107. 重力・宇宙・一般相対性

2007年4月29日 (日)

惑星の近日点の移動

 記事「シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)」を書いた際,機会があればと約束していた「惑星の近日点の移動」について,さっそく書いてみようと思います。

 30年以上も前の学生時代,ゲージ場で有名なヤン-ミルスのうちのヤン(Yang)が書いた重力場についての論文の輪講をすることになり,私がそのレヴューを発表する担当役になったことがありました。

 そこで,実はそれまでは全く知らなかった「一般相対性理論」を至急勉強する必要に迫られました。

 先輩から,付け焼刃的にそれを習得するには,当時,出版されて間もなかった「アインシュタイン選集(日本語版)」を読むのが最適との指摘を受けたので,研究室の図書室から借りて,選集を読みました。

  

その際に,太陽重力による光の曲がりや,水星の近日点の移動についても読んだ,という淡い記憶があるだけで,まあ,真面目に考えるのはこれが初めてですから,初めて計算するのとあまり変わりはありません。

  

近日点とは,先に述べたNewton力学での惑星の軌道:

=ℓ/[1+ecos(φ+α)]で離心率eがゼロではなく,

0<e<1の場合の楕円軌道において,

 

θ=(一定)の軌道面内の公転軌道上で

焦点の1つである太陽に距離的に最も近くなる

点のことです

 

太陽との最短距離は,cos(φ+α)=1となるφをφ≡φ-とすれば,

r=r-≡ℓ/(1+e)で与えられますから,これらの記号を用いると,

近日点の平面極座標は(r--)です。

 

惑星が,公転軌道に沿ってある(r,φ)=(r--)からn回転して,

φ=φ-+2nπとなったときにも,cos(φ+α)=1という性質は不変

です。

 

そこで,公転軌道がr=/[1+ecos(φ+α)]を正確に満足している

なら,いくら惑星が回転しようともr-は全く動かないはずです。

 

つまり,正確に楕円軌道であれば,近日点の移動などというものは全く

存在しないのですが,現実には1年ならわずかなものですが近日点の

移動が観測されています。

 

実際,対象となる惑星の運動は太陽とそれの2つだけがあるという厳密な

体問題に従うものではなく,他に惑星や小惑星,彗星などがあって太陽

とは比べものになりませんが,それらの影響を受けるわけですから,

一般には周りの天体をも含めた3体以上の問題になります。

 

そしてまた,太陽と惑星だけという2体問題としても,相対論的効果を無視できません。

 

それらによる摂動によって正確な楕円軌道からずれるのが,現実に観測されるの惑星の近日点移動の原因であろうと思われます。

 

ちなみに,遠日点の方はr+=ℓ/(1-e),cos(φ++α)=-1,による

(r,φ)=(r++)で与えられます。

 

そして,同じ回転の1周回においては厳密な楕円軌道なら,

+-φ- )=πで一般に1周回あたりの回転角は 2πですが,

これは,一般にr-からrを経由する周回軌道では,1周回の回転角

が 2(φ+-φ-)であることを示すものである,と考えられます。

 

そして,近日点の移動というからには,それはn回転してφ=φ-+2nπ

になったときに,回転前の近日点の位置(r--)からずれた近日点

の動径r=r-の変動のことだろう,と勝手に思っていました。

 

しかし,どうも相対論の教科書によれば,観測による水星の近日点の移動

は100年間に43"である。というような角度表現になっていて私の解釈と

は異なるようです。

 

これはどういう意味なのだろうか?と一瞬思いましたが,

結局,観測の最初の近日点の位置を(r--)とし,それからn回転後

の近日点の位置を(rn-n-)とすると,

 

軌道平面内での偏角φの(mod 2π)からの変動分,つまり

n--φ-)の 2nπからのずれ:Δφn≡|(φn--φ-)-2nπ|

のことを指しているらしい,ということがわかりました。

 

 したがって,先の遠日点を含めた考察を考慮すると,

Δφn=|2(φn+-φn-)-2nπ|,あるいは

Δφn=nΔφ=2n|(φ+-φ-)-π|であると考えてよい

と思います。

 

 ところで,前の4/27の記事「シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)」によると,

 

 Schwarzschild時空での2体問題で惑星軌道を与える方程式は,

 dr/dφ=[(22)r4/h22GM3/2-r22GMr/c2]1/2

です。

 

 これを解くと,∫dr/[(22)/h2)4(2GM/2)r3-r2

(2GM/c2)r]1/2=φ+α となります。

 

 そこで,φ+-φ-=∫r-r+dr/[(22)/h2)4(2GM/2)r3

-r2(2GM/c2)]1/2と書くことができますから,r=r±となるのは,

明らかにdr/dφ=[(22)r4/h22GM3/2-r22GMr/c2]1/2=0 が成立するときです。

 

 そして,2GMr/c2=0 というNewton力学近似では,e<1 の楕円軌道の

場合:e≡{(22)h2+G22}1/2/(GM)より2<c2の場合は,

 

 このr±はrの2次方程式:

[-(22)/h2]r2(2GM/2)r-10

の2根です。

 

 したがって,2GMr/c2=0 なら確かに,

 

 r-=[(GM)/h2{22(22)h2}1/2/h2]/[(22)/h2]

 =ℓ/(1+e),

 

+=[(GM)/h2{22(22)h2}1/2/h2]/[(22)/h2]

 =ℓ/(1-e)

 

となることが再確認できます。

 

 また,ちょっと積分に技巧が必要ですが,これも先に軌道を表わす式から

求めた値により,

 

φ+-φ-=∫-+dr{(r+-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2

 =--+ds/{-(s+-s)(s--s)}1/2

 =∫0πdu=π が成立することも再確認されます。

 

 ここで,積分を実行するためにr=1/s,s-(s++s-)/2

={(s+-s-)/2}cosuなる変数の置換を行ないました。

 

 しかし,2GMr/c2=0 という近似をしないなら,

 φ+-φ-=∫r-r+dr/[{(22)/h2}4(2GM/2)r3

 -r2(2GM/c2)]1/2  です。

 

 r±はdr/dφ=0 によるrの3次方程式:

 [(22)/h2]r3(2GM/2)r2-r+(2GM/c2)0 の3根

 のうちで正の実数値を取るもののうちの最大値と最小値であると

 考えられます。

 

φ+-φ-=∫-+dr/[{(22)/h2}4(2GM/2)r3

-r2(2GM/c2)]1/2 ~∫r-r+(dr/r)/[{(22)/h2)2

(2GM/2)r-1]1/2-∫r-r+dr(GM/c2)/[{(22)/h2)2

(2GM/2)r-1]1/2

 

です。

 

±をr+/(1+e),r-=ℓ/(1+e)で近似すれば,

φ+-φ-=∫-+dr[{(r+-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2

(GM/c2)(r+-)1/2]

-+dr{(r+-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2{(r-r+)(r-r-)}-1/2

=π-(GM/c2)-+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2   

 

となります。

 

したがって,Δφ/2=(GM/c2)-+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2

(GM/c2)-+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2

GM/{c2(r+-r-)}0πdu/sin2

となります。

 

この右辺の積分は無限大になるので,ここで計算作業は一旦挫折してし

まいました。恐らく考慮した近似に無理があるか,どこかで計算間違い

をしたのでしょう。

 

しかし,ここで休んだ後に,ちょっと方針を変えて再度,計算にトライして

みました。

 

{(22)/h2}3(2GM/2)r2-r(2GM/c2)=0 の3つの

根を+,r-,r3とおいて,

 

これを,{(2-B2)/h2}[-32GM2/(2-B2)+h2/(2-B2)

2GM2/{c2(2-B2)}]

=[(1-e2)/ℓ2][-(r-+)(r--)(r-3)]

と書くことにします。

 

このとき,この3次方程式の根と係数の関係のうちで,特に微小摂動項の

効果が顕著に現われると思われる3根の積に対する

+-3=-2GM2/{c2(2-B2)}

なる関係式に着目します。

 

一方,

 

φ+-φ-[ℓ/(1-e2)1/2]-+dr/ [-r(r-+)(r--)

(r-3)]1/2

[ℓ/(1-e2)1/2]-+(dr/r)/[-(r-+)(r--)]1/2

[1+(1/2)r3/r]=π+

[(3/2)/(1-e2)1/2]-+(dr/r2)/[-(r-+)(r--)]1/2

=π+[2r3(r+-)1/2/(r+-)2]0πdu/(1+ecosu)2

 

となります。

 

これから,理論に基づいた近似計算値として,

Δφ/2=[2r3(r+-)1/2/(r+-)2][π/(1-e2)3/2]

を得ます。

 

最後の定積分については数学公式集を見て,その三角関数を含む定積分に

関する部分から見つけた公式:

0πdx/(a+bcosx)2=πa/(a2-b2)3/2に頼りました。 

 

そして,先に着目した関係式r+-3=-2GM2/{c2(2-B2)}より

3=-2GM2/{r+-2(2-B2)}を代入すると,

Δφ=2πGM(1-e2)/(ℓ2)が得られます。

 

「理科年表」etc.によると惑星が水星の場合には,e=0.2056,

a=5.79×1010mですが,ℓ=a(1-e2)と表わされますから上の式は

Δφ=2πGM/(a2)です。

 

そして,万有引力定数はG=6.672×10-113/(kg・s2),太陽の質量は

M=1.9891×1030 kg,ということです。

 

これらの値と,πラジアン(rad)=180度を秒(≡(1/3600)度)という単位で

表現したものπ=180×3600秒を代入し,水星の平均周期が0.2409年とい

ことから,これが100年間に太陽の周りをn=415.1周回することを考慮

すると,

 

100年間(n=100)での水星の近日点の移動の計算値として, 

Δφ=43.1秒という理論値が得られました。

 

このことから,他の惑星の効果を無視して相対論的効果のみを考慮した

だけで,観測値とのとても良い一致が得られたことになります。

 

ということは,他の天体の影響は,相対論的効果と比較して,とても小さいのだろう,などと考えていました。

  

PS:(2007年12月18日追記) しかし水星の近日点の移動に関する最後の部分の見解については,最近読んだ雑誌記事によって,私自身が大きな誤解をしていたことに気付いたので,ここでお詫びして訂正します。

 

すなわち,19世紀に海王星の発見に貢献したルヴェリエ(Urbain Leverrier)は,他の惑星に比べて格段に大きい水星の近日点の移動に注目して,その問題を解決すべく仮説を立て,それは他の惑星の影響であろう,と考えました。

 

そこで,現在はNewtonの万有引力の法則に基づいて解析的に解くことは不可能であることがわかっている中心力の3体以上の多体問題ですが,当時も彼は近似計算を行いました。

 

しかし,既存の惑星の影響だけからは,どうしても観測値とのくい違いを説明できないので,彼は未発見の新たな惑星の存在を予測しましたが,結局,そうした惑星は発見できなかった,ということです。

 

観測によると,水星の近日点の移動は100年間に,574秒らしいです。

 

Leverrierの計算では,このうち38.3秒だけが説明できない,というものでしたが,近代の精密な計算によると,38.3秒ではなく,約43秒が既存の他の惑星からNewton力学によっては説明できない値として残されていた,

 

というのが真相でした。

 

この計算値とのくい違いを解決した,と見られるのが上述の一般相対性理論に基づく計算値です。

 

このことから,他の惑星の効果を無視して相対論的効果のみを考慮しただけで観測値とのとても良い一致が得られたことになります。

 

ということは,「他の天体の影響は,相対論的効果と比較してとても小さいのだろうなどと考えました。」と述べたのは,

 

こうした過去の歴史に無知な私の全くの見当違いの発言であるということがわかりましたので,ここで撤回したいと思います。

  

公の知見を述べることを目指している私のブログで,誤った情報を流して申し訳ありませんでした。

 

参考文献:大槻義彦,室谷義昭 監修「新数学公式集I(初等関数)」(丸善),理科年表(1997年版) (丸善)

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2007年4月27日 (金)

シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)

 Newton力学では,太陽と1つの惑星だけの2体問題を想定して惑星の近似的な公転軌道を求めるという昔から有名な問題があります。

 

 すなわち,

 

 "太陽は1点に固定されて対象とする惑星よりもはるかに大きい質量を持つ不動点であり,一方惑星は質点であるという近似の下で,太陽と惑星の間には万有引力と呼ばれる重力のみが働く"

 

 という想定でNewtonの運動方程式の解としての公転軌道を求める問題

 ですね。

 

 この解は,太陽に近いという通常の初期条件の下では,鶴わゆるKepler(ケプラー)の法則に従う楕円軌道になりますが,こうした計算問題は,通常は大学初年級での力学の演習で学ぶと思われます。

 

 しかし,最近ニフティ(@nifty)から移動して新装開店したfolomy「物理フォーラム」の「相対論の部屋」で次のような質問を受けました。

 

 "ケプラー運動を一般相対論で計算したいのですが,どうすればいいの

でしょうか?"という内容の質問でした。

 

 私は「これは大げさだな。」とは思いましたが,

 

"取り合えず,太陽中心を中心と考えて,球対称で静的な解であるSchwarzlzschild解(シュヴァルツシルト解.またはシュワルツシルト解)

を採用して,その計量で,

   

 対象がSchwarzschild半径より外側の点である,という初期条件の下で,

質点の測地線を計算することによって軌道を求めたらどうか?"

  

 と答えたのですが,その後,まったく音信不通でした。

 

 そこで,Christoffelの記号の計算など,かなり面倒だとは思いましたが,

それは普通,重力場のSchwarzschild解を求める際,得られるものなので,

 

 こうしたChristoffelの記号などについては,相対論の参考書をフルに参照しながら,微分方程式を導き,これを自分で解いてみよう,と思います。

 

 そもそも重力が弱いとき,Newtonの万有引力の法則に近似的に一致するSchwarzschild時空の計量(metric)を実際に書き下すと,

 

 ds2=gμνdxμdxν

 (1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)-r2(dθ2sin2θdφ2)

  

 となります。

 

 ここで,μ=(x0,x1,x2,x3)≡(ct,r,θ,φ)ですが,これは極座標で表わした時空の座標です。

 

 また,2m=2GM/c2はSchwarzschild半径を示しています。

 

 Gは万有引力定数でcは光速,Mは今の場合は太陽の質量です。

 

 そして,重力場の中での自由粒子の運動を表わす測地線の方程式は,λを任意パラメータとして,

  

 d2μ/dλ2+Γρνμ(dxρ/dλ)(dxν/dλ)=0

 

で与えられます。

 

 ただし,ΓρνμはChristoffelの記号です。

  

 これは,Γρνμ(1/2)gμσ(gσρ,ν+gσν,ρ-gρν,σ) です。

 ここで,ρν≡∂gρν/∂xσ etc.です。

 

 光の運動が対象の場合はds20 ですが,質量を持つ質点の運動の場合

τを固有時としてds2=c2dτ2と書けます。

 

 そこで,今の惑星を質点近似する場合なら,λ≡τと置いて測地線の方程式をd2μ/dτ2+Γρνμ(dxρ/dτ)(dxν/dτ)=0 と書いてよいことになります。

 

 そして,計量によりc2=gμν(dxμ/dτ)(dxν/dτ)という拘束があります。

 

 Schwarzschild時空ではゼロでない計量成分は対角成分だけであり,

それはg00(1-2m/r),g11=-1/(1-2m/r),g22=-r2,

33=-r2sin2θです。

 

 また,ゼロでないChristoffelの記号は,

 

 Γ010Γ100(m/r2)/(1-2m/r)=m/[r(r-2m)],

 Γ001={m/r2)(1-2m/r)=m(r-2m)/r3,

 Γ111=(-m/r2)/(1-2m/r)=-m/[r(r-2m)],

 

  Γ221=-r(1-2m/r)=-(r-2m),Γ331=-rsin2θ(1-2m/r)

 =-(r-2m)sin2θ,Γ122=Γ2121/r,Γ332=-sinθcosθ,

 Γ133=Γ3131/r,Γ233=Γ323=cosθ/sinθ

 

 だけになります。

 

 故に,測地線の方程式は,

 

(1)d2/dτ2[2/{r(r-2m)}](dt/dτ)(dr/dτ)=0

 

(2)d2/dτ2[c2(r-2m)/r3](dt/dτ)2

  [m/{r(r-2m)}](dr/dτ)2(r-2m)(dθ/dτ)2

  (r-2m)sin2θ(dφ/dτ)20

 

(3)d2θ/dτ2(2/r)(dr/dτ)(dθ/dτ)

  sinθcosθ(dr/dτ)(dφ/dτ)=0

 

(4)d2φ/dτ2(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)

 +(2cosθ/sinθ)(dθ/dτ)(dφ/dτ)=0

 

となります。

 

 また,拘束条件は, 

 c2[c2(r-2m)/r](dt/dτ)2[r/(r-2m)](dr/dτ)2

   -r2(dθ/dτ)2sin2θ(dφ/dτ)2 です。

 

 これは単に計量の式:

 

 ds2=c2dτ2(1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)

   -r2(dθ2sin2θdφ2)

 

 を書き直しただけなので,方程式を解く際には積分定数

 を決めるのに役立つだけです。

 

 まず,(3)のd2θ/dτ2(2/r)(dr/dτ)(dθ/dτ)

 -sinθcosθ(dr/dτ)(dφ/dτ)=0 は,あるτにおいて,

 θ=π/2,dθ/dτ=0 という初期条件で解くと,d2θ/dτ20

 となります。

  

 結局,解は常にdθ/dτ=0 (一定)であり,この座標系選択では

 θ=π/2(一定)となります。

 

 すなわち,このような初期条件では"質点=惑星"の運動は常に,

 赤道面;θ=π/2という特別な平面内に束縛された運動になります。

 

そして,θ=π/2 (一定)を,

(4)d2φ/dτ2(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)

+(2cosθ/sinθ)(dθ/dτ)(dφ/dτ)=0

に代入すると,

 

2φ/dτ2(2/r)(dr/dτ)(dφ/dτ)=0 ,

 

つまり[d(r2dφ/dτ)/dτ]/r20

が得られます。

 

すなわち,d(r2dφ/dτ)/dτ=0 なので,r2dφ/dτ=h(一定)

となります。

 

これは「角運動量の保存則」,または「面積速度一定の法則」

を示しています。後者は,Keplerの法則の1つです。

 

一方,(1)d2/dτ2[2/{r(r-2m)}](dt/dτ)(dr/dτ)=0 に(dt/dτ)を掛けると,

 

(1/2)d(dt/dτ)2/dτ+[2/{r(r-2m)}](dt/dτ)2

(dr/dτ)=0

 

となります。

 

そこで,A≡(dt/dτ)2とおけば,

dA/dτ=-[4mA/{r(r-2m)}](dr/dτ) です。

 

dA/A=[4/{r(r-2m)}]dr=2[dr/r-dr/(r-2m)]

より,lnA=2ln[r/(r-2m)]+const.となります。

 

つまり,(B/c)2を適当な積分定数として,

(dt/dτ)2=[B22/{c2(r-2m)2}]=(B2/2)/(1-2m/r)2

 

あるいは,dt/dτ=±[Br/{c(r-2m)}]=±(B/c)/(1-2m/r)

を得ます。

 

最後に,これらを全て,

(2)d2/dτ2[c2(r-2m)/r3](dt/dτ)2[m/{r(r-2m)}](dr/dτ)2(r-2m)(dθ/dτ)2(r-2m)sin2θ(dφ/dτ)20 に代入すると,

 

2/dτ2mB2/{r(r-2m)}-[/{r(r-2m)}](dr/dτ)2

-h2(r-2m)/r40 が得られます。

 

さらに,この全体に[2/(1-2m/r)](dr/dτ)を掛け,

C≡(dr/dτ)2/(1-2m/r)]とおけば,

 

(d/dτ)[C-B2/(1-2m/r)+h2/r2]=0 です。

 

したがって,C-2/(1-2m/r)+h2/r2≡-ε(一定),

すなわち,[(dr/dτ)22]/(1-2m/r)+h2/r2=-ε(一定)

となります。

 

そこで,(dr/dτ)2/(1-2m/r)=-ε-h2/r22/(1-2m/r)

により,dr/dτ=±[{(-(ε+h2/r2)(1-2m/r)+2}1/2

=±[2-ε+2mε/r-h2/r22m2/r3]1/2

を得ます。

 

定数εを決定するために,計量の拘束式:ds2=c2dτ2

(1-2m/r)c2dt2-dr2/(1-2m/r)-r2(dθ2sin2θdφ2)に,θ=π/2=一定とdθ=0 ,そしてdφ/dτ=h2/r2,(dt/dτ)2

=B2/[c2(1-2m/r)2]を代入します。

 

すると,2[-(dr/dτ)2+B2]/(1-2m/r)-h2/r2となるので,

結局ε=2であることがわかります。

 

したがって,2m=2GM/2を使用するとdr/dτ=±[222GM/r-2/r2+2GM2/(c23)]1/2が得られます。

 

あるいは,運動エネルギーを表わす式と考え,

(dr/dτ)2/2=(22)/2+GM/r-h2/(2r2)+GM2/(c23)

と書くこともできます。

 

ここで,軌道を求めることを優先するのであれば,dr/dτの表式の両辺

をdφ/dτ=h/r2で割ることにより,

 

dr/dφ=±[(22)r4/h22GM3/2-r22GMr/c2]1/2

が得られるので,これを積分すると,

 

±∫dr/[(22)/h2)4(2GM/2)r3-r2(2GM/c2)]1/2 =φ+αとなります。

 

便宜上,r≡1/sと変数変換すればdr=-ds/s2であり,

±∫ds/[(22)/h2) +(2GM/2)s-2(2GM/c2)s3]1/2

=-(φ+α)となります。

 

ここで,(2GM/c2)s3,あるいは,dr/dτ

=±[222GM/r-2/r22GM2/(c23)]1/2における

2GM2/(c23)は分母のc2のせいで,rが十分大きいときには

他の項と比較してごく小さいという意味で無視します。

 

そうすれば,±∫ds/[(22)/h2+(2GM/2)s-2]1/2

=-(φ+α)となるため,±∫ds/[(2222+G22)/h4

-(s―GM/2)2]1/2=-(φ+α)と近似されます。

 

さらに,s-GM/2[(2222+G22)1/2/h2]cosuとおくことにより,±∫du=φ+αときわめて簡単になります。

 

そこで例えば左辺で+符号を取って惑星が正の向き(反時計周り)に回転すると仮定すれば,u=φ+α となります。

 

s-GM/21/r-GM/2

[(2222+G22)1/2/h2]cos(φ+α),つまり

r=(2/GM)/[1+{(22)2+G22}1/2/(GM)]cos(φ+α)]

が得られます。

 

ここで,ℓ≡2/(GM),e≡{(22)2+G22}1/2/(GM)

≡{1-ℓ(c22)/(GM)}1/2とおけば,この軌道はNewton力学で

得られる円錐曲線の式:r=ℓ/[1+ecos(φ+α)]と完全に一致します。

  

この曲線は離心率eの値によって楕円,放物線,双曲線になりますが,

一般に太陽系の惑星軌道は22であって,離心率eが 0≦e<1を

満たす場合に相当します。 

 

そこで,この2体近似では惑星の軌道は一方の焦点に太陽が位置する

楕円を表わします。

 

特にeがゼロのときは2つの焦点が一致して完全な円を表わしますが,

実際の太陽系の惑星の軌道の離心率eはかなりゼロに近く軌道が円に

近いものが多いようです。

 

これらの結果はKeplerの法則を示しているので,

dr/dτ=[222GM/r-h2/r22GM2/(c23)]1/2

において2GM2/(c23)を無視する近似は,丁度Newton理論に対応

している,と考えることができます。

 

Newton力学は相対論的力学での計算結果において光速cが無限大

極限を取れば得られると予想されるので,2GM2/(c23)→ 0

という近似がこれに対応するのでしょうね。

 

また,時間についてのNewton近似はdτ→ dtなので,これは

(dt/dτ)2(B2/2)/(1-2m/r)2(B2/2)/{1-2GM/(c2r)}2 → 1 に相当します。

 

それ故,c2→∞ と同時にB2→∞ となるべきことが示唆されます。そして,この極限で(B2-c2)は有限に留まると予想されます。

 

そこでさらに進めて,恐らく初等的に積分することは不可能と思われま

すが,dr/dτの中に項 2GM2/(c23)を含む正しい式を考え,

 

この項がごく小さいことを考慮して何らかの摂動展開により高次の

近似計算を行なえば,惑星の近日点の移動なども計算できるだろう

と予測されます。

 

しかし,今日のところは相対論での球対称なSchwarzschild計量の時空の

測地線を求めるという見地から,Newton理論で得られるKeplerの法則に

従う惑星の楕円軌道を再現できたことに満足して,

ひとまず終わりにします。

 

精確な相対論に基づく高次の計算については,機会があれば,

また別の日にやってみようと思います。

    

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2007年3月 5日 (月)

膨張宇宙における赤方偏移2(視角半径)

半径dの大きさの天体が遠方(r111)にあったとき,

r=0 の原点Oにいる観測者には,その天体の大きさは

どのように見えるでしょうか?

 

以下,これを 考えてみます。 

 

φ1=一定の面で"その天体の大きさ=視角直径"が 2Δθ1

見えたとします。

  

dが宇宙のスケール因子aに比べて小さいとすると,

その天体のθ方向の固有長さは天体から光が発せられた

時刻t=t1にはd=r1(t1)Δθ1です。

  

(※これは前記事のRobertson-Walker計量でds2=c2dt2-dσ2

して空間部分dσ2を分離し,

この空間計量dσ2についてdr=dφ=0 とした後,

 

a(t)にa(t1),rにr1を代入し,dθをΔθ1とおいて,

天体の半径dがdσで与えられるすれば得られます。※)

  

すなわち,観測者が天体像を認識するのは現在時刻t0に,

彼の目に到達する天体からの光によるものですが,

  

それで見る天体の姿は過去に光が天体上で発せられた時刻

t=t1におけるものです。

  

その光が観測者に届くまでの行路の長さはr1(t1)ですから,

該当観測者の見る半径がdの天体の視野角はd/r1(t1)で

与えられ,これを視角半径Δθ1と呼ぶのですね。

  

 現在時刻t0には,その天体までの距離はR=1(t0)ですが,

天体の半径dを現在の距離Rで評価すると,

  

 d=r1(t0)[a(t1)/a(t0)]Δθ1

 =R{a(t1)/a(t0)}Δθ1 となります。

  

 膨張係数を赤方偏移zで表わすと,a(t0)/a(t1)=1+zにより,

 Δθ1=d(1+z)/Rとなります。

  

 dはzによらず一定ですから,z<<1では天体までの現在距離R

が遠方になるに従って,Δθ1Rに反比例して減少します。

 

 これは静止宇宙(z=0)を想定したときの通常の視角半径の様子と

一致しています。

  

 しかし,zが大きくなるに従って,視角半径Δθ1は,必ずしもRが

大きくなったからといって単純な反比例の関係では

減少しなくなります。

  

 より詳細に検討してみましょう。

  

我々の想定した宇宙の計量(metric)でのrとaとの厳密な

関係式は∫0r1dr/(1-kr2)1/2=∫t1t0cdt/a(t)

=∫a(t1)a(t0)[c/a(t)](dt/da)da で与えられます。

ここで,膨張因子aの満足するEinstein方程式の1つは,

(da/dt)2=-kc2(8πGρa2/3)です。

 

そこで,k=0,-1の平坦な宇宙,または空間曲率が負の宇宙では

右辺が正となるので,最初に膨張しているという初期条件が

与えられれば常に(da/dt)>0 となり,このまま永久に

膨張を続けます。

 

一方,この宇宙がk=1の空間曲率が正の宇宙であるなら,

どこかのtで,(da/dt)=0 となる瞬間があるので,

そこで膨張から収縮に転じるはずです。

 

 3つのパラメータ,Hubble係数:H≡(da/dt)/a,

減速係数:q≡-(d2/dt2)/(aH2),密度係数:σ≡4πGρ/(3H2)

を導入します。

 

 もう1つのEinstein方程式は,

 2a(d2/dt2)+(da/dt)2+kc2=-(8πGPa2/c2)

ですが,これにおいて右辺の圧力PをP~ 0 と近似します。

  

 それに,先の第一の方程式(da/dt)2=-kc2(8πGρa2/3)

を代入すると,kc2/a24πGρ+(d2/dt2)/a-[(da/dt)/a]2

が得られます。

 

 kc2/a2=H2(3σ-q-1)であり,σ=qが成立しますから,

結局kc2/a2=H2(2q-1)を得ます。

 

 そして,これらのパラメータの我々の位置での現在時刻t0の値に

ついては特にq0=-(d2/dt2)0/(aH02)のように下添字の 0

をつけて表現すれば,kc2/a02=H02(2q01)です。

 

 それ故,平坦な宇宙(k= 0)なら,q01/2,負曲率(k=-1)なら

01/2,正曲率(k=+1)ならq01/2です。

 

 Einstein方程式の1つは[(da/dt)/a0]2+H02(2q01)

-(8πGρ02/3a02)=0 となり,

 

 さらに,[(da/dt)/a0]2=H02[1-2q02q0(a0/a)]

となります。

x≡a(t)/0と置けば,先に挙げた積分は

0r1dr/(1-kr2)1/2=∫a(t1)a(t0)[c/a(t)](dt/da)da

=[c/((t0)0)]∫1/(1+z)1[1-2q02q0(a/a0)2]-1/2-1dx

となります。

 

これを計算すると,k=0,±1 によらず,

R=r10=[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]c/[002(1+z)]

が得られます。

 

したがって,Δθ1=d(1+z)/R0/[cψ(z)],

ただしψ(z)[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]/[02(1+z)2]

となります。

 

この式によれば,z<<1では,ψ(z)~z/(1+z)2 ~zにより,

zが大きくなるとΔθ1は減少しますが,

 

z>>1ではψ(z)~1/(0)なのでΔθ1はzと共に

増大します。

  

そこで,あるz=zc(0)でΔθ1は最小値を取ることになります。

 

特に,平坦な宇宙q01/2ではc(0)=5/4です。

 

このようにある距離より遠方にある天体の視角が距離が大きくなる

につれて大きくなるという効果は,01/2の平坦空間の場合にも

同様に生じることからもわかるように,

 

3次元空間の曲率によるものではなく,膨張の影響によるものです。

 

遠方の物体から現在の我々に光が到達するには,宇宙が今より

収縮している遠い過去に光が出発していなければなりません。

 

すなわち,遠方の天体からのものは我々からの距離が近かった

過去に光が発射されたものですから,大きく見えるのはこの

近距離のせいであると考えられます。

 

このことを,平坦な宇宙:q01/2の場合により詳しく見てみます。

 

まず,k= 0 なので∫rr1dr=∫t1tcdt/a(t)です。

 

このとき,Einstein方程式は,(da/dt)/a0=-H0(a0/a)1/2で,

(t)=a(t0)(t/t0)2/3と解けますから,

 

1-r(t)=(3ct02/3/0)(t1/3-t11/3)

となります。

 

それ故,各時刻での距離;a(t)r(t)は,

a(t)r(t)=3ct2/301/33ct,d(ar)/dt

=ct-1/3(201/33t1/3)を満たします。

 

d(ar)/dt=0 となる時刻は,t=8t0/27ですから,

距離はt=8t0/27を境にして増加から減少に転じること

がわかります。

 

あるいは,時刻t=8t0/27には,a(t)/a(t0)=(t/t0)2/34/9

であり,これは1/(1+z)=(t)/a(t0)によって,

z=zc(1/2)=5/4に相当します。

 

そこで,z=5/4の時期以前では接近しつつある光の距離が大きく

なりつつあることになります。

 

この時期には,視角Δθ1はzの増加と共に増加しつつある時期

と一致しています。

 

すなわち,rが大きい遠方の天体でも大きく見えるというのは,

z>5/4の時期に出発した光は,実はその固有距離a(t)rが,

より小さいところにあったためである,と考えられます。

 

そういう場所(z>5/4)から出発して観測者に"接近しつつある光"は,

一旦は距離が大きくなって観測者から離れていき,一方z=5/4以後

(z<5/4)に出発した光では距離が小さくなることが"接近"となり,

通常の常識的状況に一致してきます。

 

1=R/a0=[0(q01){(2q0z+1)1/2-1}]c/[0002

(1+z)]でz→ ∞ とした場合の値は地平線と呼ばれます。

 

何故なら,現在までに観測できる一番遠方の地点だからです。

 

そのr1をrHと書けば,観測可能な最遠方(=最過去)の天体の

我々からの固有距離はrH0=(c/H00)となります。

 

参考文献;佐藤文隆、原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店) 

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2007年3月 3日 (土)

膨張宇宙における赤方偏移1

 膨張する宇宙において,膨張因子:a(t)を含む,

Robertson-Walker計量を書き下すと,

 

ds2=c2dt2-a(t)2[dr2/(1-kr2)+r2(dθ2sin2θdφ2)

 

となります。

 

 そこで,この宇宙の計量(metric)による線素の中で光が伝播するとき,

その振動数が,どのように変化するか?を見てみます。

 

 謂わゆる赤方偏移(red-shift)と呼ばれる現象について,以下で

記述してみましょう。

 

 遠方の銀河(r=r1)から観測者(r=0)まで光が伝播するとし,

簡単のために,光の進む方向をθ=φ=0 (一定)とします。

 

 そして光源から光の出る時刻をt=t1,それが観測者に到達する

時刻をt=t0とします。

 

 すると,ds20 より,(c/a)(dt/dr)=±1/(1-kr2)1/2

ですが,tの増加に対してrが減少する現象を考えているので,

(-)符号を取って,c∫t1t0dt/a(t)=∫0r1dr/(1-kr2)1/2

となります。

 

 同様に,1+δ1に発射された光がt0+δ0に観測者に到達する

とすれば,c∫t1+δt1t0+δt0dt/a(t)=∫0r1dr/(1-kr2)1/2 

=ct1t0dt/a(t)です。

  

 そこで,(t)の変化する時間に比べてδtが十分小さいなら,

δ0/a(t0)=δ1/a(t1) なる等式が成立します。

 

 そこで,もしも光源において,光がδ1の間にn回振動していた

なら,光源での振動数をν1,観測者が観測する振動数をν0とすると,

 

 ν1=n/δ1, ν0=n/δ0 により,

 ν10δ0/δ1=a(t0)/a(t1)

となるはずです。

 

 これを振動数の代わりに波長λ10で表現すれば,

λ01=a(t0)/a(t1) ですね。

 

 光の赤方偏移:zの定義は,z≡0-λ1)/λ101)-1 

で与えられますから,z+1=a(t0)/a(t1)です。

 これによって,a(t0)>a(t1)と宇宙が膨張している場合には,

z>0 となります。

  

 また,c∫t1t0dt/a(t)=∫0r1dr/(1-kr2)1/2より,

rが小さいなら1 c(t0-t1)/a(t0) と近似できます。

  

 一方,a(t1)はa(t1)=a(t0)

-(t0-t1)[(da/dt)/a]0/a(t0)+...

とTaylor展開できて,

  

 0をHubble定数とすると,0[(da/dt)/a]0なので,

1/(1+z)=(t1)/a(t0)=1-H0(t0-t1)+...

なります。

  

 無次元のパラメータrに対して実際の長さの単位を持つ固有距離;

R≡arを用いると,zが小さい範囲では,

  

 z ~ 0(t0-t1)~ a(t0)r10/c=H0/c,

  

 すなわち,cz~ 0R と書けます。

 

 ここで,赤方偏移を膨張によって光源が遠ざかることによる

Doppler効果の結果であるとみなすこともできます。

 

 一般にDoppler効果は,ν1=ν0[1-()]/(1-v2/c2)1/2

(は光源の運動速度,は光の進む光線の向き)で与えられます。

   

 今の,θ=φ=0 (一定)の場合には,

ν1~ν0(1+v/c) ⇔ (ν10)-1=v/c

⇔ (λ01)-1=v/c,

  

 すなわち,z~v/c と書けます。

  結局,v=cz=H0Rが得られますが,これはHubbleの膨張則

そのものですね。

 

 こうして,赤方偏移は一種のDoppler効果と捉えることも

できます。

 

 この意味が明らかに見えるように,先に求めた式:

 ν10δ0/δ1(t0)/a(t1)

を見直してみます。

 

 すなわち,微小時間間隔Δtを伝播する間に起こるDoppler効果

による振動数の偏移をΔνとすると,これはΔν=-(v/c)νです。

 

 これとHubbleの膨張則:v=HR=[(da/dt)/a]cΔtから

 Δν/ν=-Δa/a,

 

 すなわち,a(t)ν(t)=(一定)という結果が得られます。

 

 これは,先に計量から求めたのと全く同じ式を表わしていますね。

 

 この赤方偏移は,観測者が光源に対して運動する座標系から観

するために光子のエネルギーが減少する(hν0<hν1)ことを表わ

しています。

 

 しかし,これを"光子が何らかの作用でエネルギーを失なっている,

と考えるのは,妥当ではありません。

  

 そもそも粒子の速度は座標系の取り方によって違うので,

座標系が異なればエネルギーも運動量も異なるのです。

 

 例えば,旅客機の乗客が機内で移動するときの乗客の運動

エネルギーは,旅客機を基準座標系とすれば微々たるものです

が,地上を基準座標系とすれば,かなり大きい値になります。

 

 光の場合は速度の大きさは座標系に依存しませんが,

エネルギーや運動量は座標系に依存すると考えていいです。

  

 光子がエネルギーを失なっていると見るならば,そのエネル

ギーが何に転化しているのか?が問題になりますが,

  

 今の場合は,次々に光のエネルギーが減少していると見える

座標系に移って観測しているだけですね。

 

(つづく)

 

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2006年8月21日 (月)

ビッグバンとエントロピー増大(時間の向き)

 「エントロピーは増大する」という内容を,「エントロピー=乱雑さ」として身の回りの例を元に考える際,局所的には増加したり減少したりするけど,全体で見るとやっぱり増加している.。

 そう考えたとき,エントロピーを増加させているのは,結局ビッグバンによる物質の拡散膨張が原因なのかと考えてしまうようになってしまいました。

 これって正しいのでしょうか? もしそうだとすると,クランチが始まるとエントロピーは減少するのでしょうか?

  と@nifty物理フォーラムで過去において質問を受けたので,私の回答を掲載しておきます。

 回答は次のとおりです。ただし回答に対して何度も質問を受けたものについてまた回答したものがあるので重複して読みづらくなっている部分もあります。

 通常の断熱自由膨張では体積が2倍になると,気体分子数をN,ボルツマン定数をBとすると,エントロピーの増加はΔS=NBlog2になります。

 もっともエントロピーの増加分は熱平衡状態における差であって非平衡状態で考えるのはちょっとむずかしいですけどね。

 エントロピーの増大ということからすれば,宇宙全体を孤立系と考える必要がありますが,まあ,断熱壁に囲まれた孤立系と考えてよさそうです。

 エントロピーは相空間の体積の対数ですから,膨張すればエントロピーが増加するのだ,と言えるでしょう。

 むしろ,宇宙が膨張するのが熱力学第2法則からの帰結であるのかとも考えられます。

 ただし,今の宇宙論の世界では,現在が熱平衡状態にあるのではなくむしろ非平衡状態にあるとされているので,熱平衡状態の法則がそのまま適用できるのかどうかについては,本当のところ,若干の疑問は感じますが。。。。。

 重力場の方程式は時間反転対称なので膨張解も収縮解も定常解もありますから,膨張しているというのは,現在が膨張状態にあるという事実から,その初期条件に従う解を取らざるを得ないという意味で,重力場の方程式自身に膨張でなければならない,という根拠付けはありません。

 ブラックホールという解があるので,時間を逆向きにすれば光などが全て排斥されてしまう,つまり光放出という一方向にしか進まないというホワイトホールという解もありますからね。。。。。

 熱平衡という感覚からすると,宇宙が膨張すればするほど,局所的には熱平衡からは,ますますずれていって非平衡になりそうです。

 恒星などの低エントロピー源(高温)から,核反応などで生じた高エントロピー(低温)の不要な熱を捨てることのできる低エントロピーの場所=エントロピーの小さい極低温の宇宙空間が膨張によりどんどん増えてゆくともいえます。

 熱力学第2法則自体の時間反転対称性という悩ましい問題もあります。

 孤立系ではエントロピーは必ず増加します。巨視的な熱力学理論も時間反転に対して対称だとしたら,エントロピーが Δt>0 の向きで増加するなら,Δt<0 の向きにも増加するはずです。

 もっとも,現在(時刻:t)が平衡状態にあるとしてですが。。。。

 これは統計力学の基になっている粒子の力学方程式が時間反転対称ですから熱力学でもそうではないかという考察に基づくものです。

 たとえばボルツマンのH定理というのがあります。

 これは実はHというのはエントロピーに負号をつけたものに相当するのですが,時間について減少関数になるからという理由で可逆な粒子力学方程式から不可逆性が導かれる証拠と称しています。

 しかし,時間の向きを逆にとることにより過去にも減少します。ということは見方次第で時間の増加関数にもなります。

 テル・ハール(D.ter Haar)の「熱統計学」によるとエントロピーはS=-BHですから,"Hの減少=Sの増加"になりますね。

 私自身は不可逆性というのは"粗視化"によるところが大きい,と見ています。微視的には複雑な町並みなども遠くから見ると濃いところと薄いところがある塊りにしか見えない,ということなどを"粗視化"と称しています。
 
 さてビッグクランチで収縮に転じるとエントロピーが減少するかという問題ですが,普通に考えると減少するでしょう。

 これについても時間対称性を考えると多少の考察はできます。

 むしろエントロピーの増加そのものが時間の向きを決めているという見方もできるからです。

 ビッグクランチ以降の人にとっては,むしろ,時間はわれわれから見た未来から過去に進む。そこではやはり宇宙は膨張し,エントロピーは増大する。。

 これはホーキング(S.W.Hawking)だったかによる「時間対称宇宙」というものですが,この理論はあまり本流ではないようです。

 その他,私には最近の知識はないのですが,こうした問題はまだ未解決ではないでしょうか。。。。

 ボルツマンのH定理に対しては"ロシュミット(Loschmidt)の逆行性批判("という厳しい反論があります。

 それは力学においては方程式は可逆であるから,Hが最小,あるいはSが最大の熱平衡に達したとき,正にそのときに全粒子(分子)の運動の向きを逆転すれば,たちまち非平衡に逆戻りする。だから,H定理に反してHは増加しSは減少するではないか?

 というものです。

 たとえば,コップから床に落ちた水も,その落ちた全ての水滴は速度を逆向きにすれば,重力に抗してコップまで逆のぼっていくことが可能な運動エネルギーを持っているわけですから,逆行は理論的には可能なのですが,そのようなことは現実には起こりませんね


 要するに,H定理というのは可逆な決定論的な法則から不可逆性を導いたわけではなく,確率的な仮定を考慮に入れた結果として不可逆性を説明した,に過ぎないわけですね。

 拡散現象や熱伝導の現象は,濃い方から薄い方へ,高温から低温へとしか,流れが起きず,逆は生じないというわけで,これらは同じフィック型の拡散方程式で記述されます。

 方程式の型が波動方程式型(双曲型)でなく,放物型なので時間反転対称でなく,不可逆性を表わす式となっています。

 もっとも相対論的に共変な形をしていないので時間を純虚数時間にして i を入れた放物型のシュレーディンガー方程式と同様,アメリカ太平洋岸で起きた津波が瞬時に日本に伝わるような方程式であるという欠点はありますね。

 まあ,相対論的に書き直せばいいだけですが。。。。。

 拡散現象は巨視的には,部分系に分けて考えると全体(孤立系)でエントロピーが増加しなければならないという要求から部分系間の状態の移動の方向が決まるということから導出できますね。

 一方,分子論的な立場からは,濃い場所からも薄い場所からも等しい確率で分子が出入りするという仮定をおけば自然に出てきます。

 つまり,等確率(等重率)の仮定をおけば,ランダムウォークの結果としてブラウン運動になり,拡散方程式を満足するようになるのです。

 拡散,熱伝導は典型的な不可逆現象ですから,これが説明されればだいたい不可逆性の問題は解決です。

 ところが,これにはやはり等確率の仮定というのが入っています。

 この等確率の仮定の根拠というのが,またやっかいなもので,エルゴード仮説(Ergodic hypothesis)と言われるものです。

 この仮説:"あらゆる相空間を粒子系がすべて埋め尽くす軌道を取るのである。"というものがありますが,非常に小さい系でもすべてを埋め尽くす軌道をまわるには宇宙の寿命より長い時間がかかりますが,実際の「熱平衡」は短時間ですからある意味では奇妙な話です。

 この問題はランダウ(Landau)の「統計物理学」によると,"t<0 を考えなければよい。"という話になります。

 つまり,"孤立系を考えるというが,それはいつか作られたものである。箱の中に気体があるという話では,それはそれ以前には人や装置が関った系ではなく,箱に気体を詰めた時刻というものが存在するはずだから,そのときの時刻をt=0 とすればいい"という意味です。

そうすれば孤立系のエントロピーは常に増加するとできるというわけです。

 熱力学第2法則は孤立系では現在から未来に向かって,必ず,エントロピーは増大しなければならないので,例えば時間が逆向きになっても過去に向かって増大しなければならないだろうと思われます。

(現在が平衡状態だと既に最大なのでそうはいかないので,むしろ最小だと考えねばならないでしょう。)

 熱力学法則の時間対称性を要求すると,そういうことになるんですが,統計力学だと,むろん過去に向かっては,逆に減少します。そこが矛盾かな?と感じないわけではありませんが。。。

(熱力学に時間対称性を要求しなければいいのかもしれませんが,統計力学(力学)では時間反転するとビデオの逆回しになるので増大していたものは減少するはずです。

 その世界も現実的にありうる運動状態の場合には,そうした世界でも熱力学が成立するはずで,そこでもエントロピーが増大するはずと思ったわけです。)

  "粒子の方程式が時間反転対称である。"ということの意味は,たとえばニュートンの運動方程式で時刻 t を (-t ) に置き換えたとしても方程式の形は不変という意味です。

 そこで,ある時刻 t0 における位置で,時刻を t'=2t0-t と対称変換して,初期条件をt=t0における位置はそのままで,速度を逆向きにすると(時間 t が (-t ) に変わると,速度は位置の時間による微分なので (-) 符号が付きますね。),その軌道は来たものを逆にたどるというだけです。

 量子論だともっと複雑で,シュレーディンガー方程式の t を (-t) に変更して波動関数の複素共役を取れば時間対称である,というもので,複素共役をとるので座標表示での運動量 =-i∇ したがって速度も逆向きになります。

 統計物理は多数の粒子が衝突を繰り返すもの,といって,元々ニュートンやシュレーディンガーの粒子方程式に従う粒子群の運動状態の分布から,巨視的な挙動を抽出したものです。

 そこで,確率的に大きい(状態の数が多い=エントロピーが大きい)向きに状態が移行する,ということを抜きにすれば,ある瞬間に時間の向きを逆転すると,エントロピーが減少する向きに移行してもおかしくはないというのが"ロシュミットの逆行性批判"を巨視的に捉えた場合の意味です。

 (しかし今考えると確率的な考慮が入っているという部分で,既にロシュミットの逆行性は崩れているといえますね,私も少しは成長していますね。(^^; )

  そして,"孤立系ではエントロピーが増大する。"という意味は熱力学では第2法則(クラウジウスの不等式:ΔS>ΔQ/T)からそれが成立するのは,あくまで"
熱:ΔQの授受がない(ΔQ=0)=孤立している"という前提の下でです。

 そして,宇宙の場合も開闢より前は孤立系ではないだろうし,普通の容器の中の気体も閉じ込めて観測する前は孤立系ではないだろうから,孤立系が始まったときを時間の原点にとって,れ以前を考えないことにしたら,過去というものは考えなくてもよいかな,というのがランダウの主張する内容です。

 ツナギ合わせの編集ということもあって,結論もなくダラダラとした収拾のつかない文章になってしまいました。。。

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2006年7月24日 (月)

負の質量

 世の中に負の質量の物体が存在すれば,それには反重力がかかるので斥力が働くから,その物体は落下しないで宙に浮く,どころか上昇していくだろう,と考えている人がいるかも知れませんが,それはちょっとした誤解ですね。

 そうではなくて地球の質量が負であったら,地上付近の物体には反重力がかかるので,正の質量の物体が上昇するのであり,こうした反重力のもとでは負の質量の物体は落下するのです。

 (まあ,すでに質量が正と負のときに一方では斥力が働いて,他方では引力が働いたりしているので,明らかに矛盾が露呈していますね。)

 物体の負の質量を(-m)(m>0)とし,働く力を F,加速度をαとすれば運動方程式はF=-mαです。

 地球上では等価原理によって,あるいはガリレイによって"どんな質量の物体も真空中のように,抵抗がないなら加速度g=9.8(㎡/s)によって落下する。"ということは,たとえ負の質量であろうとF=-mg であるということですね。

  つまり,運動方程式 F =-mg=-mαより,α=gであり加速度は同じで上昇するのではなくて,落下しますね。まあ,この論理では落下するから落下する,と言ってるにすぎませんが。。。。

 まあ,質量が負ならそれにかかる力も負なので,負割る負=正である,ということなどがを言いたかっただけです。

 (自分の質量が負なら何かを押して反作用を受けても,押し返されるのではなく反作用で引っ張り込まれますね。(押し返される力を(-m)<0で割ると加速度は力と向きが逆です。)

  ここで考えた「質量×加速度=力」というときの質量は慣性質量で,ニュートンの万有引力(重力)=F=-GMm/r2 のMやmは重力質量と呼ばれています。

 等価原理というのは,「慣性質量=重力質量」なので重力を慣性質量で割ったものは慣性質量がゼロ(例えば光)であろうと負であろうと同一だという意味ですから光でも負質量粒子でも同じように落下します。

 ただし,光の場合のように光速に近い運動をする物体ではニュートンの万有引力の法則はメトリック(計量)のうち,00 分だけを取り出した近似に相当します。

 実際には速度が光速に近くなると空間成分のメトリックgijも効いてくるため,一般相対性理論では重力による加速度の効果は2倍になると考える必要はあります。

 まあ,ここまで書けば負の質量の存在と等価原理とは矛盾する,ということがおわかりでしょう。

 だから反重力というものは存在しないだろう,と予測されます。

(重力が電気力の場合と違うのは,電気力ならそれを電荷で割っても加速度にはならないという点ですね。)

※追伸:これを書いているのは,ほぼ1年後の2007年6月29日ですが,この記事での私の最後の文章を中心として,私の「負の質量の存在と等価原理とは矛盾するし反重力というものは存在しないだろう。」というここでの論旨による主張は誤りであることが判明致しました。

 これは2007年6月26日のhirotaさんから受けた次のコメントによる指摘によって判明したもので,最初私はこのコメントを馬鹿にしていましたが,結局私の方が間違いであることが明白になりました。恥ずかしい話ですね。私の間違いと失礼についてお詫びします。

 以下,6月27日のhirotaさんのコメントです。

 なんか変なことを書いてますよ。

 始めの方の 「 地球の質量が負であったら地上付近の物体には反重力がかかるので,正の質量の物体が上昇するのであり,こうした反重力のもとでは負の質量の物体は落下する 」 は等価原理と矛盾してて間違ってますが,

 負質量物体では,力は,-負×負=負 つまり引力で,加速度は負/負=正 つまり上昇なので,「 地球の質量が負なら正負の質量も光も全部上昇する 」 に直してしまえば,負質量の存在と等価原理は矛盾しません。

 なお,負質量地球から正質量物体が上昇する場合は,地球が正質量物体に落下しますが,その加速度は微小ですから結果に影響しません。(質量の絶対値が等しい場合は無限の追いかけっこになるけど)

 そして6月29日に私の最終的な訂正コメントの一部です。

 m1=m>0,m2=-m<0 として,m(d21/dt2)=Gm2(22)/|12|3;-m(d22/dt2)=Gm2(12)/|12|3を辺々加えると,md2(12)/dt2=0 で相対位置ベクトル(12)の加速度はゼロになるということで,

 最初(12)の初速度がゼロであったなら距離は一定であるとして矛盾がないことがわかり,私の間違いであるということで納得しました。

 確かに無限の追いかけっこですね。

 「2つの物体に外力ならともかく内力が働いていて互いに回転しているわけでもなく遠心力もないのに相対距離が不変であるなどというのは有り得ないだろう。」という愚かな先入観にとらわれていました。

 反重力などという普通の常識とは別の存在を考えているのに余計な「物理的常識=先入観」を持って考えたのが誤りで,最初から数式に頼るべきでしたね。

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2006年6月28日 (水)

重力波

 水素原子には,古典的には"1個の原子核=陽子の周りを1つの電子が回っている。"というラザフォード模型の描像があります。

 しかし,実は電荷が加速度運動をすると電磁波を放射してエネルギーを損失するため,こうした模型では電子は運動エネルギーを失ってほとんど瞬時に原子核と一体化してしまい,原子は安定には存在できないことになります。

 そこで,水素原子として安定に存在できるためには,電子が原子核からある距離,つまり電子軌道の半径がボーア半径と呼ばれる値 a Bにあれば,もはや"電磁波=光"を放射しない,というような"特別な条件=量子条件"を設けることなどが必要となりました。

 これによって,前期量子論の時代が始まったのでした。

 そして,この模型で原子核の質量をM,電子の質量をmとすると,M>>mなので電子が半径 r にあるときの引力ポテンシャル=位置エネルギーは,陽子の電荷を e>0 (電子のそれは-e ) とし,静電場のクーロンの法則における比例係数を k=1/(4πε0)とすれば, U=-ke2/r となります。

 そこで,相対論を考慮すると水素原子の質量は M+m+U/ c2になると思いがちですが,実はラザフォード模型では遠心力と引力が釣り合っており,そのときの電子の運動エネルギーがちょうど| U |/2 =-U/2 になる(ビリアル定理)ので,これも加えて,水素原子の質量はM+m+(1/2) U/ c2となります。

 まあ,正確には2体問題の質量は換算質量を用いる必要があり電子の回転も陽子=原子核が中心ではなく,そのごく近くの重心の周りの回転になるというのが本当ですが,M が m の1840倍程度もありますから気にする必要はないでしょう。

 そして,U<0 ですから,実際水素原子の質量は M+mよりも小さくなります。

 これと同じことが,地球と月や人工衛星のときの万有引力(重力)にも起きると想像されます。

 万有引力定数をG,地球の質量をM,月や人工衛星の質量をmとすると,やはり M>>mであり,月または人工衛星が地球中心から半径Rのところにあり,引力が遠心力と釣り合って回転しているというのは実は常に自由落下しているわけです。

 ですから,みかけ上は無重力なのですが,そのときの引力の位置エネルギーは U=-GMm/R で"地球+月",または"地球+人工衛星"の総質量はやはり M+m+(1/2) U/ c2 となります。

 重力の量子論はまだできていませんが,古典論では水素原子なら電子が電荷を持って加速度運動するために電磁波を放出して原子核に落ちる,という制動輻射のアナロジーから,

 質量を持って加速度運動している月や人工衛星は重力波を放出して地球に落下するだろうと想像されます。

 しかも,水素原子の系とは異なり,地球と衛星との系の規模は量子論を無視して古典論で評価できる程度に大きいので,量子条件を用いて安定性を保証することはできません。

 ところで,古典論で電子が原子核に落ち込むまでの時間τを計算するとτ=(1/4)(mc)2B3/(ke2)2~ 10-11秒程度です。

 この式から類推すると,重力の場合の月や人工衛星が地球に落ち込むまでの時間はτ=(1/4)(mc)23/(GMm)2程度であろうと推測されます。

 電気力と重力の大きさの比率は大体,重力のほうが40桁も小さいということがわかっています。

 これは大体ke2とGMmを比較したもので,上の式によるとτの比率は,その逆数の2乗に比例すると思われるので,これだけの効果を考えても重力の場合は電気力の場合と比べて,落下までに80桁も長い時間がかかるだろうと予想されます。

 しかも,R3はa B3よりはるかに大きいので月や衛星が重力波のために地球に1cmでも落下して接近するには,1060秒以上,つまり1050年以上もかかることになります。

 これは宇宙の年齢100億年~200億年よりはるかに大きくて,事実上全く落下しないのと同じですから,全く問題になりませんね。

  まあ,電気力と重力では,これ以外にも"電磁波=光"は電荷を持っていませんから,その波自身が光源となってそれからさらに2次の電磁波を発生することはないけれど,重力波はそれ自身がエネルギーεを持っているので,それはε/c2に相当する質量を持ち重力波源になるという違いがありますね。

  重力波が重力波源となって2次の重力波を放射し,さらにそれからまた3次の重力波を放射することになって,重力に関わる現象は非線形で扱いにくい,というのは大きな違いです。

  その他,小石が地面に落下しているときの位置エネルギーや運動エネルギーは小石と,地球,または空間=重力場のどこに属するのかを考察するのも面白いですね。

 また,万有引力の位置エネルギーは2つの質点が一致したとたんに-∞ になるので,合体すると質量が-∞ になるのでしょうか?それとも,その-∞ 分の位置エネルギーが全て+∞ の運動エネルギーに転化されて,熱に変わった結果,相殺されるので問題ないのでしょうか?

 あるいは電子の自己エネルギーと同じく,重力の場合も自己エネルギーをくりこんだのだと考えればよいのか,とかの問題について論じるのも興味深いですが,またの機会にしましょう。

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2006年5月27日 (土)

宇宙の果て

 数学の用語で「コホモロジー(cohomology)」というのがあります。

 これは,微分形式の言葉では「完全形式は閉形式である。」,つまり,「微分形式の外微分はゼロである。」という「ポアンカレの補題(Poincare’s Lemma)」を意味します。

 実際には,「可縮な領域では閉形式は完全形式である。」というこれの逆命題(これも「ポアンカレの補題」です。)の方が,物理学でなじみが深い命題でしょう。

 これは,「エントロピーの存在」や「保存力場である,または"渦無し=非回転的:回転(rot) or 循環がゼロ"なら,スカラーポテンシャルが存在する。」とか,「湧き出しや吸い込みが無い,または発散(div)がゼロなら,ベクトルポテンシャルが存在する。」というベクトル解析で重要な命題と同等です。

 これと「ストークス(Stokes)の定理」を組み合わせると,微分形式の法則を積分形式に置き換えることもできます。

 このコホモロジーを局所的構造とすると,これと双対(そうつい:dual)な概念として大域的な「ホモロジー(homology)」という構造があります。

 すなわち,コホモロジーでの「微分形式ωの外微分dωはゼロである。」というポアンカレの補題に双対なホモロジーの命題は「閉領域の境界の境界は空集合である。」,or 「閉領域の境界には境界がない。」というトポロジーの命題です。

(ただし,トポロジー(toplogy)というのはオイラー(Euler)の一筆書きの法則に始まる位相幾何学のことです。)

 例えば,三角形の境界であるつながった3辺には境界となる点はありません。

 また,地球のような閉じた球の境界である球の表面には,もちろん境界はありませんね。

 同様に,「4次元擬リーマン多様体(semi-Riemannian manifold)(特にローレンツ多様体(Lorentz manifold))」である宇宙という時空多様体の境界はある3次元超曲面ですが,これにも境界がないだろうと類推されます。

 これらのことから,風船の表面には境界がないという意味で,宇宙空間という3次元空間は有限だが境界はない,というような説明がよくなされます。

 しかし,"宇宙には果てがない" or "境界がない"ということは,こういう描像を思い浮かべることで説明が可能なのでしょうか?

 4次元時空多様体の時刻 t を固定した3次元超曲面を考えると,これは例えば時空が正定値計量のリーマン多様体,特に4次元球なら,その4番目の座標を固定した"3次元球=普通の球"には,明らかに2次元球面という境界があります。

 これは,xyz3次元空間の球: x2+y2+z2=R2でzをz=a(≦R)と固定すると,円: x2+y2=r2 (r≡(R2-a2)になるという描像で次元を1つだけ上げただけです。

 "円=1次元球面"にももちろん円周という境界があります。

 では,ローレンツ多様体なので計量が正定値ではない,ということに論及する必要があるのでしょうか?

 一方, そうした描像とは別に謂わゆる「宇宙原理」を採用して,空間の一様性,等方性を要求し,共動座標系を用いて空間に共通な宇宙時間 t を導入すると,「ロバートソン・ウォーカーの計量(Robertson-Waker metric)」が得られます。

 「宇宙原理」というのは,そもそも,「宇宙はどの点から見ても同じように見える。」という原理ですが,これを採用することは,既に「宇宙には"端=境界"がない。」ことを最初から認めたことになるとも考えられます。

 「ロバートソン・ウォーカーの計量」とは,ds2=c2dt2-a(t)2{dr2/(1-kr2)2(dθ2+sin2θdφ2)}で与えられる計量です。

 ここでa(t)は膨張因子とか空間の径という長さの次元を持つ量で,他方rの方は座標を示す無次元のパラメータです。

 さらに宇宙の空間曲率が,正,負,ゼロに応じて,それぞれ,パラメータkを,k=1,0,-1とします。

 これを見ると,例えばk=0 のときのdt=0 (t=一定)の3次元空間は,正にユークリッド空間になることが自明です。

 しかも,kやa(t)の値とは無関係にrは 0 から∞ までの任意の値を取ることが許されているし,正の数rが決まれば,どこが中心でどこが端ということもないですから,境界とか端がないという意味はわかる気がします。

 この計量を「アインシュタイン(Einstein)の重力場の方程式」に代入すると,a(t)が従う2つの独立な常微分方程式が得られます。

 これらに,さらに状態方程式を追加し,宇宙項をゼロと仮定します。

 すると,d2a/dt2<0 が得られますから,da/dtは単調に減少していて,a=a(t)のa-t曲線は上に凸です。

 これに,現在の時刻の観測では宇宙空間は膨張している,つまりda/dt> 0 なることを考慮すると,時間を過去に遡ると必ずa=0 となる瞬間があることになるため,この時刻をt=0 とします。

 そして,これより以前には宇宙は存在しないと仮定します。

 このとき,"ハブル定数(Hubble's constant)=膨張係数"を,H≡(da/dt)/aで定義します。

 現在の時刻をt0 とし,現在のハブル定数をH0=(da/dt)0/a(t0)とすれば,t0<1/H0となります。

 これはt=0 でa=0 の上に凸なa-t曲線を書けば,図から明らかなのですが,敢えて計算に頼ります。

 すなわち,t=0 から現在までの時刻:0≦t<t0では常にda/dt>(da/dt)0=H0a(t0)ですから,a(t0)=∫0t0(da/dt)dt>∫0t0(da/dt)0dtです。

 そこでa(t0)>0t00a(t0)dt=H0a(t0)t0ですから,t0<1/H0となることがわかります。

 また,k=0 または-1のときは永久に膨張を続け,k=1のときは圧力Pが正である限りいつかは収縮に転じます。

 これら宇宙原理や重力場の方程式が正しいとして,現在の観測での曲率がゼロに近いということが正しいなら,宇宙は平坦であり,k=0 のユークリッド空間となって永久に膨張を続けることになります。

 私の宇宙や星に関する他の疑問の1つは,ブラックホールの形成に要する重力崩壊の局所座標時間が無限大であることと,ブラックホールが存在していることが矛盾してるのではないか?ということかな?

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2006年4月13日 (木)

重力場(ファインマン)つづき,その2

 昨日,わからなかった部分は真夜中まで考えて,自分の中では解決しました。

 本文には作用の値の符号が変わると力の向きが変わると書いてありますが,これは一般の古典ラグランジアン:L=T-VのポテンシャルVの符号が変われば引力ならば斥力に変わり逆も成り立つことから想像できます。

 一方,電磁気力では電磁カレントをJμ,"光=電磁場"をAμとし相互作用ラグランジアン密度をL intで表わすとLint=-JA=-ρφ+JAとなります。ただし太字の部分は空間成分(3次元ベクトル)です。

 真空中の電磁波,すなわちρ=0 でクーロンゲージ(Coulomb gauge)を取る場合,つまり∇A=0 の場合にはAμの横波成分(もちろん空間成分)のみが残って,LintJAとなります。

 これのアナロジーで,重力では物質エネルギー運動量テンソルをTμν,重力場をhμνとすると相互作用ラグランジアン密度はLint=-Th → -Thとなります。

 やはり太字は空間成分(3×3テンソル)を意味します。

 こうして相互作用Sint=(Lintの4次元積分)はカレントが質量ゼロのベクトル場(スピン1;spin1)と相互作用する場合と質量ゼロのテンソル場と相互作用する場合で符号が異なることがわかります。

 したがって,「静場=時間成分」で考えたときにはポテンシャルVの符号が逆になり,電気力で斥力なら重力では引力になると結論されます。

 こうした考察から,奇数スピンと偶数スピンのゲージボソン(gauge Boson)の交換で,同符号の粒子間に働く力の向きは反対であることが帰納できます。

 という風に考えて納得しました。前回の文章では失礼しました。

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2006年4月12日 (水)

重力場(ファインマン)つづき

 ども,TOSHIです。

>そして電気力が引力と斥力の両方あるのは"媒介粒子=光(photon)"のスピンが1であって奇数だからということ,重力の場合は重力子のスピンが2であって偶数である故に引力のみであるという論理も目新しいものでした。

   と,偉そうに書きましたが,実は何故そうなるのかについて,はっきり言って読んでもその理由がわかりませんでした。

 おそらく,電気力では同種電荷間の場合,光子(光波)のスピンが奇数なので斥力ですが,重力では質量 or エネルギーというのはもともと同種に決まっていて重力子(重力波)のスピンが偶数だから引力だ,ということを説明していると思われる部分ですが,そもそも,電気力は同種電荷で引力,異種電荷で斥力である,などと誤訳ではないかと思われる文章もあるので,ここらへんは翻訳の正確さにも疑問を持っています。

 一応,引き続き考えてみます。おわかりの方がおられたら,ご教授願いたいところですが。。。。。

(追伸:「superstringⅠ」という本で確認しましたが,グラヴィテーノのスピンはゼロではなくて,3/2のようですね。失礼しました。。。)

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