,ペルチエ効果で冷暖房用の

エアコン(ヒートポンプ)や冷蔵庫,冷温蔵庫などの

説明を書き,次に,電灯の話に移り,白熱電球,蛍光灯,LED

の説明に移り,電球の話で,つい,20世紀末の昔,物理

フォーラムで,サブシスをていた時代に,話題となった

電流理論,電気回路理論に深入りし。高校でも習うオーム

の法則や,ジュール熱に,その熱エネルギーが,どうして光

に変わるのか?ということで,固体内電子のバンド理論

からフォノンの話まで.どんどん脱線しました。

とりあえず,蛍光灯の話に移り.水銀蒸気に陰極からの

熱電子が衝突して発生した紫外線が蛍光管壁の物質に

衝突して発生する蛍光を利用するという程度で,次のLED

に進めばいいのに,生来の偏執質な性格で,蛍光は誘導放出

じゃなく自然放出だったよな?とか燐光との違いは?とか

気になり,これもウィキの解説程度でお茶濁しておけばいい

のに,そういえば10年くらい前に光学と量子論など詳しく

勉強したことを思い出したのがウンノツキて,1から記憶を

取り戻す気になったのがこのシリーズのきっかけでした。

しかし,蛍光灯の話なら,第2章までで十分で,ここで

このテーマのブログを中断して,元の蛍光灯システムの

具体的説明に移ろうかな?と一瞬思いました。

ですが,第3章の「カオス光のゆらぎの性質」

なども,確かに,昔,コヒーレンズ(可干渉性)が気になり,

位相が無相関の相関係数ゼロに近い普通の部屋の中を

照らしているようなカオス光じゃ,現実に反して部屋の

中が真っ暗になってしまう。などと,いうようなバカな

誤解釈をワザワザ,掲示板に投稿して失笑を買ったこと

もあります、イヤ,真っ暗になるのは相関係数がゼロの

ときじゃなく,丁度,-1の逆相関の干渉性によるのが

真実である。と自分で訂正したというエピソードも,

思い出したのでした。

というわけで,一旦始めたシリーズは,白熱灯に続き,

蛍光灯の仕組みを簡単に説明したいだけ,という元の

動機も忘れて,もう少し惰性的に続けよう,と保守的で

安易な選択をする気になりました。(余談終わり※)

さて,本題に戻ります。

第3章 カオス光のゆらぎの性質

※参照ノートの第3章開始の日付は第2章終了と同日の

2006年の8/9となっています。

本章では励起原子の放射遷移により発生した放出光の

特性を考察します。この特性は,原理的に2種類の異なる

実験によって測定できます。

まず,通常の分光法では,光の周波数分布が測定され,

2章で略述した理論によって,これから光源の線幅を広げる

過程の性質と強度に関する情報が得られます。

 本章での主な関心事は第2の種類の実験であり,その

実験では,光ビームの振幅,i.e,強度の時間依存性を測定

します。光源の線幅を広げる過程はまた,ビームの電場と

強度に,その周波数の広がりに反比例する時間スケールで

平均値のまわりのゆらぎを引き起こすことが示されます。

 これらの時間的ゆらぎと周波数の広がりとは,光源を構成

する放射原子が持つ同じ物理的性質の現われですが,光学

実験の全領域を説明するには,どちらの側面も欠かせません。

光源には2つの型があり,それらを区別することが大切です。

普通の分光器は,光源は気体放電ランプであり,そこでは個々

の原子が放電によって励起され,相互に無関係に光を放射して

います。発光線の形は,原子の速度の統計的広がりと不規則に

起こる衝突によって決定されます。広く用いられている,この

種の光源を「カオス光源」と呼びます。

熱空洞とフィラメントランプは,他のカオス光源の例です。

如何なる種類のカオス光源から出た光ビームでも,同じ

ような統計的特徴を持っていて,ただ,統計的分布のパラメータ

だけが,カオス光ビームごとに異なっています。

第2の型の光源は「レーザー光」であり,これは全く別の

統計的性質を持っています。

レーザー光の性質は,本章では,ごく簡単に述べるに

留め,詳しい議論は,後の第7章まで保留することに

します。以下で行う計算では,光ビームの古典的記述を

用います。古典的モデルは,ゆらぎの効果の本質を正しく

認識するのに役立つばかりでなく,6章で示すように

カオス光に関しては,古典論も量子論も同じ予測を与える

ことがわかります。

2つの理論が異なる可能性のある,他の種類の光に

関しては,量子論予測の重要性は,それに対応した

古典論を背景にしたとき,一層,明快に理解できるはず

です。

 

  • 3.1 ゆらぎのある光ビームのスペクトル

光ビームが通過する固定した観測点で,その電場の時間

依存性を測定する実験を考えます。

 本章では主として,光源の性質からビームの電場と強度

のゆらぎの性質が決定される過程を扱います。

観測点での光の周波数ウペクトルは,

(ω)=(2π)-1-∞(t)exp(iωt)dt.(3.1)

で定義される電場のFourier成分によって決まります。

周波数がωの光のサイクル平均強度は.

|(ω)|2=(4π2)-1-∞dt∫-∞dt’

[(t)E(t’)exp{iω(t-t’)}

=(4π2)-1-∞dt∫-∞dτ

[(t)E(t+τ)exp(iωτ)}.(3.2),

ただし,τ=t’-t.(3.3)で与えられます。

  • 3.4で示す予定ですが,ある種の光学干渉実験

で,(3.2)の右辺のtについての積分が必然的に実行

されているものがあります。積分がカバーする時間

は,現実の実験では,当然,無限大では有り得ません

から,大きいが有限な時間Tを∞に置き換える,こと

にします。

そして,1次の電場相関関数を,

(t)(t+τ)>

=(1/T)∫[(t)E(t+τ)]dt.(3.4)

で定義します。これは,時刻tの電場がt+τで取り

得る種々の値の確率に影響する様子を記述します。

 その形は,光源の作り出したゆらぎの種類によって

決まります。 

光源の性質が「定常的」,つまり,ゆらぎの統計を

支配する要因が時間的に不変であれば,Tが,ゆらぎ

の特性時間スケールと比べて大きい場合に限って,

(3.4)の平均値は,特定の出発時刻に無関係になります。

このとき,(3.4)の平均値は時間平均操作によって,

光源の統計的性質が許容する,あらゆる電場の値を,

それぞれ,適当な相対確率で標本抽出できます。

そして,その結果はTの大きさに依存しません。

,例えば,実験的に相関係数を決定するには,(3.4)の

右辺のような時間平均を取ればいいのに対し,この関数

は,tとt+τにおける場のあらゆる値にわたる統計平均

を取ることによって計算されます。

そうして,この結果はもちろんtに依存しません。

すなわち,相関はτだけの関数で,こうした平均化の

処理は§1.4で触れた「エルゴード定理」に合致して

います。このとき,周波数ωでの強度のサイクル平均:

(3.2)の|(ω)|2=(4π2)-1-∞dt∫-∞dτ

[(t)E(t+τ)exp(iωτ)},は,

|(ω)|2={T/(4π2)}

-∞[<(t)E(t+τ)>exp(iωτ)]dτ.(3.5)

となります。

ここで,(2.64)のデルタ関数の公式:δ(ω0-ω)

=(2π)-1-∞exp{i(ω0-ω)t}dtより,

-∞exp{i(iωτ)dω=(2π)δ(τ)を用いれば.

-∞|(ω)|2dω={T/(2π)}<(t)E(t)>

(3.6)です。

そこで,規格化された光スペクトル分布関数Fを,

F(ω)=|(ω)|2/∫-∞|(ω)|2dωと定義して,

F(ω)=(2π)-1-∞(1)(τ)exp(iωτ)dτ,(3.7)

の形に書き,g(1)(τ)なる量を導入すれば,

このg(1)(τ)は,g(1)(τ)==<(t)E(t+τ)>

/<(t)E(t)>.(3.8)で与えられ,規格化された

1次相関関数と呼ばれます。

この量はまた,「光の1次時間コヒーレンス度」と

呼ばれています。光スペクトルと1次相関関数を結ぶ

(3.7)は,「Wiener-Khintchin(ウィーナー・ヒンチン)

の定理」の1つの形です。

(※つまり,ω空間の統計分布に時間空間のそれを対応

させるエルゴード性の表現の1つ.と考えられます。) 

これは,分布実験の結果と,時間に依存する光のゆらぎ

の測定結果の間の形式的関係を与えています。

この関係は正のτのみの積分に直すことができます。

すなわち,(3.7)は,F(ω)

=(2π)-1-∞(1)(τ)exp(iωτ)dτですから,

F(ω)=(2π)-10(1)(τ)exp(iωτ)dτ

+(2π)-1-∞(1)(-τ)exp(-iωτ)dτ.(3.9)

と書けますが,相関関数の定義(3.4)の:

(t)(t+τ)>

=(1/T)∫[(t)E(t+τ)]dtにより,

1次相関関数g(1)(τ)=<(t)(t+τ)>

/<(t)E(t)>も,時刻tに依存しないので,

(1)(-τ)=<(t)(t-τ)>

/<(t)E(t)>

=<(t+τ)(t)>

/<(t)E(t)>=g(1)*(τ)(3.10)

です。こうして,結局,

F(ω)=π-1Re∫0(1)(τ)exp(iωτ)dτ

(3.11)を得ます。

 

  • 3.2 衝突広がりのある原子のモデル

ゆらぎの一般論は,衝突広がりが優先する光源

から出た光にも容易に適用できます。

放射広がりとドプラー広がりを無視し,衝突は

原子状態を変えない弾性的位相中断型であると

します。そして,周波数ω0の光を放射する特定の

励起原子を考えます。

原子が衝突するまでの間,原子から定常的に

放射される電磁放射の波列を想定します。

衝突している間,光を放射する原子のエネルギー

準位は,衝突する2つの原子間相互作用の力によって

ずれます。

したがって,放射される波列は,衝突の間,中断する

ことになります。衝突後,再び,周波数ω0の波列を

取り戻すと,その特性は波の位相が衝突前の位相と

無関係になっている以外は,衝突前に持っていた

特性と同一です。

 衝突の間,放出される放射については,周波数が

ω0からずれていますが,衝突時間が十分短かければ

その放射は無視できます。そのときは,衝突広がりの

効果は,各励起原子は常に周波数ω0で放射しますが,

放射された波の位相は衝突が起こる度に不規則に変わる

という模型(モデル)で表わすことができます。

放出光の周波数に見かけの幅が現われるのは,波が

有限の切片で分断されるので,Fourier成分がω0以外の

周波数を含むことが原因です。

 τ0を(2.131)の,自由飛行平均時間とすると,その

代表的な値として,(2.141)のτ0 ~ 3×10-11sと,(1.65)

の周波数:ω~ 3×1015Hzの可視光周波数をω0に取ると,

ω0τ0~ 9×104.(3.12)が得られます。

これらの数値を使うと,1個の原子から放射された波列

は引き続く2回の衝突の間に平均で約15000周期の振動を

することになります。

こうした波の場の振幅は振動形で,

(t)=0exp{-iω0t+iφ(t)}.(3.13)と書いてよい

と考えられます。この位相:φ(t)は自由飛行時間中は一定

に保たれ,衝突のたびに突然変化します。

一方,ω0はどの期間でも同じです。

衝突広がりのある光源から出た波全体は各放射原子

において,1つずつある(3.13)の項の和で表わされます。

そうした原子がν個あるとすると,電場の全振幅は,

(t)=1(t)+2(t)+..+ν(t)..

0exp(-iω0t)

[exp{iφ1(t)}+exp{iφ2(t)}+。。+exp{iφν(t)}

0exp(-iω0t)a(t) exp{iψ(t)}.(3.14)

となります。

以下,簡単のため観測する光は一定の偏り(偏光)を

持っているとします。

すると,個々を代数的に加えることができます。

(t)=0exp(-iω0t)a(t) exp{iψ(t)}

から得られる電場は,不規則な振幅変調と位相

変調を受けた周波数ω0の搬送波より成り立って

います。

搬送波の周波数で起きているE(t)の振動を

Fourier分解することは,実際上不可能です。実験的

に,うまく分解できる時間は約10 -9s程度であり,

これは(1.65)の,ω ~3×1015Hzの振動を検出する

には6桁ほど長過ぎます。

したがって,実験と比較するには,理論の結果を

搬送波の振動のサイクルについて平均するのが適切

です。(t)=0exp(-iω0t)a(t) exp{iψ(t)}

から実電場ではω0のサイクルについて平均すると

ゼロとなります。

しかし,ここで,過去記事;「光の量子論3」を参照

すると,を光(電磁波)の強度として=E×B/μ0

定義すると,光ビーム強度のサイクル平均は,(1.89)式

の<>=(1/2)ε0cη|(r,t)|2で与えられます・,

 これによると,誘電体のない自由空間でのビーム強度

のサイクル平均は,η=1により,

(t)>=(1/2)ε0c|(r,t)|2

=(1/2)ε002{a(t)}2 (3.15)です。

左辺が時間平均なのに時間tの関数なのは

平均強度が,不規則な振幅変調a(t)のために,

なお,時間tに依存する因子を含んでいるからです。

各原子の位相の変動は,τからτ+dτの間で

衝突を受けない確率p(τ)dτが,(2.131)式の,指数

分布:p(τ)dτ=(1/τ0)exp(-τ/τ0)dτなる確率

法則に従う自由飛行時間τ0を有します。

(t)>,ψ(t)の時間スケールはτ0だけで

決まります。

時間τ0の間には,強度と位相に,かなりの変化が

生じることもありますが,Δt<<τ0のΔt内では,

これらの量は,ほぼ一定と見てよいことがわかります。

 

放射広がりとゴプラー広がりを含めると,上述の論旨

は,細かい点では修正されるでしょうが,しかし,強度と

ゆらぎは衝突広がりのみのものと同様です。

線幅を広げる,どのような機構の組み合わせにも衝突

広がりのτ0に類似した不規則なゆらぎの時間スケール

を決める,ある特有の時間が存在します。一般に,この

特有な時間スケールを光ビームのコヒーレンス時間と

いい,これをτcと表わします。この大きさは周波数の

広がりの逆数の程度です。

今後の全ての理論では,周波数の広がり:Δω~1/τ

が,ω0に比べて小さい,つまり,ω0τc ~(ω/Δω)が1

よりはるかに大きい光ビームに言及を限ることにします。

明らかなように,空洞の熱励起によって発生した光

(黒体輻射)は,平均周波数にほぼ等しい周波数の広がり

を持っているので,この範疇には入りません。

コヒーレント時間に関連する径路の長さλc=cτc.

(3.16)をコヒーレンス長といいます。

今考えてぃる光ビームでは,コヒーレンス長は,光の波長

よりずっと長いです。

 

  • 3.3 1次コヒーレンスと周波数スペクトル

衝突広がりを持つ光源についてのモデルを用いて,光の

1次電場相関関数,1次コヒーレンス度,および,周波数

スペクトルが計算できます。

まず,(3.4)の,<(t)(t+τ)>

=(1/T)∫[(t)E(t+τ)]dtに,時間平均として

栄議した,種々の時刻tにおける電場の相関関数を考えます。

E(t)は,コヒーレンス時間よりずっと短かい期間では,

その変化はわずかですが,コヒーレンス時間よりはるかに

長い期間には大きな変化を生じます。

そのような長い期間を隔てた2つの時刻での電場間には

事実上,相関はないはずです。

サンプリング時間Tが多数のコヒーレンス時間に

またがっている場合,(3.4)は光の性質だけに依存し,

Tには依存しません。

検知器の分解時間はτcよりずっと短かく,またビーム

方向の寸法λcよりずっと小さくなければなりません。

これらは,(3.4)の相関関数の計算に「エルゴード定理」

が使えるための条件です。こうして,< >は統計平均とも

解釈され,求める相関関数は,

(3.14)の,(t)=0exp(-iω0t)

[exp{iφ1(t)}+exp{iφ2(t)}+..+exp{iφν(t)}]

なる表現を利用して,

(t)(t+τ)>=02exp(-iω0t)

×<[exp{-iφ1(t)}+..+exp{-iφν(t)}]

×[exp{iφ1(t+τ)}+..+exp{iφν(t+τ)}]>.

(3.17)と書けます。

2つの大括弧[ ]をはずすと,別の原子から出た波列

の位相角は,それぞれ,ばらばらの値を取るので,交差項

の寄与は,平均を取ると消えてしまいます。

そして,放射原子は全て等価ですから残った項から,

(t)(t+τ)>=02exp(-iω0t)

Σi=1ν<exp{i{φi(t+τ)-φi(t)}>

=ν<i(t)i(t+τ)>.(3.18)を得ます。

このようにして,全体としての光ビームに対する相関

関数は.単一の原子の寄与によって決まります。

ところで,各波列の位相角は,その原子が衝突した後は,

勝手な値に跳ぶので,その次に平均を取ると寄与はゼロ

となります。

こうして,<(t)(t+τ)>=02exp(-iω0t)

Σi=1ν<exp{i{φi(t+τ)-φi(t)}>

=ν<i(t)i(t+τ)>.の右辺の単一の原子の

相関関数は,その原子がτより長い自由飛行時間を持つ

確率に比例します。

τからτ+dτの間に衝突を受けない確率p(τ)dτ

が,p(τ)dτ=(1/τ0)exp(-τ/τ0)dτである

という,(2.131)を用いると,

i(t)i(t+τ)>=02exp(-iω0t)

<exp{i{φi(t+τ)-φi(t)}>­

02exp(-iω0τ)∫τp(τ)dτ

02exp{-iω0τ-(τ/τ0)}.(3.19)

と置くことができます。

それ故,(3.18)は,

<E(t)E(t+τ)>

=ν02exp{-iω0τ-(τ/τ0)}.(3.20)と

なります。よって,規格化された相関関数,つまり,

1次コヒーレンス度:(3.8)のg(1)(τ)

=<(t)E(t+τ)>/<(t)E(t)>は,

(1)(τ)=exp{-iω0τ-(τ/τ0)}.(3.21)と

表わされます。

衝突広がりのある光のスペクトルは,(3.11)

のF(ω)=π-1Re∫0(1)(τ)exp(iωτ)dτ

に従って積分計算すれば得られ,

F(ω)=(πτ0)-1/{(ω0-ω)2+(1/τ0)2}.(3.22)

となります。

これは.(2.112)と同様な規格化Lorentz曲線形です。

放射広がり:γを無視すると,(2.133)で説明無しに

仮定したように,γcoll=1/τ0.(3.23)であれば,線幅:

(2/τ0)は,(2.140)の2γ^=2γ+2γcollと一致すること

を示しています。

それ故,1次コヒーレンス度は,

(1)(τ)=exp(-iω0τ-γcollτ).(3.24)と書けます。

衝突広がりと放射広がりが共存するときは,

1次コヒーレンス度とスペクトルは,光源のモデルを

一般化すれば計算できます。

その結果は,上記のγcollが,これに放射減衰γを加えた

(2.135)の全減衰:γ^=γ+γcollになるように拡張すれば

いいです。

こうして,相関関数と1次コヒーレンス度)は,

(t)(t+τ)>=νE02exp(-iω0τ-γ^τ).(3.25)

および,g(1)(τ)=exp(-iω0τ-γ^τ).(3.26)と一般化

されます。

スペクトルは半値幅が,2γ^=2γ+2γcollのLorentz型

ビームで,コヒーレンス時間は,τc=1/γ^.(2.137)です。

ドプラー広がりがコヒーレンス度に及ぼす効果については

後の§3.5で考察予定です。

如何なる種類nカオス光でもτがτcよりずっと長く

なれば相関が無くなります。

また,<(t)>=0.(3.28)により,1次コヒーレンス度

は,τ>>τcなら,g(1)(τ)=0.(3.29)という極限値を持つ

ことを注意して終わります。

 

今回は,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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2020年1月17日 (金)

光の量子論15

※「光の量子論14」からの続きです。

(※余談)阪神大震災から25年です。

1995年1月16日は私,まだ45歳で夜,新宿三丁目

でニフティのパソコン通信,の将棋フォーラムの新年会

に出ていました。元のゲームフォーラムが麻雀,囲碁,将棋

に分裂してできたのですがそのときは囲碁フォーラムと

合同の新年会でした。当時のニフエィ将棋名人の筆無精さん

に初めて会い,1992年11月にバブル崩壊の頃クビになって

いた就職2つ目の小さな会社の同僚1人と遭遇しました。

(この会社は阪大囲碁部出身の社員が多かった。)

ほぼ朝帰りで帰宅し,TV見たら,既に何千人も死亡とか。

「ナンジャこれは?」となり,まだ携帯無くて西宮在住の

姉に電話しても通じないので,岡山の母に電話すると西宮

の姉も大阪生野区の次兄も無事とのことで,ひとまず安堵

したのを覚えています。私は1985年に35歳で江東区木場

の運河沿いの10階立ての10階に25年ローンで3DKの

分譲マンションを購入(一応先にハコを用意して普通に結婚

できるかもと,。。他人には隠していたが23歳からの精神病

の負い目がなければ。。)その後,40歳で1つ目の会社を辞め,

43歳直前に2つ目の会社をクビになって,約半年間失業保険

で暮らし,それからオイルショックで不況な上40歳を超え

た独身であるためか仕事を選ばないのに,就職試験落ちまく

って,予備校,専門学校の非常勤講師などで食いつなぎ,1994

年には約2000万円で買って9年住んでいたマンションを約

3500万円で売り,差額で巣鴨の1200万円のワンルームを

買って移った頃です。家賃は管理費修繕積立金の他はない

ですが細々と暮らして,パソコン通信のほうがメインの生活

であった頃です。

将棋フォーラムでのリアル対局,兼チャットと,サイエンス

フォーラムから独立した物理フォーラムなどの掲示板で議論

していた頃です。

当時.OSがMS-DOSのPCを1991年から計算機だけでなく

通信手段として使用したのは,後Windows95からインターネット

文化が広がり,携帯,スマホの時代へと進んでいったことを

考えると,ヒョットして先見の明があったのかも知れないです

が,楽天,ライブドアなど商売道具に利用することまでは考えて

いませんでしたね。

今もユーチュ-バー・バブルなどあるカモですが,宝クジ

同様,やる気なしです。私は,このブログ発信程度です。

ユメはお金持ちになることじゃなく,衣食住が足りれば十分

ですから。というわけで,2月1日で70歳ですが,未だ,お金

にはならないであろうけれど,大きなユメの途中です。

イヤ,棺桶も近いけど。。

1999年49歳のクリスマスの頃,派遣会社から常駐仕事に

就けるまではフリーターでした。イヤ,生活レベル下げたく

なかったので,この夜勤の仕事以外にも複数のアルバイトも

していました。37歳頃から糖尿病でしたが,この病気は重病

化しないなら普通に働けます。そして7年後に急に心臓病で

倒れることになったのですね。(余談終わり※)

さて本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の

  • 2.13(合成吸収線の形状)の項を記述しました。

今回は,その続きで次の節からです。

 

  • 2.14 Bloch方程式とレート方程式

光学Bloch方程式と,それより簡単な原子占位数に

対するレート方程式の関係をより詳しく論じます。

第1章で論じた2準位原子の基礎となるレート

方程式は,(1.45)の,dN1/dt=-dN2/dt

=N221-N112W(ω)+N221W(ω) です。

一方,本章で導出した光学Bloch方程式は,

(2.114),(2.115)の,

dρ22/dt=(-iΩ/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22,

および,dρ12/dt=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}

11-ρ22)-γρ12の後者を,(2.134)の,

dρ12/dt=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)

-γ^ρ12.,(γ^=γ+γcoll)と修正した式において,

(2.116)と同様,ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12,

ρ~21=]exp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.160)として振動因子

を消した方程式(2.161)の,dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12

+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.,および,(2.162)のdρ~12/dt

=(iΩ/2) (ρ11-ρ22)+{i(ω0-ω)-γ^}ρ~12 が最も

一般的なモノです。ここで,γは放射減衰速度,γ^は放射

減衰速度:γと,衝突減衰速度γcollの和:γ^=γ+γcoll

示される減衰定数です。

磁場内のスピンに対するBloch方程式のアナロジーで,

減衰定数を2γ=1/T1,γ^=1/T2.(2.163)と表わす

こともあります。T1,および,T2.は,それぞれ,縦,および,

横の緩和時間と呼ばれています。

レート方程式と光学Bloch方程式の関係を調べるのには,

|Ω|がγやγ^よりはるかに小さい,つまりビーム強度の

弱い極限が最も簡単です。

 のときは,前に仮定したのと同じ初期条件:ρ22=ρ12=0

の場合,|Ω|の低次の(2.161),(2.162)の解を求めます。

以前,「光の量子論12」では,|Ω|<<γの極限での|Ω|

について最低次のρ22の解は,初期条件ρ22=ρ12=0の下で,

ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]

(2.128)となります。と書きました。

今のケースでのより一般的な解は,

ρ22(t)={(|Ω|2/4)

[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

exp(-2γt)

-[2{(ω0-ω)2+γ^(2γ-γ^)}cos{(ω0-ω)t}

+4(ω0-ω)(γ^-γ)sin{(ω0-ω)t}]exp(-γ^t)

/[{(ω0-ω)2+γ^2}{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}].(2.164)

で与えられることがわかります。

※(注15-1):以下では今回の方程式の解:(2.164)を証明

するため,前に「光の量子論12」の(注12-2)で,(2.128)を

求めるために実施したのと同じ手順を修正して繰り返します。

[証明]:まず,ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12,

ρ~21=exp{-i(ω0-ω)t}ρ21,とおくと,基本方程式は,

dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.

dρ~12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γ^ρ~12

-i(ω0-ω)ρ~12となります。

dρ~21/dtは,これの複素共役で与えられ,

dρ~21/dt=(-iΩ/2)(1-2ρ22)-γ^ρ~21

+i(ω0-ω)ρ~21となります。

そこで,x=ρ22,y=(-iΩ/2)ρ~12,y=(iΩ/2)ρ~21

と置くと,これらは,dx/dt=y+y-2γx,

dy/dt=(|Ω|2/4)(1-2x)+{-γ^+i(ω0-ω)}y

dy/dt=(|Ω|2/4)(1-2x)+{-γ^-i(ω0-ω)}y

と書けます。

整理すると,dx/dt=-2γx+y+y,

dy/dt=-(|Ω|2/2)x+{-γ^+i(ω0-ω)}y+|Ω|2/4,

dy/dt=-(|Ω|2/2)x+{-γ^-i(ω0-ω)}y+|Ω|2/4

です。そこで,これを3次元の列ベクトル:=[x,y,y]

に対する線形非同次の行列方程式の形で3×3係数行列を^

として,d/dt=^,と書きます。

ただし,定数項=[0,|Ω|2/4.|Ω|2/4]です。

これの初期条件がt=0で0の解は,既に何度か示した

ように,(t)={exp(^t)-1}^-1で与えられます。

A^の逆行列:A^-1は,その要素が,

(det^)(^-1)11=γ^2+(ω0-ω)2

(det^)(^-1)12=-{-γ^-i(ω0-ω)},

(det^)(^-1)13=-{-γ^+i(ω0-ω)}

(det^)(^-1)21=-(|Ω|2/2),

(det^)(^-1)22=-2γ{-γ^-i(ω0-ω)}+|Ω|2/2,

(det^)(^-1)23=-(|Ω|2/2),

(det^)(^-1)31=(|Ω|2/2){-γ^-i(ω0-ω)},

(det^)(^-1)32=-|Ω|2/2,

(det^)(^-1)33=―2γ{-γ^+i(ω0-ω)}+|Ω|2/2,

で与えられます。

ただし,det^=-2γ{γ^2+(ω0-ω)2}

-(|Ω|2/2){-γ^+i(ω0-ω)}

-(|Ω|2/2){γ^-i(ω0-ω)}

=-2γ{γ^2+i(ω0-ω)2+|Ω|2/2}です。

また,^=α(0)を満たす固有値αを求める

方程式は,det(^-α^)=0ですが,これは,

(-2γ-α){(-γ^-α)2+(ω0-ω)2}

-(|Ω|2/2){(-γ^-α)-i(ω0-ω)}

-(|Ω|2/2){(-γ^-α)+i(ω0-ω)}=0となります。

つまり,(-2γ-α){(-γ^-α)2+(ω0-ω)2}

-|Ω|2{(-γ^-α)=0です。

さらに,書き下すと,

α3+{γ^2+(ω0-ω)2-|Ω|2}α+2γ{γ^2+(ω0-ω)2

+(|Ω|2/2)}=0 です。

しかし,今は|Ω|の最低次近似を求めればいいので,

因子:|Ω|2を含む項を無視する近似では,

固有値方程式は,(α+2γ){(α+γ^)2+(ω0-ω)2}=0

となり,異なる3つの固有値として,α0=-2γ,

α±=-γ^±i(ω0-ω)(複号同順)なる近似値を得ます。

それ故,特に,α+α=-2γ^,および,

αα=γ^2+(ω0-ω)2なる関係が成立します。

そして,この近似でα0に属する固有

ベクトルを,それぞれ,Y0,Yと書けば,定数倍

の任意性を除いて,

0=[1,0,0],Y=[-(α0-α)-1,1,0],

=[-(α0-α )-1,0,1]と書けること

がわかります。

何故なら,この近似で係数行列^は第1行が[α0,1,1],

第2行が[0,α,0].第3行が[0,0,α]であるからです。

これら,0,,を3列に並べた行列を

^=(0,,)と書いて定義し,その逆行列^-1を,

^-1=(0,,)と表わすと,

det(^)=1なので,Z0=[1,0,0],Z=[(α0-α)-1,1,0],

=[(α0-α)-1,0,1]となります。

こうすると,対角要素が固有値:α0の対角行列

Λ^は,Λ^=P^-1^^で与えられます。

そこで,exp(Λ^t)=P^-1exp(A^t)^が成立します。

それ故,前に与えた初期値が0のd/dt=A^X

の解:(t)={exp(^t)-1}^-1において,|Ω|の最低

次近似の解としての(t)は,左からP^-1を掛けて,

P^-1(t)={exp(Λ^t)-1}P^-1^-1bを満たします。

これから,結局.X(t)=P^{exp(Λ^t)-1}P^-1^-1

が得られます。

ところで,A^の逆行列^-1の要素の近似を書き下すと,

1行目は変更無しで,(det^)(^-1)11=αα,

(det^)(^-1)12=-α,(det^)(^-1)13=-αです。

また,2行目の近似は,(^-1)21=(^-1)23=0,および,

(det^)(^-1)22=-2γ{-γ^-i(ω0-ω)}=α0αです。

3行目は,(^-1)31=(^-1)32=0,(det^)(^-1)33

=-2γ{-γ+i(ω0-ω)} =α0αとなります。

さらに,det^=-2γ{γ^2+(ω0-ω)2}=α0αα

と書けます。

つまり,^-1は1行目が[α0-1,-α0-1α-1,-α0-1α-1 ],

2行目が[0,α-1,0 ],3行目が[0,0,α-1 ]の行列です。

それ故,==(|Ω|2/4)[0,1,1]に対して.

^-1={|Ω|2/(4αα)}

[-(α+α)/α0]です。

( ※については,|Ω|2を無視するとゼロとなって

無意味なので,|Ω|2を無視せず,因子として残します。)

さらに,左から^-1=(0,,),Z0=[1,0,0],

=[(α0-α)-1,1,0],=[(α0-α)-1,0,1],

を掛けます。

つまり,1行目が,[1,(α0-α)-1,(α0-α)-1]

2行目が[0,1,0],3行目が[0,0,1]の行列を掛けます。

それ故,P^-1^-1={|Ω|2/(4αα)}

[-(α+α)/α0+α/(α0-α)+α/(α0-α)

]です。

故に,P^-1(t)={exp(Λ^t)-1}^-1^-1

={|Ω|2/(4αα)}

[{-(α+α)/α0+α/(α0-α)+α/(α0-α)}

{exp(α0t)-1},α{exp(αt)―1},α{exp(αt)―1}]

となります。

最後に,両辺の左からP^=(Y0,Y,),0=[1,0,0],

=[-(α0-α)-1,1,0],Y=[-(α0-α)-1,0,1]

つまり,1行目が,[1,-(α0-α)-1,-(α0-α)-1],

2行目が[0,1,0],3行目が[0,0,1]の行列^を掛けて,

近似解:X(t)=[(t),y(t),y(t)]の成分を

求めます。

第1成分x(t)は,

x(t)={|Ω|2/(4αα)}[{-(α+α)/α0

+α/(α0-α)+α/(α0-α)}exp(α0t)

-{α/(α0-α)}exp(αt)

-{α/(α0-α)}exp(αt)

-(α+α)/α0 -α/(α0-α)-α/(α0-α)}

+α/(α0-α)+α/(α0-α) です。

故に,{|Ω|2/(4αα)}exp(α0t)

={|Ω|2/(4αα)}exp(-2γt)の係数は,

-(α+α)/α0+α/(α0-α)+α/(α0-α)

となります。

ところで,α/(α0-α)+α/(α0-α)

=[α0+α)-(α2+α2)}

/{(α0-α)(α0-α)}

=(α+α)

×{α02-α0+α)+2α0α)/(α+α)}

/{α00-α)(α0-α)}

=(α+α)/α0+{2α0-(α+α)}(αα)}

/{α00-α)(α0-α)}

=(αα)[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+2{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}です。

他方,α/(α0-α)-α/(α0-α)

=α0-α)-(α2-α2)}

/{(α0-α)(α0-α)}

=(α-α){α02-α0+α)}

/{α00-α)(α0-α)}

=(α-α)/α0

-{(α-α)(αα)}/{α00-α)(α0-α)}

=(αα)[{i(ω0-ω)/γ}/{(ω0-ω)2+γ^2}

-{i(ω0-ω)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}です。

したがって,exp(α0t)=exp(-2γt)の項は,,

(|Ω|2/4)[{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

exp(-2γt) と書けます。

定数項は,{|Ω|2/(4αα)}(α+α)/α0

=(|Ω|2/4)(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}です。

そこで,ρ22の非振動項は,

(|Ω|2/4)×[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}

exp(-2γt)]となります。

また,振動項は,

-{|Ω|2/(4αα)}[{α/(α0-α)}exp(αt)

+{α/(α0-α)}exp(αt)

=-{|Ω|2/(4αα)}

[{α/(α0-α)}exp(-γt)exp{-i(ω0-ω)t}

+{α/(α0-α)}exp(-γt)exp{i(ω0-ω)t}]

ですが,exp{±i(ω0-ω)t}

=cos{(ω0-ω)t}±isin{(ω0-ω)t}です。

そこで,このexp(-γt)に比例する項は,

-(|Ω|2/4) exp(-γt)

[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+2{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}

cos{(ω0-ω)t}

-[{(ω0-ω)/γ}/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(ω0-ω)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}}

sin{(ω0-ω)t}

=-(|Ω|2/4)

×[2{(ω0-ω)2+γ^(2γ-γ^)}cos{(ω0-ω)t}

+{4(ω0-ω)(γ^-γ)sin{(ω0-ω)t}}exp(-γt)

/[{(ω0-ω)2+γ^2}{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

となります。

以上から,ρ22(t)=x(t)=(|Ω|2/4)

×[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}

exp(-2γt)]-[2{(ω0-ω)2+γ^(2γ-γ^)}

cos{(ω0-ω)t}

+{4(ω0-ω)(γ^-γ)sin{(ω0-ω)t}}

×exp(-γt)

/[{(ω0-ω)2+γ^2}{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

の(2.164)の表式が得られました。[証明終わり] 

ちなみに,第2成分y(t)は,

y(t)=(-iΩ/2)ρ~12(t)

={|Ω|2/(4αα)}{α{exp(αt)―1}

=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ^2}]

{{-γ^-i(ω0-ω)}{exp(-γ^t+i(ω0-ω)t}

―1]となるので,ρ~12(t)

=exp{i(ω0-ω)t}ρ12(t)

=[(Ω/2)/{(ω0-ω)2+γ^2}]

[{(ω0-ω)-iγ^}{exp[{-γ^t+i(ω0-ω)t}-1]

です。

結局,ρ12(t)=(Ω/2)[exp(-γ^t)-exp{-i(ω0-ω)t}]

/{(ω0-ω)+iγ^}を得ます。 (注15-1終わり※)

 さて,(2.164)は,衝突広がりγcollがないγ^=γの場合は,

前に得た(2.128)のρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]

に帰着します。

 

今の議論では,非対角行列要素ρ12は必要ないですが,

後の第8章での使用のために,初期条件の制限を多少緩

めてt=0でρ22(はゼロですが,ρ12は任意の初期値ρ12(0)

を持つときの|Ω|について最低次の解として,

ρ12(t)=[(iΩ/2)/{i(ω0-ω)-iγ^}]

×{exp(-γ^t)-exp{-i(ω0-ω)t}

+ρ12(0)exp(-γ^t).(2.165)

を与えておきます。

※(注15-2):上記を証明します。

(注15-1)では,d/dt=^,

=[0,|Ω|2/4.|Ω|2/4]ですの初期条件が

(0)=0の解は,

(t)={exp(^t)-1}^-1で与えられる,

と書きましたが.(0)がゼロとは限らず,任意の

ベクトルの場合の解は,明らかに,

(t)={exp(^t)-1}^-1b+exp(^t)(0)

となります。

ここで,P^-1^^=Λ^(対角行列)を満たす^を

用いれば,(t)=^{exp(Λ^t)-1}^-1^-1

exp(Λ^t)(0)です。

そこで(0)=[0,y(0),0]の場合の第2成分は,

y(t)=(-iΩ/2)ρ~12(t)

={|Ω|2/(4αα)}{α{exp(αt)―1}

+y(0)exp(αt)=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ^2}]

[{{-γ^-i(ω0-ω)}exp{-γ^t+i(ω0-ω)t}―1]

+y(0)exp{-γ^t+i(ω0-ω)t}です。

したがって,結局,ρ12(t)=[(iΩ/2)/{i(ω0-ω)-iγ^}]

×{exp(-γ^t)-exp{-i(ω0-ω)t}+ρ12(0)exp(-γ^t)

が得られます。(注15-2終わり※)

 

さて,レート方程式から求めた励起状態の占位数の時間

依存性は,(1.70)の,

2={NBW/(A+2BW)}[1-exp{-(A+2BW)t}]

から,入射ビームWが弱い場合には,

2=(NBW/A){1-exp{-(At)}.(2.166)が得られます。

対角解(2.164)がこれと同等な時間依存性を持つ2通りの

異なる状況が存在します。第1の状況は周波数の広がりが

原子遷移の線幅2γ^より大きい広帯域入射光のある場合です。

(2.164)の複素周回積分を利用して,γ^が2γより大きくても,

小さくても,∫-∞ρ22dω={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}

(2.167)を示すことができます。

※(注15-3):上記を証明します。

[証明] まず,∫-∞dω[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}]=π/γ,

かつ,∫-∞dω[{(2γ―γ^/γ)}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

=π/γです。

それ故,∫-∞dω(|Ω|2/4)[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}

exp(-2γt)]={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}です。

一方,∫-∞dω[2{(ω0-ω)2+γ^(2γ-γ^)}

cos{(ω0-ω)t}+{4(ω0-ω)(γ^-γ)sin{(ω0-ω)t}}

exp(-γ^t)/[{(ω0-ω)2+γ^2}{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

を計算するために,まず,ν=ω-ω0と変数置換します。

ω0-ω=-νでdω=dνですから,

-∞dν [2{ν2+γ^(2γ-γ^)}cos(νt)

-{4ν(γ^-γ)sin(νt)}exp(-γt)

exp(-γ^t)/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]です。

ここで,cos(νt)=(1/2){exp(iνt)+exp(-iνt)}

sin(νt)=(-i/2){exp(iνt)-exp(-iνt)} を

代入すれば,

-∞dν[{ν2+γ^(2γ-γ^)}cos(νt)

exp(-γ^t)/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

=∫-∞dν[{ν2+γ^(2γ-γ ^)}

{exp(iνt) +exp(-iνt)}]

exp(-γ^t)/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

であり,

-∫-∞dν{4ν(γ^-γ)sin(νt)}

exp(-γ^t)/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

=-∫-∞dν{-2iν(γ^-γ)}

{exp(iνt)-exp(-iνt)}

exp(-γ^t)/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

です。つまり,与式

=∫-∞dν[{ν2+γ^(2γ-γ ^)+2iν(γ^-γ)}

exp(iνt)exp(-γ^t)]/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

-∫-∞dν{{ν2+γ^(2γ-γ ^)-2iν(γ^-γ)}

exp(-iνt)exp(-γ^t)]

/[(ν2+γ^2){ν2+(2γ-γ^)2}]

   =∫-∞dν [exp(iνt)/[(ν+iγ^){ν-i(2γ-γ^)2}]

-∫-∞dν  [exp(-iνt)}/[(ν-iγ){ν+i(2γ-γ^)2}]

です。

これを求めるために,νを複素数として,複素平面上の実軸

に,半径が+∞の半円周を加えた閉路上の同じ被積分関数の

周回積分を考えます。

exp(iνt)に比例する項では,実軸に虚部が正の上半円

の周を加えた反時計周り(正)の外周C1を採用し,

exp(-iνt)に比例する項では,実軸に虚部が負の下半円

の周を加えた時計周り(負)の外周C2を採用すれば,共に,

元の実軸上の実積分に一致します。

1上の積分では,これの内部の1位の極は2γ<γ^

なら,ν=-i(2γ-γ^)で,2γ>γ^ならなしです。|

そこで,Cauchyの留数定理から積分値は,2γ>γ^なら

ゼロですが,2γ<γ^,

なら(2πi)(-2iγ)-1exp{-(2γ-γ^)t})exp(-γ^t)

=-(π/γ)exp(-(2γt)となります。

一方,C2上の積分ではこれの内部の1位の極は2γ<γ^

ならν=i(2γ-γ^)で,2γ>γ^ならなしです。

そこで積分値は, 2γ>γ^ならゼロですが,2γ<γ^

なら-(-2πi)(2iγ)-1exp{-(2γ-γ^)t})

exp(-γ^t)=(π/γ)exp(-(2γt)です。

したがって,2γ<γ^でも2γ>γ^でも,これらの

積分の寄与の総和はゼロで,結局,∫-∞ρ22dω

={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}と結論されます。

(注15-3終わり※)

 

さて,第2の状況は,γ^>>2γと,衝突広がりが大きい

場合です。このとき,時間tが1/γと同程度であれば,

t>>1/γ^が成立するので,下に再掲載する(2.164)式の

ρ22(t)=(|Ω|2/4)×[(γ^/γ)/{(ω0-ω)2+γ^2}

+{(2γ-γ^)/γ}/{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}exp(-2γt)]

-[2{(ω0-ω)2+γ^(2γ-γ^)}cos{(ω0-ω)t}

+{4(ω0-ω)(γ^-γ)sin{(ω0-ω)t}}exp(-γt)

/[{(ω0-ω)2+γ^2}{(ω0-ω)2+(2γ-γ^)2}]

は,ρ22(t)={|Ω|2γ^/(4γ)}/{(ω0-ω)2+γ^2}

×{1-exp(-2γt)}.(2.168)に帰着します。

(※ 何故なら,(2γ-γ^)~(-γ^)より,

ρ22(t)~{|Ω|2γ^/(4γ)}

×[{1-exp(-2γt)}+exp(-γ^t){exp{i(ω0-ω)t}

+exp{-i(ω0-ω)t}]/{(ω0-ω)2+γ^2}ですが,

γ^t>>1より,exp(-γ^t)~ 0で最後の振動項は無視

できます。)

 ここで,R=(|Ω|2γ^/2)/{(ω0-ω)2+γ^2}(2.169)

と定義すれば,

レート方程式:dρ22/dt=R-2γρ22 (2.170)の

解は,ρ22(t)={R/(2γ)}{1-exp(-2γt)}.(2.171)

となり,(2.168)に一致します。

これらの(2.168),(2.171)は基礎的レート方程式の解

2=(NBW/A){1-exp{-(At)}.(2.166)と同一です。

γ^>>γの極限で光学Bloch方程式のと等価な(2.170)

のdρ22/dt=R-2γρ22,は,励起状態の占位数が,

励起速度Rと放射減衰速度A=2γとの競合によって

決まることを示しています。

R=(|Ω|2γ^/2)/{(ω0-ω)2+γ^2}により,励起速度

の入射周波数ωへの依存性は衝突によって広がった原子

遷移のLorentz型曲線形に従っています。

励起速度Rは§1.12のレーザー理論での準位3から

準位2へのポンピング速度と同様の意味を持ちます。

レート方程式が成り立つのは「(ⅰ)入射光のバンド幅

が原子遷移の線幅より広い。」か「(ⅱ)(衝突幅)+

(Doppler幅)を組み合わせた線幅が.遷移放射による線幅

よりずっと広い。」かのいずれか.の場合です。

 

今回は,ここで第2章が終わるので,ここまでにします

参照過去ノートの本章終了の日付けは,2006年8/9(木)

で長年の糖尿病の放置が原因で年末に心臓疾患になり,4月

に手術を受け,再びプータローになり,かつ,障害者になる

ことなどは予想もしていない56歳半ばの頃です。

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

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2019年12月20日 (金)

光の量子論14

「光の量子論13」からの続きです。

(※余談):私の両親は父が明石市,母が和歌山市出身の

関西人ですが,私は岡山県倉敷市の出身です。

もっとも,東京に来たのが1977年で,故郷で暮らして

いた一浪までの18年は,はるか昔になりました。

 昔から「岡山県人は腹が黒い」とか,岩井志麻子のおかげ

で「岡山の男はヤギとセックスする。」とか悪口のたぐいが

多いようです。実際,隣の広島県人は芸能界でも甲子園でも

プロ野球でも大活躍で,男なら熱血漢と称される方が多い

ようですが,岡山県人は私もそうですが,何かに成功しても

失敗しても,「本気で,一所懸命に努力していると思われる

のが恥ずかしい。」などという,イヤミで屈折したところが

有る人多いような気がします。バカですネ。

とはいえ,渋野日向子チャンは岡山弁もかわいいと思います。

私は昔から市毛良枝さんが好きですが,2人は顔がよく似て

いるな?と思いました。最近,岡山は千鳥とかブルゾンとか

売れた芸人もいます。

スポーツなら,昔は星野,辰吉とかアブナイ選手,監督

がいたし,女子は有森以来,長距離強く天満屋もハンパない

ですね。(余談終わり※)

さて本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.12

(ドプラー広がり)の項を記述して終わりました。

今回はその続きで,次の節からです。

 

  • 2.13 合成吸収線の形状,

衝突広がりの(2.132):1/τ0=(4d2N/V){π/(βM)}1/2

coll=1/τ0,β=1/(kT)と,ドプラー幅を与える(2.151)

の2Δ=2ω0{2kTln2/(Mc2)}1/2の両式を見ると,これらは,

実験的パラメータを調節すれば,衝突幅もドプラー幅もいくら

でも小さくできることが,明瞭に示されています。

これらの幅は,共に温度の平方根に比例し,衝突幅の方は

気体の密度,または,それと等価な気体圧にも比例しています。

こういうわけで,衝突広がりを圧力による広がり,と呼ぶ

こともあります。

 それ故,十分低温に保たれた気体放電を利用することにより,

原理的には放射による不可避な線幅しか持たない吸収線を観測

することが可能となります。気体圧力の調節によりドプラー幅

や放射幅に比して,衝突幅を相対的に変化させることができます。

線幅におけるドプラー効果,原子衝突と恐らくは放射も同程度

の寄与をする場合には,これら3つの過程から生じた合成曲線

の形を決めることが必要になります。

(※ ただし.入射ビームは弱く,飽和広がりは無視できると仮定

します。)

さて,規格化された曲線形関数F1(ω)とF2(ω)を別々に生じる

ような線の広がりを起こす2つの機構を合成することを考えます。

合成された曲線形は,F(ω)=∫F1(ν)F2(ω+ω0-ν)dν

(2.155)と書けます。これは,「合成積」.または「たたみ込み積分:

と呼ばれるものです。ただし,ω0は2つの分布に共通する中心の

周波数です。

すなわち,減衰γ1があって波動関数がexp(-γ1t-iω0t)に

比例するような波動の寄与:f1(t)~∫F1(ω)exp(±iωt)dω

と,減衰γ2があって波動関数がexp(-γ2t-iω0t)に比例する

ような波動の寄与:f2(t)~∫F2(ω)exp(±iωt)dωの掛け算

として合成され,振動部分exp(-iω0t)は変わらず,減衰が和:

1+γ2)となる波動:exp{-(γ1+γ2)t-iω0t}に比例する

ものの寄与が,f1(t)×f2(t)exp(iω0t)

~∫F(ω)exp(±iωt)dωとなることを意味します。

※(注14-1):上記を説明します。

xの関数f(x)が,f(x)=∫―∞F(k)exp(ikx)dk

なるFourier(フーリエ)積分で表わせる場合,その逆変換として

関数F(k)はF(k)=(2π)-1―∞f(x)exp(-ikx)dxと

表わせます。このような相互変換をFourier変換と呼びます。

双方の表現の対称性を保つために,

f(x)=(2π)-1/2―∞F(k)exp(ikx)dk

⇔F(k)=(2π)-1/2―∞f(x)exp(-ikx)dxとして,

定係数を同じにするFourier変換の定義もあります。

以下の議論では,どちらでもいいのですが,便宜上前者の定義

を採用します。そして,この変換を示す汎関数を(関数の関数):

として,関数F=[f]が,関数fのFourier変換である,と

表記すれば便利です。

それでは,F=[f]:

つまり,F(k)=(2π)-1―∞f(x)exp(-ikx)dx,G=[g]

つまり,G(k)=(2π)-1―∞g(x)exp(-ikx)dxのとき,

積:F(k)×G(k)はどのような関数のFourier変換でしょうか?

単純にF(k)×G(k)=(2π)-2{∫―∞f(x)exp(-ikx)dx}

×{∫―∞g(y)exp(-iky)dy}と書けば,これの右辺

=(2π)-2―∞dx∫―∞dy[f(x)g(y)exp{-ik(x+y)}]

です。xはそのままで,yの積分でyをu=x+y ⇔ y=u―xと

変数置換すると,dy=duであり,

与式=(2π)-2―∞du∫―∞dx[f(x)g(u-x)exp(-iku)]

と書けます。

そこで,h(u)=(2π)-1―∞f(x)g(u-x)dxと置けば,

F(k)×G(k)=(2π)-1―∞h(u)exp(-iku)duを得ます。

したがって, (F・G)(k)=F(k)×G(k)と定義すると,

これはF・G=[h]を意味します。

uをxに置き換えたh(x)=(2π)-1―∞f(y)g(x-y)dy

なるxの関数hを(f*g)と表わして,fとgの「合成積」,または,

「たたみ込み積分」と呼びます。

これは、逆変換として,(f*g)(x)

=∫―∞{F(k)G(k)}exp(ikx)dkと書けることをも

意味します。

ここで,x→t,k→ -ωと変数置換して,Fourier変換を,

f(t)=∫―∞F(ω)exp(-iωt)dω,および,[f]

=F(ω)=(2π)-1―∞f(t)exp(iωt)dtと定義すれば,

合成積は(f*g)(t)=∫―∞f(τ)g(t-τ)dτ,および,,

(F*G)(ω)=∫―∞F(ν)g(ω-ν)dνとなり,

f(t)×g(t)=∫―∞(F*G)(ω)exp(-iωt)dω,

F(ω)×G(ω)=(2π)-1―∞(f*g)(t)exp(iωt)dt

が成立することになります。

以上から,F(ω)=∫―∞1(ν)F2(ω+ω0-ν)dν

=(F1*F2)(ω+ω0)であり,これは,F1とF2の合成積:

(F1*F2)の引数が(ω+ω0)の値を意味します。

なお,これらはexp(iωt)を,exp(-iωt),cos(ωt)

または,sin(ωt)に変更しても,そのまま成立します。

ところで,以前の「光の量子論10」では,単一の気体原子

の電気双極子モーメントd(t)が,d(t)

=-e{C1212exp(-iω0t)+C2121exp(iω0t)}

=-e[ρ21(t)X12exp(-iω0t)+ρ12(t)X21exp(iω0t)}

で,理論的に与えられることを記述しました。

それ故,前記事でドプラー広がりを除く最も一般的ケースで

得た光学Bloch方程式の解;(2.137)のtの関数としての密度

行列:ρ12(t)=-exp{-i(ω0-ω)t}

[(Ω/2)(ω0-ω-iγ^)/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2},

および,ρ21(t)=ρ12(t)を,上のd(t)の右辺に代入すると,

(t)={e2|X12|20/(2hc)}

[{(ω0-ω+iγ^)exp(-iωt)+(ω0-ω-iγ^)exp(iωt)}

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2} なる表式を得ます。

そして,対象とする気体の分極Pは,体積V,原子数Nに対し,

(t)=N(t)/V

=(1/2)ε00{χ(ω)exp(-iωt)+χ(ω)exp(iωt)]

と書けます。ここに,χ(ω)は感受率で,χ(ω)

=χ’(ω)+iχ”(ω)

={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}(ω0-ω+iγ^)

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2} です。

特に,|Ω|<<γで,飽和広がりを無視し,γ^~γなら,

放射減衰γだけの寄与となり

d(t)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

[{(ω0-ω+iγ)exp(-iωt)+(ω0-ω-iγ)exp(iωt)}

/{(ω0-ω)2+γ2}となります。

再び,感受率をχ(ω)=χ’(ω)+iχ”(ω)と書くと,

χ”(ω)={πNe2|D12|2/(3ε0cV)}

×(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}であり,この場合,吸収係数は,

K(ω)=2ω/(cη)χ"(ω)

~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0ccV)}F(ω),ただし,

(ω)=(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}(FLはLorentz型曲線)

と書けます。

つまり,分極P(t)=(1/2)ε00

×[χ(ω)exp(-iωt)+χ(ω)exp(iωt)]の虚部は,

(-i/2)ε00{χ”(ω)(exp(-iωt)-exp(iωt)]

=ε00χ”(ω)sin(ωt)で,これはF(ω)sin(ωt)に

比例します。

したがって,d(t)={e2|X12|20/(2hc)}f(t)で,

f(t)=∫―∞F(ω)exp(-iωt)dωと表わせる場合

には,P(t)の虚部はF(ω)sin(ωt)に比例することに

なります。

そこで,d1(t)={e2|X12|20/(2hc)}f1(t),および,

2(t)={e2|X12|20/(2hc)}f2(t)なる形であるとき,

1(t),f2(t)の周波数分布が,それぞれ,

1(t)=∫―∞1(ω)exp(-iωt)dω,

2(t)=∫―∞2(ω)exp(-iωt)dωと書ける

場合,その積はf1(t)×f2(t)

=∫―∞[(F1*F2)(ω)exp(-iωt)]dω

=∫―∞[(F1*F2)(ω+ω0)exp{-i(ω+ω0)t}]dω

=[∫―∞F(ω)exp(-iωt)dω]exp(-iω0t)

で与えられます。

したがって,f1(t)×f2(t)exp(iω0t)

=∫―∞F(ω)exp(-iωt)dωとなること,

ただし,F(ω)=∫―∞1(ν)F2(ω+ω0-ν)dν

=(F1*F2)(ω+ω0)であること,が得られました。

(注14-1終わり※)

 言い換えると,積分F(ω)は,曲線形F1の各周波数成分

に,曲線形F2を生じる機構に特有な分布の広がりを付与

するものです。

明らかに,線幅を広げる機構がいくつあっても,(2.155):

F(ω)=∫―∞1(ν)F2(ω+ω0-ν)dνを反復適用

することによって,それらを合成できます。

最終の曲線形はそれらの寄与を合成する順序に無関係で

あり,(2.155)の積分値もF1とF2を交換しても不変である

ことに注意すべきです。

 実際,広がりの2つの原因が,それぞれ,幅2γ1と2γ2

持ったLorentz曲線形を生じるのであれば,それらを合成した

曲線もL0rentz型で,その幅は2γ=2γ2+2γ2.(2.156)と

なります。

前回記事の§2.11(衝突広がり)の最後の計算で,放射,飽和,

衝突による広がりを含む原子遷移の線幅は2(γ2+|Ω|2/2)1/2

を一般化した式:2{γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}1/2.(2.139)となり,

飽和広がりが無視できるなら(2.139)が.2γ^=2γ+2γcoll.

(2.140)に帰着する,と書きましたが,これは,一般的結果:

(2.156)の特別な場合と考えられます。

※(注14-2):上記の合成積が2γ=2γ2+2γ2.のLorentz

曲線になるという(2.156)の結果を直接計算で証明します。

[証明]:まず,G(ω)=∫―∞dν(γ1/π)(γ2/π)

/[{(ω1-ν)2+γ12}{(ω+ω2-ν)2+γ22}]を計算します。

証明対象の式であるF1(ω)=(γ1/π)/{(ω0-ω)2+γ12},

および,F2(ω)=(γ2/π)/{(ω0-ω)2+γ22}とした合成積:

F(ω)=∫―∞1(ν)F2(ω+ω0-ν)dνは,

F(ω)=∫―∞―∞dν(γ1/π)(γ2/π)

/[{(ω0-ν)2+γ12}{(ω0-ω-ω0+ν)2+γ22}]

=∫―∞―∞dν(γ1/π)(γ2/π)

/[{(ω0-ν)2+γ12}{(ω-ν)2+γ22}]となり,これは

G(ω)において,ω1=ω02=0としたものに相当します。

 さて,G(ω)を計算するため,2変数のFeynman積分公式:

1/(AB)=∫01dα/{Aα+B(1-α)}2を利用します。

すなわち,{π2/(γ1γ2)}G(ω)=∫01dα∫―∞dν

/{(ω1-ν)2α+γ12α+(ω+ω2-ν)2(1-α)+γ22(1-α)}2

=∫01dα∫―∞dν/[ν2-2{ω1α+(ω+ω2)(1-α)}ν

+(ω12+γ12)α+{(ω+ω2)2+γ22}(1-α)]2

です。

ここで,∫―∞dx/(x2+a2)2

=∫―π/2π/2(asec2θ/a4sec4θ)dθ

=1/(2a3)∫―π/2π/2よ{1+cos(2θ)}dθ=π/(2a3)

より,b>a2の前提で,∫―∞dx/(x2-2ax+b)2

=∫―∞dx/{(x-a)2+b-a2}2=π/(2(b-a2)3/2

を得ます。

それ故,積分変数をxからνに置換して,

a=ω1α+(ω+ω2)(1-α),および.

b=(ω12+γ12)α+|(ω+ω2)2+γ22}(1-α)と

置くと,b-a2=ω12α(1-α)+(ω+ω2)2α(1-α)

-2α(1-α)ω1(ω+ω2)+(γ12-γ22)α+γ22

=(ω1-ω2―ω)2α(1-α)+(γ12-γ22)α+γ22

となるので,Ω^=ω1-ω2-ωと置けば,b-a2

=Ω^2α(1-α)+(γ12-γ22)α+γ22となります。,

そこで,先の公式から、{π2/(γ1γ2)}G(ω)

=(π/2)∫01dα{Ω^2α(1-α)+(γ12-γ22)α+γ22}-3/2

=(πΩ^-3/2)∫01dα

22/Ω^2+{(Ω^2+γ12-γ22)/Ω^2}α-α2]-3/2

を得ます。

次に,この積分を具体的に計算するために,

P=∫01dα(C+Bα-α2)-3/2として,これを求めます。

こういうのは公式集でも見れば,スグわかるのですが,

どうしても初等的に導出不可能な場合を除き,そうした

公式もできるだけ自力で求めるという,学生時代からの

頑固なポリシイがあるので,やってみます。

「過去の知見をチェックせず信用してスルーして新しい

ことに向かわないからオマエは研究者向きでないのだ。」

と当時の先輩,同僚,教師たちから忠告されたこと多々

ありました。

しかし,大袈裟ですが,私は未だに「殺されても変えられ

ないことがある。」とか,「エゴ(自己利益)だけじゃ動かない。」

とかいう意固地貧乏な性格のまま人生終わりそうです。

さて,P=∫01dα(C+Bα-α2)-3/2

=∫01dα{(B2/4+C)-(α-B/2)2}-3/2ですから,

α-B/2=(B2/4+C)1/2sinθと置くと,

dα=(B2/4+C)1/2cosθdθです。

故に,P=(B2/4+C)-1θ1θ2sec2θdθ

=(B2/4+C)-1(tanθ2-tanθ1)となります。

ただし,sinθ1=(-B/2)/(B2/4+C)1/2,,

sinθ2=(1-B/2)/(B2/4+C)1/2,です。

tanθ=±sinθ/(1-sin2θ)1/2より,符号が正の分枝

を採用すると,tanθ1=(―B/2)/C1/2,かつ,,

tanθ2=(1-B/2)/(C+B-1)1/2の分枝なのでP

=(B2/4+C)-1{(1-B/2)/(C+B-1)1/2+(B/2)/C1/2}

です。これにC=γ22/Ω^2,B=(Ω^2+γ12-γ22)/Ω^2

代入して、C1/2=γ2/Ω^,(C+B-1)1/2=γ1/Ω^ですから

P=(B2/4+C)-1[(γ1+γ2)/(2Ω^γ1γ2){Ω^2+(γ1-γ2)2}

以下,詳細を略して,最終的に,

P={2Ω^31+γ2)/(γ1γ2)}/{Ω^2+(γ1+γ2)2}を

得ますが,{π2/(γ1γ2)}G(ω)=(πΩ^-3/2)Pなので,,

G(ω}={(γ1+γ2)/π}/{(ω1-ω2-ω)2+(γ1+γ2)2}

です。前述したように,F(ω)はG(ω)でω1=ω02=0

としたものですから,結局,F(ω)

={(γ1+γ2)/π}/{(ω0-ω)2+(γ1+γ2)2}を得ました。

[証明終わり]   (注14-2終わり※)

 次に,線幅をGauss型曲線に広げる機構が2つある場合には,,

合成された曲線がやはり,Gauss型となり,元の2つの曲線の

半値幅が2Δ1,2Δ2のとき,Δ2=Δ12+Δ22で与えられる半値幅:

2Δを持ちます。

※(注14-3):上記を証明します。

[証明]:前記事で書いたように,気体内で運動する全原子は,

ドプラー効果により吸収する光の周波数ωの分布は,Gauss分布

exp{-Mc2(ω-ω0)2/(2ω02T)}(c/ω0)dω.(2.149)で

与えられ,これの半値幅(全線幅)を2Δとすると,

2Δ=2ω0{2kTln2/(Mc2)}1/2(2.151)と表わされます。

Gauss曲線:Fは,

(ω)=(2π)-1(2δ2)-1/2exp{-(ω-ω0)2/(2δ2)}で定義され

-∞(ω)dω=1が満たされますが,上記ドプラ-・

シフトの曲線形は,これの,δ=ω0{2kT/(Mc2)}1/2

=Δ/(2ln2)1/2~Δ/1.18.(2.152)と置いたものに相当します。

そこで,Fj(ω)=(2πδj2)-1/2exp{-(ω-ω0)2/(2δj2)}

(j=1,2)として,F(ω)=∫―∞1(ν)F2(ω+ω0-ν)dν

を計算します。

F(ω)=(2π)-12δ22)-1/2―∞[exp{-(ν-ω0)2/(2δ12)}

×exp{-(ω-ν)2/(2δ22)}dν

-(ν-ω0)2/(2δ12)-(ω-ν)2/(2δ22)

=-(1/2){(1/δ12+1/δ222-2(ω012+ω/δ22

+(ω0212+ω222)}

=-{1/(2δ12δ22)}[(δ12+δ222-2(ω0δ22+ωδ12

+(ω02δ22+ω2δ12)}=-A(ν-B)2+Cと書けば,

A=(δ12+δ22)/(2δ12δ22)},

B=(ω0δ22+ωδ12)/(δ12+δ22)

C={(ω0δ22+ωδ12)2-(ω02δ22+ω2δ12)(δ12+δ22)}

/[(2δ12δ22)(δ12+δ22)]

=-(ω0-ω)2/(2δ12+2δ22) です。

そこで,∫―∞exp{-A(ν-B)2+C}dν=(π/A)1/2exp(C)

={(2πδ12δ22)/(δ12+δ22)}1/2exp{-(ω0-ω)2/(2δ12+2δ22)}

ですから,F(ω)=[1/(2πδ1δ2)]

―∞exp{-A(ν-B)2+C}dν={2π(δ12+δ22)}-1/2

×exp{-(ω0-ω)2/(2δ12+2δ22)}を得ます。[証明終わり]

(注14-3終わり※)

1つの曲線形がLorentz型で,他方がGauss型の場合は,

より複雑な積分:F(ω)={γ/(2π3δ)1/2}

―∞[exp{-(ω-ν)2/(2δ2)}/{(ω0-ν)2+γ2}]dν

=[1/{(2π)1/2δ}]Re[W{(ω0-ω+iγ)/(2/2δ)]].(2.158)

となります。ただし,Wはある複素誤差関数の1種です。

この形はVolgt二地なんだ命名がなされています。

これは,δ→ 0の極限であるLorentz型とγ→ 0の極限で

あるGauss型の中間の形と言えます。

線幅を広げる過程は2つの広い範疇に分けることができて,

それらは相異なる定性的性質で特徴付けられ,また,2つの

基本的曲線形とも関連しています。その1つは遷移周波数を

定めるパラメータの値に統計的分布があるために,いくつか

違った周波数で,それぞれの原子が光を吸収,放出するような

線幅の広がりの原因を持つものです。このような線幅の広がる

過程は一般にGauss曲線形になります。

ドプラー広がりは,この範疇に属し,原子の速度が,それに

関連する統計的パラメータです。他の例は,局所的ひずみに

よるゆらぎが原子の遷移周波数のシフトを引き起こすような

結晶に埋もれた原子による発光のときに現われます。

これらの効果は不均一な広がりの機構の範疇に属します。

 一方,Lorentz曲線形は,光を吸収,放出する原子が,いずれも

残りの原子と同一である,均一な広がりの機構に現われます。

 例えば,放射や衝突による広がりの過程では.原理的に,ある

周波数の光を一群の特定原子に付随させる実験方法が存在する

ことはない,と言えます。

この場合の幅Δωは,原子放射が乱されない有限の平均時間

Δtが存在する結果として現われるものです。量子力学の

不確定性原理,or Fourier変換の性質によると,ΔωΔt≧1.

(2.159)であり,放射過程,衝突過程に対する陽な結果も,これと

一致します。

 

今回も本節がここで終わるので,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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2019年12月 8日 (日)

光の量子論13

※「光の量子論12」からの続きです。

(※余談):昨日(12/7(土))は,1学年年下ですが,全員69歳の障害者

友達2人に誘われて昼から都営新宿線住吉駅から健康な足で

徒歩4分(私は徒歩10分くらい)の「ティアラ江東」で開かれた江東区

の「第39回障害者福祉大会」というイベントに行ってきました。

(私,1985年から1994年まで塩浜や豊洲付近の運河のそばの

分譲マンション10階に9年間住んでいて,巣鴨に住む前は江東区民

だったので江東区に全く無縁というワケではありませんが。。)

最近は,近くの買い物と月1の病院以外は,ほぼ寝た切りに近い

ので現地まで行って3時間程度のイベントを見るだけなのですが,

身体がたえられるか少し心配でしたが,まあ,身体障害要介護2でも

なぜか要支援認定らしい「林家こん平」師匠よりは,ましな程度に

動けると思うので鑑賞だけなら大丈夫だろうということで,一応,

アフリカの太鼓とか歌や踊りとかを見て楽しめました。

ただ,39回も福祉をやっている割には会場も,まわりも階段が多く,

来年はパラリンピックもある,といいながら1995年のサリン事件

以来,警備,セキュリティに重きを置きすぎてるのか,来年に備えて

工事中段階とはいえ都内の駅には,ゴミ箱もベンチも少なく,足が

不自由な身にはバリアが多いのが気になりました。

「向こう3軒両隣り」とか「渡る世間に鬼はない」とかよりも

「ヒトを見たらドロボーと思え」「敷居またげば適ばかり」の

都会的思考の方が上にきて,99匹の健康な子羊を守るため,

迷える1匹の子羊などは,ほったらかしの,弱者にやさしくない

街つくりに向かっているようです。

オリンピックというと,多くの外国客への見栄で,ホームレス隠し

や,一時的に臭いモノにはフタをする,という,北京五輪や上海

万博時の中国や前の東京五輪時のわが国でもあった恥ずかしい

行為が,今回の東京オリ・パラでもあるカモしれない,と心配して

います。

最近の私は,自分は,スグにいなくなる世界なので関係ないクセに,

環境回復して,地球というか生命体の滅亡を遅らせるに役立つだろう

「人工光合成」や「プラスチックの分解,無害化」のバクテリアに興味

を持って調べています。(余談終わり※)

 

さて,本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.10

(放射減衰を伴なうRabi振動)の項の残りの部分を記述

して終わりました。

今回はその続き次の節からです。

  • 2.11衝突広がり

さて,§2.8,§2.9で論じた放射広がりと飽和広がりは,入射光

ビームで励起された原子遷移にとって避けられない性質でした。

それ以外の線幅を広げる機構の重要性は,原子気体の物理的

条件に左右されます。

このうち,原子の運動に起因する主要な効果は「衝突広がり」と,

「ドプラー(Doppler)広がり」の機構です。これらを本節と次節で

論じます。

まず,ここでは「衝突広がり」の機構を説明しますが.完全という

わけではなく,どうにか間に合う程度の詳しさで,そのプロセスを

考察します。原子気体における原子間衝突の発生は.一種の

確率過程(stochastic process)です。

「気体運動論」によると,原子が時刻τから,時刻τ+dτまでの

間に自由飛行を継続する確率はdτに比例し,それは,p(τ)dτ

=(1/τ0)exp(-τ/τ0)dτ.(2.131)で与えられると考えられます。

ただし,τ0は衝突なしで飛行する平均自由飛行時間で,これは

1/τ0=(4d2N/V){π/(βM)}1/2.(2,132)なる式で与えられる

ことがわかっています。(1/τ0)は衝突頻度(単位時間当りの衝突回数)

ここで,dは衝突する2原子の中心間距離(=衝突径数)であり.M

は気体の1原子の質量です。βはTを絶対温度kをBoltzmann定数

して,β=1/kTを意味します。

※(注13-1):これらの根拠を説明します。

まず,時刻:に自由飛行していた1個の原子が時刻τ+dτに衝突

せずに自由飛行で残っている確率は,(1-dτ/τ0)倍となります。

そこで,時刻τに自由運動している原子の個数をN^(τ)とすると,

その変化は,dN^=N^(τ+dτ)-N^(τ)=-(dτ/τ0)N^(τ)を

満足します。そこで,これを積分するとN^(τ)=N^(0)exp(-τ/τ0)

です。

気体原子総数をNとして,時刻τに衝突せず残っている確率p(τ)は,

p(τ)=N^(τ)/Nで与えられ,∫0N^(τ)dτ=N,or ∫0p(τ)dτ

=1となる規格化条件により,指数分布:p(τ)=(1/τ0)exp(-τ/τ0)

が得られ,飛行時間τの平均は,確かに,<τ>=­∫τp(τ)dτ=τ0

となります。そして,次に.この平均自由飛行時間τ0を評価します。

対象の気体を構成する気体原子(分子)の数密度をn=N/Vとする

とき,ある1原子(分子)が自由直線運動で長さLを通過する間に,

それと衝突することが可能な距離が衝突径数dであり,これを半径

として長さがLの体積:πd2Lの円筒内にあるの原子(分子)数は

nπd2Lなので,この1原子の,この間の衝突回数がnπd2Lに等しい

ことになります。

この原子(分子)の平均速度を<v>とすると,その飛行時間がτなら,

平均飛行距離は,L=<v>τです。

そこで,平均衝突回数:nπd2L=nπd2<v>τが丁度1となる

飛行時間をτ=τ0と定義すれば,τ0=1/(nπd2<v>),または,

1/τ0=nπd2<v>が成立します。

このとき,L0=<v>τ0とすると,これは1原子(分子)が全く衝突

せずに飛行できる平均距離を示しているので平均自由行程と

呼ばれます。ところが.希薄な気体分子(原子)は.Maxwellの速度

分布:f()d3={M/(2πkT)}3/2exp(―M2/2kT)d3に従う

ことがわかっているため,平均速度の大きさ<v>は,f()が速度

空間で球対称故,>=∫0vf()v2dv/∫0vf()v2dvなる計算式

から得ることができます、このf()に,上のMaxwell分布式を代入

すれば,結局,<v>=(8kT/πM)1/2={(8/(πβM)}1/2

が得られます。

ただし,厳密には同じ質量Mの原子の2体衝突なので,1個の質量M

ではなく,これを相対運動の換算質量M=M/2に置換する必要

があり,>={8/(πβM)}1/2=4/(πβM)1/2が正しい評価式です。

これによって1/τ0=nπd2<v>=4d2n/{π/(βM)}1/2(n=N/V)

という求める表式が得られました。

以下では,上の計算で実際に<>={8/(πβM)}1/2

=4/(πβM)1/2が得られる,数学的根拠を示しておきます。

まず,速度ベクトルの極座標表示を(v,θ,φ)(v=||)として

に対する確率密度が,p()=Cf(v,θ,φ)で与えられる場合を

考えます。確率密度の満たすべき条件:∫p()d3=1により,

規格化定数:Cは,C=1/[∫f(v,θ,φ)v2dv(sinθ)dθdφ]で

与えられます。特にfが球対称でf(v,θ,φ)=f(v)と表わせる場合,

規格化定数は,C-1=∫f(v,θ,φ)sinθv2dvdθdφ

=4π∫0f(v)v2dvで決まります。

この場合,速度の大きさ:v=||の平均値は,

<v>=<||>=∫vp(v)d3vで与えられますが,

これは,<v>=C∫vf(r,θ,φ)v2dv(sinθ)dθdφ

=4π∫0{vf(v)}v2dv/{4π∫0f(v)v2dv}

=∫03f(v)dr/{∫02f(r)dr}

で得られることになります。

そこで,f(v)=Cexp(-αv2)と表わされる場合には,

<v>=∫03exp(-αv2)dv/∫02exp(-αv2)dvと

なります。後は分子,分母の指数関数を含む積分の評価だけです。

まず.I(α)=∫0exp(-αx2)dxと置くと,Gauss分布の積分

公式から,I(α)=(1/2)(π/α)1/2です。

これから,-dI/dα=∫02exp(-αx2)dx=(1/4)π1/2α-3/2

を得ます。

一方,J(α)=∫0xexp(-αx2)dxとして,これを求めます。

u=αx2と変数置換すると,du=αxdxより,

J(α)=∫0xexp(-αx2)dx

=(1/2)α-10exp(-u)du=(1/2)α-1となります。

そこで,I(α)の場合と同じく両辺をαで微分すると,

-dJ/dα=∫03exp(-αx2)dx=(1/2)α-2を得ます。

以上から,<v>=∫03exp(-αv2)dv

/{∫02exp(-αv2)dv=(1/2)α-2/{(1/4)π1/2α-3/2}

=2(πα)-1/2となることがわかりました。

これに,Maxwell速度分布:f()d3={M/(2πkT)}3/2

exp(―M2/2kT)d3を適用するために,

(v)=exp(-αv2),α=M/(2kT),(M=M/2)を

代入することから,<v>=2(πα)-1/2=(8kT/πM)1/2

=4/(πβM)1/2が得られました。

したがって,結局,自由飛行時間τ0の求める表式,

1/τ0=nπd2<v>=4d2n/{π/(βM)}1/2が得られました。

(注13-1終わり※)

 

さて,原子のエネルギー準位と波動関数に及ぼす衝突の

効果は甚だ複雑です。

衝突する2原子の相互作用によって,エネルギー準位が衝突期間

中にシフトし,波動関数は非摂動原子の波動関数の,ある1次結合

になります。衝突している期間が十分短かいなら,その期間内の

光の吸収,放出は無視できます。そこで,以下では,衝突期間は

平均自由飛行時間τ0に比較して,極く短かいと仮定します。

衝突には,「非弾性衝突」i.e.原子の状態があるエネルギー

準位から,他のエネル.ギー準位に変化するものがあります。

この効果は,原子占位数の減衰の速さを,もう1つ補うこと

で表わされ.光学Bloch方程式には,放射による減衰速度γの

他に,衝突による減衰速度を適当に加えた形で現われるもの

があります。

一方,「弾性衝突」では,原子は前と同じエネルギー準位に

留まり,その効果は原子波動関数の位相(phase)を変える

だけです。これはフェイズシフト(phase-shift)と呼ばれます。

 

波動関数:Ψ(,t)=C1(t)Ψ1(,t)+C2(t)Ψ2(,t)

の係数:C1とC2の位相が変われば,原子密度行列:ρij=Cij

のρ12=C12とρ21=C21は変化しますが,対角要素である

ρ11=C11=|C1|2と,ρ22=C22=|C2|2は変化しません。

かくして,弾性的位相遮断衝突で(2.115)の,dρ12/dt

=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12には,減衰

速度が余分に入り込みますが,対角要素の方程式(2.114)の,

dρ22/dt=(-iΩ/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22,の方は不変です。

これらは,広範囲の物理的状況に対して線幅を広げる際だった

効果を及ぼし,また,第3章の時間に依存する光の性質の議論では

非常に便利なモデルを提供してくれます。

ここで,弾性衝突による非対角要素の減衰効果をγcollと記すこと

にします。この量は,明らかに衝突頻度:1/τ0に比例し,§3.3で,

実際にγcoll=1/τ0.(2.133)となることを示しますが,これと類似の

関係:2γ=A21=1/τ0.(2.102)との間には因子2の違いがあること

には注意が必要です。

なお,以下では,衝突広がりの話は弾性衝突に限ることにします。

すると,光学Bloch方程式:(2.115)は,次のように修正されます。

つまり,dρ12/dt=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)

-γ^ρ12.(2.134)です。γ^=γ+γcoll..(2.135)です。

この結果,以前「光の量子論11」で求めた定常状態の式

(2.119)のρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2},

および,(2.120)のρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}

×[(Ω/2)ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ^2+|Ω|2/2}

は,ρ22={(γ^/γ)|Ω|2/4}

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}.(2.136),および,

ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}[(Ω/2)ω0-ω-iγ^)

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}(2.137)に一般化

されます。

 

※(注13-2);上記を証明します。

[証明]:前の(注11-1)での(2.119)(2.120)の証明と同じく,

ρ1221を,ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12,

ρ~21=]exp{-i(ω0-ω)t}ρ21と置換して振動型因子を消去

した3方程式系から出発します。前は.

dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.

dρ~12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ~12-i(ω0-ω)ρ~12,

dρ~21/dt=(-iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ~21+i(ω0-ω)ρ~21

でしたが,これらが下の2つでは,γをγ^に変更した方程式系:

ρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22,

dρ~12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γ^ρ~12-i(ω0-ω)ρ~12,

dρ~21/dt=(-iΩ/2)(1-2ρ22)-γ^ρ~21+i(ω0-ω)ρ~21

に修正されます。

定常状態では.これら3方程式の左辺の変化速度を全てゼロと置き,

前の(注11-1)の証明と同じ道をたどって,修正しようと思います。

まず,dρ22/dt=0から,ρ22={-i/(4γ)}{Ωρ~12-Ωρ~21}

(実数)を得ます。これは前と同じです。

一方,dρ~12/dt=0,または,ρ~21/dt=0より

(-Ω/2)(1-2ρ22)=(ω0-ω-iγ^)ρ~21

(Ω/2)(1-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ^)ρ~12,

または,(|Ω|2/2)(1-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ^)Ωρ~12

です。

ここで,Ωρ~12=a+ib(a,bは実数)と置くと,

(|Ω|2/2)(1-2ρ22)=-a(ω0-ω)+bγ^,かつ,

0=-b(ω0-ω)―aγ^を得るため,

a=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[(ω0-ω)/{(ω0-ω)2+γ^2}],

かつ,b=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[-γ/{(ω0-ω)2+γ^2}],

です。これから,前には,いくつかの計算手続きの結果として,.

Ωρ~12-Ωρ~12=2ib=i|Ω|2(1-2ρ22)

×[γ/{(ω0-ω)2+γ2}],を得ましたが,今回の修正では,

これが,Ωρ~12-Ωρ~12=2ib

=i|Ω|2(1-2ρ22)[γ^/{(ω0-ω)2+γ^2}]に変わります。

これを最初の式:ρ22={-i/(4γ)}{Ωρ~12-Ωρ~12}

に代入すれば,4iγρ22=iγ^|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ^2}

-2iγ^ρ22|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ^2}となるため,

4iγρ22{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}/{(ω0-ω)2+γ^2}

=iγ^|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ^2}を得ます。

それ故,ρ22={(γ^/γ)|Ω|2/4}

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}が得られます。

よって,1-2ρ22

={(ω0-ω)2+γ^2}/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}

ですから,Ωρ~12=(-|Ω|2/2)(1-2ρ22)

×[(ω0-ω-iγ^)/{(ω0-ω)2+γ^2}]

=(-|Ω|2/2)(ω0-ω-iγ^)

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}です。

故に,ρ~12=(-Ω/2)(ω0-ω-iγ^)

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}ですから,

ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}[(Ω/2)(ω0-ω-iγ^)

/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}も得られます。

[証明終わり] (注13-2終わり※)

 

ここまでくれば,感受率χを導出し直すのは簡単であり,

(2.122)のχ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×[(ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}]

の一般化は,χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×[(ω0-ω+iγ^)/{(ω0-ω)2+γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}]

(2.138) になることがわかります。

こうして,放射,飽和,衝突による広がりを含む原子遷移の

線幅は,(2.123)の2(γ2+|Ω|2/2)1/2を一般化した表式:,

2{γ^2+(γ^/γ)|Ω|2/2}1/2.(2.139)となります。

 

今後のほとんどでは.飽和広がりが無視できて,上の(2.139)

が.2γ^=2γ+2γcoll.(2.140)に帰着するような,かなり弱い

ビームについてのみ議論します。

 この場合,吸収線の形はLorentz型であり,幅は放射による寄与

と衝突による寄与を単に加えることで得られます。

衝突時間τ0の典型的な値は室温で10 5 Pascalの圧力に相当する

気体密において,τ0 ~3×10 -11s.(2.141) です。

この値に対する衝突による線幅:2γcoll=τ0-1×2 ~ 6.7×10 10 s-1

は,(2.57)の角周波数の線幅:2γ=A21 ~ 6×10 8-1のAの大きさ

から導かれる周波数の自然線幅:Δf=Δω/(2π)~10 8 Hzという,

放射による線幅の,約100倍で与えられます。

 

  • 2.12 Doppler(ドプラー)広がり

気体内の原子の速度には,ある広がりがあるので,原子が吸収,

放出できる光の周波数にはドプラー効果を通じて,それに対応

したある分布が生じます。当面は,線幅を広げる他の原因を全て

無視し,z軸に平行に伝播する角周波数ωの光の吸収を考察します。

 低い準位E1にある原子の速度が1であるとき,光:hcωを吸収

して高い準位:E2に上がります。を,大きさがk=ω/cでzに

向かうベクトルとすると.その光の運動量は=hcであり,E2

おける原子の速度はv2となります。

原子質量をMとすると,M1+hc=M2.(2.142).かつ,

1+(1/2)M12+hcω=E2+(1/2)M22.(2.143)です。

特に,v1=0,2=0のケースの光子周波数をω0とすると,

cω0=E2-E1.(2.144)です。.

故に,hcω0=hcω+(M/2)(1222)です。

一方,(2.142)から21+(hc/M)なので,

22={1+(hc/M)}212+hc22/M2+2hc1/M

なので,すぐ前の式に代入すると2が消去されて,

cω0=hcω-hc1-hc22/(2M).(2.145)となります。

ところが,kはz軸に平行でk=||=ω/cなので,

1=v1(ω/c)であり,hc22=hc2ω2/c2です。

したがって,ω0=ω-(v1z/c)ω-hcω2/(2Mc2)

(2.146)を得ます。

この右辺の量の代表的な大きさのオーダーは,v1z/c

~10 -5より,hcω/(2Mc2)~10 -9.(2.147)ですから,

ωとω0の差は僅かで,右辺最後の項は無視できるため,

ω=ω0/{1-(v1z/c)}~ ω0{1+(v1z/c)}.(2.148)

という形になります。

(※ つまり,v1z ~c(ω-ω0)/ω0です。)

すなわち,この光は周波数ωが原子の初速に応じた

ドプラー・シフトだけ,ω0からずれている場合に限り,吸収可能

であることを示しています。

したがって,気体内の全原子の吸収する光の周波数ωの分布は,

まず,原子速度のz成分がvとv+dvの間にある相対確率

が,絶対温度がTのとき,Maxwellの速度分布則により,

exp{-Mv2/(2kT)}dvとなるため,これにv=c(ω-ω0)

を代入することによってexp{-Mc2(ω-ω0)2/(2ω02T)}

×(c/ω0)dω.(2.149)で与えられることがわかります。

 

この吸収光の周波数分布はGauss型曲線として知られています。

Gauss曲線のピークはω=ω0にありますが,この曲線では,

exp{-Mc2(ω-ω0)2/(2ω02T)}=1/2.(2.150)を満たす

周波数のところ,つまり,ω=ω0±ω0{2kTln2/(Mc2)}1/2

のとき,強度が最大値の半分になります。。

 よって,この半値幅:2Δがドプラー広がりの全幅ですが,これ

は,2Δ=2ω0{2kTln2/(Mc2)}1/2.(2.151)と表わされます。

この幅は,一般のGauss分布の平均2乗幅:δを用いて表わす

こともできます。すなわち,δとΔの関係が,同じオーダーで

δ=ω0{2kT/(Mc2)}1/2=Δ/(2ln2)1/2~Δ/1.18.(2.152)と

表わせます。

すぐ前の衝突広がりの節では,幅が2γcollで,これを衝突頻度

で,γcoll=τ0-1と表わすとき,2.141)のτ0 ~3×10 -11sを得た

のと同じく,ドプラー広がりの幅のパラメータもΔ=τ0-1として

評価した場合,ドプラー幅は,ほぼ,衝突幅に等しいと評価されます。

Gauss曲線は,F(ω)=(2πδ2)-1/2exp{-(ω-ω0)2/(2δ2)}

(2.153)で定義されますが,このとき,∫-∞(ω)dω=1(2.154)

が満足されます。

これに対して,前の放射広がりや衝突広がりで現われた周波数

分布の形状のLorentz型曲線は,F(ω)=(γ/π)/{(ω-ω0)2+γ2}

で定義されますが,これも∫-∞(ω)dω=1の条件を満たすよう

に係数が決められています。

 

今回も§2.12がここで終わるので,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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2019年11月21日 (木)

光の量子論12

※「光の量子論11」からの続きです。

(※余談):いとしのエリカ様,薬物疑惑で逮捕ですか?

真実だとしても誰かを傷つけたワケじゃなくカワイイもんです。

またも,政権スキャンダルと偶然?一致のタイミングですか。

(※ 氾文雀以来のカワイサ,。。草冠のハンが出てこない。)

まあ,昔,タオルで顔隠してヘルメットにゲバ棒でパクられて

ウソの情報聞かされながら聴取されたりした身には,マスコミと

いう名で無節操に垂れ流す,大方の世論に迎合しないとモノが

売れないスポンサー様イノチの「大本営発表」,逆らえば仕事

も干される方々のフェイクか否かも判断せず,本音に歯にキヌ

着せたコメントなどは,鵜呑みにできないタチのヘソマガリて,

命は残り少ないが,映画同様,最後は抹殺される運命の

アウトサイダーを気取っても,何の力もないクソジジイ

の無駄な抵抗故,ハナも引っかけられない遠吠えですが。

(余談終わり※)

さて本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.10

(放射減衰を伴なうRabi振動)の項で,自発放出の減衰項を

加えた光学Bloch方程式から,まず,ビーム照射の長時間

極限の定常状態について考察し論じました。

その後,逆にビーム照射時間が短かい場合,一般解が

複雑なので.解の特徴を見るため,特殊な2つの例のみ扱い,

まず,(ⅰ)ω=ω0で初期条件がρ22=ρ12=0 で,|Ω|>γ

の場合のρ22(t)=|C2(t)|2の解として,(2.126)の

ρ22(t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}

×[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]

(ただし,λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2.(2.127))を導出したところ

で終わりました。

 

今回はその続きです。

放射減衰がない(γ=0)のときには,上記の式(2.126)は,

ρ22(t)=(1/2)[1-cos(|Ω|2t)}=sin2(|Ω|t)となり,

これば,純粋な原子の2準位間の振動=Rabi振動の表式

ρ22(t)=(|Ω|212)sin2(|Ω|t)(2.87);ただし,Ω1

={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2の,離調{ω0-ω)がゼロの場合

に一致します。

他方,γ≠0の場合は,(2.126)はtが大きくなると

(2.119)のρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}の

離調がゼロの定常極限値:ρ22=(|Ω|2/4)/(γ2+|Ω|2/2)

に近づきます。

この場合,因子:exp(-3γt/2)があるので,γの増加と

共に振動の減衰が急速になり,γ=|Ω|/3では極大が1つ

しか残りません。

※(注12-1):(2.126)式を,.

ρ22(t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}

-{(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}exp(-3γt/2)

×{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}

(λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2)と書いて,tで微分すると,

dρ22/dt={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}exp(-3γt/2)

×[(3γ/2){cos(λt)+(3γ/2)(1/λ)sin(λt)}

+λsin(λt)-(3γ/2)cos(λt)}

={|Ω|2/(2λ)}{(λ2+9γ2/4)/(2γ2+|Ω|2)}sin(λt)

×exp(-3γt/2)={|Ω|2/(2λ)}sin(λt)exp(-3γt/2)

です。

それ故,dρ22/dt=0となるのはsin(λt)=0の

とき,つまり,t=nπ/λ(n=0,1,2,..),のときです。

このとき,対応して,cos(λt)=cos(nπ)=(-1)

なります。

したがって,t=0では確かにρ22(t)=0ですが,

t=nπ/λ(n=1.2…)では,nが奇数なら,

ρ22(t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}[1+exp{-3nπ/(2λ)}]

で,これらは極大値となり,他方,nが偶数なら,

ρ22(t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}[1-exp{-3nπ/(2λ)}]

で,「これらは極小値です。

そもそもγ>2|Ω{(|Ω|<γ/2)ならλ<0なのでλは虚数

になるので三角関数で表わされる振動解ではないです。

γ<2|Ω|で特にγ=|Ω|/3,ではλ=(11/12)1/2|Ω|,

(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}=9/22, exp{-3γt/2)=exp(-|Ω|t/2)

となり,t=π/λで最大で,それ以後減少しますが,極大値が1つだけ

残るという意味は不明です。??? 

nが奇数の極大値:ρ22={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}

×[1+exp{-3nπ/(2λ)}]が,n>1では,飽和値の1/2を

越えてしまうのかな? (注12-1終わり※)

 

さて,こういうわけで,占位数に顕著な振動が現われるため

には,|Ω|が3γより,ずっと大きくなければなりません。

こうした原子の振動的挙動は「光章動」と呼ばれています。

章動周波数は,一般に,Rabi周波数:|Ω|,離調:ω0-ω,

および,放射減衰;γに依存します。

(2.84)のΩ1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2と,(2.127)の

λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2は,それぞれ,γ=0とω0-ω=0の場合の

章動周波数に相当しますが,一般の場合のそれに対する簡単な

解析的表式はありません。

※(注12.2):つまり,γ=0の放射減衰が考慮されないときは,

「光の量子論9」の§2.7(Rabi振動)の項でha,初期条件

が,ρ22=ρ12=0の場合の光学Bloch方程式のρ22の解が,

次の(2.87);ρ22(t)=(|Ω|212)sin21t/2)

1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2)で与えられ,続く「光の量子論10」

では特に,離調;ω0-ωがゼロ,つまり,ω=ω0の特別な場合

には,Ω12=|Ω|2となるため,解はρ22=sin2(|Ω|t/2)(2.89),

と簡単になり,この場合,原子は基底状態1と励起状態2

との間を対称的に振動しますが,これをRabi振動と呼び,,|Ω|

をRabi周波数と呼ぶ,と書きました。(※ 離調;ω0-ωがゼロで

ないならΩ1がRabi周波数ですね。)

そして,本記事ではγ≠0で放射減衰があるとき,離調;ω0-ωが

ゼロなら,初期条件がρ22=ρ12=0 で,|Ω|>γの場合のρ22の解

は(2.126)のρ22(t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}

×[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]

(λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2))で与えられる:Rabi周波数はλになる,

ことを述べましたが離調がゼロでない一般の場合の解は,未だ不明

です。(注12-2終わり※)

しかし,実情としては|Ω|がγより,ずっと大きくないなら目立った

振動は見られません。それ故,光章動を観測するためには,レーザー

光源が用いられています。

そこで,次に,ビームが強い場合,原子励起度が光の励起ビームに

及ぼす効果を考えます。

原子が初め基底状態にある場合は,初めのうちはエネルギーが

原子に移るにつれてビームは減衰してゆきます。

 しかし,ビームが十分強いため,|Ω|が離調ω0-ωより大きく,

減衰γよりずっと大きい場合は,原子波動関数の励起状態の成分が

いつかは基底状態の成分を上回るので,原子のエネルギーの一部

は放射によって光ビームに戻り,ビーム強度が最初の値より大きく

なります。

したがって,原子の光章動に伴なって,それに対応した透過強度の

振動が現われます。実際の実験での透過光の時間依存性の詳しい理論

では,光学的振幅への他の寄与も考慮すべきですが,基本的には,この

現象は原子励起の示す振動的挙動の1つの結果と考えられます。

 

さて,Bloch方程式が容易に解ける第2の特別な場合は,(ⅱ)|Ω|が放射

減衰のγより,ずっと小さい場合,つまり,入射ビームが弱い場合です。

結論から言うと,C1については修正せず,C2については自然放出

の項を付加して修正した方程式:Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2

=i(dC2/dt)を,密度行列の式:dρij/dt=Ci(dCj/dt)

+Cj(dCi/dt)に代入した後,cos(ωt)を指数関数表示して,

ω0~ωの回転波近似を施した方程式:(2.114),(2.115)

dρ22/dt=(-iΩ/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22.

dρ12/dt=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12(

の,|Ω|<<γの極限での|Ω|について最低次のρ22の解は,

前の例(ⅰ)と同じ初期条件のρ22=ρ12=0の下で,

に対して,ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)](2.128)

となります。

※(注12-2);上記を証明します。

[証明]:ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12,

ρ~21=exp{-i(ω0-ω)t}ρ21,とおくと,

dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.,

dρ~12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ~12-i(ω0-ω)ρ~12,

となります。

dρ~21/dtは,これの複素共役で与えられ,dρ~21/dt

=(-iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ~21+i(ω0-ω)ρ~21.と

なります。

そこで,x=ρ22,y=(-iΩ/2)ρ~12,y=(iΩ/2)ρ~21,

と置くと,これらは,dx/dt=y+y-2γx,

dy/dt=(|Ω|2/4)(1-2x)+{-γ+i(ω0-ω)}y

dy/dt=(|Ω|2/4)(1-2x)+{-γ-i(ω0-ω)}y

と書けます。

整理すると,dx/dt=-2γx+y+y,

dy/dt=-(|Ω|2/2)x+{-γ+i(ω0-ω)}y+|Ω|2/4,

dy/dt=-(|Ω|2/2)x+{-γ-i(ω0-ω)}y+|Ω|2/4

です。そこで,これを3次元の列ベクトル:=[x,y,y]

に対する線形非同次の行列方程式の形で3×3係数行列を^

として,d/dt=^,と書きます。

ただし,定数項=[0,|Ω|2/4.|Ω|2/4]です。

これの初期条件がt=0で0の解は,既に何度か示した

ように,(t)={exp(^t)-1}^-1で与えられます。

逆行列:A^-1は,その要素が,

(det^)(^-1)11=γ2+i(ω0-ω)2

(det^)(^-1)12=-{-γ-i(ω0-ω)},

(det^)(^-1)13=-{-γ+i(ω0-ω)}

(det^)(^-1)21=-(|Ω|2/2),

(det^)(^-1)22=-2γ{-γ-i(ω0-ω)}+|Ω|2/2,

(det^)(^-1)23=-(|Ω|2/2),

(det^)(^-1)31=(|Ω|2/2){-γ-i(ω0-ω)},

(det^)(^-1)32=-|Ω|2/2,

(det^)(^-1)33=―2γ{-γ+i(ω0-ω)}+|Ω|2/2,

で与えられます。

ただし,det^=-2γ{γ2+i(ω0-ω)2}

-(|Ω|2/2){γ-i(ω0-ω)}-(|Ω|2/2){γ+i(ω0-ω)}

=-2γ{γ2+i(ω0-ω)2+|Ω|2/2}です。

また,^=α(0)を満たす固有値αを求める

方程式は,det(^-α^)=0ですが,これは,

(-2γ-α){(-γ-α)2+(ω0-ω)2}

-(|Ω|2/2){(-γ-α)-i(ω0-ω)}

-(|Ω|2/2){(-γ-α)+i(ω0-ω)}=0となります。

つまり,(-2γ-α){(-γ-α)2+(ω0-ω)2}

-|Ω|2{(-γ-α)=0です。

さらに,書き下すと,α3+{γ2+(ω0-ω)2-|Ω|2

+2γ{γ2+(ω0-ω)2+(|Ω|2/2)}=0 です。

しかし,今は|Ω|の最低次近似を求めればいいので,

因子:|Ω|2を含む講を無視する近似では,

固有値方程式は(α+2γ){(α+γ)2+(ω0-ω)2}=0

となり,異なる3つの固有値として,α0=-2γ,

α±=-γ±i((ω0-ω)(複号同順)を得ます。

それ故,特に,α+α=-2γ=α0,および,

αα=γ2+(ω0-ω)2なる関係が成立します。

そして,この近似で,α0に属する固有ベクトル

を,それぞれ,Y0,Yと書けば,定数倍の任意性を除き,

0=[1,0,0],Y=[-α-1,1,0],=[-α-1,0,1]

と書けることがわかります。

これらを3列に並べた行列を^=(0,,)と書いて

定義し,その逆行列^-1^-1=(0,,)と表わすと,

det(^)=1なので,Z0=[1,0,0],Z=[α-1,1,0],

=[α-10,1]となります。

こうすると,対角要素が固有値:α0の対角行列

Λ^は,Λ^=P^-1^^で与えられます。

そこで,exp(Λ^t)=P^-1exp(A^t)^が成立します。

それ故,前に与えた初期値が0のd/dt=A^X

の解:(t)={exp(^t)-1}^-1において,|Ω|の最低

次近似の解としての(t)は,左からP^-1を掛けて,

P^-1(t)={exp(Λ^t)-1}P^-1^-1bを満たします。

これから,結局.X(t)=P^{exp(Λ^t)-1}P^-1^-1

が得られます。

ところで,A^の逆行列^-1の要素の近似を書き下すと,

1行目は変更無しで,(det^)(^-1)11=αα,

(det^)(^-1)12=-α,(det^)(^-1)13=-αです。

また,2行目の近似は,(^-1)21=(^-1)23=0,および,

(det^)(^-1)22=-2γ{-γ-i(ω0-ω)}=α0αです。

3行目は,(^-1)31=(^-1)32=0,(det^)(^-1)33

=-2γ{-γ+i(ω0-ω)} =α0αとなります。

さらに,det^=-2γ{γ2+i(ω0-ω)2}=α0αα

と書けます。

それ故,=[0,|Ω|2/4.|Ω|2/4]=(|Ω|2/4)[0,1,1]

に対して^-1={|Ω|2/(4αα)}[-(α+α)/α0]

={|Ω|2/(4αα)}[-1,α]です。

( ※については,|Ω|2を無視するとゼロとなって無意味なので,

|Ω|2を因子として残します。)

さらに,左から^-1=(0,,),Z0=[1,0,0],

=[α-1,1,0],=[α-1,0,1]を掛けると.

P^-1^-1={|Ω|2/(4αα)}=[1,α]

ですから,P^-1(t)={exp(Λ^t)-1}^-1^-1

{|Ω|2/(4αα)}

[exp(α0t)-1{exp(αt)―1},α{exp(αt)-1}]T 

を得ます。

最後に,両辺の左からP^=(Y0,Y,),

0=[1,0,0],Y=[-α-1,1,0],Y[-α-11,0]

を掛けて,近似解:X(t)=[(t),y(t),y(t)]の成分

x(t)を求めます。

第1成分は,x(t)={|Ω|2/(4αα)}

×[exp(α0t)-1-exp(αt)+1-exp(αt)+1}

={|Ω|2/(4αα)}

[1+exp(α0t)-exp(αt)-exp(αt)}]

={(|Ω|2/(4αα)}

×[1-exp(-2γt)-exp{i(ω0-ω)t}exp(-γt)

-exp{ーi(ω0-ω)t}exp(-γt)}]となりますから,

結局,ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]

が得られます。[証明終わり] (注12-2終わり※)

(※ うーん。1つの証明が長過ぎるね。こりゃ疲れるわ。)

 

この(2.128)の,ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]の結果

は,放射減衰:γがゼロの極限で,ω~ω0の場合,ω0t>>1の

遷移時間tに対する「光の量子論7」のρ22(t)=|C2(t)|2

=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2.(2.42)に一致します。

|Ω|t<<1におけるρ22のtに対する曲線は,いずれも

時間tの2次の時間依存性を示します。この性質は,光学Bloch

方程式の解を時間について展開すれば証明できます。

すなわち,(2.114),(2.115)の解の|Ω|の最低次の項は,

|Ω|t<<1,および,t=0での初期条件:ρ22=ρ12=0に対し,

離調:ω0-ω,や減衰γに無関係に,ρ22=(1/4)|Ω|22(2.129)

となります。

※(注12-3):上記を証明します。

[証明];t<<1,|Ω|<<1.γt<<1で,(2.128)は,

ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]

~[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+(1-2γt+2γ22)

-2(1-(ω0-ω)22/2)(1-γt+γ22/2)

=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]{(ω0-ω)22+γ22}

=(1/4)|Ω|22を得ます。[証明終わり] (注12-3終わり※)

この,初めのうちは,励起度が時間tの2乗に比例して増加

するという挙動は,「光の量子論7」で述べたような,

tΔω>>1を満たす広帯域の入射光に対し,(2.49)で

与えたρ22(t)=|C2(t)|2=πe2|X12|2W(ω)t/(ε0.c2)

の,励起度が時間tに比例する,という挙動とは対照的です。

しかし,放射広がりがある場合は,単色の式(2.128)を吸収線

のωの広がりにわたって積分することで,広帯域の場合の結果を

復元することができます。つまり,簡単な複素平面上の外周積分

により,∫ρ22dω={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}(2.130)

が得られ,γt<<1では,{1-exp(-2γt)} ~2γtより左辺

はtに比例します。

※(注12-4):上記(2.130)を証明します。

[証明] ρ22(t)=[(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2}]

×[1+exp(-2γt)-2cos{(ω0-ω)t}exp(-γt)]

∫ρ22(t)dω=(|Ω|2/4)[∫dω/{(ω0-ω)2+γ2}]

{1+exp(-2γt)}-(|Ω|2/4)[∫dω[2cos{(ω0-ω)t}

/{(ω0-ω)2+γ2)}]×exp(-γt) です。

ところが,まず,∫-∞dω/{(ω0-ω)2+γ2}

=(1/γ)[Tan-1{(ω0-ω)/γ]] -∞=π/γです。

一方,∫dω[2cos{(ω0-ω)t}/{(ω0-ω)2+γ2)}

=∫-∞dω([exp{i(ω0-ω)t}+exp{-i(ω0-ω)t}]

/[{(ω0-ω)-iγ}{(ω0-ω)+iγ}])です。

ここで,次の公式が成立することを利用します。すなわち,

-∞dω[exp(±iωt)/{(ω-iγ)(ω+iγ)}]

=(π/γ)exp(-γt)です。

何故なら,複素ω平面でωを半径がRの大円:

つまり,ω=Rexp(iθ)=R(dosθ+isinθ)とすると,

dω=iRexp(iθ)dθでありR~∞では,

exp(±iωt) /{(ω-iγ)(ω+iγ)}

=exp(±itcosθ)exp{±(-tRsinθ)

/[{Rexp(iθ)-iγ}{Rexp(iθ)-iγ]

~exp{±(-Rsinθ)/R2ですから,分子がexp(iωt)

なら,θが0→πの反時計回りの上半円周,分子がexp(-iωt)

なら,θが0→(-π)の時計回りの下半円周を取れば,tが正

では,共に,半円周上の寄与はゼロとなり,積分の極は上半円周

ではω=iγ,下半円周ではω=-iγ,なので留数は,

±2πi/(±2iγ)exp(-γt)ですから,

-∞dω[exp(±iωt) /{(ω-iγ)(ω+iγ)}]

=(π/γ)exp(-γt)を得ます。

以上から,∫dω[2cos{(ω0-ω)t}/{(ω0-ω)2+γ2)}

=∫-∞dω([exp{i(ω0-ω)t}+exp{-i(ω0-ω)t}]

/[{(ω0-ω)-iγ}{(ω0-ω)+iγ}])

=(2π/γ)exp(-γt)です。

したがって,∫ρ22(t)dω=(|Ω|2/4)

[(π/γ){1+exp(-2γt)}

-(2π/γ)exp(-γt)exp(-γt)]

={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}が得られました。

[証明終わり] (注12-4終わり※)

この(2.130)の表式:

∫ρ22dω={π|Ω|2/(4γ)}{1-exp(-2γt)}には,

t→∞の極限の定常状態で∫ρ22dω={π|Ω|2/(4γ)}

になるという(2.124)の結果が,既に含まれています。

他方,(2.130)は,(2.125)の,∫BWdω=|Ω|2/2,

および,A=2γをも援用すると,π∫(BW/A)dω

=∫ρ22dω={π(∫BWdω)/A}{1-exp(-At)}

となり,第1章で,吸収と放出のアインシュタインの理論

で導かれ広帯域の結果(1.70):N2={NBW/(A+2BW)}

[1-exp{-(A+2BW)t}]の弱ビーム:BW<<Aの極限

のケースの表式と正確に一致することがわかります。

ただし,本節で導いた明快な結果はゼロ離調と弱ビームの

極限における励起度:ρ22=N2/Nの時間依存性を表わしている

に過ぎません。

より一般的ケースの解を求めるには光学Bloch方程式を数値

積分するのが,最も便利で有効な道です。

 

今回は,本節がここで終わるので,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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2019年11月13日 (水)

光の量子論11

※「光の量子論10」からの続きです。

(※ 余談):最近IEでは,コピペが,うまくできなく

なったので,Firefoxで開いて試してみると,できた

ので,以後,また,図なども挿入できそうです。

しかし,Win7のサポートが来年早々終わるそうです。

昔,Win10に無料のときにノートをバージョンアップ?した

けど,嫌いになってWin7に戻したのにね。

そのうち新しいソフトなどに対応できなくなったりして

くるのも困るので,イヤイヤ,安価のWin10をバンドルした

NECか富士通当たりの中古デスクトップを購入予定。。

OSやソフトのバージョンアップで利益を得ようとする

MSと縁切りたいけど,無理です。まあ,棺桶両足も近いし。

デスクトップは,確か,2016年だったか?に同じ理由で,

まだ使えるXPマシンから中古のWin7マシンに変えたけど,

3年持ったから,ま,いっか?今の時代,PCを持ち運ばずとも

サーバーを使えばいいし,私ほぼ寝たきりなのでので,画質

が悪く古い液晶ノートも持ってはいるけど.入院用です。

(余談終わり※)

さて本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.8

の周波数ωの自発放出に伴なう不可避の放射広がりの項

の説明で終わりました。

 

今回は,それ以外の周波数の広がりからです。

 

  • 2.9飽和広がり

前項で得た感受率の表式:

χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}.(2.108)は,

入射光ビームの電場に線形応答する原子気体に対して,

双極子モーメント:X12,または,D12について2次まで

正しい結果です。

より高次の項を含む結果については,光学Bloch方程式

を解けば得られます。この高次解を得るためには,最初

から,密度行列に対して,ω~ω0と考えて,

exp{±i(ω0-ω)t}の項だけを残してexp{±i(ω0+ω)t}

の項を無視する回転波近似の方程式,つまり「光の量子論9」

で論じた,dρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.78)

および,dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)(2.79)

についての解を求めればいい,ことになります。

しかし,この段階では自発放出の効果が入ってないので,

これを考慮に入れて,この方程式を修正・一般化する必要が

あります。

前に戻り,密度行列の定義:ρij=Cij;i,j=1,2)から,

dρij/dt=Ci(dCj/dt)+Cj(dCi/dt)ですが,

これに,C1については(2.31)の方程式:

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt)を採用し,

2については前回,(2.32)に自然放出の項を付加

して修正した(2.99)の方程式:

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2=i(dC2/dt)

を代入して,近似抜きの方程式系を得た後に,

cos(ωt)=(1/2){exp(-iωt)+exp(iωt)}として,

ω~ω0と仮定し,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけ残し,

exp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する近似を適用すれば,

dρ22/dt=(-iΩ/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22.(2.114),

および,dρ12/dt

=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12(2.115)

を得ます。

本当は(2.31)のC1の時間発展方程式の方にも,自然放出

による修正を加えるべきですから,単にγを導入したこれら

の手法が完全に厳密でないのは明らかです。

しかし,修正光学Bloch方程式:(2.114),(2.115)は,実は,

より厳密な計算から得られるものと同一です。

 

 さて,減衰項が存在するので解は完全な振動型ではなく,

十分長い時間が経過すれば定常状態になります。

定常状態の解を求めるには,まず,ρ1221

ρ~12=exp{i(ω0-ω)t}ρ12.(2.116a),

ρ~21=exp{-i(ω0-ω)t}ρ21(2.116b)

と置き換えて,(2.114),(2.115)から振動型因子を消去

します。すると,dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ~12

+(iΩ/2)ρ~21-2γρ22.(2.117),および,dρ~12/dt

=(iΩ/2)(ρ11-ρ22)-γρ~12-i(ω0-ω)ρ~12.(2.118),

となります。

dρ~21/dtは(2.118)の複素共役で与えられて,

dρ~21/dt=(-iΩ/2)(ρ11-ρ22)-γρ~21

+i(ω0-ω)ρ~21.となります。

これら.3つの方程式の左辺の変化速度を全てゼロと置き,

ρ11+ρ22=1を用いると,定常状態の解が求まります。

ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}(2.119)

ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}

×[(Ω/2)ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

(2.120)となります、

※(注11-1):上式を証明します。

[証明](2.117)でdρ22/dt=0より,

ρ22={-i/(4γ)}{Ωρ~12-Ωρ~21}(実数)を得ます。

一方,(2.118)でdρ12/dt=0,ρ11=1-ρ22より,

(-Ω/2)(11-2ρ22)=(ω0-ω-iγ)ρ~21なので

(Ω/2)(1-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ)ρ~12,または,

(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-(ω0-ω+iγ)Ωρ~12

を得ます。ここで,Ωρ~12=a+ib(a,bは実数)

と置くと,(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-a(ω0-ω)+bγ,

かつ,0=-b(ω0-ω)―aγです。

b­=-aγ/(ω0-ω)でbを消去して

(|Ω|2/2)(11-2ρ22)=-a(ω0-ω)-aγ2/(ω0-ω)

=-a{(ω0-ω)2+γ2}/(ω0-ω)より,

a=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[(ω0-ω)/{(ω0-ω)2+γ2}],

b=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)[-γ/{(ω0-ω)2+γ2}],

それ故,Ωρ~12=(-|Ω|2/2)(11-2ρ22)

[(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}]となります。

故に, Ωρ~12-Ωρ~12=2ib

=i|Ω|2(1-2ρ22)[γ/{(ω0-ω)2+γ2}],

ですが,これを先のρ22={-i/(4γ)}{Ωρ~12-Ωρ~12}

に代入すれば,4iγρ22=iγ|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2}

-2iγρ22|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2},なので,

4iγρ22{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}/{(ω0-ω)2+γ2}

=iγ|Ω|2/{(ω0-ω)2+γ2}となります。

したがって,ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

が得られました。

これから,1-2ρ22

={(ω0-ω)2+γ2}/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

ですから,Ωρ~12=(-|Ω|2/2)(1-2ρ22)

×[(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}]

=(-|Ω|2/2)(ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

です。

故に,ρ~12=(-Ω/2)(ω0-ω-iγ)

/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}です。それ故.

ρ12=-exp{-i(ω0-ω)t}

×[(Ω/2)ω0-ω-iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

も得られました。[証明終わり](注11-1終わり※)

 

次に,これら定常状態のときの式が感受率に及ぼす

効果を考えます。

前記事の放射広がりの項で与えた,1原子の双極子

モーメントdの表式(2.96)

d(t)=-e{C1212exp(-iω0t)+C2121exp(iω0t)}

より,d(t)=-e{ρ1212exp(-iω0t)+ρ1221exp(iω0t)}

で,X12=∫ψiXψ2dV,eo(2.121)と書けます。

これに対し,気体の分極は(t)=N(t)/V

=(1/2)ε00{χ(ω)exp(-iωt)+χ(ω)exp(iωt)}ですから,

(1/2)ε00χ(ω)=-eρ1212exp{-i(ω0-ω)t}(N/V)です。

 

故に,χ(ω)={-2eρ12NX12/(ε00V)}exp{-i(ω0-ω)t}

を得ます。ただし,Ω=eE012/hcであり,|X12{2を配向角平均の

<|X12{2>=(1/3) |D12{2で置き換えます。

すると,Ω=eE012/hcより,Ω*12=eE0|X12|2/hc

~eE0|D12|2/(3hc)となります。

そして,ρ12=-exp{i(ω0-ω)t}

×[(Ω/2)ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}より,

χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×[(ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}](2.122)

を得ます。

|Ω|2=e202|X12|2で,これが分母に含まれていますから

この表式は,もはや電場の1次の感受率ではありません。

そして,この(2.122)の感受率χ(ω)は,先に放射広がの項

で得た(2.108)の感受率;χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}の回転波近似:

χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×[(ω0-ω+iγ)/{(ω0-ω)2+γ2}と,分母の/|Ω|22

を除けば同じです。したがって,その虚部もχ”(ω)

={Ne2|D12|2γ/(ε0cV)}/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

であり,先のχ”(ω)={Ne2|D12|2γ/(ε0cV)}

/{(ω0-ω)2+γ2}と分母の/|Ω|22を除いて同じです。

(2.122)の中には|Ω|22の項が入っており|D12|2∝|Ω|

なので,第1章で考察したのと同様,飽和効果が生じます。

(※入射光ビームが大きくなると,|Ω|2→大ですが,励起原子

の数はN2→(N/2)と,飽和状態に近づき,遷移が減衰します。)

これが入射光の吸収速度,つまり減衰速度を減少させる

のは明らかです。

吸収係数はK(ω)={ω/(cη)}χ” (ω)です。

これは電場の1次の感受率では,ω~ω0,η~1で

K(ω)~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0ccV)}

×[(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}](2.111)で与えられましたが,

これも,K(ω)~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0ccV)}

×[(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ+|Ω|2/2}]になります。

そこでK(ω)が最大のω=ω0のときの半分の値:

K(ω0)/2をとるωは,前はω=ω0±γでしたが,これも,,

ω=ω0±(γ2++|Ω|2/2)1/2に変わります。

すなわち,線幅は,2γから2(γ2++|Ω|2/2)1/2.(2.123)に

増加します。この付加的寄与は「飽和による広がり」と

呼ばれます。

 

  • 2.10 放射減衰を伴なうRabi振動

前節で導いた感受率は定常状態の非対角密度行列要素に

支配されることがわかりました。他方,対角密度行列要素は

2つのエネルギー準位の原子占有数を与えます。

単色光の照射によって生じた定常状態の励起状態占有数

に対する減衰を伴なう光学Bloch方程式(2.119)の解:

|C2|2=ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}の結果

は,前の記事「光の量子論3」で,広帯域の光を照射したとき

の,(A+2BW)t>>1の長時間が過ぎると励起状態占有数

が定常状態の値:N2=NBW/(A+2BW)=|C2|2Nに近づく,

という(1.74)の結果と比較することができます。

(※ただし,A=A21,B=B21=B12です。)

これら,2つの表式(2.119),(1.74)は細かい点では違いが

ありますが,共通のより重要な特徴を備えています。

(2.119)は,|Ω|が,自発減衰γ,or離調:ω0-ωより,ずっと

大きくなると,|C2|2=ρ22=(|Ω|2/4)/{(ω0-ω)2+γ2+|Ω|2/2}

が極限値:1/2に近づくことを示していますが,これは,BW<<1

なら,(1.74)の|C2|2=BW/(A+2BW)が極限値:1/2に飽和して

ゆく様子と,一致しています。

そして,(2.119)をωで積分すると,|Ω|<<γのときには,

∫ρ22dω=π|Ω|2/(4γ).(2.124)を得ます。

※(注11-2):何故なら,∫-∞(x2+a2)-1dx

=[aTan-1(x/a)] -∞=πa/2-(-πa/2)=πaですから

|Ω|<<γなら,∫-∞({(ω0-ω)2++γ2+|Ω|2/2}-1dω

=π(γ2+|Ω|2/2)1/2~πγ です。(注11-2終わり※)

これは,つまり,入射光ビームが弱い極限では,広帯域の励起

原子の数は,光のエネルギー密度に比例することを意味します。

Ωの定義は,Ω=eE012/hcであり,原子内の電子の配向平均

では,<|X12|2>=(1/3)|D12|2です。

また,ビームの平均エネルギー密度は,サイクル平均で,

(1/2)ε02=∫W(ω)dωです。そこで,2.55)の,B12

=πe2|D12|2/(3ε0c2)=π|Ω|2/(ε002)の表式からわかる

ように,∫BWdω=π|Ω|2/2.(2.125)が成立します。

したがって,2γ=A21=1/τ(2.102)を援用すれば,

BW<<Aの弱ビーム極限で∫(BW/A+2BW)dω

~π|Ω|2/(4γ)であり,(1.74)の(A+2BW)=|C2|2の積分

結果が,広帯域の(2.119)の吸収線のωにわたる積分で得る

(2.124)の∫ρ22dω=π|Ω|2/(4γ)のの結果と,正確に一致

します。

定常状態における(2.119)の原子の励起状態占有数は,その

初期値に依存しません。

 

しかし,長時間極限の定常状態ではなく,照射時間が短かいとき

の原子占位数は,本記事最初の光学Bloch方程式(2.114),(2.115)

dρ22/dt=(-iΩ/2)exp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}ρ21-2γρ22,および,

dρ12/dt

=(iΩ/2)exp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)-γρ12

を初期条件を入れて,もっと一般的に解く必要があります。

ですが,残念なことに,この一般解はあまり明快な形に書けない

ことがわかっています。

そこで解の例として2つの特別な場合を考えます。

まず,(ⅰ)離調:(ω0-ω)がゼロ.を仮定した場合,

次に,(ⅱ)光ビームが弱く,|Ω|<<γの場合の2つ

を考察します。

(ⅰ)光学Bloch方程式(2.114),(2.115)の解はω=ω0でt=0

の初期条件がρ22=0,ρ12=0のときには,ρ22について,

ρ22 (t)={(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)}

×[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]

(2.126)となります。

ただし,λ=(|Ω|2-γ2/4)1/2.(2.127)です。

※(注11-3):上記を証明します。

[証明] ω=ω0では,(2.114)は,

dρ22/dt=(-iΩ/2)ρ12+(iΩ/2)ρ21-2γρ22,

(2.115)は,dρ12/dt=(iΩ/2)(1-2ρ22)-γρ12となり,

書けます。そして,ρ21=ρ1222=ρ22です。

この方程式系は,線形変換で,

dρ22/dt=(-i/2)(Ωρ12-Ωρ21*)-2γρ22,

および,Ω(dρ12/dt)-Ω(dρ12/dt)

=(i|Ω|2)(1-2ρ22)-γ(Ωρ12-Ωρ12*)に変換されます。

そこで,f­=ρ22,g=(-i/2)(Ωρ12-Ωρ21*)と置くと,

f,gは共に実数値関数で,df/dt=-2γf+g,かつ,

dg/dt=-|Ω|2f-γg+|Ω|2/2となります。

これは,=[f,g],=[0,|Ω|2/2]なる縦ベクトルに

対して2×2係数行列を^としてd/dt=^です。

ところが,前回の(注10-1)では,線形非同次方程式:

df/dt=af+g(t)の解は,

f(t)=exp(at)[∫0{exp(-at)g(t)}dt]

+f(0)で与えられる,ことを示しました。

そこで,同様に,d/dt=^の解も,記号的に,

(t)=exp(^t)[∫0{exp(-^t)}dt]+(0)

=exp(^t)[-exp(-^t)^-1]0(0)

で与えられるはずです。

ただし,初期条件がρ22(0)=ρ12(0)=0の場合は,(0)=0

です。exp(^t),exp(-^t)は,それぞれ次式で定義されます。

すなわち,exp(^t)=Σn=0{(^t)/n!}であり,かつ,

exp(-^t)=Σn=0{(-^t)/n!} です。

故に,(t)=exp(^t){^-1-exp(-^t)^-1}

が,初期条件を満たす解です。

必要かどうか?は不明ですが,P^の逆行列:^-1の要素

も求めておきます。det(^)=|Ω|2+2γ2であって,

det(^)(^-1)11^22=-γ,det(^)(^-1)12=-^12

=-1,det(^)(^-1)21=-^21=|Ω|2, det(^)(^-1)22

^11=-2γです。

 さて,唐突ですが,=α(≠0)という,行列P^

の固有値αと,その固有ベクトルを求める固有値問題

を考えます。

線形代数学から固有値αは^を単位行列として,

det(^-α^)=0という方程式の解で得られます。

この方程式は,(-2γ-α)(-γ-α)+|Ω|2=0,

つまり,αの2次代数方程式:α2+3γα+2γ2+|Ω|2

=0 を意味します。そこで,解の公式から,解αは

α=-3γ/2±i(|Ω|2-γ2/4)1/2です。ここで,

ビームの電場0が十分大きくて,|Ω|2≧(γ2/4)であると

仮定しました。それ故,実数λをλ=(|Ω|2-γ2/4)1/2

置くと,2つの固有値は,α=α±=-3γ/2±iλ(複号同順)

と書けます。故に.γ+α±=-γ/2±iλです。

そして,α±に属する固有ベクトルを,±(複号同順)とします。

つまり,^x=α,^x=α (x±≠0)です。

これら固有ベクトルの成分:x1,x2は,係数が逆行列を持たぬ

連立方程式:-2γx1+x2=α±1,-|Ω|21-γx2=α±2

から,(γ/2±iλ)x1=x2, or (-γ/2±iλ)x2=-|Ω|21

となるので,例えば.x2=1と置くと,x1=-(-γ/2±iλ)/|Ω|2

を得ます。したがって,定数倍の不定性を除いて,

=[(γ/2-iλ)/|Ω|2,1],==[(γ/2+iλ)/|Ω|2,1]

書けます。

ここで,行列:^を^=(+,)と,定義すると,

^^=^()=(α)が成立します,

右辺は,^=(+,)に,対角要素がαで非対角要素

がゼロの対角行列を掛けたものに等しいです。

そこで,この対角行列を,Λ^とすれば,これて^^=^Λ^

を意味します。そして.^=(+,)には逆行列:^-1が存在

するため, ^^=^Λ^から,Λ^=^-1^^を得ます。

これから,Λ^^-1^^となりますから,結局,

exp(Λ^t)=^-1exp(^t)^を得ます。

逆に,exp(^t)=^exp(Λ^t)^-1です。

同様に,exp(-Λ^t)=^-1exp(-^t)^,かつ,

exp(-P^t) =Q^exp(-Λ^t)Q^-1です。

先に,=[f,g],=[0,|Ω|2/2]に対する

/dt=^の,記号的なものとして得た解:

(t)=exp(^t){^-1-exp(-^t)^-1}は,

^-1(t)=exp(Λ^t)

×{Λ^-1Q^-1-exp(-Λ^t)Λ^-1Q^-1}となります。

exp(±Λ^t)は対角成分が,exp(±αt),exp(±αt)

の対角行列となりますから,具体的解を得るには,後は^-1

求めればいい,だけです。

Q^=(+,)の行列要素は列ベクトルの成分で,

=[(γ/2-iλ)/|Ω|2,1][-(γ+α)/|Ω|2,1],

=[(γ/2+iλ)/|Ω|2,1]=[-(γ+α)/|Ω|2,1]

と表わされます。

^の逆行列^-1の行列要素は,det^(^-1)11^22=1,

det^(^-1)12=-^12=-(γ/2+iλ)/|Ω|2

=(γ+α)/|Ω|2,det^(^-1)21=-^21=-1,

det^(^-1)22^11=(γ/2-iλ)/|Ω|2=-(γ+α)/|Ω|2,

および,det(^)=-2iλ/|Ω|2,or{det(^)}-1=i|Ω|2/(2λ)

で表現されます。

すなわち,逆行列^-1も列ベクトル1,2によって,

^-1=(1.2),ただし,1={i|Ω|2/(2λ)}[1,-1],

2={i/(2λ)}[-(γ/2+iλ),(γ/2-iλ)] 

{i/(2λ)}[(γ+α),-(γ+α)] と表わせます

よって,=[0,|Ω|2/2]に対して,^-1

=[(-i(γ/2+iλ)|Ω|2/(4λ),i(γ/2-iλ)|Ω|2/(4λ)] 

={i|Ω|2/(4λ)}[(γ+α),-(γ+α)]

それ故,Λ^-1Q^-1

{i|Ω|2/(4λ)}[(γ+α)/α.-(γ+α)/α]です。

そこで,先に書いた対角化された方程式の解::

^-1(t)=exp(Λ^t)

×{Λ^-1-1-exp(-Λ^t)Λ^-1-1}の左辺の

列ベクトルを,^-1(t)=[f~,g~]と成分表示すれば,,

f~={i|Ω|2/(4λ)}{(γ+α)/α}{exp(αt)―1}

および,

g~=-{i|Ω|2/(4λ )}{(γ+α)/α}{exp(αt)-1}

となります。

それ故,-(γ+α)f~/|Ω|2-(γ+α)g~/|Ω|2

=-i|Ω|2/(4λα)}{exp(αt)―1},

+i|Ω|2/(4λα)}{exp(αt)-1},

=|Ω|2/|2(2γ2+|Ω|2)}-{i|Ω|2/(4λαα)}

×{αexp(αt)-αexp(αt)}

を得ます。

(※ (γ+α)(γ+α)=γ2/4+λ2=|Ω|2, αα

=(9/4)γ2+λ2=2γ2+|Ω|2です。)

  ところが,y(t)=[f,g]Q^[f~,g~]

ですが,^=(+,)で,

=[-(γ+α)/|Ω|2,1],

=[-(γ+α)/|Ω|2,1]T ですから,

f=―(γ+α)f~/|Ω|2-(γ+α)g~/|Ω|2

=(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)-i{|Ω|2/(4λ)}/(2γ2+|Ω|2)}

×{αexp(αt)-αexp(αt)}をえます。

α±=-3γ/2±iλより,

exp(αt)=exp(-3γt/2)exp(iλt)

exp(αt)=exp(-3γt/2)exp(-iλt)なので

(-i){αexp(αt)-αexp(αt)}

=[(3iγ/2){exp(iλt)-exp(-iλt)}

-λ{exp(iλt)+exp(-iλt)}]

×exp(-3γt/2)

={-2λcos(λt)-3γsin(λt)}exp(-3γt/2)

したがって,f=ρ22=(|Ω|2/2)/(2γ2+|Ω|2)

[1-{cos(λt)+(3/2)(γ/λ)sin(λt)}exp(-3γt/2)]

が証明されました。[証明終わり] (注11-3終わり※)

 

今回は,最後で過去ノートの13年前の計算にケアレスミス

があるのを発見しました。証明なので,何とか結論までたどり

ついてはいましたが,チェックの再計算に老齢のせいか3昼夜

もかかりました。例によって夢中になると寝食を忘れる偏執質

なので何度か低血糖でフラフラになりました。

インスリンを打たなくても長い考え事で,よく低血糖になり,糖分

ある場所まで這っていくほど動けなくなります。眠くなるけど

寝てしまうとアウトですね。 高血糖は長期的,慢性型なので

急性で脳死植物状態になる危険性はないのですがね。

でも,結局,正解を得たので,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

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2019年11月 6日 (水)

光の量子論10

※「光の量子論9」からの続きです。

※(余談):今回,この草稿は11/5(火)の早朝にはアップ

できるところまで完成したのですが,直後に月1回の大学病院

での循環器内科と形成外科の外来診察に出かけるためPending

にしました。

最近は食欲がなく,病院では毎度のように待ってるうち低血糖

や貧血などを起こして苦しんだりしてますが,幸い病院なので

誰かが助けてくれます。一応16時前には帰宅し一休みしている

うちに眠ってしまい,起きてTVを見るとプレミア12という野球

放送があり,それを見終えてからアップしました。

今だに,夜零時を過ぎると,なぜか元気になり行動のモチベーション

が上がって,眠くなくなるという不健康な性分は変わりません。

関係ないけど,絶世の美女だったらしい白拍子の静御前の歌

「しづや,しづ,しづのおだまき,繰り返し昔を今になすよしもがな

(成吉思汗?)」(高木彬光 著「ジンギスカンの秘密」から)

など昔の女子の歌が最近また気になってます。

額田王(ぬかだのおおきみ)の,「あかねさす紫のゆき,しめのゆき

野守りは見ずや,君が袖振る」とか小野小町の「花の色は移りに

けりな,いたづらに.わが身世に経る詠め(降る長雨)せし間に」とか

も気になります。

 誰とも縁がなくとも生来の女好き,スケベは,死ぬまで不治の病

です。

与謝野晶子の「柔肌の熱き血潮に触れ揉も見で寂しからずや

道を説く君」などは,まだまだ新しい方ですね。

高校生時代は,なぜか国語だけが田舎の成績でトップクラス

だったので,万葉集から新古今和歌集など和歌は,いろいろ

記憶してます。(余談終わり※)

さて本題です。

前回は第2章 原子・放射相互作用の量子力学の§2.7

のRabi振動の項で,最後に(注9.4)で密度行列ρ^に

対する光学Bloch方程式の特殊な初期条件の解を求めた

ところで中断でした。

今回は,まず,これまでの道筋を少し要約します。

 

原子密度行列:ρ^=(ρij)の4つの行列要素

ρijは,ρ11=|C1|2=N1/N,ρ22=|C2|2=N2/N,

ρ12=C1221=C21で定義されます。

ここで,C1,C2は,時間に依存する波動関数を2準位原子

の状態:1,2の固有波動関数の重ね合わせとして,次のように

表わしたときの係数です。すなわち,

Ψ(,t)=C1(t)Ψ1(,t)+C2(t)Ψ2(,t)です。

密度行列が従う方程式は,Ci(t)が従う方程式から,

dρij/dt=Ci(dCj/dt)+Cj(dCi/dt)

によって導かれます。

故に,dρ22/dt=-dρ11/dt

=-icos(ωt){Ωexp(iω0t)ρ12

+iΩexp(-iω0t)ρ21},および.

dρ12/dt=-dρ21/dt

=iΩcos(ωt)exp(-iω0t)(ρ11-ρ22)です。

 

これに,cos(ωt)=(1/2){exp(iωt)+exp(-iωt)}

を代入し,ω~ω0において,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけ

残し,exp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する回転波近似を

すると,dρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21,および,

dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)を得ます。

これを「光学Bloch方程式」と呼びます。

それは振動磁場内のスピンの運動を記述するために

Blochが導出したものと同類のものであるからです。

ここで考察中の2準位原子の量子力学は,形の上では

同じ自由度が2のスピン:1/2の系のそれに全く等しい,

からです。

そして,前記事では(注9-4)で回転波近似をした密度行列

に対する光学Bloch方程式の解が.初期条件がρ22=0,ρ12=0

(C2=0)の場合に,ρ22=(|Ω|212)sin21t/2).(2.87),

および,ρ12=exp{-i(ω0-ω)t}

×{-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)}.(2.88)

(ただし,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2で,Ωは複素数ですが

Ω1は実数)で与えられることを示したところで終わりました。

 さて,この解で入射光の周波数ωと原子遷移の周波数ω0

の離調;ω0-ωがゼロ,つまり,ω=ω0の特別な場合には,,

Ω12=|Ω|2となるため,解はρ22=sin2(|Ω|t/2).(2.89),

および,ρ12=(iΩ/|Ω{2)sin(|Ω|t/2)cos(|Ω|t/2)}

(2.90)と簡単になります。

そこで,この場合,原子は基底状態1と励起状態2との間を

対称的に振動します。これはRabi振動として知られ,|Ω|

はRabi周波数と呼ばれます。

これは,Bloch方程式の場合と同じく振動磁場内のスピン

という類似の問題に対して,Rabiにより初めて得られたもの

です。

さて,光学Bloch方程式は回転波近似が施されている近似

方程式であるため,その解である(2.87),(2.88)は(ω0-ω)

が(ω0+ω)に比べて,はるかに小さいときしか,密度行列の

解の正しい近似とはならず,適切な解として成立しないこと

を強調すべきです。

それ故,(2.87)のρ22=(|Ω|212)sin21t/2)でω=0

12=ω02+|Ω|2と置いても,前々回の記事「光の量子論7」

の(注7.2)でのゼロ周波数静電場ω=0の厳密解|C2|2

={4|Ω|2/(ω02+4|Ω|2)}sin2{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/2t}(2.34)

は得られません。

(2.87),(2.88)は,単一の周波数ωを持つ厳密に単色の入射光

ビームに対する解ですが,実際にはρ22とρ12の正弦関数的挙動

が経験的に観測されるのは,周波数ωが遷移周波数ω0の周りに

あって,その遷移周波数の分布の幅に比べ,周波数ωの広がりが

小さい入射光を用いた場合だけです。

しかし,原子放射過程に広がりを与える過程はまた,光学

Bloch方程式に修正をもたらし,その結果,ρ時間依存性が

変わります。こうした問題については,この第2章の後の方で

論じる予定で,Rabi振動の発生に関する立ち入った考察も,

  • 2.10までPendingです。

 

一方,広帯域の入射ビームという逆の極端な場合は,本章の

初めと第1章で扱ったアインシュタイン理論の領域です。

アインシュタインのB係数の導出に用いた(2.42)の表式:

|C(t)|2­=|Ω|2sin2{(/2ω0-ω)t/2}/(ω0-ω)2は,(2.87)

のρ22(t)=(|Ω|212)sin21t/2)で,(2.84)で定義した

Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2から|Ω|2を省き,Ω12=(ω0-ω)2

とすれば得られる,解(2.87)の特別な場合に相当しています。

|Ω|2が十分小さければ,

|C(t)|2­=|Ω|2sin2{(/2ω0-ω)t/2}/(ω0-ω)2から

(2.55)のB12=πe2|D12|2/(3ε0c2)なる結果を導出するに

至った以前の手順が,そのまま,成立します。

つまり,原子の核を原点とする束縛電子jの位置ベクトル

jとすると,=Σjjによる全電気双極子モーメントが

=-e(e>0)で与えられるため,振動電場E=0cos(ωt)

存在する場合の摂動の双極子近似の相互作用Hamiltonianは,

=-PE=eDE=eDE0cos(ωt)で与えられます。

定義によって,D12=∫ψ1ψ2dVですが,ベクトルDをD

=(X,Y,Z)と成分表示して,そのx成分X=Dcosθについても,

12=∫ψ1Xψ2dVとすれば,X12=D12cosθであって角度平均

では,<|X12|2>=(1/3)D122となります。

そして,一般には複素数のΩは,(2.23)でΩ=eE012/hにより

定義され,単色光の場合の遷移確率:N2/N=|C2(t)|2を示す(2.42)

の|C2(t)|2=(1/2)|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2は,振動

電場E=0cos(ωt)のビーム周波数ωがω0の周りに平均の

エネルギー密度W(ω)の分布を持って幅Δωで広がっているときは,

これは(1/2)|Ω|2に,(1/2)e2|E|02|X12|2/h2を代入し,電磁場

平均エネルギーの,∫W(ω)dω=|1/(2V)∫(ε0|E0|2)dV

=<(1/2)ε0|E0|2>なる対応から.(1/2)|Ω|2

=(1/2)e2|E0|2|X12|2/h2の因子(1/2)|E0|2を,時間平均:

<(1/2)|E0|2>=∫(W(ω)/ε0)dωに置換することで,

準位1→2の広帯域の遷移確率は,

|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)} W(ω)(Int)

で与えられる,とします。

ただし,積分因子(Int)は:Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω

×[sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2]で定義される量です。

このIntが(tΔω)→∞の極限で,Int=(1/2)πtとなる

ことから,<W(ω)>=∫W(ω)dωについてのB係数を,

12<W(ω)>=<|C(t)|2>={2e2<|X12|2>/(ε0c2)}

×W(ω)(Int)で与え,<W(ω)>=W(ω)(Int)であると

考えると,<|X12|2>=(1/3)D12を代入することで,

12=πe2|D12|2/(3ε0c2)なる計算結果を導いたのでした。

ここで用いた長時間極限:Int=(1/2)πtは,tΔω>>1の

条件下で得たのですが,これは,|Ω|が小さくて,その付帯条件:

|Ω|t<<1(2.91)が満たされていれば,やはり良い近似として

成立します。

この付帯条件は,要するに,入射光が原子遷移を飽和させる

ほどには強くないこと:つまり,アインシュタイン理論で仮定

した「原子遷移と入射エネルギー密度の比例性」を壊すほど

には強くないこと,を保証しています。

なお,光学Bloch方程式の解に含まれている飽和効果に

ついては,§2.9で論じる予定です。

 

  • 2.8 放射広がり

吸収と放出の基礎理論には線幅を広げる1つの機構が既

に含まれています。その広がりは,自発放出のプロセスから

生じるので,「放射による広がり」と呼ばれています。

自発放出の効果を2準位原子気体の感受率の量子力学的

導出の中に取り入れます。このとき,感受率と吸収係数の

関係から,放射によって広がった吸収線の形状に対する表式

が得られます。

 

さて,Z個の電子を持つ原子の気体が,原子の遷移周波数

ω0に近い周波数ωの電磁波から振動効果を受けている場合

を考えます。

前と同様,単一原子が電磁波とH=eDE0cos(ωt)で

記述される相互作用HamiltonianHが作用している場合を

扱います。この単一原子の結果を適当に平均して,乱雑な配向

をした原子(分子)の気体に対する類似の結果を求めます。

まず,印加電場:0cos(ωt)を,

(t)=(1/2)0{exp(-iωt)+exp(iωt)}(2.92)

と書きます。これが,気体に作用すると,(1.79)の=ε0χ

のような分極を生じます。

このχが1次の感受率と呼ばれる量です。

しかし,(2.92)の(t)のような電場では,感受率が周波数

ωに依存するとして,χ(ω)とする必要があり,(1.79)の静場

対する分極の式:=ε0χの代わりに,

(t)=(1/2)ε00{χ(ω)exp(-iωt)+χ(-ω)exp(iωt)}

(2.93)と一般化されます。

この時間に依存する分極:(t)を量子力学的に計算し,それで

得た表式を,上の(2.93)の表式と比較することから感受率χ(ω)を

決めることにします。

 そのため,まず,代表的な1個の原子の分極が気体の分極に

与える寄与を調べます。前と同じく原子の核を原点とするZ個の

電子の位置ベクトルの総和:=Σj=1jを考え,そのx成分をXと

します。電気双極子モーメントのxに平行な成分は,-eX

=-eΣj=1jの期待値で与えられます。

よって,原子波動関数をΨ~(t)と書けば,電気双極子モーメントの

x成分dは,d(t)=∫Ψ~*(t)XΨ~(t)dV(2.94)で与えられます。

ただし,dV積分はZ個の電子全ての座標について取ります。

(※ つまり,(2.94)のd(t)=∫Ψ~*(t)XΨ~(t)dVは.電子:j

の波動関数をΨj(,t)(j=12,。。,Z)とするとき,

d(t)=Σj=1∫Ψj*(j,t)xjΨj(l,t)d3jと表わす表式

の記号的表現とかんがえられます。)

cω0=E2-E1を満たす遷移周波数をω0とすると,原子波動関数

Ψ^は,Ψ^(t)=C1(t)ψ1exp(-iE1t)+C2(t)ψ2exp(-iE2t)

(2.95)となりますから,これを(2.94)に代入すると,

d(t)=-e{C1212exp(-iω0t)+C2121exp(iω0t)}

(2.96)が得られます。ただしXij=∫ψiXψjdV(i,j=1,2)

です。被積分関数:ψi()Xψj()は空間座標軸を反転すると,

ψi(-r)(-X)ψj(-r)となるので,空間波動関数のパリティに

依らず,i=jjなら,ψi()Xψj()はの奇関数になるため,

11=X22=0(2.97)となる,という性質を用いました。

また,定義からX21=X12(2.98)ですから,電気双極子

モーメントd(t)は,予期される通り実数量という表式になって

います。

必要な係数:C1(t),C2(t)は「光の量子論7」の

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt)(2.31),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)(2.32)

を解けば得られます。

しかし,前述したように,これらの運動方程式から解が導ける

のは,電磁場の印加が無いΩ=0のときの定常状態の

波動関数だけであり,その解はC1,C2の初期値のままの定数

に過ぎません。

 

これは印加電磁場が無くても,励起原子は自発放出によって,

究極的には基底状態にへと減衰するはずである,という(1.77)

2=N20exp(-A21t)という挙動に相反します。

しかし,こうした事情は上記の(2.32)に自発放出を表わす項

付け加えることで,修正されます。

すなわち,Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2=i(dC2/dt)

(2.99)なる修正方程式を採用します。これから,もしも,Ω=0

ならdC2/dt)=-γC2により,C2(t)=C2(0)exp(-γt).(2.100)

が得られます。

N個の同じ原子から成る気体では,t=0ではN20個が励起

されているとき,時刻tで励起されている原子の数は,

2(t)=N|C2(t)|2より,N2(t)=N20exp(-2γt).(2.101)である

と評価されます。

これを,(1.77)のN2(t)=N20exp(-A21t)と比較すれば,

2γ=A21=1/τ.(2.102)(※τは蛍光寿命)と書けます。

そして,こうであるなら(2.99)のように,(2.32)に項:

-iγC2=-iA212/2を追加して,

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2=i(dC2/dt)とすること

で,蛍光の減衰が正しく与えられます。

他方,(2.31)のC1の発展方程式の方は,以下では使用しない

ので,ここで修正することはしません。

 

さて,アインシュタインのB係数の導出のときと同様,C1,C2

をΩ(Ω*)の1次まで計算します

Ω,or 電場E0は弱い,としているので,方程式(2.99)の

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1-iγC2=i(dC2/dt)の左辺で,

1=1と近似し,また,Ω≠0とします。

そうして,C1=1とした(2.99)の近似をdC2/dt=-γC2

+(-iΩ/2)[exp{i(ω0+ω)t}+exp{i(ω0-ω)t}]

と書き,これを積分すると.

2(t)=(-Ω/2)[exp{i(ω0+ω)t}/(ω0+ω-iγ)

+exp{i(ω0-ω)t}/(ω0-ω-iγ)].(2.103)を得ます。

 

※[注10-1]:線形非同次方程式:df/dt=-af+g(t)

の解を求めるには,定係数線形同次方程式:

df/dt=-afの解:f=bexp(-at)から,定係数bをtの関数

b(t)にする定数変化法を用いれば可能です。

そこで,df/dt=-af+(db/dt)exp(-at)

=-af+g(t)から,db/dt=exp(at)g(t)なので,

b(t)=∫{exp(at)g(t)}より,

f(t)=[∫{exp(at)g(t)}dt]exp(-at)が得られる,という

話を,今から50年くらい前の大学1年のときに習った?こと

思い出しました。(注10-1終わり※)

 

(2.103)のC2(t)の解から,|C2(t)}2は|Ω|2のオーダーの

大きさであるとわかり,規格化条件:|C1(t)}2+|C2(t)}2=1

(2.104)により,|C1(t)}2=1-|C2(t)}2=1+O(|Ω|2)です

から,C1(t)は,1と|Ω|2のオーダーだけ異なるとわかります。

それ故,Ωの1次までの近似では,C1(t)=1(2.105)と置く

ことが正当化されます。

よって,単一原子の電気双極子モーメント:d(t)は(2.96)の

d(t)=-e{C1212exp(-iω0t)+C2121exp(iω0t)}

に,上記のC2=(-Ω/2)[exp{i(ω0+ω)t}/(ω0+ω-iγ)

+exp{i(ω0-ω)t}/(ω0-ω-iγ)].とC1=1を代入すれば

Ωの1次近似までの式として得られます。

ただし,X12=∫ψ1Xψ2dVで.X21=X12.Ω=eE012/hc

ですから,これらも代入すると,d(t)={e2|X12|20/(2hc)}

×[{exp(iωt)/(ω0+ω-iγ)+exp(-iωt)/(ω0-ω-iγ)}

+exp(-iωt)/(ω0+ω-iγ)+exp(iωt)/(ω0-ω-iγ)}]

(2.106)を得ます。

この単一原子の双極子モーメントを,N根の同種原子の

気体分極:Pに結び付ける必要があります。

このとき,乱雑な配向の電子を持つ原子の平均として,|X12|2

に|X12|2=|D12|2/3を代入します。こうすれば,d(t)はtに

おける気体の1原子あたりの平均双極子モ^メントとなり,

気体分極:P(t)は,P(t)=Nd(t)/V.(2.107)で与えられる

ため,これに(2.106)のd(t)={e2|X12|20/(2hc)}

×[{exp(iωt)/(ω0+ω-iγ)+exp(-iωt)/(ω0-ω-iγ)}

+exp(-iωt)/(ω0+ω+iγ)+exp(iωt)/(ω0-ω+iγ)}]

と,|X12|2=|D12|2/3を代入したものを作り,(2.93)の,

(t)=(1/2)ε00{χ(ω)exp(-iωt)+χ(-ω)exp(iωt)}

と比較することで,χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}.(2.108),

かつ,χ(-ω)=χ(ω)(2.109)を得ます。

ここで,第1章で求めた2ηκ=χ“(1.84)とK=2ωκ/c

(1.91)によれば,ωに依存した原子の吸収係数K(ω)は,

感受率をχ(ω)=χ’(ω) +iχ”(ω)と書いたときの虚部

χ”(ω)と,K(ω)={ω/(ηc)}χ”(ω)(2.110)によって

関係付けられます。

※(注10-2):以前の記事「光の量子論3」では.感受率

χを複素数に拡張して,χ=χ’+iχ”(χ’,χ”は実数)と

表わしました。

ところで,原子気体に分極がある場合,これを誘電体

と見なして,その誘電率をεとすると,感受率χは=χε0

定義され,D=ε0なので,ε=(1+χ)ε0です。

周波数ω,波数kで時間的,空間的に変動するz軸の正の

向きに進行する平面波:exp{-i(ωt-kx)}を仮想すると,

誘電体内の位相速度:ω/k=(εμ0)-1/2は,自由空間(真空)

中の光速:c=(ε0μ0)-1/2の(1+χ)-1/2倍に相当するので,

(ck/ω)2=1+χと書けますが,これの平方根も複素数です

から,ck/ω=η+iκ(η,κは実数)と書きます。

(※こう定義すると,光学においては,ηが屈折率,κが吸収係数

に相当する,ことがわかります。)

これを,(ck/ω)2=(1+χ’)+iχ”に代入すれば,

η2-κ2=1+χ’.および,2ηκ=χ“.を得ます。

ここで,単位時間に単位面積を通過する場のエネルギー

として定義される,電場,磁場の電磁波の強度:

そのPoyntingベクトルで,××0と定義

して,ベクトルIの大きさのサイクル平均を取り,<I>

書けば,<I>=(1/2)ε0cη|(r,t)|2なる式を得ます。

ただし,E(r,t)は,空間的,時間的に変動する電磁波の

電場であり,これはz軸向きの進行波の形の(r,t)

0exp{i(kz-ωt)}

0exp{iω(ηz/c-t)-ωκz/c}

を想定しています。

サイクル平均強度:<I>はzの関数となるので,改めて

<I>をI=I(z)と書き.I0をz=0におけるサイクル平均強度

すれば,I(z)=I0exp(-Kz)と書けます。

ただし,K=2ωκ/cです。

と書きました。

そこで,2ηκ=χ“を用いると,K={ω/(ηc)}χ”

が得られます。(注10-2終わり※)

さて,ck/ω=(1+χ)1/2=η+iκであって,2ηκ=χ“

を与える実数ηは,光学では屈折率を示しますが,これも

χ“=χ“(ω)と表わしたときはωの関数で,η=η(ω)と

書けます。しかし,この屈折れは,あらゆる周波数ωで1に

近い値であることが知られています。

そして,十分希薄な気体を考えると,ω~ω0で,γ<<ω0

とき,には,χ(ω)={Ne2|D12|2/(3ε0cV)}

×{1/(ω0-ω-iγ)+1/(ω0+ω+iγ)}.(2.108)の

{ }内では,明らかに,(第1項)>>(第2項です。

そこで,回転波近似を適用して第2項を無視します。

すると,(2.110)の,K(ω)={ω/(ηc)}χ”(ω)は,

η~1として,K(ω)~{πNe2|D12|2ω0/(3ε0ccV)}

×[(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}].(2.111)となります。

この吸収係数Kの周波数依存性:F1(ω)

=(γ/π)/{(ω0-ω)2+γ2}(2.112)は,Lorentz型曲線

(Lorentz関数曲線)として知られています。

「ローレンツ型分布」の画像検索結果

これは∫F1(ω)dω=1.(2.113)と規格化されるように

係数因子(1/π)を付けています。

そして,F1(ω)の曲線はω=ω0で最大値;1/(πγ)を

取りますが,この1/2の高さ1/(2πγ)に相当するωは,

ω=ω0±γであり,その間のωの全幅は丁度2γです。

こうして,(2.102)の2γ=A21=1/τ(※τは蛍光寿命)

より,このωのω0の周りの放射広がり=2γが,その遷移に

関する自発放出のA係数に等しい幅を生じる.と述べる

ことができます。

 水素の2p状態が自発放出によって1s状態に減衰する

場合は,前々回の記事「光の量子論8」で詳細に計算し,

21~ 6.7×108-1(2.57)なる評価式を得ました。

そこで,この場合,放射広がりは,2γ~ 6.7×10 8-1

大きさです。よって,この遷移に対応する吸収線は,自発放出

のため,角周波数Δωでなく,周波数Δν=Δω/(2π)の意味で,

約10 8Hzの幅を持つことになります。

しかし,これは極端に狭い値であり,大抵の実験で観測される

原子吸収線の幅は,他の機構:例えば後述する予定のドプラー

(Doppler)効果か,または,原子の衝突が原因と考えられます。

ところが.これら別の付加的広がりについては,原理的には,

何らかの方法,例えば気体の冷却とか,気圧を下げるとか,

で減少させることができます。

一方,放射広がりの方は自発放出が原因なので,これを減少

させることは不可能であり,A21はΔωとして到達可能な最小

幅です。

この意味で,この自発放出による線幅を「スペクトル線の固有値」

と呼ばれます。

この放射による線幅は,アインシュタインのB係数の量子論的

表式を導くために「光の量子論7」で決めた|C2(t)|2の(2.44)

の表式|C2(t)|2={2e2{X12|2/(ε0c2)}

ω0-Δω/2ω0+Δω/2[W(ω)sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω.で用いた入射光の周波数幅:Δωに,その最小値

として2γ=A21=1/τを提供します。

この(2.44)は,|C2(t)|2

={2e2|X12|2/(ε0c2)}W(ω)(Int)(2.45),

Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω[sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2]

(2.46)と表わされ,tΔω>>1なら,Int=πt/2((2.48)を

得ます。と書きましたが,この誘導放出のB係数を与える

遷移確率の因子Int=πt/2によるtへの直線的依存性は,結局,

自発放出の蛍光寿命よりはるかに大きい長時間,t>>τ

対してしか成立しない,と言えます。

 

今回は,ここまでにします。(つづく)

 

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

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2019年10月28日 (月)

光の量子論9

※[光の量子論8」の第2章 原子・放射相互作用の量子力学

の続きです。

※(余談)今回の記事では,最後に(注)として長い計算

をしました。

私は上京してきた1977年以来,コンピュータ歴ウン

十年といっても,数式などは紙に書かないと,ちゃんと

は計算できない,という性分でしたが,近年,いつの頃

からか?ワードの上でタイプして計算し,紙(ノート)

やペンが無くても長い計算が可能な頭になりました。

これだと,紙は節約になるし,眼が悪くても字が拡大

できるのは,いいのですが,やはり紙とペンでやるより.

間違う件数が多くなったかもしれません。

さて,日本代表のラグビーは終わりました。

去年夏サッカーのW杯のときも思いましたが,次頑張る

とかいわれても,私には4年後の次なんかは無いのでね。

(余談終わり※)

さて,本題です。

まず,§2.5のDiracのデルタ関数の項の続きです。

δ関数は次の基本的性質を持っています。

(ⅰ)δ(ω-ω0)=δ(ω0-ω).(2.67)(δは偶関数)

(ⅱ)δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)(2.68)

(ⅲ)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]

={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|.(2.69)

の3つです。

※(注9-1):上記のδ関数の性質を証明します。

[証明]:(ⅰ)∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω=f(ω0)

ですが,ω’=-ωと置けばf(ω)=f(-ω’),

dω’=-dωで.ωのω1→ω2の移動に対して.

ω’は(-ω1)→(-ω2)と移動します。

故に,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω

=∫-ω2-ω1f(-ω’)δ(ω0+ω’)dω’

f(ω0)=f(-(-ω0))=[f(-ω’)]ω’=-ω0

です。そこで,δ(ω0+ω’)=δ(-ω0―ω’)

よって,ω’=-ωに戻すと,δ(ω0-ω0)

=δ(-ω0+ω)=δ(ω-ω0)を得ます。

(ⅱ) ∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-bω)dωを考えます。

これにおいて,x=bωと置くと,dω=dx/bであり,

ωのω1→ω2の移動に対してxの移動は,bω1→bω2

です。

故に,与式=(1/b)∫bω1bω2f(x/b)δ(ω0-x)dx

ω2>ω1ですからb>0ならbω2>bω1より,右辺

=(1/b)f(ω0/b)ですが,b<0ならbω2<bω1

なので,与式=-(1/b)∫bω2bω1f(x/b)δ(ω0-x)dx

=-(1/b)f(ω0/b)です。

したがって,δ(ω0-bω)=(1/|b|)δ(ω0/b-ω)

を得ました。

(ⅲ)∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[ω2-(ω1+ω2)ω+ω1ω2]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]

d ωですが,ここでx={ω-(ω1+ω2)/2}2と置きます。

dx=2{ω-(ω1+ω2)/2}dω=±2x1/2dωであり,

ω<(ω1+ω2)/2なら,x1/2=-ω+(ω1+ω2)/2

(x1/2:(ω2-ω1)/2→0)で,ω=-x1/2+(ω1+ω2)/2,

dω=-(1/2)x-1/2dxです。

一方,ω>(ω1+ω2)/2なら,x1/2=ω-(ω1+ω2)/2

で(x1/2:0 →(ω2-ω1)/2),ω=x1/2+(ω1+ω2)/2,

dω=(1/2)x-1/2dxです。

そうして,ωのω1→(ω1+ω2)/2 →ω2の移動に対し,

xは,{(ω1-ω2)/2}2 → 0 → {(ω1-ω2)/2}2tと,ωの

2次曲線上を最小値0を通って往復します。

ω1ω2dω=∫ω1(ω1+ω2)/2dω+∫ω1(ω1+ω2)/2dω

=-(1/2)∫{(ω1-ω2)/2}2 0-1/2dx+(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}

-1/2dx となります。

それ故,∫ω1ω2f(ω)δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]d ω

=∫ω1ω2f(ω)δ[{ω-(ω1+ω2)/2}2-{(ω1-ω2)/2}2]

dω=(1/2)∫0 {(ω1-ω2)/2}[δ[x-{(ω1-ω2)/2}2]x-1/2

×{f(-x1/2+(ω1+ω2)/2)+f(x1/2+(ω1+ω2)/2)}]

dx なる等式を得ます。

 

ω2>ω1で,x={(ω1-ω2)/2}2のときは,常に

1/2=≧0より,x1/2=(ω2-ω1)/2 なので.上式

の右辺={f(ω1)+f(ω2)}/(ω2-ω1)が得られます。

したがって,ω2>ω1または,ω1>ω1の一般の場合,

δ[(ω1-ω)(ω2-ω)]

={δ(ω1-ω)+δ(ω2-ω)}/|ω1-ω2|を得ます。

(証明終わり)   (注9-1終わり※)

 

さて,B係数を導く際に,遷移の時間tが(1/ω0)や

(1/Δω)に比べて長い場合に成立する式:(2.48)から

得られる解を採用しました。

すなわち,前々回の記事「光の量子論7」では,光の

ビーム:W(ω)の存在下で時間tの間の1→2の遷移確率

が.|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}W(ω)(Int)(2.45)

で与えられるという一般解を得ました。ただし,(Int)は

積分因子で,Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω(2.46)で与えられます。

この式で,tΔω>>1(t>>1/Δω)の場合には,

Int~∫-∞dω1[sin21t/2)/ω12]=πt/2.(2.48)

なる近似が成立する,と書きましたが,その際,

この解をB係数の評価式として採用しました。

ところで,|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}W(ω)

×(Int)(2.45)なる表式は,元々確定値ω0における表式

(2.42)|C2(t)|2~|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

に,原子は広帯域照射を受けているというアインシュタイン

理論の基礎仮定を採用しω0の不確定さΔωを考慮して,

この表式をω0を遷移周波数の中心とするωのある範囲

にわたって積分したものです。

つまり,|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

において,Ω­=eE012/hcと,(1/2)ε002=∫W(ω)dω

を利用して,|C2(t)|2={2e2{X12|2/(ε0c2)}

×∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2[W(ω)sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω としたものです。

 

 

(1/ω0),(1/Δω)は,光の吸収を実験的に観測するとき,

それを制御する特有の時間です。

これがゼロに近づくtの長時間極限では,(2.59)のδ関数

という記号:δ(ω0-ω)

=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}

を用いると,t→∞の長時間極限で.元の(2.42)式の

|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

を,|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)

(2.70)という形に書くのが適切ということになります。

 

※(注9-2);上でDiracのδ関数を記号と呼んだのは,

その性質の証明などでは,これを普通の積分可能な関数の

ように,置換積分法などが適用可能として扱いましたが,,

これは,数学的には関数の範疇には入らず,積分記号無し

では意味のない記号のようなものという意味です。

現代的には,Schwartzのdistributionと呼ばれるもの,

または,佐藤の超関数(hyperfunction)と呼ばれるものに

代表される汎関数として定義される超関数の一種です。

(注9-2終わり※)

 

さて,(2.70):|C2(t)|2=(π/2)|Ω|2tδ(ω0-ω)の

結果は,Hamiltonianの時間に依存する部分がcos(ωt)

に比例し,周波数ωがω0のまわりに連続的分布する如何

なる遷移過程にも適用できて,行列要素Ωだけが過程に

よって異なります。そして,δ関数は積分の中にある

ときに限って意味を持ちます。

 

  • 2.6 光学Bloch方程式

(2.31),(2.32)の方程式:

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)

は,(2.8)の波動関数の表現:Ψ(,t)

=C1(t)Ψ1(,t)+C2(t)Ψ2(,t)における

両係数C1,C2の定義と合わせて,振動電場と相互

作用する2準位原子の状態の厳密な記述を与えます。

しかし,すぐ前の§2.3では周波数ωの分布がω0

の付近で滑らかな解を場合の(2.31),(2.32)の解を

問題としていました。

そして,解はΩ or E0についての低次項だけを

拾ったという意味で近似解であり,(2.42)の表式:

|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2は,

回転近似と呼ばれる近似式です。

 

そこで,以下では(2.31),(2.32)のより一般的な解

を探すことにします。

しかし,やはり回転波近似を行ないますが.Ω or E0

の全ての次数の項を拾います。さらに,入射光は,単一

周波数ωの振動電場を持った単色光であると仮定します。

ビーム周波数ωに分布があれば,その効果は,単色光

に対する結果を平均すれば得られます。

ここで,原子密度行列:(ρij)の4つの要素を,

ρ11=|C1|2=N1/N,ρ22=|C2|2=N2/N.(2.71)

ρ12=C1221=C21.(2.72)で定義します。

対角要素:ρ1122は明らかに実数であり,規格化

の条件:|C1|2+|C2|2=1の要求は,ρ11+ρ22=1

(2.73)となります。(※ ρij=Cij;i,j=1,2)

原子集団ではN1=N|C1|2,N2=N|C2|2によって,

これらは,2準位内の平均数と結び付いています。

 非対角要素は複素数であり,ρ21=ρ12(2.74)

を満たします。

そして,密度行列が従う方程式は,

dρij/dt=Ci(dCj/dt)+Cj(dCi/dt)

(2.75)です。

故に,dρ22/dt=-dρ11/dt

=-C1(dC1/dt)-C1(dC1/dt)

=-iΩcos(ωt)exp(iω0t)ρ12

+iΩcos(ωt)exp(-iω0t)ρ21

=-icos(ωt){Ωexp(iω0t)ρ12

+iΩexp(-iω0t)ρ21}.(2.76) と書けます。

同様にして,dρ12/dt=-dρ21/dt

=iΩcos(ωt)exp(-iω0t)(ρ11-ρ22).(2.77)

を得ます。

これらは,密度行列に対する厳密な方程式ですが,

ここで回転波近似を施します。すなわち,cos(ωt)

=(1/2){exp(iωt)+exp(-iωt)}を代入し,

結果.ω~ω0より,exp{±i(ω0-ω)t}の項だけを

残しexp{±i(ω0+ω)t}の項を無視する近似をして,

dρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21.(2.78)

dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)(2.79)

が得られるわけです。

これは,「光学Bloch方程式」と呼ばれるもの

として知られており,振動磁場内のスピンの運動を

記述するためにBlochが導出したものと同類のもの

です。それは,ここで考察した2準位原子の量子力学

が,形式の上では同じ2自由度のスピン:1/2の系の

ものに全く等しい,からです。

 

  • 2.7 Rabi振動

上記最後の方程式(2.78),(2.79)は,これ以上の近似

無しで解くことができます。これらは,原子密度行列の

4つの要素に対する4つの連立方程式系を成しています。

試行解として,ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt)(2.80a),

ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt)(2.80b),

ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80c),

ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)(2.80d)

を代入すると,4成分の縦ベクトル:

ρ^(0)=[ρ11(0)22(0)12(0), ρ21(0)]に対し,

[-λ,0,(i/2)Ω,(-i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81a),

[0,-λ,(-i/2)Ω,(i/2)Ω]ρ^(0)=0.(2.81b),

[(i/2)Ω,(-i/2)Ω,i(ω0-ω)-λ,0]ρ^(0)

=0 .(2.81c),

[(-i/2)Ω,(i/2)Ω,0,-i(ω0-ω)-λ]ρ^(0)

=0 .(2.81d)

なる(4×4行列)×ρ^(00の方程式を得ます。

このとき,λの取り得る値は,これがρ^(00という

自明な解以外の解を持つという条件から決まります。

そこで,方程式の係数行列の行列式=0から,

λ22+(ω0-ω)2+|Ω|2}=0.(2.82)なる

特性方程式を得ます。(※ 上式の導出=行列式の計算

の過程は省略そます。)

 この方程式の相異なる3根は,

λ1=0,λ2=iΩ13=-iΩ1.(2.83)で与えられます。

ただし,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.(2.84)です。

(※Ωは複素数ですがΩ1は実数であることに注意)

したがって,密度行列要素に対する最も一般的な解は,

ρij(t)=ρij(1)+ρij(2)exp(iΩ1t)+ρij(3)exp(-iΩ1t)

(2.85)で与えられるはずです。

ところが,この一般形は(2.80)で仮定した形の

ρ11(t)=ρ11(0)exp(λt),ρ22(t)=ρ22(0)exp(λt),

ρ12(t)=ρ12(0)exp{-i(ω0-ω)t}exp(λt),

ρ21(t)=ρ21(0)exp{i(ω0-ω)t}exp(λt)

についてのλが満たすべき方程式が上記特性方程式

なので,実は非対角要素には,さらに振動的な指数関数

因子が加わります。

つまり,対角要素は,(2.85)そのままの形で,

ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

ですが,非対角要素は,上記の仮定:(2.80)により

ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}

×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]

となります。

 

※(注9-3):特性方程式の解が重根の場合,

それがλ=α≠0なら,それに属する独立な2つの解

としては,exp(αt)の他に,texp(αt)をとることが

できます。この重根がα=0なら,独立解は1とtです。

しかし,今の場合,ρ21(t)=ρ12(t)を考慮すると,

4つの成分のうち独立なのは,ρ11(t),ρ22(t),ρ12(t)

の3つだけと考えられますから,係数行列は3×3で十分

と考えて,λ=λ1=0は真の重根ではなく単根であり1

(定数)のみが,それに属する独立解です。

さらにρ11(t)+ρ22(t),=1の条件をも考慮すれば,

実は独立成分は2つだけです。

しかし,取り合えず,4つの成分全てについて対角要素は

ρ11(t)=ρ11(1)+ρ11(2)exp(iΩ1t)+ρ11(3)exp(-iΩ1t),

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

となり,非対角要素は,

ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

ρ21(t)=exp{i(ω0-ω)t}

×[ρ21(1)+ρ21(2)exp(iΩ1t)+ρ21(3)exp(-iΩ1t)]

となるとしておきます。(注9-3終わり※)

 

さて,λ=λ1=0に対応する定数項は解を光学Bloch

方程式に代入し返せば決まるはずです。

また,λ2=iΩ13=-iΩ1で,Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2.

ですから,|Ω|2の存在のため原子と光ビーム結合系での

周波数Ω1は,結合がないときの,それぞれの値:ω0やωとは

異なります。

そして,|Ω|2はビームの振動電場の振幅:|E0|の2乗に

比例するので,この結合系の周波数のシフトと分裂は,静電場

を印加したときの原子のエネルギー準位のシフトと分裂から

の類推により,動的シュタルク(Stark)効果と呼ばれています。

これは後の第8章で述べる予定の「共鳴蛍光スペクトル」

の観測にかかる重要な効果をもたらすものです。

 

光学Bloch方程式の解は,任意の初期条件の場合は,

甚だしく長くなるので,以下の議論は特別な場合に限る

ことにします。

※(注9-4);密度行列に対する厳密な方程式:(2.78),(2.79)

の解は.初期条件がρ22=0,ρ12=0(※C2=0)(2.86)の場合,

ρ22=(|Ω|212)sin21t/2).(2.87)

ρ12=exp{-i(ω0-ω)t}(Ω/Ω12)sin(Ω1t/2)

×{-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)}.(2.88)

となることを証明します。

[証明]:まず,ρ22の一般解:

ρ22(t)=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)

+ρ22(3)exp(-iΩ1t)において,初期条件;

ρ22(0)=0より,ρ22(1)+ρ22(2)+ρ22(3)=0です。

また,ρ12の一般解:ρ12(t)=exp{-i(ω0-ω)t}

×[ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

において,初期条件;ρ12(0)=0より

ρ12(1)+ρ12(2)+ρ12(3)=0です。

ここで,Bloch方程式に,これらの一般解を代入して,

それに,条件:ρ11=1-ρ22より,ρ11-ρ22=1-2ρ22,

および,ρ21=ρ12を適用します。

 

まず,(2.78)のdρ22/dt=-dρ11/dt

=(-i/2)Ωexp{i(ω0-ω)t}ρ12

+(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}ρ21は.

1ρ22(2)exp(iΩ1t)-iΩ1ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=(-i/2)Ω

×{ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)]

+(i/2)Ω

×{ρ12(1)*+ρ12(2)*exp(-iΩ1t)+ρ12(3)*exp(iΩ1t)]

(A1)と書けます。

次に,(2.79)の,dρ12/dt=dρ21/dt

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}(ρ11-ρ22)は.

-i(ω0-ω)exp{-i(ω0-ω)t}ρ12(1)

+i{Ω1-(ω0-ω)}exp[i{Ω1-(ω0-ω)}t].

-i{Ω1+(ω0-ω)}exp[-i{Ω1+(ω0-ω)}t]ρ12(3)

=(i/2)Ωexp{-i(ω0-ω)t}

×[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}],

すなわち,-i(ω0-ω)ρ12(1)

+i{Ω1-(ω0-ω)}exp(iΩ1t)ρ12(2)

-i{Ω1+(ω0-ω)}exp(-iΩ1t)ρ12(3)

=(i/2)Ω

[1-2{ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)}]

(A2)と書けます。

そして,(A1)からは,まず,Ωρ12(1)-Ωρ12(1)*=0.(A3),

つまり,Ωρ12(1)は実数である,という結果を得ます。

また,Ω1ρ22(2)=-(1/2)(Ωρ12(2)-Ωρ12(3)*)(A4),

かつ,Ω1ρ22(3)=(1/2)(Ωρ12(3)-Ωρ12(2)*).(A5)を

得ます。

一方,(A2)からは,まず,

-(ω0-ω)ρ12(1)=(1/2)Ω(1-2ρ22(1))より,

ρ22(1)=1/2+{(ω0-ω)/Ω}ρ12(1)(A6)を得ます。

次に,{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)=-Ωρ22(2)(A7),

かつ,{Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)=Ωρ22(3)(A8)

も得られます。

さて,Ωρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}ρ12(2)(A5),

および.Ωρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}ρ12(3)(A6)

を得ます。と書きました。

ところが,ρ22(2)+ρ22(3)=-ρ22(1)

かつ,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)なので,これは,

Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω112(2)-ρ12(3))

を意味します。

一方,Ωρ22(1)=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1)

ですから,(ω0-ω)ρ12(1)+Ω112(2)-ρ12(3))

=Ω/2+(ω0-ω)ρ12(1),つまり,ρ12(2)-ρ12(3)

=(1/2)(Ω/Ω1)が得られます。

以上から,Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)

+Ω112(2)-ρ12(3))=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2です。

これと,ρ12(2)+ρ12(3)=-ρ12(1)から,辺々加えて

12(2)=(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A7),また後の式から

前の式を引いて,2ρ12(3)=-(1/2)(Ω/Ω1)-ρ12(1)(A8)

です。しかし,これらは,これ以上,何も新しい式を生まない

ことがわかりました。これ以上の変形をしてもトートロジー

なので,この手順は,ここで停止です。

そこで,次策として,取り合えず,

ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

に戻って,このρ22=|C2|2が実数であることに着目します。

つまり,ρ22=ρ22なので,

ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=ρ22(1)*+ρ22(2)*exp(-iΩ1t)+ρ22(3)*exp(iΩ1t)

です。

それ故,ρ22(1) =ρ22(1) *は実数であること,および,,

ρ22(2)=ρ22(3),かつ,ρ22(3)=ρ22(2)*であることが

わかります。故に,ρ22(2)=a+ib(a,bは実数)と置けば,

ρ22(3)=a-ibです。そして,さらに.Ωρ12(1)=c(実数)

と置きます。

すると,まず, ρ22(1)=-(ρ22(2)+ρ22(3))=-2a

(実数)と書けます。

また,前に得た式:Ωρ22(1)=(ω0-ω)ρ12(1)+Ω/2

により,|Ω|2ρ22(1)=c(ω0-ω)+|Ω|2/2なので,

-2a=c(ω0-ω)/|Ω|2+1/2,

あるいは,a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2という

aとcの関係式が得られます。

他方.Ω12(2)+ρ12(3))=-Ωρ12(1)=-c

Ω12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|21)ですから,

Ωρ122) =(1/4)(|Ω|21)-c/2(実数)(A7)

Ωρ12(3) =-{(1/4)(|Ω|21)+c/2}(実数)

(A8)です。

また,先の(A5),(A6)は,,

|Ω|2ρ22(2)=-{Ω1-(ω0-ω)}Ωρ12(2).

|Ω|2ρ22(3)={Ω1+(ω0-ω)}Ωρ12(3)です。

 

そこで,結局,cかaの一方の具体的な値がわかれば,

ρ12(1)=c/Ωとρ22(1)=-2aだけでなく,(A7)(A8)

から,Ωρ122)ρ122)がわかり,それから芋づる式に,

(A5),(A6)から|Ω|2ρ22(2),|Ω|2ρ22(3)もわかるので,

ρ12とρ22の全ての定係数が決まるので,解が定まって

問題は完全に解決します。

 

それ故,以下,これら以外の式からaまたはcを導出

することを試みます。

まず,2ib=ρ22(2)-ρ22(3)ですから,

2ib|Ω|2=|Ω|222(2)-ρ22(3))

=-{Ω1-(ω0-ω)}Ωρ12(2)-{Ω1+(ω0-ω)}Ωρ12(3)

=-Ω1Ω12(2)+ρ12(3))+(ω0-ω)Ω12(2)-ρ12(3))

です。つまり,cΩ1+(ω0-ω)Ω12(2)-ρ12(3))

=2ib|Ω|2ですが,Ω12(2)-ρ12(3))=(1/2)(|Ω|21)

であり,これは実数なのでcΩ1+(1/2)(ω0-ω)(|Ω|21)

=2ib|Ω|2(となり(実数)=(純虚数)と書けることになります。

これが成立するには両辺ともゼロであることが必要十分であり,

特にb=0です。

左辺=0からは,c=-(1/2)(ω0-ω)(|Ω|212)を得ます。

かくして,cの値が決定されました。

 

したがって,まず,aをcで表わす関係式;

a=-1/4-(c/2)(ω0-ω)/|Ω|2により,

a=-1/4+(1/4)(ω0-ω)212

={1/(4Ω12)}{(ω0-ω)2-Ω12}を得ます。

ところが,(2.84)のΩ1の定義:Ω1={(ω0-ω)2+|Ω|2}1/2

によれば.(ω0-ω)2-Ω12=-|Ω|2です。

そこで,結局,b=0より,ρ22(2)=ρ22(3)=a=-|Ω|2/(4Ω12)

を得ます。さらに,ρ22(1)=-2a=|Ω|2/(2Ω12)も得られます。

 

一方,Ωρ12(2)=(1/4)(|Ω|21)-c/2

=(1/4)(|Ω|212){(ω0-ω)+Ω1}によって,

ρ12(2)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}であり,,

Ωρ12(3)=-{(1/4)(|Ω|21)+c/2}

=(1/4)(|Ω|212){(ω0-ω)-Ω1}によって,

ρ12(3)=(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}を得ます。

最後に,ρ12(1)=c/Ω=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)

です。

以上から,

ρ22=ρ22(1)+ρ22(2)exp(iΩ1t)+ρ22(3)exp(-iΩ1t)

=|Ω|2/(2Ω12)[1-(1/2)|exp(iΩ1t)+exp(-iΩ1t){}

=||Ω|2/(2Ω12)}{1-cos(Ω1t)}です。

すなわち,ρ22(t)=(|Ω|212)sin21t/2)

を得ました。

また, ρ12exp{i(ω0-ω)t}

=ρ12(1)+ρ12(2)exp(iΩ1t)+ρ12(3)exp(-iΩ1t)

=-(1/2)(Ω/Ω12)(ω0-ω)

+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)+Ω1}exp(iΩ1t)

+(1/4)(Ω/Ω12){(ω0-ω)-Ω1}exp(-iΩ1t)

=-{Ω/(2Ω12)}(ω0-ω){1-cos(Ω1t)}

+{Ω/(4Ω1)}{2isin(Ω1t)}

=-(Ω/Ω12)}(ω0-ω)sin21t/2)

+{Ω/Ω1)isin(Ω1t)cos(Ω1t/2)

故に,ρ12(t)=(Ω/Ω12)exp{-i(ω0-ω)t}

sin(Ω1t/2)[-(ω0-ω)sin(Ω1t/2)+iΩ1cos(Ω1t/2)]

が得られます。(証明終わり)  (注9-4終わり※)

 今回は計算が長くなったので,ここまでにします。(つづく)

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

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2019年10月12日 (土)

光の量子論8

※第2章 原子・放射相互作用の量子力学

の続きです。

※(余談)このブログをアップする時点で10/12に入った

真夜中です。まもなく,関東に大きい台風が来るらしい

ですが,ほぼ寝たきり生活の死に損ないジジイなので,

自分のことダケであれば,あまり気にしません。

15日に2ヶ月分の年金が入る予定で.まだ今月の家賃

も払っていません。ここ西巣鴨に引っ越してきたのは,

6年間住んでいた,巣鴨駅から健康な足で徒歩10分の

アパートの建てかえ,立ちのきのせいで,やむなく

2016年の10月に移ってきたので,ほぼ3年経ちました

が.以来,偶数月の家賃は僅かながら年金が入るまで常に

未払いですが,家主も管理会社も優しいのか,前に住んで

いたときの管理のエイブルと違って,義務的であろう家賃

の催促のクレームもないので助かっています。まあ,催促

されてもギリギリで暮らしていて,無いソデは振れません

が。。その代わり,次の奇数月は前月の残りの金で期限通り

に払っています。ときどき入院していても,支払いはネット

バンクからしているので,幸い半月以上の滞納はゼロです。

というわけで,年金前の今頃が最も金欠で食べ物も食事用

のモノくらいしかなく,好きな間食もできず,仕方なくブログ

書きなどに集中するしか,他に能動的なことはできないため,

入院中を除いて,大体2ヶ月ごとの金欠時期にブログ記事アップ

が増えるわけです。

村上春樹さん,また,ノーベル賞ダメでしたね。

まあ,アインシュタインもノーベル賞をもらったけど,

「相対性理論」にじゃなく,光量子論でしたかね。

大体,賞を選ぶ側が選ばれる側を正しく評価できるほど

優秀とは限らないので,お金が欲しいなら別ですが,ガッカリ

することもないような。ノーベル賞より上だから選ばれない

とかね。。(余談終わり※)

さて,本論に入ります。

  • 2.4 B係数の表式

多数存在する同種の原子数をNとし,それらに

同時に相互作用H1が加わったとします。

これらの原子は,時刻tで,ψ1に見出される確率

|C1|2と,ψ2に見出される確率:|C2|2を持ちます。

それ故,2つの状態にある平均粒子数は,それぞれ,

1=N|C1|2N,N2=N|C2|2.(2.50)となります。

同種の原子,または分子から成る気体であっても,

対応する電子状態の空間的配向は,原子(分子)から,

次の原子(分子)へと不規則に変化します。

前にx軸の正の向きにとった電磁波の電場の向き

の単位ベクトルをεとします。

すると,行列要素X12はX12εD12.(2.51)と,

書けます。ただし,12=∫ψ1ψ2dV(2.52)です。

与えられた1対の状態ψ1とψ2に対して,D12は,

空間的に,ある方向を向きますが,原子(分子)の配向が

乱雑なため,それは気体中では不規則な運動をします。

12と電場の単位ベクトルεのなす角をθとすると,

|X12|2を求めるための配向による平均は,<cos2θ>

=1/3.(2.53)で与えられる,cos2θの平均値を含んで

います。

※(注8-1):実際,具体的に計算すると,<cos2θ>

=∫-11d(cosθ)cos2θ/∫-11d(cosθ)=(2/3)/2

=1/3 です。(注8-1終わり※)

こうして,前記事の,|C2(t)|2=πe2{X12|2

×W(ω)t/(ε0c2)(2.49)の因子:|X12|2を,

<|X12|2>=(1/3)|12|2.(2.54)に置換する必要

があることがわかります。

そこで,前記事で得たB係数の評価式:(2.49)

のB12=πe2{X12|2/(ε0c2)と上の(2.54)から,

12=πe2{12|2/(3ε0c2).(2.55)という,

アインシュタイン係数に対する量子力学による

結果が得られます。

 

入射電磁波を遮断すると,H1は無くなるので,

ψ12はHだけから成る全Hamiltonianの定常

状態に戻ります。

(※H=T+V:原子のHamiltonianです。)

仮に,状態2が状態1よりエネルギーが低くても,

本章の議論では,入射ビ-ム照射が無いと1から2

への遷移は起こることが無いと結論されます。

何故なら,本章の「半古典的方法」では自発放出の

過程を含まないからです。

その過程を含む満足な扱いをするには,量子力学に

よる「放射場(量子化された輻射場)」を用いる必要

があります。ですが,そうした扱いは第5章までは

Pendingとします。

 

しかしながら,自発放出のA係数の正しい表式は,

既に,第1章の§1.6 (本ブログでは光の量子論2)

で,熱平衡の場合のアインシュタインの現象論を空洞

放射のPlanckの法則と比較することから,

21={hcω3/(π23)}B21(1.51),および,

(g1/g2)B12=B21.(1.50)なる式として得ています。

 

これに,上の(2.55)のB12=πe2|12|2/(3ε0c2)

とω~ω0を代入すれば,A21={hcω03/(π23)}

×(g1/g2){πe2|12|2/(3ε0c2)},すなわち,

21={g12ω03|12|2|/(3πε02c3)}.(2.56)

 

これからA係数の値は水素原子の場合には容易に

計算できます。

状態1を1s,状態2を2p状態として1と2の間

の遷移を考えます。1s状態と遷移速度が等しい3つ

の2p状態があり,それらを合成したB12係数は(2.55)

で与えられた,B12=πe2{12|2/(3ε0c2)の3倍の値

を有し,その場合のD12は1s状態と2p状態のどれか

1つの間の行列要素を意味します。

1=1,g2=3とし,前々記事で求めたボーア半径

の値:a0=4πε0c2/(me2)~ 5×10-11m(2.16)

や,Ω=215/2eE00/(35c)(2.27)の表式,そして,

ω0=(3/4)ω(2.28),hcω=me4/(32π2ε02c2)

(2.29).および,Ω­=eE012/hc(2.23)を用いて,

(2.56)の3倍のA21=e2ω03|12|2/(3πε0c3)

を計算します。|12|2=3|X12|2ですから,まず,

12を計算します。

定義によって,X12=∫ψ1()xψ2()d3

です。ただし,r|r|とおけばxrcosθです。

 

量子力学の初等的教科書によれば,

水素原子の1s(n=1,l=0)の状態の波動関数は

ψ1()=π-1/20-3/2exp(-r/a0)です。

また,2p(n=2,l=1)の状態でm=0の状態の

波動関数は,ψ2()=(2a0)-3/2(2-r/a0)

exp{-r/(2a0)}{3/(8π)}1/2cosθ です。

それ故,X12=π-1/20-3/2{3/(8π)}1/2(2a0)-3/2

×(2π)∫-11d(cosθ)cos2θ

×∫0[r3(2-r/a0)exp{-3r/(2a0)}dr

=(2-3/2/31/2)a0-3

×∫0[r3(2-r/a0)exp{-3r/(2a0)}dr

と書けます。

ここで,u=3r/(2a0)⇔r=(2a0/3)uと,

動径部分の積分変数をrからuに置換すると,

0[r3(2-r/a0)exp{-3r/(2a0)}dr

=(25/34)a040[(u3-u4/3)exp(-u)du

=(25/34)a04{Γ(4)-Γ(5)/3}=-(29/34)a04

です。

故に,X12=-(2-3/2/31/2)a0-3×(29/34)a04

=-(215/2/39/2)a0を得ます。そこで,|X12|2

=21502/39です。

したがって,|12|2=3|X12|2より.

21=e2ω03|12|2/(3πε0c3)

=e2ω03|X12|2/(πε0c3)}

=e2ω0321502/(39πε0c3)

となりますが.この右辺に,

ω0=(3/4)me4/(32π2ε02c3)

=3me4/(27π2ε02c3),および,

0=4πε0c2/(me2)を代入します。

ω03=33312/(221π6ε06c9),および,

02=24π2ε02c4/(m24) なので,

21=e2ω0321502/(39πε0c3)

=me10/(2236π5ε05c63)を得ます。

最後に,具体的な現在の観測値:

m~ 3.1×10-31kg,e~ 1.6×10-19C,

ε0~ 8.85×10-12F/m,c~ 3×108m/s.

c ~ 1.254×10-34Js,π=3.1415..

を代入して長い計算をすると,A21の分子

=me10~3.4×1021910kgであり,分母

=2236π5ε05c63~ 5.07×10-2285-263

ですから,結局,A21~ 6.7×108-1.(2.57)

を得ました。(※ 参考の教科書の(2.57)と

僅かに違うので,計算違いがあるかも

知れません。しかし,オーダー的には両者は

一致しました。)

 

※(注8-2):単位のチェックをします。

SI単位系での静電気力のCoulombの法則:

F=(4πε0)-12/r2から,誘電率の単位は,

0]=[e2/r2]/[F]を満たすはずです。

つまり,F/m=C2-2-1ですから,

F=C2-1-1です。ただし,誘電率の単位:

F/mのFはファラッド(Farad)です。また,

Nは力の単位:Newtonで,N=kgms-2でも

あります。

21の表式の分子の単位は,[me10]=C10kg

でしたが,分母の単位は,[2236π5ε05c63]

=F5―263=(C2-1-1)5-2(Nm)63

=C10-1Ns3=C10-1(kgms-2)s3

=C10 kgsです。

したがって,[A21]=[me10/2236π5ε05c63]

=s-1を得ました。(注8-2終わり※)

さて,前に,「光の量子論3」では,Aの逆数:I,

つまり,A=1/I(1.78)で与えられるIは,対象と

する遷移の「蛍光寿命」,または「放射寿命」として

知られています。 と書きました。

そこで,(2.57)のA21~ 6.7×108-1から,水素原子の

2p状態の放射寿命は,およそ,1.5×10-9sであることが

わかります。

このA21~ 6.7×108-1で示される自然放出の速さ

と比較して,これと同じ遷移の誘導放出の速さは,W(ω)

~ 108(W/m2)の強度と,dω~ 2π×1010-1程度の幅

を持ったビームの場合:B21W(ω)dω~3×107-1(2.59)

くらいで,自然放出の速さの100分の1以下です。

 

  • 2.5 Diracのデルタ関数

アインシュタインの係数を計算する上述の方法は広い

使い道があるので.この結果を他の問題にも適用しやすい

形に直しておきます。

まず,Diracのデルタ関数:δを次式で定義します。

すなわち,δ(ω0-ω)

=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}

(2.59)です。

前記事では,積分因子:IntをInt

=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω[sin2{(ω-ω0)t/2}/{(ω-ω0)2]

(2.46)と定義し,これについて,Δω>>1なら,ω1=ω-ω0

として.Int~∫dω1[sin21t/2)/ω12]=πt/2.(2.48)

となることを,記述しました。

 それ故,∫δ(ω0-ω)dω=1.(2.60)です。

デルタ関数δ(ω0-ω)は,ω=ω0では無限大であり,

ω≠ω0では至るところゼロです。

したがって,もっと一般的に.ω1<ω0<ω2の場合

は,∫ω1ω2δ(ω0-ω)dω=1,その他の場合(ω0<ω1

またはω0>ω2)には.∫ω1ω2δ(ω0-ω)dω=0.(2.61)

と書けます。

そして(2.59)のデルタ関数δの定義:δ(ω0-ω)

=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}

を利用すると,δ-関数の性質を証明することができます。

まず,ω=ω0を特異点としないωの任意関数をf(ω)

として,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω

=(2/π)limt→∞ω1ω2dωf(ω)sin2{(ω0-ω)t/2}

/{(ω0-ω)2t}(2.62)を考えます。

(※左辺の積分が,右辺の積分の極限値によって定義

される,と解釈します。)

右辺の積分変数をx=(ω-ω0)tに置換すると

ω1<ω0<ω2の場合は,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω0)dω

=(2/π)limt→∞(ω1-ω0)t(ω2-ω0)tf(x/t+ω0)

|sin2(x/2)/x2}dx=(2/π)f(ω0)

-∞|sin2(x/2)/x2}dx=f(ω0)(2.63)であり,

その他の場合は,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω=0 

という妹性質が得られます。

※(注8.3):(2.63)を証明します。

ω=ω0を特異点としない関数fでは,たとえ

ω=ω0で連続な関数でなくても被積分関数因子と

しては,limt→∞f(x/t+ω0)=f(ω0)と挙動し,

ω1<ω0<ω2の場合は,limt→∞(ω1-ω0)t(ω2-ω0)t

=∫-∞です。そして,∫-∞|sin2(x/2)/x2}dx

=π/2なる公式を用いると,右辺=f(ω0)です。

 その他のω0の場合には,limt→∞(ω1-ω0)t(ω2-ω0)t

=∫ or ∫-∞-∞=0ですから,(2.63)とその後の

言明の成立は明らかです。(注8.3終わり※)

 

さて,δ(ω0-ω)

=(2/π)limt→∞sin2{(ω0-ω)t/2}/{(ω0-ω)2t}

(2.59)で与えた特殊な極限,以外にも,これと等価な

δ関数の別の表わし方が多々あります。

それがδ関数である,という基準は,

ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω=f(ω0)(ω1<ω0<ω2)

(2.63),および,∫ω1ω2f(ω)δ(ω0-ω)dω

(それ以外)を満たすことです。

※(注8.4):次の式がDiracのδ関数を表わすこと。

つまり,δ(ω0-ω)

={1/(2π)}limT1,T2→∞-T1T2exp{i(ω0-ω)t}dt

=limT1,T2→∞[exp{i(ω0-ω)T2}-exp{-i(ω0-ω)T1}

/|2πi(ω0-ω)].(2.64)であること,を証明します。

これの特別な場合:T=T1=T2である場合には,,

δ(ω0-ω)=limT→∞[sin{(ω0-ω)T}/{π(ω0-ω)}]

=(2/π)limT→∞[sin{(ω0-ω)T/2}/(ω0-ω)}](2.65)

です。

また,別の表式;δ(ω0-ω)

=(1/π)limε→0[ε/{(ω0-ω)2+ε2}](2.66)

をも証明します。

[証明]:まず,{1/(2π)}limT1,T2→∞ω1ω2dω

-T1T2exp{i(ω0-ω)t}dtを計算します。

与式=(1/π)[∫-∞dt[exp{i(ω0-ω2)t}/(-2it)

-∫-∞dtexp{i(ω0-ω1)t}/(-2it)]です。

ところが,数学公式:

a>0なら∫-∞{sin(ax)/x}dx=πより,

-∞[{exp(iax)-exp(-iax)}/(2ix)]dx=π

です。そしてy=-xと置けば,

-∞{exp(iax)/x}dx=-∫-∞{exp(-iay)/(-y}dy

=-∫-∞{exp(-iay)/y}dy

故に,∫-∞exp(iax)/x)}dx

=-∫-∞{exp(-iax)/x}dxです。

それ故,a>0なら,

-∞[{exp(-iax)}/(-ix)]dx=πであり,

他方a<0なら,

-∞[{exp(-iax)}/(-ix)]dx=-πです。,

故に,ω1<ω0<ω2の場合,

-∞dtexp{i(ω0-ω1)t}/(-2it)]=π/2,。

-∞dtexp{i(ω0-ω2)t}/(-2it)]=-π/2,

したがって,(1/π)[∫-∞dt[exp{i(ω0-ω2)t}/(-2it)

-∫-∞dtexp{i(ω0-ω1)t}/(-2it)]=1を得ます。

一方,ω01,またはω0>ω2の場合は

-∞dtexp{i(ω0-ω1)t}/(-2it)]

=∫-∞dtexp{i(ω0-ω2)t}/(-2it)]となるため,

(1/π)[∫-∞dt[exp{i(ω0-ω2)t}/(-2it)

-∫-∞dtexp{i(ω0-ω1)t}/(-2it)]=0です。

以上から,δ(ω0-ω)

={1/(2π)}limT1,T2→∞-T1T2exp{i(ω0-ω)t}dt

が証明されました。

 

次に,(1/π)limε→0ω1ω22/{(ω0-ω)2+ε2}]dω

を計算します。

ε/(x2+ε2)={1/(2i)}{1/(x-iε)-1/(x+iε)}

と書けることを利用します。

複素z平面上での閉路:C1を(実軸)+(右回り下半円周)

にとれば.原点Oを通る虚数上の点z=-iεは,C1

囲まれた領域内の極であり,z=iεは極ではないので,

Cauchyの留数定理から.∫C1{1/(z-iε)}dz=0,

C1{1/(z+iε)}dz=-2πiです。

故に,∫C1[ε/(z2+ε2)]dz=πとなります。

他方,閉路:C2を(実軸)+(左回り上半円周)にとれば

z=iεの方がC2内の極ですから,

C2{1/(z-iε)}dz=2πi,∫C2{1/(z+iε)}dz=0

です。故に,やはり,∫C2[ε/(z2+ε2)]dz=πという

結果を得ます。

しかし,いずれの閉路でも,半円周の半径Rを∞の極限に

とると,ε→+0のとき,[ε/(z2+ε2)]dzは(1/R)の

オーダーで減衰するため,半円周上の積分の寄与はゼロです。

そこで,∫(実軸)dz[ε/(z2+ε2)]dz

=∫x1x2[ε/(x2+ε2)]dxは,実軸上の区間:[x1,x2]

が区間内に原点Oを含めばπに等しく,さもないとゼロです。

あるいは,関数論に頼らず,x=εtanθ,

dx=εsec2θdθと変数置換すれば,

x1x2[ε/(x2+ε2)]dx=∫θ1θ2dθ=θ2-θ1

=Tan-1(x2/ε)-Tan-1(x1/ε)を得ますから,x2>0 ,x1<0

の場合は,ε→+0の極限で右辺=π/2-(-π/2)=πであり,

1とx2が同符号の場合なら右辺=0 です。

以上から,(1/π)limε→0ω1ω22/{(ω0-ω)2+ε2}]dω

は.ω1<ω0<ω2なら1の等しく,さもないときはゼロです。

したがって,δ(ω0-ω)

=(1/π)limε→0[ε/{(ω0-ω)2+ε2}]が示されました。

(証明終わり)  (注8-4終わり※)

 

 途中ですが今回はここまでです。(つづく)

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

 

PS:最近は韓国のKPOPアイドルの方に魅かれます。

女子ゴルファーも美しいのは,私にはどちらかというと韓国人。

昔も女子フィギュアは,浅田真央の時代も非国民といわれながらも

キム:ヨナが好きで応援してた。好き嫌いは理屈じゃない。。

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2019年10月 4日 (金)

光の量子論7

※第2章 原子・放射相互作用の量子力学

の続きです。

余談抜きで本論に入ります。

  • 2.3 遷移速度

前の記事で,(2.13),(2.14)の方程式が,

2 exp(-iω0t)I12=i(dC1/dt),

1 exp(iω0t)I12=i(dC2/dt)

と簡単になる,と書きましたが,

これに,さらに,I12=Ωcos(ωt)を代入

すれば,それぞれの式から,

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt)(2.31),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)(2.32)

を得ます。

※(注7-1):|C1|2+|C2{2が時間的に一定不変であり,

(2.31),(2.32)が規格化条件と矛盾しない,ことを証明

します。

(証明):(d/dt){|C1|2+|C2{2}

=C1(dC1*/dt)+(dC1/dt)C1

+C2(dC2*/dt)+(dC2/dt)C2

です。

これに,上記の(2.31),(2.32)を代入すると,

(d/dt){|C1|2+|C2{2}

=iC1*cos(ωt)exp(iω0t)C2}

+(-i){Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2}C1

+iC2{Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C1}

+(-i){Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1}C2

=0 が得られました。(証明終わり)

(注7-1終わり※)

 

※(注7-2):原子に作用する電場が時間的に一定

である特別な場合,つまりω=0の場合,について

(2.31).(2.32)を解き,まず,解のC2が,

22/dt2-iω0(dC2/dt)+|Ω|22=0

(2.33)を満たすことを示します。

そして,これから,ω=0では,

|C2|2={4|Ω|2/(ω02+4|Ω|2)}

×sin2{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/2t}(2.34)

となることを証明します。

そして,|C1|2は,規格化条件|C1|2+|C2|2=1

から決まります。

(証明);ω=0では,(2.31),()2.32)の

Ωcosωtexp(-iω0t)C2=i(dC1/dt)と

Ωcosωtexp(iω0t)C1=i(dC2/dt)は,

dC1/dt=(-i)Ωexp(-iω0t)C2,および,

dC2/dt=(-i)Ωexp(iω0t)C1です。

2番目の式をtで微分すれば,

22/dt2=(-i)Ωexp(iω0t)(dC1/dt)

+ω0Ωexp(iω0t)C1となります。

右辺の(dC1/dt)に(-i)Ωexp(-iω0t)C2

を,Ωexp(iω0t)C1に{i(dC2/dt)}を代入

すると,d22/dt2=-ΩΩC2+iω0dC2/dt

となります。よって,

22/dt2-iω0dC2/dt+|Ω|22=0

が得られました。

これは定数係数の2階線形常微分方程式です。

特性方程式は,λ2-iω0λ+|Ω|2λ=0で

解として,λ={iω0±(-ω02-4|Ω|2)1/2}/2

=(i/2){ω0±(ω02+4|Ω|2)1/}を得ます。

λ±=(1/2){ω0±(ω02+4|Ω|2)1/}(複号同順)

と置けば,C2=Aexp(iλt)+Bexp(iλt)}

ですが,t=0でC2=0ですからB=-Aです。

故に,C2=2Aexp(iω0t/2)

×sin{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/2t},となります。

これを,dC2/dt=(-i)Ωexp(iω0t)C1

に代入します。

(-i)Ωexp(iω0t)C1=2Aexp(iω0t/2)

×[(iω0/2)sin{(ω02+4|Ω|2)1/t/2}

+(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/

2cos{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/2t}]より,

1=iA(Ω)-1exp(-iω0t/2)

×[iω0sin{(ω02+4|Ω|2)1/2t/2}

+(ω02+4|Ω|2)1/2cos{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/2t}]

ですが,t=0でC1=1なので,

iA(Ω)-102+4|Ω|2)1/2=1より.

Ω=iA(ω02+4|Ω|2)1/2 を得ます。

故に,A=(-i)Ω/(ω02+4|Ω|2)1/2

です。

結局,C2=(-i){2Ω/(ω02+4|Ω|2)1/2}

exp(iω0t/2)×sin{(ω02+4|Ω|2)1/t/2},

となります。

したがって,|C2|2=4|Ω|2/(ω02+4|Ω|2)

×sin2{(1/2)(ω02+4|Ω|2)1/t}が得られました。

(証明終わり)  (注7-2終わり※)

 

アインシュタインB係数の計算は,原理的に上

の(注)のω=0の例題に似ていますが,この場合は

ω0に近いωに対する(2.31),(2.32)の解を求める

必要があります。

解の満たすべき初期条件は,やはりC1(0)=1,

2(0)=0.(2.35)です。

この場合も,|C2(t)|2が,時刻tにψ2に原子

を見出す確率であり,|C2(t)|2/tが量子力学的

遷移速度と定義されるものを与えます。

これをアインシュタイン理論のB12の定義と比較

すると,B12W(ω)={C2(t){2/t(2.36)が成立

すべきである,ことがわかります。

しかし,(2.31),(2.32)の方程式:

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)

は,形は簡単ですが,これを一般のωに対して解く

のは,かなり困難なので.とりあえず,近似解を探す

必要があります。

ところで,前記事の最後では,「大抵の光ビーム

では,Ω<<<ω0.(2.30)が成立しています。」

と書きました。そこで,Ω<<<ω0を想定すると,

これはC1,C2をΩのベキ級数として求めるのが

有効ではないか?ということを示唆しています。

そこで,このベキ展開を次のように,逐次近似の

反復法で試行してみます。すまわち,まず,

初期値:C1=1,C2=0を,(2.31),(2.32)の.

Ωcos(ωt)exp(-iω0t)C2=i(dC1/dt),

Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1=i(dC2/dt)

の左辺に代入すると,dC1/dt=0.,および,

dC2/dt=(-i)Ωcos(ωt)exp(iω0t)

=(-i/2)Ω

×[exp{i(ω+ω0)t}+exp{i(ω-ω0)t}]

を得ます。そこで第1近似値として.

1(t)=1,および,C2(t)

=(-Ω/2)[1-exp{i(ω+ω0)t}]/(ω+ω0)

+(-Ω/2)[1-exp{i(ω-ω0)t}/(ω-ω0)

(2.37)が得られました。

次に.これを,さらに,(2.31)の左辺に代入します。

すると,dC1/dt

=(i|Ω|2/2)cos(ωt)exp(-iω0t)

×[1-exp{i(ω+ω0)t}]/(ω+ω0)

+(i|Ω|2/2)cos(ωt)exp(-iω0t)

×[1-exp{i(ω-ω0)t}/(ω-ω0) です。

ここで,cos(ωt)exp(-iω0t)

=(1/2)[exp{i(ω-ω0)t}+exp{-i(ω+ω0)t}]

を代入すれば,

右辺=(i|Ω|2/4)[exp{i(ω-ω0)t}-exp(2iωt)

+exp{-i(ω+ω0)t}+1]/(ω+ω0)

+(i|Ω|2/4)[exp{i(ω-ω0)t}+exp{-2i(ω-ω0)t}]

+exp{-i(ω+ω0)t}-exp(-2iω0t}]/(ω-ω0)

となります。

したがって,長い式ですが,C1の第2近似値

として,C1(t)=∫01(dC1/dt)+C1(0)

=1+(|Ω|2/4)

×[-exp{i(ω-ω0)t}/(ω2-ω02)

+exp(2iωt)/{2ω(ω+ω0)}

+exp{-i(ω+ω0)t}/(ω+ω0)2+1/(ω+ω0)

-exp{i(ω-ω0)t}/(ω-ω0)2

+exp{-2i(ω-ω0)t}/{2(ω-ω0)2}

+exp{-i(ω+ω0)t}/(ω2-ω02)

-exp(-2iω0t}{2ω0(ω-ω0)}が得られます。

つまり,C1(t)=+(|Ω|2/4)×(tの関数)

(2.38)の形の第2近似値を得ます。

第3近似値も同様に求めることができて,

以下,同様に反復するわけです。

そして,

dC2/dt=(―i)Ωcos(ωt)exp(iω0t)C1

であり,C2(t)=∫01(dC2/dt)ですから,C1

|Ω|の偶数ベキ,C2はΩ,またはΩの奇数ベキに

展開されることはわかります。

Ωは,Ω=eE012/hc.(2.23)と定義されていた

ことを思い出すと,これら2つの級数は電場の強さ:

0のベキに展開したものと見なすこともできます。

 

 さて,前章で既に論じたことですが,電磁波の電場

が.E(,t)0cos(kr-ωt),磁場がB(,t)

0cos(kr-ωt)と表わされる場合,1サイクル

の周期はT=2π/ωですから,cos2(kr-ωt)の

サイクル平均は,<cos2(kr-ωt)>

=(1/T)∫0cos2(kr-ωt)=1/2です。

それ故,電磁場のエネルギー:

(1/2)∫(ε02+μ0-12)dVのサイクル平均が,

<(1/2)∫(ε02+μ0-12)dV>

=(1/4)∫(ε002+μ0-102)dVで与えられます。

 

ところが,Maxwellの方程式:∇×E=-∂B/∂t

より,k×E0=ωB0であり,kの向きをz軸正の向き

に取り,E0がxの正の向き,B0がyの正の向きに偏光

しているとして,kE0=ωB0を得ます。

そして,真空(自由空間)中では(k/ω)=c-1

=(ε0μ0)1/2ですから,結局,μ0-102=ε002が成立

します。したがって,この電磁波の総エネルギーの

サイクル平均は,(1/2)∫(ε02+μ0-12)dV>

=(1/2)∫ε002dVとなり,サイクル平均のエネルギー

密度は,(1/2)ε002で与えられることがわかります。

すなわち.周波数ωの光のサイクル平均の

エネルギー密度がW(ω)の定義ですから,

結局,W(ω)=(1/2)ε002です。

これは,第1章の(1.34)で与えた∫0W(ω)dω

={1/(2V)}∫ε0|(,t)|2dVに似ていますが.

今のW(ω)=(1/2)ε002の式では,既に,体積積分

が実行済みです。

Ωが小さいのでC2(t)の表式を,E0,または,Ω

or Ωの1次までのオーダーまで取り,(2.36)の等式

12W(ω)={C2(t){2/tの両辺のE0のベキを比較

すればBが求められるはずです。

アインシュタインB係数を計算すべき周波数

ω~ω0においては,(2.37)の第1近似解:C2(t)

=(-Ω/2)[1-exp{i(ω+ω0)t}]/(ω+ω0)

+(-Ω/2)[1-exp{i(ω-ω0)t}/(ω-ω0)は,

既に,この比較の目的にかなっています。

元々,アインシュタイン理論では,E0の高次

の項が重要という状況には対応していません。

ω~ω0の光を考えると,Ω<<<ω0より,

ω>>Ωであり,Ωの1次までとるのが良い近似です。

そして,(2.37)のC2(t)の第2項は第1項より

はるかに大きいことがわかります。

ω → ω0の極限では,C2(t)の第1項は,

(-Ω/2)[1-exp{i(ω+ω0)t}]/(ω+ω0)

→ {-Ω/(4ω0)}{1-exp(2iω0t)}

={iΩ/(2ω0)}exp{(iω0t)sin(ω0t)

となり,他方,第2項は,

(-Ω/2)[1-exp{i(ω-ω0)t}/(ω-ω0)

→ (iΩ/2)(ω-ω0)t/(ω-ω0)

=(iΩ/2)t となります。

したがって,ω~ω0では,C2(t)

~ (iΩ/2ω0)[exp{(iω0t)sin(ω0t)+ω0t}

を得ます。

後述するように,原子遷移が起こる特有の時間

間隔tは10-7sec程度か,それよりやや長いくらい

ですが,(2.65)より.ω0は1015Hz程度なので,

こうした対象では,ω0t>>1.(2.41)が極めて良く

成立しています。

それ故,(2.37)の第1項を無視するのが良い近似

になると考えられます。

そこで,ω→ω0とする前の元の式で第1項を無視

すれば,C2(t)~(-Ω/2)[1-exp{i(ω-ω0)t}

/(ω-ω0)=(iΩ)exp{i(ω-ω0)t/2}

×sin{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0) であり,

|C2(t)|2~|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2

(2.42)なる近似を得ます。

そこで,ω~ω0のときは,

|C2(t)|2~(1/4)|Ω|22(2.43)が得られます。

これは,時間tの2乗に比例して増加しますが,(2.42)

からわかるようにωがω0と少しでも異なるなら時間的

に振動します。

このように,(2.37)の第1項を無視する近似は,

回転波近似と呼ばれています。

 

さて,これまでは遷移周波数ω0を厳密な数値を持った

確定値と見なしてきました。これは,ω0の数値には常に

若干の不安定さが伴なう,という実際の実験の際の事情

には合致しません。

如何なる分光器でも測定スペクトル線が,あるΔωと

いう量だけ,ぼやけているような有限の分解能を持ちます。

もしも,完全な周波数分解能を備えた理想的な実験装置

を目論んだとしても,スペクトル線の本来の幅には,より

根本的な限界が存在します。(※ ちまり,量子力学の基礎

を成す,Heisenbergの不確定性原理に根ざす限界です。)

ω0の不確定さを考慮に入れるには,|C2(t)|2の表式

をωのある範囲にわたって積分すればいいだけです。

そこで,ω0を遷移周波数の中心とすると,

|C2(t)|2=|Ω|2sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2は.

Ω­=eE012/hcと,(1/2)ε002=∫W(ω)dωを

利用して,|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}

ω0-Δω/2ω0+Δω/2[W(ω)sin2{(ω-ω0)t/2}

/(ω-ω0)2]dω.(2.44)とすれば得られます。

ここで,原子は広帯域の照射を受けているという

アインシュタイ理論の基礎となる仮定を採用し,Δω

の範囲にわたって放射エネルギー密度が一定値:W(ω0)

であるとします。

このとき,(2.44)は,|C2(t)|2

={2e2|X12|2/(ε0c2)} W(ω)(Int)(2.45)

と書けます。

ただし,Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω

[sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2].(2.46)です。

 

この積分:Intは2つの極限で解析的に表わすこと

ができます。まず,tΔω<<1のときは,

Int=∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω

[sin2{(ω-ω0)t/2}/(ω-ω0)2].

~[sin2{(Δωt/4}/(Δω/2)2]Δω,

つまり,Int~(1/4)t2Δω.(2.47)となります。

一方,tΔω>>」1なら,∫ω0-Δω/2ω0+Δω/2dω

~∫-∞dω11=ω-ω0) ですから,

公式:∫0[sin2(ax)/x2dx=πa/2より,

-∞[sin2(ax)/x2dx=πa なので,

Int~∫-∞dω1[sin21t/2)/ω12]=πt/2

(2.48)を得ます。

アインシュタインB係数は(2.36)のB12W(ω)

=|C2(t)|2/tにより,原子遷移確率が経過時間t

に比例する理論と結びついています。

そこで,|C2(t)|2={2e2|X12|2/(ε0c2)}

×W(ω)(Int)(2.45)なる式にtΔω>>1のとき

の近似値Int=πt/2(2.48)を代入した式:

|C2(t)|2=πe2|X12|2W(ω)t/(ε0c2)(2.49)

から,B12=|C2(t)|2/{W(ω)t}(2.36)によって,

12=πe2|X12|2/(ε0c2)が得られます。

 

(2.49)の近似は規格化条件:|C1|2+|C2|2=1に

反するような|C2(t)|2が1を超える大きいtに

対しては破綻します。しかし,一旦,Bの大きさが計算

されると,原子の励起度の長時間挙動は,先の記事:

「光の量子論3」の第1章(§1.9原子励起)の

項で与えた,(1.70)のN2の評価式:

2={NBW/(A+2BW)}

×[1-exp{-(A+2BW)t}]において,

(A+2BW)t>>1.(1.73)

の長時間が過ぎると,定常状態の値:

2=NBW/(A+2BW)(1.74)に近づく,

と述べた方法で,決定することはできます。

今回はここまでにします。(つづく)

(参考文献):Rodney Loudon 著

(小島忠宣・小島和子 共訳)

「光の量子論第2版」(内田老鶴舗)

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