惑星の近日点の移動
記事「シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)」を書いた際,機会があればと約束していた「惑星の近日点の移動」について,さっそく書いてみようと思います。
30年以上も前の学生時代,ゲージ場で有名なヤン-ミルスのうちのヤン(Yang)が書いた重力場についての論文の輪講をすることになり,私がそのレヴューを発表する担当役になったことがありました。
そこで,実はそれまでは全く知らなかった「一般相対性理論」を至急勉強する必要に迫られました。
先輩から,付け焼刃的にそれを習得するには,当時,出版されて間もなかった「アインシュタイン選集(日本語版)」を読むのが最適との指摘を受けたので,研究室の図書室から借りて,選集を読みました。
その際に,太陽重力による光の曲がりや,水星の近日点の移動についても読んだ,という淡い記憶があるだけで,まあ,真面目に考えるのはこれが初めてですから,初めて計算するのとあまり変わりはありません。
近日点とは,先に述べたNewton力学での惑星の軌道:
r=ℓ/[1+ecos(φ+α)]で離心率eがゼロではなく,
0<e<1の場合の楕円軌道において,
θ=(一定)の軌道面内の公転軌道上で
焦点の1つである太陽に距離的に最も近くなる
点のことです。
太陽との最短距離は,cos(φ+α)=1となるφをφ≡φ-とすれば,
r=r-≡ℓ/(1+e)で与えられますから,これらの記号を用いると,
近日点の平面極座標は(r-,φ-)です。
惑星が,公転軌道に沿ってある(r,φ)=(r-,φ-)からn回転して,
φ=φ-+2nπとなったときにも,cos(φ+α)=1という性質は不変
です。
そこで,公転軌道がr=ℓ/[1+ecos(φ+α)]を正確に満足している
なら,いくら惑星が回転しようともr-は全く動かないはずです。
つまり,正確に楕円軌道であれば,近日点の移動などというものは全く
存在しないのですが,現実には1年ならわずかなものですが近日点の
移動が観測されています。
実際,対象となる惑星の運動は太陽とそれの2つだけがあるという厳密な
2体問題に従うものではなく,他に惑星や小惑星,彗星などがあって太陽
とは比べものになりませんが,それらの影響を受けるわけですから,
一般には周りの天体をも含めた3体以上の問題になります。
そしてまた,太陽と惑星だけという2体問題としても,相対論的効果を無視できません。
それらによる摂動によって正確な楕円軌道からずれるのが,現実に観測されるの惑星の近日点移動の原因であろうと思われます。
ちなみに,遠日点の方はr+=ℓ/(1-e),cos(φ++α)=-1,による
(r,φ)=(r+,φ+)で与えられます。
そして,同じ回転の1周回においては厳密な楕円軌道なら,
(φ+-φ- )=πで一般に1周回あたりの回転角は 2πですが,
これは,一般にr-からr+を経由する周回軌道では,1周回の回転角
が 2(φ+-φ-)であることを示すものである,と考えられます。
そして,近日点の移動というからには,それはn回転してφ=φ-+2nπ
になったときに,回転前の近日点の位置(r-,φ-)からずれた近日点
の動径r=r-の変動のことだろう,と勝手に思っていました。
しかし,どうも相対論の教科書によれば,観測による水星の近日点の移動
は100年間に43"である。というような角度表現になっていて私の解釈と
は異なるようです。
これはどういう意味なのだろうか?と一瞬思いましたが,
結局,観測の最初の近日点の位置を(r-,φ-)とし,それからn回転後
の近日点の位置を(rn-,φn-)とすると,
軌道平面内での偏角φの(mod 2π)からの変動分,つまり
(φn--φ-)の 2nπからのずれ:Δφn≡|(φn--φ-)-2nπ|
のことを指しているらしい,ということがわかりました。
したがって,先の遠日点を含めた考察を考慮すると,
Δφn=|2(φn+-φn-)-2nπ|,あるいは
Δφn=nΔφ=2n|(φ+-φ-)-π|であると考えてよい
と思います。
ところで,前の4/27の記事「シュヴァルツシルト時空内の測地線(惑星の公転軌道)」によると,
Schwarzschild時空での2体問題で惑星軌道を与える方程式は,
dr/dφ=[(B2-c2)r4/h2+2GMr3/h2-r2+2GMr/c2]1/2
です。
これを解くと,∫dr/[(B2-c2)/h2)r4+(2GM/h2)r3-r2
+(2GM/c2)r]1/2=φ+α となります。
そこで,φ+-φ-=∫r-r+dr/[(B2-c2)/h2)r4+(2GM/h2)r3
-r2+(2GM/c2)r]1/2と書くことができますから,r=r±となるのは,
明らかにdr/dφ=[(B2-c2)r4/h2+2GMr3/h2-r2+2GMr/c2]1/2=0 が成立するときです。
そして,2GMr/c2=0 というNewton力学近似では,e<1 の楕円軌道の
場合:e≡{(B2-c2)h2+G2M2}1/2/(GM)よりB2<c2の場合には,
このr±はrの2次方程式:
[-(c2-B2)/h2]r2+(2GM/h2)r-1=0
の2根です。
したがって,2GMr/c2=0 なら確かに,
r-=[(GM)/h2-{G2M2-(c2-B2)h2}1/2/h2]/[(c2-B2)/h2]
=ℓ/(1+e),
r+=[(GM)/h2+{G2M2-(c2-B2)h2}1/2/h2]/[(c2-B2)/h2]
=ℓ/(1-e)
となることが再確認できます。
また,ちょっと積分に技巧が必要ですが,これも先に軌道を表わす式から
求めた値により,
φ+-φ-=∫r-r+dr{(r+r-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2
=-∫s-s+ds/{-(s+-s)(s--s)}1/2
=∫0πdu=π が成立することも再確認されます。
ここで,積分を実行するためにr=1/s,s-(s++s-)/2
={(s+-s-)/2}cosuなる変数の置換を行ないました。
しかし,2GMr/c2=0 という近似をしないなら,
φ+-φ-=∫r-r+dr/[{(B2-c2)/h2}r4+(2GM/h2)r3
-r2+(2GM/c2)r]1/2 です。
r±はdr/dφ=0 によるrの3次方程式:
[(B2-c2)/h2]r3+(2GM/h2)r2-r+(2GM/c2)=0 の3根
のうちで正の実数値を取るもののうちの最大値と最小値であると
考えられます。
φ+-φ-=∫r-r+dr/[{(B2-c2)/h2}r4+(2GM/h2)r3
-r2+(2GM/c2)r]1/2 ~∫r-r+(dr/r)/[{(B2-c2)/h2)r2
+(2GM/h2)r-1]1/2-∫r-r+dr(GM/c2)/[{(B2-c2)/h2)r2
+(2GM/h2)r-1]1/2
です。
r±をr+=ℓ/(1+e),r-=ℓ/(1+e)で近似すれば,
φ+-φ-=∫r-r+dr[{(r+r-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2
+(GM/c2)(r+r-)1/2]
=∫r-r+dr{(r+r-)1/2/r}/{-(r-r+)(r-r-)}1/2{(r-r+)(r-r-)}-1/2
=π-(GM/c2)∫r-r+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2
となります。
したがって,Δφ/2=(GM/c2)∫r-r+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2
=(GM/c2)∫r-r+dr/{-(r-r+)(r-r-)}-3/2
=GM/{c2(r+-r-)}∫0πdu/sin2u
となります。
この右辺の積分は無限大になるので,ここで計算作業は一旦挫折してし
まいました。恐らく考慮した近似に無理があるか,どこかで計算間違い
をしたのでしょう。
しかし,ここで休んだ後に,ちょっと方針を変えて再度,計算にトライして
みました。
{(B2-c2)/h2}r3+(2GM/h2)r2-r+(2GM/c2)=0 の3つの
根をr+,r-,r3とおいて,
これを,{(c2-B2)/h2}[-r3-2GMr2/(c2-B2)+h2r/(c2-B2)
-2GMh2/{c2(c2-B2)}]
=[(1-e2)/ℓ2][-(r-r+)(r-r-)(r-r3)]
と書くことにします。
このとき,この3次方程式の根と係数の関係のうちで,特に微小摂動項の
効果が顕著に現われると思われる3根の積に対する
r+r-r3=-2GMh2/{c2(c2-B2)}
なる関係式に着目します。
一方,
φ+-φ-=[ℓ/(1-e2)1/2]∫r-r+dr/ [-r(r-r+)(r-r-)
(r-r3)]1/2
~ [ℓ/(1-e2)1/2]∫r-r+(dr/r)/[-(r-r+)(r-r-)]1/2
[1+(1/2)r3/r]=π+
[(r3ℓ/2)/(1-e2)1/2]∫r-r+(dr/r2)/[-(r-r+)(r-r-)]1/2
=π+[2r3(r+r-)1/2/(r++r-)2]∫0πdu/(1+ecosu)2
となります。
これから,理論に基づいた近似計算値として,
Δφ/2=[2r3(r+r-)1/2/(r++r-)2][π/(1-e2)3/2]
を得ます。
最後の定積分については数学公式集を見て,その三角関数を含む定積分に
関する部分から見つけた公式:
∫0πdx/(a+bcosx)2=πa/(a2-b2)3/2に頼りました。
そして,先に着目した関係式r+r-r3=-2GMh2/{c2(c2-B2)}より
r3=-2GMh2/{r+r-c2(c2-B2)}を代入すると,
Δφ=2πGM(1-e2)/(ℓc2)が得られます。
「理科年表」etc.によると惑星が水星の場合には,e=0.2056,
a=5.79×1010mですが,ℓ=a(1-e2)と表わされますから上の式は
Δφ=2πGM/(ac2)です。
そして,万有引力定数はG=6.672×10-11m3/(kg・s2),太陽の質量は
M=1.9891×1030 kg,ということです。
これらの値と,πラジアン(rad)=180度を秒(≡(1/3600)度)という単位で
表現したものπ=180×3600秒を代入し,水星の平均周期が0.2409年という
ことから,これが100年間に太陽の周りをn=415.1周回することを考慮
すると,
100年間(n=100)での水星の近日点の移動の計算値として,
nΔφ=43.1秒という理論値が得られました。
このことから,他の惑星の効果を無視して相対論的効果のみを考慮した
だけで,観測値とのとても良い一致が得られたことになります。
ということは,他の天体の影響は,相対論的効果と比較して,とても小さいのだろう,などと考えていました。
PS:(2007年12月18日追記) しかし水星の近日点の移動に関する最後の部分の見解については,最近読んだ雑誌記事によって,私自身が大きな誤解をしていたことに気付いたので,ここでお詫びして訂正します。
すなわち,19世紀に海王星の発見に貢献したルヴェリエ(Urbain Leverrier)は,他の惑星に比べて格段に大きい水星の近日点の移動に注目して,その問題を解決すべく仮説を立て,それは他の惑星の影響であろう,と考えました。
そこで,現在はNewtonの万有引力の法則に基づいて解析的に解くことは不可能であることがわかっている中心力の3体以上の多体問題ですが,当時も彼は近似計算を行いました。
しかし,既存の惑星の影響だけからは,どうしても観測値とのくい違いを説明できないので,彼は未発見の新たな惑星の存在を予測しましたが,結局,そうした惑星は発見できなかった,ということです。
観測によると,水星の近日点の移動は100年間に,574秒らしいです。
Leverrierの計算では,このうち38.3秒だけが説明できない,というものでしたが,近代の精密な計算によると,38.3秒ではなく,約43秒が既存の他の惑星からNewton力学によっては説明できない値として残されていた,
というのが真相でした。
この計算値とのくい違いを解決した,と見られるのが上述の一般相対性理論に基づく計算値です。
このことから,他の惑星の効果を無視して相対論的効果のみを考慮しただけで観測値とのとても良い一致が得られたことになります。
ということは,「他の天体の影響は,相対論的効果と比較してとても小さいのだろうなどと考えました。」と述べたのは,
こうした過去の歴史に無知な私の全くの見当違いの発言であるということがわかりましたので,ここで撤回したいと思います。
公の知見を述べることを目指している私のブログで,誤った情報を流して申し訳ありませんでした。
参考文献:大槻義彦,室谷義昭 監修「新数学公式集I(初等関数)」(丸善),理科年表(1997年版) (丸善)
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