110. 複雑系・確率過程・非線型・非平衡

2019年1月 5日 (土)

記事リバイナル⑥「ブラウン運動とフラクタル次元」

※今年もまだ本調子じゃないので過去記事のおさらいからです。2006年5/26の過去記事「ブラウン運動とフラクタル次元」の再掲載です。※

 今日はブラウン運動と確率微分などについて少しの知見を書いてみようと思います。

 そもそもこういう話を最初に紹介してくれたのは,今は無きおy茶の水の現役高校生の予備校「明聖アカデミー」で知りあったS田先生です。彼はもともと宇宙航空関係の仕事をしていたらしいのですが,本当の専門はやはり私と同じく素粒子論だということでした。

 ただし,私より様々な自然科学分野の興味が広いらしいので教えてもらったことも多いですね。

 ただ,自然科学以外に興味を持たないのが彼の若干の欠点かもしれません。それでよく子供ができたものだと思います。(大きなお世話か?)

 彼の紹介してくれた話は,自然科学におけるブラウン運動は確率過程の一種であり,マルチンゲールと関わる株価変動の過程と非常に類似しているという内容のことです。

 確率微分方程式つまり,通常の微分ではなくて確定値をもたない確率変数による微分で積分を定義する伊藤積分を使用することにより,例えば確率分布を対数正規分布と仮定して株価を予測するブラック・ショールズ方程式(Black-Scholes)などを構成できるというものです。

 マルチンゲール(Martingale)というのは現在の時点で将来の期待値を予測計算すると,それは現在の値に等しいという性質のことで,何のことはない,将来を予測しても平均すると今と同じにしかならないということです。

 (ゼロ・サム(zero-sum)という意味でしょう。)

 マルチンゲールは,上に述べたように株価変動のような確率過程(stochastic process)は時間が経過していっても,結局,基本的には何も儲かることはない,というのが原点の話のようです。

 何か,株価を左右する作用因となるモデルを挿入しない限り,株価を予想することはできない,ということになる当たり前の話です。

 ブラック・ショールズのモデル式も理論的には「ノーベル経済学賞」をもらったほどの優秀な理論ですが,実用的意味で株価予測モデルとして使えるかどうかは,疑問です。

 実は,私も以前,保江邦夫氏の書いたブルーバックスを参照して,ブラック・ショールズモデルによる株価予測プログラムをエクセル(MS-Excel)で作ったことがあります。

 しかし,そのときの作用因は「月齢」というまったく非科学的で根拠のないものです。まあ,お遊びですから,月の満ち欠け次第で,株価が上がったり下がったりするというようなプログラムを作ってみただけです。

 一方,ブラウン運動の経路というのは,いたるところ微分不可能であるようなジグザグ曲線で,有限な領域を運動しているにも関わらず,その経路の長さは無限大になります。

 しかし,実は当然のことでブラウン運動の経路は曲線であるにも関わらず,ハウスドルフ次元(Hausdorff dimension)が1次元ではなくて2次元なのです。

 つまり,ブラウン運動の描くのは,見た目では曲線であるものの,ある意味で面を塗り潰しているようなものです。

 それは面積としてはいくら小さくても,その面積を全部,線の長さに変えてしまうと,長さとしては無限大になるというわけです。

 有名なところでは,ペアノ曲線(Peano Curve)というのがあります。これは平面や立体などを全部,曲線で覆うことができるというもので,ペアノの発見した驚くべき話です。

 一般に,トポロジー(topology:位相幾何学)の見方では,次元というのは写像に関しての不変量です。つまり,「集合をある連続写像で別の集合に写したときには,元の集合と写された集合の次元は全く同じでなければならない,のが当然である。」というわけです。

 したがって,トポロジー的(位相的)には「1次元の写像である曲線で2次元の面を覆う。」などというのは,"トンデモない話"であるわけです。

 このトポロジーでの,われわれが通常用いている空間3次元,平面2次元などの次元のことは位相次元といいます。

 では,なぜペアノ曲線などが有り得るのか?というと,それは次のような理由になります。

 トポロジーによると,2つの集合AとBの間に「連続写像で,かつその逆写像も存在して連続である。」という同相写像の存在条件が満たされていることがAとBが同相(homeomorhic:位相同型)であるための必要十分条件です。

 そして,先の命題は,「同相な多様体(空間,集合)では,その次元も同じである。」ということを述べているに過ぎないわけです。

 したがって,花粉の運動から発見されたブラウン運動などは連続な曲線を描くのですが,いたるところ微分不可能な曲線である。ということは,「逆写像が存在して連続である。」というわけではないということになります。

 このブラウン運動の描く軌道曲線の写像は,当然ながら,トポロジーの意味で同相写像ではないということですね。

 ブラウン運動の曲線長さは有界変動ではないので,これを積分の測度として解析学などで普通に積分として使用されているルベーグ-スティルチェス積分(Lebesgue-Stieltjes integral)の線積分を定義しようとしても定義できません。

 そこで,有界変動でないものについても積分を定義できる方法を第2次大戦中だったか,その直後だったかに考え出したのが,日本の伊藤清氏です。

 彼の考案した確率積分を伊藤積分と呼びます。これはマルチンゲールの性質を満たしています。

 こうした特殊な積分では,積分和を作るのに微小積分区間の先頭の値を取るか,中央の値を取るか,後ろの値を取るか,によって極限値としての積分が異なるのですが,伊藤積分は先頭値を取ることによりマルチンゲールが成立するようになっています。

 中央値を取る積分はストラトノヴィッチ積分(Stratonovich integral)と呼ばれます。例えば量子力学での経路積分(path-integral)は,通常は中央値を用いて定義されるので,ストラトノヴィッチ積分に相当するものです。

  最近フラクタル(fractale)という話もよく聞きますが,フラクタル次元というのはハウスドルフ次元と同じような意味で使います。

 例えば,日本の国のある島の面積の値なら確かに測定することにより決めることができますが,その島の周りの長さというものは,いくら測定しても事実上決定することはできません。

 つまり,「島の周りの長さを測る物差しのサイズが小さければ小さいほど,その長さが大きい値に測定されてしまう。」ということが起こるからです。

 フラクタルというのは,三陸やフィヨルド(fjord)にあるような「リアス式海岸」の形に似ていて,図形の各部分が元の図形と相似である,つまり,図形の輪郭の細部を顕微鏡で見ると大きさは小さいが形は全体と全く同じ,というものです。

 こうしたフラクタル図形の周囲の長さ,非常に短い物差しで測ると,測り切れなくて,長さの総和は物差しのサイズがゼロの極限では無限大になってしまうことになります。

 厳密には,ハウスドルフ次元が,位相次元を超えるものが「フラクタル」と呼ばれるものです。

 長さというのは,位相次元が1の量なのに,それで測って無限大の長さになるということは,ハウスドルフ次元が"位相次元=1"より大きいということです。

  ハウスドルフ次元の定義というのは,説明が結構むずかしいです。

 参考書によれば,

"ある図形を一辺の長さが高々δであるような位相次元sの微小部分のN 個の集まりとしたとき,H (s)≡N・δs (δ→ 0, N→ ∞ )の値が,s<mなら無限大に, s>mではゼロとなるとき,その境界の m をこの図形のハウスドルフ次元と呼ぶ。"

とあります。

 例えば,位相次元が2の正方形の各辺を等分すると,次元 2の微小な正方形の集まりとなります。それを全部加えると,どんなに細分しても合計の面積は有限で同じ値になります。

 ところが,その面積を次元1の微小な線分の集まりとすると,通常はその全ての線分の長さの合計は無限大になります。

 一方,次元が3の立方体の集まりと考えると,体積としては常に高さがゼロなので総体積はゼロです。

 したがって,無限大とゼロの境界の次元2がハウスドルフ次元となると解釈されます。

 フラクタルとか,ブラウン運動とかではない通常の図形の場合なら,ハウスドルフ次元は位相次元と一致するわけですね。

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2011年3月17日 (木)

生態系とロトカ・ヴォルテラ方程式

地震でゴタゴタしていますが,ちょっと気分転換?の科学記事として

生態系のモデル,あるいは"”食物連鎖=弱肉強食の生存競争"の推移

を表わす数理生物学のモデルを紹介してみます。

  

以前,カオス(chaos)をもたらす非線型方程式の1つである

ロジスティック方程式(logistic equation)を紹介しました。

 

それは2006年7/20の記事「人口増加とロジスティック曲線

ですが,これは人口の増加曲線がロジスティック方程式の解で

近似できると考えたものです。

 

以下では人口などの1つだけの個体数を対象としたロジスティック

方程式を複数の個体の増減を記述できるものに拡張した競争モデル

:ロトカ・ヴォルテラ(Lotka-Volterra)方程式を紹介します。

 

まず,過去のブログ記事「人口増加とロジスティック曲線」の必要

部分を再掲します。

 

(再掲開始)

 

まず,全世界,または比較的出入りの少ない閉じた地域の現在の

人口をN人とし,Δt年間にN人とΔtに比例して,kNΔt人

だけ人口が増加するとします。

 

今の時刻(年)をtとして,年間の人口増加率kがk=b-d(ただし,

bは出生率,dは死亡率)で与えられる単純なモデルを想定するわけ

です。

 

kが一定であると仮定すると,(t+Δt)年の人口:N1=N+ΔN

はΔN=kNΔtによりN(1+kΔt)となります。

 

同様に,さらにΔt年後の(t+2Δt)年の人口N2は,

2=N1+kN1Δt=N1(1+kΔt)=N(1+kΔt)2

です。

 

結局,時刻(t+nΔt)年の人口Nn人はN(1+kΔt)nになる

と予測されます。

 

k>0 であれば,正に人口はネズミ算的に増えてゆきますね。

 

Δtが無限小:dtならΔN/N=kΔtは,dN/dt=kN

を意味します。

 

この微分方程式を解けばt=0 での人口をN(t=0)=N0として

時刻tにおける人口は,N=N(t)=N0exp(kt)で与えられる

ということになります。

 

これを見るとk>0 ならt→ ∞ではN→ ∞ですが,逆にk<0

ならN→ 0 なのでやがて絶滅してしまいます。

 

しかし実際にはΔtの間にはいろいろな災害や環境の変化など

があって,人口増加率kは一定でなくかなりの変化を受けると

考えられます。

 

一般に人間をも含む生物個体の増加は個体数Nが増えれば増える

ほど妨げられる傾向がありますから,

それは増加率がk=(一定)からk(1-αN)(α>0)になるような

効果で表わすことができます。

 

このモデルはロジスティックモデル(logistic model)と呼ばれます。

 

例えば島のような限られた地域に単一の装飾動物のみが生息

していて,そこにある植物を食べることだけで生きているなら,

その生物の数が増加し過ぎると食料が不足し,結果,個体の増加

が抑制されるでしょう。

 

実は地球全体も食料の限られた領域と考えることができます。

 

そして,このモデルによると,増加率:k(1-αN)(α>0)において

αN>1なら人口(個体総数)Nは増加し,逆ならNは減少しますね。

 

これは,Nに対する微分方程式の形では,dN/dt=kN(1-αN)

という非線型微分方程式になります。

 

これを解くと,N=N(t)=N0/[αN0{1-exp(αt)}+exp(αt)],

あるいは,N(t)=(1/α)/[1+{1/(αN0)-1}exp(-kt)]です。

 

 これの描く(N-t)曲線をロジスティック曲線(logistic-curve)と

 呼びます。

 (下にその曲線を図示します。:

 他のホームページから借用した図なので縦軸は世界人口と特定されて

 いますが,単一の生物の個体数で置き換えることもできます。)

これを見ると,t → ∞ の極限では,N → 1/αとなり人口

(個体総数)Nは,ある一定の極限値に到達します。

 

そして,それ以上は増加も減少もしません。

 

この,ロジスティックモデルは実際に生態学(ecology)において

個体の増加減少の履歴と一致する例が多々あり,人口にも適用で

きると考えられています。

 

これは,正に「増え過ぎた生物は抑制される」という自然の摂理

(=神の摂理)を体現するモデルの一つになっています。

 

人類は,自然界に天敵がいないことや医学の進歩,軍縮などによる

戦争の減少?etc.によって,この摂理を次第に破壊し結果的に生態

系を破壊しつつあると思われます。

 

やがては,この神の摂理の破壊の報いを受けるかも知れません。

 

ところで,ロジスティック微分方程式のdt=Δtの刻みを調節

し中心差分の差分方程式として離散化すると,kの値によっては

tが大きいところで解が不安定な人口増減振動をするカオス現象

起こすことが知られています。

 

この不安定性は数値解析の目的で"離散化=差分化"を行なったた

めに生じたものですが,現実の現象のモデルとしては時間刻みが

無限小の微分方程式よりも時間刻み有限の差分方程式の方が適切

かも知れません。

 

カオス(chaos)の例としては上記のロジスティック模型:

n+1=axn (1-xn)は典型的なものです。

(※注:上記ロジスティックモデル式の差分形は,

ΔN/Δt=kN(1-αN)ですが,この差分方程式

関数方程式(=数列の漸化式)としての形は,明らかに,

 

n+1=Nn+kNn(1-αNn)Δt

=Nn(1+kΔt-αkNnΔt) です。

 

そこで,a=1+kΔt,xn =αkNn/(1+kΔt)とおいて,

 

n+1=Nn(1+kΔt-αkNnΔt)の両辺に,

αk/(1+kΔt)を掛けることにより,直ちに

n+1=axn (1-xn)の形になります。(注終わり※)

  

n+1=axn (1-xn)は,時間刻みΔtの選択に相当する

a=1+kΔt,の値の選択によっては,

リー・ヨーク(Li-Yorke)の定理」にあるカオス発生条件

を満たします。

 

参考文献:山口昌也 著「カオス入門」(朝倉書店),山口昌也 編著「数値解析と非線型現象」(日本評論社)

(再掲終了)※

 

 さて,本日の新記事としては,上記「ロジスティックモデル」

 の内容を要約することから始めます。

 

 まず,全世界,あるいは外部から流出入のない閉じた地域の

 個体数(人口)をNとします。

 

 1年当たりの出生率をb,死亡率をdとして個体の増加率:

 k=b-dが一定であるとすると,

 

 Δt年間にNに比例して,

 ΔN=(kΔt)Nだけ増加するという単純なモデル:

 dN/dt=kNを考えることができて,これの解は

 N=Nexp(kt)となります。

 

 これから,k=b-d>0 :(出生率)>(死亡率)なら,

 個体はネズミ算的に増加し,逆にk<0:(出生率)<(死亡率)

 なら絶滅するという単純指数モデルを得ます。

 

 しかし,実際には自然界の外部環境:空気,水,土地や気候などは,

 個体数に依らず一定であっても,個体数が増えすぎると食料不足

 など他に増加を妨げる環境要素が存在して,現実のk=b-d

 =(出生率)-(死亡率)は一定ではありません。

 

 この効果を増加率が個体数Nに比例して減少するとして,

 b-d=k(1-αN)(α>0)で表現したものが,

 ロジスティック方程式dN/dt=kN(1-αN)です。

 

 例えば,人間のように天敵がいない(※実はウィルスなどバクテリア

 まで考えると天敵はいます)とか,肉食動物が侵入しないごく小さな

 閉じた地域に1種類の草食動物しかいないというような場合にこの

 モデルはかなりうまく適合するようです。

 

 しかし,今まで1種類の"個体=草食動物"しかいなかった地域

 に別地域からこの動物を捕えて食料とする個体=肉食動物が

 侵入した場合を想定すると事態は変わってきます。

 

 この場合の個体数の増減を記述するために,

 "元々いた個体=草食動物"に番号1を付け"他から侵入して

 これを捕食する個体=肉小動物"に2を付けて区別して,

 各々の個体数をそれぞれN1,N2で記述することにします。

 

 ロジスティックモデルでは個体1の数N1はΔt年間に,

 k11(1-α11)Δtだけ増加するとしたのですが,

 これを食べる個体2が存在する場合,この増加率k1(1-α11)

 がk1(1-α11-β122/k1)に変わるというモデルを考えます。

 

 すなわち,Δt年間の個体1の増加分ΔN1はN2=0であった頃は

 ΔN1=k11(1-α11)Δtでしたが,

  

 個体2の存在:N2>0 により,これに加えてさらにN1,N2の双方に

 比例するβ1212Δtだけの個体1の数N1の減少があると考え,

 ΔN1=k11(1-α11)Δt-β1212Δt

 =k11(1-α11-β122/k1)Δt

 とするわけです。

 

 こうすると1に対する時間発展はΔtを無限小のdtとした

 微分方程式形では,dN1/dt=k11(1-α11-β122/k1)

 となります。

 

 逆に,個体2の方はロジスティックモデルでは増加分が

 ΔN2=k22(1-α12)Δtですが,

 これに,捕食による増加の効果β2121Δtを加えて,

 dN2/dt=k22(1-α22+β211/k2)とします。

 

 今のところは,k1>0,k2>0,β12>0,β21>0

 と仮定しています。

 

 こうして個体1,2の増減を示すモデルとして,

 非線型な連立微分方程式:

 dN1/dt=k11(1-α11-β122/k1)..(1),

 dN2/dt=k22(1-α22+β211/k2)..(2)

 が得られました。

 

 次に,これを解くことを考えます。

 

 まず,(1)×β21と(2)×β12を加えると,

 β21(dN1/dt)+β12(dN2/dt)

 =k1β211(1-α11)+k2β122(1-α12)

 となります。

 

 つまり,d(β211+β122)/dt

 =(k1β211+k2β122)-(k1β21α112-k2β12α222)..(3)

 です。

 

 一方,(1)×(k2/N1)-(2)×(k1/N2)から,

 (k2/N1)(dN1/dt)-(k1/N2)(dN2/dt)

 =k12(1-α11-β122/k1)-k12(1-α22+β211/k2)

 =-(k1β211+k2β122)-k1211-α22)

 が得られます。

 

 つまり,d(k2logN1+k1logN2)/dt

 =-(k1β211+k2β122)-k1211-α22)..(4)

 です。

 

 (3)と(4)を加えると,

 (d/dt)(β211+β122+k2logN1+k1logN2)

 =-k1211-α22-(β211α112-β122α222)..(5)

 となります。

 

 一般には,これ以上解析的に解くのは困難です。

 

 しかし,基本方程式系:

 dN1/dt=k11(1-α11-β122/k1)(1),

 dN2/dt=k22(1-α22+β211/k2)(2)

 の右辺の増加率において,

 

 1,N2による2次の効果のうち他の動物による以外の環境による

 減衰項:-k1α112,-k2α12が,被食捕食関係の効果:

 -β12122112に比べて無視できるほど小さい場合なら,

 α1=α2=0 の近似で解析的方法で解くこともできます。

 

 すなわち,基本方程式(1),(2)は,それぞれ,

 dN1/dt=k11(1-β122/k1)..(1)',

 dN2/dt=k22(1+β211/k2)..(2)'

 に変わります。

 

 これはロトカ・ヴォルテラ(Lotka-Volterra)方程式と呼ばれます。

 

 これは,例えば草食動物が食べる草は無尽蔵にあって2種の動物

 以外には増加率(生死)に影響を与える外部環境はないとするもの

 です。

 

 この方程式系では式(5):

 (d/dt)(β211+β122+k2logN1+k1logN2

 =-k1211-α22)-(β211α112-β122α222)

 は,右辺でα1=α2=0 なので,

 

 H≡β211+β122+k2logN1+k1logN2と置けば

 dH/dt=0 になります。

 すなわち,H=β211+β122+k2logN1+k1logN2は,

 力学などでのエネルギーのように時間的に一定な保存量

 (constant)です。

 

 あるいは,H=log[exp(β211+β122)]+k2logN1+k1logN2

 =log[N1k22k1exp(β211+β122)]なので,

 

 A≡N1k22k1exp(β211+β122)が保存量であるということも

 できます。

 

 211+k2logN1)+(β122+k1logN2)=C1(一定),

 あるいはN1k2exp(β211)×N2k1exp(β211)=C2(一定)

 (k1>0,k2>0,β12>0,β21>0)ですから,

 

 通常はN1が増えればN2が減少しN2が増えればN1が減少する

 という関係にbなっています。

 

 しかし,N1が減少し過ぎるとそれを食べるN2の食料が不足になり,

 その増加にブレーキがかかり,その結果N1が増加に転じます。

 

 これは自然界の関係をうまく表現していると思います。

 

 実際に被食捕食関係にある2個体数の年ごとの変動を示す履歴

 データがあれば,それとこのモデル式を比較して,例えば,

 非線型最小二乗法によりk,βなどのパラメータフィッティング

 を行なえばかなり合理的な予測曲線が得られると期待できます。

 

 さて,ここで外部環境の影響も無視しない一般的な

 2個体の基本方程式系:

 dN1/dt=k11(1-α11-β122/k1)..(1),

 dN2/dt=k22(1-α22+β211/k2)..(2)

 (k1>0,k2>0,β12>0,β21>0)

 に戻ります。

 

 これはパラメータβ1221の符号にこだわらず,

 (2)式でのβ21>0を-β21>0 と定義し直せば

 dN1/dt=k11(1-α11-β122/k1),

 dN2/dt=k22(1-α22-β211/k2)となり,

 個体1と2の方程式形が同じ(対等な形)になります。

 

 そこで,3個体なら方程式系を,

 dN1/dt=k11{1-α11-(β122+β133)/k1},

 dN2/dt=k22{1-α22-(β211+β233)/k2},

 dN3/dt=k33{1-α33-(β312+β322)/k3}

 と拡張すできると考えられます。

 

 さらに,一般にn個体に対する方程式系としては,

 dNj/dt=kjj{1-αjj-(Σk=1nβjkk)/kj}

 ;j=1,2,..、n,ただしβjj=0 ..(6)

 と一般化できます。

 

 しかしながら,もしもバクテリア,プランクトンをも含む植物,動物

 の全生物を対象とするなら生物の種類nは膨大な数になりますが,

 自分以外に全く他の生物と無関係な外部パラメータなどは存在し

 得ないので全てのαjをゼロと考えることができます。

 

 すると,全n個体数に対する方程式系:

 dNj/dt=kjj{1-αjj-(Σk=1nβjkk)/kj}

 (j=1,2,..、n)..(6)

 は,dNj/dt=kjj[1-(Σk=1nβjkk)/kj]

 =Nj(kj-Σk=1nβjkk)(j=1,2,..、n)

 となります。

 

ここで,N1,N2,..,Nn未知数とする定数係数の連立1次方程式:

j-Σk=1nβjkk=0,つまりΣk=1nβjkk=kj(j=1,2,..、n)

が解N10,N20,..,Nn0を持つとします。

 

さらにxj≡log(Nj/Nj0)と置いてtで微分すると.

dxj/dt=(1/Nj)(dNj/dt)=kj-Σk=1nβjkk

=Σk=1nβjk(Nk0-Nk)=Σk=1nβjkk0(1-Nk/Nk0)

=Σk=1nβjkk0{1-exp(xk)}=kj-Σk=1nβjkk0exp(xk)

です。

 

一方,d{exp(xj)}/dt=exp(xj)(dxj/dt)ですから,

d{xj-exp(xj)}/dt=dxj/dt-dexp(xj)/dt

=Σk=1nβjkk0{1-exp(xj)}{1-exp(xk)} です。

  

それ故,G≡Σj=1nj0{xj-exp(xj)}と置けば,

dG/dt=Σj=1nΣk=1njkj0k0{1-exp(xj)}{1-exp(xk)}]

=0 を得ます。

  

なぜなら,右辺を,Σj=1nΣk=1njk ;

jk≡βjkj0k0{1-exp(xj)}{1-exp(xk)}と書けば,

単なる添字j,kの交換に対して総和は不変なのに,

kj≡-Qjkによって符号を変えるからです。

 

よってG=Σj=1nj0{xj-exp(xj)}は保存量です。

 

私が思うに,これは例えばアメリカ大陸西海岸で起きたの地震が

タイムラグもなく瞬時に日本の太平洋岸に津波をもたらすと考

えるような伝播速度を無限大とする拡散型方程式です。

 

それ故,これは古典力学なら,伝播速度を無限大とするニュートン

力学に相当し伝播速度有限の相対論は考慮されてないようなもの

です。

 

話は変わりますが,かつてのヨーロッパで論じられていた古典

経済学でも,世界はイギリスやドイツが中心のヨ-ロッパだけ

で閉じていました。

 

交通,通信手段による伝播は瞬時でタイムラグによる資本主義

の不均等発展の結果としての発展途上国の存在,

今のように自国の矛盾をそうした他国にしわ寄せして生きのびる

という面を無視したものでしたネ。

 

今,問題としている生態系モデルも,はるか遠方の個体の増減が

当該地域に伝播するまでの速度やタイムラグをパラメータの中

に考慮できるほどの精度はまだないと思います。

 

また,地球上には金属や鉱石など無機物を食料とするような生命体

は存在しないと思っています。

 

機械,ロボットの存在が生物に影響を及ぼしても空気や水と同じく

その効果は個々の個体の数には依存しないはずです。

 

植物も動物の排泄した糞尿など有機肥料のみを糧とするような

自然な生態系では,それは地球自体の経年変化以上には変化しない

はずなのですが,食物連鎖の中に人間が手を加えた化学合成の肥料

などが入るというのはどうなんでしょうかね?

 

ゴミであっても合成されたものではない糞尿や果物の種,皮,料理

に用いた野菜の残りなど有機ゴミであれば道端に投棄しても自然

に風化して自然に帰るはずなんですが,都会の道端にはもはや土は

なく舗装されてコンクリートばかりだったりします。

 

参考文献:戸田盛和 著「非線型問題30講」(岩波書店)

 

PS:3月18日(金)の朝です。

 

昨年8月に引っ越してから半年余りが経ちました。

 

部屋の中の物の配置が引越し時のままで別に何も考えていません

でしたが地震を機会に整理をしようと思い付きました。

 

疲れやすい体で重いものを運ぶのは無理でも1日30分でも1時間

でもコツコツと大きいものも少しずつ動かして自分自身が生活し

やすい空間にしたいと,昨日(17日)から模様替えを始めました。

 

ついでにブログでの過去記事の整理で訃報や芸能人関連を中心に

使用可能な顔写真の挿入作業も始めました。

PS2:私は,有機物と無機物の区別については,生物が関連する物質を有機物,それ以外を無機物という程度の認識しかありませんでした。

 これでは,本文の"また,地球上には金属や鉱石など無機物を食料とするような生命体は存在しないと思っています。"という内容は単に同義語反復の意味でのトートロジーであり無意味でしたね。

 なお,化学大事典によれば以下の通りらしいです。これ,定義というにはかなり曖昧ですが,この程度でいいのでしょうか?

(PDF:http://www.prtr.nite.go.jp/prtr/pdf/clasexp.pdf より)

1.無機化合物

 比較的小数の簡単な炭素化合物(炭素の酸化物、シアンなど)以外の炭素化合物,すなわち一般に有機化合物と通称している化合物を除いた全ての化合物を言う。

 炭素以外の元素のみを含む化合物,及び炭素化合物でも比較的簡単な化合物,例えば酸化物(CO2,CO,C32など),シアン(CN)及びシアン化物(C22,KCN,Na3Fe(CN)6など),チオシアン酸塩(NaSCNなど),炭酸塩(K2CO3,KHCO2など)などを総称して言う。

 ただし,簡単な炭素化合物といっても塩化物(CCl4など),硫化物(CS2など)などでは,いわゆる有機物としての性質が強く,有機化合物に分類されることが多い。

 また,シュウ酸塩や酢酸塩のようにいずれにも分類しうるものもある。[化学大事典(共立出版株式会社)より抜粋]

2.有機化合物

 有機化合物の定義は歴史的な変遷があり,現在では大体炭素化合物と同意語のように慣用されている。

 無数といって良いほどの有機化合物も構成している元素の種類は非常に少なく,C,Hの2元素から成るもの,C,H,OあるいはC,H,Nの3元素から成るもの,及びC,H,N,Oの4元素から成るものが圧倒的に多い。

 これら4元素の他に,S,P,ハロゲン(F,Cl,Br,I)を含むものも多く,B,Si等を含むもの,各種金属を含む有機金属化合物も知られている。

 現在の慣用では炭素化合物の全てを有機化合物とは言わない。一酸化炭素,二酸化炭素,炭酸及びその塩類などは無機化合物として扱われている。

 炭素化合物の内C-H結合を含むものを有機化合物とするという定義もあるが,これも厳密なものではなく,例えばシュウ酸はC-H結合を含まないが有機化合物として取り扱われる。

 四塩化炭素,ホスゲン,シアンなどは中間的なもので有機化合物として取り扱うこともあり,無機化合物として取り扱うこともある。[化学大事典(共立出版株式会社)より抜粋]

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2010年6月18日 (金)

量子テレポーテーション(ネルソン方程式:テスト)

  エクセル 「量子テレポーテーション」 テストです。。。

 エクセル・ファイルと図が出たらF9を押してみてください。

 マクロ(Macro)を使っているので,エクセル(MS-Excel)がインストールされていて"マクロを使用する"というオプションになっていれば,テレポートします。

 つまり,量子論を確率過程と見なす,ネルソン(Nelson)方程式を模式化してExcelプログラミングとして,入力しているので,時間軸に沿う軌道が,突然,確率的に変動してテレポートするように見えます。

 最後に,×印をクリックしてファイルを閉じるときは,「変更を保存しますか?」というメッセージボックスが出ます。

 "保存する=はい。"を押しても別に何も不都合は起きませんが,ファイルが閉じず,メッセージボックスも閉じないと思われるので,最後には"変更を保存しない(変更を破棄する)"="いいえ"を押してください。

 このファイル壊れたり無くなったりしても元があるのでかまいませんが。。

 あまり変節すると,この記事の意図するところが伝わらなくなるので。。。

参考文献:保江 邦夫 著「Excelで学ぶ量子力学-量子の世界を覗き見る確率力学入門(ブルーバックス)」(講談社),長澤 正雄 著「シュレーディンガーのジレンマと夢」(森北出版),

 保江邦夫 著「量子の道草-方程式のある風景」(日本評論社),保江 邦夫 著「Excelで学ぶ金融市場予測の科学(ブルーバックス)」(講談社)

 

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2009年10月11日 (日)

空気分子の大きさ(アインシュタインとブラウン運動)

 地球大気の温室効果について段階的に論じていこうと思います。

 

 まずは,私自身が"自己満足"して納得するため,2006年11/21の記事「地球の平均気温とステファン・ボルツマンの法則」において,温室効果を無視した地球平均気温(=約-18℃)という定量的評価のための材料とした「太陽からの輻射に対するアルベド(albedo:反射率)が30~31%であること」の理論的根拠などから論じてゆきます。

  

 今日は,まず太陽から地球に放射される光が地球表面で散乱され減衰することと関連して,大気圏での主要な散乱体である"主に窒素と酸素から構成された空気分子"の大きさを評価することから始めます。

 

 そのための方法として植物学者ブラウン(Brown)の「花粉の水中運動の永久性=ブラウン運動"の発見(1829)」に対する「アインシュタイン(Einstein)の解明(1905)」の話から始めようと思います。

 媒質中のブラウン粒子の運動を位置座標のx成分の軌道で代表させると,その運動方程式はu≡dx/dtとしてm(du/dt)=X(t)-u/μで与えられると考えられます。

ここにmは対象粒子の質量,X(t)は媒質からその粒子にかかる力のx成分,μは易動度と呼ばれる量で,u/μが媒質の速度に比例する摩擦力となるようなケースでの比例係数の逆数です。

 

m(du/dt)=X(t)-u/μの左辺がゼロの定常状態に達した場合ならu=μXですが,これが易動度という言葉の意味ですね。

流体力学のストークス(Stokes)の抵抗法則によれば,ブラウン粒子を半径aの球と仮定しηを媒質の粘性率とすると,この程度のレイノルズ数では 1/μ=6πηaと書けるはずです。

ストークスの法則の詳細は,2007年7/27の「遅い粘性流(1)(Stokes近似)」,および2007年7/28の記事「遅い粘性流(2)(Stokes近似)

そして,それに続く2007年7/31の記事「遅い粘性流(5)(Stokes近似)」を参照してください。

ブラウン運動の方程式:m(du/dt)=X(t)-u/μはランジュバン(Langevin)方程式:du/dt=-γu-R(t)/m (R(t)は"ゆらぎ=揺動",または雑音の影響を表わす量)と同じものです。

ランジュバン方程式については非平衡統計力学の線型応答理論に関連した2007年7/20の記事「揺動散逸定理 」を参照してください。

運動方程式:m(du/dt)=X(t)-u/μ (u=dx/dt)の両辺にx=x(t)を掛けてtについて0からtまで積分すると,左辺はm∫0t(xdu/dt)dt=m∫0t(xd2x/dt2)dt=[mxdx/dt]0t-m∫0t(dx/dt)2dtです。

 

一方,右辺は∫0tXxdt-(1/μ)∫0t(xdx/dt)dt=∫0tXxdt-(1/μ)∫0t[d/dt{x2/2}]dt=∫0tXxdt-(1/μ)[x2/2]0tとなります。

したがって,[mxu]0t-m∫0t2dt=∫0tXxdt-(1/μ)[x2/2]0tを得ます。

 

ところが,tが十分長ければ右辺第1項∫0tXxdtはX(t)が正負の全くランダムな値を取るために消えるはずです。

そして,統計力学のエネルギー等分配の法則により長時間平均の意味でm∫0t2dt=(t<mu2>)t→∞=kBTtとなります。ここにkBはボルツマン(Boltzmann)定数,Tは絶対温度です。

そこで,t→ ∞では[mxu]0t-kBTt=-(1/μ)[x2/2]0tです。それ故,大きいtで[mxu]0tが省略できる場合には<x2AV≡([x2]0t)t→∞=2μkBTtとなります。

 

こちらの<x2AVは,前の<mu2>のような長時間平均ではなく時刻tにおける相空間平均(確率平均)です。

実際,<u21/2~ (kBT/m)1/2ですがエルゴード性により時刻tにおける空間平均という意味でもu~ (kBT/m)1/2すから,x ~(2μkBTt)1/2であれば,<mxu>AV=[mxu]0t~kBT(2mμt)1/2となります。

  

そこで,[mxu]0tの値は大きいtに対してt1/2のオーダーですからtと比較して省略できることがわかります。

一方,ブラウン運動を時間τごとに微小長さを進む酔歩の問題と考えると次のように考察されます。

これは私のブログでは既にずいぶん前に考察済みです。

 

2006年9/14のブログ記事「酔歩(ランダム・ウォーク) 」から該当部分を多少修正して再掲します。

(再掲開始)

 

1次元ではx軸の上で左右どちらにも1歩ずつ動くことができて1歩の長さが一定値λであるとします。そして左右どちらかに進む確率は両側共に1/2であるとします。

x軸の原点から出発しててN歩の後にx=nλ(-N≦n≦N)の位置にいる確率をP(n,N)とすると,正の向きにN+,負の向きにN-歩いてxに到達するとした場合の数がN!/(N+!N-!)ですから,P(n,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)Nとなるはずです。

ただし,N++N-=N,+-N-=nなので単純に計算すると+(N+n)/2,-(N-n)/2ですが,N+nとN-nは一方が奇数なら他方も奇数,一方が偶数なら他方も偶数です。これらが偶数でなければ負でない整数なることが必要な+もN-も存在しません。 

したがって,N-nが偶数のときには(n,N)={N!/(N+!N-!)}(1/2)N(N+(N+n)/2,-(N-n)/2)ですが,N-nが奇数のときには(n,N)=0 です。

ここで,nが非常に大きいときのスタ-リングの公式:n!~(2π)1/2exp(-n)n(n+1/2),あるいはlog(n!)~(1/2)log(2π)+(n+1/2)log(n)-nを使用します。

N-nが偶数でNが非常に大きいとすれば,+(N+n)/2,-(N-n)/2も非常に大きいことになってlog{(n,N)}~ -Nlog2+NlogN-N+logN+-N-logN-(1/2)log(2π)+(1/2)(logN-logN+logN-)=(1/2)log{2/(πN)}-(N/2)[{1+(n+1)/N}log{1+(n/N)}+{1+(1-n)/N}log{1-(n/N)}]です。

ここで,n<<Nと考えて上のα=n/Nの対数関数において,αの2次までの近似展開:log(1-α)~ -α-α2/2,log(1+α)~ α-α2/2を利用します。

すると,log{(n,N)}~(1/2)log{2/πN)}-(N/2)(n/N)2より(n,N) ~{2/(πN)}1/2exp{-n2/(2N)}です。

ここで,x=nλ(-N≦n≦N)の酔歩の1歩の長さλは非常に小さいとしてN-nが偶数と奇数の両方の場合を考慮すれば,xがxとx+dxの間にある確率は(x,N)dx=(1/2){2/(πN)}1/2exp{-x2/(2Nλ2)}(dx/λ)(2πNλ2)-1/2exp{-x2/(2Nλ2)}dxです。

これは,Nλ→ ∞,λ→ 0,かつNλ2→σ2(有限)の条件で,xについて積分すると1になるので,確かに確率密度の条件を満たしています。

 一方,2次元での確率密度は,モデルが等方的なので単純に上の1次元の式で2をr2≡x2+y2で置き換えるだけでいいと考えられるところですが,実は1歩の各方向への成分Δx,ΔyがΔx2+Δy2=λ2を満たす必要があるので修正が必要です。

x方向とy方向を対等に扱うと,Δx2=Δy2=λ2/2なのでN歩で位置=(x,y)に到達する確率密度は,全平面で1になるように規格化してP(x,y,N)dxdy=(πNλ2)-1exp{-x2/(Nλ2)}exp{-y2/(Nλ2)}dxdy=(πNλ2)-1exp{-r2/(Nλ2)}2になります。 

同様に,3次元ではr2=x2+y2+z2としてΔx2=Δy2=Δz2=λ2/3により,位置=(x,y,z)に到達する確率は(x,y,z,N)dxdydz={(2/3)πNλ2}-3/2exp[-r2/{(2/3)Nλ2}]3になると考えられます。 

  特に,3次元の一般式でt=Nτ,D=λ2/(6τ)と置けば,4Dt=(2/3)Nλ2となるため,時刻tに位置に存在する確率はP(,t)=(x,y,z,N)=(4πDt)-3/2exp{-r2/(4Dt)}と書けます。

これは,丁度拡散係数がDの拡散方程式∂P/∂t=D∇2Pにおいて初期時刻t=0 に確率密度が原点に集中しているときの解,すなわち,初期値がP(,0)=δ3()のときのP(,t)の一意解に一致しています。(再掲終わり)※

そこで,この確率密度(,t)に基づいて計算すれば,x方向の"ゆらぎ=揺動",つまりt=0 に確率1で原点=0 にあった場合の時刻tでの平均位置(=0)からのずれxの2乗平均値は,<x2AV=∫-∞[x2(,t)]d3(4πDt)-1/2-∞[2exp{-x2/(4Dt)}dx=2Dtとなります。

これを,先にブラウン運動の1次元方程式から求めたxのゆらぎの表現:<x2AV([x2]0t)t→∞=2μkBTtと比較すれば,D=μBT(アインシュタインの関係式)が得られます。

,媒質の粘性率をηとし拡散粒子の半径をaとすれば,先に求めた易動度μに対するストークスの式:1/μ=6πηaから,D=kBT/(6πηa)なる等式が得られます。これをアインシュタイン・ストークスの関係式と呼びます。

ここで理科年表によると,空気の粘性率は温度が常温25℃=298Kでη=18.2×10-3Ns/m2,またkB=R/NA=1.38×10-23J/Kです。R~8.31J/(Kmol)は気体定数,NA~6.02×10-23/molはアヴォガドロ数(ロシュミット数)です。 

また,質量がmの気体分子の速度をとすると,統計力学によって平衡状態での2乗平均の速度は(<2AV)1/2=(3B/m)1/2です。一方,速度の絶対値||の平均は<||>AV={8B/(πm)}1/2です。

 

空気をO2とN2の1:4の混合気体とみると分子質量はm=28.8/NA(g)~ 4.78×10-26(kg)ですから,常温T=298Kでの2乗平均速度は21/2 ~ (3B/m)1/2~ 約508(m/s)です。

 

一方,絶対値平均速度で見ると,<||>AV={8B/(πm)}1/2~ 約468(m/s),ですです。

さて,気体分子を直径がdの剛体球とモデル化すると,2つの気体分子の中心間距離がdになるときにこれらは衝突します。

 

そして,1つの分子が衝突するまでに分子が移動する平均の距離を平均自由行程と呼びます。これは先に述べた酔歩の1歩に相当するので同じ記号λで表わすことにします。

 

1つの気体分子から見るとその中心を底面中心として体積がπd2λの円筒内に他の分子が1個入るという勘定になります。

 

したがって,気体分子数密度をnとするとπd2λn=1ですから平均自由行程はλ=1/(πd2n)と評価されます。

  

さて,速度=(u,v,w)=(vx,vy,vz)の各成分がvx~vx+dvx,vy~vy+dvy,vz~vz+dvzの間にある分子数をf(vx,vy,vz)dvxdvydvz=f()d3とします。

 

全分子数をNとするとf()は全速度空間で積分して∫f()d3=Nとなるように規格化されています。このように定義されるf()=f(vx,vy,vz)を速度の分布関数と呼びます。

 

そして,絶対温度がTの熱平衡状態では,f()がマクスウェル(Maxwell)分布:f()=N{m/(2πkBT)}3/2exp{-m2/(2kBT)}で与えられることがわかっています。

 

分子数密度がn=N/Vの熱平衡状態を仮定します。

 

通常のxyz空間のz=0 の面の単位面積を通って単位時間にz>0 の側からz<0 の側に移動する分子数をI+とすると,I+=n{m/(2πkBT)}3/2-∞dvx-∞dvy0dvzzexp{-m2/(2kBT)}=(n/4){8kBT/(πm)}1/2と計算されます。

 

ところが,先述したように<||>AV={8kBT/(πm)}1/2です。また,対称性からz=0 の単位面積を通ってz<0 の側からz>0 の側に移動する単位時間当たりの分子数をI-にとすると,これはI+は等しいのでI+=I-=(n/4)<||>AVと書けます。

 

そして,巨視的な粘性率を微視的な分子から統計的平均量として見積もるために,z=0 の面を通して下方から上方へと輸送されるx方向の運動量を評価してみます。

 

これは,z=0 の面から平均自由行程程度の下方の運動量が上方に運ばれ,これから下方に運ばれる平均自由行程程度の上方の運動量を引いた差で与えられると考えられます。

 

その平均自由行程程度のz座標を±αλ(0<α<1)とします。

 

まず,z=-αλから入ってくる運動量のx成分はx方向の速度成分をzだけの関数としてu(z)と表わせばI+mu(-αλ)=(mn/4)<||>AV{u(0)-αλ(∂u/∂z)}と見積もられます。

 

同様にz=0 の面を通って上方から下方へと輸送されるx方向の運動量はI-mu(αλ)=(mn/4)<||>AV{u(0)+αλ(∂u/∂z)}と見積もられます。

 

結局,z=0 の面を通って下方から上方へと輸送される正味の運動量のx成分は,I+mu(-αλ)-I-mu(αλ)=-(αλρ/2)<||>AV(∂u/∂z)となります。ただし,ρ≡mnは媒質の気体の密度です。

 

得られた単位時間当たりの輸送量-(αλρ/2)<||>AV(∂u/∂z)が,流体力学における現象論的粘性応力:-η(∂u/∂z)に一致すると考えられるので,粘性率ηに対してη=(αλmn/2){8kBT/(πm)}1/2なる評価式が得られました。

 

 これにλ=1/(πd2n)を代入するとη=(α/d2)(2πmkBT)1/2となります。それ故,D=kBT/(6πηa)={kBTd2/(6πaα)}(2πmkBT)-1/2=(2π)-3/2(kBTd4/m)1/2/(3aα)が得られます。

  

この式によれば,αがわかれば半径aが既知のブラウン粒子の空気中での分子拡散係数Dを測定すれば,空気分子の平均直径dを計算により評価できることがわかります。

 

実験等から得られる空気分子の径の評価値は0.4~0.8μmで可視光線の波長と同程度だそうです。

  

今日はここで終わります。

 

次回は電離層などプラズマの影響,大気層における空気分子や雲(水滴)によるレイリー散乱,ミイ散乱なども考慮して,地球面頂上でのフレネル反射や吸収の寄与による"太陽輻射(太陽定数)の減衰=アルベド(albed)"の定量的評価を論じることを予定しています。

 

参考文献:中村 伝 著「統計力学」(岩波書店),北原和夫 著「非平衡統計力学」(岩波書店),クドリャフツェフ 著(豊田博慈 訳)「熱と分子の物理学」(東京図書)

 

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2007年7月20日 (金)

揺動散逸定理

 非平衡統計熱力学の1過程としてブラウン運動などに関わる揺動散逸定理(fluctuation dissipation theorem)について述べてみます。

 

 この定理は誰が起源なのかよく知らないのですが,日本では線型応答理論の一環として統計物理学の重鎮であった久保亮五先生などが関わっていたと記憶しています。

 

 一般に,ある物理量(示量変数の組):=(a1,a2,..,an)があって,エントロピーSがの関数であるとき,系の時間発展はに対する1階微分方程式で表現されて,それはdai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrのように,可逆な部分(dai/dt)revと不可逆な部分(dai/dt)irrの和として与えられます。

 そして,可逆部分はさらに,(dai/dt)rev=Σj{ai,aj}(∂S/∂aj)という構造を持つとします。

 

 ここで,{X,Y}はポアソン括弧のように,{Y,X}=-{X,Y}という反対称性を持ち,{X,f}=Σj{X,aj}(∂f/∂aj)という性質で規定される量であるとします。

こう定義すると,(dS/dt)rev=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)rev=ΣiΣj(∂S/∂ai){ai,aj}(∂S/∂aj)={S,S}=0 となって,可逆過程ではエントロピーは生成されないことになります。

 

実際には,断熱可逆変化か,あるいは可逆であって,かつサイクルである場合以外なら,可逆過程でもエントロピーの変化はありますから,これはどう解釈すべきなんでしょうか?

 

dai/dt=(dai/dt)rev+(dai/dt)irrは"可逆な部分と不可逆な部分の和である。"というよりもむしろ,"エントロピー非生成部分とエントロピー生成部分の和である。"と事実のままを述べた方がいいのかもしれません。

一方,不可逆部分については現象論的に(dai/dt)irr=Σjij(∂S/∂aj)と表わすことにします。

 

というのは,ajが示量変数のとき∂S/∂ajは示強パラメータであり,平衡の近傍では不可逆部分は示強パラメータ,あるいはその空間勾配に比例して進行するからです。

実際,問題としている系を局所平衡状態にある部分系の集まりと考えると,それぞれの部分系の物質密度をρ,単位質量当たりのエントロピーをsとしたとき,エントロピー密度(ρs)の変化は,一般に熱力学の関係式により示強パラメータFiと示量変数aiによって,d(ρs)=Σiidaiと表わされます。

 

この表式では確かに示強パラメータは,Fi=(∂S/∂aj)/Vと表わされています。

そして今,対象としている系が隣り合う2つの部分系A,Bだけから成るとし,A,Bが等しい体積Vを持つとするとき,各部分系のエントロピーS=Vρsは,Xi=Vaiの関数であると考えられます。

 

今,A,Bのエントロピーを,それぞれSA,SBとし,XiがAからBにΔXi=VΔaiだけ移動するとします。

iが系全体では保存する量であって,初めAにはXiがXiAだけBにはXiBだけあったとすると,AからBへのΔXi=VΔaiの移動による系全体のエントロピーSの増分は,ΔS=SA(XiA-ΔXi)+SB(XiB+ΔXi)-[SA(XiA)+SB(XiB)]~Σi(-∂S/∂XiA+∂S/∂XiB)ΔXi=Σi(-FAi+FBi)ΔXiとなります。

 

ここでFAi,FBiはそれぞれ部分系A,BにおけるFiの値を表わしています。

系全体を孤立系と考えると熱力学第二法則によって,ΔS>0 でなければならないので,1つの示量変数Xi=Vaiのみに着目してAからBへと微小量ΔXi>0 の移動が起こるためには,示強パラメータFiについてはFBi>FAiであることが必要になります。

このことから,示量変数Xi=Vaiが保存量のときはXiの輸送を引き起こす駆動力となるのは示強パラメータFiの空間勾配であると考えられます。

また,示量変数Xi=Vaiが非保存量のときはΔS=ΣiiΔXiにおいてFi=(∂S/∂ai)/V>0 ならば,ΔXi=VΔai;Δai>0 なる変化が不可逆過程として進行し得ます。

 

つまり,一般にdS=Σiidai,Fi=(∂S/∂ai)と書けますが,量akが保存量のとき,その保存方程式は∂ak/∂t+∇k=0 であり,その流れkは一般にk=Σjkj∇Fjと,示強的な量Fj=(∂S/∂aj)の勾配を駆動力とする形に表わされます。

 

そこで,k'≡akとおくと,k=ak=ak(d/dt)ですから,dk'/dt=d(ak)/dtk=Σjkjj=Σjkj∇(∂S/∂aj)です。

 

そこで,もしもSがajの1次関数なら,∇(∂S/∂aj)~∂S/∂j'となり,示量変数k'の求める時間発展の形式dk'/dt=Σjkj(∂S/∂j')が得られます。しかし正直なところかなり苦しいです。

こうして,はっきりと証明されたわけではないのですが,現象論的発展方程式はdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)と表わされるとします。

 

これは非平衡な初期条件から平衡状態への緩和を表わしています。

 

そこで(t)の時間発展は初期条件(0)=に対してai(t)=ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]+..で与えられます。

平衡状態においても,一般に巨視的な物理量(a1,a2,..,an)はゆらいでいます。たまたま,ある時刻に(t)が(t0)=という値をとったとして,その後の時間発展を観測します。

 

(t0+t)は初期時刻t0によってさまざまな値を取りますが,それらの平均を取ったものも現象論的発展と同じになるとします。

 

すなわち,初期条件(t0)=が与えられると短い時間では平均的に<ai(t0+t)>(t0)==ai+t[{ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)]となると仮定します。これを線型減衰の仮定と呼びます。

平衡状態におけるゆらぎの時間相関関数<ai(t0+t)ak(t0)>を求めるには<ai(t0+t)>(t0)=に初期値ak(t0)=akを掛けてakの分布について平均すればいいので,t≧0 に対して<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<<ai(t0+t)>(t0)=keq =<aikeq+t[<{ai,S}akeq+Σjij<(∂S/∂aj)akeq]となります。

平衡状態におけるゆらぎに対するボルツマン・アインシュタインの原理,つまり,ボルツマンの原理S=kBlnWから,逆に微視的状態数WがW()=exp[S()/kB]と書ける,ことを用います。

 

全状態数をWとしたときにW()/Wが変数の状態が実現する確率となりますから,平衡状態での関数f()の平均値は<f()>eq=(1/W)∫da1..danf()exp[S()/kB]で与えられます。

 

そこで,<(∂S/∂aj)akeq=∫da1..dan(∂S/∂aj)akexp[S()/kB]=-kBδkjとなります。

したがって,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]となりますが,右辺の{ai,S}はdai/dtの可逆部分です。

 

ところが,平衡状態では物理量の任意の関数は可逆変化では変化しないので,<{f(),S}>eq=0 です。もっともこれはその現象論の範囲で厳密に証明できるわけではないので仮説として導入するわけです。

 

そして,この式でf()=aikを代入すると,<aj{aiδjk,S}+aj{aiδijk,S}>eq=0 :すなわち<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqが得られます。

 

そこで、物理変数ai,akの時間反転対称性に関して次の2つの場合を考えます。:

(Ⅰ)変数ai,akが共に時間反転に対して対称である場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。さらに平衡状態の定常性から物理量の時間相関は時間差のみに依存しt0には依存しないので<ai(t0-t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqです。

 

以上から,<ai(t0+t)ak(t0)>eq=<ai(t0)ak(t0+t)>eqが得られます。

そこで両辺に線型減衰の仮定を適用すると,<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=<aikeq+[<{ak,S}aieq-kBki]となるはずです。

 

これが実際に成り立つためには,<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeqかつLik=Lkiが満たされなければなりません。

前者は<{ai,S}akeq=-<ai{ak,S}>eqと組み合わせると<{ai,S}akeq=<{ai,S}akeq=0 となります。要するに,ai,akが共に時間反転に対して対称ならば,その時間微分{ak,S},{ai,S}は明らかに時間反転に対して反対称となりますから,時間反転対称なaiやakとの積は平衡状態ではゼロとなることを表現しています。

(Ⅱ) 時間反転に対して変数aiが反対称でakが対称の場合

このときは<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0-t)ak(t0)>eqです。そこで(Ⅰ)と同様に考えて<ai(t0+t)ak(t0)>eq=-<ai(t0)ak(t0+t)>eqとなります。

 

したがって線型減衰の式から<aikeq+t[<{ai,S}akeq-kBik]=-<aikeq-t[<{ak,S}aieq-kBki](t≧0)ですが,これが成り立つためには<aik>=0 でかつLik=-Lkiが満たされなければなりません。

かくして,変数ai,akが同じ時間対称性を持つときにはLik=Lki, 反対の時間対称性を持つときにはLik=-Lkiとなります。

 

さらに係数Likが時間反転に対して反対称な外部パラメータ(は例えば磁場や速度)に依存するときには,それぞれLik()=Lki(-),Lik()=-Lki(-)となります。

発展方程式の不可逆部分を熱力学的力∂S/∂で表現する輸送係数Lijについての上述の対称性をオンサーガーの相反定理と呼び,この係数Likをオンサーガー係数と呼びます。

さらに発展方程式の不可逆部分はエントロピー生成をするという熱力学第二法則の要請から係数行列(Lij)は正値行列です。

  

なぜなら,dS/dt=(dS/dt)irr=Σi(∂S/∂ai)(dai/dt)irr=ΣiΣj(∂S/∂ai)Lij(∂S/∂aj)>0 となるべきことが要求されますが,(∂S/∂ai)はベクトルとして任意の値を取ると考えてよいからです。

平衡状態での巨視的変数の現象論的な発展方程式がdai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)で与えられるので,必然的に存在する"ゆらぎ=揺動あるいは雑音"Ri(t)の存在を考慮すると,の時間発展は一般的な確率微分方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)で表わされると考えられます。

 

ここで通常はゆらぎRi(t)は完全にランダムであり<Ri(t)>=0 ,<Ri(t)Rj(t')>eq=2Dijδ(t-t')なる白色雑音(white noise)で与えられます。

こうすると,時刻tにおいて状態が実現する確率P(,t)に対して,次のフォッカー・プランク方程式(Fokker-Planck)が得られます。

  

∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)です。

一般に,1次元で考えたとき外力Fがないときのゆらぎも含めた粒子の運動は,その速度をuとするとき,次の"運動方程式=ランジュバン方程式(Langevin)"du/dt=-γu+R(t)/m に従います。

 

そして,ここでもゆらぎR(t)は白色雑音,つまり<R(t)>=0 ,<R(t)R(t')>=2Duδ(t-t')を満たしているとします。

このとき,時刻t1に速度u1を持っていた粒子が時刻tに速度uを持つ条件付の確率分布T(u,t|u1,t1)は,(∂/∂t)T(u,t|u1,t1)=γ(∂/∂u)[u+(kBT/m)∂/∂u+(Du/m2)∂2/∂u2]T(u,t|u1,t1)という方程式に従うことがわかります。

 

確率分布が従うこの方程式を,フォッカー・プランク方程式と呼ぶわけですね。

そして,先のについての運動方程式dai/dt={ai,S}+Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)を上の1次元速度uに対するランジュバン方程式におきかえ,時刻tに状態が実現する確率分布P(,t)を上の確率分布T(u,t|u1,t1)におきかえれば,先述のP(,t)に対するフォッカー・プランク方程式が得られます。

これが定常解として平衡分布Peq(a)=exp[S()/kB](あるいはこの定数倍)を持つためにはkBij=Dijとなることが必要条件になります。

つまり,∂Peq()/∂aj=(1/kB)(∂S/∂aj)Peq()なので∂P(,t)/∂t=-Σi(∂/∂ai){ai,S}P(,t)+ΣiΣj(∂/∂ai)[-Lij(∂S/∂aj)+Dij(∂/∂aj)]P(,t)においてP(,t)=Peq()とおくと,kBij=Dijが満たされる場合には右辺の第2項はゼロになります。

一方,第1項はΣi(∂/∂ai){ai,S}Peq()=Peq()[Σi(∂/∂ai){ai,S}+(1/kBi(∂S/∂ai){ai,S}]となりますが,定義によってΣi(∂S/∂ai){ai,S}={S,S}=0 です。

 

これほど自明ではありませんが,Σi(∂/∂ai){ai,S}=0 も成立します。

実際,Σi(∂/∂ai){ai,S}=Σi[{1,S}+{ai,∂S/∂ai}]=ΣiΣi[{1,aj}(∂S/∂aj)+{ai,aj}(∂2S/∂ai∂aj)]=ΣiΣi{1,aj}(∂S/∂aj)=-ΣiΣi,k(∂1/∂ak){ak,aj}(∂S/∂aj)=0 となります。1という関数はδ-関数であり,∂1/∂akは汎関数微分ですね。

そこで,kBij=DijはPeq(a)=exp[S()/kB]が解になるための必要十分条件であることがわかりました。

それ故,"揺動力=ゆらぎ"の時間相関関数<Ri(t)Rj(t')>(白色雑音の2Dは揺動力の強さと呼ばれる)と,輸送係数:Lijの間には<Ri(t)Rj(t')>=2kBijδ(t-t')という関係が成り立ちます。

 

これはさらに∫0d(t-t')<Ri(t)Rj(t')>=kBij:すなわち∫0dτ<Ri(t)Rj(t+τ)>=kBijと書き直すことができます。

 

つまり,輸送係数あるいはオンサーガー係数:Lijはゆらぎの時間相関関数で与えられます。この法則を揺動散逸定理と呼びます。

こうして,数式的に表現された形の定理が示されても,これが実際の自然現象において物理的にどのような意味を持つのかを理解しなければ,こうした定理の重要性を認識することはできません。

そこで,1例として熱伝導に適用してみます。

平均流速がゼロの1成分流体中の熱伝導方程式はeを単位質量当たりの内部エネルギーとして∂(ρe)/∂t+∇q=0 で与えられます。

 

ここでqは熱流であり熱拡散の線形近似モデルではq=λ∇(1/T)=-κ∇Tと表わされます。κ=λ/T2は熱伝導率と呼ばれています。

 

この現象論的方程式に対して,これのランジュバン方程式は∂(ρe)/∂t+∇q=-∇(,t)となります。ただし(,t)は熱流qのゆらぎです。

qは熱流ですから,流体の局所流速を(,t)とすると,q=ρe=ρe(d/dt)です。

 

示量変数の1つとして=ρeとすると,の不可逆変化部分に対する表式dai/dt=Σjij(∂S/∂aj)+Ri(t)は,dai/dt=d(ρeri)/dt~(Jq)i=Σjij[∂S/∂(ρerj)] +Ri(t)と書けますが,平衡状態ではρVde=TdS-PdVなので体積一定(dV=0 )ならS=ρeV/T+(定数)です。

それ故,結局(Jq)i~ΣjijV(∂/∂rj)(1/T)となります。これをq=λ∇(1/T):すなわち(Jq)i=λ(∂/∂rj)(1/T)と比較すると,輸送係数=オンサーガー係数についてLij=(λ/V)δijという表式が得られます。

そこで揺動散逸定理によると,λは平衡状態における揺動熱流(,t)の時間相関関数によって表現されることになります。すなわち,揺動熱流(,t)の時間相関関数は,∫0dt<qα(,t)qβ(',0)>eq=kB(λ/V)δαβδ(')と書けます。

そして,熱流q(,t)のゆらぎ(,t)を体積Vの対象領域全体で空間積分した(t)=∫dq(,t)という量を定義して,これを時刻tでの"熱流のゆらぎ"と呼ぶことにすれば,熱伝導に対する揺動散逸定理の表現は∫0dt<qα(t)qβ(0)>eq=kBλδαβと書くことができます。

今は,平均流速がゼロの流体を考えており,平衡状態では<q(,t)>eq=0 なので,熱流のゆらぎ(,t)がエネルギー流そのものになります。そこで対流がない流体においての平衡状態では(t)はエネルギー流を空間全体で積分したもののゆらぎとなります。

この例では,輸送係数=オンサーガー係数の一種である熱伝導率がミクロな流れ(t)の時間相関関数で与えられるということが揺動散逸定理からの重要な帰結と言えます。

19日木曜日夜から風邪気味で,症状自体は軽いのですがあまり筆が進みません。

北原和夫 著「非平衡系の統計力学」(岩波書店)

 

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2007年7月18日 (水)

ブラウン運動と伊藤積分(10)

 確率積分の話題の続きです。前回はこれを定義しただけですが今回はこれの性質,特に伊藤の公式について説明します。 

次の不等式は,シュヴァルツ(Schwartz)の不等式の一般化です。

(補題9.1):(国田・渡辺の不等式)

  M,N∈2,cとする。

 

  φ(s,ω),ψ(s,ω)は発展的可測で∀t>0 に対して,∫0tφ(s,ω)2d<M>s<∞,∫0tψ(s,ω)2d<N>s<∞ とする。

 

このとき,∀t>0 に対して,|∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|≦(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 (a.s)である。 (a.s.はalmost surely="ほとんど確実に"です。)

(証明)<M,N>の定義:<M,N>≡(1/4)(<M+N>-<M-N>)と,その性質:<aM,N>=a<M,N>によって,<M>=<M,M>,<N>=<N,N>であり,∀r∈Rに対して<M+rN>=<M>+2r<M,N>+r2<N>となります。

したがって,0≦∫s1s2d<M+rN>s=∫s1s2d<M>s+2r∫s1s2d<M,N>s+r2s1s2d<N>s a.s が全ての実数rに対して成立するようにできます。

よって,実数rの2次式が常に非負でr2の係数が正なので,その判別式は(判別式)≦0 を満足しなければならないことから,不等式|∫s1s2d<M,N>s|2≦(∫s1s2d<M>s)(∫s1s2d<N>s)が得られます。

それ故,φ(s,ω)≡Σiφi(ω)1(ti,ti+1),ψ(s,ω)≡Σiψi(ω)1(ti,ti+1)0に対して,|∫∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|=|Σiφi(ωi(ω)∫titi+1d<M,N>s|≦Σii(ω)||ψi(ω)|(∫0td<M>s) 1/2(∫0td<N>s)1/2≦(Σii|2titi+1d<M>s)1/2ii|2titi+1d<N>s)1/2=(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 (a.s)となります。

有界なφ(s,ω),ψ(s,ω)については,再掲(補題:8.3):"02(<M>)内で稠密である"によって,上のような0の元で近似することができます。

 

一般のφ,ψについてはまず有界なもので近似して0の元で近似すると極限で命題が成立します。

 

(証明終わり)

(定理9.2) 

(ⅰ) M,N∈2,c,f(s,ω)∈2(<M>)のとき,Xt=∫0tf(s,ω)dMsとすると,<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>sであり,かつ任意のN∈2,cに対して<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>sを満たすX∈2,cでX0=0 なるものはXt=∫0tf(s,ω)dMsに限る。

 

(ⅱ)I(f)=XT=∫0f(s,ω)dMs2(0,T;<M>)→2,c(0,T)は∀Tに対して等距離写像(isometric mapping)である。:すなわちE[|XT|2]=E[∫0|f(s,ω)|2d<M>s]である。

(証明)(ⅰ)f∈2(<M>)に対してfn0でE[∫0t|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]→ 0  as n→ ∞なるものを取ります。

 

nt=∫0tn(s,ω)dMsとおくと,再掲(補題8.7):"E[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]である。"によって,E[<Xn-X>t]=E[∫0t|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s] → 0  as n→ ∞,∀tです。

一方,|∫d<M,N>s|≦|∫d<M>s|1/2|∫d<N>s|1/2ですが,E[|<M,N>t|]=E[|∫0td<M,N>s|],E[|<M>t|]=E[|∫0td<M>s|],E[|<N>t|]=E[|∫0td<N>s|]より,一般にE[|<M,N>t|]≦E[|<M>t|]1/2E[|<N>t|]1/2です。

したがって,E[|<Xn,N>t-<X,N>t|]=E[|<Xn-X,N>t|]≦E[|<Xn-X>t|]1/2E[|<N>t|]1/2 → 0  as n →∞ ,∀tが得られます。

また,<Xn,N>t=∫0tn(s,ω)d<M,N>sがfn(s,ω)∈0を具体的に書き下すことによって(補題8.5)の証明と同じようにして言えるので,結局<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s a.sであることがわかります。

 後半の,一意性については,<X~,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s a.s ∀N∈2,cとすると,<X-X~,N>t=0 a.sですから,特にN=X-X~とすると<X-X~>t=0 a.s,あるいはE[|Xt-X~t|2]=0 よりXt=X~t a.sとなることから示されます。

(ⅱ)(ⅰ)よりXt=∫0tf(s,ω)dMsとおけば,<X>T=<X,X>T=∫0Tf(s,ω)d<M,X>sであり,<M,X>s=∫0sf(u,ω)d<M>uですからd<M,X>s=f(s,ω)d<M>sなので,<X>T=∫0Tf(s,ω) 2d<M>s=∫0T|f(s,ω)|2d<M>sとなります。

 

 これとE[|XT|2]=E[<X>T]を合わせると,E[|XT|2]=E[∫0T|f(s,ω)|2d<M>s]が得られます。(証明終わり)

(系9.3)(ⅰ)M∈2,c,f,g∈2(<M>),a,b∈Rに対して∫0t{af(s,ω)+bg(s,ω)}dMs=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tg(s,ω)dMs,∀tである。

 

(ⅱ)M,N∈2,c,f∈2(<M>)∩2(<N>),a,b∈Rに対してf∈2(<aM+bN>)で∫0tf(s,ω)d(aM+bN)s=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tf(s,ω)dNs ,∀tである。

(証明) (ⅰ)N∈2,cのとき,(定理9.2)と二次変分の性質(命題7.8)より,<∫0t(af+bg)dMs,N>=∫0t(af+bg)d<M,N>s=a∫0tfd<M,N>s+b∫0tgd<M,N>s=<a∫0tfdMs,N>+<b∫0tgdMs,N>です。

 

 そしてNは任意なので,例えばN=∫0t(af+bg)dMs-a∫0tfdMs-b∫0tgdMsと取ることによって,∫0t{af(s,ω)+bg(s,ω)}dMs=a∫0tf(s,ω)dMs+b∫0tg(s,ω)dMs ,∀tが得られます。

(ⅱ)f∈2(<aM+bN>)なることについては,再掲(補題9.1):"M,N∈2,cとしφ(s,ω),ψ(s,ω)は発展的可測で,∀t>0 に対して∫0tφ(s,ω)2d<M>s<∞,∫0tψ(s,ω)2d<N>s<∞ とする。このとき∀t>0 に対し|∫0tφ(s,ω)ψ(s,ω)d<M,N>s|≦(∫0tφ(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tψ(s,ω)2d<N>s)1/2 a.sである。"と二次変分の性質からいえます。

 

すなわち,(補題9.1)でφ=ψ=fとおくと,不等式|∫0tf(s,ω)2d<M,N>s|≦(∫0tf(s,ω)2d<M>s)1/2(∫0tf(s,ω)2d<N>s)1/2 a.sが得られます。

 

 これと等式d<aM+bN>s=a2d<M>s+2abd<M,N>s+b2d<N>sから,f∈2(<aM+bN>)なることは自明です。

 そして(定理9.2)と(命題7.8)によれば,∀L∈2,cに対して<∫0tfd(aM+bN)s,L>=∫0tfd<(aM+bN),L>s=a∫0tfd<M,L>s+b∫0tfd<N,L>s=<a∫0tfdM+b∫0tfdN,L>が成立するので命題が成り立つことは明らかです。

 

 (証明終わり)

 次に,局所マルチンゲールに対して確率積分を定義します。 

(定義10.1):(局所マルチンゲールに対する確率積分)

M∈,locとし,Mに対しP(∫0Tf(s,ω)2d<M>s<∞)=1,∀Tを満たす発展的可測過程f(s,ω)について確率積分を定義する。

M∈,locよりσn↑∞ a.sとなる停止時刻の列{σn}が存在して,Mt∧σn2,cが成立する。そしてτn(ω)≡n∧inf{t≧0:∫0tf(s,ω)2d<M>s≧n}とおけばτn↑∞ a.sである。

 

 そこでρn≡τn∧σnとしMnt≡Mt∧ρn,fn(t,ω)≡f(t,ω)1{t≦ρn}とおけば,Mnt2,c,fn(t,ω)∈2(<Mn>)なので確率積分I(fn)がI(fn)(t,ω)=∫0tn(s,ω)dMnsと定義できる。

 

 これはI(fn)(t,ω)=I(fm)(t,ω),0≦t≦ρn,n≦mとなることがわかる。

 そして,n→ ∞ に対してσn → ∞ なので,I(f)(t,ω)≡I(fn)(t,ω), 0≦t≦ρnとすれば,n→ ∞ の極限で∀tについてI(f)が定義できる。

  

 このI(f)をfの確率積分という。

(定理9.2)を局所マルチンゲールに対して書き直したものはM∈c,loc ,f(s,ω)をP(∫0Tf(s,ω)2d<M>s<∞)=1,∀Tを満たす発展的可測過程とする。

 

 このときXt=∫0tf(s,ω)dMs,M∈c,locはX0=0 で<X,N>t=∫0tf(s,ω)d<M,N>s∀t a.sを満たす唯1の元である。

 

 となります。

 

 これの証明は,tをt∧ρnにおきかえると,(定理9.2)の証明と同じなので省略します。

次に,確率積分が普通の積分と同様な概念を表現するものであるということを示す重要な性質を証明します。

 "f(s,ω)がtに適合して左連続であるとする。このとき,分割Δ:0=s0<s1<..<snをとれば,∫0tf(s,ω)dMs=P-lim|Δ|→0Σif(si)(Msi+1-Msi)となる。ただし,P-lim は確率収束極限の意味である。という命題を証明します。

(証明)fが有界でf∈2,cのとき,分割Δ:0=t0<t1<..<tnに対してfΔ(s,ω)≡Σif(ti,ω)1(ti,ti+1)(s),fΔ(0,ω)≡f(0,ω)とおくと,左連続性によってfΔ(s,ω)→ f(s,ω) as Δ→ 0,∀s,ωです。

Δt=∫0tΔ(s,ω)dMs=Σif(ti,ω)(Mti+1-Mti)であり,E[∫0t|fΔ(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]→ 0 よりE[|XΔt-Xt|2] → 0 as Δ→ 0,∀tです。

一般の局所マルチンゲールの場合は(定義10.1)のτnを使って局所化すればいいだけです。

 

(証明終わり)

ここで微積分学における合成関数の微分法則(連鎖公式)の確率解析版とされる伊藤の公式を示すことにします。

 

その応用は極めて広いものです。

(定義11.1)確率過程X={Xt}がXt=X0+Mt+At,M∈loc,A∈(増加過程:に属する元の差で表わされる過程)で,X00-可測関数,ただし,M0=0 a.s,A0=0 a.sと表わされるとき,{Xt}は半マルチンゲールであるという。

また,RN値確率過程が半マルチンゲールであるとは,各成分が半マルチンゲールのときをいう。

 

さらに,t,tが連続確率過程であれば{t}は連続な半マルチンゲールであるという。

(定理11.2)(伊藤の公式)

t(X1t,X2t,..,XNt)を連続な半マルチンゲールとする。すなわち,Xit=Xi0+Mit+Ait (i=1,2,..,N)とする。

 

f∈2(RN)のとき,f(t)は連続な半マルチンゲールであり,f(t)-f(0)=Σi=1N0tif(s)dMis+Σi=1N0tif(s)dAsi+(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mjsと書くことができる。

 

ただし,Dif≡∂f/∂xi,Dijf≡∂2f/∂xi∂xj(i,j=1,2,..N)である。

(証明)τn=inf{t≧0:|0|>n,or|t|>n,|t|>n}({ }≠φのとき),τn=∞ ({ }=φのとき);とおきます。このとき,n→ ∞ に対してτn→ ∞ a.sなので,Xt∧τn について,この等式を証明すれば十分です。

したがって,0,t,tは全て有界,f,Dif,Dijfも全て有界,かつ一様連続であるとしてかまいません。それ故,ある定数Kがあって|f|+Σi|Dif|+Σi,j |Dijf|≦Kと書くことができます。

Δ:0=t0<t1<..<tn=tを [0,t]の分割とします。

このとき,テイラー展開の定理により,f(t)-f(0)=Σk=1n-1(f(tk+1)-f(tk))=Σk=1n-1Σi=1Nif(tk)(Xitk+1-Xitk)+(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Xitk+1-Xitk)(Xjtk+1-Xjtk),ξktk+θk(tk+1tk), 0≦θk≦1と表現できます。

右辺の第1項は|Δ|→0 のとき,確率積分の定義により,Σi=1N0tif(s)dMis s+Σi=1N0tif(s)dAsiに確率収束します。

一方,右辺の第2項は,(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)+Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Mitk+1-Mitk)(Ajtk+1-Ajtk)+(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(ξk)(Aitk+1-Aitk)(Ajtk+1-Ajtk)≡I1+I2+I3となります。

 

より,,,+,cとすると,|Σk=1n-1(tk+1tk)|≦|t|+|t|で,sup|tk+1tk|→ 0,sup|tk+1tk|→ 0 なので,|I2|≦Ksup k|tk+1tk|(|t|+|t|)→ 0 as |Δ|→ 0 a.s,かつ|I3|≦Ksup|tk+1tk|(|t|+|t|→ 0 as |Δ|→ 0 a.sです。

よって,後はI1(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mj> as |Δ|→ 0 a.sを示すことができればいいことになります。

 

通常の積分と微分との関係では2次の微小量を総和して積分しても1次の微小量になるだけで,|Δ|→ 0 では消えてしまうのでこうした2階導関数の項は出現しません。

実際,上に示したように有界変動の関数と有界な単調増加関数の差で表わせるので,その2次の量を積分するとき,その寄与はゼロになります。

 

しかし,がブラウン運動のような過程である場合には有界変動の関数ではなくて,その長さが確率1で無限大になることは,ずいぶん前の記事で述べましたが,その場合のの2次の量を積分するとき,その寄与はゼロではなくて有限です。

1'=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(tk)(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)とおくと,|I1-I1'|≦(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1N|Dijf(ξk)-Dijf(tk)||Mitk+1-Mitk||Mjtk+1-Mjtk|≦(1/2)supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|[Σn,mt(Mn,Δ)1/2t(Mm,Δ)1/2]です。

よって,E[|I1-I1'|]≦(1/2)Σn,m=1NE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|Qt(Mn,Δ)1/2t(Mm,Δ)1/2]≦(1/2)Σn,m=1NE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2(E[Qt(Mn,Δ)Qt(Mm,Δ)])1/2≦(1/2)E[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2n,m=1NE[Qt(Mn,Δ)2]1/4E[Qt(Mm,Δ)2]1/4)です。

 

再掲(補題7.3):"M={Mt}∈4,cとするとき分割Δに依らない定数cが存在してE[Qt(M;Δ)2]≦cが成り立つ。"とE[supk|Dijf(ξk)-Dijf(tk)|2]1/2→ 0 as |Δ|→ 0 によって,右辺→ 0 as |Δ|→ 0 が得られます。

また,I1"=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Nijf(tk)(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)とおくとE[|I1'-I1"|2]=(1/4)Σk=1 n-1E[|Σi,j=1Nijf(tk){(Mitk+1-Mitk)(Mjtk+1-Mjtk)-∫tktk+1d<Mi.Mjs|2]≦Σk=1 n-1(K2/4)E[|tk+1tk|4+Σi,j=1N(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)2]≦(K2/4)E[supk|tk+1tk|2Σi=1Nt(Mi,Δ)]+(K2/4)Σi,j=1NE[supk|<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk|(<Mi.Mjtk+1-<Mi.Mjtk)] → 0 as |Δ|→ 0 です。

 

すなわち,E[|I1'-I1"|2]→ 0 as |Δ|→ 0 が得られます。

一方,1"=(1/2)Σk=1n-1Σi,j=1Ntktk+1ijf(tk)d<Mi.Mjs→(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi.Mjs as |Δ|→ 0 ですから,結局,I1→(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi.Mjs in L(Ω) as |Δ|→ 0 です。

以上から,∀tに対して,ほとんどいたるところで,f(t)-f(0)=Σi=1N0tif(s)dMis+Σi=1N0tif(s)dAsi+(1/2)Σi,j=1N0tijf(s)d<Mi,Mjsが成立し,両辺はtについて連続なので,この等式は確率1で∀tに対して成立します。

 

(証明終わり)

例として原点から出発する1次元ブラウン運動をXt=Btとし,f(x)=xnとすると,伊藤の公式から,Btn=n∫0tsn-1dBs+{n(n-1)/2}∫0tsn-2dsです。

 

特にn=2とすれば,Bt2=2∫0tsdBs+tです。

 

このことはBt2-tがマルチンゲールであることを示しています。これは,マルチンゲールの確率積分が,その定義によって常にマルチンゲールであるからです。

こうして,1次元ブラウン運動の確率積分が通常の関数についての積分公式t22∫0txdxとは食い違うことが明確にわかります。

 次の例として,At=-t/2としXt=Bt+At=,f(x)=exp(x)とするとき,伊藤の公式から,exp(Xt)-exp(X0)=exp(Bt-t/2)-exp(B0)=∫0t exp(Bs-s/2)dBs+∫0t exp(Bs-s/2)d(-s/2)+(1/2)∫0t exp(Bs-s/2)dsです。

 

したがって,exp(Bt-t/2)=1+∫0t exp(Bs-s/2)dBsです。

tはマルチンゲールなので,もちろんその確率積分exp(Bt-t/2)もマルチンゲールです。

 

また,E[exp{iξ(Bt-Bs)}]=exp{-(t-s)ξ2/2}より,s=0 ,ξ=-2iとおいて,E[exp(2Bt)]=exp(2t),すなわち,E[exp(2Bt-t)]=exp(t)です。

 

それ故,exp(Bt-t/2)は2乗可積分マルチンゲールです。

さらにt(B1t,B2t,..,BNt)をN次元ブラウン運動とし,f()={(x1)2(2)2+..+(xN)2}m/2とするとき,m≧2ならf(t)-f(0)=mΣi=1N0tis|s|m-2dBis+(1/2)∫0t{Nm+m(m-2)}|s|m-2dsです。

 

また,N≧3でm=2-N,σn=inf{t:|t|≦1/n}とするとき,f(t∧σn)-f(0)=(2-N)Σi=1N0t∧σnis|s|-NdBisですから,tの出発点が 0 でないとき:P(t0)=1,00 なるときも含めて,P(σn↑∞ as n→∞)=1 なので,f(t)-f(0)は局所マルチンゲールです。

今日はここまでにします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月12日 (木)

ブラウン運動と伊藤積分(9)

 次のステップとして確率積分という主題に移ります。 

以下では,フィルター付確率空間(Ω,,P;t)はtが右連続であり,かつ次の条件を満たしているものとします。すなわち,≡{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0 であるとします。

2(0,T)≡{M:E[|MT|2]<∞;{Mt}t∈[0,T]は右連続マルチンゲール},2,c(0,T)≡{M∈2(0,T):{Mt}t∈[0,T]は連続}と置きます。

 

また,特にσ-加法族の増大系tを強調する場合には,2(0,T;t),2(t),2,c(0,T;t),2,c(t)のように表わします。

(系7.6)によれば,∀M∈2,cに対し,ある<M>∈+,cがあって,Mt2-<M>tはマルチンゲールになっています。

M∈2,cに対して2(0,T;<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞},2(<M>)≡{φ:φは発展的可測でE[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀T}とおきます。

乗可積分(連続)マルチンゲール全体の空間のヒルベルト構造に関する次の補題は,確率積分の定義において重要な役割を果たします。

(補題8.1):(ⅰ)2(0,T),2,c(0,T)は||T≡E[|MT|2]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。(ⅱ)2,2,cは,その2つの元M,Nに対してd(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(ⅰ) {MnT}n=1,2,..2(0,T),または2,c(0,T)に属するL2(Ω,,P)のコーシー列とします。

 

再掲(定理6.1):"{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*≡sup0≦t≦T|Xt|とおくと,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。"

 

により,E[sup0≦t≦T|Mnt-Mmt|2]≦4E[|MnT-MmT|2]です。

再掲(補題7.4):"{Ysn}をtに適合した連続確率過程でlimn,m→∞E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]=0 なるものとする。

  

このとき連続確率過程{Ys}でtに適合したものがあり{Ysn}の適当な部分列{Ysnk}を取れば,P(sups≦t|Ysnk-Ys|→ 0 as k→ ∞)=1であり,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=0 となる。"

 

によって,連続確率過程:M={Mt}t∈[0,T]が存在して,n→∞のとき確率1で[0,T]上一様にMnt-Mt→ 0 となることがわかります。

このとき,もちろんE[sup0≦t≦T|Mnt-Mt|2]→ 0 as n→∞ です。

 

それ故,∀A∈sについてE[(Mns-Ms),A]→ 0,E[(Mnt-Mt),A]→ 0 です。

 

 Mnのマルチンゲール性:E[Mnt,A]=E[Mns,A],∀A∈sと合わせると,E[Mt,A]=E[Ms,A],∀A∈sです。すなわち,M={Mt}t∈[0,T]もマルチンゲールです。

 

よって,M={Mt}t∈[0,T]も{MnT}n=1,2,..と同じく,2(0,T)または2,c(0,T)に属することがわかりますから,2(0,T),M2,c(0,T)はL2空間として完備なノルム空間であることがわかりました。

もちろん,このノルム空間において,||T≡E[|MT|2]1/2がノルムになっていることは自明です。

 

そして,M,Nの内積(M,N)を(M,N)≡(1/4)[|M+N|2T|M-N|2T]=E[MTT]で定義することにより,2(0,T),M2,c(0,T)をヒルベルト空間とすることができます。

(ⅱ){Mn}n=1,2,..2をn,m →∞ のときd(Mn,Mm)→ 0 となるような列とします。

 

このとき,∀Tについて{Mnt}t≦T2(0,T)のコーシー列になるので,(ⅰ)よりMT={MTt}t≦T2(0,T)が存在して|n-MT|T→ 0 as n →∞ となります。

 

ところで,T1≧Tとすると極限の一意性によって,0≦∀t≦TについてMT1t=MTtですからMT1=MTが成立しています。

それ故,0≦∀t≦∞ に対してMt≡Mttと置くことによって,Mt=limT→∞Ttを定義することができて,M={Mt}t≦∞とすると,d(Mn,M) → 0 as n→ ∞ となりM={Mt}∈2です。

 

したがって,2はその2つの元M,Nに対して,d(M,N)≡Σn=0(|M-N|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間です。

 

さらに2,c2の閉部分空間なので,2,cも同じ距離について完備距離空間です。

(証明終わり)

(補題8.2):(ⅰ)2(0,T;<M>)は∀φ∈2(0,T;<M>)に対して|φ|T≡E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>]1/2をノルムとするヒルべルト空間である。

 

(ⅱ)2(<M>)は∀φ122(<M>)に対してρ(φ12)≡Σn=1(|φ1-φ2|n∧1)/2nを距離とする完備距離空間である。

(証明)(詳細は略して概略のみ記述します。)

(ⅰ)m(A)≡E[∫0T1A(s,ω)d<M>s]1/2,A∈([0,T])×tによって([0,T])×Ω,([0,T])×t)の上での測度を定義すればL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)はm=|・|Tをノルムとしたヒルベルト空間です。

2(0,T;<M>)はL2([0,T])×Ω,([0,T])×t,dm)の閉部分空間ですから命題が成立します。

(ⅱ)(ⅰ)から明らかです。

(証明終わり) 

     φ(t,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(t);0=t0<t1<..<tk+1,k=1,2,..で各ξiti-可測で有界なもの,で与えられるφを初等確率過程と呼びます。そして初等確率過程の全体を0で表わすことにします。

(補題:8.3):02(<M>)内で稠密である。

(証明)∀φ∈2(<M>)に対してlimn→∞φn=φ a.s inL2,つまりlimn→∞E[∫0Tn(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 を満たす関数列{φn}n=1,2,..0 が存在することを示せばいいです。

そこで,φ∈2(<M>)とすると,E[∫0Tφ(s,ω)2d<M>s]<∞,∀Tですが,φは有界であるとしsの近傍でのφの平均値としてφnをφn(s,ω)≡∫(s-1/n)+sφ(u,ω)d<M>u/[<M>s-<M>(s-1/n)+]で定義します。ただしa+≡a∨0 です。

 

そして,さらにφ~(s,ω)≡limsupn→∞φn(s,ω)と置きます。

 このとき上極限の定義によって,d<M>s,∀s∈[0,T]のほとんど到るところで部分列が存在してlimn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)であり,定義から∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sが成り立っています。

 また,φが発展的可測なので,φn(s,ω)はtに適合しています。

 

 分割Δ:0=t0<t1<..<tk+1に対し,φn(Δ)(s,ω)≡Σi=0kφn(ti,ω)1(ti,ti+1)(s)とおけば,φn(Δ)0でありφnは左連続ですから,lim|Δ|→0φn(Δ)(s,ω)=φn(s,ω)∀(s,ω)です。

 したがって,E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φn(s,ω)|2d<M>s]→ 0 as |Δ|→ 0 となります。

 

 また,limn→∞φn(s,ω)=φ~(s,ω)より,limn→∞0Tn(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 ですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ~(s,ω)|2d<M>s]=0 を得ます。

 ところが,∫0Tφ~(s,ω)d<M>s=∫0Tφ(s,ω)d<M>sですから,lim n→∞,|Δ|→0E[∫0Tn(Δ)(s,ω)-φ(s,ω)|2d<M>s]=0 です。

  

 以上から02(<M>)内で稠密であることが証明されました。

 

 (証明終わり)

(定義8.4):(初等確率過程に対する確率積分の定義)

 φ(s,ω)=Σi=0kξi(ω)1(ti,ti+1)(s)∈0に対して確率積分I(φ)をI(φ)(t,ω)≡Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξl(ω)(Mt-Mtl),tl≦t≦tl+1と定義する。そして,これをI(φ)(t,ω)=∫0tφ(s,ω)dMsと表わす。

ここでξi(ω)がti-可測であることに注意されたい。

 

つまり積分和の係数である確率変数の値として分割の分点の左側の値を取っていることが確率積分の特徴です。後述するように,この取り方のおかげで確率積分はマルチンゲールになります。

さらに,初等確率過程に対する確率積分I(φ)の性質として次の補題を証明しておきます。

(補題8.5):I(φ)∈M2,cで,(ⅰ)<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sである。(ⅱ)E[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s]である。

(証明)s≦tのときE[I(φ)t|s]=E[Σti+1<tξi(ω)(Mti+1-Mti)|s]+E[ξl(ω)(Mt-Mtl)|s]=Σti+1<sξi(ω)(Mti+1-Mti)+ξp(ω)(Ms-Mtp)=I(φ)sより,確かにI(φ)(t,ω)はマルチンゲールです。

 

 さらに,M∈M2,cよりI(φ)∈M2,cです。

(ⅰ)tm≦s≦tm+1≦tl≦t≦tl+1とします。

 

 Mのマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[{Σi=m+1l-1ξi(Mti+1-Mti)+ξl(Mt-Mtl)+ξm(Mtm+1-Ms)}2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(Mti+1-Mti)2|s]+E[ξl2(Mt-Mtl)2|s]+E[ξm2(Mtm+1-Ms)2|s]=Σi=m+1l-1E[ξi2(<Mti+1>-<Mti>)|s]+E[ξl2(<Mt>-<Mtl>)|s]+E[ξm2(<Mtm>-<Ms>|s]です。

 

 すなわち,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[∫stφ(u,ω)2d<M>u|s]となります。

 また,I(φ)のマルチンゲール性から,E[{I(φ)(t)-I(φ)(s)}2|s]=E[I(φ)(t)2-I(φ)(s)2|s]ですから,結局,E[I(φ)(t)2-∫0tφ(u,ω)2d<M>u|s]=I(φ)(s)2-∫0sφ(u,ω)2d<M>uとなり,I(φ)t2-∫0tφ(s,ω)2d<M>sがマルチンゲールとなることがわかりました。

(φ)∈M2,cですから,(系7.6)の二次変分の一意性によって,<I(φ)>t=∫0tφ(s,ω)2d<M>sです。

(ⅱ)I(φ)(0)=0 なので,(系7.6)(ⅲ)より直ちにE[I(φ)t2]=E[∫0tφ(s,ω)2d<M>s] を得ます。(証明終わり)

(定義8.6):(確率積分の定義)

 一般のf∈2(<M>)に対して確率積分を定義する。

 

 (補題8.3)により,fn0でlimn→∞E[∫0T|fn(s,ω)-f(s,ω)|2d<M>s]=0 ∀Tを満たすものを取ることができる。

 そして,XntI(fn)=∫0tn(s,ω)dMsと置くと,(補題8.5)によってn,m→∞ のときE[|Xnt-Xmt|2]=E[∫0t|Xns-Xms|2d<M>s]→ 0 ∀tである。

 

 またE[sups≦t|Xns-Xms|2]=4E[|Xnt-Xmt|2]ですから,{Xnt}n=1,2,..のある収束する部分列{Xnkt}k=1,2,..があって,その極限値をXtと置けばX={Xt}∈M2,cでlimk→∞d(Xnk,X)=0 かつP(Xnkt→Xt,k→∞,広義一様収束)=1となる。

このX={Xt}はfn0の取り方によらない。

実際,fn,f~n0でlimn→∞E[∫0T|fn(s)-f(s)|2d<M>s]=0 ,limn→∞E[∫0T|f~n(s)-f(s)|2d<M>s]=0 を満たすものを取ります。

 

上のやり方で連続マルチンゲールXtとX~tが決められたとすると,E[sups≦t|Xs-X~s|2]=4E[|Xt-X~t|2]=limn,m→∞4E[|Xnt-Xmt|2]=limn,m→∞4E[∫0t|fn(s)-fm(s)|2d<M>s]=0 ∀tなので,Xt=X~t a.s が結論され,X={Xt}はfn0の取り方によらず一意的に決まります。

こうして決まるX={Xt}をfのMによる確率積分といい,Xt=∫0tf(s,ω)dMsと表わす。

 

ここで,確率積分X={Xt}の二次変分はどのように与えられるか?について言及しておきます。

 

(補題8.7):E[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]なる等式が成り立つ。

(証明)(補題8.5)から<Xn=∫0Tn(s,ω)2d<M>sです。

 

 <Xnのn→∞の極限で<X>=∫0Tf(s,ω)2d<M>s a.s です。X={Xt}∈M2,cより(系7.6)(ⅲ)からE[X2]=E[<X>T]=E[∫0Tf(s,ω)2d<M>s]が成立します。

 

(証明終わり)

特に,Btを原点から出発するブラウン運動とすると,Bt2-tのマルチンゲール性によって,<Bt>=tです。

 

既に示したように,自然数nについてE[|Bt-Bs|2n]=cn(t-s)n,cn=2-n(2n)!/n!です。すなわち,E[Bt2n]=cnnですから,E[∫0Tt2ndt]<∞です。

そこで,確率積分X=∫0Tt2ndBtが定義できて,E[X2]=E[∫0Tt2nd<Bt>]=E[∫0Tt2ndt]=cn0Tndt=cnn+1/(n+1)となります。

 

ブラウン運動のような確率過程では(Bt-Bs)2~(t-s)より,(dBt)2 ~dt,すなわち,dBt ~ (dt)1/2なので(dBt)2は2次の微小量ではなく1次の微小量です。

 

そこで積分法や微分法において,これをdtと比較して無視することができません。こうした事情が確率積分をむずかしくしている原因であろうと思われます。

 

切りがいいので今日はここまでにします。 

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

  

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2007年7月11日 (水)

ブラウン運動と伊藤積分(8)

: 前回の記事では二次変分という量の説明が中途になりましたが,今回はその説明を完成させます。

 まず(定理7.2)の証明から始めます。

(定理7.2の証明)

まず,Mtに対して二次変分At≡<M>tが存在することをを仮定してその一意性の方から証明します。

  

すなわち,Mt2-AtとMt2-A~tは共にマルチンゲールでA,A~∈+,c,かつA0=A~0=0 を満たすとすると,At-A~t=(Mt2-A~t)-(Mt2-At)もマルチンゲールで,A-A~∈です。

 

そこで,(補題7.1)によってAt-A~t=A0-A~0=0 ∀t a.sが成立しますから,A=<M>が存在すれば,それは唯1つであることがわかります。

  次に,存在を証明します。

まず,分割Δを取って|Δ|→ 0 とすると,Qt(Mt;Δ)がL2(Ω)においてコーシー列を作ることを示します。

 Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<tn+1<..で,tn<t<tn+1なる分割を取ります。

 

k<s<tk+1とすると,Mtのマルチンゲール性により,E[Mtk+1tk|s]=E[Mtk+1|s]Mtk=Mstk,およびE[Mtk+12|s]=E[Mtk+1|s]Mtk+1=Mstk+1です。

また,仮定により,tに適合している,つまりt-可測です。そしてtk<sより,ksですから,Mtks-可測になります。

そこで,"-可測で積XYが可積分ならE[XY|]=E[|] (a.s),特にE[|]= (a.s)である。"という条件付期待値の性質から[Mtk|s]=Mtkです。

 

つまり,これは"時刻sでの情報が既にわかっているという条件下では,sより前の時刻tkにおける確率変数Mtk(ω)(∀ω∈Ω)の値は完全に確定している。"という当然の性質ですが,これを用いるとE[Mtk2|s]=Mtk2が得られます。

したがって,マルチンゲールMに対しては,E[(Mtk+1-Mtk)2|s]=E[(Mtk+12+Mtk2-2Mtk+1tk)|s]=E[(Mtk+12+Ms2-2Mtk+1s|s] +Mtk2+Ms2-2Mstkです。

 

すなわち,E[(Mtk+1-Mtk)2|s]=E[(Mtk+1-Ms)2|s]+(Ms-Mtk)2なる等式を得ます。

そして,0≦l≦k-1では,tl,tl+1<sなので,もちろんE[(Mtl+1-Mtl)2|s]=(Mtl+1-Mtl)2であり,またE[(Ms-Mtk)2|s]=(Ms-Mtk)2です。

 

そこで,E[Qt(M;Δ)|s]=Σl=0 k-1(Mtl+1-Mtl)2+(Ms-Mtk)2+E[{(Mtk+1-Ms)2+Σi=k+1 n-1(Mti+1-Mti)2+(Mt-Mtn)2}|s]です。

 

すなわち,E[Qt(M;Δ)|s]=Σl=0 k-1(Mtl+1-Mtl)2+(Ms-Mtk)2+E[Mt2-Ms2|s]=Qs(M;Δ)+E[Mt2-Ms2|s]という表式が得られます。

したがって,E[Qt(M;Δ)-Qs(M;Δ)|s]=E[Mt2-Ms2|s],つまりE[Mt2-Qt(M;Δ)|s]=Ms2-Qs(M;Δ)となります。

 

結局,M={Mt}がマルチンゲールなら,{Mt2-Qt(M;Δ)}もマルチンゲールであることがわかりました。

次に,Δ'を別の分割とすれば,{Mt2-Qt(M;Δ')}もマルチンゲールですから,Lt≡Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ')とおくと,L{Lt}もマルチンゲールです。そして,Mt4,cなのでtもL2(Ω)に属します。

 

そこで,E[Qt(M;Δ)-Qs(M;Δ)|s]=E[Mt2-Ms2|s]において,MtをLtに,ΔをΔ∪Δ'に,s0に,それぞれ読み換えることにより,E[Qt(L;Δ∪Δ')-Q0(L;Δ∪Δ')|0]=E[Lt2-L02|0]を得ます。

さらに,Q00,L0=0 であり,Qt,Lt20と独立なので,これはE[Qt(L;Δ∪Δ')]=E[Lt2]となります。

 

つまり,E[Qt(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ');Δ∪Δ')]=E[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ')2]です。

 

そして,一般に成り立つ不等式(A-B)2=A22AB+B22A22B2を用いれば,Qt(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ');Δ∪Δ')≦2Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')+2Qt(Qt(M;Δ');Δ∪Δ')が得られます。

一方,分割Δ∪Δ'をΔ∪Δ':0=s0<s1<..<s<sl+1<..,;ただし,sl<t<sl+1としtj≦sk<sk+1≦tj+1とします。

 

sk+1(M;Δ)-Qsk(M;Δ)=(Msk+1-Mtj)2-(Msk-Mtj)2=(Msk+1-Msk)(Msk+1+Msk-2Mtj)ですから,Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')=Σk(Qsk+1(M;Δ)-Qsk(M;Δ))2(Qt(M;Δ)-Qsl(M;Δ))2=Σk(Msk+1-Msk)2(Msk+1+Msk-2Mtj)2(Mt-Msl)2(Mt+Msk-2Mtn)2です。

したがって,t(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')≦supk|Msk+1+Msk-2Mtj|2t(M;Δ∪Δ')が成立します。

 

故に,E[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ'))2]≦2E[Qt(Qt(M;Δ);Δ∪Δ')]+2E[Qt(Qt(M;Δ');Δ∪Δ')]≦2E[supk|Msk+1+Msk-2Mtj|4]1/2[Qt(M;Δ∪Δ')2]1/22E[supk|Msk+1+Msk-2Mtj'|4]1/2[Qt(M;Δ∪Δ')2]1/2となります。

ここで,supk|Msk+1+Msk-2Mtj|44(M*t)4,*tsups≦t|Ms|でMt4,cですから,これは有界です。

 

そこで,"ルベーグの収束定理=定積分の存在定理"によって,lim|Δ|,|Δ'|→0[supk|Msk+1+Msk-2Mtj|4]=0 です。

 

そして,(補題7.3)によれば,Mt4,cなるMに対して[Qt(M;Δ∪Δ')2]<∞ですから,結局lim|Δ|,|Δ'|→0[(Qt(M;Δ)-Qt(M;Δ'))2]=0 となることがわかりました。

ここで,∀t>0 に対して,分割列Δnをn→ ∞でn|→ 0 となるように取ります。

 

s(M;Δn)-Qs(M;Δm),s≦tはマルチンゲールなので,たった今示したことによって,|Δn|,|Δm|→ 0 のとき,E[sups≦t|Qs(M;Δn)-Qs(M;Δm)|2] → 0 です。

 

t(M;Δn)は t について連続なので,(補題7.4)によれば連続確率過程<M>s∈L2が存在して,(|s(M;Δn)<M>s|→ 0 as n→ ∞,s∈[0,t]について一様収束)=1,かつE[|s(M;Δn)<M>s|2] → 0 as n→ ∞,∀s<tが成立します。

また,予め∪n=1Δn[0,t]で稠密でΔnΔn+1∀nとなるように分割列n}を取っておくことにしておけばs1<s2,s1,s2∈ΔnならQs1(M;Δn)≦Qs2(M;Δn)なので,<M>sn=1Δnで単調非減少であり,<M>s,cとなります。

 

もちろん,<M>ttに適合しています。

そして{t2t(M;Δn)}はマルチンゲールですから,n→∞ の極限をとれば,{t2<M>t}もマルチンゲールです。

 

以上から,ブラウン運動{t}に対するマルチンゲール{Bt2-t}における分散tに対応して,{Mt}に対する二次変分<M>tが存在して一意的であることが示されました。

 

(定理7.2の証明終わり)

次に,M={Mt}を1つの右連続マルチンゲール,τを停止時刻としてMτt≡Mτ∧tとすると,Mτはマルチンゲールであること,そしてさらにM4,cとすると<Mτt=<M>τ∧tとなることを証明します。

(証明)(定理6.2)により,E[Mτ∧t|s]=Mτ∧sです。

 

なぜなら,s≦tとすると,τ∧t=tならE[Mτ∧t|s]=E[Mt|s]=M=Mτ∧sとなり,τ∧t=τならE[Mτ∧t|s]=E[Mτ|s]=Mτ∧sとなるからです。

 

よって,τ{Mτ}t{Mτ∧t}はマルチンゲールです。

 M4,cのときには,Nt≡Mt2-<M>tは2乗可積分マルチンゲールで,Nτt(Mτt)2-<M>τ∧t(Mτ∧t)2-<M>τ∧t=Nτ∧tはマルチンゲールであり,At<M>τ∧t,cです。

 

(定理7.2)よりt<M>t一意性によって,<Mτt=<M>τ∧tであることがわかります。(証明終わり)

さて,ここで局所マルチンゲールの定義を与えます。

(定義7.5):tに適合した右連続確率過程{Xt}に対して停止時刻の列{τn}があって,τn≦τn+1,∀n,limn→∞τn=∞ (ただし0≦t≦Tで考えるときは,limn→∞τn=T)を満たし,各nに対して{Xτn t}≡{Xτn ∧t}がマルチンゲールになるとき,元の確率過程:{Xt}は局所マルチンゲールであると言う。

 

 そして,局所マルチンゲール全体の空間をloc,連続局所マルチンゲール全体の空間をc,locと表わす。

(系7.6):M∈c,locとするとき,

(ⅰ)<M>0=0 なる<M>∈+,cがあって,M2-<M>は連続な局所マルチンゲールとなる。

 

(ⅱ)∀t>0 に対して[0,t]の分割の列{Δn}を取ると,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M;Δn)-<M>s|>ε)=0 for ∀ε>0 となる。

 

(ⅲ)00 のとき2,cなることはE[<M>t]<∞,∀tと同値であり,さらにE[t 2]=[<M>t]である。

(証明)(ⅰ)仮定より,ある停止時刻の列:n}があって,Mτnはマルチンゲールとなります。

 

 σninf{t:|t |≧n}とおくと,σn↑∞であり,Mn≡Mσn∧τnは有界マルチンゲールとなります。

なぜなら,m≧nのときσn>σmであると仮定すると,σn>∃t>σm:m>|t |≧nですから,σninf{t:|t |≧n}に矛盾します。それ故,m≧nならσm≧σnであり,σn↑∞となります。

また,|t|≧nなるtの集合は閉集合なので,σnは停止時刻ですから,Mnは確かにマルチンゲールです。

 

そして,t≦σnなら|t|≦nですが,Mnt=Mσn∧τn∧tなので∀tに対して|nt|≦n,つまりnは有界なマルチンゲールです。

ここで,(定理7.2)により(Mn4,cという仮定の下で∀nについてAn,cが存在して(n)2nはマルチンゲールになります。

 

ところが,ρn≡σn∧τnとおくと,ρn≦ρn+1でありMnt=Mρn∧tですから,Mn+1ρn=Mρn+1∧ρn=Mρn=Mnρnです。

 

すなわち,(n+1ρn)2n+1ρn(nρn)2n+1ρnです。

 

そこで,Anの一意性から,n+1ρn=Anρnとなります。

そこで,∀t>0 に対して<M>tlimn→∞ntとおけば,(nt)2nt(ρn∧t)2-<M>ρn∧tであり,これがマルチンゲールですからMに対して一意的な<M>が存在して,Mが局所マルチンゲールとなることが証明されました。

(ⅱ)ρn↑∞なので,∀δ>0 に対してP(ρm≦t)<δとなるm=m(δ)が存在します。

  

 また,m=Mρmは有界マルチンゲールで,s≦ρmならMρms=Mρm∧s=Msですから,Qs(M;Δ)=Qs(Mρm,Δ),かつ<Ms=<Mρmsです。

 よって,s≦ρmならQs(M;Δ)-<Mss(Mρm;Δ)-ρmsですから,0≦s≦tのとき∀ε>0 に対し|s(M;Δ)-<Ms|>εとなる確率はmがP(ρm≦t)<δを満たしs≦ρm|s(Mρm;Δ)-ρms|>εとなる確率より小さいはずです。

 

 つまり,P(sup0≦s≦t|s(M;Δ)-<Ms|>ε)≦P(ρm≦t)+P(sup0≦s≦t|s(Mρm;Δ)-ρms|>ε) です。

そして,Mが局所マルチンゲールですから,|Δ|→0 に対してQs(Mρm;Δ)→ρmsです。それゆえ,結局limsup|Δ|→0(sup0≦s≦t|s(M;Δ)-<Ms|>ε)≦δという結論が得られます。

 

つまり,∀t>0 に対して[0,t]の分割の列 {Δn}を取るとき,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M;Δn)-<M>s|>ε)=0 for ∀ε>0 となる。ことが示されたわけです。

(ⅲ)M2,c,M0=0 とします。

 2,cより4,cですから,E[(Mρnt)2-<Mρnt]=0 となります。

 

 したがって,E[<M>t]=limn→∞[<Mρnt]=limn→∞[(Mρnt)2]≦[t 2]です。

 

 逆にE[t 2]≦liminfn→∞[(Mρnt)2]liminfn→∞[<Mρnt]≦E[<M>tとなります。

(証明終わり)

(注意):この系により2,c,M0=0 なるMに対しても<M>∈+,c,<M>0=0 でM2-<M>がマルチンゲールとなるものが一意的に存在すること,がわかります。

(系7.7):M,Nを連続な局所マルチンゲールとする。

 このとき<M,N>0=0 なる<M,N>∈cが一意的に存在して,

 

(ⅰ)MN-<M,N>は連続な局所マルチンゲールである。

 

(ⅱ)∀t>0 に対して[0,t]の分割の列{Δn}を取ると,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(,Nn)-<M,N>s|>ε)=0 for∀ε>0 となる。

 

 ただし,Qs(,Nn)≡Σti+1<s(Mti+1-Mti)(Nti+1-Nti)+..+(Ms-Mtn)(Ns-Ntn),Δ:t0<t1<..<tn<..である。

(証明)(ⅰ)<M,N>≡(1/4)(<M+N>-<M-N>)とおくと,(系7.6)より(M+N)2-<M+N>,(M-N)2-<M-N>は<M+N>0=0,<M-N>0=0 を満たす連続な局所マルチンゲールであって<M+N>,<M-N>∈+,cが成立します。

 

 そして,(1/4)[(M+N)2-(M-N)2]=MNですから,<M,N>0=0,<M,N>∈cであって,MN-<M,N>は連続な局所マルチンゲールです。

(ⅱ)(系7.6)(ⅱ)より,lim|Δn|→0(sups≦t|Qs(M±N;Δn)-<M±N>s|>ε)=0 for ∀ε>0が成立します。

 

 これとQs(M,N;Δn)=1/4[Qs(M+N;Δn)-Qs(M-N;Δn)]からこの(系7.7)(ⅱ)が成立します。

(証明終わり)

ここで以前の記事でのブラウン運動の性質:再掲(補題4.9);"N次元t-ブラウン運動{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対して,(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi;i=1,2,..,N (ⅱ)E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。"

という命題によって,{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}をN次元t-ブラウン運動とすると,<Bi,Bjt=δijtとなることがわかります。

(命題7.8):M,N,Lを連続な局所マルチンゲールとすると,次の(ⅰ)~(ⅳ)が成立する。

(ⅰ)<M,N>=<N,M>

(ⅱ)<M+N,L>=<M,L>+<N,L>

(ⅲ)任意の定数aに対して<aM,N>=a<M,N>

(ⅳ)τを停止時刻とすると,<Mτ,Nτt=<Mτ,N>t=<M,N>τ∧tである。

 これらの証明はきわめてやさしく,命題が成り立つことはほぼ自明なので省略します。

※先の(定理7.2),または(系7.6)では連続な(局所)マルチンゲールに対して,その二次変分の存在を直接示しましたが,通常はDoob-Meyer分解と呼ばれる以下の定理を用いて二次変分の存在が示されます。

tを2乗可積分なマルチンゲールとすれば,Xt2は劣マルチンゲールですから,一般に非負劣マルチンゲールYtをマルチンゲールMtと増加過程Atの和としてYt=Mt+Atと分解できれば,Yt≡Xt2とおいて,対応する増加過程At=Xt2-MtをXtの二次変分<X>tとして定義することができます。

 ここでは,上のYt=Mt+Atの分解が可能であるという内容のDoob-Meyerの分解定理を証明なしに掲載しておくことにして今日の記事を終わりにしたいと思います。

 まず,準備として1つの定義を述べておきます。

(命題7.9):右連続な劣マルチンゲールXtがクラス(D)に属するとは,{Xσ:σは有限値の停止時刻}が一様可積分なるときをいい,クラス(DL)に属するとは,∀a>0 に対してXt∧aがクラス(D)に属するときをいう。

(命題7.10):(Doob-Meyerの分解定理)

 Ftが右連続で{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0を満たすとし,tに適合した右連続劣マルチンゲールYtがクラス(DL)に属するならば,右連続マルチンゲールMtと増加過程Atが存在してYt=Mt+Atを満たす。

 

 ここで,Atは自然増加過程とされる。さらに,Atを自然増加過程にとるとき,このような分解は一意的である。

     tが自然増加過程であるとは,任意の有界右連続マルチンゲールMtに対しE[∫0tsdAs]=E[∫0ts-dAs]なるときをいいます。

次回はいよいよ確率積分に入る予定です。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月10日 (火)

ブラウン運動と伊藤積分(7)

続きです。今日は確率積分を定義して導入する準備として二次変分という量の説明をします。 

以下,フィルター付確率空間(Ω,,P;t)はtが右連続であり,かつ次の条件を満たしているものとします。

 

すなわち,≡{A∈Ω|∃B∈:A⊂B,P(B)=0}⊂0 (これは確率測度がゼロの全ての集合が0 に,それ故全てのtに対するtに含まれることを意味します。)

右連続な確率過程At(ω):[0,∞)×Ω→[0,∞)であって,tに適合しており,1<t2ならAt1≦At2<∞ a.sを満たすものを増加過程といい,増加過程全体をで表わします。

 

そして,によって2つの確率過程の族,および+,cを,次のように定義します。

 

≡{A1-A2:A1,A2},および+,c≡{A={At}∈:Atは連続}です。さらにc≡{A={At}∈:Atは連続}と定義します。

 

一方,∀p≧1に対してマルチンゲールの族p,およびp,cを,p≡{M={Mt}:MはマルチンゲールでE[|Mt|p]<∞,∀t},およびp,c≡{M={Mt}∈p:Mtは連続}によって定義します。

以下では,連続な局所マルチンゲールM(後述:定義7.5)に対して,M2-<M>がまた局所マルチンゲールとなるような連続増加過程<M>∈+,cが一意的に存在して,この連続増加過程が二次変分という意味を持つことを示します。

 

そして,この事実は後に確率積分を定義する基礎となります。

 

ここで展開する解析は伊藤の公式を証明する際に有効に働きます。

まず,いくつかの補題や定理を与えます。 

(補題7.1):{Mt}を連続マルチンゲールとする。このとき,M∈ならば Mt=M0 ∀t a.s である。

(証明) M0=0として分割Δ:0=t0<t1<t2<..<tn=tを取り,|Δ|≡max0≦i≦n-1|ti+1-ti|とおきます。

 

0=0 なので有界なマルチンゲールMtに対して,E[Mt2]=Σi=0n-1E[Mti+12-Mti2]=Σi=0n-1E[(Mti+1-Mti)2]≦E[sup0≦i≦n-1|Mti+1-Mtii=0 n-1 |Mti+1-Mti|]です。

なぜなら,Mt のマルチンゲール性によりE[Mti+1|ti]=Mtiなので,E[Mti+1ti|ti]=E[Mti+1|ti]Mti=Mti2です。

 

つまりE[Mti+1ti]=E[Mti2]なので,E[(Mti+1-Mti)2]=E[(Mti+12+Mti2-2Mti+1ti)]=E[Mti+12-Mti2]だからです。

M={Mt}∈でM0=0 なので,A10=A20=0 なる増加過程A1,A2が存在して,M=A1-A2 (Mt=A1t-A2t),{A1t},{A2t}∈と書くことができます。

 そして,τkinf{t:A1t+A2t>k}({ }≠φのとき),∞ ({ }=φのとき)なる量を定義して,Mkt≡Mt∧τkとおけば,(定理6.2)によりMktは有界な連続マルチンゲールです。

そこで,E[Mkt2]≦E[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mktii=0 n-1|Mkti+1-Mkti|]です。

 

Σi=0 n-1|Mti+1-Mti|=Σi=0 n-1|ΔMi|=Σi=0 n-1|ΔA1i-ΔA2i|≦Σi=0 n-1(ΔA1i+ΔA2i)=A1tn+A2tn=A1t+A2t でMkt=Mt∧τkにおいてはA1t+A2t≦kですから,E[Mkt2]≦kE[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mkti|]となります。

lim|Δ|→0E[sup0≦i≦n-1|Mkti+1-Mkti|]=0 なので,lim|Δ|→0E[Mkt2]=0 ,つまりMkt=0 a.sです。

 

それ故,Mt=0=M0  a.sです。M0=0 という仮定は一般性を失わない仮定なので補題は証明されました。

 

(証明終わり)

次に分割Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<tn+1<..(tn<t<tn+1)に対して,Qt(M;Δ)≡Σi=0n-1(Mti+1-Mti)2+(Mt-Mtn)2,Q0(M;Δ)≡0 と置きます。

以前の記事でブラウン運動{Bt}に関するものとして,再掲(定理2.3):"{t}t∈TをN次元ブラウン運動とする。t>0 に対して分割 Δ:0=t0<t1<t2<..<tn<t<tn+1を取り,|Δ|≡maxi|ti+1-ti |→ 0 とすると,各tに対してE[(∑i=0n-11ti+1ti|2+1tn|2-Nt)2] → 0 となる。"という命題,

 

および"{Bt}を1次元ブラウン運動とすると,Bt, Bt2-tはそれぞれマルチンゲールである。"という命題が証明されています。

そこで,1次元ブラウン運動{Bt}に関し,|Δ|→ 0 のとき,Qt(B;Δ) → t in L2(Ω)(L2は2乗可積分の空間="収束する"ことが差の絶対値の2乗がゼロに収束することを意味する空間)なること,またBt2-tがマルチンゲールとなることが既にわかっています。

ここでは,これを任意のM={Mt}∈4,cに対して一般化します。

(定理7.2):M={Mt}∈4,cとする。

 

このとき<M>0=0 を満たす<M>∈+,cが存在して,|Δ|→ 0 のときQt(M;Δ)→<M>t in L2(Ω) ∀tとなり,M2-<M>がマルチンゲールとなる。

 

そして,M2-<M>がマルチンゲールとなるような<M>∈+,cで<M>0=0 を満たすものは唯1つである。

この定理を証明する前に準備として2つの補題を与え,証明します。 

(補題7.3):M={Mt}∈4,cとするとき,分割Δに依らない定数cが存在してE[Qt(M;Δ)2]≦cが成り立つ。

(補題7.3の証明)まず,ある定数K≧0 が存在して,|Mt|≦Kの場合に示します。

 

Δ:s0=0<s1<..<sl<t<..とします。

 

l+1=tとおくと,Qt(M;Δ)2={Σk=0l(Msk+1-Msk)2}2=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj<k(Msj+1-Msj)2(Msk+1-Msk)2=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj(Msj+1-Msj)2{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}=Σk=0l(Msk+1-Msk)4+2Σj{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}となります。

 ここで,E[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}{Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}]=E[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}(Mt-Msj+1)2]です。

なぜなら,(補題7.1)の証明の中でMtのマルチンゲール性を用いてM0=0 の場合のE[Mt2]の表現式を与えましたが,一般のM0の場合にはE[Mt2-M02]=E[Qt(M;Δ)]が得られます。

 

よって,E[Qt(M;Δ)-Qsj+1(M;Δ)}=E[Mt2-Msj+12]=E[(Mt-Msj+1)2]となるからです。

ここで,条件付期待値の性質:-可測で積XYが可積分ならE[XY|]=E[|] (a.s),およびE「E[|]」=E[] (a.s)が成り立つことから,一般にE[XY]=E[E[]]と書けることを用いました。 

そこで,結局,E[Qt(M;Δ)2]=E[Σj=0l(Msj+1-Msj)4]+2ΣjE[{Qsj+1(M;Δ)-Qsj(M;Δ)}(Mt-Msj+1)2]≦E[(supj|Msj+1-Msj|2+2supj|Mt-Msj+1|2)Qt(M;Δ)]≦12K2E[Qt(M;Δ)]が得られます。

 

ここで,再びMtのマルチンゲール性から,E[Qt(M;Δ)]=E[Mt2-M02]≦K2なる,ことを用いるとE[Qt(M;Δ)2]≦12K4<∞です。

以上で,ある定数K≧0 が存在して|Mt|≦Kの場合に,補題が証明されました。

 

一般の場合はM*t≡sups≦t|Ms|とおいて,supj|Msj+1-Msj|2≦4(M*t)2と評価すれば,E[Qt(M;Δ)2]≦E[12(M*t)2t(M;Δ)]≦E[122(M*t)4]1/2E[Qt(M;Δ)2]1/2です。(シュヴァルツの不等式)

 

そこで,E[Qt(M;Δ)2]≦E[122(M*t)4]が得られます。

 

前記事で示した定理;再掲(定理6.1)"{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとし,X*T≡sup0≦t≦T|Xt|とおくと(ⅰ)λpP(X*T≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|X*T|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。"を用いると,E[(M*t)4]≦(4/3)4E[|Mt|4]です。

 

そこで,不等式E[Qt(M;Δ)2]≦122(4/3)4E[|Mt|4]を得ます。

M={Mt}∈4,cなので,定義によってE[|Mt|4]<∞ですから,E[Qt(M;Δ)2]<∞と結論されます。(補題7.3の証明終わり)

(補題7.4):{Ysn}をtに適合した連続確率過程でlimn,m→∞E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]=0 なるものとする。

 

このとき,連続確率過程{Ys}でtに適合したものがあり{Ysn}の適当な部分列{Ysnk}を取れば,P(sups≦t|Ysnk-Ys| → 0 as k→ ∞)=1であり,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=0 となる。

(補題7.4の証明) nkをnk≧nk-1,E[sups≦t|Ysn-Ysm|2]≦1/23k;n,m≧nkなるように取ります。

 

このとき,チェビシェフの不等式によって,P(sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k)≦22kE[sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|2] ≦1/2k ですから,Σk=1P(sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k)<∞です。

それ故,再掲,ボレル・カンテリの補題:

 

"{An}n=1,2,..を集合列としAをこれらの集合の無限個の共通に含まれる要素の集合,Pを確率測度とする。このとき,(a)ΣP(An)<∞ならP(A)=0 (b)ΣP(An)=∞ で事象Anが独立ならばP(A)=1 である。"

 

からP(∩m=1k=m{sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|>1/2k})=0 です。

すなわち,Ω0≡∪m=1k=m{sups≦t|Ysnk+1-Ysnk|≦1/2k}とおけば,P(Ω0)=1 です。

 

ω∈Ω0に対して,あるmが存在してk≧mなる∀kに対してsups≦t|Ysnk+1-Ysnk|≦1/2kですから,j≧i≧mに対してsups≦t|Ysni-Ysnj|≦Σl=ij-11/2l≦1/2i-1となります。

 

つまり,{Ysnk}はC([0,t](s∈[0,t]についての連続関数の集合に属するコーシー列) (a.s)ですから,ある連続確率過程Ysがあって,sups≦t|Ysnk-Ys|→ 0 as k→ ∞ a.sです。

また,limk→∞E[sups≦t|Ysnk-Ys|2]=limk→∞limj→∞E[sups≦t|Ysnk-Ysnj|2]≦limk→∞liminfj→∞E[sups≦t|Ysnk-Ysnj|2]=0 が得られます。

 

(補題7.4の証明終わり)

 途中ですが,長くなったので,(定理7.2)を証明する準備ができたところで一旦終わります。

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

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2007年7月 8日 (日)

ブラウン運動と伊藤積分(6)

ブラウン運動と確率積分関連の記事の続きです。まず離散時間と連続時間のマルチンゲール(martingale)について説明します。

まず,マルチンゲールの定義を与えます。 

(定義5.1):R1上の確率過程{Xt}t∈Tが以下の条件を満たすとき,この確率過程を劣マルチンゲールである,という。

 

(ⅰ) {Xt}はtに適合している。(つまりt-可測である:すなわちR1上の任意の開集合Aに対し,{ω∈Ω|Xt(ω)∈A}∈t≡σ(Xs;s≦t)である。)

  

(ⅱ)E[|Xt|]<∞  

(ⅲ) E[Xt|s]≧Xs (a.s) ∀t≧s;t,s∈

また,{-Xt}t∈T が劣マルチンゲールであるとき,{Xt}t∈Tを優マルチンゲールであるという。

 

{Xt}t∈Tと{-Xt}t∈Tが共に劣マルチンゲールであるとき,言い換えると,{Xt}t∈Tが劣マルチンゲール,かつ優マルチンゲールであるとき,確率過程{Xt}t∈Tはマルチンゲールであると言う。

マルチンゲールの性質をいくつか述べます。 

まず,{Xt}t∈Tは劣マルチンゲールであるとし,f(x)を単調非減少凸関数とする。(f(x)は非減少で,(λx+(1-λ)y)≦λf(x)+(1-λ)f(y),∀x,y∈1,0≦∀λ≦1とする。)

 

f(t)が可積分なら,{f(Xt)}t∈T も劣マルチンゲールである。

 

特に,{Xt}t∈Tがマルチンゲールなら,fの単調性の仮定を省いても同じ結論が得られる。

 

これを証明します。

(証明)f(x)が凸関数なので,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))です。なぜなら,凸関数性はiξiΔpi)≦ΣiΔpii)とも表わすことができるからです。

そして,∫f(x)dp(x)≧f(∫xdp(x))はE[f(Xt)|s]≧f(E[f(Xt)|s]を意味します。

 

{Xt}t∈Tの"劣マルチンゲール性"E[Xt|s]≧Xsと,f(x)を単調非減少性から,f(E[f(Xt)|s] ≧f(Xs)です。

 

以上から,E[f(Xt)|s]≧f(Xs)を得ます。後半は明らかです。

 

(証明終わり)

次にパラメータ集合が=Z+である場合を考えます。

 

(1){Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布確率変数列であるとし,E[Y1]=0 とする。

 

n≡Σi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると,{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

(2) {Yn}n∈Z+を確率空間(Ω,,P)で定義された独立同分布非負確率変数列であるとし,E[Y1]=1 とする。

 

このとき,Xn≡Πi=1ni,n≡σ(Yi;i=1,2,..,n)と定義すると{Xn}n∈Z+はマルチンゲールである。

 

ことを証明します。

連続時間でこの2つの例に相当するのはブラウン運動であり,ブラウン運動の指数関数から決まる指数マルチンゲールです。 

(証明) (1)独立同分布確率変数列でE[Y1]=0 なので,E[Yi]=0 (i=1,2,..,n)です。

 

また,E[Xn|n-1]=E[Σi=1ni|Y1,Y2,..,Yn-1指定]=Σi=1n-1i+E[Yn]=Σi=1n-1i=Xn-1となります。

 

(2)については対数を取ると(1)に帰着するので自明です。

 

(証明終わり)

以下ではパラメータ集合=Z+の場合に,マルチンゲールに関する諸定理を準備します。

 

そしてしばらくの間はフィルター付き確率空間(Ω,,P;n)n∈Z+で定義された劣マルチンゲール{Xn}n∈Z+を考えていきます。

 

そして,Z+∪{∞}に値をとる停止時刻τ(ω)を考えます。τ(ω)は{τ≦n}∈n) ∀nなる確率変数です。

(定理5.2):(任意抽出定理)

τ12を有界な停止時刻で,τ1≦τ2 a.s なるものとする。

 

このとき,劣マルチンゲールIXn}に対して,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1 a.s が成り立つ。

 

したがって,E[Xτ2]≧E[Xτ1]である。またXnが一様可積分,つまり,"limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 "なら任意のτ1≦τ2<∞ a.s なる停止時刻に対して上が成立する。

(証明)まず,条件付期待値の性質:ならE「E「X|」|」=E[X|]において,≡{φ,Ω}と置けばE「E「X|」」=E[X]となることがわかります。

 

そこで,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1が証明されさえすれば,E[E[Xτ2|τ1]]=E[Xτ2]≧≧E[Xτ1]が従うことが予め確認されました。

そして,条件付期待値の定義から,E[Xτ2|τ1]≧Xτ1を証明するにはE[Xτ2,A]≧E[Xτ1,A] ∀A∈τ1を示せばいいです。

 

そのためには,∀nに対してE[Xτ2,A∩{τ1=n}]≧E[Xτ1,A∩{τ1=n}]なることを見ればいいです。

B≡A∩1=n}∈n ,{τ2≧n+1}∈nです。

(なぜなら,{τ2≦n}∈n )

 

τ2≧τ1=nなる条件下では,E[Xτ1,A∩{τ1=n}]=E[Xτ1,B]=E[Xn,{τ2≧n}∩B]=E[Xn,{τ2=n}∩B]+E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]≦E[Xτ2,{τ2=n}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]=E[Xτ2,{n≦τ2≦n+1}∩B]+E[Xn+1,{τ2≧n+2}∩B]≦E[Xτ2,{n≦τ2≦m}∩B]+E[Xm,{τ2>m}∩B]が成立します。

ここで,2=n+1}∩B∈nより,劣マルチンゲール性E[Xn+1|n ]≧Xnから,E[Xn+1,{τ2≧n+1}∩B]≧E[Xn,{τ2≧n+1}∩B]が成り立つことなどを用いました。

この不等式でmを十分大きく取ればτ2は有界ですから,{n≦τ2≦m}∩B=B,{τ2>m}∩B=φとなり,E[Xτ1,B]≦E[Xτ2,B]が得られます。

 

これで前半は証明されました。

後半は私自身が前半と何が異なるのかについて題意を理解できないので証明もわかりません。

 

もしかしたら,非負整数の各nについてXnが一様可積分ならτ1≦τ2<∞であればτ12が非負整数でなくても定理が成立するということかもしれません。

 

それなら,Xτi(i=1、2)が可積分であることさえ示せれば後は前半と同じです。

 

(証明終わり)

(定理5.3):(Doobの不等式)

{Xn}を非負劣マルチンゲールとする。n*≡max0≦j≦n|Xj|と置くと各ε>0,n≧0 に対しP(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]である。

 

E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[(|Xn|p]1/p for p>1である。

(証明)τn≡min{j≦n;Xj*≧ε}(if {j≦n;Xj*≧ε}≠φ),n(if {j≦n;Xj*≧ε}=φ)と置きます。

 

つまり,Xn*≧εならτn≦n,Xn*<εならτn=nです。

 

n≦n}={ω:Xn*≧ε}∪{ω:Xn*<ε}=Ω∈nより,τnは停止時刻です。

したがって,{Xn}が劣マルチンゲールでτn≦nですから,先の(定理5.2)によって,E[X]≧E[Xτn]です。

 

そこで,E[Xn]=E[Xn,Xn*≧ε]+E[Xn,Xn*<ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]+E[Xτn,Xn*<ε]=E[Xτn]です。

 

n*<εならτn=nより,E[Xn,Xn*<ε]=E[Xτn,Xn*<ε]ですから,不等式E[Xn,Xn*≧ε]≧E[Xτn,Xn*≧ε]が得られます。

一方,Xnは非負:|Xn|=Xnですから,P(Xn*≧ε)=P(max0≦j≦nj≧ε)=P(Xτn≧ε)です。

 

したがって,チェビシェフの不等式(Chebyshev)によって不等式E[Xτn,Xn*≧ε]=E[Xτn,Xτn≧ε]≧εP(Xτn≧ε)=εP(Xn*≧ε)も得られます。

 

結局,得られた2つの不等式からεP(Xn*≧ε)≦E[Xn,Xn*≧ε]が成り立つことがわかります。

 

そしてXnは非負故,E[Xn,Xn*≧ε]≦E[Xn]ですから,P(Xn*≧ε)≦(1/ε)E[Xn,Xn*≧ε]≦(1/ε)E[Xn]となります。

次にp>1,E[|Xn*|p]<∞とします。

 

E[|Xn*|p]=∫tpdp=∫tp{P(Xn*≦t+dp)-P(Xn*≦t)}=∫0{-tp(dP/dt)}=limt→∞[tpP(Xn*≧t)]+p∫0p-1(P(Xn*≧t)=p∫0p-1(P(Xn*≧t)≦p∫0p-2E[Xn,Xn*≧t]です。(Cauchy-Scwartzの不等式)

さらに,p∫0p-2[Xn,Xn*≧t]dt=pE[Xn0Xn*p-2dt]=[p/(p-1)]E[Xn(Xn*)p-1]≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pE[(Xn*)p]p-1/pです。(Hoelderの不等式)

 

そこで,E[(Xn*)p]1/p≦[p/(p-1)]E[|Xn|p]1/pが成立します。

[|Xn*|p]=∞のときは,上述の証明でXn*をXn*∧K(Kは定数)で置き換えれば,E[(Xn*∧K)p]≦[p/(p-1)]pE[|Xn|p]となります。

 

そしてこの式においてK→ ∞ に移行すれば命題の式が得られます。(証明終わり)

ここで,次のような停止時刻の列を考えます。

 

a<bに対してτ0=0 ,τ2m-1=min{n>τ2m-2;Xn≦a},τ2m=min{n>τ2m-1;Xn≧b},m=1,2,..,ただし{ }=φのときはτk=∞と約束します。

 

そしてXnの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)をUn(a,b)≡0 (τ2>nのとき),max{m;τ2m≦n}(τ2≦nのとき)で定義します。

(定理5.4):(横断数定理)

任意のnに対し{Xn}を劣マルチンゲール,(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 とするとE[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]である。

(証明) Xnが劣マルチンゲールで(Xn-a)+≡(Xn-a)∨ 0 はXnの単調非減少凸関数ですから,(Xn-a)+も劣マルチンゲールです。

 

nの[a,b]-上向き横断回数Un(a,b)は(Xn-a)+の[0,b-a]-上向き横断回数に等しいことがわかります。

なぜなら,Xn≦aは(Xn-a)∨ 0 ≦0 と同値でXn≧bは(Xn-a)∨ 0 ≧b-a と同値です。

 

そこでXn≧0 としてE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]を示せばよいことになります。

φi(Xi)をφi(Xi)≡1 (τm<i<τm+1<,∃m:奇数),0 (τm<i<τm+1<,∃m:偶数)と定義すれば,φi(Xi)=1 ならXi≧b,Xi-1<b(m+1:偶数);Xi-2<b,..,Xi-k<0 なので,Σj=i-k+1iφi(Xj-Xj-1)≦(Xi-Xj-k)≦bです。

 

そして,この横断数がUn(0,b)なので,bUn(0,b)≦Σi=1nφi(Xi-Xi-1),故に,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])です。

ここで,Xnが非負劣マルチンゲールなのでE[Xi]≧E[Xi-1],つまりE[Xi]-E[Xi-1]≧0 です。

 

それ故,bE[Un(0,b)]≦Σi=1nφi(E[Xi]-E[Xi-1])≦Σi=1n(E[Xi]-E[Xi-1])=E[Xn]-E[X0]≦E[Xn]です。

 

以上からE[Un(0,b)]≦(1/b)E[Xn]が示されました。

 

(証明終わり)

(定理5.5):(マルチンゲールの収束定理)

{Xn}は劣マルチンゲールでsupnE[|Xn|]<∞なるものとする。

 

このとき,X∈L1(Ω)があって,limn→∞n(ω)=X(ω) a.sである。

 

さらに,Xnが一様可積分:limc→∞supnE[|Xn|;|Xn|>c]=0 ならE[|Xn-X|]→ 0 as n→∞であり,Xまで含めて劣マルチンゲールとなる。

(証明)今,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))>0 と仮定します。

 

このとき,{limsupn→∞n>liminf n→∞n}=∪a<b,b∈Q+{limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n}ですから,ある正の有理数(positive rational)の組a<b∈Q+があって,P(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 です。

このとき(定理5.4):(横断数定理)によって,E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)]E[(Xn-a)+]≦[1/(b-a)](E[Xn+]+|a|)です。

 

したがって,E[U(a,b)]=lim n→∞E[Un(a,b)]≦[1/(b-a)](supnE[Xn+]+|a|)です。

 

ところが,supnE[Xn+]≦supnE[|Xn|]<∞ですからE[U(a,b)]<∞となってしまいます。

 

しかし可算無限個の有理数の組a<b∈Q+があって,各々のa,bについてP(limsupn→∞n>b>a>liminf n→∞n)>0 なので,横断数は無限大ですからE[U(a,b)]=∞のはずです。

これは矛盾です。それ故,P(limsupn→∞n(ω)>liminf n→∞n(ω))=0 でなければなりません。

 

すなわち,X(ω)≡limsupn→∞n(ω)=liminf n→∞n(ω) a.sと置くことができてE[|X|]=E[limn→∞|Xn|]≦liminf n→∞E[|Xn|]≦limsup n→∞E[|Xn|]<∞です。

また,Xnが一様可積分なら積分論の収束定理によってL1で収束すること:つまりE[|Xn-X|]→ 0 as n→ ∞ となることがわかるので,E[X|n]=limn→∞E[Xn|n]≧Xn,つまりXまで含めて劣マルチンゲールです。

 

(証明終わり)

(注意):(ⅰ){Xn}n∈Z+がXn≦c(c:定数)を満たす劣マルチンゲールなら,c≧E[Xn]≧E[X0]なので{Xn}n∈Z+は(定理5.5)の仮定を満たし,∃limn→∞n∈L1 a.sです。

(ⅱ) {Xn}n∈Z+を後ろ向き劣マルチンゲールとします。すなわちmn,n<m,E[Xn|m]=Xm,Xn∈L1とします。

 

このとき,inf nE[Xn]>-∞ならば{Xn}は一様可積分であり、それゆえsup nE[|Xn|]<∞です。

実際,ε>0 を任意に与えたとき,それに対しE[Xk]-liminf n→∞E[Xn]<εを満たすkを取ってn≧kとすると,E[|Xn|,|Xn|>c]=E[Xn,Xn>c]+E[Xn,Xn≧-c]-E[Xn]≦E[Xk,Xn>c]+E[Xk,Xn≧-c]-E[Xk]+ε≦E[|Xk|,|Xn|>c]+εです。

またP(|Xn|>c)≦(1/c)E[|Xn|]=(1/c)(2E[Xn+]-E[Xn])≦(1/c)(2E[X0+]-E[Xn])ですからc→ ∞ のときsup n≧kP(|Xn|>c) → 0 です。

よってlimsup c→∞,n≧kE[|Xn|,|Xn|>c]≦limsup c→∞,n≧kE[|Xk|,|Xn|>c]+ε=εとなりますから。sup nE[|Xn|]<∞となることがわかります。

さて次に連続時間パラメータのマルチンゲールに入ります。

 

パラメータ空間を区間[0,∞)であるとして確率空間の族(Ω,,P;t)t∈Tが与えられているとします。

 

なる可算稠密集合とし,=∪n=1n,n=1,2,..となる有限集合nを取ります。

 

これまでの離散マルチンゲールに関する諸定理はパラメータ集合をnに限定した場合の各nについての劣マルチンゲールに対して成立しています。

(定理6.1):{Xt}t∈Tを右連続非負劣マルチンゲールとしXT*をXT*≡sup0≦t≦T|Xt|で定義すると,(ⅰ)λpP(XT*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1 (ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が成り立つ。

(証明)右辺が有限のときについて示せば十分です。

 

T∈n∀nとしてよいのでそのように仮定します。

 

そしてXn*≡supt∈Dn|Xt|と置きます。Xtは非負劣マルチンゲールですからp≧1 のときには|Xt|pも非負劣マルチンゲールです。

したがって,(定理5.3)により,λ>0 に対してλpP(Xn*≧λ)≦λpP[|Xn*|p≧λp]≦E[|Xn|p]です。

 

それ故,λpP(supt∈Dt*≧λ)≦E[|XT|p],p≧1が得られます。

 

同様にして(定理5.3)によりE[|Xn*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1から,(ⅱ) E[|XT*|p]≦[p/(p-1)]pE[|XT|p],p>1 が得られます。

(注意):(ⅰ)Mtがマルチンゲールのときは|Mt|が非負劣マルチンゲールとなるので,|Mt|に対して上述の(定理6.1)が適用できます。

 

 (f(x)=|x|は単調凸関数ではありませんが,明らかに∫f(x)dp≧f(∫xdp),つまり∫|x|dp≧|∫xdp|より,E[|Mt|s]≧|Ms|が成立します。)

(ⅱ)離散時間パラメータの場合と違って連続時間パラメータの場合は停止時刻:σに対してXσσ-可測であることは自明ではありません。

 

 Xσ|{σ≦t}t-可測であることを言えばよいのですが,σが停止時刻であることから,σ:{ω:σ≦t}→「0,t」は{σ≦t}∩t/B(「0,t」)-可測です。

したがって,ω(σ(ω),ω)は写像:Ω→[0,t]×Ωとしてt/B(「0、t」)×t-可測ですから,Xσは発展的可測過程;Xs(ω):[0,t]×Ω→Xs(ω)です。

 

すなわち,B(「0,t」)×t-可測な写像と写像Ω→[0,t]×Ω:ω→(σ(ω),ω)の合成として可測です。

(定理6.2):{Xt}t∈Tを右連続劣マルチンゲールとする。

 

 σ,τをσ≦τなる有界な停止時刻とするとE[Xτ|σ]≧Xσである。さらにXtが一様可積分のときはσ≦τ<∞a.sなる任意の停止時刻に対して上記が成立する。

(証明)σn(ω)≡k/2n ((k-1)/2n≦σ<k/2nのとき)と置きます。

 

 τに対しても同様にτnを定義すると明らかにσn≦τnです。

 

 また,σn≦τnは停止時刻になっています。

 

 このときσn≧σn+1≧..≧σとなりE「Xσn|σn」≧Xσm ,n<mです。またE「Xτn|σn」≧Xσnです。したがってA∈σσnに対してE[Xτn,A]≧E[Xσn,A]と書けます。

 Xσm,Xτm は後向き劣マルチンゲールでinfnE[Xσn]≧E[X0]>-∞です。

 

 Xtの右連続性により,limn→∞σn=Xσですが,(定理5.5)の後で記述した(注意)によって,この収束はL1の意味にもなっています。

 

 同様にlimn→∞τn=Xτ∈L1(Ω)です。したがってE[Xτ,A]≧E[Xσ,A],A∈σ が得られます。

 

 (証明終わり)

最後に"(ⅰ){Bt}を1次元ブラウン運動とすると,{Bt},および{Bt2-t}はそれぞれマルチンゲールである。(ⅱ){Bt}を1次元t-ブラウン運動とするとき,{exp(Bt-t/2)}はマルチンゲールである。"ことを示します。

(証明)(ⅰ)再掲:(補題4.9):N次元t-ブラウン運動:{t}={(Bt1,Bt2,..,BtN)}について,∀t≧s>0 に対して(ⅰ)E[Bti|s]=Bsi:i=1,2,..,N(ⅱ) E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)である。

によれば,E[Bti|s]=BsiはN=1ではE[Bt|s]=Bsです。

 

また,E[(Bti-Bsi)(Btj-Bsj)|s]=δij(t-s)はN=1,i=j=1とすると,E[(Bt2-Bs2)|s]=t-sです。

 

これは,E[(Bt2-t)|s]=Bs2-sを意味します。

(ⅱ) {t}がN次元t-ブラウン運動であることと同値な関係式:E[exp{itξ(ts)}|s]=exp{-|ξ|2(t-s)/2}において,N=1としてξ=-iを代入するとE[exp{(Bt-Bs)}|s]=exp{(t-s)/2}:すなわちE[exp(Bt-t/2)|s]=exp(Bs-s/2)です。

(証明終わり)

参考文献:長井英生 著「確率微分方程式」(共立出版)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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